説明

簡便かつ迅速で安全なQ熱診断方法および診断薬

【課題】 コクシエラ菌の抗原または該抗原に結合する抗体からなるQ熱診断薬の製造および、それらを用いたQ熱の診断方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明者らはQ熱(コクシエラ症)の疫学、ならびに診断方法および診断薬の開発を行った所、無血清培養法でコクシエラ菌の培養が可能であることを初めて見出し、この菌体を用いることにより、無血清培養法によるQ熱診断薬の製造が可能であることを明らかにした。また、これらの診断薬を用いて、コクシエラ菌を高感度で検出できる免疫測定法、一例としてラテックス凝集法を確立した。
コクシエラ菌を無血清培養することで得られる抗原および該抗原に結合する抗体からなる本発明のQ熱診断薬は、血清中に含まれる抗コクシエラ菌抗体の混入を防ぎ、従来のQ熱診断薬よりも感度の高い診断方法を確立することが出来ると期待され、医療・製薬分野で非常に有益なものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コクシエラ菌の抗原または該抗原に結合する抗体を含むQ熱診断薬の製造および、それらを用いたQ熱の診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Q熱(コクシエラ症)は細菌の一種コクシエラ・バーネッティの感染により起こされる人獣共通感染症である。ヒトにおいてはQ熱と呼ばれ、原因不明不詳の慢性疲労性症候群との関連性が疑われている。動物(鳥類を含む)においてはコクシエラ症と呼ばれる。動物においては大部分が不顕性であり、致死性は低いと考えられている。
【0003】
Q熱の主な原因菌は細菌の一種であり、レジオネラ目コクシエラ科コクシエラ属のバーネッティ種に分類される。レジオネラ目の他の細菌と同様、コクシエラ菌は動物細胞内寄生性であり、動物細胞内においてのみ分裂増殖する。本菌はグラム陰性、小桿菌で大小の多形性を示し、大腸菌のS/R(スムース/ラフ)変異に類似するI 相菌II相菌の相変異を示す。I相菌は新鮮分離菌の場合にみられ、強毒型であり、細胞表層は長鎖のリポ多糖(LPS)に覆われている。II相菌は、I相菌の継代培養で生じ、弱毒であり、細胞表層は短鎖のLPSで覆われている。
【0004】
Q熱の臨床像は多様であり、主に急性型と慢性型に分けられる。急性型は発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、発咳などを特徴とする、インフルエンザウイルス様感染が多い。また、肺炎や肝炎になる傾向も認められる。予後は一般に良好であり、通常2週間程度で解熱、回復する。一方、慢性型の症状は心内膜炎が多く、特に慢性肝炎、心筋炎を伴う。
【0005】
Q熱の治療法としては抗生剤(テトラサイクリン系)が利用できる。しかし、有用かつ簡便な診断薬が存在しない現状において、Q熱であるとの診断が下されるまでに時間がかかり、その後に漸く抗生剤が投与されるので、抗生剤の効果は感染の広がりを阻止する上で不十分である。
【0006】
コクシエラ菌のヒトへの感染ルートには、ダニが介在すると考えられている。また、野外動物や鳩などの鳥類、家畜としては牛、羊、愛玩動物などが関係すると推定されており、ヒトが終末宿主であると考えられている。ヒトへの主な感染経路は吸入感染であるが、一部経口感染も疑われている。ヒトにおけるコクシエラ菌の感染は数十%と推定されるが、正確な統計結果はまだ得られていない。この理由の一つは有用な診断薬が無いことによる。
【0007】
一般に臨床上、Q熱を早期に他の感染症と区別するのは困難であり、インフルエンザ感染と誤診される場合もあると考えられる。もし簡便で高感度のQ熱診断薬が開発されれば、この問題の解決に貢献すると期待される。
【0008】
これまでに、Q熱検出法として3種類の方法が公知である。
1)血清学的検出法
2)遺伝子学的検出法
3)病原体分離による検出法
【0009】
公知のQ熱検出法はそれぞれ長所があるものの、診断薬に利用する上では以下のような問題点が指摘されてきた。
【0010】
血清学(免疫学的)的検出法においては、蛍光抗体法(FA)の定量性が確保されない、反応時間が比較的長い、測定の自動化が困難である、または酵素標識抗体法(ELISA)は抗体使用量が多いという問題点があった。マイクロタイタプレートを坦体とする場合には、反応液中で結合型と遊離型の抗原または抗体を分離する操作(B/F分離)が必要であり、これに要する遠心機が高価であった。また、コクシエラ菌は動物細胞内だけで分裂増殖するため、本診断方法の抗原作成においてコクシエラ菌を培養する際には、必須栄養因子として血清が添加使用されてきた。この血清には抗コクシエラ菌抗体が混入していて、コクシエラ菌体−抗コクシエラ菌抗体複合体を形成する可能性が考えられ、診断薬の抗原材料としては不適切であった。近年抗原に対応する抗体を含まない無血清培地を用いた培養法が開発されてきたが、これらの培養法がコクシエラ菌の培養に使用されることはこれまでなかった。
【0011】
遺伝子学的検出法(PCR法など)においては、必要機器と試薬が高価であるので、使用できる施設が限られ簡便性に欠けるという問題点があった。一般医療施設で利用する上では、第1位選択の診断方法となりにくいものであった。
【0012】
病原体分離による検出法においては、培養日数が長いため、早期診断に適していないという問題点があった。また、施設としてもバイオハザード対策を備えなければならず、簡便性に欠けるものであった。
【0013】
すなわち、Q熱の診断法として、高感度、高選択性、迅速性、簡便性を兼ね備えた方法はこれまでに開発されておらず、施設や必要機器の面からも経済的負担の少ない診断方法は存在していなかった。簡便かつ迅速なQ熱診断方法の開発が世界中で求められてきた。
【0014】
尚、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【非特許文献1】Sa,V. et al., J.Clin. Microbiol. 1996. 34:2947-2951
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、コクシエラ菌の抗原を含む診断薬を用いて、被検サンプル中に存在する該抗原に結合する抗体を検出する工程を含むQ熱診断方法、または、コクシエラ菌の抗原に結合する抗体を含む診断薬を用いて、被検サンプル中に存在する該抗体に結合する抗原を検出する工程を含むQ熱診断方法を提供することにある。さらに、本発明はコクシエラ菌の抗原または該抗原に結合する抗体を含むQ熱診断薬の提供も行う。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明者らはQ熱(コクシエラ症)の疫学、ならびに診断方法および診断薬の開発を行った。コクシエラ菌は細胞内寄生菌の一種なので、通常はコクシエラ菌の培養は動物細胞培養の技術を用いる。動物細胞培養用培地には通常血清が添加されるので、コクシエラ菌の培養においても血清添加培養法が使用されてきた。こうして得られる培養物を診断薬の抗原材料に用いる場合、血清由来の抗コクシエラ菌抗体とコクシエラ菌体が複合体を形成し、診断薬としての検出感度を妨害する危険を伴っていた。
【0017】
本発明者らは上記の問題を解決するために菌体の培養条件の検討を行った所、無血清培養法でコクシエラ菌の培養が可能であることを初めて見出し、この菌体を用いることにより、無血清培養法によるQ熱診断薬の製造が可能であることを明らかにした。また、これらの診断薬を用いて、コクシエラ菌を高感度で検出できる免疫測定法、一例としてラテックス凝集法を確立した。
【0018】
即ち、本発明者らは、コクシエラ菌の抗原または該抗原に結合する抗体からなるQ熱診断薬の製造および、それらを用いたQ熱の診断方法を開発することに成功し、これにより本発明を完成するに至った。
【0019】
本発明は、より具体的には、以下の(1)〜(24)を提供する。
(1)コクシエラ菌の抗原を含む診断薬を用いて、被検サンプル中に存在する該抗原に結合する抗体を検出する工程を含むQ熱診断方法。
(2)抗原が、以下の(a)および(b)から選択される少なくとも1つを含む抗原である、(1)に記載の診断方法。
