説明

管理装置

【課題】時間とともに劣化する物体の保守または管理を容易にする技術を提供する。
【解決手段】時間とともに品質が変化する物体を管理するための管理装置は、前記物質の品質変化の速度を変化させる環境変数を測定する測定手段と、前記測定手段により測定された前記環境変数と、実際に経過した時間である実経過時間とに基づいて、実効的な品質変化の進行の度合いを反映した時間である実効的経過時間を算出する算出手段と、前記算出手段により算出された前記実効的経過時間を出力する出力手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時間とともに品質が変化する物体を保守または管理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
時間とともに品質が変化する物体(食品や蓄電池、薬品など)は、保管時や使用時の温度環境により、当初期待されている寿命より早期に劣化する場合がある。このため、食品や薬品などの管理においては、事業者は、輸送中の温度管理が不確実な場合や停電や空調機器の故障などによる想定外の温度変化により、食品等の品質が著しく劣化するリスクを負い、寿命管理が重要となる。また、電力設備のバックアップ用蓄電池の場合には、商用電力が途絶えた場合の電力源であるために寿命管理の重要性はいうまでもない。
【0003】
電力設備用の蓄電池の寿命管理のため、非特許文献1に記載の蓄電池管理システムは、複数の蓄電池のそれぞれに取り付けたセンサと監視センタとを有し、これらのセンサから取得した蓄電池の内部抵抗や電圧等の計測値に基づいて監視センタが蓄電池の品質変化の状態を監視する。
【非特許文献1】(FBテクニカルニューズ、No.58号、pp.44、2002年11月)、[検索日 時2008年3月20日]、インターネット<URL:http://www.furukawadenchi.co. jp/research/tech/pdf/fbtn58_209.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載の蓄電池管理システムは、測定用のセンサに加え、別途品質変化の解析用の高性能の情報処理装置を要し、おおがかりなシステムとなってしまう。
【0005】
また、食品や薬品の品質変化の度合いを判定する場合においても、複雑な計測や特殊な装置による測定を行う必要があり、判定法には被測定対象の個体ごとに詳細な測定データを要するものが多い。
【0006】
この結果、事業者は蓄電池等の時間とともに品質が変化する物体の品質変化の度合いを容易に確認できず、被測定物の管理が困難であるという問題があった。
【0007】
本発明は、時間とともに品質が変化する物体の保守または管理を容易にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の管理装置は、時間とともに品質が変化する物体を管理するための管理装置であって、前記物質の品質変化の速度を変化させる環境変数を測定する測定手段と、前記測定手段により測定された前記環境変数と、実際に経過した時間である実経過時間とに基づいて、実効的な品質変化の進行の度合いを反映した時間である実効的経過時間を算出する算出手段と、前記算出手段により算出された前記実効的経過時間を出力する出力手段と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、管理装置は、測定した環境変数に基づいて加速係数を求め、加速係数の平均値に経過時間の累計値を乗算することにより、実効経過時間を算出して出力する。この実効経過時間は、環境変数に依存して変化する劣化速度を反映した時間であるから、管理装置のユーザは、物体の残りの寿命を推測することができ、物体の保守、管理が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(第1の実施形態)
本発明を実施するための第1の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、本実施形態の管理装置1の構成を示すブロック図である。管理装置1は、時間とともに品質が変化する物体(以下、「被測定物」という)を管理するための装置である。管理装置1は、被測定物の周囲に設置される。本実施形態では、被測定物は、電力設備のバックアップ用の鉛蓄電池である。そして、鉛蓄電池の品質の変化(劣化)とは、充放電による劣化でなく、放置状態における劣化である。同図を参照すると、管理装置1は、計測部11、制御部13、および出力部15を有する。
【0012】
