説明

管路を流体で満たすための管路挿入用移動栓型治具及びその治具を用いた管路への流体注入方法。

【課題】ライニング材を内側にあてがった状態の、屈曲部やたわみ部等を有する管路に空気溜りやごみ溜り等を形成させずに、温水等の流体を充填する。
【解決手段】管路挿入用移動栓型治具Aは、横向きの芯材4と、芯材4の長手方向の前端部外周に設けたスポンジ5と、後端部外周に設けたスポンジ6とから成り、スポンジ5及び6は、柔軟性のあるゴム又は合成樹脂から成り、かつ管路1の内径より大きい外径を有する構成とすることにより、空気溜り等を形成させずに、温水等の流体2を管路1に満たすことができ、管路1の内側にあてがったライニング材を均一に加熱、硬化させて、管路1の内周面に貼ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、下水管や電力管等の管路の内周にあてがった、熱硬化性樹脂を含浸させたチューブ状のライニング材を加熱するため、温水等の流体を管路内に満たすための管路挿入用移動栓型治具、及びその治具を用いた管路への流体注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設された下水管等が老朽化し、ひびや割れ等が生じている場合や管路の継ぎ目に隙間ができている場合に、このような老朽化した管路を補修するため、フェルト(不織布)や織布等のライニング材を用いて、管路の内側に皮膜を施す、ライニング工法が行われている。従来から、このライニング工法は、チューブ状のライニング材に熱硬化性の樹脂を含浸しておき、ライニング材を管路の内側にあてがった後、温水等の流体を前記ライニング材の内側に入れて管路内を満たし、ライニング材を加熱して硬化させ、管路の内周面に貼るものである。
【特許文献1】平2−194930公開特許公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、地中の断面状態をあらわした図7(イ)に示すように、下水管と異なり地中に埋設された電力管、ガス管、工業用管路等の管路1は一方的な勾配ではなく、屈曲部やたわみ部等を有する。従ってライニング材を硬化、固定するために、温水等の流体2を管路1の一端から充填すると、図7(ロ)に示すように、屈曲した管路1の山部あるいは谷部に空気溜り3やごみ溜りが形成され、ライニング材が均一に加熱されず、管路1の内周に均一に貼着されない問題がある。
【0004】
そこでこの発明では、屈曲部、たわみ部等を有する管路であっても、空気溜り等を形成させずに、温水等の流体を管路に満たすことのできる管路挿入用移動栓型治具及びその治具を用いた管路への流体注入方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、管路の内周壁に熱硬化性樹脂含浸のチューブ状ライニング材をあてがった当該内周壁に、流体を満たして当該内周壁を補修するライニング工法に使用する治具であって、
当該治具は横向きの芯材と、当該芯材の長手方向の前端部外周に設けた第1つば部と、後端部外周に設けた第2つば部とから成り、
前記第1つば部及び第2つば部は、柔軟性のあるゴム又は合成樹脂から成り、
かつ前記管路の内径より大きい外径を有する、管路挿入用移動栓型治具とした。
【0006】
また、請求項2の発明は、前記治具の、前記第1つば部より前記第2つば部の外径が大きい、請求項1に記載の管路挿入用移動栓型治具とした。
【0007】
また、請求項3の発明は、前記第1つば部及び第2つば部の各背面に、第1つば部及び第2つば部の外径より小さい外径の円盤状の支持体を重ねて設け、
当該支持体は前記第1つば部及び第2つば部より硬い材質とした、請求項1又は2に記載の管路挿入用移動栓型治具とした。
【0008】
また、請求項4の発明は、前記芯材の外径は、前記管路の内径の70パーセント以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の管路挿入用移動栓型治具とした。
【0009】