(a) コクシエラ菌を培養の後、不活化処理を行うことで得られる不活化全菌体コクシエラ菌
(b) コクシエラ菌由来の1または複数の抗原タンパク質を不活化した不活化抗原タンパク質
(3)抗原が、以下の(a)および(b)の工程により得られる抗原である、(1)に記載の診断方法。
(a) コクシエラ菌を培養し、コクシエラ菌培養調製物を製造する工程
(b) コクシエラ菌培養調製物に不活化剤を添加して、全菌体コクシエラ菌を不活化する工程
(4)抗原が、以下の(a)および(b)の工程により得られる抗原である、(1)に記載の診断方法。
(a) コクシエラ菌を培養する工程
(b) 培養したコクシエラ菌由来の1または複数の抗原タンパク質に、不活化剤を添加して該抗原タンパク質を不活化する工程
(5)コクシエラ菌の培養が、以下の(a)または(b)のいずれかの工程からなる、(2)から(4)に記載の診断方法。
(a) コクシエラ菌を無血清培養する工程
(b) コクシエラ菌を血清添加培養する工程
(6)コクシエラ菌が野生株、臨床分離株、もしくはそれら由来の人工変異株、または組換え株である(1)から(5)のいずれかに記載の診断方法
(7)コクシエラ菌がコクシエラ・バーネッティである(1)から(6)のいずれかに記載の診断方法
(8)コクシエラ菌の抗原に結合する抗体を含む診断薬を用いて、被検サンプル中に存在する該抗体に結合する抗原を検出する工程を含むQ熱診断方法。
(9)抗体がコクシエラ菌体の一部を認識するモノクローナル抗体である、(8)に記載の診断方法。
(10)モノクローナル抗体がコクシエラ菌の外膜糖タンパク質抗原を認識するモノクローナル抗体およびリポ多糖を認識するモノクローナル抗体から選択される少なくとも1つである(9)に記載の診断方法。
(11)診断薬の抗体を作成する際に用いた抗原が、以下の(a)または(b)のいずれかである、(8)から(10)のいずれかに記載のQ熱診断方法。
(a) コクシエラ菌を培養の後、不活化処理を行うことで得られる不活化全菌体コクシエラ菌
(b) コクシエラ菌由来の1または複数の抗原タンパク質を不活化した、不活化抗原タンパク質
(12)診断薬の抗体を作成する際に用いた抗原が、以下の(a)および(b)の工程により得られる抗原である、(8)から(10)のいずれかに記載のQ熱診断方法。
(a) コクシエラ菌を培養し、コクシエラ菌培養調製物を製造する工程
(b) コクシエラ菌培養調製物に不活化剤を添加して、全菌体コクシエラ菌を不活化する工程
(13)診断薬の抗体を作成する際に用いた抗原が、以下の(a)および(b)の工程により得られる抗原である、(8)から(10)のいずれかに記載のQ熱診断方法。
(a) コクシエラ菌を培養する工程
(b) 培養したコクシエラ菌由来の1または複数の抗原タンパク質に、不活化剤を添加して該抗原タンパク質を不活化する工程
(14)コクシエラ菌の培養が、以下の(a)または(b)のいずれかの工程である、(11)から(13)のいずれかに記載のQ熱診断方法。
(a) コクシエラ菌を無血清培養する工程
(b) コクシエラ菌を血清添加培養する工程
(15)免疫的測定法を用いる(1)から(14)のいずれかに記載の診断方法。
(16)ラテックス凝集法を用いる(1)から(15)のいずれかに記載の診断方法。
(17)コクシエラ菌の抗原または該抗原に結合する抗体を含むQ熱診断薬。
(18)抗原が、以下の(a)および(b)から選択される少なくとも1つを含む抗原である、(17)に記載のQ熱診断薬。
(a) コクシエラ菌を培養の後、不活化処理を行うことで得られる不活化全菌体コクシエラ菌
(b) コクシエラ菌由来の1または複数の抗原タンパク質を不活化した、不活化抗原タンパク質
(19)抗原が、以下の(a)および(b)の工程により得られる抗原である、(17)に記載のQ熱診断薬。
(a) コクシエラ菌を培養し、コクシエラ菌培養調製物を製造する工程
(b) コクシエラ菌培養調製物に不活化剤を添加して、全菌体コクシエラ菌を不活化する工程
(20)抗原が、以下の(a)および(b)の工程により得られる抗原である、(17)に記載のQ熱診断薬。
(a) コクシエラ菌を培養する工程
(b) 培養したコクシエラ菌由来の1または複数の抗原タンパク質に、不活化剤を添加し該抗原タンパク質を不活化する工程
(21)コクシエラ菌の培養が、以下の(a)または(b)のいずれかの工程である、(18)から(20)のいずれかに記載のQ熱診断方法。
(a) コクシエラ菌を無血清培養する工程
(b) コクシエラ菌を血清添加培養する工程
(22)抗体がコクシエラ菌体の一部を認識するモノクローナル抗体である、(17)から(21)のいずれかに記載のQ熱診断薬。
(23)モノクローナル抗体がコクシエラ菌の外膜糖タンパク質抗原を認識するモノクローナル抗体およびリポ多糖を認識するモノクローナル抗体から選択される少なくとも1つである(22)に記載のQ熱診断薬。
(24)(17)から(23)のいずれかに記載の診断薬を含む診断キット。
【発明の効果】
【0020】
これまでにも、Q熱診断薬の構成物質として血清添加培養により製造された抗原材料が存在していたが、血清に含まれる抗コクシエラ菌抗体とコクシエラ菌体が複合体を形成していた可能性があり、診断薬としての精度に問題を含む可能性が考えられる。コクシエラ菌を無血清培養することで得られる抗原および該抗原に結合する抗体からなる本発明のQ熱診断薬は、無血清培地でコクシエラ菌を増殖させることで、血清中に含まれる抗コクシエラ菌抗体の混入を防ぎ、従来のQ熱診断薬よりも感度の高い診断方法を確立することが出来ると期待され、医療・製薬分野で非常に有用なものである。従来他の検査で使用されてきたラテックス凝集法等と組み合わせることにより、簡便、迅速、かつ安価にコクシエラ菌の定性ならびに定量を実施することが可能になると期待される。
【0021】
また、本発明ではコクシエラ菌体の一部を認識するモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体を診断に用いることも可能であり、これらの抗体を複数組み合わせて用いれば、抗原との反応性が向上し、併せて抗原の検出感度が向上するものと期待される。
【0022】
このような高感度のQ熱診断薬は、ヒトのQ熱診断だけでなく、ヒトへの感染源と考えられている愛玩動物、家畜、野外動物、鳥類の診断にも適用が可能であり、畜産業の分野等においても有益なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、コクシエラ菌の抗原または該抗原に結合する抗体を含むQ熱診断薬を提供する。また本発明は、上記のQ熱診断薬を用いたQ熱診断方法(検査方法)に関する。
【0024】
本発明の診断薬はQ熱の検出法を基礎に、簡便、迅速かつ信頼できる診断が可能な組成を提供する。本発明の診断薬は、検体試料中のQ熱の抗原または抗体を免疫的手法により特異的に検出することを可能にし、もってコクシエラ菌感染の臨床診断を支援する。
【0025】
本発明においてコクシエラ菌の抗原または抗体を検出するには種々の免疫的手法を利用することができる。本発明の診断薬において、コクシエラ菌検出に利用できる免疫的手法を例示すれば酵素免疫法(ELISA)、免疫電気泳動法、ラテックス凝集法、免疫比濁法、免疫クロマト法、放射免疫拡散法、蛍光抗体法などを挙げることが出来るが、必ずしもこれらに限定されない。
【0026】
この中で、Q熱の診断薬として好ましい免疫的検出法として、酵素免疫法(ELISA)、免疫電気泳動法、ラテックス凝集法、放射免疫拡散法があげられる。これらの手法はコクシエラ菌の定性ならびに定量を可能にする。この中でより好ましい手法としては、ラテックス凝集法が上げられる。ラテックス凝集法によれば、簡便、迅速、かつ安価にコクシエラ菌の定性ならびに定量を実施できる。
【0027】
本発明の診断薬に使用する抗原は、従来の血清添加培養培地で得られたコクシエラ菌またはそれ由来の抗原、および、無血清培養で得られたコクシエラ菌またはそれ由来の抗原を使用することが出来るが、より好ましくは無血清培養で得られたコクシエラ菌またはそれ由来の抗原を使用する。無血清培養で得られたコクシエラ菌またはそれ由来の抗原を使用した場合には、診断薬組成としての抗原に血清由来の抗コクシエラ菌抗体が混入することを防ぐことができる。
【0028】
