説明

管状体及びその製造方法

【課題】強度及びボイド率を改善しうる管状体及びその製造方法の提供。
【解決手段】本発明の製造方法は、マンドレルに、繊維とマトリクス樹脂とを含む繊維強化樹脂部材を巻回して中間成形体を得る工程と、上記中間成形体に、張力を付与しつつラッピングテープを巻き付ける工程と、加熱により上記マトリクス樹脂を硬化させる硬化工程と、上記硬化工程の後に上記マンドレルの引き抜き及び上記ラッピングテープの除去を行って硬化管状体を得る工程とを含む。上記ラッピングテープの基体のベースポリマーは、ポリオレフィン系樹脂及び/又はポリエステル系樹脂である。上記硬化工程は、70℃以上90℃以下の温度で120分以上4320分以下の時間に亘って加熱する第一加熱ステップと、120℃以上200℃以下の温度で5分以上20分以下の時間に亘って加熱する第二加熱ステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂製の管状体の製造方法及びこの製造方法により製造された管状体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非力な高齢者や女性ゴルファーの増加に伴い、わずかな力でも飛距離を伸ばすことのできるゴルフクラブシャフト(以下、単にシャフトともいう)の開発が望まれている。中でもシャフトの軽量化は、この問題を解決する有効な手段の一つと考えられ、様々な取り組みがなされてきた。
【0003】
この取り組みとして、スチールからFRP(繊維強化プラスチック)への変更が挙げられる。FRP製の管状体を製造する方法として、シートワインディング法及びフィラメントワインディング法が知られている。シートワインディング法は、マンドレル(芯金)にプリプレグシートを巻き付け、更にラッピングテープを巻き付けて、熱硬化させる方法である。ラッピングテープの巻き付けは、加熱工程(硬化工程)においてプリプレグシートがマンドレルからズレ落ちることを防ぐ。また、加熱によりプリプレグシートのマトリクス樹脂の粘度が低下するが、ラッピングテープの巻き付けにより、成形体の変形が抑制される。
【0004】
硬化工程の条件に関して、特開2004−224979公報の段落[0032]には、80度以上150度以下の硬化温度と、1時間以上12時間以下の硬化時間とが開示されている。また、特開2004−224979公報の図3には、実施例における温度条件が記載されている。この特開2004−224979公報では、マトリクス樹脂として数種類の熱硬化型エポキシ樹脂が用いられており、ラッピングテープとして、ポリプロピレン製テープが用いられている。
【0005】
特開2006−124555公報には、繊維強化複合材料用のエポキシ樹脂組成物として、エポキシ樹脂、硬化剤及びフラーレン類を含む組成物が開示されている。この公報では、硬化工程の条件として、130℃で90分程度との開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−224979公報
【特許文献2】特開2006−124555公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
FRP製管状体の強度を決定する因子は様々である。この因子は、例えば、厚み、繊維量、繊維の方向、繊維自体の強度、樹脂の剛性、強化繊維と樹脂との密着性等である。管状体を軽量化する場合、これらの各因子を良好とするのが好ましい。
【0008】
また、ボイドの低減は、強化繊維と樹脂との密着性の向上に寄与しうる。ボイドの低減は、FRP製管状体の強度の向上に寄与する。
【0009】
ボイドを低減させる方法として、オートクレーブ法が挙げられる。典型的なオートクレーブ法では、ナイロンバック等によりプリプレグ積層体の全体を覆い、バック内を真空とし、このバックごとプリプレグ積層体をオートクレーブに入れて、樹脂を硬化させる。
【0010】
しかし、オートクレーブ法では、真空引き及び加熱が可能な装置が必要であり、この装置は高価である。また、オートクレーブ法では、手間及び時間が必要とされ、生産性が悪い。
【0011】
ボイドを低減させる他の方法として、ラッピングテープを巻き付ける際の張力(テンション)を高くすることが挙げられる。
【0012】
しかし、ラッピングテープの張力が高すぎる場合、積層にうねりや皺が生ずる可能性がある。このうねりや皺により、成形精度が低下する。成形精度は、強度に影響を与える。
【0013】
本発明の目的は、強度及びボイド率を改善しうる管状体の製造方法及び管状体の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の管状体の製造方法は、以下の工程を含む。
(1)マンドレルに、繊維とマトリクス樹脂とを含む繊維強化樹脂部材を巻回して中間成形体を得る工程。
(2)上記中間成形体の外周面に、張力を付与しつつラッピングテープを巻き付けるテープ巻き付け工程。
(3)上記ラッピングテープが巻き付けられた上記中間成形体を加熱することにより、上記マトリクス樹脂を硬化させる硬化工程。
(4)上記硬化工程の後に上記マンドレルの引き抜き及び上記ラッピングテープの除去を行って硬化管状体を得る工程。
【0015】
上記ラッピングテープの基体のベースポリマーは、ポリオレフィン系樹脂及び/又はポリエステル系樹脂である。上記硬化工程は、70℃以上90℃以下の温度で120分以上4320分以下の時間に亘って加熱する第一加熱ステップを含む。上記硬化工程は、上記第一加熱ステップの後になされ、120℃以上200℃以下の温度で5分以上20分以下の時間に亘って加熱する第二加熱ステップを含む。
【0016】
好ましくは、上記テープ巻き付け工程において上記ラッピングテープに付与される引張応力T1は、20(Mpa)以上200(Mpa)以下である。
【0017】
好ましくは、上記ラッピングテープの内面に、シリコーン系又はフッ素系のコーティング材が設けられる。
【0018】
好ましくは、上記中間成形体の繊維含有率S1は50質量%以上92質量%以下である。
【0019】
本発明の管状体は、上記いずれかの製造方法により製造される。より好ましい管状体は、ボイド率Rbが0.5%以下である。