なお、被測定物は、食品や薬品など、放置状態において時間とともに品質が変化する物体であれば、鉛蓄電池以外であってもよい。
【0013】
計測部11は、計時部111および温度センサ113を有する。計時部111は、制御部13の制御に従って計測が開始されてから経過した時間を計測する。温度センサ113は、制御部13の制御に従って、計時部111により所定の設定時間(例えば、1分)が計時されるたびに鉛蓄電池の表面温度を計測し、計測値を示す情報を制御部13に送信する。鉛蓄電池の表面温度を計測するのは、フロート充電により満充電状態が維持され、放電サイクル数も少ないバックアップ用途で使用される鉛蓄電池では、劣化速度は、鉛蓄電池の温度に強く依存するためである。そして、化学反応に基づく鉛蓄電池の劣化速度は、温度を測定し、化学反応と温度との関係を示すアレニウス式を使用することで定量的に求めることができる。
【0014】
なお、本実施形態では、計測部11は、実運用されている鉛蓄電池の表面温度を計測しているが、倉庫などで保管されている鉛蓄電池の場合には、環境変数として大気の温度を計測して管理してもよい。計測部11は、鉛蓄電池の電解液の温度など、被測定物の内部の温度を測定してもよい。また、被測定物の品質の劣化速度を変化させる環境変数であれば、温度以外のパラメータを計測してもよい。例えば、食品の品質に影響を与える環境変数としては、酸素や酵素の濃度、pH、水分活性、電磁場の強度などがある。また、薬品の品質に影響を与える環境変数としては、大気中の窒素化合物や硫化化合物の濃度、紫外線の強度などがある。計測部11は、被測定物の種類により、これらの環境変数を計測する。また、計測部11は、いずれか1つの環境変数のみでなく、複数の環境変数を測定してもよい。
【0015】
また、設定時間は、1分に限らず、30秒や10分など、他の値でもよい。この設定時間は、予め管理装置1のメモリ(不図示)に記憶しておくか、ユーザが入力しておく。さらに、本実施形態においては、設定時間は一定値であるが、管理装置1は、自動的に設定時間を変更して環境変数の測定を行ってもよい。例えば、温度が所定範囲内となった場合や、残りの寿命が所定値以下となった場合、管理装置1が、設定時間を自動的に小さくして、より短い間隔で環境変数の測定を行う構成とすることもできる。
【0016】
制御部13は、管理装置1全体を制御する。制御部13は、設定情報131および計測情報133を有する。
【0017】
図2を参照して設定情報131について説明する。設定情報131は、管理装置1の動作を設定するための情報である。図2は、設定情報131の構成を示す図である。同図を参照すると、設定情報131は、加速係数導出関数1311、劣化進行開始温度1312、統計量1313、インターバル期間1314、期待寿命1315、警報出力1316、および警報用閾値1317を示す情報を含む。これらの設定値は、予め管理装置1のメモリ(不図示)等に記憶しておくか、温度の計測開始前にユーザが入力しておく。
【0018】
加速係数導出関数1311は、加速係数と温度との関係を示す関係式である。加速係数とは、基準となる劣化速度(以下「基準劣化速度」という)に対する、ある温度における被測定物の劣化速度の比率である。劣化進行開始温度1312は、劣化速度が基準劣化速度以上、すなわち加速係数が1を超える温度のうち、最小の温度である。
【0019】
加速係数導出関数1311は、例えば、下記(1)式に示すアレニウス式に基づいて求める。
【0020】
k=Aexp(−Ea/RT)・・・(1)
ここで、kは化学反応定数(加速係数)、Aは頻度因子(温度に無関係な定数)、Eaは活性化エネルギー、Rは気体定数(8.314J/mol・K)、Tは温度(絶対温度K)である。(1)式によれば、被測定物が鉛蓄電池である場合、ある温度以上では、10℃温度が上昇する毎に電池寿命が半減する(10℃半減則)。この10℃半減則が適用できる最小の温度を劣化速度開始温度1312(例えば、26℃)として使用する。
【0021】
そして、(1)式に各種定数を代入し、変形して得た下記(2)式を加速係数導出関数1311として使用する。
【0022】
f(t)=2(t-25)/10・・・(2)
ここで、fは加速係数、tは温度(℃)である。制御部13は、tが劣化進行開始温度(26℃)より小さい温度の場合、加速係数fとして1を取得し、tが26℃以上の場合、(2)式にtを代入することでfを算出する。
【0023】