また、本発明の診断薬に使用する抗体はモノクローナル抗体を使用できるので、特異性が高い。
【0029】
以下に、本発明の抗原または抗体を検出する診断の手順について1.抗原の製造、2.抗体の製造、3.抗原検出測定法、4抗体検出測定法の順に説明する。
【0030】
まず、本発明における抗原の製造方法について説明する。
コクシエラ菌の抗原材料は、抗体検出用診断薬の組成物の一つとして使用する。このためには安全性の理由から、II相菌が好適であるが、I相菌も、適宜不活化してから用いることができる。また、コクシエラ菌の抗原材料は抗原検出法における標準抗原として使用する。この場合の抗原は好ましくは病原性の強いI相菌を用いるが、II相菌も利用することができる。
【0031】
本発明において、培養に使用する菌株としては、コクシエラ菌の野外株や臨床分離株などから純化して使用することができ、または、これらの菌種の人工変異株を使用することも可能である。菌種としてはコクシエラ・バーネッティが好ましく、本菌種の中でナインマイル株がより好ましい。コクシエラ・バーネッティ ナインマイル株は菌株保存機関であるATCCからVR615株として入手することができる。コクシエラ・バーネッティ ナインマイル株II相菌を用いる場合には、臨床分離II相菌も精製純化すれば、使用することが出来る。本発明者らはDr. Kazar,J.(スロバキア)より卵黄嚢乳剤として分与され、その後、北里研究所で保存している株を使用した。
【0032】
コクシエラ菌の抗原はコクシエラ菌の全菌体を使用する形態、コクシエラ菌を破砕して菌体成分の一部分、例えば抗原性を有する抗原性タンパク質を用いる形態、細胞培養液に産生される抗原タンパク質を用いる形態、または抗原タンパク質をコードするDNA組換え微生物から抗原を採取する形態のいずれかで取得し、用いることができる。
【0033】
本発明に用いる抗原性を有するタンパク質は特に限定されないが、公知のタンパク質を含む材料を用いることが出来る。例えば下記の3つの論文Zhang,G.Q., et al. J.Clin.Microbiol. 42:423-428(1998), Nguyen, Sa V., et al. FEMES Microbiol.Lett. 175:101-106(1999), Nguyen,Sa V., et al, Microbiol.Immunol.43:743-749(1999)に公表された物を利用することが出来る。
【0034】
また、抗原材料としてワクチン製造過程で得られる抗原を利用することができる。
【0035】
コクシエラ菌を培養して菌体もしくはその破砕物を抗原材料にする場合、細胞培養に使用するのは、無血清培地がより好ましい。しかし、得られるコクシエラ菌の抗原と抗体との反応性が良好であれば、血清添加培養で得られるコクシエラ菌体を使用することが出来る。
【0036】
診断薬に使用する抗原製造において無血清培養が望まれる理由、あるいは、場合によっては必須であるのは、以下の理由による。培養に使用する市販の血清は抗コクシエラ菌抗体が混入しており汚染されている可能性がある。市販の血清は牛、ブタ、羊、馬などに由来する場合が多く、これらの動物は一般的にコクシエラ菌に感染している可能性があるが、血液採取に際して、全例が、抗コクシエラ菌抗体の有無について検査されているとは限らないためである。
【0037】
もし抗コクシエラ菌抗体が混入した血清を使用してコクシエラ菌を細胞培養すれば、コクシエラ菌体製品に血清由来の抗コクシエラ菌抗体が混入する可能性がある。すなわち、コクシエラ菌体はコクシエラ菌体―抗コクシエラ菌抗体複合体を含む可能性がある。これでは診断薬の抗原材料として不適切である。しかし、無血清培養で得たコクシエラ菌体ならばこのような事態は起こりえない。すなわち診断薬の組成物として用いる抗原は無血清培養で得た全菌体もしくはそれ由来の抗原タンパク質を使用するのが望ましい。
【0038】
もしコクシエラ菌の細胞培養に血清を使用する場合には、その血清が抗コクシエラ菌抗体を含まないことを事前に検査してから使用することが望ましい。また、もし血清添加培養で得た全菌体抗原もしくは抗原タンパク質を診断薬の抗原として用いる場合は、抗原材料中に抗コクシエラ抗体が混入していないことを事前に検査してから使用するのが望ましい。
【0039】
これらの場合には標準物質として無血清培養で得られたコクシエラ菌体もしくはそれ由来の抗原タンパク質が必要である。これを用いた検査薬、診断薬があれば便利で有用であることは言うまでもない。
【0040】
以下に抗原取得の方法を例示する。
本発明の抗原取得において、コクシエラ菌を培養し、コクシエラ菌培養調製物を製造する工程について説明する。
【0041】
本発明において、コクシエラ菌を菌種として培養する場合、基質として動物細胞を使用し、細胞を増殖させてこの中でコクシエラ菌を増殖させる。用いる動物細胞を例示すれば、BGM(buffalo green monkey)細胞、Vero 細胞、L-929細胞、組み換え体の場合のCHO細胞などが挙げられる。
【0042】
本発明のワクチン製造に使用する動物細胞培養用の培地は無血清培地がより好適である。無血清培地は使用する細胞の増殖に適した組成ならば何れの組成でも使用可能である。培地には炭素源、窒素源、リン酸源、微量金属などを含ませることができるが、血清は使用しない。また、無血清培地は市販製品を使用することもできる。市販されている無血清培地としてコクシエラ菌の培養に使用可能なものを例示すれば、VP-SFM、Opti-Pro SFM、CD-CHOなどがより好ましいが、これらに限定されない。
【0043】
本発明における菌体の培養において、細胞培養の容器はガラス容器、ステンレス容器、プラスティック容器、市販の発酵槽などを使用できる。
【0044】
本発明の細胞培養における、培養温度は通常35〜37℃であるが、増殖可能な温度であれば、特にこの温度に限定されるものではない。
【0045】
本発明の細胞培養における、pH範囲は通常6.8〜7.6であるが、特にこのpHに限定されるものではなく、細胞が死滅しない酸性またはアルカリ性条件下においても培養を行うことができる。
【0046】
本発明の培養方法としては例えば、静置培養、ローラーボトル培養、マイクロキャリア浮遊培養、微少チップ培養、浮遊細胞培養など、公知のいずれの方法も使用可能である。培養期間や培養条件は、用いる菌体により最適なものを選定することが出来る。
【0047】
無血清培地もしくは血清培地用いて培養を行った際には、必要に応じてコクシエラ菌の菌数を測定し、培養の進行度を確認することが出来る。本測定においては、封入体も計測して合計する。菌数の測定は、短期間培養後、染色して、顕微鏡で計測するか、または650nmの濁度で測定することも可能である。最近は定量PCRを用いたDNAコピー数として測定することも可能である。コクシエラ菌の菌数(力価)の測定方法としては、公知の方法(Schneider, W. Zentralbl. Bakteriol. 271: 77-84, 1989)に従って、具体的に以下の方法を使用することが出来る。まず、BGM細胞をカバースリップ入りの24穴プレートで培養する。単層シート後、およそ100倍希釈したコクシエラ・バーネッティ生菌懸濁液を各穴0.5mlずつ接種し、30分間吸着後、1,500rpmで遠心する。遠心後、上清を除去し、各ウェルに1mlのMEMを加え、37℃(CO2 5%)で培養する。培養4日目に、カバースリップを回収し、冷アセトンにより固定する。封入体数は蛍光抗体法(FA)または酵素抗体法により計測することが出来る。蛍光抗体法では、一次抗体にコクシエラ・バーネッティ感染マウス血清をリン酸緩衝食塩水(phosphate buffered saline(PBS))により希釈調整し、湿潤箱中で37℃、60分間反応させる。PBSで5分間、3回洗浄後、FITC標識抗マウスIgGヒツジ血清(CAPPEL社製)をPBSにより調整し、同様の方法で反応させる。洗浄後、ヨウ化プロピジウムにより1,200倍に調整し、5分間反応させる。洗浄後、Slow Fade antifade Kits(Moleculer Probes社製)により封入し、蛍光顕微鏡(BX-50-FLA、OLYMPUS社製)下において強い発色を示した封入対の数を測定する。
【0048】
