説明

管腔内人工器官における接合を促進する装置及び方法

【課題】管腔内人工器官における接合を促進する装置及び方法の提供。
【解決手段】本発明は管腔内人工器官を提供しており、該人工器官は、流体の流れを許容する管腔を備えている第一の膜25と、収縮状態及び拡張状態を含むステント38,48,58,68とを備えている。ステントとは別に、少なくとも1つの表面増強部材605が、前記ステントと第一の膜とが同心状に重ねられる状態とされる前に前記ステントに固定される。前記少なくとも1つの表面増強部材は、前記ステントと前記第一の膜とが同心状に重ねられた状態とされると、前記第一の膜に対する前記ステントの素材そのままの接合特性よりも強い前記第一の膜に対する接合性を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2011年3月14日に出願された“Apparatus and Method to Enhance Bonding in Endoluminal Protheses(管腔内人工器官における接合を促進する装置及び方法)”という名称の米国仮特許出願第61/452,435号に基づく優先権を主張している。該米国特許出願は、これに言及することにより、その開示内容全体が参考として本明細書に組み込まれている。
【背景技術】
【0002】
血管の状態を治療するための装置及び方法、更に特定すると、このような状態を治療するために使用するための材料が開示されている。
【0003】
多数の医学的状態を治療するためにステント移植片アセンブリが使用される。ステント移植片アセンブリの一つの一般的な使用方法は動脈瘤の治療に関するものであり、該治療は、血管壁の脆弱化によって生じる動脈の一部分を不規則に拡張させるか又はバルーンによって拡張させる方法である。もう一つ別の一般的な使用方法は、血液が大動脈の壁の層間に流れて層同士が分離せしめられる大動脈解離すなわち大動脈の内壁の断裂の治療に関するものである。解離によって大動脈(3つの全ての層)が完全に開くと、大量で且つ素早い血液の損失が起こる。多くの場合、皮下出血は、患者が動脈瘤又は解離による断裂によって数分以内に死ぬくらいに大量である。例えば断裂後の生存率は20%程度と低い。
【0004】
ステント移植片を使用する血管の血管内治療においては、ステント移植片は、例えばカテーテルによる配備技術を使用して動脈瘤を横切るように血管内に位置決めされる。該ステント移植片は、概ね不浸透性の移植片材料によって血管の壁をシールすることによって動脈瘤を治療する。このようにして動脈瘤は密封され、血液の流れが血管の主要通路内に維持される。同様に、ステント移植片は断裂部を塞ぐことによって解離を治療し、血管の主要通路内に血流が維持される。動脈瘤を治療するためにはステント移植片が使用される場合が多いけれども、他の医療処置においてもまたステント移植片が使用され、狭窄した動脈又はその他の状態のための使用のような更に別の使用方法も可能である。
【0005】
種々のタイプのステント移植片がステントによって作られ、該ステントは、移植片材料の内側、移植片材料の外側、又は移植片材料の内層と外層との間に配置される。ステントは、一般的には移植片材料の1以上の層に種々の方法で結合される。
【発明の概要】
【0006】
本発明の実施形態は、流体の流れを許容する管腔を備えている第一の膜と、収縮状態と拡張状態とを有するステントと、を備えた管腔内人工器官を提供している。ステントとは別に、少なくとも1つの表面増強部材がステントに固定され、該少なくとも1つの表面増強部材はステントと前記第一の膜とが同軸状に重なる状態となる前に固定される。該少なくとも1つの表面増強部材は、ステントと前記第一の膜とが同軸状に重なった状態となったときに、表面増強部材を備えていない素材そのままのステントの表面が第一の膜に対して有する接合特性よりも強い接合特性を前記第一の膜に付与する。
【0007】
一つの実施形態においては、前記第一の膜は高分子溶液からなり、該高分子溶液の硬化によって、前記少なくとも1つの表面増強部材が前記高分子溶液にしっかりと接合せしめられる。任意であるが、第二の膜が設けられ、その場合には、前記第一の膜はステントの内側に配置され、第二の膜はステントの外側に配置される。
【0008】
一つの例においては、少なくとも1つの表面増強部材は縫合材のようなフィラメントからなり、該縫合材は、突っ張り部のようなステントの少なくとも一区分の外周に巻き付けられる。該少なくとも1つの表面増強部材は、ステントの一区分の外周にらせん状に巻き付けられる。任意であるが、該少なくとも1つの表面増強部材はステントの第一の区分の外周に第一のピッチで巻き付けられ且つステントの第二の区分の外周に第二のピッチで巻き付けられる。第一のピッチと第二のピッチとは相互に異なっている。更に、該少なくとも1つの表面増強部材は、ステントのある長さの外周に連続して巻き付けられ且つそれ自体が結び付けられる。
【0009】
一つの実施形態においては、ステントは、近位の頂端と遠位の頂端とによって分離されている複数のほぼ真直ぐな区分を備えているジグザグ形状をしている。この例においては、前記の少なくとも1つの表面増強部材は、概ね真直ぐな区分と近位及び遠位の頂端との各々の少なくとも一部分の外周に巻き付けられる。
【0010】
管腔内人工器官は更に、前記の第一の膜に対して所望の向きに配列された複数の周方向のファイバを備えており、前記第一の膜は少なくとも1つの表面増強部材と複数の周方向のファイバとに接合される。任意であるが、複数の軸線方向のファイバも設けられ、その場合、前記第一の膜は、前記少なくとも1つの表面増強部材、前記複数の周方向のファイバ、及び前記複数の軸線方向のファイバに接合される。
【0011】
完成された人工器官は、ステントを時間のかかる一般的な縫合技術を使用して前記第一の部材に結合させる必要なく高い構造的一体性をもたらすので有利である。試験データは、ステントに固定される少なくとも1つの表面増強部材を採用している人工器官により、膜及び表面増強部材の接合が少なくとも1つの表面増強部材が省かれた状態の膜とステントとの間の接合よりも著しく高められることを示している。特に、硬化せしめられた膜は、ステントの素材そのままの金属表面とは異なり、ステントに固定されている少なくとも1つの表面増強部材の表面に更に良好に接合される。
【0012】
本発明の他の装置、方法、特徴、及び利点は、以下の図面及び詳細な説明を精査することにより、当業者に明らかでありまた明らかになるであろう。このような付加的な装置、方法、特徴及び利点の全てが本発明の範囲内に含まれ且つ特徴請求の範囲によって包含されることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明は、以下の図面及び説明を参照することによって更によく理解できる。これらの図面内の構成要素は、必ずしも等尺ではなく、その代わりに、本発明の原理を示す際には強調されている。更に、図面においては、種々の図を通して同様に参照番号は対応する部品を示している。
【0014】
【図1】図1は、図示の目的のためにステントが除去されている状態の第一の実施形態によるステント移植片の側面図である。
【0015】
【図2】図2は、図1のステント移植片の側面図であり、ステントが示されている。
【0016】
【図3】図3は、代替的な実施形態に従って提供されているステント移植片の近位部分の側面図である。
【0017】
【図4】図4は、更に別の代替実施形態に従って提供されているステント移植片の一部分の側面図である。
【0018】
【図5】図5は、更に別の代替実施形態に従って提供されているステント移植片の一部分の側面図である。
【図6】図6は、更に別の代替実施形態に従って提供されているステント移植片の一部分の側面図である。
【図7】図7は、更に別の代替実施形態に従って提供されているステント移植片の一部分の側面図である。
【0019】
【図8】図8は、更に別の代替実施形態に従って提供されているステント移植片の近位部分の側面図である。
【0020】
【図9A】図9Aは、更に別の代替的なステント移植片を製造するための例示的な方法のステップを示している図である。
【図9B】図9Bは、更に別の代替的なステント移植片を製造するための例示的な方法のステップを示している図である。
【図9C】図9Cは、更に別の代替的なステント移植片を製造するための例示的な方法のステップを示している図である。
【0021】
【図10】図10は、更に別の代替実施形態によるステント移植片の側面図である。
【0022】
【図11】図11は、ステントの一部分及び少なくとも1つの表面増強部材の側面図である。
【0023】
【図12】図12は、図11のステント及び少なくとも1つの表面増強部材を備えている管腔内人工器官を製造するための例示的な方法のステップを示している側面図である。
【図13】図13は、図11のステント及び少なくとも1つの表面増強部材を備えている管腔内人工器官を製造するための例示的な方法のステップを示している側面図である。
【図14】図14は、図11のステント及び少なくとも1つの表面増強部材を備えている管腔内人工器官を製造するための例示的な方法のステップを示している側面図である。
【0024】
【図15】図15は、ステント及び少なくとも1つの表面増強部材の代替的な構造を示している概略図である。
【図16】図16は、ステント及び少なくとも1つの表面増強部材の代替的な構造を示している概略図である。
