説明

節類からの香気成分含有液の製造方法

【課題】 従来技術では回収しきれなかった質の良い香気成分を回収し、さらには、前記香気成分を原料の一つとして用いてなるつゆ類を提供することを目的とした。
【解決手段】 節類、もしくは、節類及び節類乾燥重量の3倍量以下の抽出溶媒を混合したもの、を抽出タンク内に入れ、前記タンク内に蒸気を注入することによって前記節類から抽出された成分を、揮発させて冷却部に送気し、冷却凝縮温度が10℃より高い温度から70℃未満で留出する成分を回収することを特徴とする、香気成分含有液の製造方法、;前記方法から得られる節類の燻煙香を有し且つ嗜好性の高い香気成分含有液、;前記香気成分含有液をつゆ類の原料として用いることを特徴とするつゆ類の製造方法、;を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鰹節などの節類から、節類の燻煙香を有し且つ嗜好性の高い香気成分含有液を製造する方法に関する。また、本発明は、当該香気成分含有液を用いることにより、香り、味のよいつゆ類を効率良く製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かつお節などの節類からだしを製造することは古来から広く行われており、濃いだしをより効率良く得ることが望ましいとされてきた。節類から効率良くだし液を製造する方法としては、節類を熱水抽出後濃縮する方法、節類を酵素分解する方法、節類を有機溶剤で芳香成分を抽出した後、残渣を熱湯で抽出する等の方法があった。
しかしながら、いずれの方法も抽出中に蒸気とともに香り成分が大気中に飛散してしまうため、得られた抽出だしは香りの弱いものとなっている。
一方、だしそのもの、あるいはだしを使用したそばつゆ、そうめんつゆ、てんつゆ等のつゆやだしを使用したお吸い物、煮物、炊き込み御飯等の料理では、より香りの強いだしが求められている。
【0003】
だしの香り成分を大気中に飛散させることなく回収する方法としては、だしを抽出すると同時に蒸発を行い、その蒸気を香気成分として回収する方法が知られている(特許文献1)。
また、節類から呈味成分及び香気成分を抽出する際、加熱により水蒸気を蒸発させ蒸発残留物より節類残渣を除去して得られた液を回収する香気成分の回収方法が開示されている(特許文献2)。
あるいは節類またはその抽出残渣に、その2〜100倍重量の水を加えて抽出しつつ加熱蒸発させた後、留出部を凝縮することにより、香気成分を分離採取する節類香気成分の分離採取法が開示されている(特許文献3)。
しかしこれらの方法ではだしとしては好ましくない不必要な香り成分まで回収してしまったり、好ましい香りが十分に回収できないなどの欠点があり、香り、風味として不満が残るものであった。
【0004】
これらの状況の下、本出願人らは、肉質感のする香りがよく、燻煙香の除かれた風味の良いだしの製造方法を開発した(特許文献4)。
従来の方法(例えば特許文献1〜3)では浸漬抽出等の方法によって抽出された香り成分を蒸発、凝縮することで香り成分を回収していたが、特許文献4の方法は浸漬抽出中に蒸気を注入して節中の香り成分を抽出するので、より高濃度に香り成分を抽出することができる点で優れており、さらに冷却凝縮温度70℃以上で留出する香気成分を選択的に回収するため、肉質感のする香りがよく、燻煙香の除かれた風味の良いだしを回収する点で優れた方法である。
【0005】
しかしながら、特許文献4の方法によっても、まだ節類の抽出残渣には香り成分が多量に残されており、例えばオイゲノールなどの成分はまだ十分に回収しきれておらず、香り成分を回収する技術としては改善の余地が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭62−36651号公報
【特許文献2】特開昭58−155052号公報
【特許文献3】特公昭61−53022号公報
【特許文献4】特開2006−288203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献4は、十分な水(例えば節類乾燥重量の10倍量の水)に節類を浸漬させて浸漬抽出をするその途中段階において蒸気を注入して香気成分を抽出する方法であり、さらに燻煙香を排除するため70℃以上で留出する香気成分を選択的に回収する方法であるが、前記したようにまだ節類の抽出残渣には香り成分が多量に残されていた。
【0008】
