説明

管継手

【課題】排気管同士を相対揺動可能に接続するとともにシール性を損なうことなく管軸方向に関しても相対移動可能に接続する。
【解決手段】管200、300同士を接近させる向きにコイルスプリング501で弾力的に付勢し且つコイルスプリング601により両管200、300を互いに離間させるように弾力的に付勢しつつ、シール手段700により両管200、300の接続部をシールする。シール手段700は、環状の弾性体701であり、両管200、300の隙間に環装された状態で、上流側排気管200の外周面に全周に亘って気密に圧接するとともに下流側排気管300の内周面に全周に亘って気密に圧接している。弾性体701の揺動変形及び両固定フランジ210、310に対するボルト400の揺動により両管の相対揺動を許容し、コイルスプリング501、601の伸縮変形により管軸方向における両管の相対移動を許容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用エンジンからの排気通路等を形成する上流側排気管と下流側排気管とを相互に接続する継手構造に関し、より詳細には、一方の管と他方の管とを相対的に揺動可能に接続する管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に車両用エンジンの排気系は、エンジンの排気ポートに接続された排気マニホールド(上流側排気管)とその下流側の排気管(下流側排気管)とが管継手を介して相互に接続されている。
【0003】
この種の管継手は、排気マニホールドと排気管との相対的な揺動を可能にすることにより、排気系を流れる排気脈動に起因する振動や、路面からの衝撃に起因する振動や、車両走行に伴う各種慣性力に起因する曲げ応力などを吸収し軽減する機能を担っている。
【0004】
従来この種の管継手として、所謂球面ジョイントが多く用いられている。球面ジョイントは、下流側の排気管の上流側端部に形成されたフランジの内周に凹球面状のシール座を形成するとともに、排気マニホールドの下流側端部の外周にシール座に対応する凸球面状のシール面を有するシールリングを外装し、シール座とシールリングとを弾力的に圧接させて摺動可能に接続することにより、両管が相対的に揺動できるようにしている。(特許文献1〜3参照)
しかし、従来の球面ジョイントは、シール座とシールリングとの摺動により両管の相対揺動を許容する構造になっているが、シール座とシールリングとの管軸方向における相対位置は固定されているため、両管は管軸方向に関しては相対移動できない。従来の球面ジョイントによって互いに接続されている二つの管が相対的に離間する方向に移動した場合、シール座とシールリングとの間に隙間が生じるため、シール性が損なわれてしまう。このため、従来の球面ジョイントでは、管軸方向に発生する振動を吸収し軽減することができなかった。
【0005】
また、曲げ、せん断、引張、圧縮といった多方向の振動吸収が可能な管継手としてフレキシブルジョイントが知られているが、球面ジョイントと比較して高価であり、耐久性が低いという欠点を有している。
【特許文献1】特開2002−257276号公報
【特許文献2】特開2002−267062号公報
【特許文献3】特開2003−301978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、一方の管と他方の管とを相対揺動可能に接続するとともに、シール性を損なうことなく管軸方向に関しても両管を十分に相対変位可能に接続することが可能であり、しかも耐久性の高い管継手を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の管継手は、一方の管と他方の管とを端部同士を相対揺動可能に遊嵌接続する管継手において、一方の管の端部外面に全周に亘って気密に密着させて固定され、且つ、周方向に沿って所々にボルト挿通孔を有する第1の固定フランジと、他方の管の端部外面に全周に亘って気密に密着させて固定され、且つ、周方向に沿ってボルト挿通孔と対向する複数のボルト固定孔を有する第2の固定フランジと、ボルト挿通孔に一方の管側から揺動および摺動可能に挿入されるとともにその先端部に形成されたねじ部がボルト固定孔に挿通され離脱しないように固定されたボルトと、両管を管軸方向に互いに接近させるように第1の固定フランジと第2の固定フランジを弾力的に付勢する第1の付勢手段と、両管を管軸方向に互いに離間させるように第1の固定フランジと第2の固定フランジを弾力的に付勢する第2の付勢手段と、両管の接続部(互いに重なり合っている部分)の隙間をシールするシール手段とを備え、前記シール手段は、少なくともその径方向に弾性変形し得る環状の弾性体であり、両管の接続部の隙間に環装された状態で、その内周面が一方の管の外周面に全周に亘って気密に圧接するとともにその外周面が他方の管の内周面に全周に亘って気密に圧接していることを特徴としている。