【発明の効果】
【0020】
強度及びボイド率が改善された管状体が得られうる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の一実施形態で用いられうるマンドレル及びプリプレグを示す図である。
【図2】図2は、テープ巻き付け工程の一例を示す一部断面斜視図である。
【図3】図3は、ラッピングテープの一例の断面図である。
【図4】図4は、三点曲げ強度の測定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0023】
本実施形態の製造方法では、ラッピングテープが用いられる。ラッピングテープの基体のベースポリマーは、以下の3種のうちのいずれかである。
(1)ポリオレフィン系樹脂
(2)ポリエステル系樹脂
(3)ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂
【0024】
上記3種以外の材質の層と、上記3種の材質の層とが重ねられたラッピングテープであってもよい。また、上記3種の材質のラッピングテープと、上記3種以外の材質のラッピングテープとが併用されてもよい。
【0025】
図1は、本発明の第一実施形態に係る製造方法を説明するための図である。ここでは、管状体の製造方法の一例として、ゴルフクラブシャフトの製造方法が説明される。この製造方法では、先ず、マンドレル2と繊維強化樹脂部材4とが用意される。典型的なマンドレル2の材質は、鋼等の金属である。マンドレル2の中心軸線は、略直線である。マンドレル2の断面形状は、円形である。マンドレル2は、テーパーを有している。このテーパーは、マンドレル2の一端(先端)に近づくほど細い。マンドレル2は、部分的にパラレルであってもよい。換言すれば、マンドレル2は、部分的に直径が一定の部分を有していても良い。マンドレル2の全長に亘って直径が一定であってもよい。
【0026】
マンドレル2は、最終的に得られる管状体の中空部を形成する。マンドレル2の形状により、管状体の中空部の形状が決定される。後述されるように、マンドレル2は、後の工程において引き抜かれる。この引き抜きが容易となるように、好ましくは、マンドレル2の表面に離型剤が塗布される。
【0027】
本実施形態では、マンドレルに、繊維強化樹脂部材が巻回される工程がなされる。この工程が、以下において、巻回工程とも称される。
【0028】
巻回工程に先立ち、繊維強化樹脂部材が用意される。本実施形態では、繊維強化樹脂部材は、シート状である。繊維強化樹脂部材は、プリプレグ4である。この製造方法では、シート状の繊維強化樹脂部材が巻回される。この製造方法は、シートワインディング法とも称される。なお、繊維強化樹脂部材として、プリプレグ4の他、液状の樹脂に含浸させた繊維が例示される。この繊維を用いた製法の一例は、いわゆるフィラメントワインディング法である。本製造方法は、フィラメントワインディング法にも適用されうる。
【0029】
プリプレグ4は、繊維とマトリクス樹脂とを含む。この繊維は、炭素繊維である。プリプレグ4の炭素繊維は、一方向に配向している。このようなプリプレグは、UDプリプレグとも称される。「UD」とは、ユニディレクションの略である。なお、UDプリプレグでないプリプレグであってもよい。例えば炭素繊維が編まれているプリプレグであってもよい。後述されるように、炭素繊維以外の繊維でもよい。高強度で且つ軽量な管状体とする観点から、炭素繊維が好ましい。巻回工程において、マトリクス樹脂は、完全には硬化していない。よってプリプレグ4は柔軟性を有する。この柔軟性は、プリプレグ4のマンドレル2への巻回を許容する。なお、後述されるように、マトリクス樹脂は限定されず、好ましくはエポキシ樹脂である。
【0030】
このエポキシ樹脂の種類は限定されず、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂、可撓性エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂等が挙げられる。好ましいエポキシ樹脂の一例は、後述の実施例(表3)で示されている東レ製のプリプレグのいずれかに用いられているマトリクス樹脂である。
【0031】
巻回工程の前に、プリプレグ4は、所望の形状に切断される。図1の実施形態では、6枚のプリプレグ4が用いられる。図1の実施形態では、切断されたプリプレグ4の例として、シートs1からs6が示されている。プリプレグ4は、いわゆるアングル層用シートs1、s2と、ストレート層用シートs3、s5、s6と、フープ層用シートs4とを含む。プリプレグ4は、シャフトの全長に亘って設けられる全長シートs1からs5と、シャフト長手方向の一部に設けられる部分シートs6とを含む。なお、プリプレグ4の仕様は限定されない。プリプレグ4の形状、厚み、繊維種類、繊維含有率等は限定されない。
【0032】
巻回工程では、シートs1からシートs6までが、順次マンドレル2に巻回される。巻回に先立ち、シートs2は、シートs1に貼り合わせられる。この貼り合わされたシート群がマンドレル2に巻回される。この貼り合わせにおいて、シートs2は、裏返される。この裏返しにより、シートs1の繊維とシートs2の繊維とは、互いに逆方向に配向する。図1において各シートs1からs6に記載された角度は、シャフト軸方向と繊維の配向方向とのなす角度を示している。
【0033】
シートs1からs6の巻回は、例えば人力によりなされる。巻回機(ローリングマシンとも称される)が用いられても良い。巻回工程により、中間成形体6が得られる。中間成形体6は、巻き付けられたプリプレグ4により構成されている。中間成形体6の断面は、渦巻き状の層よりなる。この層は、プリプレグ4により形成されている。
【0034】
次に、テープ巻き付け工程がなされる。このテープ巻き付け工程では、中間成形体6の外周面にラッピングテープ8が巻き付けられる。図2及び図3は、テープ巻き付け工程の様子を示す一部断面斜視図である。図2及び図3の断面において、中間成形体6は、単一の層として簡略的に示されている。実際には、中間成形体6は、前述したように複数の層よりなる。
