説明

管長推定装置、演奏補助装置及び管楽器

【課題】ピストンバルブ等の操作子にセンサを設けることなく、吹奏者の操作を検出する技術を提供する。
【解決手段】吹奏者は実際の金管楽器2に装着されたマウスピース21とは別途設けられた第2マウスピース22に呼気を吹入することによって吹奏を行う。金管楽器2の朝顔部25には、定常超音波を発生する超音波アクチュエータ161が装着され、また、マウスピース21のスロート部には、超音波を検出する超音波センサ162が装着されている。また、第2マウスピース22には、吹入される吹奏者の呼気により発生する音圧を検出するセンサ226が設けられている。センサ226の検出結果に基づいて発音用アクチュエータ11が駆動されることにより、マウスピース21内に音波が発生し、金管楽器2から演奏音が放音される。また、センサ226の検出結果と超音波センサ162の検出結果とに基づいてバックプレッシャ用アクチュエータ228が駆動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽器の演奏を補助する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
機械によって自動的に楽器を演奏する技術は広く知られており、例えば、自動的に演奏を行う自動オルガンや自動ピアノなどは古くから生産されている。近年においては、鍵盤楽器だけでなく、吹奏楽器を自動的に演奏する機械も開発されており、特許文献1〜3では金管楽器を自動的に演奏するロボットが開示されている。
【0003】
ところで、従来の自動オルガン、自動ピアノあるいは特許文献1〜3に記載の技術においては、全ての演奏を機械が自動的に行うものであり、利用者は演奏を聴くだけであった。一方、演奏をしてみたいという要求を持つ人も多く、たとえ演奏技術が未熟であっても自分の演奏によって楽器を奏でて楽しみたいという要望も多い。このような要望に応じるために、演奏者による実際の演奏音に代えて演奏者の演奏操作に応じた演奏音を発生させる演奏補助装置が提案されている。このような演奏補助装置によれば、たとえ演奏技術が未熟であっても、演奏者は、自身の演奏操作によって楽器を良好に奏でることができる。
【0004】
ところで、上述のような演奏補助装置においては、演奏者の演奏操作を検出することが好ましい。具体的には、例えば、トランペットの場合は、複数のピストンバルブに例えば光学式や圧力検出式のセンサをピストンバルブの数だけ装着し、それらのセンサから得られる情報の論理和により7種の管長のどれであるかを推定する方法が考えられる(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2004−258443号公報
【特許文献2】特開2004−177828号公報
【特許文献3】特開2004−314187号公報
【特許文献4】特開平07−234671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、楽器に操作を検出するためのセンサ等を取り付けるのは、それなりの取り付け精度を要するため、取り付けが容易でない場合が多い。また、センサを複数取り付けるのはコストが高くなるという問題もある。また、ピストンバルブ等の操作子の動きに影響を与え、演奏上不具合が生じる場合もある。また、光学式、圧力検出式等のいずれも誤動作の可能性がある。
本発明は上述した背景に鑑みてなされたものであり、ピストンバルブ等の操作子にセンサを設けることなく、吹奏者の操作を検出する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の好適な態様である管長推定装置は、管楽器の朝顔部に設置され、予め定められた周波数の超音波を発振する超音波発振器と、前記管楽器のマウスピースのスロート部とシャンク部との間に設けられ、前記超音波発振器から発振された超音波を検出し、検出結果を示す信号を出力する超音波センサと、前記超音波センサから出力される信号に基づいて、前記超音波発振器から前記超音波センサまでの前記超音波の伝搬に要する時間を、入力と出力の振幅位相差から算出する伝搬時間算出手段と、前記伝搬時間算出手段により算出された伝搬時間から前記管楽器の管の長さを推定する管長推定手段と、前記管長推定手段により推定された管の長さを示す信号を出力する出力手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
