説明

簡易アイソレータ

【課題】患者を外部から隔離した状態のまま、搬送車などでも安全に搬送することができる簡易アイソレータを提供する。
【解決手段】車椅子WCに取り付けて使用される簡易アイソレータ1であって、車椅子WCに固定されるフレーム10と、フレーム10に対して取り付けられる、中空なカバー20と、カバー20内と連通された換気手段30と、を備えており、カバー20は、複数枚のシート状部材21を、シート状部材21よりも高強度の補強部材22によって補強した構造を有しており、補強部材22には、カバー20をフレーム10に固定する固定部材22aと、カバー20の内部に設けられた、患者の体を保持するシートベルト25と、が固定されている。簡易アイソレータ1を取り付けた車椅子WCに患者を載せたまま搬送車で搬送する場合でも、患者の体を安定した状態に保持しておくことができ、安全に搬送することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易アイソレータに関する。さらに詳しくは、感染症患者、感染症の疑いのある患者、免疫力が低下した患者を隔離して搬送するために使用される簡易アイソレータに関する。
【背景技術】
【0002】
感染症の疑いがある患者や免疫力が低下した患者は、感染の拡大を防止するために、ベッドなどが内部に設けられた隔離室(アイソレータ)内に隔離される。かかるアイソレータには、通常、内部を換気するために換気用の装置を備えており、この換気装置によりアイソレータ内を陰圧にしたり陽圧にしたりすることができるようになっている。このため、感染症の疑いがある患者を収容する場合には、アイソレータ内を陰圧にすれば、感染源となるウイルスが外部に排出されることを防ぐことができる。また、免疫力が低下した患者を収容する場合には、アイソレータ内を陽圧にすれば、外部からウイルスなどがアイソレータに侵入することを防ぐことができる。
【0003】
しかし、上記のごとき患者を検査などの目的のため病院などに搬送する場合、また、感染症が疑われる患者をその患者が発見された場所から病院などに搬送する場合には、その搬送中にウイルスなどが拡散されてしまったり、患者がウイルスなどに感染してしまったりする可能性がある。かかる問題を防ぐ上では、患者を外部から隔離した状態で搬送することが必要である。
【0004】
患者を外部から隔離した状態で搬送する装置として、車椅子型アイソレータが、特許文献1に開示されている。
特許文献1の車椅子型アイソレータは、車椅子の座部と背もたれ部との間に着脱可能に取り付けられ、内部が外界と隔離された密閉空間に形成されて前記患者を着座して収容する隔離部と、隔離部内を換気して前記外界と所定の圧力差に保つ換気ユニットと、を備えている。このため、隔離部を車椅子に取り付けてこの隔離部内に患者を収容すれば患者を外部から隔離することができるし、患者を車椅子に座らせた状態で搬送することができる。
【0005】
しかるに、特許文献1の車椅子型アイソレータでは、患者は単に車椅子に座っているだけであり、患者を車椅子と固定することはできない。すると、この車椅子型アイソレータに患者を載せたまま搬送車に乗せた場合、車椅子を搬送車に固定することはできても、患者を車椅子にも搬送車にも固定しないまま搬送することとなり、非常に危険である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4381046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、患者を外部から隔離した状態のまま、搬送車などでも安全に搬送することができる簡易アイソレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の簡易アイソレータは、車椅子に取り付けて使用される簡易アイソレータであって、車椅子に固定されるフレームと、該フレームに対して取り付けられる、中空なカバーと、該カバー内と連通された換気手段と、を備えており、前記カバーは、シート状部材によって形成されたものであって、該シート状部材よりも高強度の補強部材によって補強された補強部分を有しており、該補強部分には、前記カバーを前記フレームに固定する固定部材と、前記カバーの内部に設けられた、患者の体を保持する保持手段と、が固定されていることを特徴とする。
第2発明の簡易アイソレータは、第1発明は、前記フレームは、車椅子に取り付けた状態において、該車椅子の前側に位置する前フレームと、該前フレームよりも上方に位置するように設けられ、該前フレーム側から後方に向かって伸びた上部フレームと、該上部フレームの前端と前記前フレームの上端との間を連結し、かつ、該前フレームの上端から後方に向かって傾斜した傾斜フレームと、を備えていることを特徴とする。
第3発明の簡易アイソレータは、第1または第2発明は、前記フレームが、左右一対の側方フレームと、該左右一対の側方フレームの間に設けられた、両者を連結する連結機構と、を備えており、該連結機構が、前記左右一対の側方フレームを離間した状態で固定する使用姿勢と、前記左右一対の側方フレームが接近した折畳姿勢と、を取り得る機構であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、簡易アイソレータを車椅子に取り付けて使用すると、簡易アイソレータのカバー内に患者を収容し、外部と隔離した状態で搬送することができる。しかも、カバーは、シート状部材よりも高強度の補強部材を介して固定部材によってフレームに固定されており、この補強部材に保持手段が固定されている。すると、保持手段によって保持された患者の体は、実質的に、フレームを介して車椅子に固定されることになる。よって、簡易アイソレータを取り付けた車椅子に患者を載せたまま搬送車で搬送する場合でも、患者の体を安定した状態に保持しておくことができ、安全に搬送することができる。
第2発明によれば、フレームの前方上端が傾斜フレームになっているので、簡易アイソレータを取り付けた車椅子を搬送車に載せる際に、フレームが邪魔になることを防ぐことができる。