【図17】図17は、ステント及び少なくとも1つの表面増強部材の代替的な構造を示している概略図である。
【0025】
【図18】図18は、少なくとも1つの表面増強部材を備えている複数のステントを備えている管腔内人工器官の一部分の側面図である。
【0026】
【図19】図19は、ステントと少なくとも1つの表面増強部材とを備えている管腔内人工器官のための負荷試験構造を示している側面図である。
【0027】
【図20】図20は、少なくとも1つの表面増強部材が設けられているステントを備えている管腔内人工器官サンプルの引張り試験データを示している線図である。
【図21】図21は、少なくとも1つの表面増強部材が設けられているステントを備えている管腔内人工器官サンプルの引張り試験データを示している線図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本願において“近位”という用語は、医療処置中において概ね心臓に最も近い方向を指しており、一方、“遠位”という用語は、医療処置中において心臓から最も遠い方向を指している。
【0029】
図1〜2を参照すると、ステント移植片20の第一の実施形態が示されている。図1に示されているように、ステント移植片20は、近位端22と遠位端24との各々を有する膜25と、その中を伸長しており且つ所定の用途のための流体が流れる大きさとされている管腔29とを備えている。
【0030】
ステント移植片20は更に、少なくとも1つの軸線方向のファイバ27と、少なくとも1つの周方向のファイバ28とを備えている。好ましくは、複数の軸線方向のファイバ27及び周方向のファイバ28が、1以上の所望の機能、例えば、ステント取り付け位置を設け且つ/又は以下に更に説明するように比較的高い流体力学的な力を受けるステント移植片に沿った領域に位置決めされる機能を得るために所定のパターンで配列される。例えば、軸線方向のファイバ27は長手方向を向いた血流による力に耐える補助となり、一方、周方向のファイバは脈動流による力に耐える補助となる。
【0031】
軸線方向のファイバ27と周方向のファイバ28とを、ステント移植片20の長さ及び外周に沿って選択的にステント移植片全体に沿って連続的ではなく配向することによって、使用するファイバ材料を少なくして極めて小さな送り込み外形を達成することができる。
【0032】
図1〜2の例示的な実施形態においては、ステント移植片20は、各々がステント又はステントの一部を収容できる複数の別々の領域を備えている。例示として、各々、ステント38,48,58,68を収容できる4つの別々の領域30,40,50,60が設けられている。該4つの別々の領域30,40,50,60の各々は、各々のステント38,48,58,68を収容する軸線方向のファイバ27及び周方向のファイバ28の所定の配列を有している。
【0033】
例えば、第一の個別の領域30は人工器官の近位端22の近くに設けられている。図1に示されているように、第一の個別の領域30は、所定の向きに配列されている複数の周方向のファイバ28を備えている。特に、第一の個別の領域30の近位のまとめられた領域31は膜25に結合されている多数の周方向のファイバ28からなる。周方向のファイバ28は、近位の束31内の少なくとも2つの互いに隣接している周方向のファイバ28が第一の間隔で互いに離隔されるように配列されている。
【0034】
第一の個別の領域30は更に遠位のまとめられた領域37を備えており、該遠位のまとめられた領域37は、近位のまとめられた領域31と同様に近位のまとめられた領域31と同じ第一の間隔で互いに離隔されている少なくとも2つの互いに隣接している周方向のファイバ28からなる。近位のまとめられた領域31と遠位のまとめられた領域37とは、所望の数の周方向の1インチ(2.54センチメートル)当たりの線条数(“TPI”)を備えている。
【0035】
第一の個別の領域30は更に少なくとも1つのまとめられていない領域34を備えており、該まとめられていない領域34は、近位のまとめられた領域31と遠位のまとめられた領域37との間に配置されている。まとめられていない領域34は少なくとも2つの互いに隣接している周方向のファイバ28を備えており、該少なくとも2つの互いに隣接している周方向のファイバ28は前記した第一の間隔より大きい第二の間隔によって互いに離隔されている。別の言い方をすると、図1〜2に示されているように、まとめられていない領域34の周方向のファイバ28の全てではないにしても少なくとも幾つかは、近位のまとめられた領域31及び遠位のまとめられた領域37の周方向のファイバ28と比べて更に大きな間隔で互いに離隔されている。注目すべき点は、一つの実施形態においては、第一の間隔がゼロであってファイバ間の隙間が存在しない点である。
【0036】
図1〜2の実施形態においては、近位の束31と遠位の束37とは、まとめられていない領域34よりも大きい周方向のファイバ28のTPI値を有している。単に例示としてであり且つ限定的ではないが、近位のまとめられた領域31と遠位のまとめられた領域37との線条数は約20TPI乃至約120TPIである。これと対照的に、まとめられていない領域34の線条数は20TPI未満である。従って、この例においては、ステント移植片20の少なくとも一部分に沿って非均一な周方向のファイバ集団密度が存在している。更に、該まとめられた領域とまとめられていない領域との各々におけるファイバの数は変えることができる。例えば、一つのまとめられた領域は、別のまとめられた領域よりも多くのファイバを備えていても良く、まとめられていない領域の数に関しても同じである。
【0037】
一つの例においては、近位のまとめられた領域31及び遠位のまとめられた領域37内の第一の間隔は、個々の周方向のファイバ28間の間隔がこれらのファイバ自体の太さよりも狭いか又は等しいようにすることができる。従って、互いに隣接している周方向のファイバは、互いに直に当接していても良いし、又は間隔を開けられていても良いが同じ太さの別のファイバを重ならない状態でそれらの間に配置させることができないほど互いに近接させて配置される。これと対照的に、まとめられていない領域34内に配置されている周方向のファイバ28は、個々の周方向のファイバ28間の第二の間隔がこれらのファイバ自体の太さよりも大きくなるように互いに直に隣接しないようになされている。まとめられた領域の各々におけるファイバ同士の間隔は同じである必要はない。同様に、まとめられていない領域内のファイバ同士の間隔も同じである必要はない。
【0038】
ステント38,48,58,68は、ステント移植片20に所望の支持を提供するのに適した何らかの形状を有している。ここに示されている一つの非限定的な例においては、ステントは、単一のワイヤーによって形成された概ねジグザグ形状を有しており、該ジグザグ形状は、間に屈曲した部分が設けられている複数のほぼ真っ直ぐな第一の区分82と第二の区分83とからなり、該屈曲した部分は、近位の頂端81と遠位の頂端84とからなる形状である。図2に示されているように、一つの実施形態においては、第一のステント38の近位の頂端81の各々は近位のまとめられた領域31と重なるように位置決めされており、第一のステント38の遠位の頂端84の各々は遠位のまとめられた領域37と重なるように位置決めされている。ここでは、Z型のステントが図示されているけれども、実施形態はZ型のステントに限定されず、他のステント構造を使用しても良い。例えば、図8に示されているステント構造は適切なステントの別の非限定的な例である。
【0039】
第一のステント38の近位の頂端81を近位のまとめられた領域31に選択的に重ねることによって、近位のまとめられた領域31内の周方向の縫合材28同士が近接せしめられることにより、優れた縫合材取り付け部位が提供される。例えば、周方向のファイバ同士が比較的間隔を開けられているか又は周方向のファイバが全く設けられないのではなく周方向のファイバがまとめられている領域においては、ステント38の近位の頂端81をステント移植片20に縫合することが比較的容易になる。同様に、第一のステント38の遠位の頂端84を遠位のまとめられた領域37に選択的に重ねることによって、遠位のまとめられた領域37内に優れた縫合材取り付け部位が付与される。
【0040】
更に、図1〜2の例においては、少なくとも2つの軸線方向のファイバ27aと27bとが交差部77において種々の周方向のファイバの束に重なっているのが好ましい。図2に示されているように、ステント38の近位の頂端81と遠位の頂端84との各々は、交差部77のうちの一つと整合せしめられている。このように、ステント38の近位の頂端81と遠位の頂端84との各々は、周方向のファイバを、まとめられた領域が軸線方向のファイバ27と交差する領域でステント移植片20に固定され、その結果、ステント38のための選択的な縫合材取り付け領域が付与される。注目すべき点は、この例においては、軸線方向のファイバ27が所定のステント及びファイバの近位及び遠位の頂端と一列に並ぶことのみが意図されているので、選択的な軸線方向のファイバの密度がステント移植片20の少なくとも一部分に沿って存在する点である。
【0041】
更に別の利点として、軸線方向のファイバ27と周方向のファイバ28とを、ステント移植片20の長さ方向及び周方向に沿った所定の位置例えば近位のステントの頂端と遠位のステントの頂端との特定の取り付け位置においてステント移植片20全体に沿って連続的ではなく選択的に配向させることによって、ファイバ材料の存在量が少なくなることにより、著しく小さな送り込み外形を達成することができる。
