説明

管状体の製造方法

【課題】熱硬化性溶液の保持時間の違いによる体積抵抗率の変動が抑制された管状体の製造方法を提供する。
【解決手段】酸基を有する導電剤が分散されたポリイミド前駆体溶液を含む熱硬化性溶液20Aを15℃以下に保持する保持工程と、保持工程によって15℃以下に保持された熱硬化性溶液20Aを、芯体34の外側の面に塗布し、該熱硬化性溶液20Aによる塗膜を形成する塗膜形成工程と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置等に用いられる管状体には、強度や寸法安定性が求められる場合がある。また、電子写真方式を用いた各種装置に適用するために、管状体に導電剤を含んだ構成とすることが知られている。
【0003】
特許文献1には、ポリイミド系樹脂や導電性粉末を含有したシームレスベルトが提案されている。特許文献2には、導電性金属酸化物を分散した熱硬化性ポリイミド樹脂から構成された中間転写ベルトが提案されている。
引用文献3には、ポリアミド酸とカーボンブラック粉体と、有機溶媒とを含有する半導電性ポリアミド酸溶液を、金属ドラムの内面に供給して加熱することで、ポリアミド酸無端管状フィルムを製造することが提案されている。
引用文献4には、導電剤として酸化処理カーボンブラックとポリイミド系樹脂を含む層を有する無端状の半導電性ベルトが提案されている。
【0004】
引用文献5には、粘度が1〜20Pa・sの範囲の樹脂溶液にカーボンブラックを分散させてカーボンブラック分散液を調整し、この調整したカーボンブラック分散液と樹脂溶液より粘度の高い粘度調整液とを混合して半導電性塗料を調整し、この半導電性塗料を塗布して半導電性部材を成形することで、半導電性部材を製造することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−77252
【特許文献2】特開平10−63115
【特許文献3】特開2002−86465
【特許文献4】特開2004−287383
【特許文献5】特開2007−86492
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、本発明における保持工程を備えない場合に比べて、本発明における熱硬化性溶液の保持時間の違いによる体積抵抗率の変動が抑制された管状体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の発明により解決される。
請求項1に係る発明は、酸基を有する導電剤が分散された、ポリイミド前駆体溶液を含む熱硬化性溶液を、15℃以下に保持する保持工程と、
前記保持工程によって15℃以下に保持された前記熱硬化性溶液を、芯体の外側の面に塗布し、該熱硬化性溶液による塗膜を形成する塗膜形成工程と、
前記塗膜を加熱硬化させて管状体とする加熱硬化工程と、
を備えた管状体の製造方法である。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記管状体の体積抵抗率が1×1011Ω・cm以上である請求項1に記載の管状体の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明は、本発明における保持工程を備えない場合に比べて、本発明における熱硬化性溶液の保持時間の違いによる体積抵抗率の変動が抑制される。
請求項2に係る発明は、管状体の体積抵抗率が1×1011Ω・cm以上であっても、熱硬化性溶液の保持時間の違いによる体積抵抗率の変動が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施の形態における管状体の製造に用いる成膜装置の一例を示す模式図である。
【図2】本実施の形態における管状体の製造に用いる成膜装置の一例を示す模式図である。
【図3】本実施の形態における管状体の製造工程において、芯体上に塗膜または管状体が形成された状態を示す模式図である。
【図4】(A)(B)管状体の体積抵抗率を測定する体積抵抗率測定装置の一例を示す模式図であって、(A)は(B)のA−A’断面図である。
【図5】(A)(B)管状体の体積抵抗率を測定する体積抵抗率測定装置の一例を示す模式図であって、(A)は(B)のA−A’断面図である。
【図6】(A)(B)管状体の体積抵抗率を測定する体積抵抗率測定装置の一例を示す模式図であって、(A)は(B)のA−A’断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施の形態の管状体の製造方法の一の実施の形態を説明する。
【0012】
本実施の形態の管状体の製造方法は、(1)酸基を有する導電剤が分散されたポリイミド前駆体溶液を含む熱硬化性溶液を、15℃以下に保持する保持工程と、(2)前記保持工程によって15℃以下に保持された前記熱硬化性溶液を、芯体の外側の面に塗布し、該熱硬化性溶液による塗膜を形成する塗膜形成工程と、(3)前記塗膜を加熱硬化させて管状体とする加熱硬化工程と、を備えている。
【0013】
本実施の形態の管状体の製造方法では、上記保持工程、塗膜形成工程、及び加熱硬化工程を経ることによって、15℃以下に保持された熱硬化性溶液が芯体上に塗布され、この芯体上に塗布されることで形成された塗膜に含まれるポリイミド樹脂前駆体が加熱されてイミド化される。これによって、ポリイミド樹脂製の管状体が製造される。
本実施の形態における製造方法によって得られた管状体は、電子写真式複写機、レーザープリンター等における感光装置、中間転写装置、転写分離装置、搬送装置、帯電装置、現像装置等に適用される。
【0014】
ここで、製造される管状体の体積抵抗率は、製造によるバラツキのないことが望ましい。しかし、本実施の形態における保持工程及び塗膜形成工程を有さない場合には、熱硬化性溶液に含まれる酸基を有する導電剤の含有量、及び該熱硬化性溶液に含まれるポリイミド前駆体溶液の含有量が同じであっても、製造された管状体の体積抵抗率にばらつきが生じる場合がある。
【0015】
本発明者らは、鋭意検討した結果、上記管状体の体積抵抗率のばらつきは、下記現象によるものであることを見いだした。
