説明

管状ストランドおよびその製造方法

【課題】管状ストランドの芯材となる管状体の可撓性を確保し、かつその内部へのグラウト注入がスムーズに行えるようにすることである。
【解決手段】表面に複数の環状溝が形成された金属製管状体1を、素線供給ボビン4が周方向に沿って配置された回転体5の中心部を貫通させて各撚線機構6、7の中心孔に通し、素線2を各撚線機構6、7の側線孔に1本ずつ通し、回転体5と各撚線機構6、7を同一方向に回転させて、1段目の撚線機構6で管状体1の外径よりも大きい径の仮想円に外接する撚り線状体14を形成した後、この撚り線状体14を2段目の撚線機構7で管状体1の外周面に沿うように撚り合わせることにより、管状体1表面の溝間の凸部が素線2から受ける応力を従来よりも小さくして、管状体1凸部のへこみ量が肉厚よりも小さく内周形状の変形がほとんどない管状ストランドを製造できるようにしたのである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤アンカーやプレストレストコンクリート構造物等の緊張材として用いられる管状ストランドとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤アンカーやプレストレストコンクリート構造物等の緊張材には、通常、中実構造のPC鋼棒やPC鋼撚り線等が用いられる。しかし、これらの中実構造の緊張材を地盤アンカー材として用いる場合は、アンカー材をその数倍の径で掘削した孔に挿入して、その周囲に定着用グラウトを注入しているため、グラウト使用量が多いという問題があった。また、アンカー材の打設方向によっては、掘削した孔の最深部までグラウトを充填することができず、アンカー材の定着状態が不安定になるおそれもあった。そこで、これらの問題を解決するものとして、例えば図3に示すように、可撓性を有する管状体1を芯材とし、その外周面に沿うように複数の素線2を撚り合わせた中空構造の緊張材(以下、「管状ストランド」と記す。)が提案されている。この管状ストランドは、管状体1の内部をグラウト注入通路として使用できるので、打設方向によらず安定した定着状態が確保でき、グラウト使用量低減によるコスト削減も図れるとされている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−44301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記のような管状ストランドは、通常の撚り線加工と同様の製造方法で製造される。例えば、上記特許文献1にも記載されているように、素線が巻き付けられた複数のボビンを周方向に沿って複数配置した回転体の下流側に、中心孔を有するボイスと呼ばれる撚線機構を設け、回転体の中心部を貫通させた管状体と各ボビンから巻き戻された素線をボイスの中心孔に導いて管状体の外周面に各素線を配置し、管状体と各素線を所定の速度でボイスの下流側へ引き出しながら、回転体を回転させて撚り加工を行う方法を採用することができる。また、ボイスに代えて、管状体を通す中心孔の周囲に素線を通す側線孔が複数形成された撚線機構を設け、この撚線機構を回転体と同一方向に回転させて、素線を管状体の外周面に沿うように撚り合わせる方法もある。
【0004】
しかしながら、上記のように通常の撚り線加工と同様の製造方法で製造された管状ストランドでは、以下のような問題が生じるおそれがある。すなわち、このような管状ストランドは、ある程度の可撓性と強度が必要とされることから、芯材となる管状体の素管として薄肉で比較的強度の低い金属製のものを使用し、その外周側からのローラ加工等により表面に複数の環状溝または螺旋状溝を形成していることが多い。その場合、管状体表面の溝間の凸部は、加工を受けていないため溝部に比較して強度が低く、素線を管状体に巻き付けていく過程で素線から大きな応力を受けることによって変形しやすい。そして、図4に示すように、素線2と接触する管状体1凸部のへこみ量が管状体1の肉厚よりも大きくなって内周形状が変形するようになると、可撓性が低下するだけでなく、管状体1内部に注入したグラウトの流れが管状体1内周面から受ける抵抗が大きくなり、グラウト注入に支障をきたすことがある。なお、これに対して、管状体の変形が内周形状に大きく影響しないように管状体の肉厚を厚くしたり、高強度の材料を使用したりすることも考えられるが、管状体全体の可撓性が低下するため好ましくない。
【0005】
そこで、本発明の課題は、管状ストランドの芯材となる管状体の可撓性を確保し、かつその内部へのグラウト注入がスムーズに行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の管状ストランドは、表面に複数の環状溝または螺旋状溝が形成された金属製管状体を芯材とし、前記管状体の外径よりも大きい径の仮想円に外接するように撚り合わされた複数の素線からなる撚り線状体を、前記管状体の外周面に沿うように撚り合わせて、前記管状体の溝間の凸部のへこみ量を管状体の肉厚よりも小さくしたものとした。