統計量1313は、加速係数を求めるために加速係数導出関数1311に入力する温度の統計量の種類を示す。本実施形態では、統計量1313として「平均温度」または「最大温度」が設定される。「平均温度」が設定された場合、制御部13は、インターバル期間1314内に測定された複数の温度の平均値(平均温度)を(2)式に入力する。「最大温度」が設定された場合、インターバル期間1314内に測定された複数の温度のうち、最大値(最大温度)を(2)式に入力する。
【0024】
インターバル期間1314は、加速係数を求める時間の間隔を示す。インターバル期間1314は、計測部11が温度を測定する間隔(設定時間)以上の値とする。例えば、設定時間が1分のとき、インターバル期間1314は0.5時間とする。
【0025】
図3を参照して、統計量1313およびインターバル期間1314について詳細に説明する。同図は、計測部11および制御部13の動作を示す図である。同図を参照すると、計測部11は、1分(設定時間)が経過するごとに温度(瞬時温度)を測定する。制御部13は、インターバル期間(0.5時間)1314が経過するごとに、インターバル期間1314内に計測された計測値の平均値(平均温度)および最大値(最大温度)を求める。そして、統計量1313が「平均温度」に設定されている場合、制御部13は、平均温度を(2)式に代入して加速係数を算出する。統計量1313が「最大温度」に設定されている場合、制御部13は、最大温度を(2)式に代入して加速係数を算出する。
【0026】
なお、本実施形態では、制御部13は、統計量として平均値または最大値を使用しているが、平均値、最大値以外の統計量を使用してもよい。例えば、制御部13は、インターバル期間1314内の計測値の最頻値、中央値などを使用してもよい。
【0027】
図2に戻り、期待寿命1315は、温度の計測を開始する時点における、加速係数1以下の温度に放置する場合の鉛蓄電値の寿命である。
【0028】
警報出力1316には、計測部11により温度が最後に計測された時点において鉛蓄電池の推定される残りの寿命時間(以下、「残寿命時間」という)が所定の閾値以下となったときに管理装置1が警報を出力するか否かを設定する。警報出力する場合は「入」が設定され、警報を出力しない場合は「切」が設定される。
【0029】
警報用閾値1317は、管理装置1が警報を出力するか否かを判断するための閾値である。
【0030】
図2を参照すると、例えば、加速度導出関数1311として(2)式、劣化進行開始温度1312として「26℃」、統計量1313として「平均温度」、インターバル期間1314として「0.5時間」、期待寿命1315として「87,600hour」(10年間)、警報出力1316として「入」、警報用閾値1317として「8,760hour」(1年間)が設定されている。
【0031】
図4を参照して、計測情報133について説明する。計測情報133は、計測部13の計測した計測値および設定情報131に基づいて制御部13が取得した値を示す情報である。同図を参照すると、計測情報133は、実経過時間1331、平均温度1332、加速係数1333、平均加速係数1334、実効経過時間1335、寿命進行度1336、残寿命時間1337を示す情報を含む。
【0032】
実経過時間1331は、計測部11が計測を開始してから制御部13が加速係数を取得する時点までに経過した実際の時間であり、具体的には、インターバル期間1314の累積値である。平均温度1332は、インターバル期間1314内に計測部13により計測された温度の平均値である。加速係数1333は、平均温度1332(t)を(2)式に代入して算出した値(f:加速係数)である。平均加速係数1334は、算出した加速係数1333の平均値である。
【0033】
実効経過時間1335は、被測定物の品質劣化の進行の度合いを反映した時間であり、下記(3)式により求めることができる。
【0034】
(実効経過時間)=(前回算出した実効的経過時間)+(インターバル期間)×(加速係数)・・・(3)
なお、実効的経過時間は、(3)式以外の式により算出してもよい。例えば、実経過時間1335に平均加速係数1334を乗算した値を実効的経過時間1335として算出してもよい。
【0035】
鉛蓄電池は、温度が上昇するほど劣化速度が大きくなり、実際に経過した時間以上に寿命が減少する。実効経過時間1335は、このような、温度上昇による劣化の度合いを反映した経過時間である。管理装置1のユーザは、この実効経過時間1335を確認することで、鉛蓄電池の残りの寿命がどの程度であるかを推定することができる。この結果、温度変化により劣化速度が変化する場合であっても、被測定物の保守、管理が容易となる。
【0036】
寿命進行度1336は、鉛蓄電池が使用可能な時間の減少の度合いを示し、下記(4)式により求めることができる。
【0037】