詳細には、熱硬化性溶液中においては、ポリイミド樹脂前駆体分子において解離反応と結合反応の平衡が生じているが、常温(20℃)以上では解離反応の方が一般的に進行しやすい。そして、該解離反応が進行すると、ポリイミド樹脂前駆体における塩基と、酸基を有する導電剤における酸基と、の相互作用によって、熱硬化性溶液中における酸基を有する導電剤の分散状態が変化すると考えられる。このため、熱硬化性溶液の保持時間によって、上記相互作用の進行度合いが異なり、製造される管状体の体積抵抗率にばらつきが生じると考えられる。
【0016】
そこで、本実施の形態の管状体の製造方法では、上述のように、酸基を有する導電剤が分散されたポリイミド前駆体溶液を含む熱硬化性溶液を15℃以下に保持する保持工程と、保持工程によって15℃以下に保持された熱硬化性溶液を、芯体の外側の面に塗布し、該熱硬化性溶液による塗膜を形成する塗膜形成工程と、を有している。このように、酸基を有する導電剤が分散されたポリイミド前駆体溶液を含む熱硬化性溶液を15℃以下に保持すると、ポリイミド樹脂前駆体の分子における反応が抑制され、ポリイミド樹脂前駆体における塩基と、導電剤の酸基との相互作用の相対量変化が抑制されると考えられる。
【0017】
このため、本実施の形態の管状体の製造方法では、管状体の製造工程における熱硬化性溶液の保持時間の違いによる、管状体の体積抵抗率のバラツキが抑制されると考えられる。
【0018】
なお、本実施の形態の管状体の製造方法における上記保持工程では、熱硬化性溶液を15℃以下に保持し、塗膜形成工程では、この15℃以下に保持された熱硬化性溶液を芯体の外側の面に塗布することが必須であるが、これらの保持工程における温度は、8℃以下であることがさらに望ましく、5℃以下であることが特に望ましい。
【0019】
なお、本実施の形態の管状体の製造方法における保持工程では、酸基を有する導電剤が分散されたポリイミド前駆体溶液を含む熱硬化性溶液が、15℃以下に保持されればよく、この保持工程より前段階の処理である、酸基を有する導電剤をポリイミド前駆体溶液中に分散させる工程(詳細後述)では、15℃以下に保持する必要はなく、分散は、分散に必要な温度に加温した状態で行えばよい。なお、分散時の温度の一例については後述する。
【0020】
また、本実施の形態の管状体の製造方法における保持工程によって熱硬化性溶液が保持されはじめてから、次の塗膜形成工程で塗膜とされるまでの期間は、短いことが望ましい。また、保持工程における熱硬化性溶液の保持温度及び塗膜形成工程における熱硬化性溶液の維持温度が15℃に近い温度であるほど(より高温(15℃に近い温度)であるほど)、該期間は短いことが望ましい。
具体的には、保持工程における熱硬化性溶液の保持温度が15℃である場合には、該期間としては10日間(24時間×10)以下が挙げられ、該保持温度が10℃である場合には、該期間としては40日間(24時間×40)以下が挙げられ、該保持温度が0℃である場合には、該期間は80日間(24時間×80)以下が挙げられる。
【0021】
また、本実施の形態の管状体の製造方法においては、保持工程において熱硬化性溶液を15℃以下に保持することが必須であるが、上記塗膜形成工程においても、熱硬化性溶液の温度を15℃以下に保持することが望ましい。すなわち、塗膜形成工程から加熱硬化工程へと切り替わる時点まで(加熱工程が始まって塗膜が加熱されはじめる直前まで)は、芯体上に塗布された熱硬化性溶液による塗膜を15℃以下に保持することが望ましい。
このように、塗膜形成工程においても、熱硬化性溶液による塗膜を15℃以下に保持することで、更に、管状体の体積抵抗率のバラツキが抑制されると考えられる。
この場合には、上記保持工程に熱硬化性溶液の保持温度と、塗膜形成工程における熱硬化性溶液の温度と、は15℃以下であればよく、同じ温度であっても異なる温度であってもよい。
【0022】
本実施の形態の管状体の体積抵抗率は、管状体が導電性(体積抵抗率が10Ω・cm未満)または半導電性(体積抵抗率が10Ωcm以上1015Ωcm以下)を示す体積抵抗率であればよいが、1×1011Ω・cm以上であることが望ましく、1×1013Ω・cm以上であることが特に望ましい。
【0023】
管状体の体積抵抗率は、環状体に含まれる、上記酸基を有する導電剤の含有量によって調整されるが、この導電剤の含有量が、管状体の体積抵抗率が1×1011Ω・cm以上といった高い体積抵抗率を満たす含有量であるときには、特に、ポリイミド樹脂前駆体の分子の上記解離が生じやすいと考えられる。しかしながら、本実施の形態の管状体の製造方法によれば、導電剤の含有量が、このような高い体積抵抗率(1×1011Ω・cm以上)を満たす管状体を製造する場合であっても、管状体の製造工程における熱硬化性溶液の保持時間の違いによる、管状体の体積抵抗値のバラツキが抑制されると考えられる。
【0024】
なお、管状体の体積抵抗率は、JIS K6911に従って測定される。なお、体積抵抗率は、管状体10の内部を流れる電流と平行方向の電位傾度を、その電流密度で除した数値である。この数値は各辺1cmの立方体の相対する2表面を電極とする二つの電極間の体積抵抗に等しい。測定方法の詳細については後述する。
【0025】
以下、本実施の形態の管状体の製造方法、及び製造に用いる材料について、詳細に説明する。
【0026】
(分散工程)
まず、保持工程で用いる、酸基を有する導電剤が分散されたポリイミド前駆体溶液を用意する。この酸基を有する導電剤が分散されたポリイミド前駆体溶液は、保持工程の前に行われる分散工程によって得られる。この分散工程では、酸基を有する導電剤をポリイミド前駆体溶液中に分散させる。この酸基を有する導電剤の分散方法としては、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、ジェットミル(対抗衝突型分散機)等が挙げられる。
なお、何れの分散方法を用いた場合においても、分散性の向上の観点から、分散工程における溶液(酸基を有する導電剤と、ポリイミド前駆体溶液を含む溶液)の粘度は10Pa・s未満であることが望ましい。このような粘度を維持する方法としては、溶剤で希釈する方法や、分散時の該溶液の温度を調整する方法があるが、溶剤で希釈する方法では該溶剤の蒸発速度を考慮する必要があることから、分散時の該溶液の温度を調整する方法を用いることが望ましい。
【0027】