上述の態様において、前記超音波センサは、複数の周波数の超音波を発振し、前記管長算出手段は、前記超音波センサから出力される信号に基づいて、前記複数の周波数の超音波を分離評価してもよい。
【0008】
また、本発明の好適な態様である演奏補助装置は、上述の管長推定装置と、管楽器の管内に音波を発生させるアクチュエータと、吹奏者の吹奏の態様を検出する吹奏態様検出手段と、前記吹奏態様検出手段により検出された吹奏態様と前記管長推定手段により推定された管の長さとに応じて、前記アクチュエータに供給する駆動信号を生成し、生成した駆動信号を前記アクチュエータに供給するアクチュエータ駆動手段とを具備することを特徴とする。
また、本発明の好適な態様である管楽器は、上述の演奏補助装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ピストンバルブ等の操作子にセンサを設けることなく、吹奏者の操作を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<構成>
図1はこの発明の実施形態である演奏補助装置1の構成を示す図である。演奏補助装置1は、トランペット等の金管楽器2に装着されて用いられ、吹奏者による金管楽器2の吹奏を補助する装置である。図において、発音用アクチュエータ11は、金管楽器2に装着されたマウスピース21の管路に音波を発生させる装置であり、金管楽器2のマウスピース21に装着されて用いられる。マウスピース21には、第2マウスピース22が、装着部材3によって装着されている。吹奏者は、実際の金管楽器2に装着されたマウスピース21とは別途設けられた第2マウスピース22に唇5をつけ、呼気を吹入することによって吹奏を行う。
【0011】
次に、第2マウスピース22の構成について、図2を参照しつつ説明する。図2は、第2マウスピース22の構成を示す図である。第2マウスピース22は、カップ部221と、スロート部222と、シャンク部223と、吹込管224とで構成されている。図において、センサ226は、第2マウスピース22のスロート部222とシャンク部223との間の位置に、図中上側を貫通して設けられ、第2マウスピース22の上部の中空部に露出している。センサ226は、第2マウスピース22の吹き込み口225から吹奏者の呼気が吹入されることによって発生する音圧を検出するセンサである。第2マウスピース22の吹込管224の図中右端には、排気機構227が設けられている。吹奏者の呼気は、吹き込み口225から吹入され、排気機構227から第2マウスピース22の外部へ排出される。
【0012】
図2において、バックプレッシャ用アクチュエータ228は、吹奏者の唇5にバックプレッシャを与えるアクチュエータである。バックプレッシャとは、管楽器内を発振(発音)部から音波が伝わり、管の先端で反射して戻ってきて元の発振部に与える影響(圧力的作用)のことをいう。この戻りの音波の振幅位相が発振部の振幅位相と同期するときには発振部の振動を安定、増幅させる。逆に反同期の場合には発振部の振動の安定性を乱し、また振幅を抑制する働きがある。
【0013】
バックプレッシャ用アクチュエータ228は、スピーカ2281を備えている。スピーカ2281は、電磁型スピーカであり、振動板2282、ボイスコイル、マグネット(図示略)を備え、制御部19から供給される信号に応じて、振動板2282を振動させる。振動板2282は、振動することによって第2マウスピース22の吹き込み口にバックプレッシャを発生させる。
【0014】
図1の説明に戻る。センサ226から出力される信号は、制御部19のオペレーションアンプ12に出力される。オペレーションアンプ12は、センサ226から出力される信号を増幅する。雑音低減回路13は、オペレーションアンプ12から出力される信号の所定のレベル以下の信号を0にすることによって雑音を低減し、パワーアンプ14と遅延制御回路15に出力する。パワーアンプ14は、雑音低減回路13から出力される信号を増幅し、発音用アクチュエータ11に出力する。発音用アクチュエータ11は、パワーアンプ14から供給される電気信号に応じて振動板2282を振動させる。
【0015】
超音波アクチュエータ161は、金管楽器2の朝顔部25の内側壁面に設けられ、予め定められた周波数の定常超音波を発振する超音波発振器である。超音波発振器163は、定常超音波を発生させるための信号を超音波アクチュエータ161に供給し、超音波アクチュエータ161は、定常超音波(20,000Hz〜の音波)を金管楽器2内に流す。なお、定常超音波を流すのは、間欠音波であると可聴域の信号が生じ、吹奏者にとって耳障りになるためである。超音波アクチュエータ161と超音波センサ162との間を伝わる超音波の振幅位相を検出すれば、管内伝搬の平均音速が既知であるので、管長が推定できる。一般的な3本ピストンバルブの管楽器の管長状態は7種類あるので、これらが区別できる精度の位相情報が得られればよい。