【0035】
上記ラッピングテープ8の基体のベースポリマーは、前述の通り、以下の3種のうちのいずれかである。
(1)ポリオレフィン系樹脂
(2)ポリエステル系樹脂
(3)ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂
【0036】
テープ巻き付け工程では、中間成形体6の外周面にラッピングテープ8が直接巻き付けられる。中間成形体6の外周面とラッピングテープ8とは当接する。ラッピングテープ8は中間成形体6の外周面に接触する。
【0037】
図2が示すように、テープ巻き付け工程において、ラッピングテープ8は、螺旋状に巻き付けられる。螺旋状に巻き付ける目的で、中間成形体6の軸線方向とラッピングテープ8の長手方向とは互いに垂直とされない。ラッピングテープ8は、中間成形体6に隙間無く巻き付けられる。隙間を無くす目的で、ラッピングテープ8の幅W1は、巻き付けピッチP1よりも広い。巻き付けピッチP1は、図2において両矢印で示されている。つまり、ラッピングテープ8は、その幅方向の一部が重ねられつつ螺旋状に巻き付けられている。このラッピングテープ8の巻き付けは、公知のラッピングマシンによりなされる。ラッピングテープ8は、中間成形体6の全長に亘って巻き付けられる。テープ巻き付け工程の結果、中間成形体6の全体がラッピングテープ8により覆われる。なお、ラッピングテープ8の両端(巻きはじめの端及び巻き終わりの端)は、粘着テープ等により中間成形体6に固定される。この両端の固定により、ラッピングテープ8の巻き付けが自然に解けることはない。
【0038】
ラッピングテープ8の巻き付けは、張力F1を付与しつつなされる。この張力F1により、中間成形体6は、ラッピングテープ8により締め付けられる。このテープ巻き付け工程により、中間成形体6がラッピングテープ8で覆われた被覆体が作られる。
【0039】
次に、硬化工程がなされる。この硬化工程では、上記被覆体が加熱される。この硬化工程では、ラッピングテープ8が巻き付けられた中間成形体6において、マトリクス樹脂の硬化が進行する。この硬化工程は、加熱工程である。加熱は、加熱炉によりなされる。
【0040】
硬化工程は、第一加熱ステップと、第二加熱ステップとを含む。好ましくは、硬化工程は、第一加熱ステップの温度に達するまでの第一昇温ステップ、第一加熱ステップ、第一加熱ステップの温度から第二加熱ステップの温度に達するまでの第二昇温ステップ及び第二加熱ステップを含む。第一加熱ステップの後に、第二加熱ステップがなされる。第一加熱ステップの温度は、第二加熱ステップの温度よりも低い。
【0041】
第一加熱ステップの温度は、70℃以上90℃以下とされる。第一加熱ステップの時間は、120分以上4320分以下とされる。第一加熱ステップの温度は、一定であってもよいし、変化していてもよい。硬化度合いのバラツキを抑制する観点から、好ましくは、第一加熱ステップの温度は、一定とされる。
【0042】
第二加熱ステップの温度は、120℃以上200℃以下とされる。第二加熱ステップの時間は、5分以上20分以下とされる。第二加熱ステップの温度は、一定であってもよいし、変化していてもよい。硬化度合いのバラツキを抑制する観点から、好ましくは、第二加熱ステップの温度は、一定とされる。
【0043】
プリプレグには、気泡が含まれている。この気泡は、プリプレグの製造段階において取り込まれたものである。この気泡は、完成されたシャフトにも残留しうる。この気泡は、シャフトの強度を低下させる。ボイド率が大きい場合、シャフトの強度は低い。
【0044】
大きな気泡は、小さな気泡と比較して、シャフトのひび割れの起点となりやすい。大きな気泡は、シャフトの強度を低下させる。
【0045】
前述のように、第一加熱ステップは、低温である。低温であるため、気泡の熱膨張が少ない。熱膨張が少ないため、気泡が大きくなりにくい。第一加熱ステップでは、気泡の熱膨張が抑制されつつ、マトリクス樹脂の硬化が進行する。第一加熱ステップでマトリクス樹脂の硬化が進行するため、第二加熱ステップに移行した段階では、気泡の熱膨張は起こりにくい。第一加熱ステップが長時間とされることにより、第一加熱ステップにおけるマトリクス樹脂の硬化はより一層進行する。第一加熱ステップによりマトリクス樹脂の硬化が進行している場合、第二加熱ステップにおける気泡の熱膨張は、更に起こりにくい。
【0046】
第一加熱ステップでは、マトリクス樹脂が加熱されるため、マトリクス樹脂は流動化しうる。特に、第一加熱ステップの初期段階では、マトリクス樹脂は流動化しうる。マトリクス樹脂の流動化により、気泡が、マトリクス樹脂中を移動しうる。この移動に伴い、気泡同士が合体しうる。気泡同士が合体した場合、より大きな気泡が生成されうる。上記の通り、大きな気泡は、シャフト強度を低下させる。しかし、本実施形態において、第一加熱ステップは低温である。この温度の低さに起因して、マトリクス樹脂の粘度は高い。この高い粘度に起因して、気泡は、第一加熱ステップにおいて、移動しにくい。第一加熱ステップにおいて、気泡同士は合体しにくい。低温の第一加熱ステップは、気泡同士の合体を抑制しうる。低温の第一加熱ステップは、気泡同士の合体による気泡の成長を抑制しうる。低温の第一加熱ステップは、大きな気泡の生成を抑制しうる。
【0047】
気泡の熱膨張を抑制する観点、及び、気泡同士の合体を抑制する観点から、第一加熱ステップの温度は、90℃以下が好ましく、85℃以下がより好ましく、80℃以下がより好ましい。
【0048】
第一加熱ステップにおける硬化を促進し、第二加熱ステップにおける気泡の熱膨張を抑制する観点から、第一加熱ステップの温度は、70℃以上が好ましい。
【0049】
第一加熱ステップにおける硬化を促進し、第二加熱ステップにおける気泡の熱膨張を抑制する観点から、第一加熱ステップの時間は、120分以上が好ましく、180分以上がより好ましい。
【0050】
シャフトの生産性の観点から、第一加熱ステップの時間は、4320分以下が好ましく、1440分以下がより好ましい。
【0051】