【0042】
同じく図1〜2を参照すると、この実施形態においては、他のステント48,58,68が同様の方法でステント移植片20に取り付けられている。特に、ステント48は、第二の個別の領域40に重なるように位置決めされている。第二の個別の領域40は、近位のまとめられた領域41と、中間のまとめられた領域43,45と、遠位のまとめられた領域47とを備えており、これらの領域は各々、図1に示されているように、相互に第一の間隔で配置されている少なくとも幾つかの周方向のファイバ28を備えている。まとめられていない領域42,44,46は、図1に示されているように種々のまとめられた領域41,43,45,47間に配置されている。ステント38と同様に、ステント48の近位の頂端81と遠位の頂端84との各々は、周方向のファイバの束が軸線方向のファイバ27と交差する交差部77においてステント移植片20に固定されている。特にステント48の近位の頂端81は、近位のまとめられた領域41が軸線方向のファイバ27と交差する位置でステント移植片20に取り付けられており、一方、ステント48の遠位の頂端84は、遠位のまとめられた領域47が軸線方向のファイバ27に交差する位置でステント移植片20に取り付けられている。更に、ステント48は、ステント48のほぼ真直ぐな第一の区分82と第二の区分83とが中間の束43,45と重なる位置で、ステント移植片20に固定されている。このようにして、まとめられた領域41,43,45,47にステント48のための多数の特別な縫合材取り付け領域が提供される一方で、まとめられていない領域42,44,46は、好ましくは荷重を振り分けるための幾つかの周方向のファイバを備えつつステント移植片20の全体の輪郭を小さくするように寄与する。
【0043】
ステント58は、ステント48が第二の個別の領域40に対して位置決めされる方法と似た方法で第三の個別の領域50と重なるよう位置決めされている。特に、第三の個別の領域50は、近位のまとめられた領域51と、中間のまとめられた領域53,55と、遠位のまとめられた領域57とを備えており、一方、まとめられていない領域52,54,56は、種々のまとめられた領域51,53,55,57の間に配置されている。ステント30及び40と同様に、ステント58の近位の頂端81と遠位の頂端84とは、周方向のファイバの束が軸線方向のファイバ27と交差している交差部77においてステント移植片20に固定されている。
【0044】
最後に、ステント68は、ステント38が第一の個別の領域30に対して位置決めされている方法と似た方法で、第四の個別の領域60と重なるように位置決めされている。特に、第四の個別の領域60は近位のまとめられた領域61と遠位のまとめられた領域67とを備えており、これらの領域の間にまとめられていない領域64が配置されている。ステント30と同様に、ステント68の近位の頂端81と遠位の頂端84との各々は周方向のファイバの束が軸線方向のファイバ27と交差する交差部77においてステント移植片20に固定されている。
【0045】
注目すべき点は、まとめられていない隙間のある領域39,49,59が、図1〜2に示されているように別個の領域30,40,50,60間に配置されている点である。まとめられていない隙間のある領域39,49,59の周方向のファイバは、相対的な第二の隙間すなわちまとめられている領域よりも広い隙間を有している。従って、まとめられていない隙間の領域39,49,59内のファイバ材が少なくなっており、これは小さな給送輪郭に寄与する。
【0046】
ファイバによって補強された高分子マトリックスが設けられ、この補強された高分子マトリックスは、必要とされる支持ステントを坦持すると共に血管内での使用のような特定の用途において長期間に亘って使用される既知の荷重状態に耐えるように設計されているので有利である。
【0047】
中間のまとめられた領域は第二及び第三の個別の領域40及び50についてのみ示されているけれども、種々の個別の領域30,40,50,60のいずれもが1以上の中間のまとめられた領域を備えていても良く、又は、これらの種々の個別の領域の各々が中間のまとめられた領域を省いていても良いことは明らかであろう。更に、まとめられた領域とまとめられていない領域との正確な配置は、ステント移植片20にかかることが予想される流体力学的な力及びその他のファクタに基づいて変えても良い。
【0048】
膜25は、軸線方向のファイバ27及び周方向のファイバ28の内側に配置しても良いし又は外側に配置しても良い。図1〜2の例においては、膜25は軸線方向のファイバ27と周方向のファイバ28との両方の内側に設けられているけれども、このことは必要ではない。この例においては、膜25は、心棒の上に形成されており、所望の周方向及び軸線方向のファイバのパターンがその外側に配置されている。
【0049】
更に、ステント38,48,58,68は、膜25の外側及び/又は内側に位置決めすることができ並びに軸線方向のファイバ27及び周方向のファイバ28の外側及び/又は内側に位置決めすることができる。図1〜2の例においては、ステント38及び68は膜25の内側に配置されており(点線)、一方、ステント48及び58は膜25と軸線方向のファイバ27及び周方向のファイバ28の両方との外側に配置されている。しかしながら、膜、ステント及びファイバの内側及び外側の位置決めの種々の組み合わせが可能である。更に、2つの膜間でのステントの積層及び/又は埋め込みが可能である。更に、2つの膜間でのステントの積層/及び又は埋め込みがステントの縫合の代わりに設けられても良い。後者の実施形態においては、依然として、選択的なファイバ密度が予期される生理学的な力に対する補強領域を提供する目的で設けられている。
【0050】
製造中、該材料は心棒上に所望の向きで配置される。一つの例示的な製造ステップにおいては、ステント移植片20は、膜25を心棒の上に取り付け、次いで軸線方向のファイバ27と周方向のファイバ28とを所望の向きでかぶせることによって調製される。別の方法として、軸線方向のファイバ27と周方向のファイバ28とが心棒上に所望の向きで配列され、次いで、膜25がファイバを覆うように配置される。一つの実施形態においては、軸線方向のファイバ27と周方向のファイバ28とが心棒上に所望の向きで配列され、次いで、ステント38,48,58,68がファイバを覆うようにかぶせられ、次いで、膜25がファイバとステントを覆うように配置される。更に別の代替例として、一つの膜が心棒上に配置され、次いで軸線方向のファイバ27と周方向のファイバ28とが該第一の膜上に配置され、次いで第二の膜が第一の膜と軸線方向のファイバ27及び周方向のファイバ28とを覆うように配置される。尚更に、周方向のファイバ28のような幾つかのファイバのみが心棒に適用され、次いで膜25がその上に配置され、次いで軸線方向のファイバ27のような他のファイバが周方向のファイバ28と膜25とを覆うように配置される。要するに、種々のアセンブリの組み合わせが可能である。
【0051】
軸線方向のファイバ27と周方向のファイバ28とを所望の向きに正しく配置し且つ整合させるために、自動CNCディポジションのような種々の機構が使用される。軸線方向のファイバ27及び周方向のファイバ28を備えている膜25が、次いで、旋盤上に取り付けられる。旋盤は、ファイバの全てを覆うために希釈したポリウレタン溶液を塗布しながら、20rpmのような適当なスピードで回転せしめられる。次いで、レースが所望の速度で回転されている間、ステント移植片20が摂氏約65度で約2時間硬化せしめられすなわち乾燥される。
【0052】
次いで、上記したように、ステントが好ましくは1以上の交差部77の近くで膜25に固定される。一つの例においては、材料を組み立てるために使用される心棒は所定の位置にピンを備えている。種々のファイバがピンの周りに配列され、組み立てられた器具が心棒から取り外されるとピンによって穴が形成される。心棒のピンによって形成された穴は、続いてステントを膜に取り付けるための所定の縫合材取り付け部位を提供するので有利である。
【0053】
任意であるが、ステントは、接着技術としてポリマー封入成形を使用して膜25に結合されて縫合の必要性を排除することができる。ステントを膜25に結合するために使用される方法に関係なく、軸線方向のファイバ27と周方向のファイバ28とをステント移植片20の長さ及び外周に沿ってではあるがステント移植片20全体に沿って連続的ではなく所定位置に選択的に配向させることによって、極めて小さな給送輪郭が達成できる。
【0054】
一つの実施形態においては、膜25は、用途に応じて適当な多孔性を有しているポリマーシートを有することができる。一つの例においては、ポリマーシートはポリウレタンThoralon(商標登録)からなる。