具体的には、この分散工程における溶液(酸基を有する導電剤と、ポリイミド前駆体溶液と、を含む溶液)の粘度が10Pa・s未満となるように、該溶液の温度を調整すればよい。例えば、分散工程においては、酸基を有する導電剤と、ポリイミド前駆体溶液と、を含む溶液の温度が50℃以上となるように該溶液の温度を調整することが望ましい。なお、この分散工程における該溶液の加温は、分散時における機械的エネルギーにより発生する熱を利用してもよいし、分散時において用いる容器に熱を加えてもよい。
【0028】
(保持工程)
保持工程では、上記分散工程によって得られた、酸基を有する導電剤が分散されたポリイミド前駆体溶液を含む熱硬化性溶液を、15℃以下に保持する。
【0029】
ポリイミド前駆体溶液は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分とを、上記溶剤中で反応させることによって得られる。ポリイミドの種類としては、特に制限されないが、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン成分とを反応させて得られる芳香族ポリイミドが、層の強度の点から望ましい。
【0030】
芳香族テトラカルボン酸の代表例としては、次のようなものが挙げられ、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、あるいはこれらのテトラカルボン酸エステル、又は上記各テトラカルボン酸類の混合物等が挙げられる。
一方、芳香族ジアミン成分としては、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジメトキシベンチジン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等が挙げられる。
また、金属層との密着性を向上させるために、特開2003−136632号公報に記載の如く、ポリイミド(PI)にアルコキシシラン化合物を結合させたPI−シリカハイブリッド体を用いてもよい。
【0031】
ポリイミド前駆体溶液中におけるポリイミド樹脂前駆体の濃度、及びポリイミド前駆体溶液の粘度は、適宜調整される。例えば、ポリイミド前駆体溶液の固形分濃度としては10質量%以上40質量%以下が挙げられる。また、ポリイミド前駆体溶液の粘度としては、1Pa・s以上100Pa・s以下が挙げられる。
【0032】
酸基を有する導電剤としては、酸基を有する、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素系物質が挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックを用いることが望ましい。
【0033】
これらの導電剤が有する酸基としては、カルボキシル基、キノン基、ラクトン基、及び水酸基等が挙げられる。熱硬化性溶液に含まれる導電剤が、酸基を有する導電剤であるので、ポリイミド前駆体溶液中における導電剤の分散性が良好となると考えられ、また、分散安定性が得られると考えられる。
【0034】
これらの酸基を有する導電剤は、例えば、上記に挙げた導電剤を酸化処理することによって得られる。この導電剤の酸化処理方法としては、高温環境下で空気と接触させて反応させる空気酸化法、常温下で窒素酸化物やオゾンと反応させる方法、及び高温環境下で空気により酸化させた後に低温下でオゾン酸化する方法、及びコンタクト法などが挙げられる。
【0035】
上記コンタクト法としては、チャネル法、ガスブラック法等が挙げられる。また、酸基を有する導電剤は、ガスまたはオイルを原料とするファーネスブラック法により製造してもよい。さらに、必要に応じて、これらの処理を施した後に、硝酸などで液相酸化処理を行ってもよい。
【0036】
本実施の形態における、酸基を有する導電剤のpH値は、何れの値であってもよいが、pH5.0以下であることが望ましく、pH4.5以下であることがより望ましく、pH4.0以下であることが更に望ましい。
熱硬化性溶液に含まれる、酸基を有する導電剤のpHは、水性懸濁液を調整し、ガラス電極で測定することで得られる。また、この酸基を有する導電剤のpHは、酸化処理工程での処理温度、及び処理時間等の条件によって調整される。
【0037】
本実施の形態の、酸基を有する導電剤としては、具体的には、デグサ社製の「プリンテックス150T」(pH4.5、揮発分10.0%)、同「スペシャルブラック350」(pH3.5、揮発分2.2%)、同「スペシャルブラック100」(pH3.3、揮発分2.2%)、同「スペシャルブラック250」(pH3.1、揮発分2.0%)、同「スペシャルブラック5」(pH3.0、揮発分15.0%)、同「スペシャルブラック4」(pH3.0、揮発分14.0%)、同「スペシャルブラック4A」(pH3.0、揮発分14.0%)、同「スペシャルブラック550」(pH2.8、揮発分2.5%)、同「スペシャルブラック6」(pH2.5、揮発分18.0%)、同「カラーブラックFW200」(pH2.5、揮発分20.0%)、同「カラーブラックFW2」(pH2.5、揮発分16.5%)、同「カラーブラックFW2V」(pH2.5、揮発分16.5%)、キャボット社製「MONARCH1000」(pH2.5、揮発分9.5%)、キャボット社製「MONARCH1300」(pH2.5、揮発分9.5%)、キャボット社製「MONARCH1400」(pH2.5、揮発分9.0%)、同「MOGUL−L」(pH2.5、揮発分5.0%)、同「REGAL400R」(pH4.0、揮発分3.5%)等が挙げられる。
【0038】
(塗膜形成工程)
塗膜形成工程では、上記保持工程によって15℃以下に保持された熱硬化性溶液を、15℃以下の状態を維持した状態で芯体の外側の面に塗布し、該熱硬化性溶液による塗膜を形成する。
【0039】
芯体の材質としては、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属や、フッ素樹脂やシリコーン樹脂、あるいはこれらの樹脂で表面を被覆した金属が挙げられる。芯体として金属を使用する場合には、該芯体上に形成される管状体(上記塗膜を硬化させたもの)を芯体から取り外しやすいように、予め表面にクロムやニッケルでメッキを施したり、離型剤を塗布してもよい。
【0040】
芯体の形状としては、円筒状や円柱状が挙げられるが、このような形状に限られず、平板状であってもよい。