本発明の菌体培養方法としては、組換え微生物を培養することもでき、その際にはそれぞれの条件に適した培養法で培養することができる。
【0049】
組み換え抗原は組み換え細胞生物によっても生産することができ、以下の公知の方法を準用することができる。菌体としては、患者分離のコクシエラ菌を使用する。通常、臨床分離株はコクシエラ菌由来のタンパク質抗原と耐熱コクシエラ菌由来のタンパク質抗原の両方を持っている。まず、コクシエラ菌由来のタンパク質抗原を分離する。プラスミドから制限酵素処理などによりコクシエラ菌由来のタンパク質抗原をコードする遺伝子(以下「コクシエラ菌抗原遺伝子」と称する)(6.7kbp)を切り出し、pBR322などのプラスミドに連結する。コクシエラ菌抗原遺伝子の例として例えば下記の論文(Zhang,G.Q., et al. J.Clin.Microbiol. 42:423-428(1998), Nguyen, Sa V., et al. FEMES Microbiol.Lett. 175:101-106(1999), Nguyen,Sa V., et al, Microbiol.Immunol.43:743-749(1999))に公表されたものを利用することが出来る。
【0050】
次に、コクシエラ菌抗原遺伝子をPCR法などで増幅した後、コクシエラ菌抗原遺伝子を別の発現ベクターに連結する。次に、このベクター上で位置特異的変異処理を行い、続いて選択的プライマーを用いてPCR法で増幅し、組み換え変異体であるコクシエラ菌由来のタンパク質抗原を生産する組み換え大腸菌の菌株を作成する。この組換え大腸菌を定法に従って培養し、培養液からコクシエラ菌由来のタンパク質抗原を得ることができる。
【0051】
上記の遺伝子組換え操作途中で位置特異的変異処理を行えば、コクシエラ菌由来のタンパク質抗原変異体を生産する組み換え大腸菌が得られる。これを培養し、精製すれば、コクシエラ菌由来のタンパク質抗原変異体を得ることができる。例えば上記のとおり、位置特異的変異処理法などを適用すれば、コクシエラ菌由来のタンパク質抗原のアミノ酸配列のなかで、任意の部位のアミノ酸残基を別の残基に変化させることも可能である。逆に、特定部位の特定のアミノ酸残基、たとえばグルタミン酸残基を変化させないで保持することが可能である。糖残基についても基本的に同様である。得られた変異体の中から、免疫原活性を有するものを選択し本発明のコクシエラ菌由来のタンパク質抗原変異体とする。なお、この変異体の持つコクシエラ菌抗原活性については、任意のレベルにあることができる。変異体を得るには、いくつかの試行錯誤的な実験が必要となるが、得られた組み換え変異体コクシエラ菌抗原は、一般的に、天然コクシエラ菌抗原に復帰しにくい利点がある。
【0052】
コクシエラ菌培養調製物を製造する工程において、無血清培地により培養生成した後、全菌体抗原を洗浄、純化、濃縮する。以下では洗浄、純化、濃縮の方法について説明する。
【0053】
無血清培地による培養終了後、細胞を集め、凍結融解、超音波処理などにより細胞を破壊し、ここからコクシエラ菌を採取する。本方法には遠心法、ゲル濾過法および塩析法等を使用することができる。通常、その後、菌体を食塩添加リン酸緩衝液、などにより、洗浄、純化を行う。純化には洗浄法、遠心法、撹拌法、濃縮法、カラム法などを使用できるが、これらに限定されるものではない。コクシエラ菌の培養、集菌、洗浄、純化操作は厳密な封じ込めが可能な環境下で実施しなければならない。通常は生物学的安全性規定レベル3(BSL3)の環境が必要である。
【0054】
また本発明においては、無血清培養したコクシエラ菌由来の1または複数の抗原タンパク質を採取してもよい。コクシエラ菌の菌体を部分的破壊、または全部破壊する処理を施して、抗原タンパク質を精製して採取することが出来る。
【0055】
また、サブユニットワクチンを製造する場合には、コクシエラ菌の菌体を部分的破壊、または全部破壊する処理を施して、有効な抗原画分を採取してもよい。さらに、培養液に産生された抗原タンパク質を使用する場合には、有効な遠心法、濃縮法、カラム法などを組み合わせて抗原タンパク質を濃縮、純化してもよい。
【0056】
洗浄、純化、濃縮の時期としては、不活化の前が好ましいが、不活化の後でも実施できる。不活化の前後両方に実施してもよい。
【0057】
本発明の抗原取得において、コクシエラ菌培養調製物等に不活化剤を添加して、コクシエラ菌培養調製物等を不活化する工程について以下で説明する。
【0058】
抗原の不活化は種々の方法が使用可能であるが、一般に最適の不活化方法は抗原が全菌体であるかタンパク質であるかにより異なる。不活化は種々の化学品処理と物理化学的処理の方法で実施できる。その一例を示せば、以下のものを含むがこれらに限定されない。
【0059】
不活化を目的として菌体もしくは抗原含有タンパク質を処理するのに用いる化学処理物質として以下の物質があげられる。使用可能な濃度を合わせて示すがこれらに限定されるものではない。
【0060】
ホルマリン(0.1-10 v/v % )、フェノール(0.1-5 v/v %)、クロロホルム
(10-60 v/v %)、アセトン(10-80 v/v %)、SH試薬 (1-100 mM)、
過酸化水素 (0.1-5 %)、過酢酸(0.5-10 w/v %)、二酸化炭素 (5-90 v/v %)、
オゾン(0.1-10 v/v %)、界面活性剤(0.01 -5 w/v %)、
【0061】
また、不活化のための物理化学的処理法には下記の手段を使用できる。以下に使用可能な条件の一例を合わせて示すが、これらに限定されるものではない。
【0062】
加温処理(温度:30-70 ℃;加温時間:10-120 分)、γ線照射(線源:コバルト60;5-50 kGy (キログレー))、レーザー光照射(光源:各種レーザー照射装置;波長500-700 mn;光量:0.01-1 J(ジュール)/cm2),電子線照射(電子レンジ)、超音波照射、などがあげられる。
【0063】
処理条件は固定的ではなく、菌体量、温度、緩衝液のpH、処理時間、などを変化させて、好適な条件を設定することが出来る。通常、無菌条件下で操作する。
【0064】
全菌体でも菌体由来のタンパク質(培養液由来の抗原タンパク質を含む)の何れであっても、これらの不活化方法を単独で使用してもよいし、複数の方法を組み合わせて使用しても良い。不活化の際にアミノ酸、アミン類を共存させることで不活化後の品質の安定性が改善される場合があり、必要に応じてこれらの物質を添加することも可能である。また、ホルマリン不活化に加えて、有機溶媒処理、加温処理、γ線照射処理を施すことにより、溶菌が起こりにくい品質の安定した不活化全菌体を得ることができる。
【0065】
不活化の一例を示せば以下の通りである。まず、コクシエラ菌生菌懸濁液に1%(v/v)ホルマリンを加え5日間室温に静置して不活化する。その後、13,000rpmで15分間遠心し、上清を除去後、等量の生理食塩添加リン酸緩衝液(0.1M, pH 6.8)に懸濁し、不活化コクシエラ・バーネッティ懸濁液とする。不活化完了の確認は不活化処理後に、試料の一部を取り、培養すると菌が生育しないことにより確認することができる。不活化処理の後、リン酸緩衝液などで洗浄することにより、不活化に使用した化学薬品を除去する。その後、650 nmの濁度が1−10(約1-10 x 109 細胞/mL)程度になるように菌数を調整する。もしくは抗原タンパク質の濃度を調製する。
【0066】
次に、本発明の抗体の製造方法について説明する。
抗体材料は抗原検出型診断薬の一組成物として使用する。また、抗体材料は、抗体検出型診断薬法における標準抗体として使用する。本発明の「抗体」は、本発明のコクシエラ菌抗原を発現する細胞(天然の細胞、株化細胞、腫瘍細胞など)、コクシエラ菌抗原をその細胞表面に高発現するように遺伝子組換技術を用いて作製された形質転換体、コクシエラ菌抗原を構成するポリペプチド、該コクシエラ菌ポリペプチド、またはコクシエラ菌抗原の細胞外領域を含む前述の融合ポリペプチドを抗原として用い、該抗原をマウス、ラット、ハムスター、モルモットあるいはウサギ等の哺乳動物に免疫して得られる天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体及びヒト型抗体(CDR-grafted抗体)、並びにヒト抗体産生トランスジェニック動物等を用いて製造され得るヒト抗体も包含する。