また、請求項5の発明は、熱硬化性樹脂含浸のチューブ状ライニング材により、管路の内周壁を補修するライニング工法において、前記チューブ状のライニング材を、前記管路の内周壁にあてがい、当該管路の一端から前記請求項1〜4のいずれかの治具を挿入し、その後方から前記ライニング材が硬化する温度の流体を注入し、当該流体の圧力で前記治具を押圧して前記管路の他端に移動させつつ、当該管路内に当該流体を満たしていく、管路挿入用移動栓型治具を用いた流体注入方法とした。
【発明の効果】
【0010】
請求項1〜5の発明によれば、管路の内側にチューブ状のライニング材をあてがった後に、前後両端に柔軟なゴム又は合成繊維から成る第1つば部及び第2つば部を設けた管路挿入用移動栓型治具を挿入し、当該治具の後方から温水等の流体を管路に注入し、当該治具を流体の圧力で押しながら、管路内に流体を充填していく構成としたため、治具の前後両端に設けたつば部のみが管路の内周に当たり、屈曲部、たわみ部等を有する管路であっても治具が走行でき、空気溜り等を形成させずに、温水等の流体を管路に満たすことができ、ライニング材を均一に加熱、硬化させて、管路の内周面に貼ることができる。
【0011】
また、特に請求項2〜4の発明よれば、管路内に挿入する治具の構成を、第1つば部より第2つば部の外径が大きいものとすることで、進行方向側の第1つば部が治具の姿勢を安定させ、第2のつば部が水密性を維持する役割を果たし、治具の走行性が改善する。従ってより少ない圧力で温水等の流体を管路に満たすことができる。
【0012】
また、特に請求項3〜4の発明よれば、第1つば部及び第2つば部の各背面に、円盤状の支持体を重ねて設ける構成としたため、管路の内周との摩擦による第1つば部及び第2つば部の後方への倒れ込みが抑制され、治具が水密性を保ったまま、屈曲部等を有する管路内を走行できる。
【0013】
また、特に請求項4の発明によれば、芯材の外径を70パーセント以下にすることによって、屈曲部やたわみ部等を有する管路の曲率半径が大きい箇所でも、治具の走行が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
管路の内周壁に熱硬化性樹脂含浸のチューブ状ライニング材をあてがった当該内周壁に、流体を満たして当該内周壁を補修するライニング工法に使用する治具であって、当該治具は横向きの芯材と、当該芯材の長手方向の前端部外周に設けた第1つば部と、後端部外周に設けた第2つば部とから成り、前記第1つば部及び第2つば部は、柔軟性のあるゴム又は合成樹脂から成り、かつ前記管路の内径より大きい外径を有する構成とすることにより、空気溜り等を形成させずに、温水等の流体を管路に満たすことができ、管路の内側にあてがったライニング材を均一に加熱、硬化させて、管路の内周面に貼ることができる。
【実施例1】
【0015】
以下、この発明の実施例1を図1〜4に基づいて説明する。図2は、本実施例の管路挿入用移動栓型治具Aの構成を示した側面図である。横向きの円柱状の芯材4の長手方向の前端部外周には、つば状のスポンジ5が設けられ、後端部外周には同じく、つば状のスポンジ6が設けられている。また各スポンジの背面部に密接して、支持体7が芯材4の外周に設けられている。更にスポンジ5と支持体7及びスポンジ6と支持体7を夫々挟持する2枚の抑板8が芯材4の外周に設けられている。芯材4の材質は例えば、木材、プラスチック、金属、合金であり、芯材4の外径は例えば、管路1の内径の約60〜70パーセントが好ましい。また芯材4は、本実施例では円柱状としたが、角柱状、筒状又は枠体から成るものでもよい。スポンジ5及び6は、例えばポリウレタン等のプラスチックを発泡成形して作ったウレタンスポンジ、発泡プラスチック、発泡ゴムであるが、しなやかで弾力性に富んだ素材であればよい。スポンジ5及び6は、その弾力性により管路1の内周に密着し、流体2が治具Aより前に漏れないように水密性を保つ働きをする。スポンジ5及び6は円盤状であり、その外径は、管路1の内径に対して例えば110パーセントであり、管路の内径よりやや大きいサイズとする。支持体7は、管路1を走行中にスポンジ5及び6が管路1との摩擦によって後方に倒れこむのを抑制する役割を果たすものであり、材質は、スポンジ5及び6より硬い素材、例えば発泡ゴムである。また、上記抑板8は、支持体7より外径が小さく硬い円盤状である。またこれらのスポンジ5及び6、支持体7、抑板8は芯材4の中心軸を中心として同心円状に設けられている。なお芯材4の背面部にはフック9が設けられている。このフック9は治具Aが管路1内に引っ掛かった時に、引っ張り出せるようにワイヤー(図示省略)を結び付けるためのものである。なお本実施例においては、フック9は芯材4の背面部に設ける構成が示されているが、芯材4の前面部にも設けて、管路1の両側から治具Aを引っ張り出せる構成にしてもよい。