そこで、本発明では、従来技術では回収しきれなかった質の良い香気成分を回収し、さらには、前記香気成分を原料の一つとして用いてなるつゆ類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者は上記課題を解決するにあたり鋭意検討をした。その結果、節類が少量の水(節類乾燥重量の0〜3倍量の水。つまり、水量ゼロも含む。)に入れられた状態で蒸気を注入することによって、抽出された成分を揮発させ、さらに冷却凝縮温度70℃未満で留出して回収することにより、特許文献4では十分に抽出しきれなかった香気成分(例えばオイゲノール)が十分に回収でき、より嗜好性の高い香気成分含有液が得られることを見出した。
【0010】
なお、特許文献4では70℃未満で留出されただしは燻煙香などの香りが感じられだしとして好ましくないと評価されたために70℃以上で留出する香気成分のみを選択的に回収することを必須とした。そのため70℃未満の凝縮温度で初めて留出してくる香気成分の回収はできなかった。
それに対して、本発明によって得られる香気成分含有液は、オイゲノールなどが十分に抽出され、回収できているため、特許文献4の回収液とは香味バランスが異なり、燻煙香は気にならないどころかむしろ節感を付与する良い成分であると感じられるため、70℃未満での留出が可能となったのである。
これにより、節類を少量の水に入れた状態で蒸気を注入することによって、初めて抽出される香気成分だけでなく、特許文献4の方法によっては(70℃以上で留出するために)回収しきれなかった香気成分をも回収することができるという副次的効果も生まれるのである。
さらに、本発明者らは、冷却凝縮温度が25℃以上65℃以下で留出する香気成分を選択的に回収すると、好ましい香気成分(例えばオイゲノールなど)を十分に回収できることを見出した。
【0011】
本発明は、係る知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、請求項1に係る本発明は、節類、もしくは、節類及び節類乾燥重量の3倍量以下の抽出溶媒、を抽出タンク内に入れ、;前記タンク内に蒸気を注入することによって前記節類から抽出された成分を、揮発させて冷却部に送気し、;冷却凝縮温度が10℃より高い温度から70℃未満で留出する成分を回収することを特徴とする、香気成分含有液の製造方法に関する。
請求項2に係る本発明は、前記冷却凝縮温度が25℃以上65℃以下である、請求項1に記載の香気成分含有液の製造方法に関する。
請求項3に係る本発明は、前記抽出溶媒が水、アルコール含有水、もしくは、だし液である、請求項1又は2に記載の香気成分含有液の製造方法に関する。
請求項4に係る本発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法から得られた、節類の燻煙香を有し且つ嗜好性の高い香気成分含有液に関する。
請求項5に係る本発明は、請求項4に記載の香気成分含有液を、つゆ類の原料として用いることを特徴とするつゆ類の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来技術では抽出できなかった節類の質の良い香気成分を回収することができるため、節類の燻煙香を有し且つ嗜好性の高い香気成分含有液を得ることを可能とする。また、特許文献4の方法によっても抽出はされていたが(70℃未満で留出するために)回収しきれなかった香気成分をも回収することを可能とする。
【0013】
また、本発明によれば、当該香気成分含有液を原料としてつゆ類を製造することによって、従来よりも香味豊かなつゆ類を効率良く提供することを可能とする。
また、従来よりも節類量を減らした場合であっても従来と同等またはそれ以上のだし感が付与されたつゆ類を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明において、節類からの香気成分回収を行う装置の概念図。
【図2】実施例1において、香気成分の含有量の相対値を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
鰹節などの節類から、節類の燻煙香を有し且つ嗜好性の高い香気成分含有液を製造する方法に関する。また、本発明は、当該香気成分含有液を用いることにより、香り、味のよいつゆ類を効率良く製造する方法に関する。
【0016】
<原料>
本発明において用いる節類は、一般にだし取りに使用される節類であれば特に限定するものではなく、節原料としては鰹節、鯖節のほか、宗田鰹節、あご節、まぐろ節、煮干等を用いることができ、複数を任意に選択してもよい。また、節類は裸節、荒節、(本)枯節等特に限定はない。節原料の形状、サイズは、薄削り、厚削り、粗砕品、粉砕品、粉状