【0008】
上記のように構成された管継手は、第1の付勢手段により一方の管と他方の管とを管軸方向に互いに接近させるように弾力的に付勢した状態で連結するとともに、第2の付勢手段により両管を互いに離間させるように弾力的に付勢しつつ、シール手段によって両管の接続部をシールする。そして、シール手段の弾性変形により両管の相対揺動を許容し、第1および第2の付勢手段の伸縮変形により管軸方向における両管の相対移動を許容する。
【0009】
したがって、この管継手によれば、一方の管と他方の管とを相対揺動可能に接続するとともに、シール性を損なうことなく管軸方向に関しても相対移動可能に両管を接続することが可能である。
【0010】
本発明の管継手において、一方のテーパー部はその先端側がテーパー状に拡径しており、当該一方の管の接続部に他方の管の接続部が挿入されていることが望ましい。一方の管の接続部の先端側がテーパー状に拡径していることにより、シール手段は、テーパー形状に倣って自律的に位置決めされて相対的に移動可能に同軸的に保持される。したがって、この管継手によれば、シール手段を位置決めするための手段を別途装備する必要がないので、管継手の部品点数を増大させることなく、高いシール性と高い耐久性とを兼ね備えた管継手を安価に実現できる。また、両管の遊嵌接続工程を容易に行うことができる。
【0011】
本発明の管継手において、一方の管の接続部はその先端側がテーパー状に拡径しており、且つ、他方の管の接続部はその先端側がテーパー状に縮径しており、当該一方の管の接続部に当該他方の管の接続部が挿入されていることが望ましい。このように構成された管継手によれば、シール手段を位置決めするための手段を別途装備する必要がないので、管継手の部品点数を増大させることなく、高いシール性と高い耐久性とを兼ね備えた管継手を安価に実現できる。また、両管の遊嵌接続工程をより容易に行うことができる。
【0012】
本発明の管継手において、前記弾性体は、その周方向と直交する断面の形状がS字形状又はC字形状の金属製の部材であり、その表面には、両管との相対的な摺動性(滑動性)を向上させるための皮膜または耐熱性を向上させるための皮膜が形成されていることが望ましい。
【0013】
また、前記弾性体は、反発復元性を有するメッシュ体または繊維集合体を板金物で巻いてその両端を互いに連結した構造のリング状成形品であり、その表面には、両管との相対的な摺動性(滑動性)を向上させるための皮膜または耐熱性を向上させるための皮膜が形成されていることが望ましい。
【0014】
また、前記弾性体は、耐熱性を有するシート層と反発復元性を有するメッシュ体または繊維集合体からなる弾性層とを径方向に複数層ずつ交互に積層してなり、最外部と最内部に当該シート層が配置されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の管継手によれば、一方の管と他方の管とを相対揺動可能に接続するとともに、シール性を損なうことなく管軸方向に関しても相対移動可能に両管を接続することが可能であるので、相対的揺動方向に発生する振動のみならず、管軸方向に発生する振動をも十分に吸収し軽減することができる。そして、高いシール性と高い耐久性とを兼ね備えた管継手を安価に実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
[第1形態例]
図1は本発明にかかる管継手の第1形態例を示す部分断面図である。
【0017】
この管継手100は、上流側排気管(一方の管)200の端部外面に全周に亘って気密に密着させて固定され、且つ、周方向に沿って所々にボルト挿通孔211を有する第1の固定フランジ210と、下流側排気管(他方の管)300の端部外面に全周に亘って気密に密着させて固定され、且つ、第1の固定フランジ210のボルト挿通孔211と対向する複数のボルト固定孔311を有する第2の固定フランジ310と、ボルト挿通孔311に下流側排気管300側から揺動および摺動可能に挿入されるとともにその先端部に形成されたねじ部400aがボルト固定孔211に挿通され離脱しないように固定された段付きボルト400と、両管200、300を管軸方向に互いに接近させるように第1の固定フランジ210と第2の固定フランジ310を弾力的に付勢する第1の付勢手段500と、両管200、300を管軸方向に互いに離間させるように第1の固定フランジ210と第2の固定フランジ310を弾力的に付勢する第2の弾性手段600と、両管200、300の接続部の隙間をシールするシール手段700とを備えている。
【0018】
上流側排気管200および下流側排気管300はエンジンに接続された排気系の一部を構成するものである。下流側排気管300の端部は拡径しており、その拡径部に上流側排気管200の端部が挿入されている。上流側排気管200の端部は若干縮径している。両固定フランジ210、310は、排気管200、300にそれぞれ溶接されている。段付きボルト400のねじ部400aにはナット401が締着されており、ナット401は固定フランジ210にスポット溶接されている。
