説明

管状フィルム

【課題】 本発明は、光透過性、耐熱性、力学強度に優れ、かつ成型加工性に優れた管状フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】 芳香族ポリエーテル樹脂からなる管状フィルムであって、フィルム厚みが50±10μmの場合において、JIS K7105透明度試験法における全光線透過率が90%以上、もしくは、400nmの光透過率が85%以上であることを特徴とする管状フィルムである。好ましくは、前記芳香族ポリエーテル樹脂が、沸点70〜150℃以下の非アミド系かつ非ハロゲン系有機溶媒に可溶である。また、好ましくは、前記芳香族ポリエーテル樹脂のDSC(昇温速度20℃/分)によるガラス転移温度が160℃以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性が高く、耐熱性、機械強度に優れ、かつ、成型加工性に優れたポリエーテル管状フィルムに関するものである。さらに詳しくは、例えば、複写機、プリンタ、ファクシミリ及びこれらの複合機など、電子写真方式の画像形成装置の部材として用いられ、特に背面露光感光ドラムの透明支持体の用途に最適な透明管状フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機、プリンタ、ファクシミリ及びこれらの複合機などの搬送ベルトにはゴムではなく、金属ベルトや、力学強度の高い高分子フィルムのベルトが用いられている。特に印刷機や、プリンタ等においては、高分子フィルムに導電性のフィラー等を分散して、管状物(以下、シームレスと表現することがある)に成形したベルトが用いられてきている。高分子フィルムの材質としては、ポリエチレンテレフタレート、例えば、弗化ビニリデンやエチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、ポリカーボネート等からなるフィルムを用いたシームレスベルトが提案されている。また、ポリイミドフィルムに導電性物質を配合して体積抵抗率を1〜1013Ω・cmとしたフィルムからなるシームレスベルトの提案もなされている。(特許文献1〜4参照)また、ポリイミドフィルム製のシームレスベルトにおいて、複数の層を形成し各層の電気特性を個別に調整することにより、電気特性や機械特性を向上させる方法が提案されている。さらに、強度を増すために、高強度繊維、例えばポリベンゾビスオキサゾール繊維で補強する方法も提案されている(特許文献5〜7参照)
【0003】
一方、近年、電子写真技術は小型化、軽量化、高速化と同時にカラー化を含む画像の鮮明さが追求されているため、新たな動向として、背面露光(裏面露光)技術の開発が注目を集めている。この背面露光技術は、円筒状の透明支持体上にITO(インジウム錫酸化物)などの透明電極とa−Si(アモルファスシリコン)やOPC(有機光導電体)などの光導電体層を積層して感光体を形成し、露光手段を感光ドラムの内側に収納し、ドラム内部からの光で潜像を形成するものである。内径30〜100mmの管状フィルムの内側に露光用電源等を収納することにより、小型化、軽量化を達成するとともに、鮮明な画像が得られる。
【0004】
前記透明支持体に必要な特性は、感光ドラム回転体としての力学強度、透明導電層形成時の耐熱性、光導電層形成時の耐薬品性、及び光透過率が高いことである。しかしながら、従来提案されているシームレスベルトは、実施自身、もしくは、添加剤が着色しており、これらの応用用途には適用困難であった。
【0005】
特許文献8では、力学強度、耐熱性、耐薬品性、光透過性を併せ持つポリイミドの例が報告されている。通常、Kaptonに代表されるポリイミドは、電荷移動相互作用により黄色から褐色に着色されている。ここでは、ポリイミドの化学構造を最適化することによりポリマーの透明化を行い、課題であった光透過性の改良に成功している。
【特許文献1】特開平5−77252号公報
【特許文献2】特開平5−200904号公報
【特許文献3】特開平5−345368号公報
【特許文献4】特開平6−95521号公報
【特許文献5】特開平7−156287号公報
【特許文献6】特開2002−156835号公報
【特許文献7】特開2001−32178号公報
【特許文献8】特開2006−152257号公報
【0006】
前記透明ポリイミドをシームレスベルトのような管状フィルムとして使用する上での課題としては、ポリイミドの不溶性のためにその前駆体であるポリアミック酸を使用する必要があることが挙げられる。通常、ポリアミック酸からのイミド化は熱イミド化が使用されるため高温乾燥が必要となりプロセス負荷が高く、また、高温乾燥によるフィルムの着色、脱離する水によるフィルムの不透明化(不均一化)が課題となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、光透過性、耐熱性、力学強度に優れ、かつ成型加工性に優れた管状フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、特に透明性、成型加工性を改善する要因について鋭意研究した結果、管状物を構成する耐熱性高分子として特定の化学構造を有する芳香族ポリエーテルを使用することによって、かかる問題を解決できることを見出し本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、以下の[1]〜[4]を提供するものである。