【0067】
モノクローナル抗体には、IgG、IgM、IgA、IgDあるいはIgE等のいずれのアイソタイプを有するモノクローナル抗体らが包含される。好ましくは、IgGまたはIgMである。
【0068】
ポリクローナル抗体(抗血清)あるいはモノクローナル抗体は、既存の一般的な製造方法によって製造することができる。即ち、例えば、前述のような抗原を、必要に応じてフロイントアジュバント(Freund's Adjuvant)とともに、哺乳動物、好ましくは、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウマあるいはウシ、より好ましくはマウス、ラット、ハムスター、モルモットまたはウサギに免疫する。
【0069】
ポリクローナル抗体は、該免疫感作動物から得た血清から取得することができる。またモノクローナル抗体は、該免疫感作動物から得た該抗体産生細胞と自己抗体産生能のない骨髄腫系細胞(ミエローマ細胞)からハイブリドーマを調製し、該ハイブリドーマをクローン化し、哺乳動物の免疫に用いた抗原に対して特異的親和性を示すモノクローナル抗体を産生するクローンを選択することによって製造される。
【0070】
モノクローナル抗体は、具体的には下記のようにして製造することができる。即ち、前述のような抗原を免疫原とし、該免疫原を、必要に応じてフロイントアジュバント(Freund's Adjuvant)とともに、非ヒト哺乳動物、具体的には、マウス、ラット、ハムスター、モルモットあるいはウサギ、好ましくはマウス、ラットあるいはハムスター(後述するヒト抗体産生トランスジェニックマウスのような他の動物由来の抗体を産生するように作出されたトランスジェニック動物を含む)の皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパッド内あるいは腹腔内に1乃至数回注射するかあるいは移植することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1〜14日毎に1〜4回免疫を行って、最終免疫より約1〜5日後に免疫感作された該哺乳動物から抗体産生細胞が取得される。免疫を施す回数及び時間的インターバルは、使用する免疫原の性質などにより、適宜変更することができる。
【0071】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマの調製は、ケーラー及びミルシュタインらの方法(Nature, 256, 495-497, 1975)及びそれに準じる修飾方法に従って行うことができる。即ち、前述の如く免疫感作された非ヒト哺乳動物から 取得される脾臓、リンパ節、骨髄あるいは扁桃等、好ましくは脾臓に含まれる抗体産生細胞と、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギまたはヒト等の哺乳動物、より好ましくはマウス、ラットまたはヒト由来の自己抗体産生能のないミエローマ細胞との細胞融合させることにより調製される。
【0072】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンのスクリーニングは、ハイブリドーマを、例えばマイクロタイタープレート中で培養し、増殖の見られたウェルの培養上清の前述の免疫感作で用いた免疫抗原に対する反応性を、例えばRIAやELISA等の酵素免疫測定法によって測定することにより行うことができる。
【0073】
ハイブリドーマからのモノクローナル抗体の製造は、ハイブリドーマをインビトロ、またはマウス、ラット、モルモット、ハムスターまたはウサギ等、好ましくはマウスまたはラット、より好ましくはマウスの腹水中等でのインビボで行い、得られた培養上清、または哺乳動物の腹水から単離することにより行うことができる。
【0074】
インビトロで培養する場合には、培養する細胞種の特性、試験研究の目的及び培養方法等の種々条件に合わせて、ハイブリドーマを増殖、維持及び保存させ、培養上清中にモノクローナル抗体を産生させるために用いられるような既知栄養培地あるいは既知の基本培地から誘導調製されるあらゆる栄養培地を用いて実施することが可能である。
【0075】
モノクローナル抗体の単離、精製は、上述の培養上清あるいは腹水を、飽和硫酸アンモニウム、ユーグロブリン沈澱法、カプロイン酸法、カプリル酸法、イオン交換クロマトグラフィー(DEAEまたはDE52等)、抗イムノグロブリンカラムあるいはプロテインAカラム等のアフィニティーカラムクロマトグラフィーに供すること等により行うことができる。
【0076】
「組換えキメラモノクローナル抗体」は、遺伝子工学的に作製されるモノクローナル抗体であって、具体的には、その可変領域が、非ヒト哺乳動物(マウス、ラット、ハムスターなど)のイムノグロブリン由来の可変領域であり、かつその定常領域がヒトイムノグロブリン由来の定常領域であることを特徴とするマウス/ヒトキメラモノクローナル抗体等のキメラモノクローナル抗体を意味する。
【0077】
例えば、ヒト抗体を産生するトランスジェニックマウスは、Nature Genetics, Vol.7, p.13-21, 1994;Nature Genetics, Vol.15, p.146-156, (1997)、WO94/25585、Nature, Vol.368, p.856-859, (1994)などに記載の方法に従って作製することができる。
【0078】
次に、本発明の抗原検出型測定法または抗体検出型測定法について説明する。
免疫的検出方法によるコクシエラ菌診断方法としては、(1)抗原を検出する抗原検出型診断薬を使用する方法と、(2)抗体を検出する抗体検出型診断薬を使用する方法の二つの方法を挙げることが出来る。コクシエラ菌の検出感度、選択性、検出操作の迅速性、簡便性、ならびに経済性などを考慮して、最適の方法を使用する。
【0079】
以下に抗原検出型測定法の一例としてラテックス凝集法その他を説明する。
ラテックス凝集法の原理は以下の通りである。
【0080】
ラテックス試薬中の抗体感作ラテックスと検体中の抗原、またはラテックス試薬中の抗原感作ラテックスと検体中の抗体が、抗原抗体反応により結合し、凝集する。この凝集塊は時間と共に増大し、この凝集塊に近赤外光を照射して得られた単位時間当たりの吸光度変化から、抗原または抗体の濃度を定量化する方式が、ラテックス凝集法である。
【0081】
免疫比濁法で起こる抗原抗体反応凝集物は非常に小さく、抗原量の少ない低濃度域での凝集の度合いを光学的に検出するのは難しいのであるが、μmクラスの比較的大きなラテックス粒子に抗体を感作(結合)させたラテックス凝集法では、抗原抗体反応が見かけ上ラテックスの凝集という形で現れることになり、低濃度域での抗原量の少ない場合でも、大きな凝集として現れ、わずかな凝集塊の変化も光学的に捉えることができる。
【0082】
ラテックス凝集反応を行わせるには、抗体結合ラテックスとコクシエラ菌もしくは抗原含有試料とを混和する。数時間から20時間前後保温し、生じた凝集像を目視もしくは顕微鏡下に観察し、限界稀釈率を測定し、抗原量を定量する。
【0083】
ラテックスは種々の市販製品を使用することが可能である。本発明で用いるラテックス粒子としては、抗原あるいは抗体を担持しうるものであれば特に制限されないが、通常、試料溶液に不溶性の有機高分子物質を使用することが好ましい。かかる有機高分子物質よりなる微粒子としては、カルボン酸の合成ポリマーよりなるラテックス粒子を挙げることができる。また、ラテックス粒子の直径は、0.1-50 mcm(micrometers)のものが使用可能であるが、通常0.1-20 mcm(micrometers)の範囲内が好ましい。
【0084】
上記に記載の方法で得られた抗原または抗体は適当な緩衝液や生理的食塩水で希釈してラテックス感作に用いることが出来る。用いられる緩衝液としてはリン酸緩衝液、トリス緩衝液、MOPS等があげられる。
【0085】