【0019】
第1の付勢手段500は、コイルスプリング501であり、段付きボルト400を取り巻くようにして段付きボルト400のヘッド部400bと第2の固定フランジ310との間に設けられている。
【0020】
第2の付勢手段600は、コイルスプリング601であり、段付きボルト400を取り巻くようにして両固定フランジ210、310間に設けられている。
【0021】
シール手段700は、少なくともその径方向に弾性変形し得る環状の弾性体701であり、両管200、300の接続部の隙間に環装された状態で、その内周面が一方の管すなわち上流側排気管200の外周面に全周に亘って気密に圧接するとともにその外周面が他方の管すなわち下流側排気管300の内周面に全周に亘って気密に圧接している。
【0022】
弾性体701は、金属製の筒状物又は板状物を断面形状(その周方向と直交する断面の形状)がS字形状になるように塑性加工(プレス加工)した後焼入れ処理して製造された金属部材の表面に、両管200、300との相対的な摺動性(滑動性)を向上させるべく皮膜(滑動・緩衝材)702を形成してなる(図2参照)。弾性体701の断面形状をS字形状としたことにより、両管200、300の相対揺動に追従した弾性体701の十分な弾性変形が許容される。弾性体701の皮膜702は、弾性体701の耐熱性を向上させるための皮膜としても、異常音の発生を防止するための皮膜としても機能する。
【0023】
上記のように構成された管継手100は、第1の付勢手段500であるコイルスプリング501により上流側排気管200と下流側排気管300とを管軸方向に互いに接近させるように弾力的に付勢した状態で連結するとともに、第2の付勢手段600であるコイルスプリング601により両管200、300を互いに離間させるように弾力的に付勢しつつ、シール手段700である環状の弾性体701によって両管200、300の接続部をシールする。そして、弾性体701の揺動変形及び両固定フランジ210、310に対する段付きボルト400の揺動により両管200、300の相対揺動を許容し、コイルスプリング501および601の伸縮変形により管軸方向における両管200、300の相対移動を許容する。両管200、300が相対的に離間する方向に移動した場合でも、弾性体701が両管200、300に摺接(接触した状態を保って相対移動)しつつ全周に亘って気密に圧接しているので、両管200、300と弾性体701との間に隙間は生じない。
【0024】
したがって、この管継手100によれば、上流側排気管200と下流側排気管300とを相対揺動可能に接続するとともに、シール性を損なうことなく管軸方向に関しても相対移動可能に両管200、300を接続することが可能である。
[第2形態例]
図3は本発明にかかる管継手の第2形態例を示す部分断面図である。図1に示した第形態例と共通の構成要素については同じ符号が付けられている。
【0025】
この実施形態の管継手110は、下流側排気管300の接続部が先端に向かってテーパー状に拡径しており、上流側排気管200の接続部が先端に向かってテーパー状に縮径している。両管200、300のテーパー状部分の角度(直胴部に対する傾斜角度)σは同じである。このように構成された管継手100によれば、シール手段700である環状の弾性体701が両管200、300のテーパー形状部分に倣って自律的に位置決めされ、両管200、300に対して相対的に移動可能に同軸的に保持されるので、弾性体701を位置決めするための手段を別途装備する必要がない。したがって、この管継手100によれば、部品点数を増大させることなく、高いシール性と高い耐久性とを兼ね備えた管継手を安価に実現できる。
[その他の形態例]
図4〜図6は、弾性体のその他の形態例を示している。
【0026】
図4の弾性体711は、その周方向と直交する断面の形状がC字形状の金属製の部材であり、その表面には、両管200、300との相対的な摺動性(滑動性)を向上させるための皮膜712が形成されている。皮膜712は、弾性体711の耐熱性を向上させるための皮膜としても、異常音の発生を防止するための皮膜としても機能する。
【0027】
図5の弾性体721は、反発復元性を有するメッシュ体722を板金物723で巻いてその両端を互いに連結した構造のリング状成形品であり、その表面には、両管との相対的な摺動性(滑動性)を向上させるための皮膜724が形成されている。皮膜724は、弾性体721の耐熱性を向上させるための皮膜としても、異常音の発生を防止するための皮膜としても機能する。メッシュ体722の代わりに繊維集合体を用いてもよい。
【0028】