[1]芳香族ポリエーテル樹脂からなる管状フィルムであって、フィルム厚みが50μmの場合における、JIS K7105透明度試験法における全光線透過率が90%以上、もしくは、400nmの光透過率が85%以上であることを特徴とする管状フィルム。
[2]前記芳香族ポリエーテル樹脂が、沸点70〜150℃以下の非アミド系かつ非ハロゲン系有機溶媒に可溶であることを特徴とする上記[1]に記載の管状フィルム。
[3]前記芳香族ポリエーテル樹脂のDSC(昇温速度20℃/分)によるガラス転移温度が160℃以上であることを特徴とする上記[1]または[2]に記載の管状フィルム。
[4]下記化学式(A)又は化学式(B)から選ばれる少なくとも1種のジハロゲン化物またはその反応性誘導体と、少なくとも2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンを含むビスフェノールと反応させて得られる芳香族ポリエーテルを含むことを特徴とする管状フィルム。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

(式(A)および(B)中のXは、それぞれ独立して、F、Cl、Br、Iから選ばれる少なくとも1種の基を示す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明の管状フィルムは、透明性と溶解性に優れた耐熱性高分子フィルムからなるため、光透過性が高く、成型加工性に優れており、結果として、プロセス負荷の低減が可能であり、高い光透過性を利用した背面露光(裏面露光)技術に好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の芳香族ポリエーテル樹脂からなる管状フィルムは、その400nmの透過率が、フィルム厚み50μmの場合における、85%であることが望ましい。すなわち、実施例1〜2に示すように、緑色及び赤色の光源に対してのみならず、少なくとも青色付近の光源に対して、光透過率が85%以上の透明性を有していることが好ましい。さらには、87%以上であることがより好ましい。また、全光線透過率で代替すると、フィルム厚みが50μmの場合における、90%以上であることが望ましい。光透過性が上記の範囲を少なくとも1つ以上を満たすことにより、背面露光などの用途に好適に用いることができるからである。
【0014】
本発明の芳香族ポリエーテル樹脂からなる管状フィルムは、沸点70〜150℃以下の非アミド系かつ非ハロゲン系有機溶媒に可溶であることが好ましい。樹脂溶液に使用する溶媒の沸点が上記範囲にあると、成型する際に適度の乾燥性があり、表面の平滑性、および、溶媒の除去性に優れている。具体的には、1,2−ジメトキシエタン(沸点:84.5℃)、1,4−ジオキサン(101.3℃)、メチルエチルケトン(79.6℃)、メチルイソブチルケトン(116.2℃)、酢酸エチル(88.1℃)、酢酸イソプロピル(102.1℃)、酢酸ブチル(116.1℃)、プロピレングリコールモノメチル(90.1℃)、プロピレングリコールモノメチルアセテート(132.2℃)が好適に用いられ、塗工性、安全性、経済性の観点から、好ましくは、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルアセテートが好適に使用される。これらの溶媒は、単独もしくはその他の溶媒と併せて使用できる。芳香族ポリイミド、ポリエーテルに代表される通常の耐熱性高分子では、本特性を満たすことが困難である。溶媒の沸点が70℃より低い場合には、乾燥が速すぎるため表面の均一性が損なわれることがあり、沸点が150℃を超えると溶媒除去が困難になり、過剰の乾燥熱により管状物が着色することがある。
【0015】
本発明の芳香族ポリエーテル樹脂からなる管状フィルムは、DSC(昇温速度20℃/分)によるガラス転移温度が160℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が、160℃以上、より好ましくは、180℃以上であると、乾燥時、もしくは、管状フィルムとして使用する際の熱変形を低減できる。
【0016】
次に、本発明の芳香族ポリエーテル樹脂からなる管状フィルムの好ましい原料組成について説明する。本発明の芳香族ポリエーテルを形成する必須モノマーの第一成分は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンであり、また、前記の特性を発現するのに必須モノマーの第二成分として、下記化学式(A)又は化学式(B)から選ばれる少なくとも1種のジハロゲン化物またはその反応性誘導体が挙げられる。上記の必須モノマーの第一成分と第二成分とを反応させて得られるポリマーは上述した特性を満たすものとなる。
【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