長時間の第一加熱ステップにより、マトリクス樹脂の硬化はかなり進行している。しかし、第一加熱ステップは低温であるため、マトリクス樹脂の硬化は完全ではない。このため第二加熱ステップが実施される。高温の第二加熱ステップにより、マトリクス樹脂が完全に硬化しうる。
【0052】
マトリクス樹脂の硬化を促進する観点から、第二加熱ステップの温度は、120℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましい。シャフトの製造に要するエネルギーのコストを削減する観点から、第二加熱ステップの温度は、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。
【0053】
マトリクス樹脂の硬化を促進する観点から、第二加熱ステップの時間は、5分以上が好ましく、10分以上がより好ましい。シャフトの生産性の観点から、第二加熱ステップの時間は、20分以下が好ましく、15分以下がより好ましい。
【0054】
硬化工程の温度は、加熱炉(オーブン)内の空気の温度を意味しうる。硬化工程の温度は、硬化工程におけるラッピングテープの表面温度を意味しうる。
【0055】
硬化工程の後、マンドレル2の引き抜き及びラッピングテープ8の除去を行い硬化管状体を得る工程がなされる。マンドレル2の引き抜き及びラッピングテープの除去は、どちらが先になされてもよい。作業性の観点から、好ましくは、マンドレル2が引き抜かれた後にラッピングテープが除去される。
【0056】
通常は、上記硬化管状体に仕上げ加工が施されて、最終製品の管状体が完成する。この仕上げ加工には、両端部の切断、表面研磨、塗装等が含まれうる。
【0057】
図3は、ラッピングテープ8の断面図である。ラッピングテープ8は、樹脂フィルムよりなる基体14と、コーティング剤16とを有する。コーティング剤16は層を形成している。ラッピングテープ8は、基体14とコーティング剤16との2層構造である。基体14の内面に、コーティング剤16が設けられている。コーティング剤16として、フッ素系化合物及びシリコーン系化合物が好ましい。なおラッピングテープ8は、基体14のみからなるものでもよい。
【0058】
前述したように、ラッピングテープ8は張力F1が付与されつつ巻き付けられる。ここで、上記テープ巻き付け工程においてラッピングテープ8に付与される引張応力T1が定義される。引張応力T1は、上記張力F1を、ラッピングテープ8の断面積Dsで割った値である。即ち、[T1=F1/Ds]である。この断面積Dsは、張力が作用していない(フリーな)状態のラッピングテープ8において測定される。この引張応力T1は、巻き付けられる直前においてラッピングテープ8に作用する引張応力を意味する。この引張応力T1は、巻き付けられた状態においてラッピングテープ8に作用する引張応力を意味しない。
【0059】
ラッピングテープ8の外側に排出される気泡の量を大きくする観点から、引張応力T1は20Mpa以上が好ましく、30Mpa以上がより好ましく、40Mpa以上がより好ましい。ラッピングテープ8が切れることを抑制する観点から、引張応力T1は200Mpa以下が好ましく、180Mpa以下がより好ましく、150Mpa以下が更に好ましい。
【0060】
中間成形体6の繊維含有率S1は限定されない。FRP管状体の剛性及び強度を高める観点から、繊維含有率S1は50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましい。繊維含有率S1が過度に大きい場合、プリプレグのタック性が減少する。換言すれば、繊維含有率S1が過度に高い場合、プリプレグ同士がくっつきにくくなり、皺等の巻き付け不良が生じやすい。巻き付け作業の生産性を高めると共に巻き付け不良を抑制する観点から、繊維含有率S1は92質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がより好ましく、75質量%以下がより好ましい。中間成形体6の繊維含有率S1は、繊維強化樹脂部材(プリプレグ4)の繊維含有率に等しい。繊維含有率S1は、繊維強化樹脂部材(プリプレグ4)の製品データに基づき決定されうる。
【0061】
ラッピングテープ8の基体14のベースポリマーは、以下の3種のうちのいずれかである。好ましくは、これら3種の樹脂は、フィルム状とされる。
(1)ポリオレフィン系樹脂
(2)ポリエステル系樹脂
(3)ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂
【0062】
上記(1)のポリオレフィン系樹脂として、ポリエチレン及びポリプロピレンが例示される。ポリエチレンとして、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)及び超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)が例示される。成形の容易性及びコストの観点から、ポリプロピレンが好ましい。
【0063】
ポリオレフィン系樹脂のポリマー分子は、共重合体であってもよい。重合前の原材料の総質量に対する原料オレフィンモノマーの質量比率R1が50質量%以上であれば、本願におけるポリオレフィン系樹脂である。この比率R1は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0064】
上記(2)のポリエステル系樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)及びポリブチレンナフタレート(PBN)が例示される。成形の容易性及びコストの観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
【0065】
ポリエステル系樹脂は、原料モノマー(エステル結合を形成する多価カルボン酸及びポリアルコール)以外のモノマーが共重合されていてもよい。重合前の原材料の総質量に対する上記原料モノマーの質量比率R2が50質量%以上であれば、本願におけるポリエステル系樹脂である。この比率R2は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0066】