【0016】
超音波センサ162は、超音波アクチュエータ161から発振された超音波を検出し、検出結果を示す信号を出力するセンサである。この超音波センサ162は、金管楽器2のマウスピース21のスロート部とシャンク部との間に設けられている。
【0017】
なお、この実施形態では、金管楽器2の朝顔部25に超音波アクチュエータ161を設けるとともに、マウスピース21に超音波センサ162を設ける構成とした。これに代えて、超音波アクチュエータ161の設置位置と超音波センサ162の設置位置を逆にしてもよい。すなわち、マウスピース21に超音波アクチュエータ161を設けるとともに、金管楽器2の朝顔部25に超音波センサ162を設ける構成としてもよい。
要するに、超音波アクチュエータと超音波センサとを、朝顔端とマウスピースのスロートよりやや朝顔寄りの位置にどちらか片方ずつを設置し、両者の間を伝わる超音波の振幅位相を検出するようにすればよい。
【0018】
増幅器164は、超音波センサ162から出力される信号を増幅させ、周波数分離器165に供給する。周波数分離器165は、増幅器164から供給される信号を複数の周波数成分に分離し、それぞれの周波数を示す信号を比較判定器166に供給する。比較判定器166は、周波数分離器165から供給される信号と、超音波発振器163から供給される信号とに基づいて、超音波アクチュエータ161から超音波センサ162までの定常超音波の伝搬に要する時間を、入力と出力の振幅位相差から算出し、算出結果に基づいて管の長さ(以下「管長」)を推定する。
【0019】
ここで、比較判定器166が行う管長推定処理について、図面を参照しつつ説明する。図3は、管長の推定方法を説明するための図である。金管楽器2の第1ピストンバルブ231,第2ピストンバルブ232,第3ピストンバルブ233はそれぞれ、(1)半音分管を長くする、(2)全音分管を長くする、(3)3半音分管を長くする、ようになっている。これらの組み合わせにより、基準音高より半音数で0〜6音高を低下させる管長設定が可能である。なお、以下の説明においては、説明の便宜上、第1ピストンバルブ231,第2ピストンバルブ232,第3ピストンバルブ233のいずれのピストンバルブも押下されていない場合における金管楽器2の朝顔部25からマウスピース21のスロート部までの管の長さを、「管長L」と称することとする。また、第1ピストンバルブ231が押下されることにより長くなる管長(半音分の管長)を管長ΔL1とする。同様に、第2ピストンバルブ232が押下されることにより長くなる管長(全音分の管長)を管長ΔL2とし、第3ピストンバルブ233が押下されることにより長くなる管長(3半音分の管長)を管長ΔL3として説明する。
【0020】
ここで、音速をC(mm/s)、管長をL(mm)とし、周波数f(Hz)の超音波を与えると、管の朝顔端からマウスピース(のスロート)端までの波長数は、以下の(式1)で表される。
波長数n = L/(C/f*1000)…(式1)
【0021】
この実施形態では、(式1)によって求められる波長数nの端数(小数点以下)を用いて管長を推定する。
なお、図3は、音速を345.53(mm)、周波数を21,555(Hz)としたときの端数(波長比)を、列Fに示している。なお、列Fの各値をmm単位で示すと列Gの値になる。また、周波数を34,355(Hz)としたときの端数(波長比)を、列Hに示している。なお、列Hの各値をmm単位で示すと列Iに示す値になる。
【0022】
比較判定器166には、列G及び列Iに示す位相波長と列Eに示す管長との対応関係が予め設定されている。比較判定器166は、超音波発振器163からの信号と周波数分離器165からの信号とに基づいて、波長比を算出し、算出結果を図3に示すテーブルの列Fの各値と照合することによって、管長を推定する。なお、この波長比(端数の長さ)が精度的に0〜6の管長において区別できればよい。なお、この推定処理において、列Gに示す周波数のみならず、列Iの周波数も組み合わせて併用してもよい。このようにすれば、管長区別の判断はより容易になる。
【0023】