本明細書にその全体が参考として組み入れられている米国特許出願公開第6,939,377号に記載されているように、Thoralon(商標登録)は、シロキサン含有表面改質添加剤と混合されたポリエーテルウレタンウレアである。特に、該高分子は、ベースポリマーであるBPS−215と添加剤SMA−300との混合物である。添加剤の濃度は、ベースポリマーの0.5重量%〜5重量%の範囲内である。BPS−215成分(カルフォルニア州プレザントンにあるThoralon(商標登録)Corporation)は、軟質区分と硬質区分とを含んでいる区分化ポリエーテルウレタンウレアである。軟質区分はポリテトラメチレンオキサイド(PTMO)によって作られており、硬質区分は4,4’ジフェニルメタン・ジイソシアネート(MDI)とエチレン・ジアミン(ED)との反応によって作られる。SMA−300構成要素(カルフォルニア州プレザントンにあるThoratec(登録商標)Corporationによる)は、軟質区分としてのポリジメチルシロキサンと、硬質区分としてのMDIと1,4−ブタンジオールとの反応生成物とからなるポリウレタンである。多孔質の高分子シートは基材ポリマーと添加剤とをジメチルアセトアミド(DMAC)のような溶媒内で溶解し且つこれらの混合物をベースポリマーと添加剤とに対する非溶媒である液体内で溶液流延法又は凝集によって凝固させることによって形成される。
【0055】
Thoralon(登録商標)は、ある種の血管用途において使用されて来ており、坑血栓性、高い引張り強度、低い吸水性、低い界面張力、及び良好な屈曲寿命を特徴としている。Thoralon(登録商標)は、生体安定性があり且つ生体安定性及び耐漏洩性を必要とする生体内での長期間血液接触用途に有用であると考えられている。Thoralon(登録商標)は、その可撓性により、弾力性及び伸展性が有益である腹大動脈のような大きな血管において有用である。
【0056】
更に、Thoralon(登録商標)はまた、例えば1以上の治療薬を送り込むための薬剤給送賦形剤としても使用される。該治療薬は、投与処置に続く徐放性のために膜25の多孔質の外層にコーティングされるか又はその内部に含まれ且つ例えば内膜細胞の内殖を促進するために使用される。
【0057】
Thoralon(登録商標)は一つの例であり、膜25は他の物質を含んでいても良い。Thoralon(登録商標)のようなポリウレタンに加えて又はその代わりに、膜25は何らかの生体適合性高分子材料を含んでいても良く、該高分子材料としては、非多孔質又は完質的に非多孔質のポリウレタン、PTFE、発泡PTFE(ePTFE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、脂肪族ポリオキサエステル、ポリラクチド、ポリカプロラクトン、ヒドロゲル、及びその他の非高分子材料がある。
【0058】
ステント移植片20は、広範囲の処置において使用され、例えば動脈瘤、狭窄症、解離、又はその他の状態を治癒するために使用される。当該技術において知られているように、ステント38,48,58,68は、圧縮されて直径が小さい給送状態を有している。該小径の給送状態においては、ステント移植片20は、血管、導管、又はその他の解剖学的構造部位内の目標位置へと進入せしめられ、更に、図2に示されている拡張状態を有しており、該拡張状態においては、血管、導管、又はその他の目標位置に径方向外方への力をかけて、例えば通路内に開存性を維持し、一方、管腔29はステント移植片20を介して流体を搬送するのに適している。ステント移植片20は、特に腹部大動脈又は胸部大動脈の動脈瘤又は解離を治療できる設計とされている。更に、単一の管腔器具が示されているけれども、ここで使用されている原理は分岐したステント移植片に関連させて使用することができる。
【0059】
ステント38,48,58,68は多くの金属或いは合金によって作ることができる。一つの例においては、ステント38,48,58,68はニッケルチタン合金(“ニチノール”)のような形状記憶材料からなる。更に、概ねジグザグ形状のステントが示されているけれども、ステント38,48,58,68の構造は、適切な管腔支持状態を付与するために種々の方法で形成することができる。例えば、1以上のステント30は、金網構造、レーザー加工したカニューレ、連結させた個々のリング、又は別のパターン若しくは設計によって作ることができる。採用されるステントの構造に応じて、ファイバの束の位置は、図1〜2のジグザグ型ステントの例と似た方法で適当な縫合材取り付け部位を提供するために変えることができる。
【0060】
図3〜8を参照すると、上記の原理による種々の代替的な構成要素の配列が示され且つ記載されている。例えば、図3においては、代替的なステント移植片120は、膜125、ステント138,178、及び複数の角度が付けられた軸線方向のファイバ127を備えている。膜125は図1〜2の膜25と似ており、ステント138,178は図1〜2のステント38と似ている。この例においては、ステント178は、膜125の近位端122に固定されており且つ第一及び第二の実質的に真直ぐな部分182,183を備えており、該真直ぐな部分182と183とは近位の頂端181と遠位の頂端184とによって分離されている。遠位の頂端184の各々は、図3に示されているように、膜125の近位端122に結合されている。更に、ステント138は、既に説明したように、複数の縫合材188又はその他の取り付け方法を使用して膜125に結合されている。図4に示されている複数の周方向のファイバがまとめられている領域131,133,135,137が図3の実施形態において使用されていて、図1〜2において上記した方法で縫合材188を膜125に取り付けるための取り付け領域が付与されている。
【0061】
この例においては、角度が付けられている軸線方向のファイバ127の各々は、ステント178の遠位の頂端184のうちの一つの外周に配置されている。従って、角度が付けられている軸線方向のファイバ127は、各々、ステント178から遠位方向へ離れる方向に延びている第一及び第二の区分127a及び127bを形成している。角度が付けられている軸線方向のファイバ127の第一及び第二の区分127a,127bは、ステント移植片の長手軸線Lに対してある角度で延びている。該角度は、例えば図3に示されているように約1度〜約15度の範囲内である。注目すべき点は、このような角度が付けられている軸線方向のファイバ区分127a,127bは、上に示した軸線方向のファイバ27及び周方向のファイバ28よりも伸展性があって所定位置での追従性のある支持を選択的に提供している。
【0062】
図4を参照すると、例示的な代替的ステント移植片120’はステント移植片120に似ており且つ膜125とステント138,178を備えている。図3の角度が付けられている軸線方向のファイバ27のような複数の軸線方向のファイバが採用されているが、図示においては省略されている。この例においては、複数の周方向のファイバ128が設けられている。ステント移植片の長手方向の軸線Lに概ね直角である図1〜2の周方向の縫合材28と異なり、周方向のファイバ128は、図4に示されているように、ステント移植片の長手方向の軸線Lに対して角度αで配置されている。一つの例においては、角度αは約70度〜約89度の範囲内である。図3の角度が付けられている軸線方向のファイバ区分127a及び127bと同様に、図4の角度が取り付けられている周方向のファイバ128は、周方向のファイバ28よりも伸展性があって追従性のある支持を所定の位置に選択的に付与している。
【0063】
図5〜7を参照すると、種々の代替的なステント移植片が示されている。注目すべき点は、図5〜7においては、種々の周方向のファイバ、軸線方向のファイバ、及び角度が取り付けられているファイバが、例示目的だけのために点線で示されているが、このような周方向のファイバ、軸線方向のファイバ、及び角度が付けられているファイバは、概ね連続フィラメントによって作られている。図5において、代替的なステント移植片はステント移植片120に似ており、従って同様の参照符号が付されている。図5においては、少なくとも2つの軸線方向のファイバ227a及び227bは、交差部177において種々の周方向のファイバのまとめられている領域131,133,135,137に重なっている。ステント138の近位の頂端181の各々は、図5に示されているように、交差部177のうちの一つと整合されている。従って、ステント138の近位の頂端181の各々は、周方向のファイバの束が軸線方向のファイバ227a及び227bと交差する領域でステント移植片220に固定されてステント38の少なくとも近位の頂端181のための極めて優れた縫合材取り付け領域を可能にしている。任意であるが、付加的な軸線方向のファイバが提供され、該ファイバは類似した方法で遠位の頂端184と一致している。
【0064】
図6を参照すると、代替的なステント移植片220’は図5のステント移植片220と似ている。しかしながら、図6においては、複数の周方向のまとめられた領域131,133,135,137は省かれており、複数の角度が付けられている周方向のファイバ228が使用されている。角度が付けられている周方向のファイバ228は、互いに平行であるが、ステント移植片220の長手軸線Lに対して角度αをなして配置されている。一つの例においては、角度αは約70度〜約89度である。更に、この例においては、角度が付けられている周方向のファイバ228は、1インチ(2.54センチメートル)当たり約10〜約30個の線条(TPI)で巻かれている。図6においては、縫合材188は、ステント138の各部分182及び183並びに近位の頂端181と遠位の頂端184との各々の多数の部分に沿って膜125に結合されている。
【0065】
図7を参照すると、代替的なステント移植片220”は図6のステント移植片220’と実質的に同一である。しかしながら、図7においては、角度が付けられている周方向のファイバ228’は、1インチ当たり約30〜約50の線条(TPI)で巻き付けられている。従って、図7における角度が付けられているファイバ228”の比較的密集したまとまりは、縫合材188を膜125に取り付けるための優れた部位を提供している。
