説明

管状器官の穿孔器

【課題】管状器官に接続管を吻合した後の穿孔作業に適した穿孔器を提供する。
【解決手段】大動脈等の管状器官に吻合されたバイパス血管等の接続管内に挿入可能な外筒3と、外筒3に対して軸線方向に移動可能な状態で外筒3内に挿入され、先端側には管壁の穿孔部としてのブレード23を有するカッタヘッド21が外筒3よりも前方に突出するようにして設けられた中空筒状のカッタ4と、カッタ4に対して軸線方向に移動可能な状態でカッタ4内に挿入され、先端側には管壁の切開部、及び切開部にて切開された管壁の保持部として機能する螺旋状のブレード32が、カッタ4に対する軸線方向の移動に伴ってカッタ4のブレード23の前方に突出できるようにして設けられた切開部材としてのスパイラ5と、外筒3に対して、カッタ4及びスパイラ5をそれぞれ独立して軸線方向に移動させる駆動機構6と、を穿孔器1に備え付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大動脈等の管状器官の管壁に開口部を形成するための穿孔器に関する。
【背景技術】
【0002】
大動脈等の管状器官の管壁を穿孔する器具として、先端に環状の刃が付された中空筒状のカッタと、そのカッタの内側に進退自在に挿入され、先端には拡大部が設けられたマンドレルとを有する穿孔器が知られている(例えば特許文献1及び2参照)。この種の穿孔器にて管壁を穿孔する場合には、まず穿孔対象の器官の管壁がメス等で小さく切開される。その後、穿孔器のマンドレルの先端拡大部がカッタの前方に突き出されつつ管壁の小切開部から器官内に挿入される。次いで、マンドレルの拡大部に向かってカッタが前進し、それにより管壁が穿孔される。穿孔に伴って発生する管壁の切片は、マンドレルの拡大部とカッタとの間に挟み込まれて器官外に取り出され、回収される。なお、カッタの内側に、マンドレルに代えて針やナイフを設け、それらの針やナイフで管壁を小さく穿孔又は切開し、続いてカッタで管壁を穿孔するように構成された穿孔器も提案されている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−100143号公報
【特許文献2】特開2008−212699号公報
【特許文献3】特表2004−531284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
大動脈にバイパス血管を吻合して血管バイパス路を形成する場合、出血を抑える目的で、バイパス血管を先に吻合し、その後にバイパス血管の内部で大動脈の管壁を穿孔することがある。しかしながら、従来の穿孔器はこうした用途には必ずしも適していない。例えば、特許文献1又は2の穿孔器のように、穿孔に先立って管壁の小切開を必要とするタイプの穿孔器では、吻合されたバイパス血管内にメス等を挿入して狭小な視野で管壁を切開する必要がある。そのため、作業に手間がかかるといった問題が生じる。特許文献3の穿孔器は、そもそも吻合前の比較的広い視野が確保された状況での穿孔作業を前提として構成され、バイパス血管内での穿孔作業には適用することが困難である。その理由の一つを挙げれば、特許文献3の穿孔器は、大径のハウジングの先端部からカッタを出没させる構成であり、ハウジングの外周にバイパス血管を被せてバイパス血管内でカッタを進退させることができない。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、管状器官に接続管を吻合した後の穿孔作業に適した管状器官の穿孔器を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の管状器官の穿孔器は、管状器官に吻合された接続管の内部にて前記管状器官の管壁を穿孔するためのものであって、前記接続管内に挿入可能な外筒と、前記外筒に対して軸線方向に移動可能な状態で前記外筒内に挿入され、先端には前記管壁の穿孔部が前記外筒よりも前方に突出するようにして設けられた中空筒状のカッタと、前記カッタに対して軸線方向に移動可能な状態で該カッタ内に挿入され、先端には、前記管壁の切開部、及び該切開部にて切開された管壁の保持部とが、前記カッタに対する軸線方向の移動に伴って前記穿孔部の前方に突出できるようにして、設けられた切開部材と、前記外筒に対して、前記カッタ及び前記切開部材をそれぞれ独立して軸線方向に移動させる駆動機構と、を備えている。