【0016】
次に図1及び図3を用いて、熱硬化性樹脂を含浸させたライニング材(図示省略)を内側にあてがった管路1を、治具Aを用いて、温水等の流体2で満たすための流体注入方法について説明する。
図3(イ)の管路1内には、予め、熱硬化性の樹脂を含浸させたチューブ状のライニング材をあてがっておく。あてがい方法としては、例えば、管路の一端からこのチューブ状ライニングに空気圧をかけ、チューブの内外周面を反転させながら、他端までチューブを挿入する方法等により行うことができる。
管路1の適宜の2箇所を金具(図示省略)で留めて、管路1内部の気密を保った状態にする。それから流体注入側の金具を外して、治具Aを図3(イ)に示すように管路1の一端から挿入する。次に図1に示すように治具Aの背面から流体2を注入し、流体2の圧力で治具Aを背面から押していき、図3(ロ)及び(ハ)に示すように徐々に管路1に流体2を充填する。なお、管路1の進行方向側を、金具で留めて、管路1内部の気密を保った状態のままで、治具Aを流体2で押して行くと、管路1内の空気の逃げ場がなくなり、治具Aが押せなくなるため、適宜、金具を外すか、あるいは空気抜き用の孔(図示省略)を開いて管路1内の空気を排気する必要がある。
【0017】
このように治具Aを用いて管路1内に徐々に流体2を充填する構成としたため、屈曲部、たわみ部等を有する管路1であっても、ごみ溜りや空気溜り等を形成させずに、温水等の流体2を管路1内に満たすことができ、管路1の内側にあてがったライニング材を均一に加熱できる。また、両端部に設けたスポンジ5及び6の外径を管路1の内径よりやや大きい大きさとし、芯材4の外径を、管路1の内径より充分小さい大きさとしたため、管路1の内周に接するのはスポンジ5及び6のみである。従って、管路1内での治具Aの走行性が向上し、流体2の圧力が小さくても治具Aを押すことができる。それ故、工事時間が短縮でき、温水等の流体2の温度が低くなる前に工事を完了することができる。例えば、ライニング材に含浸させた熱硬化性樹脂が硬化する温度が80℃である場合に、工事時間が短いため、工事が完了した時点では、流体2の温度が60℃になる。その場合この流体2を20℃だけ加熱すれば他の管路1に再利用することができ、環境にやさしい。
【0018】
更に、治具Aはつば状のスポンジ5及び6を芯材4の両端部外周に設ける構成としたため、図4に示すように管路1が湾曲していても、芯材4は管路1の内周に当たらない。従って走行が容易となり、水密性を保ったまま、管路1の屈曲部やたわみ部等を通過できる。またスポンジ5及び6と、つば部が2箇所設けられているので水密性が高く、流体2の圧力を強くしなくても治具Aを押していくことができる。
【0019】
管路1の内径に応じて、芯材4やスポンジ5等の外径を変えて治具Aを作れば、下水管、電力管ガス管等、種々の管路1に治具Aを適用させることができる。また、管路1の屈曲部、たわみ部の曲率半径に応じて治具Aの全長を決めて、治具Aを作れば、屈曲部やたわみ部の多い管路1等、種々の管路1に治具Aを適用させることができる。
【実施例2】
【0020】
次にこの発明の実施例2について説明する。本実施例は、上述した実施例1の治具Aの構成を一部変更したものであり、その他の構成及び効果は実施例1と同様である。
【0021】
