説明

管継手におけるパッキング締め付け装置

【課題】ボルト・ナットを使用せずに、継手の接続が可能な、管継手におけるパッキングの締め付け装置を提供する。
【解決手段】
円筒形の管体外面と、円錐形の継手内面により形成された空間にパッキングを配置し、継手を、本体部14とフランジ部15によって構成し、本体部の外面に係合部16を、フランジ部の内面に係合相手部17を設け、係合により管体の軸方向へ継手を移動させるように傾斜した、少なくとも2個の円筒カム部18を本体部外面に有し、係合相手部17は円筒カム部と係合する、少なくとも2箇所の相手部分20をフランジ部内面に設けて構成され、本体部に対してフランジ部を周方向へ回転させるときには、管体外面24とフランジ部の内面26との間に介在してころがり軸受けを構成し、管体外面とフランジ部の内面に食い込みを生じ得る回転可能な剛体球27を、複数個、パッキングの周方向にほぼ均等に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒形の管体外面と、円錐形の継手内面により形成された空間にパッキングを配置した管継手において、継手を管体の軸方向へ移動させてパッキングを締め付けるための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建造物の給水と排水設備に用いられてきた、従来の給排水管継手は、例えば実開平7−19690号の考案に見られるように、継手本体と、締付鍔を、漏水防止用のゴム製パッキングを介して、数本のボルト・ナットにより締め付け、接続されている。そのボルト本数は、接続鋼管が2インチ径の場合は2本、3インチ径以上の場合は3本ないし4本が普通である。
【0003】
ところが、高層化する建築構造物では、有効スペースの拡大化要求に伴い、給排水配管や配電、通信線等の建造物のインフラスペースは高密度化され、それによって、配管の周囲の空間が狭隘になる傾向にあり、このため、配管継手等の小型化が要請されている。また、今後は海外からの作業者の増加に伴い、継手作業の簡易化が要請され、しかもより高い接続信頼性が求められる。また、高層化に伴う耐震性の向上も必要であるなど、総体的には作業時間の短縮、作業の経済化、信頼性の確保が課題になっている。
【0004】
これに対して、前記した従来の方式では、継手の両端で、例えば6本のボルト・ナットを使用することになり、それらの締結には、周囲3方向からスパナやトルクレンチ等を回転させる操作が必要のため、狭い空間では非常に困難な作業となり、時間も掛かることになる。また、ゴムパッキングを使用する場合、締め付けの規定トルクを遵守することが現場では難しく、締め付け過剰による継手の破損、締め付け過小による漏水、脱管事故も発生している。このために、工事後の点検時間が必要になり、トータルコストは増加する傾向にある。
【0005】
【特許文献1】実開平7−19690号
【特許文献2】実用新案登録第3099370号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記の点に着目してなされたものであり、その課題は、ボルト・ナットを使用せずに管継手の接続が可能な、管継手におけるパッキングの締め付け装置を提供することである。また本発明の他の課題は、継手を締め付ける作業のために、周囲に過大な空間を必要としない管継手におけるパッキングの締め付け装置を提供することである。また本発明の他の課題は、パッキングの締め付けトルクを容易に管理可能な管継手におけるパッキングの締め付け装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するため、本発明は、円筒形の管体外面と、円錐形の継手内面により形成された空間にパッキングを配置し、継手を管体の軸方向へ移動させてパッキングを締め付けるための装置として、管継手を、本体部と、管体の軸方向の前後に位置するフランジ部とによって構成し、本体部の外面に係合部を設ける一方、フランジ部の内面には係合相手部を設け、係合部は、係合相手部との係合により管体の軸方向へ継手を移動させるように、管体の軸方向に対して傾斜した、少なくとも2箇所の円筒カム部を本体部の外面に有し、係合相手部は、上記円筒カム部と係合する、少なくとも2箇所の相手部分をフランジ部の内面に有しており、係合部と係合相手部の係合下で、本体部に対してフランジ部を周方向へ回転させるときには、管体外面とフランジ部の内面との間に介在して、管体の軸方向へ本体部を移動させるころがり軸受けを構成し、それによりパッキングを締め付けるとともに、締め付けた後では、管体外面とフランジ部の内面に食い込みを生じ得る回転可能な剛体球を、複数個、パッキングの周方向にほぼ均等に配置する、という手段を講じたものである。