(式(A)および(B)中のXは、それぞれ独立して、F、Cl、Br、Iから選ばれる少なくとも1種の基を示す。)
【0019】
ビスフェノール成分として使用される2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンは、ビスフェノール成分中に50mol%以上含有することが好ましく、80mol%以上含有することがより好ましく、90mol%以上含有することがさらに好ましい。また、ビスフェノール成分としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン意外に他の共重合可能なビスフェノール成分を用いることも可能である。共重合可能なビスフェノール成分としては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシノール、2−フェニルヒドロキノン、2−メチルヒドロキノン、2,5−ジメチルヒドロキノン、4,4’−ビフェノール、3,3’−ビフェノール、ビスフェノールA、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,1’−ビ−2−ナフトール、1,1’−ビ−4−ナフトール、2,2−ビス(2−ヒドロキシ−5−ビフェニルイル)プロパン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジフェニルフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、などが使用できる。
【0020】
上記式(A)で表される化合物としては、具体的には、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジブロモジフェニルスルホン、4,4’−ジヨードジフェニルスルホン、および、その反応性誘導体が使用できる。特に、反応性の観点から、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンが好適に使用できる。
また、上記式(B)で表される化合物としては、具体的には、2,6−ジフルオロベンゾフェノン、2,6−ジクロロロベンゾフェノン、2,6−ジブロモベンゾフェノン、および、その反応性誘導体が使用できる。特に、反応性、経済性の観点から、2,6−ジフルオロベンゾフェノン、2,6−ジクロロロベンゾフェノンが好適に使用できる。
上記式(A)で表される化合物及び上記式(B)で表される化合物は、2種以上組み合わせて用いることも可能である。
【0021】
本発明の芳香族ポリエーテル樹脂は、例えば、以下に示す方法で合成することができる。
まずビスフェノールを対応するビスフェノールのアルカリ金属塩とするために、N−メチル−2−ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、スルホラン、ジフェニルスルホン、ジメチルスルホキサイドなどの誘電率の高い極性溶媒中でリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、水素化アルカリ金属、水酸化アルカリ金属、アルカリ金属炭酸塩などを加える。通常、アルカリ金属はフェノールの水酸基に対し、過剰気味で反応させ、通常、1.1〜2倍当量を使用する。好ましくは、1.2〜1.5倍当量の使用である。この際、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、クロロベンゼン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトールなどの水と共沸する溶媒を共存させて、ビスフェノールのアルカリ金属塩を調製した後、上記化合物(A)および/または(B)等の電子吸引性基で活性化されたフッ素、塩素等のハロゲン原子で置換された芳香族ジハライド化合物などを反応させる。活性芳香族ジハライド化合物の使用量は、目的とするポリマーの分子量に合わせて変更することが出来る。通常、ジハライド化合物はビスフェノールに対し、等量もしくは過剰気味で反応させる。
芳香族求核置換反応の前に予め、ビスフェノールのアルカリ金属塩としていてもよいし、ジハライド化合物存在下で金属塩を調製してもよい。反応濃度は好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%である。反応温度は60℃〜250℃で、好ましくは80℃〜200℃の範囲である。反応時間は15分〜100時間、好ましくは1時間〜24時間の範囲である。本発明の芳香族ポリエーテルの分子量は、好ましくは5,000〜500,000、さらに好ましくは15,000〜250,000である。
【0022】