【0007】
すなわち、複数の素線を2段階に分けて撚り合わせた構成とすることにより、従来のものに比べて管状体表面の溝間の凸部が素線から受ける応力が小さく、管状体の変形が内周形状に大きく影響しないようにしたのである。このように管状体の変形を抑えることにより、管状体の可撓性が確保され、かつその内部へのグラウト注入がスムーズに行えるようになる。なお、管状ストランドの強度を重視する場合は、管状体表面の溝を螺旋状溝とすることが好ましい。
【0008】
ここで、前記金属製管状体としては、コルゲート管を採用することができる。
【0009】
また、前記各素線が鋼製の場合は、これらの各鋼製素線に合成樹脂を被覆することにより、屋外に放置しても鋼製素線の錆に起因する遅れ破壊等のトラブルが発生しにくく、保管が容易な管状ストランドとすることができる。
【0010】
上述した構成の管状ストランドを製造する際には、前記素線が巻き付けられたボビンを周方向に沿って複数配置した回転体の下流側に、回転可能に支持され、その軸方向の中心孔の周囲に複数の側線孔が形成された撚線機構を2段に設けて、前記回転体の中心部を貫通させた管状体を各撚線機構の中心孔に通し、前記各ボビンから巻き戻された素線を各撚線機構の側線孔に1本ずつ通して、前記管状体と各素線を所定の速度で2段目の撚線機構の下流側へ引き出しながら、前記回転体と各撚線機構を同一方向に回転させることにより、1段目の撚線機構で前記管状体の外径よりも大きい径の仮想円に外接する撚り線状体を形成した後、2段目の撚線機構で前記撚り線状体を管状体の外周面に沿うように撚り合わせていく方法を採用することができる。
【発明の効果】
【0011】
上述したように、本発明の管状ストランドは、その芯材となる金属製管状体の変形を小さくしたものであるから、管状体の可撓性が確保され、かつその内部へのグラウト注入をスムーズに行うことができる。
【0012】
そして、本発明の管状ストランドの製造方法によれば、確実に上記の特性を有する管状ストランドを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1は実施形態の管状ストランドの製造工程の概略を示す。この製造工程では、その最上流部に、鋼製管状体1が巻き付けられた管状体供給ボビン3と、鋼製素線2が巻き付けられた素線供給ボビン4を周方向に沿って9個配置した回転体5が設けられている。管状体1には、鋼種S10C(JIS G 4051)、外径13mm、肉厚0.7mmで、表面に環状溝が6mmピッチで形成されたコルゲート管を用い、素線2には、鋼種がSWRS82B(JIS G 3502)で線径5.6mmのものを用いている。
【0014】
前記回転体5の下流側には、回転可能に支持され、その軸方向の中心孔の周囲に複数の側線孔が形成された撚線機構6、7が2段に設けられている。その中心孔は管状体1外径とほぼ同じ内径に、側線孔は素線2外径とほぼ同じ内径に形成されている。また、各撚線機構6、7の側線孔はそれぞれ一つの円周上に位置し、1段目の方が2段目よりも中心孔から離れた位置に配されている。
【0015】
そして、2段目の撚線機構7の下流側に、ブルーイング加熱炉8、緩解機9、誘導加熱装置10、静電粉体塗装装置11、冷却装置12が順に設けられ、最下流部に巻取機13が設けられている。
【0016】
この製造工程による管状ストランドの製造方法は、まず上流側で、管状体供給ボビン3から巻き戻した管状体1を回転体5の中心部を貫通させて各撚線機構6、7の中心孔に通し、各素線供給ボビン4から巻き戻した素線2を各撚線機構6、7の側線孔に1本ずつ通す。そして、巻取機13の回転により管状体1と各素線2を所定の速度で2段目の撚線機構7の下流側へ引き出しながら、回転体5と各撚線機構6、7を同一方向に回転させる。これにより、1段目の撚線機構6で管状体1の外径よりも大きい径の仮想円Aに外接する撚り線状体14が形成され(図2(a))、この撚り線状体14が2段目の撚線機構7で管状体1の外周面に沿うように撚り合わされて、9本撚りの管状ストランドとなる(図2(b))。これをブルーイング加熱炉8に通し、350℃×30秒の条件でブルーイング処理を行う。ブルーイング処理を受けたストランドはそのままで製品とすることもできるが、この実施形態では、防食性を高めるために、引き続き次のように下流側工程で合成樹脂被覆処理を行う。
【0017】
下流側工程では、まず、前記ブルーイング加熱炉8を通過したストランドを緩解機9に通し、素線2の撚りを一時的に緩解して管状体1と素線2とが分離された状態にする。そして、緩解機9の下流側で素線2を撚り戻す過程で、分離された管状体1と素線2をそれぞれ誘導加熱装置10で250℃に加熱した後、静電粉体塗装装置11に通してそれぞれの表面に平均厚さ0.6mmのエポキシ樹脂被膜15を塗装する(図2(c))。最後に、素線2を撚り戻されたストランドを冷却装置12で冷却して巻取機13で巻き取る。