図6の弾性体731は、耐熱性を有するシート層732と反発復元性を有するメッシュ体からなる弾性層733とを径方向に複数層ずつ交互に積層してなる。最外部と最内部にはシート層732が配置されている。弾性層733は、反発復元性を有する繊維集合体からなるものでもよい。
【0029】
なお、以上の実施形態では、両固定フランジ210、310を連結し且つコイルスプリング501、601を支持するために段付きボルト400すなわち、ねじ部よりも胴部が太いボルトを使用しているが、これに代えて段無しボルトすなわち、ねじ部と胴部がほぼ同径のボルトの胴部に段部として機能し得る金属管等を装着した物を使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明にかかる管継手の第1形態例を示す部分断面図
【図2】図1に示す弾性体の拡大断面図
【図3】本発明にかかる管継手の第2形態例を示す部分断面図
【図4】本発明にかかる管継手の一構成要素である弾性体の他の形態例を示す部分断面図
【図5】本発明にかかる管継手の一構成要素である弾性体の他の形態例を示す部分断面図
【図6】本発明にかかる管継手の一構成要素である弾性体の他の形態例を示す部分断面図
【符号の説明】
【0031】
100 管継手
110 管継手
200 上流側排気管(一方の管)
210 第1の固定フランジ
300 下流側排気管(他方の管)
310 第2の固定フランジ
400 段付きボルト(ボルト)
500 第1の付勢手段
501 コイルスプリング
600 第2の付勢手段
601 コイルスプリング
700 シール手段
701 弾性体
702 皮膜(滑動・緩衝材)
711 弾性体
712 皮膜
721 弾性体
722 メッシュ体
723 板金物
724 皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の管と他方の管とを端部同士を相対揺動可能に遊嵌接続する管継手において、
一方の管の端部外面に全周に亘って気密に密着させて固定され、且つ、周方向に沿って所々にボルト挿通孔を有する第1の固定フランジと、
他方の管の端部外面に全周に亘って気密に密着させて固定され、且つ、周方向に沿ってボルト挿通孔と対向する複数のボルト固定孔を有する第2の固定フランジと、
ボルト挿通孔に一方の管側から揺動および摺動可能に挿入されるとともにその先端部に形成されたねじ部がボルト固定孔に挿通され離脱しないように固定されたボルトと、
両管を管軸方向に互いに接近させるように第1の固定フランジと第2の固定フランジを弾力的に付勢する第1の付勢手段と、
両管を管軸方向に互いに離間させるように第1の固定フランジと第2の固定フランジを弾力的に付勢する第2の付勢手段と、
両管の接続部の隙間をシールするシール手段とを備え、
前記シール手段は、
少なくともその径方向に弾性変形し得る環状の弾性体であり、両管の接続部の隙間に環装された状態で、その内周面が一方の管の外周面に全周に亘って気密に圧接するとともにその外周面が他方の管の内周面に全周に亘って気密に圧接していることを特徴とする管継手。
【請求項2】
一方の管の接続部はその先端側がテーパー状に拡径しており、当該一方の管の接続部に他方の管の接続部が挿入されていることを特徴とする請求項1記載の管継手。
【請求項3】
前記他方の管の接続部はその先端側がテーパー状に縮径していることを特徴とする請求項2記載の管継手。
【請求項4】
前記弾性体は、
その周方向と直交する断面の形状がS字形状又はC字形状の金属製の部材であり、その表面には、両管との相対的な摺動性を向上させるための皮膜または耐熱性を向上させるための皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の管継手。
【請求項5】
前記弾性体は、
反発復元性を有するメッシュ体または繊維集合体を板金物で巻いてその両端を互いに連結した構造のリング状成形品であり、その表面には、両管との相対的な摺動性を向上させるための皮膜または耐熱性を向上させるための皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の管継手。
【請求項6】
前記弾性体は、
耐熱性を有するシート層と反発復元性を有するメッシュ体または繊維集合体からなる弾性層とを径方向に複数層ずつ交互に積層してなり、最外部と最内部に当該シート層が配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の管継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−8244(P2008−8244A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−181168(P2006−181168)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(391003185)株式会社ケットアンドケット (8)
【Fターム(参考)】