上記(3)として、ポリオレフィン系樹脂とポリエステル系樹脂とがブレンドされた樹脂が例示される。この(3)の他の例として、上記ポリオレフィン系樹脂からなる層と、上記ポリエステル系樹脂からなる層とが重ねられたフィルムが例示される。
【0067】
好ましくは、ラッピングテープ8は、上記マトリクス樹脂の粘度が低下する温度範囲において収縮するのが好ましい。好ましくは、ラッピングテープ8は、上記第一加熱ステップの温度範囲において収縮するのが好ましい。この収縮により、締め付け力が向上し、ボイドの排出が促進されうる。この収縮の観点から、上記ポリオレフィン系樹脂からなる層と、上記ポリエステル系樹脂からなる層とが重ねられたフィルム(複合樹脂フィルム)が好ましい。
【0068】
これらの樹脂素材は、比較的引張強度が高い。これらの樹脂を用いることにより、引張応力T1を大きくすることができる。大きな引張応力T1は、ボイドの排出に寄与する。大きな引張応力T1は、ボイド率の低減に寄与する。
【0069】
ラッピングテープ8の基体は、無延伸フィルムでもよいし、一軸延伸フィルムでもよいし、二軸延伸フィルムでもよい。引張強度及びテープ長手方向への収縮性の観点から、一軸延伸フィルムが好ましく、この延伸方向は、テープの長手方向であるのが好ましい。
【0070】
ラッピングテープ8には、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂以外の樹脂が用いられても良い。例えば、ポリアミド系樹脂とともに用いられても良い。このようなラッピングテープ8として、ポリオレフィン系樹脂フィルム又はポリエステル系樹脂フィルムと、ポリアミド系樹脂からなる織物との複合材が例示される。この複合材として、後述される実施例で用いられている一体化テープが例示される。
【0071】
ラッピングテープ8の厚さd2は限定されない。張力F1により切断されることを抑制する観点から、ラッピングテープ8の厚さd2は10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上がより好ましく、25μm以上が更に好ましい。皺の発生を抑制するとともにコストを下げる観点から、ラッピングテープ8の厚さd2は、150μm以下が好ましく、120μm以下がより好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下が更に好ましい。
【0072】
ラッピングテープ8の幅W1は限定されない。ラッピングテープ8の幅方向の両縁は、中間成形体6に段差を生じさせる。即ち、硬化管状体には、ラッピングテープ8の巻き跡として、螺旋状の段差が生ずる。この段差を抑制する観点から、幅W1は10mm以上が好ましく、12mm以上がより好ましく、14mm以上が更に好ましい。巻き付け時の皺を抑制する観点から、幅W1は35mm以下が好ましく、30mm以下がより好ましく、25mm以下が更に好ましい。
【0073】
繊維強化樹脂部材の繊維は限定されない。この繊維として、無機繊維、有機繊維及び金属繊維が例示される。この無機繊維として、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維及びアルミナ繊維が例示される。この有機繊維として、ポリエチレン繊維及びポリアミド繊維が例示される。複数の繊維が組み合わされてもよい。ゴルフクラブシャフトに要求される剛性を確保しつつ軽量な管状体を得る観点から、繊維の引張弾性率は、5t/mm以上が好ましく、10t/mm以上がより好ましく、24t/mm以上が更に好ましい。繊維の入手可能性の観点から、繊維の引張弾性率は100t/mm以下が好ましい。この引張弾性率は、JIS R7601:1986「炭素繊維試験方法」に準拠して測定される。この引張弾性率は、プリプレグメーカーの製品データに記載されている。
【0074】
中間成形体6への圧力を高める観点から、平均ラッピング層数Laは、1層以上が好ましく、2層以上がより好ましく、3層以上がより好ましく、5層以上が更に好ましい。平均ラッピング層数Laが過度に多い場合、ラッピングテープ8のコスト増加及びラッピングテープ8を剥がす手間の増加が生じる。また平均ラッピング層数Laが過度に多い場合、中間成形体6の表面に皺が発生しやすい。これらの観点から、平均ラッピング層数Laは、15層以下が好ましく、12層以下がより好ましく、10層以下が更に好ましい。
【0075】
なお、平均ラッピング層数Laは、中間成形体6の表面上の各点におけるラッピング層数L1の平均値である。具体的には、平均ラッピング層数Laは以下の計算式(1)により決定されうる。
La=St/Sn ・・・(1)
ただし、式(1)において、Stは巻き付けられた状態におけるラッピングテープ8の内面の総面積(mm)であり、Snは巻き付けられたラッピングテープ8と接触する部分における中間成形体6の表面積(mm)である。この総面積Stは、巻かれているラッピングテープ8の長さNt(mm)とラッピングテープ8の幅Wa(mm)との積である。即ちSt=Nt×Waである。長さNtは、ラッピングテープ8の長手方向に沿って測定される。長さNtは、中間成形体6から解かれた状態において測定されるラッピングテープ8の長さNkと実質的に等しいか、又は、この長さNkよりも長い。Nt>Nkとなりうる場合は、張力によって引き延ばされた状態でラッピングテープ8が巻き付けられている場合である。幅Waは、中間成形体6から解かれた状態において測定されるラッピングテープ8の幅W1と実質的に等しいか、又は、この幅W1よりも狭い。W1>Waとなりうる場合は、張力によって引き延ばされた状態でラッピングテープ8が巻き付けられている場合である。平均ラッピング層数Laは整数とならない場合がある。
【0076】
例えば、比(P1/W1)が0.5であり、W1=Waであり、且つ巻き付け回数が1回である場合、平均ラッピング層数Laは、2である。この場合、巻き付けピッチP1の誤差を無視すれば、ラッピング層数L1は、全ての点において、2である。
【0077】