のもの等が使用でき、また複数の使用も可能で、特に限定はない。
【0017】
<香気成分の回収>
本発明に用いる抽出タンクは、香気成分が大気中に飛散しないようにほぼ密封でき、蒸気を注入できるものであればよいが、特に多機能抽出機が好ましい。
また、本発明における香気成分回収装置は、冷却部を備え、抽出タンクから送気された揮発成分を冷却して留出させ、回収することができるものである。当該香気成分回収装置としては、コンデンサータイプの機器が好ましい。
本発明に用いることができる、抽出タンクと香気成分回収装置との概念図の一態様を図1に示す。
【0018】
本発明における香気成分回収の方法は、抽出タンク内に、‘節類’もしくは‘節類及び少量の抽出溶媒(水など)’が入れられた状態で、前記タンク内に蒸気を注入して、前記節類又はその周辺の溶媒と蒸気を接触させ、それによって当該蒸気中に抽出された前記節類からの成分を揮発させて、蒸気とともに香気成分回収装置(冷却部)に送気し、冷却凝縮温度70℃未満で留出する成分を回収するというものである。
このようにして得られた留出した液には、好ましい香気成分を高濃度で含有した品質の優れたものとなる。
【0019】
ここで、抽出溶媒の量としては、節類及び節類乾燥重量の3倍量以下とする必要がある。好ましくは、2倍量以下とする。
抽出溶媒の量が多過ぎると、蒸気が節類又はその周辺の溶媒に接触しにくくなるため十分に求める香気成分を抽出することができない。
なお、当該工程においては、抽出溶媒の量がゼロ(節類のみを抽出タンクにいれた場合)であっても、注入された蒸気が水となりすぐに節類が浸潤するため、問題なく香気成分の回収ができるのである。
【0020】
抽出溶媒としては、水(例えば、水道水、脱イオン水、蒸留水、など)を用いることが好ましい。得られる香気成分含有液やだし液などに余計な香味を付与しないためである。また、求める香味成分、香気成分が確実に抽出され、また不要な成分が抽出されないためでもある。
ただし、使用目的などに応じては、余計な香味を付与せず、また求める成分を選択的に抽出できる抽出溶媒であれば水以外の抽出溶媒を用いることができる。例えば、アルコール含有水やだし液などを抽出溶媒として使用することができる。ここでアルコールとしてはエタノールを用いることが好ましい。また、だし液としては、如何なるものを用いることができるが、例えば、節類等から通常の方法で抽出したものを用いることができる。
なお、これらを抽出溶媒として使用する場合は比較的薄い濃度(アルコールの場合50%以下、だし液の場合乾燥重量比で10倍量抽出以下)のものとした方が求める成分を抽出しやすい点で好ましい。
【0021】
前記注入タンクに注入する蒸気としては、水蒸気、飽和水蒸気又は加熱水蒸気等のいずれを用いてもよい。例えば、ボイラ等で発生させた通常の水蒸気を、用いることができる。
蒸気の注入箇所は、抽出タンクの適切な箇所(例えば最下部)に連通された管を通して抽出タンク内に注入させたものであればよい。
注入する蒸気量は、節類及び節類乾燥重量1kg当たり好ましくは0.1〜10kg/h、より好ましくは0.5〜5kg/hであるとよい。なお、蒸気量が0.1kg/h未満の場合は、回収に多大な時間を要するため、効率が悪くなる。逆に10kg/hを超える場合には、蒸気が節類又はその周辺の溶媒に接触する時間が短くなり、十分な香気成分を抽出することができない。
【0022】
蒸気注入による節類成分の抽出及び揮発の時間は、例えば30分〜2時間程度を採用することができる。抽出時間が短すぎるとオイゲノールなどの香気成分が十分に抽出されないため好ましくない。一方、抽出時間が長すぎると抽出タンク内に溜まった抽出液の風味が劣化してしまうため、求める香気成分の抽出に必要な時間を超えて蒸気注入することは好ましくない。
【0023】
当該揮発させた成分は、抽出タンクと気密性の高いパイプで接続された香気成分回収装置に送気する。そして、冷却部において10℃より高い温度から70℃未満の凝縮温度で冷却することによって、留出する成分を回収することができる。なお、当該成分は、蒸留した水に溶解した状態(香気成分含有液として)で回収されるものである。
なお、冷却凝縮温度を70℃以上とすると、香気成分が十分に抽出されずに本発明の目的を達成することができないため好ましくない。また、10℃以下とすると、ゴム様の臭いがするため、好ましくない。