(寿命進行度)=(実効経過時間)/(期待寿命)・・・(4)
残寿命時間1337は、鉛蓄電池の残りの推定の寿命時間であり、(5)式により求めることができる。
【0038】
(残寿命時間)=(期待寿命)/(平均加速係数)−(実経過時間)・・・(5)
例えば、実経過時間1331が「64,240hour」(64,240時間)である場合、平均温度1332として「37.1」を算出したときを考える。このとき、制御部13は、(2)式に37.1℃を代入することで加速係数1333として「1.1」を算出する。そして、制御部13は、平均加速係数1334として、これまでに算出した加速係数の平均値「1.2」を算出する。
【0039】
続いて制御部13は、前回算出した実効経過時間(77,087.5時間)、インターバル期間(0.5時間)、および今回算出した加速係数(1.1)を(2)式に代入することにより、実効経過時間1335として「77,088hour」(77,088時間)を算出する。また、期待寿命1315として「87,600hour」(87,600時間)が設定されているので、制御部13は、この設定値(87,600時間)および実経過時間(64,340時間)を(4)式に代入することにより、寿命進行度1336として「0.88」を算出する。そして、制御部13は、期待寿命(87,600時間)、平均加速係数(1.2)、および実経過時間(64,340時間)を(5)式に代入することにより、残寿命時間1337として「8,760hour」(8,760時間)を算出する。
【0040】
このように、平均加速係数(1.2)が1より大きい場合は、温度上昇に伴い劣化速度が大きくなるので、実際に経過した時間(64,340時間)よりも、実効的な経過時間(77,088時間)は大きくなる。この結果、鉛蓄電池の残りの寿命時間は、加速係数が1以下の状態では、期待寿命(87,600時間)から実経過時間(64,340時間)を減算した値(23,260時間)であるところ、その値より低い値(8,760時間)となる。
【0041】
図1に戻り、出力部15は、計測部11により最後に計測された温度(現在温度)を示す情報、制御部13により取得された計測情報133、および警報を示す情報を出力する。出力部15は、表示部151を有する。表示部151は、LCD(Liquid Crystal Display)や有機EL(Electro Luminescence)などの表示装置である。表示部151は、計測部11により最後に計測された温度(現在温度)および制御部13により取得された実経過時間1331、実効経過時間1335、寿命進行度1336、残寿命時間1337を表示する。また、出力部15は、制御部13の制御に従って、残寿命時間1337が警報用閾値1317以下となったとき、警報を示す情報を出力する。例えば、出力部15は、表示部151に警報として鉛蓄電池の交換を要求する旨を表示させる。
【0042】
なお、本実施形態では、制御部13は現在温度、計測情報133の示す内容、および警報を表示部15に全て表示させる構成としているが、実効経過時間1335以外の、現在温度、実経過時間1331、寿命進行度1336、および残寿命時間1337は、必ずしも全て表示させる必要はない。
【0043】
また、本実施形態では、出力部15が計測情報133の示す実効経過時間1335等を表示部151に表示させる構成としているが、他の方法で現在温度等を示す情報を出力してもよい。例えば、出力部15は、プリンタを有し、現在温度および計測情報133の示す内容をプリンタに印刷させることもできる。また、出力部15は、フラッシュメモリ等の記憶装置を有し、この記憶装置に現在温度を示す情報および計測情報133を記憶することもできる。
【0044】
また、出力部15は、他の方法で警報を出力してもよい。例えば、出力部15は、ブザーなどの音声出力装置を有し、警報として音声出力することもできるし、ランプを有し、警報としてランプを点灯させることもできる。出力部15は、複数の方式を組み合わせて警報を出力することもできる。
【0045】
図5は、管理装置1の斜視図である。同図を参照すると、管理装置1は、小型の筐体を有し、この筐体に計時部111および制御部13を内蔵し、筐体の1面(正面)に表示部151を有する。そして、管理装置1は、表示部151を有する面と反対側の面(背面)に温度センサ113を有する。
【0046】
なお、管理装置1は、筐体の背面以外の面に温度センサ113を設ける構成としてもよいし、温度センサ113を筐体の外部に設け、筐体と温度センサ113とをケーブルで接続する構成としてもよい。
【0047】