【0007】
本発明の穿孔器によれば、外筒を接続管内に挿入して接続管を外筒上に結紮等の手段によって保持し、その状態で、駆動機構にて切開部材を先行的に外筒の前方に移動させることにより、切開部で管壁を切開し、かつ切開された管壁を保持部で保持することができる。続いて、駆動機構によりカッタを前方に移動させることにより、その穿孔部で管壁を穿孔することができる。カッタによる穿孔時には、切開部材の保持部にて管壁が保持されているので、穿孔に伴って発生する管壁の切片は、管状器官内に落下することなくその保持部に残される。よって、穿孔後に接続管から外筒等を抜き取ることにより管壁の切片を回収することができる。このように、本発明の穿孔器では、接続管を外筒上に保持しつつ、その接続管の内部で、切開部材及びカッタを順次前方に移動させることによって管壁の切開及び穿孔を連続して実施し、穿孔後に外筒等を接続管から抜き取ることにより切片を回収することができる。外筒を接続管内に挿入してその外周上に接続管を保持することができるので、接続管内の作業スペースを確実に確保し、かつ切開に伴って漏れ出る管状器官内の流体、例えば出血を抑えることができる、といった有利な臨床上の作用効果が得られる。
【0008】
本発明の穿孔器において、前記カッタの先端側には、前記外筒と略同一径の筒状のカッタヘッドが前記外筒の前方に位置するようにして設けられ、前記穿孔部は前記カッタヘッドの先端に設けられてもよい。この場合には、外筒を延長したようにカッタヘッドが前方に延びているので、外筒及びカッタヘッドを連続した一つの筒状部分として接続管内に挿入することができる。そして、カッタヘッドを前方に移動させることにより、管壁を接続管の内径とほぼ同程度に穿孔することができる。
【0009】
本発明の穿孔器において、前記駆動機構は、前記切開部材を前記軸線の回りに回転させつつ前記軸線方向に移動させる切開部材駆動手段を含み、前記切開部材の先端には、前記外筒の軸線の回りに捩れ、かつ軸線方向のピッチが先端部から後端部に向かって徐々に減少する螺旋状のブレードが設けられ、該ブレードが前記管壁の切開部及び前記管壁の保持部として機能するものとしてもよい。この例では、螺旋状のブレードを管壁に押し付けてこれを切開し、さらにはブレードを回転させることにより、切開された管壁をブレード間の隙間に取り込むことができる。さらにブレードのピッチが後端側で密となるため、管壁をブレード間の隙間に挟み込み、確実に保持することができる。
【0010】
さらに、前記螺旋状のブレードの先端部がそれよりも後方の部分よりも前記軸線方向に沿うように曲げられてもよい。これにより、ブレードの先端部を管壁に対してより確実かつ容易に刺し込んでこれを切り開くことができる。
【0011】
本発明の穿孔器においては、前記管状器官の前記切開部材による切開箇所から流出する流体を前記切開部材の先端側から、前記接続管よりも後方でかつ外部から視認可能な位置まで導くインジケータ機構が設けられてもよい。これによれば、管状器官の切開箇所から切開部材の先端側に流出する血液等の流体を接続管外でかつ穿孔器の外部から視認可能な位置まで導くことにより、接続管内の不可視領域で行なわれる切開作業の進行状況を穿孔器の外部から確実かつ容易に確認することができる。
【0012】
前記インジケータ機構には、前記切開部材の外部から視認可能な位置に設けられ、少なくとも一部が透明な材料にて構成された観察部と、前記観察部と前記切開部材の先端側とを結ぶようにして前記切開部材の内部を貫く導管とを備え、前記導管は、前記保持部が前記管壁を保持する位置まで前記切開部材が前記軸線方向前方に移動したときに前記管壁を貫くように位置決めされた尖端部を有していてもよい。これによれば、切開部材の保持部が管壁を保持するまで切開が進んだ時点で導管の尖端部が管壁を貫き、それにより管状器官内の流体が導管に取り込まれて観察部まで導かれる。したがって、管壁が保持される位置まで切開部材が管壁に切り込まれたか否かをインジケータ機構により判断することができる。