なお、好ましくは、冷却凝縮温度25℃以上65℃以下で留出する香気成分を選択的に回収することが好ましい。当該温度範囲で冷却凝縮することによって、好ましい香気成分を十分量回収することが可能となる。
【0024】
上記工程を経て回収される香気成分含有液には、香気成分である2−メトキシ−フェノールおよびオイゲノールを特に多く含有することを特徴とするものである。これらの成分は、節類の燻煙香を付与する香気成分である。
また、当該香気成分含有液には、これら2成分以外にも、様々な香気成分香気や他の風味成分を含有するものである。例えば、風味の肉質感に寄与する2−エチル−5−メチル−ピラジン、節類特有の雑味を緩和する2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オン、なども含まれる。
なお、当該香気成分含有液には、魚臭の原因成分の一つであるトリメチルアミンは含まないものである。
【0025】
なお、当該香気成分含有液は、濃縮して用いることもできる。濃縮方法は、逆浸透膜濃縮、凍結濃縮等適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。濃縮倍率は適宜選択すればよいが、製造時間、コスト等も考慮して、回収した液量の1/10以上の液量になるように濃縮することが好ましい。
【0026】
<調味料への使用>
上記工程を経て回収された香気成分含有液は、調味料や食品(特につゆ類、味噌汁や吸い物、煮物調味液など)の原料として用いることで、従来よりも香味豊かな調味料や食品を製造することが可能となる。
具体的には、つゆ類の製造において、香気成分含有液(未濃縮のもの)をつゆ類当たり5〜20%程度用いれば従来のつゆ類よりも香味の優れたつゆ類を製造することができる。
なお、つゆ類におけるその他の原料は一般的なものを一般的な量用いれば十分である。例えば、塩、醤油、旨味調味料、糖類、アルコール類、などを用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
<実施例1>(香気成分回収時の水添加量の最適量検証)
(1)香気成分含有液の回収
密閉式の多機能抽出機(株式会社イズミフードマシナリ製)の抽出タンクに、原料である鰹節粗砕品10kg(乾燥重量)を投入し、水(抽出溶媒)を添加せずに抽出タンク下部より蒸気を注入し、蒸気接触による抽出および揮発を行った。注入する蒸気量は20kg/hとした。揮発した成分は、香気成分回収装置において30℃で凝縮させ、留出した液を香気成分含有液として回収した。香気成分含有液が10kgに達した時点で、蒸気の注入を止めた。回収に要した時間は、約60分であった。この回収した香気成分含有液を「香気成分含有液1」とした。
同様にして、鰹節投入時に水(抽出溶媒)をそれぞれ10kg、20kg、30kg、40kg、60kg(節類乾燥重量の1倍量、2倍量、3倍量、4倍量、6倍量)添加したものを、それぞれ、「香気成分含有液2〜6」とした。
【0029】
(2)香気成分分析
上記工程により得られた香気成分含有液1〜6を、20倍に希釈したものを分析用サンプルとし、香気成分である2−メトキシ−フェノールおよびオイゲノールの含量を測定した。測定は、以下の方法で行った。
まず、試料溶液5mLと、塩化ナトリウム5gをバイアルに加え、さらにその中にTWISTER(GERSTEL社製、100%ポリジメチルシロキサン〔PDMS〕をコーティングさせた攪拌子、膜厚0.5mm、長さ10mm)を1本入れて蓋をし、室温で60分間攪拌して、香気成分を吸着させた。
次いで、TWISTERをバイアルから取り出し、純水で充分に洗浄した後、紙ウェスを用いて水分を拭き取った。
水分を拭き取ったTWISTERを加熱脱着システム(型式TDSA-CIS4, GERSTEL社製)にセットし、GC/MSシステムに導入し、分析に供した。
GC/MS分析は、表1の条件で行った。2−メトキシ−フェノール及びオイゲノールは、それぞれRT(retention time)約35.2分及び約41.1分で検出された。
結果を表2および図2に示す。なお、これらの図表における香気成分の含量は、香気成分含有液6の含量を1とした時の相対値で示した。なお、含量は面積比から導いた値である。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
その結果、抽出溶媒である水の添加量が3倍量以下の場合(香気成分含有液1〜4)、4倍量以上(香気成分含有液5,6)の場合と比較して、節類に特徴的な燻煙香を付与する2−メトキシ−フェノールとオイゲノールの含有量が格段に多くなることが示された。
