説明

管状模擬人体パーツ

【課題】手術の教育訓練用として模擬度が高く、教育効果の高い管状模擬人体パーツを提供する。
【解決手段】外皮10をスチレン系エラストマー樹脂で管状に形成し、内皮20をスチレン系エラストマー樹脂で、外皮より外径が小さく、全長が外皮より長い管状に形成する。その際、内皮20の両端の一部を管状に形成し、残りの中央部分を蛇腹状に形成しておく。そのように形成した内皮20を軸方向に圧縮した状態で、蛇腹の凸部の先端が外皮10の内側面に密着するように、外皮10の内側に挿入し、内皮20の両端の管状部分の外側面を外皮10の両端部内側面に接着して固定する。これにより、外皮10や内皮20を切開したときに、内皮20が切開部分から外部に露出するようになるため、手術の教育訓練用模擬人体パーツとして模擬度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人又は動物の医療分野において、切開、切断又は縫合などの手術の教育訓練を行うための管状模擬人体パーツに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコーン等の樹脂を用いて、健常の模擬血管を形成し、その模擬血管の一部を台座に埋設し、台座を、模擬血管を外向きに引っ張る方向の力が働くように構成した手術訓練用血管モデルがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この手術訓練用血管モデルでは、台座に埋設した模擬血管が外側に引っ張られているので、模擬血管を血管の軸線方向に切開すると、実際の血管を切開したときのように、当該切開部分が血管の円周方向に拡がることになり、模擬度が高く、教育訓練効果が向上するものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−316343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実際の血管や腸管を医療用メスなどで切開した場合、切開した部分の表面から、粘膜などの内側層が外部に露出した状態になる。
ところが、上記従来の手術訓練用血管モデルは、一層のシリコ−ンで形成されているため、切開した場合に、血管の内側層が血管表面の外側に露出することが模擬できず、手術の教育訓練用として模擬度が低いものであった。
【0006】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたもので、手術の教育訓練用として模擬度が高く、教育効果の高い管状模擬人体パーツを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この欄においては、発明に対する理解を容易にするため、必要に応じて「発明を実施するための形態」欄において用いた符号を付すが、この符号によって請求の範囲を限定することを意味するものではない。
【0008】
上記「発明が解決しようとする課題」において述べた問題を解決するためになされた発明は、樹脂製外皮(10)と樹脂製の内皮(20、30)から構成される管状模擬人体パーツ(1)である。
【0009】
外皮(10)は、管状に形成されており、内皮(20,30)は、管状に形成され、撓み変形させた状態で外皮(10)の内部に挿入され、両端部外側面が外皮(10)の両端部内側面に固定されている。
【0010】
このような、管状模擬人体パーツ(1,2)は、例えば、腸管、血管或いは胃などの実際の管状人体パーツと大きさ、触感、質感或いは、切開した場合や縫合する場合の模擬度を高めることができる。以下、その理由を説明する。
【0011】
請求項1に記載の管状模擬人体パーツ(1)では、管状に形成された樹脂製の外皮(10)の内側に管状に形成された内皮(20,30)が、撓み変形された状態で挿入される。
【0012】
つまり、内皮(20,30)が撓み変形された状態で外皮(10)内に挿入されているため、内皮(20,30)の外側面の少なくとも1部は、外皮(10)の内側面に密着する。
【0013】
よって、医療用メスなどで、外皮(10)を切開すると、内皮は、撓みによる弾性力により、外皮(10)の切開部分から外部に露出するようになる。この状態は、例えば、腸管や血管或いは胃などの実際の管状人体パーツを切開した場合の状態に酷似しており、管状模擬人体パーツ(1)としての模擬度が高い。