【0013】
さらに、前記観察部は、前記導管のみを介して外部と通じているチャンバの少なくとも一部を形成するように設けられ、該チャンバの容積は、前記導管の尖端部が前記管壁を貫いたときに前記導管内に作用する前記管状器官内の圧力で該チャンバの空気が圧縮されて前記管状器官内の流体が前記観察部に達するように設定されてもよい。これによれば、導管の尖端部が管壁を貫いて管状器官内の圧力が導管に作用するまで切開が進行した段階で、チャンバ内の空気が圧縮されて管状器官の流体が観察部に達するようになる。したがって、管壁が保持される位置まで切開が進行したことを、インジケータ機構によりさらに確実に判断することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の穿孔器によれば、管状器官に吻合された接続管内に挿入可能な外筒を設け、その外筒に対して、カッタ及び切開部材を互いに独立して軸線方向に移動させるようにしたので、外筒上に接続管を保持しつつ、その接続管の内部の領域で、切開部材及びカッタを順次前方に移動させて管壁の切開及び穿孔を連続して実施し、穿孔後に外筒等を接続管から抜き取ることにより管壁の切片を回収することができる。したがって、管状器官に接続管が吻合された状態であっても、切開、穿孔及び切片の回収の一連の作業を手際よく行なうことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一形態に係る穿孔器の斜視図。
【図2】穿孔器の側面図。
【図3】穿孔器の軸線に沿った断面図。
【図4】穿孔器の先端部における断面図。
【図5】切開部材としてのスパイラの側面図。
【図6】スパイラの先端部を拡大して示す図。
【図7】スパイラの先端部を拡大して示す斜視図。
【図8】スパイラの先端部における断面図。
【図9】穿孔器の使用手順を示す図。
【図10】図9に続く手順を示す図。
【図11】図10に続く手順を示す図。
【図12】図11に続く手順を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の一形態に係る穿孔器を説明する。図示の穿孔器1は、管状器官として人体の大動脈を対象とし、その大動脈に接続管としてバイパス血管が吻合された後に、大動脈の血管壁を穿孔するためのものである。その穿孔器1は、本体2と、その本体2の前方に延ばされた外筒3と、外筒3の内部に挿入されるカッタ4と、カッタ4の内部に挿入される切開部材としてのスパイラ5と、本体2の内部に組み込まれた駆動機構6とを備えている。なお、本形態の説明において、特に断りのない限り、穿孔器1の使用者から遠い側を前方、近い側を後方と呼ぶ。また、各構成部品の前端を先端と呼ぶことがある。
【0017】
本体2は、互いに平行かつ同軸的に配置された3枚のディスク10、11、12と、それらの間に渡された上下2枚の連結プレート13、14とをねじ15にて相互に連結して組み立てられている。外筒3は、その後端部が本体2の前端(図1〜図3において左端)のディスク10に同軸的に固定されることにより、本体2と一体化されている。外筒3は外径及び肉厚が一定のパイプ材にて構成されている。外筒3の外径は大動脈に吻合されるべきバイパス血管の内部に挿入可能な大きさに設定される。一例として、外筒3の外径は10mm程度に設定される。バイパス血管への穿孔器1の挿入量(深さ)を把握するため、外筒3の外周には目盛3aが付されている。
【0018】
図3及び図4から明らかなように、カッタ4は、中空筒状のカッタ軸20と、そのカッタ軸20の先端部の外周に、カラー22を介して同軸的に固定されたカッタヘッド21とを備えている。カッタ軸20は、外筒3に対して軸線方向に移動自在な状態で外筒3の内部に挿入される。カッタ軸20は本体2の内部まで延ばされ、その後端は本体2の中間位置にあるディスク11の手前で終了する(図3参照)。カッタヘッド21は外筒3と同一の外径を有する中空筒状に形成されている。したがって、カッタヘッド21が外筒3の先端に突き当たるまでカッタ4を外筒3内に後退させたとき、カッタヘッド21の外周面は外筒3の外周面に対して段差なく連続する。言い換えれば、カッタヘッド21は外筒3を穿孔器1の前方に延長したように連続する。カッタヘッド21の先端には、血管壁に対する穿孔部として機能する円環状のブレード23が付されている。なお、図4に示したように、カッタ軸20とカッタヘッド21との結合部分には、カッタ4とスパイラ5との間の隙間への血液の流入を防止するシール24が設けられている。