上記総面積St及び表面積Snは、管状体のチップ端位置Tp1から管状体のバット端位置Bt1までの範囲において測定される。前述したように、管状体製造の仕上げ工程においては、硬化管状体の両端部が切断されてもよい。この両端部の切断がなされた場合、管状体のチップ端位置Tp1と、硬化管状体のチップ端位置Tpとは相違する(図1参照)。前述した両端部の切断がなされない場合、管状体のチップ端位置Tp1と、硬化管状体のチップ端位置Tpとは一致する。同様に、前述した両端部の切断がなされた場合、管状体のバット端位置Bt1と、硬化管状体のバット端位置Btとは相違する。前述した両端部の切断がなされない場合、管状体のバット端位置Bt1と、硬化管状体のバット端位置Btとは一致する。
【0078】
中間成形体6への圧力を高める観点から、ラッピング層数L1は、チップ端位置Tp1からバット端位置Bt1までの全ての点において、1層以上が好ましく、2層以上がより好ましく、3層以上がより好ましく、5層以上が更に好ましい。ラッピング層数L1が過度に多い場合、ラッピングテープ8のコスト増加及びラッピングテープ8を剥がす手間の増加が生じうる。またラッピング層数L1が過度に多い場合、中間成形体6の表面に皺が発生しやすい。これらの観点から、ラッピング層数L1は、チップ端位置Tp1からバット端位置Bt1までの全ての点において、15層以下が好ましく、12層以下がより好ましく、10層以下が更に好ましい。
【0079】
平均ラッピング層数Laの値に関わらず、巻き付け回数が1回である場合、巻き付け部分の両端部には、ラッピング層数L1が1回である部分が存在する。例えば、平均ラッピング層数Laが2層以上とされた場合であっても、巻き付け回数が1回である限り、巻き付けの開始部分及び巻き付けの終了部分には、ラッピング層数L1が1回である部分が存在する。巻き付けの開始点に隣接し且つラッピング層数L1が1層である部分Xtは、他の部分に比べて締め付け力が小さい傾向にある。よって部分Xtには、比較的ボイド残る確率が高い。よって、部分Xtが切除されてなる管状体(シャフト)がより好ましい。同様に、巻き付けの終了点に隣接し且つラッピング層数L1が1回である部分Ytは、他の部分に比べて締め付け力が少ない傾向にある。よって、部分Ytが切除されてなる管状体(シャフト)がより好ましい。なお、ラッピング層数L1が2層以上である部分を軸方向両側に有する部分は、ラッピング層数L1が1層であったとしても、上記部分Xtには該当しない。同様に、ラッピング層数L1が2層以上である部分を軸方向両側に有する部分は、ラッピング層数L1が1層であったとしても、上記部分Ytには該当しない。上記軸方向とは、管状体の軸方向を意味する。
【0080】
なお、巻き付け工程とは、一方向にラッピングテープ8を巻き付ける巻き付け作業の回数である。上記一方向とは、チップ側からバット側へ向かう方向、又は、バット側からチップ側へ向かう方向である。上記一方向に1回、巻き付け作業がなされた場合、巻き付け回数が1回であると定義される。
【0081】
巻き付け工程において、チップ側とバット側との間でラッピングテープ8を往復させて巻き付けてもよい。例えば、ラッピングテープ8をバット側からチップ側に向かって螺旋状に巻き付け、引き続き、ラッピングテープ8をチップ側からバット側に向かって螺旋状に巻き付けてもよい。このような往復方式の巻き付けにより、巻き付け回数が増加されてもよい。なお本願では、このような往復方式の巻き付けにより一往復の巻き付けがなされた場合であっても、巻き付け回数は2回であると定義される。ラッピングテープ8が途中で切断されることなく一往復の巻き付けがなされた場合であっても、巻き付け回数は2回であると定義される。生産性の観点から、平均ラッピング層数Laを増加させる方法としては、比(P1/W1)が小さくされる方法が好ましい。この場合、巻き付け回数が1回であっても、平均ラッピング層数Laを増加させることができる。この観点から、比(P1/W1)は、0.5以下が好ましく、0.3以下がより好ましく、0.2以下が更に好ましい。生産性の観点から、比(P1/W1)は、0.04以上が好ましく、0.06以上がより好ましい。
【実施例】
【0082】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0083】
先ず、評価方法について説明する。
【0084】
[順式フレックスの測定]
硬化管状体のバット端Btから75mm隔てた位置の上側と、このバット端Btから215mm隔てた位置の下側とが支持点とされた。これらの二点が支持された状態で、硬化管状体の軸線方向が水平とされた。次に、バット端Btから1039mm隔てた荷重点Kに、2.7kgの錘りを掛けた。錘りにより硬化管状体が曲がり、上記荷重点Kが下方へと移動した。荷重点Kの鉛直方向における移動量が、順式フレックスFjとして下記の表1及び表2に示される。
【0085】
単位質量当たりのシャフト剛性が高いことは、軽量化に寄与しうる。この観点からは、順式フレックスFjを硬化管状体の質量Wtで割った値(Fj/Wt)は、小さいのが好ましい。
【0086】
[ラッピングテープ8の厚さ]
ラッピングテープ8の厚さd2は、JIS L 1096に準拠して、デジマチックマイクロメータを用いて測定された。240g/cmの一定圧力を付与させて10秒間経過した後、240g/cmの圧力のもとで測定がなされた。測定は5箇所で行われた。5箇所のデータの平均値が、「厚さd2」として下記の表に示される。
【0087】
[ボイド率Rb]
ボイド率Rbは、シャフト先端から90mm隔てた地点の断面の画像によりボイド面積Sb及びシャフト断面積Smを求め、下記式により算出した。
Rb(%)=(Sb/Sm)×100
【0088】
ゴルフクラブシャフトにおいては、先端部にヘッドが取り付けられるため、先端部における強度が特に重要である。ボイド率Rbは、シャフト強度との相関が高い。
【0089】
[三点曲げ強度]