【0066】
注意すべき点は、図6〜7においては、角度が付けられている周方向のファイバ228は、概ねステント138と重なっている個別の領域230に沿って相互にまとめられている。まとめられていない領域239及び249は、個別の領域230の近位側及び遠位側すなわちステントが存在していない領域に存在している。
【0067】
図8を参照すると、代替的なステント移植片320の近位部分が示され且つ記載されている。この例においては、ステント移植片320は、素材そのままの近位のステント360を備えており、この近位のステント360は膜325に結合されている。ステント360は、連続している円筒体によって作られており、該円筒体には、レーザー又は化学エッチングによってパターンが切り込まれてその壁にスリットが形成されている。結果的に得られた構造は、次いで、熱硬化せしめられて所望の最終的な形状が付与される。図8に示されているように、この形状は、一連の近位の頂端と一連の遠位の頂端とを備えた形状を有している。図8に示されているように、ステント360の近位端362は多数の互いに隣接している近位の頂端362a及び362bを備えており、一方、該ステントの遠位端364は互いに隣接している遠位の頂端388を備えており、該遠位の頂端388には穴389が形成されている。図4においては、第一の近位の頂端362aは、穴371が形成されている端部領域370を備えている。これに隣接している第二の近位の頂端362bは、一体の棘状部377が形成されている端部領域375を備えている。別の方法として、近位の頂端362aと362bとの両方が一体の棘状部377を備えていても良い。
【0068】
ステント360は、近位の頂端362a又は362bとこれに対応する遠位の頂端364との間に配置されている多数の角度が付けられている突っ張り部を備えている。例示的に、第一及び第二の角度が付けられた突っ張り部367と368とが設けられている。第一の角度が付けられている突っ張り部367は、これに隣接している第二の突っ張り部368と交差して移行領域380を形成している。ステント360の拡張は、少なくとも一部は角度が付けられている突っ張り部367,368によって提供される。該角度付きの突っ張り部は、圧縮状態では互いにほぼ平行であるが、図8に示されている拡張状態においては相対的に離れる方向に外方へ曲がる傾向がある。移行領域380の各々は、角度が付けられている区分より大きな表面積を有しており、少なくとも一つの棘状部382が遷移領域380のうちの少なくとも1つに設けられている。
【0069】
ステント380の遠位の頂端388の各々は、例えば、移植片の膜325とステント360の穴389との中を通されてループにされる1以上の縫合材を使用して膜325の近位端322に結合されている。このようにして、ステント360は、血管内での移植片の固定のための取り付け用ステントとして使用されている。例えば、膜325は、動脈瘤に重ねられて動脈瘤内への流体の流れを密封し、一方、ステント360の近位端362は、移植片材料から近位方向へ離れる方向に延びていて、例えば、動脈瘤の疾患した部分から離れた血管壁の健常な部分と係合している。明らかに、1以上の付加的なステントは、膜325の内面又は外面すなわちステント360の遠位側の位置に結合されて移植片材料全体の開存性を維持する補助となる。
【0070】
図8においては、複数の軸線方向のファイバ327と周方向のファイバ328とが、膜325の内側か外側に設けられている。該複数の軸線方向のファイバ327と周方向のファイバ328とは、上記の図1〜2に示されているように、複数の軸線方向のファイバ27と複数の周方向のファイバ28と同じように設けられている。
【0071】
更に、図8においては、図示されていない付加的な角度が付けられているファイバの束が膜325の全周を取り巻くように延びているけれども、複数の角度が付けられている軸線方向のファイバの束327a〜327dは膜325の外側に配置された状態で示されている。角度が付けられている軸線方向のファイバの束327a〜327dの各々は多数の区分391〜394を備えているけれども、これより多いか少ない区分が採用されても良い。各束327a〜327d内の2つの別個のファイバは、ステント360の遠位の頂端388において穴389に通されてループにされており、従って、2つの個々のファイバはステント360から遠位方向へ離れる方向に延びていて4つの区分391〜394を形成している。該4つの区分391〜394は、相対的に外方へ扇形に広がっており、すなわち図8に示されているように近位方向から遠位方向に延びるにつれて相対的に更に離隔するようになる。
【0072】
多数の区分391〜394が相対的に外方へ向かって扇形に広がるやり方でステント360に結合され且つ該ステント360から遠位方向に伸長している軸線方向のファイバの束327a〜327dを設けることによって、ファイバは、かさの低い外形を保持しつつステント移植片320の強度特性を補強する方法で配向されると考えられる。特に、図8のような構造は、膜325を選択的に補強することができ且つステント移植片320が近位から遠位に向かう方向への生物学的流体の流れに耐えることができるようにすると考えられる。
【0073】
図9A〜9Cを参照すると、代替的なステント移植片420は、上記したステント移植片による種々の原理を流用しており、近位端422及び遠位端424とこれらの端部間に延びている管腔429とを有する膜425を備えている。図9Aに示されている任意の方法ステップにおいては、多数の穴490が膜425の外周に開けられていて複数の列491が形成されている。一つの実施形態においては、約40個の列491が形成されている。次いで、図9Bに示されているように、対応する数の軸線方向のファイバ427が膜425に結合される。例えば、軸線方向のファイバ427の各々は特定の列491の穴490に通されてループとされている。別の方法として、穴490を省き、所望の数の軸線方向のファイバ427を膜425の内側又は外側又は内部に配列しても良い。
【0074】
図9Bにおいて、軸線方向のファイバ427が膜425に結合された後に、近位取り付けステント460が軸線方向のファイバ427の外側に配置される。ステント460は、図8に示されているステント360と似ており且つ複数の近位の頂端462と遠位の頂端464とを備えている。図9B〜9Cに示されているように、複数の角度が付けられた軸線方向のファイバの束427a〜427dが膜425の外側においてステント460に結合されている。角度が付けられている軸線方向のファイバの束427a〜427dの各々は多数の区分491〜494を備えているけれども、これより多くの又は少ない区分を採用しても良い。各束427a〜427dのうちの2つの個々のファイバが、上記図8に示されている方法でステント460の遠位の頂端464において穴に通されてループにされており、従って、該2つの個々のファイバはステント460から遠位方向に延びていて4つの区分491〜494を形成している。該4つの区分491〜494は、相対的に外方へ向かって扇形に広がっており、すなわち図9B〜9Cに示されているように近位から遠位へ向かう方向に延びるにつれて相対的に更に離れるようになっている。
【0075】
図9Cに示されているように、次のステップにおいては、次いで複数の周方向のファイバ428が膜425の外側に配列され、角度が取り付けられた軸線方向のファイバの束427a〜427dが近位のステント460の遠位側の位置に配列される。図1〜2に示された複数の周方向のファイバ28と同様に複数の周方向ファイバ428が設けられている。最終のステップにおいて、図9Cに示されているように、上記したように提供される例えばジグザグ形状のステントのような1以上のステント438が、近位のステント460の遠位側の位置において複数の周方向のファイバ428を覆うように配置される。ステント438は膜425に固定される。次いで、ステント移植片420が膜425を旋盤上に取り付けることによって調製される。この旋盤は、近位のステント460の遠位側に配置されているファイバの全てを覆うように希釈ポリウレタン溶液を塗布しながら例えば20rpmのような適当な速度で回転せしめられる。次いで、旋盤が所望の速度で回転せしめられている間に、ステント移植片420は、約2時間に亘って摂氏約65度で硬化される。
【0076】
上記したステント移植片と同様に、図9A〜9Cのステント移植片420は、近位から遠位に向かう方向に流れる生理学的流体の流れに対してより良好に耐える選択的に補強された膜425を提供すると考えられるので有利である。更に、軸線方向のファイバ427、角度が付けられた軸線方向のファイバの束427a〜427d、周方向のファイバ428を、ステント移植片420の長さ及び外周に沿った所定の位置で、しかしながらステント移植片420に沿って連続的ではなく配向させることによって、極めて小さな給送外形が達成される。
【0077】