上記の抗原あるいは抗体をラテックス粒子へ感作させる方法としては、ラテックス粒子と抗原または抗体の溶液とを混合することによって物理的な吸着を起こさせる物理吸着法、またはカップリング剤等により、ラテックス粒子表面のカルボキシル基やアミノ基と抗原または抗体とを化学的に結合させる化学結合法等が挙げられる。また、ラテックス粒子にスペーサー分子を介して抗原または抗体を結合させても良い。ラテックス粒子への抗原または抗体の感作量に特に制限はないが、ラテックス粒子の場合、通常はラテックス懸濁液1mlに対して0.01〜0.5mgが適当であるが、本発明の抗原または抗体では、ラテックス懸濁液1mlに対して0.01〜0.15mgが好ましい。
【0086】
上記の抗原または抗体を感作したラテックス粒子の懸濁液としては、純水あるいは適当な緩衝液、例えばリン酸緩衝液、トリス緩衝液、MOPS等を用いる。また、ラテックス粒子の懸濁液には分散安定化剤または酸化防止剤界面活性剤等を添加してもよい。
【0087】
本発明のラテックス凝集法は次の方法で行うことが出来る。抗原または抗体を感作したラテックス粒子と、検体から採取した血清や血漿等の被検試料とを混合し、試料中の目的とする抗体または抗原と、ラテックス粒子に感作された抗原または抗体とを反応させ、反応によって生じるラテックス粒子の凝集の程度を測定し、試料中の抗体または抗原の存在の検出又は濃度の算出を行う。凝集は簡便法としては肉眼的に測定できる。より好ましくは光学的に濁度を測定することが出来る。
【0088】
本発明のコクシエラ菌抗原を感作したラテックスを用いた場合、被検試料中の抗コクシエラ菌抗体との反応によるラテックス粒子の凝集の程度により 抗コクシエラ菌抗体濃度を算出し、コクシエラ菌感染の有無を判定することもできる。上記反応はマイクロプレートウエル中、もしくはプラスチックセル若しくはガラスセル内で行われる。この場合、セル外部より可視光から近赤外域の光を照射し、吸光度変化又は散乱光の強度変化を検出してラテックス粒子の凝集の程度を測定する。この際、あらかじめ作成した検量線を用いて、試料中の抗原または抗体の濃度を算出することも可能である。
【0089】
このような凝集測定を行う装置として、光電比色計、マイクロプレートリーダ等があげられる。また、上記ラテックス粒子の凝集反応は、通常、生理的食塩水、pH5〜10程度の適当な緩衝液、例えばリン酸緩衝液等の溶液中で行われる。(また、ラテックス粒子と試料中のタンパク質との非特異的結合を抑制するために、適当な界面活性剤、例えば、トリトーン100、ツウィーン20など等の吸着抑制剤を反応液に添加しても良い。)上記反応及び測定工程等を含む免疫検査に用いるための診断薬は、これまでに通常用いられている既知の方法により調製することができる。これらの診断薬は、通常の免疫凝集反応を利用した診断薬と同様の構成によって提供される。本発明のQ熱診断薬は、少なくとも、コクシエラ菌抗原またはコクシエラ菌由来の抗体が感作された凍結乾燥状態のラテックス試薬を含み、さらに試料希釈液、復水液、標準物質等を含んでいてもよい。
【0090】
また本発明のラテックス凝集反応はスライド凝集法と組み合わせて抗原検出を行うことが出来る。この際マイクロプレートとしては、24穴、48穴、96穴マイクロプレートを使用できる。反応性を検討して、平底、丸底などを調製する。これらのマイクロプレートで凝集反応させた場合、検出を自動化できる可能性がある。また、本発明のラテックス凝集法は、マイクロタイター法と組み合わせて抗原検出を行うことも出来る。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0092】
〔実施例1〕 コクシエラ菌の無血清培養
菌株としては標準株であるコクシエラ菌ナインマイル株(ATCC VR 615)を用いた。コクシエラ菌の細胞培養には Vero細胞(ATCC CCL-81)を用い、細胞増殖用培地には無血清培地であるVP-SFMを用いた。
【0093】
無血清培養のVero細胞を単層にシートさせた大型のフラスコ、またはマイクロキャリアで培養したVero細胞にコクシエラ菌を接種し、37℃で5〜7日間培養後に細胞変性効果(CPE)が表れたのを確認後、培養液を回収した。培養液をポアサイズ0.45μmのフィルターを用いて濾過をした。
その後の操作は全て微生物封じ込めが可能な施設環境下で実施した。
【0094】
回収したコクシエラ菌培養液を4℃で7,500rpm、60分間遠心し、沈査をPBSに浮遊させた。浮遊液を4℃で1,500rpm、10分間遠心し、上清を回収した。沈査は適量のPBSに浮遊させ、4℃で1,800rpm、5分間遠心し、上清を回収した。以上の操作を再度繰り返し、回収したすべての上清を4℃で7,500rpm、60分間遠心した。得られた沈査を少量のPBSに浮遊させ、30%スクロースを含む7.6%ウログラフィン(日本シエーリング)含有PBSに重層し、RPD40Tローター(Hitachi)を用い、4℃で10,000rpm、60分間遠心した。上清除去後、チューブの下部に形成した白濁層を回収した。回収した白濁層をPBSに重層し、同ローターを用い、4℃で14,000rpm、60分間遠心した。上清除去後、沈査をPBSに浮遊させ、粗精製菌とした。
【0095】
次に、粗精製菌の密度勾配遠心を行った。76%ウログラフィンをPBSにより25、30、35および40%に希釈し、静かに重層させた。2時間静置後粗精製菌を重層し、同ローターを用い4℃で24,000rpm、60分間密度勾配遠心を行った。遠心後、25-30%、30-35%、35-40%間に形成した層をそれぞれ回収した。回収した菌は、PBSに重層し、同ローテーターを用い4℃で14,000rpm、60分間遠心した。上清除去後、沈査を少量のPBSに浮遊させ、精製菌とした。
精製菌体の濃度は1 mg/mL(蛋白濃度)に調製した。
【0096】
培養上清中の菌体及び精製後菌体について、その性状を血清下で培養した菌体と比べたところ、電気泳動で調べた場合、実質的な違いは認められなかった。
【0097】
〔実施例2〕 コクシエラ菌の可溶化抗原の製造
コクシエラ菌の可溶化抗原は精製菌を破砕し、破砕物から抗原成分を取得し、必要に応じて精製してから、精製抗原として用いる。本発明においては、一例としてアルカリ処理法により可溶化を行った。
【0098】
精製菌をNaOHにより可溶化した(詳細を示す文献:N. S. V. Otsuka ら。J. Clin. Microbiol, 34, 2947-51, 1996)。精製菌を、13,000rpmで15分間遠心した。上清除去後、沈査を0,2N NaOHに浮遊させた。30分間の煮沸による可容化処理後、PBS中で24時間透析した。透析後、13,000rpmで30分間遠心し、上清を回収して可容化抗原とした。
【0099】
〔実施例3〕コクシエラ菌体に対するモノクローナル抗体の取得
公知のモノクローナル抗体採取法によりコクシエラ菌構成蛋白質を認識するモノクローナル抗体を取得した。ナインマイル株で免疫されたBalb/cマウスの脾臓と、ミエローマ細胞P3-X63-Ag8.653株を既知の方法で細胞融合し、数回のクローニングにより、コクシエラ菌のLPS特異的および外膜蛋白質特異的なクローンを複数選択した。その結果、コクシエラ菌のI相菌のリポ多糖を認識するモノクローナル抗体H5A, H36、外膜糖蛋白質を認識するH106を取得した(Hotta, A., et al Infect. Immun. 70:4747-4749, 2002)。これらはラテックス凝集反応においてポリクローン抗体に匹敵する反応性を示す。
【0100】
モノクローン抗体の取得は公知の細胞培養法により実施した。
まず、8週齢のBALB/cマウス:雌(SLC)にプリスタン(2、6、10、14-テトラメチルペンタデカン、nacalai)を1匹当たり0.5ml腹腔内接種した。2週間後に、ハイブリドーマを1匹当たり1.0×107個腹腔内接種した。胸部の膨満を確認し、18ゲージの注射針を用い腹水を回収した。
【0101】
モノクローナル抗体を含むマウス腹水からモノクローン抗体を精製し、マウス免疫血清からポリクローナル抗体を精製した。腹水および血清を56℃で30分間非働化後、4℃、15,000rpmで25分間遠心し、上清を回収した。等量のPBSを加えた後、飽和硫安を45%となるように滴下した。氷上1時間静置後、4℃で10,000rpm、10分間遠心し、上清を除去した。沈査を少量のPBSに懸濁し、飽和硫安を33%となるように滴下した。氷上1時間静置後、4℃で10,000rpm、10分間遠心し、上清を除去した。沈査を少量のPBSに懸濁後、PBS中で24時間透析を行った。その後、4℃、15,000rpmで30分間遠心を行い、上清を回収した。上清の4倍量の0.02Mリン酸ナトリウムバッファーを加えた後、ポアサイズ0.45μmのフィルターを用いて濾過した。濾過後、モノクローナル抗体 Trap Kit(Amersham Biosciences)を用い、プロトコールに沿って精製を行った。精製抗体はMICROCON YM-10(MILLIPORE)を用いて濃縮後、BIO-RAD Protein Assey Kit(BIO-Rad)を用いて抗体量を測定した。
