説明

管路などの構造物の止水方法

【課題】 下水管などの管路に漏水が発生した場合に、その漏水発生箇所を、容易かつ確実に、しかも経年劣化の少ない状態で、止水できるようにする。
【解決手段】 管10、11などの構造物における止水すべき部分の内周に、互いに向かい合う平行な一対の側面を有する溝21を加工する。溝21には、水膨張性ゴム31と水膨張性の充填材32とを充填する。また、溝21における、充填された水膨張性ゴム31と水膨張性の充填材32との内周に、硬化型の充填材33を充填する。溝21は、管10、11などの構造物の内周にレールを仮設し、このレールに案内される走行式の加工機によって加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は管路などの構造物の止水方法に関し、特に、ヒューム管などにより形成された下水道管や地中配線保護用のさや管などの管路、地下道、隧道などの構造物における、コンクリートの目地や打ち継手、さらにはクラック発生部に適用可能な、管路などの構造物の止水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このような管路などの構造物は地中に敷設されるのが一般的であるが、たとえばその継手部に損傷が生じると、漏水すなわち地下水の浸入などが発生するおそれがある。
漏水が発生した場合には、従来は、たとえば図5に示すような処置が施されている。すなわち、図5において、10、11は互いに接合される一対のヒューム管で、一方の管10の端部に形成された受口12の内部に、他方の管11の端部に形成された挿口13が挿入されることで、これらの管10、11どうしが互いに接合されている。14は、受口12と挿口13との間のシール材である。たとえば、受口12と挿口13との間に漏水が生じた場合には、管内に作業者が入って、受口12の奥端と挿口13の先端との間を全周にわたってハンマーやドリルではつり、図示のようにその部分に横断面V字形の環状溝15を形成する。そして、この環状溝15にセメント系の急結止水材16を充填し、その後に表面仕上げ材を塗布している(非特許文献1)。
【非特許文献1】建設省都市局下水道部監修「下水道施設維持管理積算要領 −管路施設編−」社団法人日本下水道協会発行 1999年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、セメント系の止水材16を手作業によって充填する必要があるため、工事に手間を要するという技術的課題がある。しかも、セメント系の止水材16の充填だけで止水しているので、浸入水が多い場合は止水が困難であり、確実な止水のために、別途、薬液注入などの補助工事が必要となる場合がある。また施工時点では止水できた場合であっても、管路の沈下や地震などによる目地開きにより再度浸入水が生じる可能性も高く、しかも経年劣化が早いという課題もある。
【0004】
そこで本発明は、下水管などの管路などの構造物に漏水が発生した場合に、その漏水発生箇所を、容易かつ確実に、しかも経年劣化の少ない状態で、止水できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するため本発明の管路などの構造物の止水方法は、管路などの構造物における止水すべき部分の内周に、互いに向かい合う平行な一対の側面を有する溝を加工し、この加工により形成された溝に水膨張性の止水材を充填し、さらに前記溝における水膨張性の止水材よりも内周側に硬化性の充填材を充填するものである。
【0006】
このようにすると、水膨張性の止水材によって止水を図るため、従来のようなセメント系の止水材を用いる場合に比べて、漏水発生箇所を、容易な作業で、確実に、しかも経年劣化の少ない状態で、止水することができる。しかも、水膨張性の止水材が、互いに向かい合う平行な一対の側面を有する溝の内部で膨張することで、所要の面圧を発生させることができて、高度な止水性を発揮することができる。さらに水膨張性の止水材よりも内周側を硬化性の充填材で覆うことになるため、溝に対する水膨張性の止水材の面圧を維持することができるとともに、止水部の内面を平滑にすることができる。
【0007】
本発明によれば、上記において、水膨張性の止水材として、まず定形断面の水膨張性のゴム系シール材を充填し、次に前記ゴム系シール材よりも内周側に非定形で粘着性を有する水膨張性の充填材を充填するものである。
【0008】
このようにすると、まず定形断面の水膨張性のゴム系シール材を充填するため、充填作業を簡単かつ短時間のうちに行うことができる。さらにその内周側を非定形で粘着性を有する水膨張性の充填材で覆うことになるため、水場での作業でも止水部を確実に封止することができるのみならず、加工した溝にクラックなどが存在して定形断面のゴム系シール材では追随できないような場合においても確実に止水することができる。
【0009】
また本発明によれば、上記において、管の内周にレールを仮設し、このレールに案内される走行式の加工機によって溝加工を施すものである。