次に、管理装置1の動作について図6〜図9を参照して説明する。図6は、管理装置1の実行する管理処理を示すフローチャートである。管理処理は、管理装置1に電源が投入されたとき、又は所定のアプリケーションが実行されたときに開始する。同図を参照すると、計測部11が計測処理を実行し(ステップS1)、制御部13が算出処理を実行する(ステップS3)。そして、出力部15が表示処理を実行する(ステップS5)。
【0048】
図7は、計測部11の実行する計測処理を示すフローチャートである。計測処理は、設定時間(1分)ごとに鉛蓄電池の表面温度(t)を計測する処理である。同図を参照すると、計時部111は計測が開始されてから経過した時間を計測し、計測部113は、計測開始時または前回に温度が計測された時点から設定時間(1分)が計時部111により計時されたか否かを判断する(ステップS11)。設定時間が計時されたのであれば(ステップS11:YES)、計測部11は温度センサ113に鉛蓄電池の表面温度を計測させる(ステップS13)。設定時間が計時されていないとき(ステップS11:NO)、またはステップS13の後、計測部11は、計測処理を終了する。
【0049】
図8は、制御部13の実行する算出処理を示すフローチャートである。算出処理は、インターバル期間1314ごとに、制御部13が実効経過時間1335、寿命進行度1336、残寿命時間1337を算出し、計測情報133に記憶する処理である。同図を参照すると、制御部13は、計測開始時または前回実効経過時間1335を算出したときからインターバル期間1314が経過したか否かを判断する(ステップS31)。インターバル期間1314が経過した場合(ステップS31:YES)、制御部13は、インターバル期間1314内に計測部11により計測された温度の平均値又は最大値を求める。制御部13は、求めた平均値または最大値を(2)式に代入することで、加速係数1333を算出し、計測情報133に記憶する(ステップS33)。そして、制御部13は、ステップS31で算出した加速係数1333の平均値を算出し、この平均値(1334)と実経過時間1331を(3)式に代入することで、実効経過時間1335を算出、計測情報133に記憶する(ステップS35)。制御部13は、ステップS33で算出した実効経過時間1335および期待寿命1315を(4)式に代入することで寿命進行度1336を算出し、計測情報133に記憶する(ステップS37)。制御部13は、期待寿命1315、平均加速係数1334、および実経過時間1331を(5)式に代入することで残寿命時間1337を算出し、計測情報133に記憶する(ステップS39)。
【0050】
続いて、制御部13は、警報出力1316が「入」に設定されており、且つ、残寿命時間1337が警報用閾値1317以下であるか否かを判断する(ステップS41)。警報出力1316が「入」に設定されており、且つ、残寿命時間1337が警報用閾値1317以下である場合(ステップS41:YES)、制御部13は、警報フラグをONにする(ステップS43)。警報フラグは、出力部15に警報を出力させか否かを示す情報である。出力部15は、警報フラグがONのときに警報を出力する。警報出力1316が「切」に設定され、または、残寿命時間1337が警報用閾値1317以下でない場合(ステップS41:NO)、またはステップS39の後、あるいは、インターバル期間1314が経過していない場合(ステップS31:NO)、制御部13は、算出処理を終了する。
【0051】
図9は、出力部15の実行する表示処理を示すフローチャートである。表示処理は、現在温度、計測情報133の示す内容、および警報を表示する処理である。同図を参照すると、表示部151は、計測部11により最後に計測された鉛蓄電池の表面温度(現在温度)を表示する(ステップS51)。表示部151は、所定時間経過後、またはユーザの操作に応じて、計測情報133から実経過時間1331および実効経過時間1335を示す情報を読み出して表示する(ステップS53)。表示部151は、所定時間経過後、またはユーザの操作に応じて、計測情報133から寿命進行度1336を示す情報を読み出して表示する(ステップS55)。
【0052】
続いて、表示部151は、警報フラグがONであるか否かを判断する(ステップS57)。警報フラグがONである場合(ステップS57:YES)、表示部151は、計測情報133から残寿命時間1337を示す情報を読み出して表示し、鉛蓄電池の交換を要する旨の警報を表示する(ステップS59)。警報フラグがONでない場合(ステップS57:NO)、またはステップS9の後、表示部151は、表示処理を終了する。
【0053】