【0018】
このようにして製造したストランド(実施例1)と、肉厚0.5mmの管状体1を用いて実施例1と同様に製造したストランド(実施例2)について、管状体1の変形状態を調査したところ、表面の溝間の凸部のへこみ量はそれぞれ0.1mm、0.2mmで肉厚よりも小さく、内周形状はほとんど変形していなかった。一方、これらの実施例と同じ管状体および素線を用い、図1に示した製造工程の1段目の撚線機構6を使用せずに通常の撚り線加工と同様の方法で製造した場合、管状体の肉厚が0.7mmのストランド(比較例1)では管状体凸部が1mm程度へこみ、管状体肉厚0.5mmのストランド(比較例2)では管状体凸部のへこみ量がさらに大きくなって、内周形状が全体的に大きく変形していた。この結果、この実施形態の製造方法により、従来よりも確実に可撓性が確保され、管状体内部へのグラウト注入がスムーズに行える管状ストランドを製造できることが確認された。
【0019】
また、各比較例では管状体表面に損耗や亀裂が生じていたが、各実施例ではそのような管状体表面の損壊は見られず、比較例に比べて寿命延長が図れることもわかった。
【0020】
次に、実施例1と同じ管状体および素線を用いて、図1に示した製造工程のうちの緩解機9から冷却装置12までを使用せず、合成樹脂被覆処理を省略したストランドを製造した。そして、この樹脂被覆のないストランドと実施例1のストランドを同じ条件で屋外に放置したところ、樹脂被覆のないものでは3日後に管状体表面に錆が発生したが、実施例1のものは錆の発生が全くなかった。これにより、この実施形態の合成樹脂被覆処理による防食性向上効果が確認された。
【0021】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0022】
例えば、図1に示した製造工程のうち、管状ストランドを形成する上流側工程と、合成樹脂被覆処理を行う下流側工程とは、分離して別々の製造ラインで実施するようにしてもよい。また、腐食性の厳しい条件下で使用される管状ストランドに対しては、実施形態のように管状体と各素線のいずれにも合成樹脂被覆を施すことが好ましいが、使用条件がそれほど厳しくない場合は、少なくともストランドの最表面に合成樹脂被膜が形成されていればよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態の管状ストランドの製造工程の概略図
【図2】a、b、cは、それぞれ図1の製造工程における管状ストランドの製造過程を示す断面図
【図3】一般的な管状ストランドの構成を示す外観斜視図
【図4】管状体凸部が変形した管状ストランドの断面図
【符号の説明】
【0024】
1 管状体
2 素線
3、4 ボビン
5 回転体
6、7 撚線機構
8 ブルーイング加熱炉
9 緩解機
10 誘導加熱装置
11 静電粉体塗装装置
12 冷却装置
13 巻取機
14 撚り線状体
15 樹脂被膜
A 仮想円

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に複数の環状溝または螺旋状溝が形成された金属製管状体を芯材とし、複数の素線からなる撚り線状体を、前記管状体の外周面に沿うように撚り合わせて、前記管状体の溝間の凸部のへこみ量を管状体の肉厚よりも小さくした管状ストランド。
【請求項2】
前記金属製管状体がコルゲート管であることを特徴とする請求項1に記載の管状ストランド。
【請求項3】
前記各素線が鋼製であり、これらの各鋼製素線に合成樹脂を被覆したことを特徴とする請求項1または2に記載の管状ストランド。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の管状ストランドの製造方法において、前記素線が巻き付けられたボビンを周方向に沿って複数配置した回転体の下流側に、回転可能に支持され、その軸方向の中心孔の周囲に複数の側線孔が形成された撚線機構を2段に設けて、前記回転体の中心部を貫通させた管状体を各撚線機構の中心孔に通し、前記各ボビンから巻き戻された素線を各撚線機構の側線孔に1本ずつ通して、前記管状体と各素線を所定の速度で2段目の撚線機構の下流側へ引き出しながら、前記回転体と各撚線機構を同一方向に回転させることにより、1段目の撚線機構で前記管状体の外径よりも大きい径の仮想円に外接する撚り線状体を形成した後、2段目の撚線機構で前記撚り線状体を管状体の外周面に沿うように撚り合わせていくことを特徴とする管状ストランドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−114596(P2009−114596A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291731(P2007−291731)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【Fターム(参考)】