【0033】
(3)官能評価
上記工程により得られた香気成分含有液1〜6を、10倍に希釈したものを評価用サンプルとし、官能評価によって、燻煙香、生臭さ、嗜好を評価した。評価は、熟練したパネル4名で行い、それぞれのサンプルの絶対評価とし、表3に示すような4段階で評価した。結果を表4に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
その結果、抽出溶媒である水の添加量が、節類の3倍量以下で行った場合、燻煙香が強く、嗜好的に好まれるものとなった(香気成分含有液1〜4)。
一方、水の添加量が、節類の4倍量以上で行った時には、燻煙香が弱まるとともに、生臭さが目立ち、嗜好的に好まれないものとなった(香気成分含有液5,6)。これは、燻煙香によるマスキング効果が弱まり、嗜好性が悪くなったためではないかと考えられる。
【0037】
<実施例2>(香気成分回収時の凝縮温度の検証)
(1)香気成分含有液の回収
鰹節粗砕品10kgに対して抽出溶媒である水を20kg(節類乾燥重量の2倍量)添加した条件で、凝縮温度をそれぞれ10℃、25℃、30℃、50℃、65℃、70℃で行ったことを除いては、実施例1と同様にして、香気成分含有液として回収した。この回収した香気成分含有液を、それぞれ「香気成分含有液7〜12」とした。
【0038】
(2)官能評価
上記工程により得られた香気成分含有液7〜12を、10倍に希釈したものを評価用サンプルとし、官能評価によって、燻煙香、ゴム様(タイヤ)の臭い、嗜好を評価した。評価は、熟練したパネル4名で行い、それぞれのサンプルの絶対評価とし、表5に示すような4段階で評価した。結果を表6に示す。
【0039】
【表5】

【0040】
【表6】

【0041】
その結果、凝縮温度が25〜65℃で香気成分を回収した場合、燻煙香が感じられ、かつゴム様の臭いも弱く、嗜好的に好まれるものとなった(香気成分含有液8〜11)。
一方、凝縮温度が10℃で回収した場合、ゴム様の香りが強く、嗜好的に好まれないものとなった(香気成分含有液7)。また、凝縮温度が70℃以上で回収した場合、燻煙香が弱く、香りが弱いために好ましくないものとなった(香気成分含有液12)。
【0042】
<実施例3>(香気成分含有液を用いたつゆでの評価)
(1)麺つゆの調製
粉砕した鰹荒節33.3gを90℃に加温した水1000mLに加え、90℃で30分間保持して、節成分を抽出した。その後、ろ過を行って、濾液を得、得られたろ液に節に吸収された分の水(約40ml程度)を加えて、‘鰹節だし’1000mLを得た。
この鰹節だしを用い、表7に示す配合比で、他の成分や香気成分含有液(香気成分含有液10,3,5,7,12のいずれか)とよく混合して、麺つゆ(2倍濃縮)を調製した。この麺つゆを、それぞれを「つゆ1〜5」とした。
なお、香気成分含有液の代わりに水を加えたものを「対照」とした。
【0043】
【表7】

【0044】
(2)香気成分分析
上記工程により得られたつゆ1と対照のつゆを2倍に希釈したものを分析に供し、香気成分である2−メトキシ−フェノール、オイゲノールの含量を測定した。また、味の肉質感に寄与する2−エチル−5−メチル−ピラジン、節類特有の雑味を緩和する成分である2-ペンチル−2−シクロペンテン−1−オン、魚臭の原因成分となるトリメチルアミンについても含量を測定した。
【0045】
2−メトキシ−フェノール、オイゲノールについては、実施例1と同様の方法にして、含有量を測定した。
また、2−エチル−5−メチル−ピラジン、2-ペンチル−2−シクロペンテン−1−オンについても、実施例1と同様の方法にして、含有量を測定した。なお、2−エチル−5−メチル−ピラジン、2-ペンチル−2−シクロペンテン−1−オンは、それぞれRT(retention time)約27.1分及び約30.9分で検出された。
また、トリメチルアミンの測定は、以下のように行った。まず、pH11〜12に調整した試料溶液10mlをバイアルに入れ、ヘッドスペースガスでの抽出が可能な装置(型式MPS2、GERSTEL社製)を用いて分析の直前に50℃で10分間加温しながらトリメチルアミンを溶液から揮発させた。
上記バイアルのヘッドスペースガスを2.5ml採取し、GC/MSシステムに導入して分析に供した。
GC/MS分析は表8の条件で行った。トリメチルアミンは、RT(retention time)約8.9分で検出された。