図5は、本実施例の管路挿入用移動栓型治具Bを示した側面図である。芯材4の長手方向の前端部外周には第1つば部としてスポンジ10が設けられ、後端部外周には第2つば部としてスポンジ11が設けられている。図6に示すようにスポンジ10の外径は管路4の内径よりもやや大きく、一方スポンジ11の外径はスポンジ10の外径より大きい。従って、芯材4の前端部に設けられているスポンジ10が、治具Bの姿勢を安定させ、走行性を向上させる。また、芯材4の後端部に設けられているスポンジ11の外径が、管路1の内径より大きいため、管路1内で治具Bを走行させると、図6に示すようにスポンジ11の外縁部が後方に倒れ込む。そのため、水密性がさらに高まり、治具Bの後方の流体2が前側に漏れることがなくなる。このように、芯材4の前端部と後端部に設けるスポンジの大きさを変えることにより、治具Bの走行性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施例1の治具Aが管路内を走行する状態を示す側面図である。
【図2】この発明の実施例1の治具Aを示す側面図である。
【図3】この発明の実施例1の治具Aが屈曲する管路内を走行する各状態を段階的に示す概念図(イ)、(ロ)、(ハ)である。
【図4】この発明の実施例1の治具Aの湾曲した管路内での走行状態を示す側面図である。
【図5】この発明の実施例2の治具Bを示す側面図である。
【図6】この発明の実施例2の治具Bが管路内を走行する状態を示す側面図である。
【図7】(イ)は屈曲部やたわみ部等を有する管路の概念図、(ロ)は当該管路に流体を入れた場合に、空気溜りができていることを示す概念図である。
【符号の説明】
【0023】
A 管路挿入用移動栓型治具、 B 管路挿入用移動栓型治具、 1 管路、2 流体、 3 空気溜り、 4 芯材、 5 スポンジ、 6 スポンジ、 7 支持体、 8 抑板、 9 フック、 10 スポンジ、 11 スポンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管路の内周壁に熱硬化性樹脂含浸のチューブ状ライニング材をあてがった当該内周壁に、流体を満たして当該内周壁を補修するライニング工法に使用する治具であって、
当該治具は横向きの芯材と、当該芯材の長手方向の前端部外周に設けた第1つば部と、後端部外周に設けた第2つば部とから成り、
前記第1つば部及び第2つば部は、柔軟性のあるゴム又は合成樹脂から成り、
かつ前記管路の内径より大きい外径を有することを特徴とする、管路挿入用移動栓型治具。
【請求項2】
前記治具の、前記第1つば部より前記第2つば部の外径が大きいことを特徴とする、請求項1に記載の管路挿入用移動栓型治具。
【請求項3】
前記第1つば部及び第2つば部の各背面に、第1つば部及び第2つば部の外径より小さい外径の円盤状の支持体を重ねて設け、
当該支持体は前記第1つば部及び第2つば部より硬い材質としたことを特徴とする、請求項1又は2に記載の管路挿入用移動栓型治具。
【請求項4】
前記芯材の外径は、前記管路の内径の70パーセント以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の管路挿入用移動栓型治具。
【請求項5】
熱硬化性樹脂含浸のチューブ状ライニング材により、管路の内周壁を補修するライニング工法において、前記チューブ状のライニング材を、前記管路の内周壁にあてがい、当該管路の一端から前記請求項1〜4のいずれかの治具を挿入し、その後方から前記ライニング材が硬化する温度の流体を注入し、当該流体の圧力で前記治具を押圧して前記管路の他端に移動させつつ、当該管路内に当該流体を満たしていくことを特徴とする、管路挿入用移動栓型治具を用いた流体注入方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−241276(P2009−241276A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87779(P2008−87779)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000141060)株式会社関電工 (115)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000229667)日本ヒューム株式会社 (70)
【出願人】(592057385)株式会社湘南合成樹脂製作所 (61)
【Fターム(参考)】