次に、管理装置1の動作結果の一例について図10(a)、(b)および図11(a)〜(c)を参照して説明する。図10(a)、(b)および図11(a)〜(c)は、表示部151が表示する画面の一例を示す図である。
【0054】
計測部11は、所定時間ごとに温度を計測し(ステップS1)、制御部13は、インターバル期間1314ごとに、計測部11により計測された温度に基づいて実効経過時間1335、寿命進行度1336、残寿命時間1337を算出し、計測情報133に記憶する(ステップS3)。
【0055】
表示部151は、図10(a)に示すように、計測部11により計測された現在温度(℃)を表示する(ステップS51)。例えば、同図(a)において、最後に35℃が計測されたのであれば、表示部151は、画面に「35℃」(151A)と表示する。表示部151は、所定時間が経過した後、またはユーザの操作に応じて、同図(b)に示すように、計測情報133から実経過時間1331および実効経過時間1335を示す情報を読み出して表示する(ステップS53)。例えば、同図(b)において、計測開始時点から実際に経過した時間は3年半であり、実効経過時間として6年半が算出されたので、表示部151は、実経過時間として「3.5year」(151B)、実効的な経過時間として「6.5year」(151C)を表示する。
【0056】
続いて、表示部151は、所定時間が経過した後、またはユーザの操作に応じて、図11(a)に示すように、計測情報133から寿命進行度1336を示す情報を読み出して表示する(ステップS55)。例えば、同図(a)において、表示部151は、20本の棒(151D)の色で寿命進行度を示す。寿命進行度1336として0.65が算出されたので、表示部151は、13本を黒色で、7本を白色で塗りつぶした20本の棒を表示する。そして、警報フラグがONであれば(ステップS57:YES)、表示部151は、図11(b)に示すように、警報として鉛蓄電池の交換を要求するメッセージ(151E)と、計測情報133から読み出した残寿命時間1337を示す情報(151F)と、を表示する(ステップS59)。例えば、同図(b)において、表示部151は、残りの寿命時間として0.4年が算出されたので、「要交換」のメッセージ(151E)とともに、寿命進行度1336として「0.4year」(151F)を表示する。
【0057】
なお、図10(a)、(b)および図11(a)、(b)に示した表示方法は一例であり、グラフや表など、他の表示方法で現在温度等を表示してもよいのは勿論である。
【0058】
また、食品や薬品など、特に温度管理が重要な被測定物の劣化状態を管理する場合、制御部13は、計測部11により計測された温度のうち、最高の温度を求め、この最高温度が所定の閾値を超えたとき、出力部15が警報を出力する構成としてもよい。例えば、生ハムやローストビーフなどは、4℃以下で保存するのが望ましい。そこで、4℃を超えた温度が計測されたとき、表示部151は、図11(c)に示すように、警報として「保存温度が高すぎます。」(151G)と表示し、最高温度として「5℃」(151H)を表示する。
【0059】
そして、本実施形態では、時間の経過とともに品質が劣化する被測定物の管理に管理装置1を使用しているが、時間の経過とともに品質が向上する被測定物の管理にも管理装置1を使用できる。例えば、発酵食品などの一部の食品は、時間の経過とともに熟成され、品質が向上する。このため、熟成の進行の度合いを反映した実効的経過時間を算出することで、食品の管理が容易となる。
【0060】
図6〜図9に示したフローチャートの一部または全部はコンピュータプログラムの実行により実現することもできる。
【0061】
以上説明したように、本実施形態によれば、管理装置1は、測定した温度(t)に基づいて加速係数1333を求め、平均加速係数1334に実経過時間1331を乗算することにより、実効経過時間1335を算出して表示する。この実効経過時間1335は、温度に依存して変化する劣化速度を反映した時間であるから、管理装置1のユーザは、鉛蓄電池の残りの寿命を推測することができ、鉛蓄電池の保守、管理が容易となる。
【0062】
鉛蓄電池の劣化判定方法は、厳密に劣化を判定しようとすると、非特許文献1に示したように、非常に大掛かりなものとなってしまい、コストがかかる。これに対して本発明の管理装置1は、極めて低コストで劣化を判定できるので、これまで導入が困難であった小規模な設備にも使用することができる。サイクル用途では、蓄電池の劣化モードが多岐にわたり複雑であるが、バックアップ用途ではフロート充電で、しかも放電サイクル数が少ないので、温度に基づく管理だけでも、十分に実用的である。
【0063】