【0019】
図4及び図5から明らかなように、スパイラ5は、スパイラ軸30と、そのスパイラ軸30の先端に同軸的に固定されたブレードホルダ31と、そのブレードホルダ31の先端に固定された螺旋状のブレード32とを備えている。図4及び図8から明らかなように、スパイラ軸30は中空筒状であり、カッタ軸20に対して軸線方向に移動自在な状態でカッタ軸20の内部に挿入される。図1〜図3に示したように、スパイラ軸30は本体2のディスク10〜13を貫き、その後端部は本体2の後方に突出する。ブレードホルダ31はスパイラ軸30よりも大径の中空円筒状に形成され、カッタヘッド21の内周に摺動自在に嵌め合わされる。
【0020】
図6〜図8にも示したように、ブレード32は、スパイラ軸30の軸線を中心として螺旋状に捩られた形状を有している。ブレード32の先端部32aは鋭利な刃先を提供すべく、先細りとなるように成形されるとともに、他の部分よりも軸線方向に沿うように曲げられている。ブレード32の捩り方向は、スパイラ5を先端側から見たときに先端部32aから後端部32bに向かって時計方向に捩れるように設定されている。ブレード32の軸線方向のピッチは、ブレード32の先端部32aから後端部32bに向かって徐々に減少するように設定されている。したがって、ブレード32の先端部32aを血管壁に突き刺した上で、穿孔器1の後端側から見てスパイラ5を時計方向に回転させつつこれをカッタ4の前方に突出させることにより、血管壁を比較的小さく切開することができる。これにより、ブレード32が切開部として機能する。切開された血管壁はブレード32の隙間に取り込まれ、スパイラ5の回転に伴ってブレード32の後端部32bへと徐々に移動する。ブレード32のピッチが後端部32bに向かうほど密になるため、血管壁はブレード32の後端部32bにおいてブレード32の隙間に挟み込まれる。したがって、血管壁の一部がカッタ4にて切り取られて切片が発生しても、その切片はブレード32上に保持される。それにより、ブレード32は管壁の保持部としても機能する。なお、図8から明らかなように、スパイラ軸30の先端内周には、スパイラ軸30内への血液の流入を阻止するためのプラグ33が取り付けられている。プラグ33は、一例としてゴム等の弾性体にて形成されている。
【0021】
図3に示したように、スパイラ5にはインジケータ機構7が組み込まれている。インジケータ機構7は、スパイラ5の軸線上に配置されたニードル35と、スパイラ5の外部から視認可能な位置、より具体的にはスパイラ5の後端に配置されたキャップ36とを備えている。ニードル35は導管に、キャップ36は観察部にそれぞれ相当する。ニードル35は、ブレードホルダ31の内部からプラグ33を貫通してキャップ36の内部まで延ばされている。ニードル35は全長に亘って中空状である。図4、図6及び図8から明らかなように、ニードル35は注射針のように斜めにカットされた鋭利な尖端部35aを備えている。また、ニードル35の尖端部35aは、ブレード32の先端部よりも軸線方向に沿って幾らか後方に位置している。具体的に説明すれば、ニードル35の尖端部35aの位置は、ブレード32が血管壁に切り込まれて血管壁がブレード32の後端部32bに達した時点、言い換えれば、ブレード32にて切開された血管壁がブレード32の後端部32bに挟み込まれた時点で血管壁に刺し込まれてこれを貫通するように調整されている。キャップ36は、穿孔器1の使用者がその内部を観察できるように透明な材料にて形成されている。ここでいう透明とは、内部が観察できる程度の透明度を有していれば足り、いわゆる半透明であっても含み得る。キャップ36は、スパイラ軸30の後端の開口部を閉じるようにしてスパイラ軸30の後端部に被せられている。キャップ36の内部空間は、スパイラ軸30のプラグ33よりも後方における内部空間と通じている。それにより、キャップ36の内部空間と、これに通じるスパイラ軸30のプラグ33よりも後方の内部空間とによって、空気を閉じ込め可能なチャンバ37が形成されている。チャンバ37は、ニードル35の内部のみを通路として外部と通じており、そのニードル35の内部通路以外に、チャンバ37に空気を導入し、又はチャンバ37から空気を排出する経路は存在しない。