このようにすると、確実に溝加工することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように本発明によると、管路などの構造物における止水すべき部分の内周に、互いに向かい合う平行な一対の側面を有する溝を加工し、この加工により形成された溝に水膨張性の止水材を充填し、さらに前記溝における水膨張性の止水材よりも内周側に硬化性の充填材を充填するため、水膨張性の止水材によって止水を図ることで、従来のようなセメント系の止水材を用いる場合に比べて、漏水発生箇所を、容易な作業で、確実に、しかも経年劣化の少ない状態で、止水することができ、しかも、水膨張性の止水材が、互いに向かい合う平行な一対の側面を有する溝の内部で膨張することで、所要の面圧を発生させることができて高度な止水性を発揮することができ、さらに水膨張性の止水材よりも内周側を硬化性の充填材で覆うことになるため、溝に対する水膨張性の止水材の面圧を維持することができるとともに、止水部の内面を平滑にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態の管路などの構造物の止水方法について、図面を参照しながら、図5に示したものと同一の部材には同一の参照番号を付して、詳細に説明する。
図1に示すように、管10の端部に形成された受口12と管11の端部に形成された挿口13との間に漏水が発生した場合には、受口12の奥端と挿口13の先端との間に、横断面矩形状の環状溝21を、全周にわたって、機械加工により形成する。環状溝21は、上述のように横断面矩形状であることで、互いに向かい合う平行な一対の側面が管10の径方向に形成された構成になる。
【0012】
図3および図4は、環状溝21を機械加工するための加工装置を示す。すなわち、管10または11の内周にわたって環状の枠構造のガイドレール22を仮設し、このガイドレール22に案内されて管内を周方向に走行する加工機23を設ける。加工機23は、カッタ24を備えた自走式の本体部25と、この本体部25から管径方向に延びるように配置されたシリンダ装置26と、シリンダ装置26の先端に設けられるとともに、本体部25から管の周方向に沿って180度離れた位置に配置されたガイド部27とを有する。ガイド部27は、台車構造であり、ガイドレール22に案内された状態で管内を周方向に移動自在である。すなわち、本体部25は、シリンダ装置26の作用によってガイド部27を管内における径方向の反対側のガイドレール22の部分に突っ張り、この環状のガイドレール22に支持されかつ案内された状態で、管内を周方向に走行可能である。このため、たとえば本体部25が管頂部に位置したときであっても、この本体部25は、ガイドレール22およびガイド部27およびシリンダ装置26によって下側から支えられた状態で、落下することなく安定してガイドレール22に沿って走行できることになる。本体部25が管側部やその他の箇所に位置するときも同様である。
【0013】
そして、このように加工機23すなわちその本体部25が管の内周を走行するときに、カッタ24の作用により、図1に示すような横断面矩形状の環状溝21を、管内周にわたって形成可能である。
【0014】
環状溝21の形成後は、シリンダ装置26を短縮して加工機を小さく構成し、かつ仮設状態のガイドレール22を解体して、ともに管外へ搬出することができる。
【0015】
こうすることで、図1に示すように環状溝21が全周にわたって形成されるため、この溝21の底部に沿って管内の全周に、水膨張性の止水材を構成する定形断面の水膨張性のゴム系シール材としての、横断面円形の紐状の水膨張性ゴム31を充填する。このとき、水膨張性ゴム31の充填深さを一定にするとともに、充填を容易に行えるようにするために、溝21内に挿入することができるローラにて水膨張性ゴム31を押し込むようにして充填することが好適である。そして、この水膨張性ゴム31よりも内周側における溝21の内部に、水膨張性の止水材を構成する第1の目地材として、湿潤面で使用可能な、非定形で粘着性を有する水膨張性の充填材32を充填する。
【0016】
このような水膨張性ゴム31や水膨張性の充填材32としては、たとえば旭電化工業社製の、「アデカウルトラシール KBA−15」や、水膨張性一液弾性シーラント「アデカウルトラシール P−101」などを挙げることができる。このうち、「アデカウルトラシール KBA−15」は、ゴム弾性圧により止水するとともに、施工後に起こる受口12と挿口13とのずれにより生じる間隙を水膨張により止水する、二重ロックシステムのシール材である。また発泡ゴムにより形成された丸棒状体であるため、目開きのある施工場所で容易に圧縮され、しかも受口12や挿口13などに悪影響を与えずに施工することができるものである。「アデカウルトラシール P−101」は、変成ウレタン系の水膨張性一液弾性シーラントで、作業性に優れるという特長を有する。また、空気中の湿気により硬化して、復元性に優れたゴム弾性体になる。浸入水に触れると、自己体積膨張し、空隙を充填して、より確実なシール効果を発揮するものである。
【0017】