また、インターバル期間1314内における温度の統計量を(2)式に代入する値とすることで、管理装置1は、実効経過時間1335を正確に算出できる。
【0064】
管理装置1が残寿命時間1337を表示することにより、ユーザは残りの使用期間を確認できるので、被測定物の保存や管理が容易となる。
【0065】
管理装置1は残寿命時間1337が警報用閾値1317以下となったときに警報を出力するので、ユーザは、鉛蓄電池の交換時期などを知ることができ、被測定物の保存や管理がさらに容易となる。
【0066】
そして、管理装置1は最高温度を表示するので、被測定物の温度管理が容易となる。
(第2の実施形態)
図12を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。第1の実施形態では、制御部13は、(2)式により、加速係数1333を算出していたが、関係式による算出以外の方法で加速係数1333を取得することもできる。第2の実施形態の管理装置は、テーブルを使用して加速係数を取得する点で第1の実施形態の管理装置と異なる。
【0067】
本実施形態の管理装置の構成は、制御部13が、図12に示すテーブルを有するほかは、第1の実施形態の管理装置の構成と同様である。このテーブルは、温度と加速係数とを対応付けて記憶したものである。制御部13は、ステップS31において、計測部13により計測された温度の統計量と対応する加速係数をテーブルから読み出すことで、加速係数1333を取得する。
【0068】
本実施形態によれば、テーブルを使用して加速係数1333を取得するので、加速係数の温度依存特性が複雑であっても、正確に実効経過時間1335を取得することができる。
(第3の実施形態)
図13を参照して、本発明の第3の実施形態について説明する。第1の実施形態では、管理装置1自身が、現在温度等を表示していたが、他の装置が管理装置1の取得した現在温度等を表示することもできる。同図は、本実施形態の管理装置1aおよび監視センタ2の構成を示すブロック図である。同図を参照すると、管理装置1aと監視センタ2とは、ネットワークNに接続されている。管理装置1aの構成は、出力部15が送信部153を更に有するほかは、第1の実施形態の管理装置1と同様の構成である。第3の実施形態の構成は、ネットワークを通して他の装置(2)に接続されている点で、第1の実施形態の構成と異なる。
【0069】
管理装置1aの送信部153は、現在温度を示す情報、計測情報133、および警報を示す情報をネットワークNを通じて監視センタ2に送信する。
【0070】
監視センタ2は、被測定物の劣化状態を遠隔から監視する装置である。監視センタ2は、受信部21、制御部23、および表示部25を有する。受信部21は、ネットワークNを通じて現在温度を示す情報、計測情報133、および警報を示す情報を管理装置1aから受信する。制御部23は、監視センタ2全体を制御する。表示部25は、制御部23の制御に従って、現在温度、計測情報133の示す内容、および警報を表示する。
【0071】
なお、管理装置1aは、現在温度を示す情報、計測情報133、および警報を示す情報の一部のみを送信することもできる。また、管理装置1aは、更に、ネットワークNを通じて設定情報131の全部または一部を受信する構成とすることもできる。
【0072】
また、管理装置1aは、複数の監視センタ2に現在温度等を示す情報を送信してもよいし、監視装置1aは、複数の管理装置1aを通じて複数の被測定物の劣化状態を監視してもよい。
【0073】
本実施形態によれば、管理装置1aは、ネットワークNを通じて現在温度等を送信する。このため、監視センタ2が管理装置1aから受信した現在温度等を表示すれば、遠隔地から被測定物の劣化状態を知ることができ、被測定物の保守、管理が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】第1の実施形態の管理装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態の設定情報の構成を示す図である。
【図3】第1の実施形態の計測部の動作を説明するための図である。
【図4】第1の実施形態の計測情報の構成を示す図である。
【図5】第1の実施形態の管理装置の斜視図である。
【図6】第1の実施形態の管理処理を示すフローチャートである。
【図7】第1の実施形態の計測処理を示すフローチャートである。
【図8】第1の実施形態の演算記録処理を示すフローチャートである。
【図9】第1の実施形態の表示処理を示すフローチャートである。
【図10】(a)第1の実施形態の表示部が表示する画面の一例を示す図である。 (b)第1の実施形態の表示部が表示する画面の一例を示す図である。