図10を参照すると、上に示した概ね軸線方向のファイバ27及び周方向のファイバ28の代わりに、更に別の代替的なステント移植片520が、複数の第一のファイバ527と複数の第二のファイバ528とを備えており、これらはいずれも人工器官の長手軸線Lに対して実質的に平行でも直角でもない。複数の第一のファイバ527と複数の第二のファイバ528とは、重なっているが撚り合わせられてはいない。このような角度が付けられた第一のファイバ527と第二のファイバ528とは、上記した軸線方向のファイバ27及び周方向のファイバ28よりも追従性がより優れているが、依然として上記した方法で生理学的な負荷に対して有利に対処し、膜525に対するステントの取り付けを補助し、ステント移植片520の全体の輪郭を小さくするやり方で選択的に配列されている。
【0078】
図11〜21を参照すると、ステントを膜に結合させる必要性を排除した代替的な実施形態が記載されている。図11〜21の実施形態においては、少なくとも1つの表面増強部材が、少なくとも1つのステントに固定されている。該表面増強部材は、ステントの素材そのままの表面が膜に対して有する接合特性よりも強い接合特性を有している。
【0079】
図11の実施形態においては、少なくとも1つの表面増強部材605が図2の例示的なステント38の少なくとも一部分に固定されて少なくとも部分的に巻き付けられたステント638を形成している。図2にはZ型のステント38が示されているけれども、図11の実施形態においては、ステントは、代替的に、円形リング、1個以上のコイル、ダイヤモンド形状、又はその他の適当なステント形状を有している。
【0080】
この実施例においては、1つの表面増強部材605がステント38の突っ張り部の外周に連続的に巻き付けられているが、ステント38は、実質的に、真直ぐな第一の区分82及び第二の区分83並びに近位の頂端81及び遠位の頂端84の形態の屈曲した区分を備えている。表面増強部材605は、ステント38の突っ張り部の外周に巻き付けられると、例えば、結び付け、接着、又はカニューレのようなその他の機構によって定位置に保持される。
【0081】
任意であるが、多数の表面増強部材605はステント38の突っ張り部の外周に少なくとも部分的に巻き付けられても良い。多数の表面増強部材605が使用されている場合には、これらの表面増強部材は相互に結合たとえば結び付けられる。別の方法として、個別の表面増強部材605の各々は、1以上の突っ張り区分に沿って所定の距離に亘って広がっていても良い。後者の実施形態の例においては、第一の表面増強部材605は、ステント38の一つの第一の区分82のある長さのみに沿って広がっており、一方、第二の表面増強部材605は、ステント38の1つの第二の区分83のある長さのみに沿って広がっている。この例においては、表面増強部材605は、給送輪郭を小さくする補助となる近位の突っ張り部81と遠位の突っ張り部84との外周に巻き付けられる必要はない。
【0082】
一方、図11に示されているように、一つの単一の表面増強部材605が、第一区分82及び第二の区分83と近位の頂端81及び遠位の頂端84との全てを備えているステント38の全長の外周に巻き付けられる場合には、単一の表面増強部材605は比較的迅速に全ての区分の外周に巻き付けることができ且つ次いで唯一の結び付け又はその他の固定ステップを必要とするだけであるので、製造は比較的容易になる。1以上の表面増強部材605が使用されるか否かに拘わらず、各表面増強部材は、図11に示されているように、比較的引き締めてステント38の突っ張り部に固定されるのが好ましい。
【0083】
1以上の表面増強部材605は、下に図20〜21に関して詳細に説明されるように、ステント38の素材そのままの表面の接合特性よりも強い接合特性を有している種々のタイプの材料によって構成することができる。一つの例として、1以上の表面増強部材605はフィラメントを含んでおり、該フィラメントは、縫合材、撚り糸、単ストランド材、多ストランド材、高い接合特性を有する細いワイヤー等によって構成することができる。表面増強部材605は、特に膜が硬化させた高分子からなる場合に、膜に対して比較的強い接合を達成することができる。特に、1以上の表面増強部材605は合成線維縫合材からなり、該合成線維縫合材は、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートのようなポリエステルによって作ることができる。これらの材料は、編み上げ、捩り、又はその他の多面増強部材構造を有する単一面増強部材縫合材ストランド又は多面増強部材ストランドとして使用することができる。縫合材は、表面増強部材605の一つの例であるけれども、ステントの素材そのままの表面と膜との間の接合と比較して膜に対して比較的強い接合を達成することができる他の材料をステントに固定結合させても良い。一つの例示的な実施形態においては、フィラメントの特性は約10デニール(Denier)〜約200デニールの範囲内である。
【0084】
1以上の表面増強部材605のピッチは変えても良い。図11の例においては、単一の表面増強部材605のピッチは、互いに隣接するらせん状のループが相対的にほぼ同じ距離だけ隔てられていてほぼ一定であり、第一の区分82について約6本のらせんループ、第二の区分83に対して約6本のらせんループ、及び近位の頂端81と遠位の頂端84との各々の近く又は下に1本のらせん状のループを備えている。しかしながら、巻き付けピッチは、図11に示されているものより多くても少なくても良く且つ下の図15〜17において更に説明するように一つの別個の区分と次の別個の区分との間で変えても良い。
【0085】
図12〜14を参照すると、一般的な縫合材の必要性を排除した巻き付けられたステント638を備えている人工器官を形成するための例示的な製造ステップが記載されている。第一のステップにおいては、上記の種々の実施形態において詳細に説明した膜25、軸線方向のファイバ27、周方向のファイバ28、及び/又は角度が付けられたファイバ127の何らかの組み合わせが、心棒の外周に所望の形態で配置される。図12の例においては、膜25が軸線方向のファイバ27と周方向のファイバ28との内側に配置されており、一方、角度が付けられているファイバ127は省かれている。この場合には、膜25は心棒上に形成されており、所望の周方向及び軸線方向のファイバパターンがその外側に配置されている。図12〜14の実施形態においては、縫合材取り付け箇所が省かれているので、図1〜2に示したまとめられている領域は排除されていて周方向のファイバ28同士は相対的にほぼ同じ距離だけ隔置されるようになされている。しかしながら、任意であるが、図12〜14の実施形態における周方向のファイバ28同士は相対的に可変の間隔を備えており、例えば周方向ファイバ28は、生理学的負荷が比較的大きいと予想される領域にまとめられている。
【0086】
図13を参照すると、次のステップにおいては、巻き付けられたステント638のうちの少なくとも1つが、膜25、軸線方向のファイバ27、周方向のファイバ28を覆うように配置されている。この例においては、4本のステント638a,638b,638c,638dが、人工器官の軸線方向の長さに沿ってほぼ等間隔で配置されている。図14においては、次いで、膜25、軸線方向のファイバ27、周方向のファイバ28、巻き付けられたステント638a〜638dが、膜625によって覆われる。膜625は、膜25に関して上記したThoraln(登録商標)のような高分子溶液を含んでいる。次いで、完成されたステント移植片620は、旋盤が所望のスピードで回転されている間、約2時間に亘って摂氏約65度で硬化すなわち乾燥せしめられる。
【0087】
巻き付けられたステント638a〜638dを備えている図14の完成されたステント移植片620は、時間がかかる縫合技術を使用して個々のステントを膜25に結合させる必要のない優れた構造的一体性を有するので有利である。下の図20〜21に記載されている試験データは、ここに開示された1以上の表面増強部材605を備えているステント38を採用しているステント移植片が、表面増強部材605を備えていない素材そのままのステント38を使用しているステント移植片と比較して、構成要素間に更に耐久性のある接合をもたらすという結論を裏付けている。特に本発明者は、膜25及び625を適用し硬化させる前に少なくとも1つの表面増強部材605をステント38に固定することによって、ステントの素材そのままの金属表面とは対照的に、硬化せしめられた膜がステントに固定された1以上の表面増強部材605の表面に更に良好に接合すると判断した。
【0088】
図12〜14の実施形態においては、膜25及び625のうちの一方または両方が使用されている。図12〜14に示されているように両方の膜25及び625が使用されている場合には、膜25は内側の膜を形成し、膜625は外側の膜を形成する。このような実施形態においては、軸線方向のファイバ27、周方向のファイバ28、表面増強部材605を備えているステント638a〜638dは、概ね内側の膜25と外側の膜625との間にサンドイッチされている。硬化せしめられた内側の膜25と外側の膜625とは、軸線方向のファイバ27、周方向のファイバ28、及びステント38に固定された表面増強部材605に堅固に接合されている。
【0089】
代替的な実施形態においては内側の膜25は省かれている。後者の例においては、軸線方向のファイバ27、周方向のファイバ28、及び/又は角度が付けられているファイバ127が、それらの上に膜がない状態で心棒の周囲に直に配置され、次いで、巻き付けられたステント638a〜638dがファイバを覆うように配列され、膜625が、巻き付けられたステント638a〜638dとファイバとを覆うように塗布される。膜625は、今まで通り、ステント38に固定されている1以上の表面増強部材605に堅固に結合されると共に種々の軸線方向のファイバ27及び周方向のファイバ28に接合されるようになり、ステント38及び別個の内側膜と外側膜との間の種々のファイバを完全に封入する必要がない。