比較判定器166は、推定した管長を示す信号を遅延制御回路15に供給する。遅延制御回路15は、比較判定器166から供給される信号に基づいて、雑音低減回路13から供給される信号を遅延させ、グラフィックエコライザ17に供給する。
【0024】
ここで、遅延制御回路15が行う遅延処理の内容について説明する。本物の金管楽器の金管はテーパー管である。テーパー管の中を往復する音波の挙動は複雑で、これを電気的に擬似するのは難しい。そこで、直管内の音波の挙動を模擬すれば簡単になる。しかしここで実際の管楽器(例えばクラリネット)で使われているような開・閉管を用いるとその共鳴周波数モード列は基本周波数の奇数倍の周波数となり、テーパー管で実現されているように奇数倍、偶数倍両方の周波数は得られない。しかしながら両端の閉じた閉・閉管ではテーパー管と同様に奇数倍、偶数倍両方の周波数が得られる。そこで、この観点に着眼し、この実施形態では、遅延制御回路15は、直管の閉閉管内の音波の挙動を模擬した遅延処理を行う。
【0025】
図4は、遅延制御回路15の構成を示す図である。遅延制御回路15のBBD遅延制御回路151は、センサ226から出力される信号の遅延制御を行う。遅延制御回路15のBBD素子152には、金管楽器の管の長さに応じた遅延時間Δt,Δt1,Δt2,Δt3がそれぞれ予め設定されている。遅延時間Δtは、金管楽器2の朝顔部25からマウスピース21のスロート部までの管長Lを音波が往復するのに要する時間が設定されている。遅延時間Δt1は、第1ピストンバルブ231が押下された際に増加する管長ΔL1を音波が往復するのに要する時間が設定されている。遅延時間Δt2,Δt3も、遅延時間Δt1と同様に、それぞれ、第2ピストンバルブ232,第3ピストンバルブ233が押下された際に増加する管長ΔL2,ΔL3を音波が往復するのに要する時間が設定されている。
【0026】
遅延制御回路15は、比較判定器166の推定結果に応じて、センサ226からの信号を遅延させ、バックプレッシャ用アクチュエータ228に出力する(図5参照)。具体的には、例えば、管長が第1ピストンバルブ231のみが押下されている場合には、遅延制御回路15は、(Δt+Δt1)の時間だけ信号を遅延させて出力し、また、例えば、第2ピストンバルブ232と第3ピストンバルブ233とが吹奏者によって押下されている場合には、遅延制御回路15は、センサ226からの信号を(Δt+Δt2+Δt3)の時間だけ遅延させて出力する。
なお、図4においては、説明を簡略にするため、オペレーションアンプ12、雑音低減回路13、パワーアンプ14、グラフィックエコライザ17及びパワーアンプ18の図示を省略している。
【0027】
図1の説明に戻る。グラフィックエコライザ17は、遅延制御回路15から供給される信号の特定の周波数成分のレベル調整を行い、パワーアンプ18に出力する。パワーアンプ18は、グラフィックエコライザ17からの信号を増幅させ、バックプレッシャ用アクチュエータ228に供給する。バックプレッシャ用アクチュエータ228は、パワーアンプ18から供給される信号に基づいた圧力の空気振動を発生させる。
【0028】
<動作>
上述した構成によるこの実施形態の動作は以下のとおりである。まず、吹奏者が第2マウスピース22に唇5をつけ、息を吹き込むと、第2マウスピース22に取り付けられたセンサ226によって、このときの音圧が検出される。オペレーションアンプ12は、センサ226から出力される信号を増幅し、雑音低減回路13に出力する。雑音低減回路13は、オペレーションアンプ12から出力される信号から一定レベル以下の信号を0にすることで雑音を低減し、パワーアンプ14と遅延制御回路15に出力する。パワーアンプ14は、雑音低減回路13から出力される信号を増幅し、発音用アクチュエータ11に出力する。発音用アクチュエータ11は、パワーアンプ14から供給される電気信号に基づいた圧力の空気振動を発生させる。
【0029】
これにより、金管楽器2の管内には、吹奏者の吹奏により第2マウスピース22内に発生した音圧に応じた音波が発生する。発生した音波は、金管楽器2の管内をとおって金管楽器2の朝顔部25から放出される。これにより、金管楽器2からは、吹奏者の吹奏動作に応じた音が放音される。このとき、雑音低減回路13で雑音成分の除去がされたり、また、パワーアンプ14で音波が増幅されたりすることにより、吹奏者の吹奏技術が未熟である場合であっても、良好な演奏音を奏でることができる。
【0030】