これらの結果を表9に示す。なお、この表における香気成分の含量は、対照のつゆにおける含量を1とした時の相対値で示した。
【0046】
【表8】

【0047】
【表9】

【0048】
その結果、香気成分含有液を加えることで、つゆにおいても燻煙香に寄与する成分である2−メトキシ−フェノールやオイゲノール、が増加することが確認された。また、風味の肉質感に寄与する2−エチル−5−メチル−ピラジンも増加することが確認された。さらに、節類特有の雑味を緩和する成分である2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オンも増加することが確認された。なお、魚臭の原因成分の一つであるトリメチルアミンについては、増加しないことが確認された。
従来、このような成分を増やすには、節類の使用量を増やしたり、鰹節由来のエキスを使用する必要があったが、節類を増やしすぎると魚臭などの好ましくない風味が増えてしまうという欠点があった。本発明の香気成分含有液を使用することで、トリメチルアミン等に由来する魚臭を増やさずに、香味バランスに優れたつゆを作ることが可能となることがわかった。
【0049】
(3)官能評価
上記工程により得られたつゆ1〜5を、2倍に希釈したものを評価用サンプルとし、官能評価によって、香りの強さ、香りの好ましさ、苦味・えぐ味の強さ、嗜好を評価した。
評価は、熟練したパネル4名で行い、対照と比較した相対評価とし、表10に示すような5段階で評価した。結果を表11に示す。
【0050】
【表10】

【0051】
【表11】

【0052】
その結果、つゆ1、つゆ2(水を原料節類の3倍量以下添加し且つ凝縮温度が25〜65℃で回収した香気成分含有液、を添加したもの)では、香ばしい燻煙香も感じられ、嗜好的に好まれた。
一方、つゆ3(水を原料節類の4倍量添加して回収した香気成分含有液、を添加したもの)は、ゴム様の香りや苦味・えぐ味が目立ち、好まれなかった。
また、つゆ4(凝縮温度10℃で回収した香気成分含有液、を添加したもの)では、香りは強かったがゴム様の香りが強く、品質的には好ましくなかった。
また、つゆ5(凝縮温度70℃で回収した香気成分含有液、を添加したもの)では、香ばしい燻煙香も少なく、あまり好まれなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、従来技術では抽出できなかった質の良い香気成分を回収することができるため、香味豊かなつゆ類を効率よく製造することを可能とする。
また、従来よりも節類量を減らした場合であっても従来と同等またはそれ以上のだし感が付与されたつゆ類を製造することを可能とする。
これにより、簡便かつ安価に節類の風味向上が可能となり、つゆ類の他にも多くの調味料や食品への応用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
節類、もしくは、節類及び節類乾燥重量の3倍量以下の抽出溶媒、を抽出タンク内に入れ、;前記タンク内に蒸気を注入することによって前記節類から抽出された成分を、揮発させて冷却部に送気し、;冷却凝縮温度が10℃より高い温度から70℃未満で留出する成分を回収することを特徴とする、香気成分含有液の製造方法。
【請求項2】
前記冷却凝縮温度が25℃以上65℃以下である、請求項1に記載の香気成分含有液の製造方法。
【請求項3】
前記抽出溶媒が水、アルコール含有水、もしくは、だし液である、請求項1又は2に記載の香気成分含有液の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法から得られた、節類の燻煙香を有し且つ嗜好性の高い香気成分含有液。
【請求項5】
請求項4に記載の香気成分含有液を、つゆ類の原料として用いることを特徴とするつゆ類の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−97854(P2011−97854A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253618(P2009−253618)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【特許番号】特許第4502287号(P4502287)
【特許公報発行日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(398065531)株式会社ミツカングループ本社 (157)
【Fターム(参考)】