【0102】
モノクローナル抗体の純度はSAS-PAGEなどにより確認した。モノクローナル抗体とコクシエラ菌との反応性はサンドウィッチELISA法などにより確認を行った。
【0103】
SDS-PAGEを利用する場合、分離用ゲルは12.5%、濃縮用ゲルは4.5%(w/v)のアクリルアミド濃度で行った。精製抗体は6μgを15μlのPBSに懸濁し、等量のsample buffer(20%(v/v)グリセリン、5%(v/v)2-メルカプトエタノール、0.1Mジオストレイトール、4%(w/v)SDS、0.01%(w/v)ブロムフェノールブルー含有0.125MTris-HCl、pH8.0)と混和し、5分間煮沸後、泳動に用いた。25mM Tris-HCl、192mMグリシンおよび1%(w/v)SDSを含む泳動用緩衝液を用いて泳動した。泳動後のゲルは、クーマーシーブルー染色液(0.25%(w/v)Coomassie brilliant blue、25%(v/v)メタノール、7.5%(v/v)酢酸含有DW)中で1時間染色後、脱色液(25%(v/v)メタノール、7.5%(v/v)酢酸含有DW)中で5時間脱色し、泳動像を確認した(図1)。
【0104】
〔実施例4〕モノクローナル抗体の混和による反応性変化の解析
モノクローナル抗体を複数組み合わせて用いれば抗原との反応性を向上させることが可能であり、それを確認した試験例を示す。モノクローナル抗体混合使用による反応性の変化をELISAにより解析した。一次抗体は、総抗体量を10μg/mlとし、3種類のモノクローン抗体(H5A、H36、H106)を様々な比率で混和して用いた。
【0105】
抗原プレートには、精製菌240μlを0.05M重炭酸緩衝液(pH9.6)10mlに懸濁して吸着させた。結果を表1に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
この結果により、モノクローナル抗体を複数組み合わせることにより、抗原との反応性が向上し、抗原の検出感度が改良されたことがわかった。
【0108】
〔実施例5〕ポリクローナル抗体を用いたラテックス凝集反応による抗原検出
ラテックス凝集反応を行わせるために、抗体結合ラテックスとコクシエラ菌もしくは抗原含有試料とを混和した。数時間から20時間前後保温し、生じた凝集像を目視もしくは顕微鏡下に観察し、限界稀釈率を測定し、抗原量の定量を行った。
【0109】
本実施例においては、まず抗体感作のラテックス(抗体の結合したラテックス)を作成した。ラテックス(抗体の結合したラテックス)の作成には、Marchらの方法に従った(Marchら。J. Clin. Microbiol., 38, 4152-59, 2000)。標準ラテックス粒子懸濁液を、PBSを用い、15,000rpm、10m分間の遠心により3回洗浄した。最終洗浄後、沈査をPBSにより1.0 %(w/v)に調整した。これに精製抗体を150μg/ml加え、室温、4時間ローテーターで撹拌して抗体を結合させた。この後、先と同じ様に3回洗浄した。最終洗浄後、沈査を保存液(1%BSA、5%glycerol、0.05%NaN3含有PBS)により1.0%(w/v)に調整した。ブロッキング(抗体結合を安定化させる)のため4℃で24時間以上静置後に凝集反応に用いた。
【0110】
次に本実施例で作成したラテックスの抗体感作ラテックス凝集反応とスライド凝集法とを組み合わせて抗原検出を行った。
【0111】
ミクロスライドグラス(松波社製)上に、DAKO PEN RED(DAKO)により直径1cmの疎水性の円を描いて用いた。抗原は不活化C.burnetiiを7.8×103から1.0×106IFU/mlまで0.5Mトリス緩衝液(Tris-HCl、pH6.8)により2倍段階希釈して用いた。ラテックスは、標準ラテックスおよびカルボン酸変性ラテックスにポリクローナル抗体(Pab)を感作して用いた。抗原15μlと感作ラテックス5μlとをスライドグラス上で混和した。混和後15、60および120分に凝集像を判定した。
さらに、抗体感作ラテックス凝集反応によるマイクロタイター法での抗原検出を行った。
【0112】
本実施例ではマイクロプレートとして6種の96穴プレートを用いた。これらのプレートはブロッキング液(3%スキムミルク含有PBS)により室温で2時間ブロッキング後に用いた。抗原は不活化したコクシエラ菌を6.25×104から1.0×106IFU/mlまでTris-HClにより2倍段階希釈して用いた。ラテックスは、粒径0.35および0.9mのカルボン酸変性ラテックスにポリクローナル抗体を感作して用いた。抗原45μlと感作ラテックス5μlとを96穴プレート上で混和した。混和後24および48時間に凝集像を判定した。
【0113】
〔実施例6〕モノクローナル抗体を用いたラテックス凝集反応による抗原検出
ラテックス凝集反応による抗原検出を行うために、まずカルボン酸変性ラテックスのカルボキシル基固定と感作を行った。
【0114】
カルボン酸変性ラテックスのカルボキシル基固定と感作は、Inzanaらの方法(Inzana,T., J. Clin. Microbiol., 33: 2297-2303, 1995)に従って実施した。カルボン酸変性ラテックス粒子懸濁液を、0.1M重炭酸緩衝液(pH9.6)により、15,000rpm、10分間の遠心により3回洗浄した。次に、0.02Mリン酸緩衝液(pH4.7)により、同様に3回洗浄した。最終洗浄後、沈査をリン酸緩衝液により0.375%(w/v)に調整した。その後、リン酸緩衝液と等量の2%WSC(1-ethyle-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide)含有リン酸緩衝液を滴下し、室温、4時間ローテーターで撹拌し、カルボキシル基を固定した。固定後、0.01Mホウ酸緩衝液(pH8.0)により、先と同様に3回洗浄した。最終洗浄後、沈査をホウ酸緩衝液により1.0%(w/v)に調整した。これに、精製抗体を200μg/ml、NHS(N-hydroxysuccinimide)を10mM加え、室温、18時間ローテーターで拌し感作させた。感作後、エタノールアミンを4mMとなるように加え、さらに30分間撹拌した。撹拌後、1%BSA含有ホウ酸緩衝液により、先と同様に3回洗浄した。最終洗浄後、沈査を保存液により1%(w/v)に調整した、ブロッキングのため4℃で24時間以上静置後に凝集反応に用いた。
【0115】
次に、モノクローナル抗体感作ラテックスを用いる凝集反応による抗原検出を行った。
粒径1.0μmのカルボン酸変性ラテックスに、モノクローナル抗体H5A:H106を1:1、モノクローナル抗体H36:H106を2:1、モノクローナル抗体H5:AH36:H106を1:1:1の比率で混和して感作させた。抗原には実施例1で使用したC. burnetti I相菌生菌を9.75×102から6.25×104 IFU/mlまでTris-HClにより2倍階段希釈して用いた。感作ラテックスの陽性コントロールとしてポリクローン抗体を、陰性コントロールとしてニューカッスル病ウイルス(NDV, 北里研究所保存株)で免役したウサギ血清から精製した抗体(negative ポリクローン抗体)を、それぞれのカルボン酸変性ラテックスに感作させて用いた。また、マイクロタイター法を用いて凝集反応を行い、24時間後に凝集像を判定した。
【0116】
モノクローナル抗体H5A:H106を1:1、モノクローナル抗体H5A:H36:H106を1:1:1の比率で混和させたラテックス、およびポリクローナル抗体感作ラテックスを用いた場合には7.8×103 IFU/mlまで凝集が認められた。H36:H106を2:1の比率で混和して感作させたラテックスを用いた場合には、3.9×103 IFU/mlまで凝集が認められた。