本発明の芳香族ポリエーテルの単離精製は、例えば、メタノール等のポリマーの貧溶媒に再沈殿、ろ過、減圧乾燥することにより行うことが出来る。本発明の芳香族ポリエーテルを溶解する溶媒としては、例えば、前記の通り、1,2−ジメトキシエタン(沸点:84.5℃)、1,4−ジオキサン(101.3℃)、メチルエチルケトン(79.6℃)、メチルイソブチルケトン(116.2℃)、酢酸エチル(88.1℃)、酢酸イソプロピル(102.1℃)、酢酸ブチル(116.1℃)、プロピレングリコールモノメチル(90.1℃)、プロピレングリコールモノメチルアセテート(132.2℃)が好適に用いられ、塗工性、安全性、経済性の観点から、好ましくは、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルアセテートが好適に使用される。これらの溶媒は、1種単独であるいは2種以上を併用することができる。
【0023】
本発明の芳香族ポリエーテルを溶解させた溶液のポリマー濃度は、ポリマーの分子量にもよるが、通常、5〜40重量%、好ましくは7〜25重量%である。5重量%未満では、厚膜化し難く、また、ピンホールが生成しやすい。一方、40重量%を超えると、溶液粘度が高すぎてフィルム化し難く、また、表面平滑性に欠けることがある。
なお、溶液粘度は、ポリマーの分子量や濃度にもよるが、通常、2,000〜100,000mPa・s、好ましくは3,000〜50,000mPa・sである。2,000mPa・s未満では、成膜中の溶液の滞留性が悪く、基体から流れてしまうことがある。一方、100,000mPa・sを超えると、粘度が高過ぎて、膜厚の調製が困難となり管状物の成型が困難となることがある。
【0024】
本発明の管状フィルムの製造方法は、金型表面に濃度5重量%〜40重量%の芳香族ポリエーテル溶液を所定の厚みで成型させ、その後、乾燥する。乾燥温度は、60℃前後の温度で乾燥後、250℃以下の温度で段階的に乾燥を行う方法が好ましい。より好ましい乾燥温度は230℃以下、さらに好ましくは210℃以下である。乾燥温度が高過ぎると、管状物が黄変して光透過性が低下することがある。
【0025】
前記管状フィルムの少なくとも片面には、さらに少なくとも一層の透明導電膜を形成しても良い。前記透明導電膜の表面抵抗率は、1010Ω/□以下であることが好ましい。透明導電膜としては、例えばインジウム−錫酸化物合金等があり、膜厚は50nm〜5μmの範囲が好ましい。この導電膜は、例えば、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、プラズマCVDあるいは塗布法などによって形成できる。また前記の膜を160度C以上の高温で比較的短時間で熱処理(アニール処理)することにより透明性、耐熱性、導電性を向上させてもよい。
【0026】
本発明の透明管状物中は老化防止剤、好ましくは分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物を含有してもよく、老化防止剤を含有することで透明管状物としての耐久性をより向上させることができる。
本発明で使用することのできる分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物としては、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロオネート](商品名:IRGANOX 245)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 259)、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−3,5−トリアジン(商品名:IRGANOX 565)、ペンタエリスリチルーテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 1010)、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 1035)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(商品名:IRGANOX 1076)、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチルー4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)(IRGAONOX 1098)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(商品名:IRGANOX 1330)、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト(商品名:IRGANOX 3114)、3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(商品名:Sumilizer GA-80)などを挙げることができる。
本発明において、芳香族ポリエーテル100重量部に対して分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物は0.01〜10重量部の量で使用することが好ましい。
【0027】
本発明の管状フィルムは、透明性と溶解性に優れた耐熱性高分子フィルムからなるため、光透過性が高く、成型加工性に優れており、結果として、プロセス負荷の低減が可能であり、さらに高光透過性を利用した背面露光(裏面露光)技術に好適に使用できる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