【0022】
上記のインジケータ機構7においては、チャンバ37がニードル35の内部通路のみを介して外部に通じているので、ニードル35の尖端部35aからキャップ36まで血液を送り込むためには、ニードル35の内部に圧力を加えて、そのニードル35の内部及びチャンバ37に存在する空気を圧縮する必要がある。その圧縮に必要な圧力は、チャンバ37の容積を増減させることにより適宜に設定することが可能である。そこで、インジケータ機構7では、スパイラ5のブレード32が適切な位置、すなわち血管壁がブレード32の後端部32bに挟み込まれてニードル35の尖端部35aが血管内に刺し込まれ、それにより、患者の血圧がニードル35の尖端部35aからその内部に導かれたときに、血管からニードル35に取り込まれた血液がキャップ36まで達するように、チャンバ37の容積が設定される。
【0023】
スパイラ5のブレード32にて血管壁が先行して切開されている段階では、ニードル35の尖端部35aの周囲に血液が漏れ出ても、ニードル35の尖端部35aに作用する圧力は患者の血圧よりも相当に低いと推測される。したがって、そのような圧力では血液がキャップ36に達することはない。そして、ニードル35の尖端部35aが血管壁を貫通して患者の血圧がニードル35の内部に作用した段階で初めて血液がキャップ36に達する。それにより、ブレード32の後端部32bが血管壁を保持するまで切開が進行したことをキャップ36内への血液の流入を介して確認することが可能となる。なお、上述したチャンバ37の容積の調整は、例えば患者の血圧に応じてプラグ33の位置を前後に変化させることにより実現可能である。その他にも、キャップ36の容積が変更されてもよい。
【0024】
図1〜図3に示したように、駆動機構6は、カッタ駆動部40とスパイラ駆動部(切開部材駆動手段)50とを備えている。カッタ駆動部40は、カッタ軸20の後端部に取り付けられたカッタ駆動ダイアル41と、そのカッタ駆動ダイアル41よりも幾らか前方に取り付けられた雄ねじ部材42とを備えている。カッタ駆動ダイアル41及び雄ねじ部材42は、いずれもカッタ軸20に対して一体回転可能な状態でカッタ軸20に固定されている。雄ねじ部材42は、本体2のディスク10の内周に設けられた雌ねじ部10aと噛み合っている。したがって、カッタ駆動ダイアル41を本体2に対して回転操作すると、雄ねじ部材42が雌ねじ部10aに対して軸線方向に移動し、それに伴ってカッタ4も軸線の回りに回転しつつ外筒3及びスパイラ5に対して独立して軸線方向に進退する。なお、本体2の連結プレート13には、カッタ4の回転を止めるためのロックねじ43(図3では図示を省略した。)が取り付けられている。ロックねじ43をねじ込むと、その先端部がカッタ駆動ダイアル41に突き当てられ、それによりカッタ4の回転操作が不可能となる。
【0025】
スパイラ駆動部50は、スパイラ軸30上に取り付けられたスパイラ駆動ダイアル51と、そのスパイラ駆動ダイアル51よりも幾らか前方に取り付けられた雄ねじ部材52とを備えている(図5も参照)。スパイラ駆動ダイアル51及び雄ねじ部材52は、いずれもスパイラ軸30に対して一体回転可能な状態でスパイラ軸30に固定されている。雄ねじ部材52は、本体2のディスク11の内周に設けられた雌ねじ部11aと噛み合っている。したがって、スパイラ駆動ダイアル51を本体2に対して回転操作すると、雄ねじ部材52が雌ねじ部11aに対して軸線方向に移動し、それに伴ってスパイラ5も軸線の回りに回転しつつ外筒3及びカッタ4に対して独立して軸線方向に進退する。なお、雌ねじ部10a、11aの捩れ方向は、それらと嵌り合う雄ねじ部材42、52が本体2の後方から見て時計方向に回転したときに、それらの雄ねじ部材42、52が穿孔器1の前方に移動するように設定されている。