【0008】
本発明に係る、管継手におけるパッキング締め付け装置は、円筒形の管体外面と、円錐形の継手内面とにより形成された空間にパッキングを配置し、継手を管体の軸方向へ移動させてパッキングを締め付けるための装置に関するもので、パッキングは、締め付けにより管体外面に圧接して水封作用を果たすとともに、かつ、接続力を高める。このパッキングは、前記した従来のゴムパッキングと同様の機能を果たすものであるが、使用し得る材料は、いわゆるゴムに属する樹脂だけではなく、ゴムとはいえないものでもパッキングに用いられる樹脂を含むものとする。
【0009】
本発明において、管継手は、本体部と、その軸方向の前後に位置するフランジ部とに分けて構成し、本体部の外面には係合部を設け、その一方で、フランジ部の内面には係合部の係合の相手になる係合相手部を設けるものとする。上記係合部としては、係合相手部との係合により管体の軸方向へ本体部を移動させるように、管体の軸方向に対して傾斜した、少なくとも2箇所の円筒カム部を本体部の外面に有し、係合相手部としては、上記円筒カム部と係合する、少なくとも2箇所の相手部分を継手内面に設けている。つまり、係合部と係合相手部は、継手を構成するフランジ部の周方向への回転運動を、同じく継手を構成する管体の軸方向への直線運動に変換する機能を含む結合手段でもあり、そのために円筒カム部の構成を利用しているものである。軸方向への直線運動の量を決めることで、パッキングを締め付ける度合いを調整することができ、これにより締め付けトルクの管理が容易に可能になる。
【0010】
この種の結合手段は、例えばレンズ交換式カメラにおけるレンズの着脱手段に代表される、いわゆるバヨネット式の結合構造に類似しているが、その場合と同様に、円筒カム部と、これに係合する相手部分は、少なくとも2箇所或いは3箇所以上、ほぼ均等に配置されるものである。この円筒カム部は、本体部の外面の円筒面に、例えば半径方向外方への高まり部として設けることができる。円筒カム部に係合可能な相手部分は、フランジ部の内面に、例えば半径方向内方への高まり部として設けることができる。しかし、本体部の外面の円筒面に、例えば軸方向に対して傾斜した溝を設けて円筒カム部とし、その溝に係合可能なピンをフランジ部の内面に相手部分として設けても良く、その形態は任意に設定可能である。
【0011】
本体部の外面に設けられている円筒カム部に、フランジ部の内面に設けられている相手部分との係合の最終の位置を決めるための停止部を設けことができる。停止部は、相手部分が傾斜した円筒カム部に沿って戻るのを止める突起状に設けることができる。このような停止部は、軸方向に向けられた突起状に円筒カムに設けてあるので、相手部分との係合前には接触せず、係合が進行して軸方向へ継手の本体部が移動することにより係合状態になる。なお、フランジ部は、内面に相手部分を有する袋ナット状構造を有するものであることが望ましく、また、フランジ部を回転させる際の手掛かりとなる滑り止めを外面に有していることが望ましい。
【0012】
係合部と係合相手部の係合下で、本体部に対してフランジ部を周方向へ回転させるときには、管体外面とフランジ部の内面との間に介在して、管体の軸方向へ本体部を移動させるころがり軸受けを構成し、それによりパッキングを締め付けるとともに、締め付けた後では、本体部の外面とフランジ部の内面に食い込みを生じ得る回転可能な剛体球を、複数個、パッキングの周方向にほぼ均等に配置する。つまり剛体球は、管体に対して継手フランジ部を周方向へ回転させるときにはころがり摩擦を減少させる転動体として作用し、また、一旦締め付け状態になった後では、管体の引き抜きを防止する食い込み部材として作用することになる。
【0013】
管体の引き抜きを防止する食い込み部材としての機能を高めるために、本発明では、剛体球は、管体に対して継手を引き抜く方向の外力が働いたときに、管体周方向の軸周りに回転して引き抜き方向へ移動可能であり、上記引き抜き方向の外力により剛体球に回転を生じさせる条件として、空間において管体外面と継手内面とが形成する挟角2αを17度±7度とし、かつ、剛体球の外形を本体部の外面とフランジ部の内面との最小隙間Δgの2倍以上となるように構成することが望ましい。この構成により、管体に引き抜き力が加わり、その力が増大するとき、その力に比例して摩擦力も増大するので、破壊に至るまで管体を把持し続けるものとなる。
【0014】