【図11】(a)第1の実施形態の表示部が表示する画面の一例を示す図である。 (b)第1の実施形態の表示部が表示する画面の一例を示す図である。 (c)変形例の表示部が表示する画面の一例を示す図である。
【図12】第2の実施形態のテーブルを示す図である。
【図13】第3の実施形態の管理装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0075】
1、1a 管理装置
2 監視センタ
11 計測部
13 制御部
15 出力部
21 受信部
23 制御部
25 表示部
111 計時部
113 温度センサ
131 設定情報
133 計測情報
151 表示部
153 送信部
1311 加速係数導出関数
1312 劣化進行開始温度
1313 統計量
1314 インターバル期間
1315 期待寿命
1316 警報出力
1317 警報用閾値
1331 実経過時間
1332 平均温度
1333 加速係数
1334 平均加速係数
1335 実効経過時間
1336 寿命進行度
1337 残寿命時間
S1〜S5、S11〜S13、S31〜S43、S51〜S59 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間とともに品質が変化する物体を管理するための管理装置であって、
前記物質の品質変化の速度を変化させる環境変数を測定する測定手段と、
前記測定手段により測定された前記環境変数と、実際に経過した時間である実経過時間とに基づいて、実効的な品質変化の進行の度合いを反映した時間である実効的経過時間を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された前記実効的経過時間を出力する出力手段と、
を有する管理装置。
【請求項2】
前記算出手段は、前記測定手段により測定された前記環境変数に対応する前記品質変化の速度の基準速度に対する比率を加速係数として取得し、取得した該加速係数に前記実経過時間を乗算した値を前記実効的経過時間として算出する、請求項1に記載の管理装置。
【請求項3】
前記算出手段は、前記加速係数と前記環境変数との関係を示す関係式を使用して前記加速係数を算出する、請求項2に記載の管理装置。
【請求項4】
前記環境変数は、前記物体の内部の温度、又は前記物体の表面温度、或いは大気の温度であり、
前記関係式は、アレニウス則に基づく式である、請求項3に記載の管理装置。
【請求項5】
前記算出手段は、前記加速係数と前記環境変数とを対応付けて記憶するテーブルを更に有し、前記計測手段により計測された前記環境変数に対応する該加速係数を前記テーブルから読み出す、請求項2に記載の管理装置。
【請求項6】
前記算出手段は、所定の期間内に前記測定手段により測定された前記環境変数の統計量を取得し、取得した該統計量に対応する前記品質変化の速度の、前記基準速度に対する比率を前記加速係数として取得する、請求項2乃至5のいずれか1項に記載の管理装置。
【請求項7】
前記算出手段は、算出した前記実効的経過時間と、前記測定手段により前記環境変数の測定が開始された時点における前記物体の寿命である期待寿命時間と、に基づいて、前記測定手段により前記環境変数が最後に測定された時点における前記物体の残りの寿命を残寿命時間として更に算出し、
前記出力手段は、前記算出手段により算出された前記残寿命時間を示す残寿命時間情報を更に出力する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の管理装置。
【請求項8】
前記出力手段は、前記算出手段により算出された前記残寿命時間が所定の閾値以下となったとき、警報を示す警報情報を更に出力する、請求項7に記載の管理装置。
【請求項9】
前記管理装置はネットワークに接続され、
前記出力手段は、出力すべき情報を、前記ネットワークを通じて送信する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の管理装置。
【請求項10】
前記出力手段は、前記測定手段により測定された前記環境変数のうち、最高値の環境変数を示す最高値情報を出力する、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−257953(P2009−257953A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107827(P2008−107827)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】