【0026】
カッタ4は、カッタ駆動ダイアル41がディスク10、11の間を移動する範囲内で進退可能であり、スパイラ5はスパイラ駆動ダイアル51がディスク11、12の間を移動する範囲内で進退可能である。カッタ4を最大限に後退させたときにカッタヘッド21が外筒3の先端に突き当たる。その状態でスパイラ5を最大限に後退させた場合、ブレード32は、少なくとも先端部32aがカッタ4よりも前方に突出した状態に置かれる。カッタ4が最大限に後退した状態でスパイラ5を最大限に前進させた場合には、ブレード32の全体がカッタ4よりも前方に十分に突出する。スパイラ5を最大限に前進させた状態でカッタ4を最大限に前進させると、カッタヘッド21がブレード32をほぼ覆う位置まで移動する。
【0027】
次に、図9〜図12を参照して穿孔器1の使用方法を説明する。図9に示したように、穿孔器1は、大動脈100にバイパス血管101が吻合された後に、バイパス血管101の内部にて血管壁100aを穿孔するために使用される。バイパス血管101は、例えばつば101aを先端に有し、そのつば101aを血管壁100aに吻合するタイプのつば付き人工血管であるが、これに限るものではない。例えば、つばがないタイプの人工血管がバイパス血管101として用いられてもよい。穿孔作業の手順は以下の通りである。
【0028】
まず、カッタ4、スパイラ5がいずれも移動範囲の後端にあることを確認し、さらにはロックねじ43によりカッタ駆動ダイアル41の回転がロックされていることを確認する。次に、図9に示したように、カッタヘッド21を先頭にして外筒3をバイパス血管101の内部に挿入する。この際、目盛3aを利用して外筒3の挿入量を適正値に設定することができる。続いて、バイパス血管101からの血液の流出を防止するため、外筒3上の適当な位置にてバイパス血管101を結紮糸102等を用いて縛る。その後、本体2を前方に押し込み、ブレード32の先端部32aを血管壁100aに突き刺す。このとき、カッタ4の先端が大動脈100の血管壁100aに接する程度まで本体2を押し込むことができる。
【0029】
次に、図10に示したように、スパイラ駆動ダイアル51に指を添えて、これを本体2の後方から見て時計方向に回転させる。その操作はダイアル51の回転が止まるまで続ける。これにより、ブレード32が徐々に血管壁100aに切り込まれ、切開された血管壁100aの一部がブレード32の後端部32bに挟み込まれて保持される。このとき、インジケータ機構7のキャップ36内に血液が流入しているか否かを確認する。血液が流入していればブレード32が適切な位置まで切り込まれたと判断することができる。ここでいう適切な位置とは、カッタ4によって切り取られる血管壁100aの切片をブレード32の後端部32bで保持して回収できる位置を意味する。
【0030】
続いて、図11に示すようにロックねじ43を緩めてカッタ駆動ダイアル41のロックを解除する。その後、カッタ駆動ダイアル41を本体2の後方から見て時計方向に回転させる。その操作はダイアル41の回転が止まるまで続ける。これにより、図11に想像線で示したように、カッタヘッド21が時計方向に回転しつつ外筒3の前方に突出して、ブレード23により血管壁100aが円形に切り取られる。切り取られた切片は、ブレード32の後端部32bに挟み込まれた状態で保持される。その後、バイパス血管101内に血液が流入していることを確認する。流入が確認できたならば、図12に示すように、外筒3がバイパス血管101から抜けない程度に本体2を後退させる。そして、カッタ4の先端と血管壁100aとの間の区間にて、鉗子103等によりバイパス血管101をクランプして止血する。
【0031】