【0041】
この芯体上に、上記熱硬化性溶液による塗膜を形成する方法は、上記熱硬化性溶液の温度条件が維持された状態で塗布される方法であれば、特に制限されない。例えば、特開平6−23770号公報等に記載の外面塗布法、特開平3−180309号公報等に記載の浸漬塗布法、特開平9−85756号公報等に記載のらせん塗布法、等のほか、スピンコート法も挙げられ、芯体の形状や大きさに応じて選択される。
【0042】
以下、15℃以下の温度条件で上記保持工程、及び塗膜形成工程を行う方法について、らせん塗布法を用いた場合を一例として説明する。
【0043】
図1及び図2に示すように、成膜装置40では、芯体34を図1中の矢印A方向に回転させながら、該芯体34の外側の面に熱硬化性溶液20Aを塗布し、これを芯体34の外側の面に接して配置されたブレード29によってならしながら塗布する。
このとき、芯体34の外側の面に塗布される熱硬化性溶液20Aは、温度維持装置32によって15℃以下に保持され、芯体34上に供給されるまで該15℃以下に保持される。
【0044】
詳細には、成膜装置40では、貯留部20に貯留された熱硬化性溶液20Aを、ポンプ24によって供給管22及びノズル26を介して、矢印A方向に回転されている芯体34の外側の面に供給する。
この成膜装置40には、貯留部20に貯留されている熱硬化性溶液20Aや、供給管22、ポンプ24、及びノズル26内を流れる熱硬化性溶液20Aを、15℃以下の温度に保持する温度維持装置32が設けられている。この温度維持装置32は、貯留部20に貯留されている熱硬化性溶液20Aや、供給管22、ポンプ24、及びノズル26内を流れる熱硬化性溶液20Aを、15℃以下の温度に保持する構成であればよい。
【0045】
例えば、この温度維持装置32としては、保温部材28、冷却装置30、温度測定装置36、及び制御部38を含んだ構成が挙げられる。
保温部材28は、保温機能を有する部材であり、貯留部20、供給管22、ポンプ24、及びノズル26の外側を覆うように設けられている。この保温部材28としては、保温機能を有する公知の部材を用いればよい。冷却装置30は、保温部材28の内側(すなわち、貯留部20、供給管22、ポンプ24、及びノズル26内)の温度を15℃未満に冷却する装置である。この冷却装置30としては、冷却機能を有する公知の装置を用いればよい。冷却装置30によって保温部材28の内側が冷却されることで、保温部材28の内側に存在する貯留部20、供給管22、ポンプ24、及びノズル26内の熱硬化性溶液20Aが、冷却装置30によって冷却された温度に保持される。
【0046】
温度測定装置36は、貯留部20内(例えば、貯留部20の内側の底部)に設けられており、貯留部20内に貯留されている熱硬化性溶液20Aの温度を測定する。
制御部38は、温度測定装置36及び冷却装置30に電気的に接続されており、温度測定装置36から受け付けた温度情報に基づいて、保温部材28の内側が15℃以下の温度を維持するように、冷却装置30を制御する。
【0047】
このため、成膜装置40では、成膜装置40に設けられた温度維持装置32によって、貯留部20内に貯留されている熱硬化性溶液20Aが15℃以下に保持される(保持工程)。また、保温部材28を、貯留部20と共に、供給管22、ポンプ24、及びノズル26を覆うように設けることで、熱硬化性溶液20Aは、供給管22、ポンプ24、及びノズル26を介して芯体34上に塗布されて塗膜10Aとされるまで(塗膜形成工程)、温度維持装置32によって、15℃以下の温度に維持される。
【0048】
芯体34の外側の面に塗布された熱硬化性溶液20Aは、筋状に該芯体34上に供給され、ブレード29によって平滑化される。このため、芯体34上には、熱硬化性溶液20Aによる螺旋状の筋が残ることなく。塗膜10Aが形成される。この塗布時の芯体34の回転速度としては、例えば、20rpm以上300rpm以下が挙げられ、ノズル26と芯体34との相対移動速度は、例えば、0.1m/分以上2.0m/分以下が挙げられる。
【0049】
この成膜装置40と芯体34は、芯体34の長尺方向の一端側から他端側に向かって相対的に移動される(図1中、矢印B方向参照)。これによって、芯体34上には、熱硬化性溶液20Aによる塗膜10Aが形成される(図3参照)。
【0050】
なお、この芯体34上に形成された塗膜10Aの温度が、次の加熱硬化工程によって熱が加えられるまでの間に15℃以上となることを抑制するために、該塗膜10Aを冷却するための冷却装置を別途設けて、塗膜10Aが15℃以下となるように維持する構成としてもよい。
【0051】
この場合には、例えば、図1に示すように、成膜装置40を、芯体34の内側に芯体34の温度を測定する温度測定装置42と、芯体34を冷却する冷却装置44と、温度測定装置42及び冷却装置44に電気的に接続された制御部41と、を更に備えた構成とする。そして、制御部41では、温度測定装置42から受け付けた温度情報に基づいて、芯体34の温度が15℃以下の温度を維持するように、冷却装置44を制御すればよい。そして、後述する加熱硬化工程では、制御部41は、冷却を停止するように冷却装置44を制御すればよい。
【0052】
このような構成とすれば、芯体34上に形成された熱硬化性溶液20Aによる塗膜10Aが、後述する加熱硬化工程において加熱が開始されるまでは、15℃以下に維持されることとなる。
【0053】
(乾燥工程)
次に、上記塗膜形成工程によって芯体34上に形成された塗膜10Aを加熱硬化させる(加熱硬化工程)が、この加熱硬化工程の前に、塗膜10Aを乾燥もしくは半硬化させることが望ましい。
ここで、「乾燥」とは、塗膜10Aを構成する熱硬化性溶液に含まれる溶剤を気化させることをいい、実際には、30℃以上250℃以下程度で加熱し、適宜時間が設定される(例えば、15分以上60分以下)。また、「半硬化」とは、熱硬化性溶液に含まれるポリイミド樹脂前駆体のイミド化反応が完全に進行しない程度で、一部がイミド化した状態をいう。実際的には、200℃前後(望ましくは、120℃以上250℃以下)で適宜時間を設定すると、塗膜10Aが半硬化状態となり、乾燥状態よりやや強度が増す。
【0054】