このような管体の引き抜き防止装置については、本発明に先行する特願2005−302002号に自己平衡型引き抜き防止装置として詳細に説明されており、その発明を本発明に適用することができるので、ここではその要部のみ説明する。図7において、管体の軸方向に引き抜き力ΔFが加わると、管体とフランジ部に挟まれた回転体である剛体球には、夫々との摩擦係数μ1、μ2により決定される回転トルクが発生し、引き抜き力ΔFと同じ方向にΔlだけ移動する。剛体球の中心OがO′に移動することにより、剛体球の半径のΔr=Δlsinα分が円筒形の管体外面及びほぼ円錐形のフランジ部内面に食い込み、夫々の面に対して圧力ΔRを発生させる。これは、ほぼ楔形断面形状の空間ABCの中に楔を力ΔKで打ち込んだとき、加圧力ΔRとの間に、
ΔK=2ΔR(sinα+μcosα)、
が成立するのと同じである。本発明の場合、力ΔKは、直接剛体球に加えられないが、管体に掛かる引き抜き力ΔFによって生じる回転トルクで、楔形断面形状の空間の内部に向かって回転体である剛体球が移動するので、あたかも打ち込まれたことと等価と見なすことができるからである。
【0015】
即ち、a、bを定数とすれば、
Δl=aΔF、
ΔR=bΔr=bΔlsinα、
ΔR/ΔF=absinα=一定、
従って、管体に引き抜き力が発生すると、その力により把持力となる加圧力Rが発生し、引き抜き力の増分ΔFに比例して(ΔFに平衡して)、把持力の増分ΔRが発生する。なお、パッキングで加えられる所期の把持力R1は既に加わっているものとする。
【0016】
上記の説明のような自己平衡型引き抜き防止装置では、破壊に至るまで把持し続けるので、ボルト・ナットが不要ということと相俟って、インフラスペースが高密度化されている建築構造物等の給排水管継手としても好適である。なお、後述のように本発明における継手を、その軸方向の前後に位置する複数部分に分けて構成すること、つまり、図1Aに示すように、係合部を両端に有する本体部と、フランジ部とから成る継手により、管体と管体を結合することは典型的であるが、一つの例に過ぎない。そして、同図例の本体部は直管で構成されているが、しかし、これを例えばエルボ管等に変えることは容易である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は以上のように構成されかつ作用するものであるから、管継手を接続するためにボルト・ナットが一切不要であり、ボルト・ナットを回転操作する必要もないという効果を奏する。また、本発明のものは、ボルト孔を設ける出っ張りがなく、継手を締め付けるために、スパナやレンチ等の工具を用いて何回も回す必要がないため、周囲に過大な空間も必要とせず、高密度化されたインフラスペースを持つ建造物の給排水管継手における、パッキングの締め付け装置として好適である。また、締め付けトルクを容易に管理可能であるので、熟練者によらなくても一定のレベルを維持した、接続信頼性の高い工事を施工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下図示の実施形態を参照しつつ本発明をより詳細に説明する。図1は、建造物の給排水配管に適用した、本発明に係る管継手におけるパッキング締め付け装置10の例示であり、この装置10は、円筒形の外面を有する、上記給排水配管である管体11と、ほぼ円錐形の内面を有する継手12と、上記の管体外面と継手内面により形成された空間に配置したパッキング13を有している(図2参照)。
【0019】
継手12は、本体部14と、その軸方向の前後に位置するフランジ部15とに分けて構成し、本体部14の外面には係合部16を設け、フランジ部15の内面には係合部16の係合の相手になる係合相手部17を設けている。上記係合部16は、係合相手部17との係合により管体11の軸方向へ本体部14を移動させるために、管体の軸方向に対して傾斜した円筒カム部18を内方に有しており、本体部14の外面に3箇所、120度ごとの等間隔で、周方向に設けられている(図3、図4参照)。図示の例では、夫々周方向長さが60度未満の大きさの、半径方向外方への高まり部19を120度の間隔で設け、その内方に円筒カム部18を設けている。なお、3箇所の高まり部19の間の60度余りの空所は、係合相手部17の通過部となる。
【0020】
フランジ部15は、係合相手部17として、内面の外方に相手部分20を設けた袋ナット状構造を有している。相手部分20は、上記円筒カム部18と係合するもので、フランジ部15の内面に、120度ごとの等間隔で、周方向に設けた、3箇所の半径方向内方への高まり部21の外方に、管体の軸方向に対するのと同様に、フランジ部15に対して傾斜して設けられている(図3、図4参照)。また、3箇所の高まり部21の間の60度余りの空所は、係合相手部16の高まり部19の通過部となる。