クランプ終了後は、外筒3及びカッタヘッド21をバイパス血管101から抜き取る。このとき、カッタ駆動ダイアル41及びスパイラ駆動ダイアル51を操作しないよう留意する。穿孔器1を取り出したならば、カッタ駆動ダイアル41を反時計方向に回転させてカッタ4を元の位置(最後端の位置)に戻し、スパイラ5のブレード32をカッタヘッド21の先端から露出させる。ブレード32の後端部32bに切片が保持されていることを確認し、続いて、切片に欠損(カッタ4のブレード23によって切り抜かれるべき円形形状に対して欠けた部分)がないことを確認する。その後、ロックねじ43を締め付けてカッタ駆動ダイアル41をロックし、さらにはスパイラ駆動ダイアル51を反時計方向に回転させてスパイラ5も元の位置に戻す。
【0032】
以上に説明したように、本形態の穿孔器1によれば、大動脈100にバイパス血管101を吻合した後であっても、そのバイパス血管101に外筒3等を挿入してバイパス血管101を外筒3上に結紮、シールし、バイパス血管101の内部で、スパイラ5及びカッタ4を順次前方に移動させて管壁100aの切開及び穿孔を連続して実施し、穿孔後には外筒3等をバイパス血管101から抜き取ることにより管壁100aの切片を回収することができる。したがって、バイパス血管101の吻合後において、大動脈100の管壁100aの切開、穿孔及び切片の回収の一連の作業を手際よく行なうことが可能である。また、外筒3上にバイパス血管101を結紮した状態で作業を行なうことができるので、バイパス血管101の形状を保持して内部の作業スペースを確実に確保し、かつ作業中のバイパス血管101からの血液の流出を抑えることができる。
【0033】
本発明は上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することが可能である。例えば、外筒3の外径とカッタ4のカッタヘッド21の外径とは必ずしも一致しなくともよい。カッタヘッド21の外径、言い換えれば穿孔部としてのブレード23の外径は、血管壁100aに穿孔すべき孔の直径に応じて適宜に調整可能であり、外筒3の外径はバイパス血管101の内径に応じて適宜に変更可能である。本発明において、外筒の外径は、接続管に挿入されてその接続管を内側から保持できる程度であれば足り、カッタの先端部の外径は管壁に穿孔すべき孔の大きさに合致すれば足りる。ただし、外筒とカッタの穿孔部の外径とを一致させた場合には、吻合された接続管の内部にて、接続管の内径と同程度の孔を最も円滑に形成することができる。
【0034】
本発明において、切開部材はスパイラのように螺旋状のブレードを切開部及び保持部として機能させる例に限らない。例えば、切開部をナイフ状に構成し、その後方に管壁を内側から保持するような突起を設けてこれを保持部として機能させてもよい。インジケータ機構は、観察部を切開部材の後端に配置して先端側と観察部とをニードルで結ぶ例に限らない。例えば、観察部は、接続管外でかつ穿孔器の外部から視認可能な適宜の位置に配置されていれば足り、外筒の接続管で覆われない領域に観察用の抜き孔を設け、その抜き孔に合わせて観察部を配置することにより、外筒の途中で血液等の流入を確認できるようにしてもよい。切開部材それ自体を導管として利用してもよい。これらの場合でも、導管の尖端部を切開部材が適切な位置まで切り込まれたときに管状器官の管壁を貫くように位置決めし、かつ、観察部に関しては、導管を介してのみ外部に通じたチャンバの少なくとも一部を形成するように設け、穿孔すべき管状器官内の圧力が導管に取り込まれた段階で、管状器官内の流体が初めて観察部に達するようにチャンバの容積を設定すれば、上記形態のインジケータ機構7と同様の作用効果を奏することができる。管状器官の管壁が切開部材にて切開されたか否かを判別すれば足りる場合には、観察部に代えて、導管の後端部を穿孔器の外部に引き出し、その後端部に開閉可能な蓋部を設け、確認が必要なときに蓋部を開いて血液等の流出を確認できるようにしてもよい。さらに、インジケータ機構は、切開及び管壁の保持の確実性が高い場合、あるいは他の手段(例えば切開部材の切り込み量を計測する手段)が設けられている場合には省略されてもよい。
【0035】