これら、乾燥もしくは半硬化は、ポリイミド樹脂前駆体や溶剤種によって適宜温度及び時間等を設定して行われるが、塗膜10Aから溶剤が完全に気化すると、該塗膜10Aに割れが生じやすくなることがあるので、ある程度(例えば、当初の5質量%以上40質量%以下程度)の溶剤は残留させておくことが望ましい。
【0055】
なお、この乾燥工程では、加熱温度が高いほど、加熱時間はみじかくてよい。また、この加熱時には、熱風を当てることも望ましい。また、加熱時には、加熱温度を段階的に上昇させてもよいし、加熱温度を一定速度で上昇させてもよい。
【0056】
なお、乾燥工程では、塗膜10Aが垂れることを抑制するために、芯体34の軸方向を水平方向と一致させて、且つ5rpm以上60rpm以下の回転速度で回転させながら行うことが望ましい。なお、次の加熱硬化工程では、芯体34の軸方向を垂直方向と一致させた状態で加熱硬化を行ってもよい。
【0057】
(加熱硬化工程)
加熱硬化工程では、上記塗膜形成工程によって芯体34上に形成され、上記乾燥工程を経た塗膜10Aを加熱することで、該塗膜10Aに含まれるポリイミド樹脂前駆体をイミド化させて加熱硬化させ、管状体10を形成する(図3参照)。
【0058】
イミド化は、250℃以上450℃以下(好ましくは、300℃以上400℃以下)に加熱することにより行われ、これによりPI前駆体は完全に硬化されてPI樹脂となる。この加熱時間としては、例えば、20分以上180分以下が挙げられる。
イミド化における加熱時、金属融解層を構成する金属が、例えば銅やニッケルのように、酸化又は変質しやすい場合には、窒素やアルゴン等の不活性気体中で加熱することが好ましい。
一方、加熱を加熱炉中にて行う場合、加熱炉の室内全体を高温度に維持しなければならず、熱効率が低い。それに対し、電磁誘導発熱装置を用いて加熱する方法では、発熱は金属基体で起こるので、熱効率が高い。その際、表面温度をセンサー等で検知し、所定温度になるよう、発熱量を制御すればよい。電磁誘導発熱方式では、芯体34を入れる加熱容器は小さくてよいので、上記不活性ガスを投入する場合でも、不活性ガス投入量は少なく済む利点もある。
【0059】
なお、この加熱硬化工程では、加熱温度が高いほど、加熱時間はみじかくてよい。また、この加熱時には、熱風を当てることも望ましい。また、加熱時には、加熱温度を段階的に上昇させてもよいし、加熱温度を一定速度で上昇させてもよい。
【0060】
これによって、芯体34上には、管状体10が形成される(図3参照)。そして、管状体10を芯体34から分離することで、管状体10が製造される。
【0061】
形成された管状体10の厚みとしては、例えば、30μm以上150μm以下の範囲が挙げられる。
【0062】
本実施の形態における管状体の製造方法によって得られた管状体10は、複写機やプリンタ等の電子写真方式を用いた画像形成装置の中間転写ベルト、用紙搬送ベルト、定着ベルト等に好適に用いられる。
【0063】
なお、本実施の形態における管状体の製造方法によって製造された管状体10の体積抵抗率は、上述のように、JIS K6911に従って測定され、例えば、下記測定装置を用いて測定される。
詳細には、図4(A)及び図4(B)に示すように、体積抵抗率測定装置50は、円形電極52と、平板状の対向電極54と、を備えている。円形電極52は、円柱状電極部56と、該円柱状電極部56の外径より大きい内径を有し、且つ円柱状電極部56を一定の間隔をあけて囲む円筒状の円筒状電極部58と、を備えている。対向電極54は、測定対象の管状体10を介して円形電極52に向かい合うように配置される電極である。
【0064】
円形電極52としては、例えば、三菱アナリテック株式会社製ハイレスターUPのUR−100プローブ等が挙げられる。また、対向電極54としては、例えば、SUS304製の平板状の電極が挙げられる。また、電流の測定装置としては、例えば、R8340A デジタル超高抵抗/微小電流計(株式会社 アドバンテスト社製)が挙げられる。
【0065】
体積抵抗率の測定時には、円形電極52における円柱状電極部56と、対向電極54と、の間に管状体10を挟み、この円形電極52上に質量2.0kg±0.1kgの重りを載せて管状体10に一様な荷重がかかるようにする。そして、円形電極52に上記デジタル超高抵抗/微小電流計を電気的に接続し、測定条件を、チャージタイムを9sec、ディスチャージタイムを1sec、印加電圧を500Vとする。
【0066】
この時、測定対象の管状体10の体積抵抗率をρv、管状体10の厚さt(μm)、R8340A デジタル超高抵抗/微小電流計の読み値をR、円形電極52の体積抵抗率補正係数をRCF(V)とする。なお、円形電極52として、三菱アナリテック株式会社製ハイレスターUPのUR−100プローブを用いた場合には、ダイアインスツルメンツ社「抵抗率計シリーズ」カタログによれば、RCF(V)=19.635である。このため、管状体10の体積抵抗率は、下記式(1)により算出される。
式(1):ρv[Ω・cm]=R×RCF(V)×(10000/t)=R×19.635×(10000/t)となる。
【0067】
なお、体積抵抗率の測定時には、管状体10を幅方向に切り開いて平板状とし、この平板状とされた管状体10を円形電極52と対向電極54との間に挟み、両電極間に電圧を印加することで体積抵抗率を測定すればよい。
【0068】
なお、管状体10の体積抵抗率の測定は、JIS K6911に従って測定すればよいが、管状体10の体積抵抗率が高抵抗率(例えば、体積抵抗率が1×1011Ω・cm以上)となるほど、測定時に印加する電圧値を大きくする必要がある。しかし、この体積抵抗率の測定時に円形電極52と対向電極54との間に印加する電圧の電圧値が大きくなるほど、測定時の残留電荷によって対向電極54に管状体10が貼り付くという現象が発生しやすくなり、管状体10の体積抵抗率の測定結果が、実際の値に比べて大幅に大きくなるといった現象が生じる場合がある。
【0069】
これは、対向電極54と管状体10との間に空気が入り込むことで、管状体10における空気の入り込んだ領域の周囲が環状に対向電極54に貼り付き、円形電極52における円柱状電極部56の実行面積が該空気の入り込まない場合に比べて減少するためと考えられる。