(実施例1)
温度計、攪拌機、窒素導入管、Dean−Stark管、及び冷却管を取り付けた300mLの4つ口フラスコに、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−へキサフルオロプロパン(16.81g、50mmol)、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン(14.36g、50mmol)、炭酸カリウム(7.60g、55mmol)、NMP50mL、トルエン20mLを添加した。次いで、フラスコ内を窒素置換した後、得られた溶液を130℃で反応させ、生成する水をDean−Stark管により除去した。水の生成が認められなくなったところで、徐々に温度を180℃まで上昇し、そのままの温度で5時間反応させた。
室温まで冷却後、大量のメタノールに投じ、ろ別によりポリマーを単離した。得られたポリマーは60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末を得た(25.3g、92%)。
次いで、得られたポリマーをプロピレングリコールモノメチルアセテート(PGMEA)に再溶解し、20質量%の樹脂溶液を得た。該樹脂溶液を、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基板上にドクターブレードを用いて塗布し、80℃で30分、ついで150℃で60分乾燥してフィルムとした後、PET基板より剥離した。その後、フィルムを金枠に固定しさらに200℃、2時間乾燥して、膜厚50μmの評価用フィルムを得た。また、ここで得られた樹脂溶液を管状物の形成に用いた。
得られたポリマーについて、下記の方法により構造分析及び重量平均分子量の測定を行った。結果は、赤外スペクトルの特性吸収が、1585、1508、1237、1148cm−1、重量平均分子量が、109,000であった。
また、ポリマーの有機溶媒に対する溶解性、フィルムの全光線透過率、400nm透過率、ガラス転移点、成型加工性評価は、下記の方法により実施した。結果を表1及び表2に示した。
【0029】
(1)構造分析
IR(ATR法)により行った。
(2)重量平均分子量
重量平均分子量は、TOSOH製HLC−8020型GPC装置を使用して測定した。溶媒には、臭化リチウムおよび燐酸を添加したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用い、測定温度40℃にて、ポリスチレン換算の分子量を求めた。
(3)有機溶媒に対する溶解性
ポリマーを、各種有機溶媒(N−メチルピロリドン(以下、NMPともいう)、シクロヘキサノン(以下、CHNともいう)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAともいう)、メチルエチルケトン(以下、MEKともいう)、ジクロロメタン(以下、DCMともいう))に溶解し、5〜20質量%溶液になるように調整し、室温での溶解性を評価した(表1)。また、製膜に好適である非アミド系かつ非ハロゲン系で沸点が80〜150℃の有機溶媒(プロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルエチルケトン)に完全に溶解した場合を「○」、膨潤もしくは不溶ポリマーがある場合を「×」とした(表2)。
(4)全光線透過率
JIS K7105透明度試験法に準じて測定した。具体的には、フィルムの全光線透過率を、スガ試験機株式会社製SC−3H型ヘイズメーターを用いて測定した。
(5)光透過性
得られたフィルムの波長400nmにおける透過率は、JASCO社製V−570型UV/VIS/NIR分光器を用いて測定した。
(6)ガラス転移温度(Tg)
得られたフィルムのガラス転移点は、Rigaku社製8230型DSC測定装置を用いて、昇温速度を20℃/minとして測定した。
(7)引張特性
得られたフィルムの力学強度は、JIS K7127に準じて測定した。
(8)成形加工性
得られたポリマーの管状物の作製は、以下の方法により行った。アルミニウム製円柱状金型を使用し、前記ポリマー溶液にアルミニウム製金型を浸漬した。乾燥後の被膜厚が50±10μmとなるように粘度を調整したポリマー樹脂溶液を塗布した後、80℃で30分、150℃で60分予備乾燥し、最終乾燥はポリマーの種類により、150〜300℃で2時間乾燥させることにより行った。成型加工性の評価は、溶解性、残存溶媒量(熱重量分析法:TGA、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分)により行った。
【0030】
(実施例2)
ジクロロジフェニルスルホンの代わりに2,6−ジクロロベンゾニトリル(8.60g、50mmol)、を使用した以外は実施例1と同様の方法で行い、白色粉末を得た(20.5g、94%)。
得られたポリマーの赤外スペクトルの特性吸収は、2233、1600、1577、1507、1239、1164cm−1、重量平均分子量は、158,000であった。