超音波アクチュエータ161は、超音波発振器163から供給される信号に基づいて、予め定められた周波数の定常超音波を発振する。超音波センサ162は、超音波アクチュエータ161から発振された超音波を検出し、検出結果を示す信号を増幅器164に出力する。増幅器164は、超音波センサ162から出力される信号を増幅させ、周波数分離器165は、増幅器164から供給される信号を複数の周波数成分に分離し、それぞれの周波数を示す信号を比較判定器166に出力する。比較判定器166は、超音波アクチュエータ161から超音波センサ162までの定常超音波の伝搬に要する時間を、周波数分離器165から供給される信号と超音波発振器163から供給される信号との振幅位相差から算出し、算出結果に基づいて管長を推定する。比較判定器166は、推定結果を示す信号を遅延制御回路15に供給する。
【0031】
遅延制御回路15は、比較判定器166から供給される信号に基づいた時間だけ、雑音低減回路13から供給される信号を遅延させ、グラフィックエコライザ17に出力する。グラフィックエコライザ17は、遅延制御回路15から供給される信号の特定の周波数成分のレベル調整処理を行い、パワーアンプ18に出力する。パワーアンプ18は、グラフィックエコライザ17からの信号を増幅させ、バックプレッシャ用アクチュエータ228に供給する。バックプレッシャ用アクチュエータ228は、パワーアンプ18から供給される信号に応じて振動板2282を振動させる。
【0032】
これにより、第2マウスピース22の管内には、バックプレッシャ用アクチュエータ228から発された圧力が発生する。これにより、吹奏者は、唇5において、あたかも本物の金管楽器を演奏しているかのようなバックプレッシャを感じることができる。
【0033】
このように、この実施形態では、超音波を発振する超音波アクチュエータ161を金管楽器2の朝顔部25に設置し、超音波センサ162をマウスピース21のスロート部よりやや朝顔寄りの位置に設置し、管内にある周波数の定常超音波を流す。この伝搬に要する時間を入力と出力の振幅位相差で検出し、金管のピストンを操作することにより変化する管長を推定する。これにより、第1ピストンバルブ231,第2ピストンバルブ232,第3ピストンバルブ233にセンサを設けることなく、管の長さ、すなわち吹奏者の運指を検出することができる。
【0034】
また、この実施形態では、ピストンバルブにセンサを設ける場合と比較すると、構造がシンプルであり、故障が少ない。
また、超音波アクチュエータ161の朝顔部25への取り付けは容易であるから、普通の金管楽器へ後付けすることが容易である。
また、この実施形態では、管長に関わるパラメータを直接検出しているから、光学式センサや感圧式センサをピストンバルブに設けるよりも誤動作が少ない。
【0035】
<変形例>
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。以下にその一例を示す。なお、以下の各態様を適宜に組み合わせてもよい。
(1)上述した実施形態では、管内を伝搬させる超音波の周波数は複数とし、超音波センサ162以降の周波数分離器165により、超音波センサ162が検出した超音波を複数の周波数成分に分離し、それぞれの周波数を用いて管長推定処理を行った。このようにすることで、1つの周波数の超音波で推定するよりも確度の高い管長推定処理を行うことができるが、管内を伝搬させる超音波の周波数は複数に限らず、1種類の周波数の超音波を管楽器の管内で伝搬させるようにしてもよい。この場合には、図6に例示するように、周波数分離器は必要なく、比較判定器166は、超音波発振器163から供給される信号と増幅器164から供給される信号との振幅位相差に基づいて管長を推定すればよい。
【0036】
(2)上述した実施形態では、トランペット等の金管楽器に本発明を適用した例を示したが、本発明は、金管楽器に限らず、木管楽器等の他の管楽器についても適用することができる。木管楽器の場合であっても、上述した実施形態と同様に、定常超音波を発生する超音波アクチュエータと、超音波センサとを、マウスピースのスロート部と管楽器の朝顔部に設ければよい。
【0037】
(3)上述した実施形態では、アナログ回路を用いて遅延処理を行ったが、遅延回路はこれに限らず、例えば、A/D変換器を用いて信号をデジタル信号に変換し、デジタル信号で遅延処理を行い、D/A変換器でアナログ信号に戻すようにしてもよい。
【0038】
(4)上述した実施形態では、金管楽器2に装着されて用いられる演奏補助装置について説明した。この演奏補助装置は、マウスピースに装着可能な装置としてマウスピースと別体として構成されていてもよく、また、マウスピースと一体となって構成されていてもよい。また、演奏補助装置は、管楽器に装着可能な装置として管楽器と別体として構成されていてもよく、また、管楽器と演奏補助装置とが一体となって構成されていてもよい。