【0014】
また、内皮(20,30)まで切開された場合でも、同様に、内皮(20,30)の切開された部分が外皮(10)外部に露出するため、切開箇所を縫合糸で縫合する場合の実際の管状人体パーツに酷似しており、縫合時の模擬度も高い。
【0015】
つまり、請求項1に記載の管状模擬人体パーツ(1)は、手術の教育訓練用として適しており、それを用いることにより、切開や縫合などの出術の教育訓練の効果を高めることができる。
【0016】
ところで、実際の管状人体パーツは、内皮(20)が単純な円筒管状ではなく、ひだ状になっている場合がある。例えば、腸管の場合には、外皮(10)は、漿膜と筋層であり、円筒管状に近いものであるが、内皮(10)は、粘膜であるため、ひだ状になっている。
【0017】
そこで、請求項2に記載のように、内皮(20)を、蛇腹状に形成された蛇腹部(22)と、蛇腹部(22)の両端に形成され、外側面を外皮(10)の内側面に固定するための管状の外皮固定部(24)と、を備えるようにするとよい。
【0018】
このようにすると、内皮(20)の蛇腹部(22)が蛇腹状に形成されているため、撓み変形として、内皮(20)が軸方向に圧縮された状態で外皮(10)内側に固定される。このとき、蛇腹部(22)の凸部の先端部分が外皮(10)の内側面に接した状態になる。
【0019】
したがって、外皮(10)や内皮(20)を切開したときに、いずれの部分を切開しても、内皮(20)が外部に露出するようになり、より実際に近い状態となるため、模擬度が向上する。
【0020】
また、請求項3に記載のように、内皮(30)を、螺旋状の凸部を有する螺旋部(32)と、螺旋部(32)の両端に形成され、外側面を外皮の内側面に固定するための管状の外皮固定部(24)と、を備えるようにしてもよい。
【0021】
このようにしても、管状模擬人体パーツ(2)の触感及び質感の模擬度を高くすることができる。
また、請求項4に記載のように、外皮(10)及び内皮(20,30)を樹脂の中でも、スチレン系エラストマー樹脂にするとよい。スチレン系エラストマーは、他の樹脂、例えば、シリコーンのような熱硬化性樹脂にくらべ、柔らかい。したがって、実際の腸管に触感及び質感が酷似しているため、より模擬度を向上させることができる。
【0022】
特に、内皮(20)の外側面、特に、内皮(10)の蛇腹部(22)や螺旋部(32)の凸部の先端が、外皮(10)の内側面に密着するようになるため、外皮(10)や内皮(20)を切開すると、外皮(10)に内皮(20)が密着した状態で外部に露出するようになる。したがって、切開時や縫合時の模擬度が非常に向上する。
【0023】
また、外皮(10)と内皮(20,30)の両端部分のみを固定しているので、外皮(10)と内皮(20,30)の間には空間ができる。そこで、請求項5に記載のように、内皮(20、30)の外側面と外皮(10)の内側部分で形成される空間部分を液体で満たすとよい。
【0024】
このようにすると、管状模擬人体パーツ(1,2)を切開したときに、腸管内部から外部に液体が流れ出すことになるため、例えば、その液体を血液と同じ色にすることにより、手術の教育訓練用の管状模擬人体パーツ(1,2)としての模擬度をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】模擬腸管の外皮と内皮の概略の構造を示すための断面図である。
【図2】第1実施形態における蛇腹状の内皮を備えた模擬腸管の概略の構造を示すための断面図である。
【図3】模擬腸管を医療用メスで切開した状態を示す図である。
【図4】第2実施形態における螺旋状の凸部を有する内皮の概略の構造を示すための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明が適用された実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0027】
なお、以下の実施形態では、説明を分かりやすくするため、管状模擬人体パーツとして、模擬腸管を用いて説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明が適用された模擬腸管1の概略の構造を示すための断面図である。図1に示すように、模擬腸管1は、外皮10及び内皮20を備えている。