なお、体積抵抗率の測定時には、円形電極52側に、電流値測定のための計測器を設ける。このため、円形電極52側には該計測器の接続端子が電気的に接続されるため、円形電極52側はグランド状態とされ、管状体10を介して対向電極54に向かって電圧が印加されることとなる。このため、管状体10の内部に蓄積された電荷によって、対向電極54側に、管状体10への貼り付きが発生すると考えられる。
【0070】
そこで、管状体10の体積抵抗率を測定する測定装置における対向電極54として、対向電極54における、体積抵抗率の測定時に円柱状電極部56に向かい合う領域に、対向電極54の厚み方向に貫通した貫通孔を設けた構成の対向電極(図5(A)及び図5(B)中、対向電極55参照)を用いることが望ましい。または、管状体10の体積抵抗率を測定する測定装置における対向電極54として、対向電極54の円柱状電極部56に向かい合う面に、体積抵抗率の測定時に円柱状電極部56に向かい合う領域内から該領域の外に向かって連通した溝部を有する構成の対向電極(図6(A)及び図6(B)中、対向電極59参照)を用いることが望ましい。
【0071】
対向電極54として、上述の構成の電極を用いることで、体積抵抗率の測定時に、対向電極54と管状体10との間に空気が入り込むことが抑制され、より正確に管状体10の体積抵抗率が測定されると考えられる。
【0072】
詳細には、図5(A)及び図5(B)に示す体積抵抗率測定装置51、または図6(A)及び図6(B)に示す体積抵抗率測定装置53を用いることが望ましい。
【0073】
図5に示す体積抵抗率測定装置51は、円形電極52と、平板状の対向電極55と、を備えている。円形電極52は、図4に示す体積抵抗率測定装置50と同様に、円柱状電極部56と、円筒状電極部58と、を備えている。対向電極55は、体積抵抗率の測定時に、測定対象の管状体10を介して円形電極52に向かい合うように配置される電極である。
対向電極55は、測定対象の管状体10を介して、円形電極52に向かい合うように配置されたときに、その向かい合う領域の面積が円柱状電極部56より大きい平板状とされている。そして、この対向電極55には、図5(A)及び図5(B)に示すように、対向電極55における、体積抵抗率の測定時に円柱状電極部56に向かい合う領域に、対向電極55の厚み方向に貫通した1または複数の貫通孔55Aが設けられている。
【0074】
この貫通孔55Aは、該対向電極55における、体積抵抗率の測定時に円柱状電極部56に向かい合う領域に少なくとも1つ設けられていればよく、複数設けられていてもよい。なお、対向電極55に、複数の貫通孔55Aが設けられている場合には、各貫通孔55A間の距離は、互いに同じであることが望ましい。
【0075】
この貫通孔55Aの各々の断面積は、対向電極55における、体積抵抗率の測定時に円柱状電極部56に向かいあう領域の面積の1/100以下の大きさとなるように調整されていることが望ましい。また、この対向電極55に複数の貫通孔55Aが設けられている場合には、対向電極55に設けられた貫通孔55Aの断面積の合計(総断面積)は、対向電極55における、体積抵抗率の測定時に円柱状電極部56に向かい合う領域の面積の1/20以下の大きさとなるように調整されることが望ましい。
また、この貫通孔55Aの数は、1個以上であればよいが、各々の貫通孔55Aの断面積、及び複数の貫通孔55Aの総断面積が上記条件を満たすように、調整すればよい。
【0076】
具体的には、この対向電極55としては、対向電極55における、体積抵抗率の測定時に円柱状電極部56に向かいあう領域内に、該円柱状電極部56の円中心に相当する位置に1個と、該円中心に相当する位置を中心とした半径10mmの円周上に60°間隔で6個と、の合計7個の貫通孔55A(内径0.5mm)を、設けた構成が挙げられる(図5(B)参照。
【0077】
一方、図6に示す体積抵抗率測定装置53は、円形電極52と、平板状の対向電極59と、を備えている。円形電極52は、図4に示す体積抵抗率測定装置50と同様に、円柱状電極部56と、円筒状電極部58と、を備えている。対向電極59は、体積抵抗率の測定時に、測定対象の管状体10を介して円形電極52に向かい合うように配置される電極である。
対向電極59は、測定対象の管状体10を介して、円形電極52に向かい合うように配置されたときに、その向かい合う領域の面積が円柱状電極部56より大きい平板状とされている。そして、この対向電極59には、図6(A)及び図6(B)に示すように、対向電極59における、体積抵抗率の測定時に円柱状電極部56に向かい合う面に、体積抵抗率の測定時に円柱状電極部56に向かい合う領域内から該領域の外に向かって連通した1または複数の溝部59Aが設けられている。なお、対向電極59に、複数の溝部59Aが設けられている場合には、各溝部59A間の距離は、互いに同じであることが望ましい。
【0078】
この溝部59Aの各々の幅方向の長さ(長尺方向に直交する方向の長さ)は、対向電極59における、体積抵抗率の測定時に円柱状電極部56に向かい合う領域内の溝部59Aの総面積が、体積抵抗率の測定時に円柱状電極部56に向かい合う領域の総面積の1/100以下の大きさとなるように、調整されていることが望ましい。
また、この溝部59Aの数は、体積抵抗率の測定時に円柱状電極部56に向かい合う領域内の溝部59Aの総面積が、体積抵抗率の測定時に円柱状電極部56に向かい合う領域の総面積の1/20以下の大きさとなるように、溝部59Aの幅方向の長さに応じて調整されていることが望ましい。
【0079】
具体的には、この対向電極59としては、対向電極59における、体積抵抗率の測定時に円柱状電極部56に向かいあう領域の外から該領域内を介して該領域の外へ向かって長い長尺状であって、0.2mm幅の溝部59Aを5mm間隔で5本設けた構成が挙げられる(図6(B)参照)。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。尚、実施例において、「部」は「質量部」を表す。
【0081】
(実施例1)
以下の工程を経ることによって管状体1を製造した。
まず、ポリイミド前駆体溶液として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとからなるポリイミド前駆体溶液(商品名:Uイミド、ユニチカ製、固形分濃度18%、溶剤はN−メチルピロリドン、25℃での粘度50Pa・s)を用意した。