SG式三点曲げ強度試験が採用された。これは、製品安全協会が定める試験である。図4は、SG式三点曲げ強度試験の測定方法を示す。図4が示すように、2つの支持点e1、e2においてシャフト20を下方から支持しつつ、荷重点e3において上方から下方に向かって荷重Fを加える。荷重点e3の位置は、支持点e1と支持点e2とを二等分する位置である。荷重点e3が、測定点である。測定点は、T点、A点、B点及びC点とされた。T点は、チップ端位置Tpから90mmの点である。A点は、チップ端位置Tpから175mmの点である。B点は、チップ端位置Tpから525mmの点である。C点は、バット端位置Btから175mmの点である。シャフト20が破損したときの荷重Fの値(ピーク値)が測定された。T点が測定される場合、上記スパンSは、150mmとされる。A点、B点及びC点が測定される場合、上記スパンSは、300mmとされる。
【0090】
T点における三点曲げ強度の測定結果が、下記の表に示される。
【0091】
[生産性]
以下の基準に従い、4段階で評価された。評価Aが、最も生産性が高く、良好である。評価Dは、最も生産性が低い。
A・・・硬化工程における加熱時間が4時間以内である。
B・・・硬化工程における加熱時間が4時間を超えて24時間以内である。
C・・・硬化工程における加熱時間が24時間を超えて72時間以内である。
D・・・硬化工程における加熱時間が72時間を超える。
【0092】
[実施例1]
図1で示すマンドレルに離型剤を塗布した後、このマンドレルに6枚のプリプレグを巻き付け、中間成形体を得た。これら6枚のプリプレグの構成は、図1で示された通りとされた。シートs1からs6のプリプレグ種類及びプリプレグ構成が、下記の表3で示されている。シートs1からs6は、いずれも東レ社製のプリプレグである。表3における「先端ply数」とは、チップ端Tpにおけるプリプレグの巻回数を示している。表3における「繊維角度」は、シャフト軸線方向に対する炭素繊維の配向角度である。各プリプレグにおいてマトリクス樹脂はエポキシ樹脂である。各プリプレグの品番及び炭素繊維の種類(品番)は表3に示す通りである。
【0093】
次に、上記中間成形体の外周面にラッピングテープを巻き付けるテープ巻き付け工程がなされた。テープ巻き付け工程は、横手鉄工所製のラッピング機によりなされた。テープ巻き付け工程は、一定の張力F1を付与しつつなされた。張力F1は、日本電産シンポ社製のロードセルにより測定された。この張力F1に基づき、引張応力T1が算出された。
【0094】
テープ巻き付け工程では、ラッピングテープ8が巻き付けられた。このラッピングテープ8として、ポリプロピレン(PP)フィルムテープが用いられた。このPPフィルムテープとして、信越フィルム社製のPT30Hが用いられた。このフィルムテープの片面には、シリコーン系のコーティング剤が設けられている。このコーティング剤層を内側にして、このPPフィルムテープが巻き付けられた。このPPフィルムテープの幅W1は25mmであり、厚さd2は30μmであった。引張応力T1は100Mpaとされた。巻き付けピッチP1は2mmとされた。巻き付け回数は、1回とされた。
【0095】
テープ巻き付け工程の後に、硬化工程がなされた。硬化工程では、第一加熱ステップの後に、第二加熱ステップがなされた。第一加熱ステップは、温度が80℃とされ、時間が120分とされた。第二加熱ステップでは、温度が130℃とされ、時間が15分とされた。
【0096】
次に、マンドレルが引き抜かれた。次に、ラッピングテープ8が除去され、実施例1に係る硬化管状体を得た。実施例1の仕様と評価結果が下記の表1に示される。
【0097】
[実施例2から6]
表1で示される仕様以外は実施例1と同様にして、各例の硬化管状体を得た。これらの仕様と評価結果とが下記の表1に示される。
【0098】
[実施例7]
表3で示されるプリプレグ構成のうち、シートs5が、品番「2256S−10」(東レ社製)に置換された。この置換により、繊維含有率S1を向上させた。このプリプレグ構成及び表1で示される仕様の他は実施例1と同様にして、実施例7の硬化管状体を得た。この仕様と評価結果とが下記の表1に示される。
【0099】
[実施例8]
ラッピングテープとして、PETフィルムテープが用いられた。このPETフィルムテープとして、信越フィルム社製の商品名「PET−25K」が用いられた。表1で示される仕様以外は実施例1と同様にして、実施例8の硬化管状体を得た。この仕様と評価結果とが下記の表1に示される。
【0100】
[実施例9]
ラッピングテープとして、一体化テープが用いられた。この一体化テープは、幅が15mmで且つ厚さが100μmである「ナイロンタフタ」と、幅15mmで且つ厚さが30μmのPPフィルムテープとが、加熱及び圧着により一体化されたテープである。この一体化テープの厚みは、115μmである。商品名「ナイロンタフタ」は、キンキテープ社が販売している。この「ナイロンタフタ」は、ナイロン繊維が平織りで織られたテープである。このナイロン繊維を構成するナイロンの種類は、ナイロン6である。表1で示される仕様以外は実施例1と同様にして、実施例9の硬化管状体を得た。この仕様と評価結果とが下記の表1に示される。
【0101】
[実施例10]
第一加熱ステップの温度が90℃とされた他は実施例1と同様にして、実施例10の硬化管状体を得た。この仕様と評価結果とが下記の表1に示される。
【0102】
[実施例11]
第一加熱ステップの温度が70℃とされた他は実施例1と同様にして、実施例11の硬化管状体を得た。この仕様と評価結果とが下記の表1に示される。
【0103】
[実施例12]
第二加熱ステップの温度が150℃とされた他は実施例1と同様にして、実施例12の硬化管状体を得た。この仕様と評価結果とが下記の表1に示される。
【0104】
[実施例13]
第二加熱ステップの時間が5分とされた他は実施例1と同様にして、実施例13の硬化管状体を得た。この仕様と評価結果とが下記の表1に示される。
【0105】
[実施例14]
ラッピングテープとして、上記ポリオレフィン系樹脂からなる層と、上記ポリエステル系樹脂からなる層とが重ねられたフィルム(複合樹脂フィルム)が用いられた。このフィルムは、実施例1で用いられたポリプロピレン(PP)フィルムテープと、実施例8で用いられたPETフィルムテープとが重ねられたテープである。ポリプロピレンフィルムテープが内側(PETフィルムテープが外側)とされて、巻き付けがなされた。その他は実施例1と同様にして、実施例14の硬化管状体を得た。この仕様と評価結果とが下記の表1に示される。