また、ポリマーの有機溶媒に対する溶解性、フィルムの全光線透過率、400nm透過率、ガラス転移点、成型加工性評価は、実施例1と同様に行い、結果を表1及び表2に示した。
【0031】
(比較例1)
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンの代わりに4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル(10.1g、50mmol)、を使用した以外は実施例1と同様の方法で行行い、白色粉末を得た(19.6g、94%)。得られたポリマーの重量平均分子量は、101,000であった。
また、ポリマーの有機溶媒に対する溶解性、フィルムの全光線透過率、400nm透過率、ガラス転移点、成型加工性評価は、実施例1と同様に行い、結果を表1及び表2に示した。
【0032】
(比較例2)
ポリイミド:温度計、攪拌機、窒素導入管、及び冷却管を取り付けた300mLの4つ口フラスコに、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(12.4g、50mmol)を添加した。次いで、フラスコ内を窒素置換した後、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという。)(170ml)を加え均一になるまで攪拌した。得られた溶液に4,4‘’−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(フタル酸無水物):6FDA(22.2g、50mmol)を室温で加え、そのままの温度で12時間攪拌を続けて反応させ、ポリアミック酸を含む溶液を得た。
得られた溶液はそのまま樹脂溶液として使用し、製膜後に熱イミド化(300℃、2時間)を行うことにより評価サンプルを得た。得られたイミド化ポリマーの重量平均分子量は、90,000であった。
また、本イミド化ポリマーの有機溶媒に対する溶解性、フィルムの全光線透過率、400nm透過率、ガラス転移点、成型加工性評価は、実施例1と同様に行い、結果を表1及び表2に示した。
【0033】
(比較例3)
シクロオレフィンポリマー:シクロオレフィンポリマーとして、JSRのARTONをそのまま使用した。
また、本シクロオレフィンポリマーの有機溶媒に対する溶解性、フィルムの全光線透過率、400nm透過率、ガラス転移点、成型加工性評価は、実施例1と同様に行い、結果を表1及び表2に示した。なお、本ポリマーはGPCの展開溶媒に不溶なため分子量の測定は行わなかった。成型加工性評価は、樹脂溶液の乾燥速度が速すぎるため表面が不均一であった。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
表1から、本発明の芳香族ポリエーテルは、成型する際に適度の乾燥性を有する有機溶媒に対して優れた溶解性を有していることが分かる。表2からも、高温(例えば、300℃程度)で熱処理することなく管状フィルムが得られ、成型加工性が優れていることが分かる。また、本発明のポリマーは光線透過率が高く、耐熱性および力学強度も優れていることが示されている(実施例1〜2)。一方、本発明の範囲外比較例1〜3では、溶解性が乏しく、成型加工性が悪いことが分かる。比較例1、2では、光透過性に劣る問題もある。さらに、比較例2では、イミド化のため高温での熱処理が必要でプロセス負荷が高い。また、比較例3では、実施例1〜2に比して、耐熱性、力学強度に劣っている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエーテル樹脂からなる管状フィルムであって、フィルム厚みが50μmの場合における、JIS K7105透明度試験法における全光線透過率が90%以上、もしくは、400nmの光透過率が85%以上であることを特徴とする管状フィルム。
【請求項2】
前記芳香族ポリエーテル樹脂が、沸点70〜150℃以下の非アミド系かつ非ハロゲン系有機溶媒に可溶であることを特徴とする請求項1に記載の管状フィルム。
【請求項3】
前記芳香族ポリエーテル樹脂のDSC(昇温速度20℃/分)によるガラス転移温度が160℃以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の管状フィルム。
【請求項4】
下記化学式(A)又は化学式(B)から選ばれる少なくとも1種のジハロゲン化物またはその反応性誘導体と、少なくとも2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンを含むビスフェノールと反応させて得られる芳香族ポリエーテルを含むことを特徴とする管状フィルム。
【化1】

【化2】

(式(A)および(B)中のXは、それぞれ独立して、F、Cl、Br、Iから選ばれる少なくとも1種の基を示す。)

【公開番号】特開2010−90349(P2010−90349A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264639(P2008−264639)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】