【0028】
外皮10は、実際の腸管の漿膜と筋層とを模擬したものであり、スチレン系エラストマー樹脂を、図1(a)に示すように、内径25.4[mm]、外径26.5[mm]、長さ100[mm]の管状に形成し、そのうち両端部に10[mm]の内皮固定部12を設けたものである。
【0029】
内皮20は、実際の腸管の内側面の粘膜を模擬したものであり、スチレン系エラストマー樹脂を、図1(b)に示すように、蛇腹状の管状に形成したものであり、蛇腹部22と外皮固定部24とを備えている。
【0030】
蛇腹部22は、図1(b)に示すように、外径23[mm]、内径20[mm]、管状のスチレン系エラストマーを、軸方向に、凹凸部の先端の間隔が5[mm]となるように蛇腹状に形成し、軸方向の長さを80[mm]にしたものである。
【0031】
外皮固定部24は、図1(b)に示すように、蛇腹部22の両端に形成された管状の部分であり、軸方向の長さがそれぞれ17.5[mm]の管状になるように形成したものである。
【0032】
このように、蛇腹部22と外皮固定部24とで形成された内皮20は、軸方向の長さが外皮10の長さより長い、115「mm]となっている。
模擬腸管1は、図2に示すように、内皮20を軸方向に圧縮させた状態で、蛇腹部22の凸部の外側面先端部分が外皮10の内側面に密着するように、外皮10の内部に挿入してある。
【0033】
このとき、まず、内皮20の一方の外皮固定部24の外側面と外皮10の一方の内皮固定部12の内側面に全周に亘って、シアノアクリノール系の接着剤を塗布し、両固定部24、12を接着して固定する。
【0034】
そして、固定していない他端側から、外皮10と内皮20とで形成される空間に、液体を注入した後、他端側の外皮固定部24と内皮固定部12とを、シアノアクリノール系の接着剤で接着して固定する。このようにして、外皮10と内皮20の間を液体で満たすことができる。
【0035】
なお、この液体は、血液やリンパ液を模擬するための液体であり、血液やリンパ液の色に着色した油脂や生理的食塩水などである。
(模擬腸管1の特徴)
以上に説明した模擬長官の特徴を図3に基づいて説明する。図3は、模擬腸管1を医療用メスで切開した状態を示す図である。
【0036】
模擬腸管1では、内皮20の蛇腹部22が圧縮された状態で外皮10内に挿入されているため、医療用メスなどで、外皮10を、例えば模擬腸管の軸線方向に切開すると、内皮20の弾性力によって、図3に示すように、内皮20が外皮10の切開部分から外部に露出するようになる。
【0037】
この状態は、実際の腸管を切開した場合の状態に酷似しており、模擬腸管1としての模擬度が高い。
また、内皮20まで切開された場合でも、同様に内皮20が外皮10外部に露出するため、切開箇所を縫合糸で縫合する場合の実際の腸管に酷似しており、縫合時の模擬腸管1としても模擬度が高い。
【0038】
つまり、手術の教育訓練用の模擬腸管1として適しており、それを用いることにより、切開や縫合などの出術の教育訓練の効果を高めることができる。
また、外皮10及び内皮20が共にスチレン系エラストマー樹脂で形成されているが、スチレン系エラストマーは、他の樹脂、例えば、シリコーンのような熱硬化性樹脂に比べ、柔らかいため、外皮10と内皮20を切開した場合に、内皮20が外皮10の切開面に内皮20の切開面が密着したまま、内皮20の一部が切開部分から外部にはみ出すようにして露出するようになり、実際の腸管に触感及び質感が酷似している。したがって、より模擬度を向上させることができる。
【0039】
なお、シリコーン樹脂とスチレン系エラストマー樹脂の硬さを比較すると、シリコーン樹脂の硬さは、JIS−A20°〜70°で実際の管状臓器の触感よりも硬い。これに対し、スチレン系エラストマー樹脂の硬さは、JIS−E5°〜50°であり、実際の管状臓器の触感に近い。
[第2実施形態]
次に、第1実施形態の模擬腸管1において、内皮を螺旋状の凸部を有する形状にした第2実施形態の模擬腸管2について、図4に基づいて説明する。図4は、第2実施形態における螺旋状の凸部を有する内皮の概略の構造を示すための断面図である。