【0106】
[比較例1、2及び4]
表2に示される仕様以外は実施例1と同様にして、比較例1、2及び4の硬化管状体を得た。これらの仕様と評価結果とが下記の表2で示される。
【0107】
[比較例3]
プリプレグ構成が実施例7と同じとされた。また、ラッピングテープが、上記「ナイロンタフタ」とされた。このプリプレグ構成及び表2で示される仕様の他は実施例1と同様にして、比較例3に係る硬化管状体を得た。この仕様と評価結果とが下記の表1に示される。
【0108】
なお、比較例1、2及び比較例4から10では、実施例1と同じラッピングテープが用いられた。
【0109】
比較例2及び比較例3では、第一加熱ステップが実施されず、硬化工程が1段階のみとされた。
【0110】
[比較例5]
第一加熱ステップの時間が100分とされた他は実施例1と同様にして、比較例5の硬化管状体を得た。この仕様と評価結果とが下記の表2に示される。
【0111】
[比較例6]
第二加熱ステップの時間が3分とされた他は実施例1と同様にして、比較例6の硬化管状体を得た。この仕様と評価結果とが下記の表2に示される。
【0112】
[比較例7]
第二加熱ステップの時間が30分とされた他は実施例1と同様にして、比較例7の硬化管状体を得た。この仕様と評価結果とが下記の表2に示される。
【0113】
[比較例8]
第一加熱ステップの温度が60℃とされた他は実施例1と同様にして、比較例8の硬化管状体を得た。この仕様と評価結果とが下記の表2に示される。
【0114】
[比較例9]
第二加熱ステップの温度が210℃とされた他は実施例1と同様にして、比較例9の硬化管状体を得た。この仕様と評価結果とが下記の表1に示される。
【0115】
[比較例10]
第二加熱ステップの温度が100℃とされた他は実施例1と同様にして、比較例10の硬化管状体を得た。この仕様と評価結果とが下記の表1に示される。
【0116】
【表1】

【0117】
【表2】

【0118】
【表3】

【0119】
実施例1及び2は、比較的硬化時間が短いので、実施例5及び6と比べて三点曲げ強度が低い。しかし、実施例1及び2の三点曲げ強度は、比較例1よりも高い。
【0120】
実施例7は、繊維含有率S1が高く且つ軽量であり、他の実施例と比較して三点曲げ強度が低い。しかし、実施例7の三点曲げ強度は、比較例3よりも高い。
【0121】
実施例8では、ポリエチレンテレフタレートのラッピングテープが用いられている。このポリエチレンテレフタレートは、加熱時の収縮率が、ポリプロピレンに比較して大きい。このため実施例8では、引張応力T1が比較的小さいにもかかわらず、ボイド率が低い。
【0122】
実施例9の一体化テープは、加熱時の収縮率が、ポリプロピレンに比較して大きい。このため実施例9では、引張応力T1が比較的小さいにもかかわらず、ボイド率が低い。
【0123】
比較例1は、第一加熱ステップでの硬化時間が短いため、ボイド率が高い。比較例2及び3は、第一加熱ステップが実施されなかったため、ボイド率が高い。
【0124】
表の評価結果が示すように、実施例は、比較例に比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は、ゴルフクラブシャフトをはじめとして、あらゆるFRP管状体に適用されうる。
【符号の説明】
【0126】
2・・・マンドレル
4・・・プリプレグ(繊維強化樹脂部材)
6・・・中間成形体
8・・・ラッピングテープ
s1、s2、s3、s4、s5、s6・・・切断されたプリプレグシート
20・・・シャフト(管状体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンドレルに、繊維とマトリクス樹脂とを含む繊維強化樹脂部材を巻回して中間成形体を得る工程と、
上記中間成形体の外周面に、張力を付与しつつラッピングテープを巻き付けるテープ巻き付け工程と、
上記ラッピングテープが巻き付けられた上記中間成形体を加熱することにより、上記マトリクス樹脂を硬化させる硬化工程と、
上記硬化工程の後に上記マンドレルの引き抜き及び上記ラッピングテープの除去を行って硬化管状体を得る工程とを含み、
上記ラッピングテープの基体のベースポリマーが、ポリオレフィン系樹脂及び/又はポリエステル系樹脂であり、
上記硬化工程が、
70℃以上90℃以下の温度で120分以上4320分以下の時間に亘って加熱する第一加熱ステップと、
上記第一加熱ステップの後になされ、120℃以上200℃以下の温度で5分以上20分以下の時間に亘って加熱する第二加熱ステップとを含む管状体の製造方法。
【請求項2】
上記テープ巻き付け工程において上記ラッピングテープに付与される引張応力T1が20(Mpa)以上200(Mpa)以下である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記ラッピングテープの内面に、シリコーン系又はフッ素系のコーティング材が設けられている請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
上記中間成形体の繊維含有率S1が50質量%以上92質量%以下である請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載された製造方法により製造された管状体。
【請求項6】
ボイド率Rbが0.5%以下である請求項5に記載の管状体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−260344(P2010−260344A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56924(P2010−56924)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(504017809)SRIスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】