そして、このポリイミド前駆体溶液に、酸基を有する導電剤として、カーボンブラック(商品名:スペシャルブラック4、デグザヒュルス社製、)を、固形分質量比で20%混合し、次いで対向衝突型分散機(株式会社ジーナス製、GeanusPY)により分散した。分散時には、冷却水の温度を調整することにより、溶液温度を50℃に維持し、衝突操作を5回繰り返して分散を行った。これにより、50℃での粘度が4Pa・s、25℃での粘度が20Pa・sの熱硬化性溶液を調整した。
【0082】
そして、塗布に用いる熱硬化性溶液として、この調整した熱硬化性溶液を、分散後から芯体34に塗布するまでの間(分散終了後から芯体に塗布されるまでの期間)、15℃で3日間保存したものと、15℃で20日間保存したものと、を用意した。
【0083】
別途、外径366mm、肉厚6mm、長さ900mmのSUS304製の円筒状部材を用意し、球形アルミナ粒子によるブラスト処理により、表面をRa0.4μmに粗面化した。また、この円筒状部材を保持する保持板として、厚さ8mm、外径が該円筒状部材の開口に嵌まる径であり、且つ100mm径の通風孔が4つ設けられた円板を同じSUS材で作製し、上記円筒状部材の開口部(幅方向両端面)に嵌めて溶接した。円筒状部材の表面には、シリコーン系離型剤(商品名:セパコート、信越化学製)を塗布して、300℃で1時間、焼き付け処理を施した。これによって、芯体34を調整した。
【0084】
次に、この調整した芯体34上に、上記図1に示す成膜装置40を用いて熱硬化性溶液の塗布を行った。なお、本実施例で調整した熱硬化性溶液は、図1に示す成膜装置の貯留部20内に入れて、温度維持装置32によって15℃に3日間保持した(保持工程)。
【0085】
なお、この成膜装置40は、本実施例で調整した熱硬化性溶液(図1中、熱硬化性溶液20A参照)の入った貯留部20に、ポンプ24を連結し、ノズル26から毎分20mlの吐出を行い、上記に調整した芯体34の一端部から40mmの位置から、他端部から40mmの位置まで行った(塗膜形成工程)。なお、上述のように、熱硬化性溶液20Aとしては、分散後から芯体34に塗布するまでの間(分散終了後から芯体に塗布されるまでの期間)は、この熱硬化性溶液を15℃で3日間保存した。ブレード29としては、厚さ0.2mmのステンレス板を幅20mm、長さ50mmに加工したものを用いた。
【0086】
そして、芯体34を回転方向Aに60rpmで回転させ、吐出された熱硬化性溶液20Aが芯体34に付着した後、その表面にブレード29を押し当て、芯体34の軸方向(図1中、矢印B参照)に210mm/分の速度で移動させた。これにより、塗膜10A表面のらせん筋は消失した。塗膜10Aの終端ではブレード29を50mm後退させて、芯体34表面に直に接触しないようにした。これにより膜厚が500μmの塗膜10Aが形成された(塗膜形成工程)。この厚さは、下記加熱硬化工程を経由した後の管状体10の膜厚80μmに相当する。その後、芯体34を10rpmで回転させながら170℃の乾燥装置に入れ、20分間で乾燥させた。これにより、残留溶剤量が40質量%となり、芯体34の回転をやめて縦にしても垂れることのない状態の塗膜10Aが得られた。その後、芯体34を回転台からおろして垂直(回転軸方向を垂直方向)にして加熱炉に入れ、200℃で30分、300℃で30分加熱反応させ、残る溶剤の乾燥とイミド化反応を同時に行った(加熱硬化工程)。室温に冷えた後、芯体34から加熱硬化した塗膜10A(管状体10)を抜き取った。さらに、この抜き取った、加熱硬化した塗膜10A(管状体10)の中央を切断し、さらに不要部分を両端から切断して、幅360mmの2本の管状体10を得た。管状体10の膜厚をダイヤルゲージで測定すると、80μmであった。
【0087】
同様にして、分散後から芯体34に塗布するまでの間(分散終了後から芯体に塗布されるまでの期間)を15℃で20日間保存した以外は、上記と条件及び同じ材料で、管状体10を調整した。
【0088】
(実施例2) 実施例1では、実施例1で調整した熱硬化性溶液20Aを、分散後から芯体34に塗布するまでの間(分散終了後から芯体に塗布されるまでの期間)、15℃で3日間保存したものと、15℃で20日間保存したものと、の2種類の管状体10を作製した。
本実施例では、分散後から芯体34に塗布するまでの間(分散終了後から芯体に塗布されるまでの期間)の熱硬化性溶液20Aの温度を、10℃にした以外は、実施例1と同じ条件及び同じ材料で、2種類の管状体10(10℃で3日間保持したものと、10℃で20日間保持したもの)を作製した。
【0089】
(実施例3) 実施例1では、実施例1で調整した熱硬化性溶液20Aの分散時の温度を50℃としたが、本実施例では、70℃とした以外は、実施例1と同じ条件及び同じ材料で、2種類の管状体10(15℃で3日間保持したものと、15℃で20日間保持したもの)を作製した。
【0090】
(実施例4)
実施例1では、ポリイミド前駆体溶液に、酸基を有する導電剤として、カーボンブラック(商品名:スペシャルブラック4)を、固形分質量比で20%混合し、次いで対向衝突型分散機(株式会社ジーナス製、GeanusPY)により分散したが、本実施例では、固形分質量比で30%とした以外は、実施例1と同じ条件及び同じ材料で、2種類の管状体10(15℃で3日間保持したものと、15℃で20日間保持したもの)を作製した。
【0091】
(実施例5)
実施例1では、ポリイミド前駆体溶液に、酸基を有する導電剤として、カーボンブラック(商品名:スペシャルブラック4)を、固形分質量比で20%混合し、次いで対向衝突型分散機(株式会社ジーナス製、GeanusPY)により分散したが、本実施例では、固形分質量比で18%とした以外は、実施例1と同じ条件及び同じ材料で、2種類の管状体10(15℃で3日間保持したものと、15℃で20日間保持したもの)を作製した。
【0092】
(比較例1)
実施例1では、実施例1で調整した熱硬化性溶液20Aを、分散後から芯体34に塗布するまでの間(分散終了後から芯体に塗布されるまでの期間)、15℃で3日間保存したものと、15℃で20日間保存したものと、の2種類の管状体10を作製した。