上記の形態では、穿孔器1を大動脈100に吻合されたバイパス血管101の内部で穿孔するものとして説明したが、本発明の穿孔器はそのような用途に限定されず、各種の管状器官の穿孔に用いることができる。すなわち、管状器官は大動脈に限らず、接続管も管状器官に吻合されるものである限り、適宜の環状構造物がこれに該当する。さらに、管状器官及び接続管は人体の器官に限らず、動物の器官であってもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 穿孔器
3 外筒
4 カッタ
5 スパイラ(切開部材)
6 駆動機構
7 インジケータ機構
20 カッタ軸
21 カッタヘッド
23 カッタのブレード(穿孔部)
30 スパイラ軸
31 ブレードホルダ
32 螺旋状のブレード(切開部、保持部)
35 ニードル(導管)
35a ニードルの尖端部
36 キャップ(観察部)
37 チャンバ
40 カッタ駆動部
50 スパイラ駆動部(切開部材駆動手段)
100 大動脈(管状器官)
100a 血管壁
101 バイパス血管(接続管)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状器官に吻合された接続管の内部にて前記管状器官の管壁を穿孔するための管状器官の穿孔器であって、
前記接続管内に挿入可能な外筒と、
前記外筒に対して軸線方向に移動可能な状態で前記外筒内に挿入され、先端側には前記管壁の穿孔部が前記外筒よりも前方に突出するようにして設けられた中空筒状のカッタと、
前記カッタに対して軸線方向に移動可能な状態で該カッタ内に挿入され、先端側には、前記管壁の切開部、及び該切開部にて切開された管壁の保持部とが、前記カッタに対する軸線方向の移動に伴って前記穿孔部の前方に突出できるようにして、設けられた切開部材と、
前記外筒に対して、前記カッタ及び前記切開部材をそれぞれ独立して軸線方向に移動させる駆動機構と、
を備えた管状器官の穿孔器。
【請求項2】
前記カッタの先端側には、前記外筒と略同一径の筒状のカッタヘッドが前記外筒の前方に位置するようにして設けられ、前記穿孔部は前記カッタヘッドの先端に設けられている請求項1に記載の穿孔器。
【請求項3】
前記駆動機構は、前記切開部材を前記軸線の回りに回転させつつ前記軸線方向に移動させる切開部材駆動手段を含み、
前記切開部材の先端には、前記外筒の軸線の回りに捩れ、かつ軸線方向のピッチが先端部から後端部に向かって徐々に減少する螺旋状のブレードが設けられ、該ブレードが前記管壁の切開部及び前記管壁の保持部として機能する請求項1又は2に記載の穿孔器。
【請求項4】
前記螺旋状のブレードの先端部がそれよりも後方の部分よりも前記軸線方向に沿うように曲げられている請求項3に記載の穿孔器。
【請求項5】
前記管状器官の前記切開部材による切開箇所から流出する流体を前記切開部材の先端側から、前記接続管よりも後方でかつ外部から視認可能な位置まで導くインジケータ機構が設けられている請求項1〜4のいずれか一項に記載の穿孔器。
【請求項6】
前記インジケータ機構には、前記切開部材の外部から視認可能な位置に設けられ、少なくとも一部が透明な材料にて構成された観察部と、前記観察部と前記切開部材の先端側とを結ぶようにして前記切開部材の内部を貫く導管とを備え、前記導管は、前記保持部が前記管壁を保持する位置まで前記切開部材が前記軸線方向前方に移動したときに前記管壁を貫くように位置決めされた尖端部を有している請求項5に記載の穿孔器。
【請求項7】
前記観察部は、前記導管のみを介して外部と通じているチャンバの少なくとも一部を形成するように設けられ、該チャンバの容積は、前記導管の尖端部が前記管壁を貫いたときに前記導管内に作用する前記管状器官内の圧力で該チャンバの空気が圧縮されて前記管状器官内の流体が前記観察部に達するように設定されている請求項6に記載の穿孔器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−85664(P2013−85664A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228312(P2011−228312)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【出願人】(000200677)泉工医科工業株式会社 (56)
【Fターム(参考)】