【0021】
本体部14の外面に設けられている円筒カム部18には、フランジ部15の内面に設けられている相手部分20との係合の終端(最終の位置)を決めるために、図5、図6に示すように停止部22を設けている。図示の停止部22は、相手部分20が傾斜した円筒カム部18に沿って戻るのを止める突起状に設けており、この突起状の停止部22は、相手部分20との係合前には接触せず、係合が進行して軸方向へ継手の本体部14が移動することにより係合状態になる。
【0022】
上記の係合部16と係合相手部17は、フランジ部15の周方向への回転運動を、管体11の軸方向への直線運動に変換する機能を含む結合手段として、円筒カムの構成を利用しており、軸方向への直線運動の量を決めることで、パッキング13を締め付ける度合いを調整し、締め付けトルクの一定管理を行なう。なお、フランジ部15には、これを回転させる際の手掛かりとなる滑り止め23を外面に設けている。
【0023】
円筒形の管体外面24と、フランジ部15の円錐形の内面26とにより形成された空間25に配置される、前記のパッキング13には、剛体球27を回転可能に配置する。剛体球27は、本体部14に対してフランジ部15を周方向へ回転させるときには、管体外面24と、フランジ部15の内面26との間に介在して、管体の軸方向へ本体部14を移動させるころがり軸受けを構成するもので、複数個を、パッキングの周方向にほぼ均等に配置する。剛体球27は、管体外面24と、フランジ部15の内面26に食い込みを生じ得る硬度を持つ剛体から成る。
【0024】
パッキング13それ自体は、前述のいわゆるゴムパッキングを使用することができる。図示のパッキング13は、管体外面24と、フランジ部15の内面26との間の上記空間25に入り込むほぼ楔状の断面形状を有する前側部31と、管体外面24と本体部14の傾斜内面28との間のほぼ楔状の空間25に入り込むほぼ楔状の断面形状を有する後側部32と、後側部の後方において管体11の端部に係止する係止部33とを有している。即ち、図示の例では、円筒形の管体外面24とともに、パッキング13を配置するほぼ楔状の空間を形成する円錐形の継手内面として、後部にも傾斜内面28が設けられているものである。なお、29はパッキング内面に複数設けた突条であり、管体11の外面に対する密着性を向上させ、止水性を高める。
【0025】
既に説明したように、この剛体球27は、管体11と継手12を引き抜く方向の外力が働いたときに、管体周方向の軸周りに回転しながら引き抜き方向へ移動可能に構成されている。即ち、上記引き抜き方向の外力により剛体球27に回転を生じさせるために、空間25において、管体外面24と、フランジ部15の内面26とが形成する挟角2αを17度±7度とし、かつまた、剛体球27の外径を、管体外面24と、フランジ部15の内面26との最小隙間Δgの2倍以上となるように設けられている(図7参照)。図示の例において、管体11は、配管用炭素鋼鋼管(SGP)の表面に亜鉛めっきを施したもの、継手12は鋳鉄製、剛体球27は鋼製であり、全周に等間隔で6〜10個を配置している。
【0026】
次に、本発明に係る管継手におけるパッキング締め付け装置10の作用について説明する。図1Bに示された各構成部材を管体11の接続端部分に挿入し、継手12の本体部に設けられている係合部16と、袋ナット型のフランジ部に設けられている係合相手部17とを、夫々の高まり部19、21が夫々の高まり部間の空所に位置するようにして、相互に挿入し、挿入深さがJ1を超えたところでフランジ部15を回転させる(図4参照)。そのとき、フランジ部15の係合相手部17が本体部の係合部16の傾斜に沿って移動するので、特別の工具を使用しなくても容易に、奥まで移動して係合状態になる。
【0027】
具体的に説明すると、最初、係合部16の高まり部19と、係合相手部17の高まり部21が、夫々の高まり部間の空所に位置するようにして相互に挿入し、挿入深さをd1とする(図5A)。このとき、パッキング13にはまだ、力は加わっていない。フランジ部15に力を加えることで、剛体球27が管体の軸方向へ回転し(図5B)、挿入深さをd2とすると(図5C)、円筒カム部18は相手部分の最浅部にある停止部22を超える挿入位置にあるので、フランジ部15を周方向へ回転させることが可能になり(図5D)。そこでフランジ部15に周方向の回転力を加えると、剛体球27をころがり摩擦を減少させる転動体として、相手部分20と円筒カム部18は、相互に容易にスライドすることとなる(図6A)。剛球体27は、相手部分20が円筒カム部18をスライドするとき、周方向へ移動すると同時に管体の軸方向にも移動し、パッキング13を圧縮する力fを生じる(図6C)。さらにフランジ部を回転させると、円筒カム部18が相手部分20の停止部22を乗り越え、ロック状態になるので、逆戻りが防止される(図6B)。このときの挿入深さd4は一意的に決定されるので、パッキング13に対する締め付け過剰、過小のばらつきが解決される。