水膨張性ゴム31の水膨張率は1.3程度が適当であり、また水膨張性の充填材32の水膨張率は1.2程度が適当である。さらに、充填材32よりも内周側における溝21の内部に、第2の目地材として、膨張性を有しない硬化性のモルタル系あるいはセメント系の充填材33を充填する。この充填材33は、図示のように管10、11の内面と面一になるように充填することが好適である。図2(a)は、水膨張性ゴム31や充填材32、33の充填状況を詳細に示す。
【0018】
このように、環状溝21に紐状の水膨張性ゴム31を充填し、その内周側にわずかな量の充填材32、33を充填するだけであるので、工事に手間を要さず簡単に施工することができる。したがって、たとえば上述の従来のはつり・充填工事と補助工事としての止水用薬液注入工事とを併用する場合に比べて、工事費を1/3程度にまで大幅に低減することができる。また、工期も1/2程度にまで短縮することができる。しかも、環状溝21を機械加工によって形成するため、作業者が手作業ではつり工事を行うような場合に比べて、溝深さを一定にすることができ、このため水膨張性ゴム31の膨張スペースを溝21の最深部に確保することができ、したがって膨張時に目地材としての充填材32、33を管内に押し上げるような事態の発生を防止することができる。また、水膨張性ゴム31や水膨張性の充填材32が、互いに向かい合う平行な一対の側面を有する環状溝21の内部で膨張することで、所要の面圧を発生させることができて、高度な止水性を発揮することができる。しかも、定形断面の水膨張性ゴム31の内周側を非定形で粘着性を有する水膨張性の充填材32で覆うことになるため、水場での作業でも止水部を確実に封止することができる。さらに水膨張性ゴム31および水膨張性の充填材32よりも内周側を硬化性の充填材33で覆うことになるため、環状溝21に対する水膨張性ゴム31や水膨張性の充填材32の面圧を維持することができるとともに、止水部の内面を平滑にすることができる。
【0019】
図1および図2(a)に示す状態から、たとえば図1に示す受口12と挿口13との間に漏水すなわち管外からの浸入水があった場合には、水膨張性ゴム31と充填材32とが膨張しようとする。しかし、環状溝21の開口が充填材33によって固く塞がれているため、容積は増えず、その代わりに図2(b)に示すように環状溝21の内部が圧密状態となって、管内への漏水が確実に防止されることになる。このため、浸入水の多少にかかわらず、確実に止水することができる。また、水膨張性ゴム31を用いるために、経年変化が少ないという利点もある。しかも、定形断面の水膨張性ゴム31の内周側を非定形で粘着性を有する水膨張性の充填材32で覆うことになるため、加工した溝21にクラックなどが存在して定形断面の水膨張性ゴム31だけでは追随できないような場合においても、止水することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態の管路などの構造物の止水方法を説明するための管継手部の断面図である。
【図2】図1における要部の拡大図である。
【図3】環状溝を加工するための装置の構成を示す正面図である。
【図4】図3に示される装置の要部の平面図である。
【図5】従来の管路の止水方法を説明するための管継手部の断面図である。
【符号の説明】
【0021】
10 ヒューム管
11 ヒューム管
21 環状溝
22 ガイドレール
23 加工機
31 水膨張性ゴム
32 水膨張性の充填材
33 充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管路などの構造物における止水すべき部分の内周に、互いに向かい合う平行な一対の側面を有する溝を加工し、この加工により形成された溝に水膨張性の止水材を充填し、さらに前記溝における水膨張性の止水材よりも内周側に硬化性の充填材を充填することを特徴とする管路などの構造物の止水方法。
【請求項2】
水膨張性の止水材として、まず定形断面の水膨張性のゴム系シール材を充填し、次に前記ゴム系シール材よりも内周側に非定形で粘着性を有する水膨張性の充填材を充填することを特徴とする請求項1記載の管路などの構造物の止水方法。
【請求項3】
管の内周にレールを仮設し、このレールに案内される走行式の加工機によって溝加工を施すことを特徴とする請求項1または2記載の管路などの構造物の止水方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−29451(P2006−29451A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209279(P2004−209279)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(590002208)横浜市 (13)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【出願人】(594115463)株式会社中野製作所 (9)
【出願人】(000000387)旭電化工業株式会社 (987)
【Fターム(参考)】