本比較例では、分散後から芯体34に塗布するまでの間(分散終了後から芯体に塗布されるまでの期間)の熱硬化性溶液20Aの温度を、20℃にした以外は、実施例1と同じ条件及び同じ材料で、2種類の管状体10(20℃で3日間保持したものと、20℃で20日間保持したもの)を作製した。
【0093】
(比較例2)
実施例1では、実施例1で調整した熱硬化性溶液20Aを、分散後から芯体34に塗布するまでの間(分散終了後から芯体に塗布されるまでの期間)、15℃で3日間保存したものと、15℃で20日間保存したものと、の2種類の管状体10を作製した。
本比較例では、分散後から芯体34に塗布するまでの間(分散終了後から芯体に塗布されるまでの期間)の熱硬化性溶液20Aの温度を、17℃にした以外は、実施例1と同じ条件及び同じ材料で、2種類の管状体10(17℃で3日間保持したものと、17℃で20日間保持したもの)を作製した。
【0094】
<熱硬化性溶液の保持時間の違いによる体積抵抗率の変動評価>
上記実施例及び比較例で調整した管状体について、熱硬化性溶液を3日間保存して作製した管状体の体積抵抗率と、熱硬化性溶液を20日間保存して作製した管状体の体積抵抗率と、の各々を下記測定方法にて測定し、測定結果を表1に示した。また、これらの体積抵抗率の常用対数値の差を求め、体積抵抗率の変動を評価した。評価結果を表1に示した。
なお、評価基準は、以下の通りとした。
【0095】
―体積抵抗率の変動評価―
G1:熱硬化性溶液を3日間保存したときと、20日間保存したときと、作製された管状体の体積抵抗率の常用対数値の差が0.1以下である場合。
G2:熱硬化性溶液を3日間保存したときと、20日間保存したときと、作製された管状体の体積抵抗率の常用対数値の差が0.1以上0.3以下である場合。
G3:熱硬化性溶液を3日間保存したときと、20日間保存したときと、作製された管状体の体積抵抗率の常用対数値の差が0.3以上である場合。
【0096】
なお、管状体の体積抵抗率は、下記測定方法にて測定した。
【0097】
(体積抵抗率の測定)
管状体の体積抵抗率の測定には、図5に示す体積抵抗率測定装置51を用いた。この体積抵抗率測定装置51は、上述したように、円形電極52として、二重リング電極構造のUR−100プローブ(三菱アナリテック社製)を用い、対向電極55としてステンレス(SUS304)製で5mm厚の板状部材(80mm×500mm)を用いた。なお、この対向電極55には、この対向電極55における、体積抵抗率の測定時に円形電極52と向かい合う領域の中央(円形電極52の円中心に相当する位置)に1個と、該円中心に相当する位置を中心とした半径10mmの円周上に、60°間隔で6個と、の合計7個の貫通孔55A(内径0.5mm)を設けた(図5参照)。このように、貫通孔55Aの設けられた対向電極55を用いることで、対向電極55と、測定対象の管状体10との間に空気が入り込むことが抑制され、より精度良く体積抵抗率が測定される。
【0098】
この体積抵抗率測定装置51による管状体10の体積抵抗率の測定は、JIS K6911(1995)に準拠して行った。詳細には、上記対向電極55上に、管状体10を幅方向に切り開いて板状にしたものを載せて、その上に更に、円形電極52の円柱状電極部56側が管状体10に接するように載せた。そして、この円形電極52上には、質量2.0kg±0.1kg(19.6N±1.0N)の錘を載せて、測定対象の管状体10に一様な荷重がかかるようにした。
【0099】
そして、円形電極52にデジタル超高抵抗/微小電流計(アドバンテスト社製,R8340A)を電気的に接続し、測定条件は、チャージタイムを30sec、ディスチャージタイムを1sec、印加電圧を500Vとした。
【0100】
この時、測定対象の管状体10の体積抵抗率をρv、管状体10の厚さt(μm)、R8340A デジタル超高抵抗/微小電流計の読み値をR、円形電極52の体積抵抗率補正係数をRCF(V)とする。なお、円形電極52として、三菱アナリテック株式会社製ハイレスターUPのUR−100プローブを用いた場合には、ダイアインスツルメンツ社「抵抗率計シリーズ」カタログによれば、RCF(V)=19.635である。このため、管状体10の体積抵抗率は、下記式(1)により算出される。
式(1):ρv[Ω・cm]=R×RCF(V)×(10000/t)=R×19.635×(10000/t)となる。
【0101】
上記測定方法に従って、各実施例及び比較例で作製した、熱硬化性溶液を3日間保持して作製した管状体と、20日間保持して作製した管状体と、の各々について、22℃55%RHの条件下において500Vの電圧を印加したときの体積抵抗率を測定し、その測定結果を表1に示すと共に、その体積抵抗率の常用対数値(logΩ/□)の差を表1に示した。
【0102】
【表1】

【0103】
表1に示されるように、実施例で作製した管状体は、比較例で作製した管状体に比べて、熱硬化性溶液の保持時間の違いによる体積抵抗率の変動が抑制されていた。
【符号の説明】
【0104】
20 貯留部、20A 熱硬化性溶液、28 保温部材、30 冷却装置、36 温度測定装置、32 温度維持装置、34 芯体、38 制御部、40 成膜装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸基を有する導電剤が分散された、ポリイミド前駆体溶液を含む熱硬化性溶液を、15℃以下に保持する保持工程と、
前記保持工程によって15℃以下に保持された前記熱硬化性溶液を、芯体の外側の面に塗布し、該熱硬化性溶液による塗膜を形成する塗膜形成工程と、
前記塗膜を加熱硬化させて管状体とする加熱硬化工程と、
を備えた管状体の製造方法。
【請求項2】
前記管状体の体積抵抗率が1×1011Ω・cm以上である請求項1に記載の管状体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−63692(P2012−63692A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209416(P2010−209416)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【特許番号】特許第4720953号(P4720953)
【特許公報発行日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】