【0028】
ここで、係合部16と、係合相手部17に関する実験例を、図3、図4を参照して、管体11が4インチパイプである場合について説明する。4インチパイプは、外形=114mm、許容度=±0.8mmであり、従って、フランジ部の口径、D0=114.6mmとする。
パッキングの最大厚みを6mmとすれば、D1=D0+2×6=126.6、mm
継手本体部の肉厚を4mmとすれば、 D2=D1+2×4=134.6、mm
高まり部の厚みt1=5mmとすれば、 D3=D2+2×5=144.6、mm
係合部と係合相手部の嵌合数を3箇所とすると、分割角度α=60度となるので、嵌合余裕を見て、一つの係合部と係合相手部の角度を57度とする。
直径方向の嵌合余裕をΔmmとし、フランジ部内径=D5、相手部分の高まり部の内径=D4、本体部の高まり部の外径=D3、本体部の高まり部の基部径=D2とすれば、
D5−Δ=D3=144.6mm、
D4−Δ=D2=134.6mm、
また、D5−D4=2×t2、t1=t2=5mm、係合部16と係合相手部17の重なりを75パーセント以上とすると、Δ≦(5mm×25%)×2=2.5mm。
Δは小さければ嵌合強度も増すが、鋳造公差との兼ね合いから、Δ=1.4mmとした。
即ち、D5=146mm、
D4=136mm、
となる。
【0029】
次に、傾斜部分の角度等に関する実験例を示す。円筒カム部18と相手部分20の傾斜の条件は、最初の高さJ1と最終の高さH1及び底辺の弧g2の長さで規定される。管体の径が4インチの場合の好適な例では、最初の高さJ1は、最初のトルクから、約2mmが適当であった。最終の高さH1は、パッキング13を圧縮する力fを生じるために必要な変位Δdで決められる。
Δd=d4−d2=(H1+J2)−d2、
4インチパイプ用継手の場合の、パッキング13を圧縮する必要変位は:
Δd=6mm、
d2=J1×2+1.5mm=5.5mm、
J2≒J1+1.5mm=3.5mm、
従って、H1=8mm、
また、g2=πD3×57度/360度=72度、
即ち、フランジ部15は約60度の回転で、円周方向へ72mm移動し、継手本体部14の内方へ軸方向に、約H1−J1=6mm挿入されることになる。円筒カム部18と相手部分20の傾斜(6mm/72mm)は、1/10以下の勾配であり、かつ、剛体球27の転動とともに移動する形態であるので、容易である。なお、これらの実験例の数値は、あくまでも一つの例示であり、本発明の制限的な解釈に用いられるべきではない。
【0030】
本発明に係るパッキング締め付け装置10によって接続された管継手の状態が図2に示されているものであり、同図に見られるように、パッキング13は、管体11をその接続端34から長さL1に亘って、剛体球27を含む本装置10によりしっかりと把持しており、また、その後側部32は傾斜内面28と密着して、管体外面24に押し付けられている。このように、パッキング13がセットされ、フランジ部15がそれを完全に加圧し、接続が完了した図2の状態における、管体11と継手12等の接続部における剛体球27の力学的関係が、図7に示されているところのものであり、その解析内容は既に説明したとおりである。即ち、剛体球27は、管体外面24と、フランジ部15の内面26に食い込みを生じて外力に対向し、管体11の抜け出しを防止し、破壊に至るまで把持し続けるものである。
【0031】
このように、本発明によれば、締め付けトルクを容易に管理可能であるので、熟練者によらなくても、一定のレベルを維持した施工をすることができるものであり、作業者の熟練度に差が予想されるような場合においても、一定の高い接続信頼性を維持することができる。なお、接続の完成している継手部を取り外すことが必要になる事態もあり、また、予測されるところであるが、そのような場合、本発明に係る装置10では、本体部14とフランジ部15に挟持された状態にあるパッキング13に、それを軸方向へ圧縮させる力を加え、それによって係合部16と係合相手部17との接触を分離し、さらには停止部33を迂回させながら、前記の嵌合時とは逆方向へ回転させることにより、分解することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る管継手におけるパッキング締め付け装置は、住宅、事務所、工場等の給排水配管に使用できることは勿論であるが、配管の管材に対するネジ切り、溶接等の加工を一切必要としないこと、また、剛体球を支点として、ゴムパッキングの余裕により可撓性(対振動性)を持っていることから、化学工業装置や、半導体製造装置等の装置内配管にも多目的に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る管継手におけるパッキング締め付け装置の1例を示すもので、Aは組み立てられた状態を示す斜視図、Bは分解された状態を示す斜視図である。