【0039】
(5)上述した実施形態では、センサ226は、吹奏者の吹奏により発生する音圧を検出し、検出結果を示す信号を出力したが、センサ226が検出するものは音圧に限らず、例えば、演奏者の唇の緊張(スティッフィネス)や、唇の開口(アパチュア)サイズなどであってもよく、要するに、吹奏者の吹奏の態様を検出するものであればどのようなものであってもよい。例えば、アパチュアサイズを検出する場合には、マウスピースの吹き込み口と吹奏者の唇とが接する面に光センサを設けてこの検出値からアパチュアサイズを算出してもよい。また、例えば、スティッフィネスを検出する場合には、接触面積センサと圧力センサとを設けて、これらの検出値に基づいてスティッフィネスを算出してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】演奏補助装置の構成の一例を示す図である。
【図2】マウスピースの構成の一例を示す図である。
【図3】管長の推定処理の内容を説明するための図である。
【図4】遅延制御回路が行う遅延処理を説明するための図である。
【図5】遅延制御回路が行う遅延処理を説明するための図である。
【図6】演奏補助装置の他の構成の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1…演奏補助装置、2…金管楽器、3…装着部材、5…唇、11…発音用アクチュエータ、12…オペレーションアンプ、13…雑音低減回路、14…パワーアンプ、15…遅延制御回路、17…グラフィックエコライザ、18…パワーアンプ、19…制御部、21…マウスピース、22…第2マウスピース、25…朝顔部、151…BBD遅延制御回路、152…BBD素子、161…超音波アクチュエータ、162…超音波センサ、163…超音波発振器、164…増幅器、165…周波数分離器、166…比較判定器、221…カップ部、222…スロート部、223…シャンク部、224…吹込管、225…吹き込み口、226…センサ、227…排気機構、228…バックプレッシャ用アクチュエータ、2281…スピーカ、2282…振動板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管楽器の朝顔部に設置され、予め定められた周波数の超音波を発振する超音波発振器と、
前記管楽器のマウスピースのスロート部とシャンク部との間に設けられ、前記超音波発振器から発振された超音波を検出し、検出結果を示す信号を出力する超音波センサと、
前記超音波センサから出力される信号に基づいて、前記超音波発振器から前記超音波センサまでの前記超音波の伝搬に要する時間を、入力と出力の振幅位相差から算出する伝搬時間算出手段と、
前記伝搬時間算出手段により算出された伝搬時間から前記管楽器の管の長さを推定する管長推定手段と、
前記管長推定手段により推定された管の長さを示す信号を出力する出力手段と
を具備することを特徴とする管長推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の管長推定装置において、
前記超音波センサは、複数の周波数の超音波を発振し、
前記管長算出手段は、前記超音波センサから出力される信号に基づいて、前記複数の周波数の超音波を分離評価する
ことを特徴とする管長推定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の管長推定装置と、
管楽器の管内に音波を発生させるアクチュエータと、
吹奏者の吹奏の態様を検出する吹奏態様検出手段と、
前記吹奏態様検出手段により検出された吹奏態様と前記管長推定手段により推定された管の長さとに応じて、前記アクチュエータに供給する駆動信号を生成し、生成した駆動信号を前記アクチュエータに供給するアクチュエータ駆動手段と
を具備することを特徴とする演奏補助装置。
【請求項4】
請求項3に記載の演奏補助装置を備える管楽器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−224532(P2008−224532A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65441(P2007−65441)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】