【0090】
別の方法として、内側の膜25のみが採用され且つ外側の膜625が省かれても良い。この例においては、ステント移植片は、図13に示されている形状で硬化せしめられる。内側の膜25は、硬化すると、ステント38に固定されている1以上の表面増強部材605に堅個に接合できるようになると共に、別個の内側膜と外側膜との間のステント38及び種々のファイバを完全に封入する必要なく、種々の軸線方向のファイバ27及び周方向のファイバ28に接合できるようになる。
【0091】
図15〜17を参照すると、上記したように、1以上の表面増強部材605のピッチは、択一的な巻き付けステント638’,638”,638”’の一部として変えることができる。図示の明確化のために、ステントの突っ張り部の外周に巻き付けられている表面増強部材605の三次元特性は図15〜17においては省略されている。図15の例においては、互いに隣接しているらせん状のループは相互にほぼ同じ距離だけ隔てられているので、1以上の表面増強部材605’のピッチは概ね一定であるが図11の実施形態より小さいピッチが付与されており、このピッチは、第一の区分82当たり約3本のらせん状ループと第二の区分83当たり約3本のらせん状のループとを備えている。図16の例においては、1以上の表面積増強部材605”のピッチはほぼ一定であるが、図11の実施形態より高いピッチが提供されており、このピッチは、第一の区分82当たり約8本のらせん状のループと第二の区分83当たり約8本のらせん状のループとを備えている。図17の例においては、1以上の表面増強部材605”’のピッチは、ステントに沿って変化していて、第一の区分82と第二の区分83とのうちの一つに沿って約3本のらせん状のループを備えており、次の互いに隣接している第一の区分82と第二の区分83とに沿って約8本のらせん状のループを備えており、次の互いに隣接している第一の区分82と第二の区分83とに沿って約13本のらせん状のループを備えている。
【0092】
図15〜17の実施形態においては種々の利点が達成される。図15に示されている小さなピッチを付与することによって、ステントを1以上の膜に縫合する必要なく表面増強部材605’と膜25及び/又は625との間の耐久性に優れた結合を依然として促進しつつ小さな外形が達成される。図16に示されている比較的高いピッチを付与することによって、1以上の表面増強部材605”に存在する表面積が大きくされて、硬化された膜25及び/又は625がステントに固定されている表面増強部材605の表面に更に良好に接合せしめられる。更に、図16の実施形態は、硬化せしめられた膜が接合する可能性がより少ないステントの曝される金属表面の表面積を表面増強部材605”より小さくしている。図17の実施形態においては、可変のピッチは、比較的低いピッチの領域に小さな外形をもたらし且つ比較的高いピッチの領域に膜25及び/又は625に対する比較的強い接合をもたらすという両方の利点をもたらす。図11及び図15〜17に示されている巻き付けパターンは提供される唯一のパターンではないことは明らかである。ここに示されている原理に従って他のパターンが付与されても良い。
【0093】
更に、図11及び13〜17に示されているもの以外の他のステント構造が付与されても良い。図18を参照すると、代替的な実施形態においては、ステント移植片620’は図12〜14のステント移植片620について使用されている技術と同じ技術に従って製造されるが、複数の代替的なステント650,660,670が付与されている。ステント650及び660は、各々、上記のステント638と似たジグザグ形状を有しているが、複数の一体の棘状部651が形成されている。図18に示されているように、ステント670は3つの区分671,672,673を備えており、第一の区分671と第三の区分673とは代替的に短い輪線方向の長さと多数の頂端とを有しており、中間の第二の区分672は、比較的長い軸線方向の長さと比較的少ない頂端とを備えている。図11に関して上記したように、1以上の表面増強部材605がステント650,660,670の各々に固定されている。図18のステント移植片620’の組立が上記した図12〜14の技術に従って完了すると、ステント650,660,670に固定された1以上の表面増強部材605の表面領域の存在によって、膜25及び/又は625に対する更に強い接合がもたらされる。ここでは概してジグザグ形状のステントが示されているけれども、該少なくとも1つの表面増強部材605を何らかの適当な形状のステントに固定することができる。適当なステントの形状としては、限定的ではないが、フープ形状、ダイヤモンド形状等の突っ張り部を備えたステントがある。
【0094】
図19〜21を参照すると、本発明によってなされた負荷試験結果は、1以上の表面増強部材605が固定されているステントは硬化された高分子ステント移植片の一部としてより強い接合特性を付与することを示している。図19に示されている試験においては、サンプルのステント移植片620”は、軸線方向のファイバ27a及び27bが省かれている点を除いて概して図14のステント移植片620によって形成されている。ステント移植片620”は、図11の巻き付けられたステント638を備えており、該ステントはステント38に固定されている1以上の表面増強部材605を備えている。この特別な試験においては、ポリエステルフィラメントを表面増強部材605として使用した。負荷試験部材680がステント移植片620”の一部分に結合され、次いで、近位方向へ後退せしめられる一方でステント移植片620の遠位端は固定された静止部材に固定されたままである。最大破壊荷重は、荷重試験部材680の後退中にステント移植片620”の一部が破壊されるのに必要とされる力の大きさとして判定した。本発明者は、少なくとも1つの表面増強部材605がステント38に固定された状態で形成された多くの異なるステント移植片620”を試験した。10個のサンプルについての結果が図20に示されている。
【0095】
本発明者は更に別の10個のステント移植片を試験した。これらのステント移植片は、ステント38に固定される表面増強部材605を省いているが、その他の点では、軸線方向のファイバ27a及び27bが省かれている以外は図14のステント移植片620”に従って製造されたものである。表面増強部材605を省いた10個のサンプルの結果が図21に示されている。表1は、図20〜21において行なわれた試験に関する関連性のあるデータを表している。
【0096】
表1は、図20〜21においてなされた試験に関する関連するデータを表している。
【表1】

【0097】
ステント38に固定された少なくとも1つの表面増強部材605が設けられているステント移植片は、表面増強部材605を省いたサンプルよりも37.4%高い引張り強度をもたらすので有利である。このパーセントは、サンプルの部類間の差が13.44N−9.78N=3.66Nであり、この3.66Nを9.78で割ると37.4%となるとして計算されている。更に、ステント38に固定されている少なくとも1つの表面増強部材605が設けられているステント移植片は、表面増強部材が省かれているサンプルに対して最大荷重で5%高い平均の伸びをもたらした。更に、ステント38に固定された少なくとも1つの表面増強部材605が設けられているステント移植片は、個々の最小荷重(9.69N)及び個々の最大荷重(16.47N)において、表面増強部材を省いているサンプルよりも良好に機能した。
【0098】
要するに、該試験データは、ここに開示されている原理に従ってステントに固定されている少なくとも1つの表面増強部材が設けられたステント移植片は、人工器官の構成部品間に、より耐久性のある接合を付与することを示している。特に、少なくとも1つの表面増強部材605は、ステントの素材そのままの表面が膜に対して有する接合特性よりも強い接合特性を膜に対して有している。
【0099】
以上、本発明の種々の実施形態を説明したけれども、更に多くの実施形態及び手段が本発明の範囲内で可能であることが当業者には明らかとなるであろう。従って、本発明は、添付の特許請求の範囲及びその等価物を参考にすること以外、限定されるべきではない。更に、ここに記載されている利点は、必ずしも本発明の唯一の利点ではなく、本発明の実施形態のどれもがここに記載されている利点の全てを必ず達成するとは考えられるべきではない。
【符号の説明】
【0100】
20 ステント移植片、 22 近位端、
24 遠位端、 25 膜、
27,27a,27b 軸線方向のファイバ、
28 周方向のファイバ、 29 管腔、
30 第一の個別の領域、 31 近位のまとめられた領域、
34 まとめられていない領域、 37 遠位のまとめられた領域、
38 ステント、 39 まとめられていない領域、
40 第二の個別の領域、 41 近位のまとめられた領域、
42,44,46 まとめられていない領域、
43,45 中間の束、 47 遠位のまとめられた領域、
48 ステント、 49 まとめられていない領域、
50 第三の個別の領域、 51 近位のまとめられた領域、
52 まとめられていない領域、 53 中間のまとめられた領域、
54 まとめられていない領域、 55 中間のまとめられた領域、