【0117】
一方、ラテックスの陰性コントロールとして用いた血清感作ラテックスでは凝集が認められなかった。抗原の陰性対照として用いた、Yersinia enterocolitica, およびLegionella pneumophilaを同様に処理した場合、凝集は認められなかった。この結果から、複数のモノクロナール抗体を組み合わせて用いる場合、およびポリクロナール抗体を用いる場合に、コクシエラ菌の検出感度が向上することがわかった。
【0118】
〔実施例7〕ラテックス凝集法による血清抗体の検出および臨床血清試料の診断
まず、抗原結合ラテックスの調製を行った。粒径1.1 mcmの標準ラテックスに、可溶化したコクシエラ菌抗原を感作させた。1 mL の1% ラテックス懸濁液に150 mcgの可溶化コクシエラ菌抗原を用い、抗体感作の場合と同様に実施し、抗原感作のラテックスを調製した。
【0119】
被検血清としては、小動物臨床獣医血清106例、北里研究所生物製剤研究所由来のFA IgG抗体価64倍以上であった25例、岐阜大学医学部付属病院に来院した患者の血清の中でFA多価抗体価16倍以上を示した80例の、全部で211例のLAおよびFA抗体価を比較した。
【0120】
次に、抗原感作ラテックス凝集反応によるマイクロタイター法での血清中の抗体検出を行った。血清は128倍から2,048倍までDWにより2倍階段希釈して用いた。マイクロタイタープレートの各ウェル中、抗原感作ラテックス5μlと血清希釈液45μlを混和した。14-18時間後に凝集像を判定した。
【0121】
血清中のコクシエラ菌抗体検出におけるFAに対するLAの感度および特異性を、陽性限界を2種設定して評価した。まずLA抗体価の陽性限界を256倍とした場合には、FA抗体価陽性である142例中、128例がLA抗体価陽性を示し、感度は90.8%であった。また、FA抗体価陰性69例中、6例がLA抗体価陰性を示し、特異性は91.3%であった(表2)。
【0122】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】SDS-PAGEによるコクシエラ菌を認識するモノクローナル抗体の確認を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コクシエラ菌の抗原を含む診断薬を用いて、被検サンプル中に存在する該抗原に結合する抗体を検出する工程を含むQ熱診断方法。
【請求項2】
抗原が、以下の(a)および(b)から選択される少なくとも1つを含む抗原である、請求項1に記載の診断方法。
(a) コクシエラ菌を培養の後、不活化処理を行うことで得られる不活化全菌体コクシエラ菌
(b) コクシエラ菌由来の1または複数の抗原タンパク質を不活化した不活化抗原タンパク質
【請求項3】
抗原が、以下の(a)および(b)の工程により得られる抗原である、請求項1に記載の診断方法。
(a) コクシエラ菌を培養し、コクシエラ菌培養調製物を製造する工程
(b) コクシエラ菌培養調製物に不活化剤を添加して、全菌体コクシエラ菌を不活化する工程
【請求項4】
抗原が、以下の(a)および(b)の工程により得られる抗原である、請求項1に記載の診断方法。
(a) コクシエラ菌を培養する工程
(b) 培養したコクシエラ菌由来の1または複数の抗原タンパク質に、不活化剤を添加して該抗原タンパク質を不活化する工程
【請求項5】
コクシエラ菌の培養が、以下の(a)または(b)のいずれかの工程からなる、請求項2から請求項4に記載の診断方法。
(a) コクシエラ菌を無血清培養する工程
(b) コクシエラ菌を血清添加培養する工程
【請求項6】
コクシエラ菌が野生株、臨床分離株、もしくはそれら由来の人工変異株、または組換え株である請求項1から5のいずれかに記載の診断方法
【請求項7】
コクシエラ菌がコクシエラ・バーネッティである請求項1から6のいずれかに記載の診断方法
【請求項8】
コクシエラ菌の抗原に結合する抗体を含む診断薬を用いて、被検サンプル中に存在する該抗体に結合する抗原を検出する工程を含むQ熱診断方法。
【請求項9】
抗体がコクシエラ菌体の一部を認識するモノクローナル抗体である、請求項8に記載の診断方法。
【請求項10】
モノクローナル抗体がコクシエラ菌の外膜糖タンパク質抗原を認識するモノクローナル抗体およびリポ多糖を認識するモノクローナル抗体から選択される少なくとも1つである請求項9に記載の診断方法。
【請求項11】
診断薬の抗体を作成する際に用いた抗原が、以下の(a)または(b)のいずれかである、請求項8から10のいずれかに記載のQ熱診断方法。
(a) コクシエラ菌を培養の後、不活化処理を行うことで得られる不活化全菌体コクシエラ菌
(b) コクシエラ菌由来の1または複数の抗原タンパク質を不活化した、不活化抗原タンパク質
【請求項12】
診断薬の抗体を作成する際に用いた抗原が、以下の(a)および(b)の工程により得られる抗原である、請求項8から10のいずれかに記載のQ熱診断方法。
(a) コクシエラ菌を培養し、コクシエラ菌培養調製物を製造する工程
(b) コクシエラ菌培養調製物に不活化剤を添加して、全菌体コクシエラ菌を不活化する工程
【請求項13】
診断薬の抗体を作成する際に用いた抗原が、以下の(a)および(b)の工程により得られる抗原である、請求項8から10のいずれかに記載のQ熱診断方法。
(a) コクシエラ菌を培養する工程
(b) 培養したコクシエラ菌由来の1または複数の抗原タンパク質に、不活化剤を添加して該抗原タンパク質を不活化する工程
【請求項14】
コクシエラ菌の培養が、以下の(a)または(b)のいずれかの工程である、請求項11から13のいずれかに記載のQ熱診断方法。
(a) コクシエラ菌を無血清培養する工程
(b) コクシエラ菌を血清添加培養する工程
【請求項15】
免疫的測定法を用いる請求項1から14のいずれかに記載の診断方法。
【請求項16】
ラテックス凝集法を用いる請求項1から15のいずれかに記載の診断方法。
【請求項17】
コクシエラ菌の抗原または該抗原に結合する抗体を含むQ熱診断薬。
【請求項18】
抗原が、以下の(a)および(b)から選択される少なくとも1つを含む抗原である、請求項17に記載のQ熱診断薬。
(a) コクシエラ菌を培養の後、不活化処理を行うことで得られる不活化全菌体コクシエラ菌
(b) コクシエラ菌由来の1または複数の抗原タンパク質を不活化した、不活化抗原タンパク質
【請求項19】
抗原が、以下の(a)および(b)の工程により得られる抗原である、請求項17に記載のQ熱診断薬。
(a) コクシエラ菌を培養し、コクシエラ菌培養調製物を製造する工程
(b) コクシエラ菌培養調製物に不活化剤を添加して、全菌体コクシエラ菌を不活化する工程
【請求項20】
抗原が、以下の(a)および(b)の工程により得られる抗原である、請求項17に記載のQ熱診断薬。
(a) コクシエラ菌を培養する工程
(b) 培養したコクシエラ菌由来の1または複数の抗原タンパク質に、不活化剤を添加し該抗原タンパク質を不活化する工程
【請求項21】
コクシエラ菌の培養が、以下の(a)または(b)のいずれかの工程である、請求項18から20のいずれかに記載のQ熱診断方法。
(a) コクシエラ菌を無血清培養する工程
(b) コクシエラ菌を血清添加培養する工程
【請求項22】
抗体がコクシエラ菌体の一部を認識するモノクローナル抗体である、請求項17から21のいずれかに記載のQ熱診断薬。
【請求項23】
モノクローナル抗体がコクシエラ菌の外膜糖タンパク質抗原を認識するモノクローナル抗体およびリポ多糖を認識するモノクローナル抗体から選択される少なくとも1つである請求項22に記載のQ熱診断薬。
【請求項24】
請求項17から23のいずれかに記載の診断薬を含む診断キット。

【図1】
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【公開番号】特開2006−10360(P2006−10360A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184260(P2004−184260)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(390027214)社団法人北里研究所 (20)
【Fターム(参考)】