【0040】
模擬腸管2は、第1実施形態における模擬腸管1と内皮以外は同じ構成であるため、同じ構成品には同じ符号を付して、その説明を省略する。
模擬腸管2の内皮30は、図4に示すように、管状に形成され、第2実施形態の蛇腹部22の部分が、螺旋状の凸部を有する螺旋部32となっている。
【0041】
このように蛇腹部22の代わりに、螺旋部32としても、管状模擬人体パーツの触感及び質感の模擬度を高くすることができる。
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
(1)上記実施形態では、管状模擬人体パーツとして、模擬腸管1としたが、模擬腸管1と同様に外皮10と内皮20の二重構造を有する管状模擬人体パーツ、例えば、血管、胃などであってもよい。
【0042】
なお、実際の腸や胃は、漿膜、筋層及び粘膜の3つの層を有しているが、模擬人体パーツとしては、漿膜と筋層を1つの層として模擬できるものである。また、血管の場合は、外膜、中膜及び内膜の3つの膜を有しているが、外膜と中膜を1つの層として模擬できるものである。
【0043】
なお、胃は、人や動物が食べた物が内部に入っていない状態(いわゆる空腹時)には、ほぼ管状をしているため、手術の教育訓練用としては、管状模擬人体パーツとみなすことができる。
(2)上記実施形態では、外皮10、内皮20共に樹脂材としてスチレン系エラストマーを用いたが、どちらか一方或いは両方に他の樹脂を用いてもよい。
(3)上記実施形態では、外皮10、内皮20共に樹脂材として同じ粘度や硬さのスチレン系エラストマーを用いたが、模擬度を高めるため、外皮10の硬さを内皮20の硬さより高めたり、内皮20の粘度を外皮10の粘度より高めたりするなど、外皮10と内皮20の粘度や硬さに差を持たせてもよい。
(4)上記第1実施形態では、内皮20の一部を蛇腹状に形成し、また、第2実施形態では、内皮20の一部を螺旋状に形成したが、他の形状、例えば、ひだをランダムな位置に配置したような形状や、うねりのある形状であってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1,2…模擬腸管、10…外皮、12…内皮固定部、20,30…内皮、22…蛇腹部、24…外皮固定部、32…螺旋部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状に形成された樹脂製の外皮と、
管状に形成され、撓み変形させた状態で前記外皮の内部に挿入され、両端部外側面が前記外皮の両端部内側面に固定されている内皮と、
を備えたことを特徴とする管状模擬人体パーツ。
【請求項2】
請求項1に記載の管状模擬人体パーツにおいて、
前記内皮は、
蛇腹状に形成された蛇腹部と、
前記蛇腹部の両端に形成され、外側面を前記外皮の内側面に固定するための管状の外皮固定部と、
を備えていることを特徴とする管状模擬人体パーツ。
【請求項3】
請求項1に記載の管状模擬人体パーツにおいて、
前記内皮は、
螺旋状の凸部を有する螺旋部と、
前記螺旋部の両端に形成され、外側面を前記外皮の内側面に固定するための管状の外皮固定部と、
を備えていることを特徴とする管状模擬人体パーツ。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の管状模擬人体パーツにおいて、
前記外皮及び前記内皮は、スチレン系エラストマー樹脂であることを特徴とする管状模擬人体パーツ。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の管状模擬人体パーツにおいて、
前記内皮の外側面と前記外皮の内側部分で形成される空間部分を液体で満たしたことを特徴とする管状模擬人体パーツ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−237851(P2012−237851A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106261(P2011−106261)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(598144719)株式会社 タナック (1)
【Fターム(参考)】