56 まとめられていない領域、 57 遠位のまとめられた領域、
58 ステント、 59 まとめられていない領域、
60 第四の個別の領域、 61 近位のまとめられた領域、
64 まとめられていない領域、 67 遠位のまとめられた領域、
68 ステント、 77 交差部、
81 近位の頂端、 82 真っ直ぐな第一の区分、
83 真っ直ぐな第二の区分、 84 遠位の頂端、
120 ステント移植片、 120’ ステント移植片、
122 膜の近位端、 125 膜、
127,127a,127b 軸線方向のファイバ区分、
128 周方向のファイバ、
131,133,135,137 まとめられている領域、
138 ステント、 178 ステント、
181 近位の頂端、 182 真っ直ぐな部分、
183 真っ直ぐな部分、 184 遠位の頂端、
188 複数の縫合材、 220 ステント移植片、
227a,227b 軸線方向のファイバ、
228,228’ 周方向のファイバ、
230 個別の領域、 239 まとめられていない領域、
249 まとめられていない領域、 320 ステント移植片、
322 膜の近位端、 325 膜、
327a,327b,327c,327d 軸線方向のファイバの束、
328 周方向のファイバ、 360 ステント、
362 近位端、 362a,362b 近位の頂端、
368 突っ張り部、 370 端部領域、
371 穴、 377 棘状部、
380 移行領域、 382 棘状部、
388 遠位の頂端、 389 穴、
391,392,393,394 区分、
420 ステント移植片、 422 近位端、
424 遠位端、 425 膜、
427 軸線方向のファイバ、
427a,427b,427c,427d 角度が付けられた軸線方向のファイバの束、
428 周方向のファイバ、 429 管腔、
438 ステント、 460 ステント、
462 近位の頂端、 464 遠位の頂端、
490 穴、 491,492,493,494 区分、
520 ステント移植片、 527 第一のファイバ、
528 第二のファイバ、
605,605’,605”,605a,605b,605c,605d 表面増強部材、
620 完成されたステント移植片、 620’,620” ステント移植片、
625 外側の膜、 638 巻き付けられたステント、
638’,638”,638”’ ステント、
638a,638b,638c,638d 巻き付けられたステント、
650 ステント、 651 棘状部、
670 ステント、 671 第一の区分、
672 第二の区分、 673 第三の区分、
680 荷重試験部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管腔内人工器官であり、
表面を有する少なくとも1つのステントと、
該ステントとは別個であり且つ該ステントの表面の少なくとも一部分の周囲に巻き付けられている少なくとも1つの表面増強部材と、
その中を流体が流れるのを許容する管腔を備え、前記少なくとも1つのステントと前記少なくとも1つの表面増強部材との外周に同軸状に配置され且つ前記少なくとも1つの表面増強部材に接合された第一の膜と、を備えており、
前記第一の膜と前記少なくとも1つの表面増強部材との間の接合が、前記第一の膜と前記ステントの表面との間の接合強度よりも大きい接合強度を有している、ことを特徴とする管腔内人工器官。
【請求項2】
前記表面増強部材が、前記ステントと前記第一の膜とが同軸状に重ねられる前に、前記ステントに固定される、ことを特徴とする請求項1に記載の管腔内人工器官。
【請求項3】
前記表面増強部材がフィラメントからなる、ことを特徴とする請求項1に記載の管腔内人工器官。
【請求項4】
前記ステントが、少なくとも1つの突っ張り部を備えており、前記表面増強部材が前記突っ張り部の外周に巻き付けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の管腔内人工器官。
【請求項5】
前記第一の膜が硬化せしめられた高分子溶液からなる、ことを特徴とする請求項1に記載の管腔内人工器官。
【請求項6】
前記高分子が前記ステントを封入している、ことを特徴とする請求項1に記載の管腔内人工器官。
【請求項7】
第二の膜を更に備えており、前記第一の膜が前記ステントの内側に配置されており、前記第二の膜が前記ステントの外側に配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載の管腔内人工器官。
【請求項8】
前記少なくとも1つの表面増強部材が前記ステントの一区分の外周にらせん状に巻き付けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の管腔内人工器官。
【請求項9】
前記少なくとも1つの表面増強部材が前記ステントの第一の区分の外周に第一のピッチで巻き付けられており且つ前記ステントの第二の区分の外周に第二のピッチで巻き付けられており、該第一のピッチと第二のピッチとは相互に異なっている、ことを特徴とする請求項8に記載の管腔内人工器官。
【請求項10】
前記少なくとも1つの表面増強部材が、前記ステントのある長さに亘ってその外周に連続的に巻き付けられ且つそれ自体が結び付けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の管腔内人工器官。
【請求項11】
前記ステントが近位の頂端と遠位の頂端とによって分離されている複数の概ね真直ぐな区分を備えているジグザグ形状を有しており、前記少なくとも1つの表面増強部材が、前記概ね真直ぐな区分並びに近位及び遠位の頂端の外周に巻き付けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の管腔内人工器官。
【請求項12】
前記第一の膜に対して所望の向きに配列されている複数の周方向のファイバを更に備えており、該複数の周方向のファイバは相対的に離隔されており、前記第一の膜は前記少なくとも一つの表面増強部材と前記複数の周方向のファイバとに結合されている、ことを特徴とする請求項1に記載の管腔内人工器官。
【請求項13】
管腔内人工器官であり、
外周面を備えている少なくとも1つの突っ張り部を備えている少なくとも1つのステントと、
前記突っ張り部から離隔され且つ該突っ張り部の少なくとも一部分の外周に巻き付けられている少なくとも1つのフィラメントと、
内部を流体が流れるのを許容する管腔を備え、前記少なくとも1つのステント及び前記少なくとも1つのフィラメントとの外周に同軸状に配置され且つ前記少なくとも1つのフィラメントに接合されている第一の膜と、を備えており、
前記第一の膜と前記少なくとも1つのフィラメントとの間の接合が、前記第一の膜と前記ステントの曝されている面との間の接合強度よりも大きい接合強度を有している、ことを特徴とする管腔内人工器官。
【請求項14】
前記ステントが近位の頂端と遠位の頂端とによって分離されている複数の概ね真直ぐな区分を備えているジグザグ形状を有しており、前記少なくとも1つの表面増強部材が、前記概ね真直ぐな区分並びに近位及び遠位の頂端の外周に巻き付けられている、ことを特徴とする請求項13に記載の管腔内人工器官。
【請求項15】
前記第一の膜が硬化せしめられた高分子溶液からなる、ことを特徴とする請求項13に記載の管腔内人工器官。
【請求項16】
第二の膜を更に備えており、前記第一の膜が前記ステントの内側に配置されており、前記第二の膜が前記ステントの外側に配置されている、ことを特徴とする請求項13に記載の管腔内人工器官。
【請求項17】
管腔人工器官であり、
高分子溶液からなり且つ流体の流れを許容する管腔を備えている第一の膜と、
収縮状態と拡張状態とを有しているステントと、
前記ステントとは別であり且つ前記ステントと前記第一の膜とを同軸状に重ねる前に前記ステントに固定される少なくとも1つの表面増強部材と、を備えており、
前記ステントと前記第一の膜とを同軸状に重ねた後に、前記高分子溶液が硬化されることによって、前記少なくとも1つの表面増強部材の表面が前記高分子溶液に堅固に接合されるようにした、管腔内人工器官。
【請求項18】
高分子溶液からなる第二の膜を更に備えており、前記第一の膜が前記ステントの内側に配置されており、前記第二の膜が前記ステントの外側に配置されている、ことを特徴とする請求項17に記載の管腔内人工器官。
【請求項19】
前記少なくとも一つの表面増強部材が縫合材を備えており、該縫合材は前記ステントの少なくとも1つの区分の外周に巻き付けられている、ことを特徴とする請求項17に記載の管腔内人工器官。
【請求項20】
前記少なくとも1つの表面増強部材が、前記ステントのある長さに亘ってその外周に連続的に巻き付けられており且つそれ自体が結び付けられている、ことを特徴とする請求項17に記載の管腔内人工器官。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−192181(P2012−192181A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−55856(P2012−55856)
【出願日】平成24年3月13日(2012.3.13)
【出願人】(511152957)クック メディカル テクノロジーズ エルエルシー (76)
【氏名又は名称原語表記】COOK MEDICAL TECHNOLOGIES LLC
【Fターム(参考)】