【図2】接続が完了している状態を示す断面図。
【図3】本発明装置に使用する継手構造を示すもので、Aは本体部の端部正面図、Bはフランジ部の端部正面図。
【図4】同様に、本発明装置に使用する継手構造を示すもので、Aは本体部の端部側面図、Bはフランジ部の端部側面図。
【図5】係合部と、係合相手部の係合状態を説明するもので、Aは係合に入る前の状態を示す平面図、BはAに対応した断面図、Cは係合に入るために軸方向へ移動した状態を示す平面図、DはCに対応した断面図。
【図6】係合部と、係合相手部の係合状態を説明するもので、Aは係合に入り、停止部を係合部が乗り越えている状態を示す平面図、Bは係合相手部が停止部を乗り越えてロックした状態を示す正面図、CはBに対応した断面図。
【図7】本発明に係る装置の力学的メカニズムを解析するための説明図。
【符号の説明】
【0034】
10 管継手におけるパッキング締め付け装置
11 管体
12 継手
13 パッキング
14 本体部
15 フランジ部
16 係合部
17 係合相手部
18 円筒カム部
19 高まり部
20 相手部分
21 高まり部
22 停止部
23 滑り止め部
24 管体外面
25 空間
26 継手内面
27 剛体球
28 傾斜内面
29 突条
31 前川部
32 後側部
33 係止部
34 接続端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形の管体外面と、円錐形の継手内面により形成された空間にパッキングを配置し、継手を管体の軸方向へ移動させてパッキングを締め付けるための装置であって、
管継手を、本体部と、管体の軸方向の前後に位置するフランジ部によって構成し、本体部の外面に係合部を設ける一方、フランジ部の内面に係合相手部を設け、係合部は、係合相手部との係合により管体の軸方向へ継手を移動させるように、管体の軸方向に対して傾斜した、少なくとも2箇所の円筒カム部を本体部の外面に有し、係合相手部は、上記円筒カム部と係合する、少なくとも2箇所の相手部分をフランジ部の内面に有しており、
係合部と係合相手部の係合下で、本体部に対してフランジ部を周方向へ回転させるときには、管体外面とフランジ部の内面との間に介在して、管体の軸方向へ本体部を移動させるころがり軸受けを構成し、それによりパッキングを締め付けるとともに、締め付けた後では、管体外面とフランジ部の内面に食い込みを生じ得る回転可能な剛体球を、複数個、パッキングの周方向にほぼ均等に配置したことを特徴とする
管継手におけるパッキング締め付け装置。
【請求項2】
本体部の外面に設けられている円筒カム部には、フランジ部の内面に設けられている相手部分との係合の終端を決めるための停止部を設け、停止部は、相手部分が傾斜した円筒カム部に沿って戻るのを止める突起状とした請求項1記載の管継手におけるパッキング締め付け装置。
【請求項3】
フランジ部は、内面に相手部分を有する袋ナット状構造を有し、外面にはフランジ部を回転させる際の手掛かりとなる滑り止めを有している請求項1記載の管継手におけるパッキング締め付け装置。
【請求項4】
剛体球は、管体に対して継手を引き抜く方向の外力が働いたときに、管体周方向の軸周りに回転して引き抜き方向へ移動可能であり、上記引き抜き方向の外力により剛体球に回転を生じさせる条件として、空間において管体外面と継手内面とが形成する挟角2αを17度±7度とし、かつ、剛体球の外形を本体部の外面とフランジ部の内面との最小隙間Δgの2倍以上となるように構成されている請求項1記載の管継手におけるパッキング締め付け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−115911(P2008−115911A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−298080(P2006−298080)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(000118590)伊藤鉄工株式会社 (13)