第3発明によれば、連結機構を使用姿勢とすれば、左右一対の側方フレーム間に患者を収容するスペースを形成することができ、連結機構を折畳姿勢とすれば、フレームをコンパクトに畳んでおくことができる。すると、安定した状態で簡易アイソレータを使用できるし、使用しないときには、小さなスペースでも簡易アイソレータを保管できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態の簡易アイソレータ1の概略説明図である。
【図2】本実施形態の簡易アイソレータ1におけるフレーム10の単体概略説明図である。
【図3】本実施形態の簡易アイソレータ1におけるカバー20の単体概略斜視図である。
【図4】本実施形態の簡易アイソレータ1におけるカバー20の単体説明図であって、(A)は概略側面図であり、(B)は、要部断面図である。
【図5】他のカバー20の単体概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の簡易アイソレータは、感染症患者及び感染症の疑いのある患者などを外部から隔離して搬送するために使用されるアイソレータであって、車椅子に取り付けた状態で使用でき、しかも、車椅子に載せられている患者をそのまま搬送車で搬送する場合でも安定した状態に保持しておくことができるようにしたことに特徴を有している。
なお、本発明の簡易アイソレータが取り付けられる車椅子は、市販されている一般的な車椅子であって、座部、背もたれ、肘掛、足置きなど備えたものであればよく、とくに限定されない。
【0012】
(簡易アイソレータ1の説明)
図1に示すように、本実施形態の簡易アイソレータ1は、車椅子WCに取り付けて使用するものであり、フレーム10と、このフレーム10に取り付けられる中空なカバー20と、このカバー20内と連通された換気手段30とを備えている。
なお、換気手段30は、車椅子WCの座部の下方の空間、または、座部後方に取り付けられるが、図1では、構造を分かりやすくするために記載を省略している。同様に、カバー20についても想像線により簡略化して記載している。
【0013】
この本実施形態の簡易アイソレータ1は、フレーム10を車椅子WCに取り付けて、このフレーム10にカバー20を取り付けることによって、カバー20内に外部と隔離された中空な空間を形成できるようになっている。
【0014】
カバー20内は換気手段30と連通されており、この換気手段30によって内部の換気などを行えるようになっている。
換気手段30は、公知の換気手段であり、カバー20内から空気を吸引してカバー20内を陰圧にして内部から吸引した空気を浄化して外部に排出できる機能を有するものや、外気を浄化してカバー20に供給してカバー20内を陽圧にすることができる機能を有するものである。
【0015】
以上のごとき構造を有するので、本実施形態の簡易アイソレータ1では、カバー20内に患者を収容すれば、患者を外部から隔離することができる。しかも、換気手段30によって、カバー20からウイルスなどに汚染された空気が外部に排出されることや、外部からウイルスなどに汚染された空気が入ることを防ぐことができる。よって、患者から排出されるウイルスなど拡散させたり、患者をウイルスに感染させたりすることなく、患者を車椅子WCに載せた状態で移動させることができる。
【0016】
なお、換気手段30は、カバー20の適所にパイプ、ホースなどを介して接続すればよい(図4(A)参照)。図4(A)では、カバー20はその背面において換気手段30と連通されているが、カバー20と換気手段30を連通する位置はとくに限定されない。
【0017】
また、カバー20には、換気手段30との接続部分以外に、適所に外部との間を連通する連通部が設けられている。この連通部は、換気手段30から浄化空気が供給される場合には排気口として機能し、換気手段30から空気が吸引される場合には吸気口として機能するものである。この連通部の構造は、前記機能を有する構造であればとくにその構造は限定されないが、HEPAフィルタなどを設けてウイルス、細菌などが通気部を通過することを防ぐことができる構造をなっていることが好ましい。
【0018】
さらに、本実施形態の簡易アイソレータ1は、車椅子WCに取り付けることができる大きさであればよいが、車椅子WCに取り付けたときに、地面から簡易アイソレータ1の上端までの高さが約1300mm以下となるように形成されていることが好ましい。かかる大きさであれば、本実施形態の簡易アイソレータ1を取り付けた車椅子WCを、スロープなどを使って介護用の自動車などに載せることが可能となるので、患者の移動がより一層容易になる。
【0019】
(フレーム10およびカバー20の説明)
以下、上述した本実施形態の簡易アイソレータ1におけるフレーム10およびカバー20について、詳細に説明する。
【0020】
(フレーム10の説明)
フレーム10は、車椅子WCのフレームに固定されて使用されるものである。
図2に示すように、フレーム10は複数本のパイプを組み合わせて形成されている。このフレーム10は、左右一対の側方フレーム10s,10sと、この左右一対の側方フレーム10s,10sの間に設けられた両者を連結する連結機構18とから構成されている。
【0021】
(側方フレーム10sの説明)
側方フレーム10sは、上述したように、本実施形態の簡易アイソレータ1を車椅子WCに取り付けたときに、地面から簡易アイソレータ1の上端までの高さが約1300mm以下となるように形成されている。側方フレーム10sを形成する部材は、ステンレスなどのように、錆びにくく薬品などによる殺菌消毒を行っても腐食しない材料によって形成されたパイプなどによって形成されることが好ましいが、その素材はとくに限定されない。
【0022】
図2に示すように、側方フレーム10sは、互いに平行に設けられた前フレーム11と後フレーム12とを備えている。前フレーム11および後フレーム12は、いずれもその下端に車椅子WCのフレームと連結するための固定部を備えており、この固定部によって車椅子WCに固定できるようになっている。固定部は図示しないが、その構造はとくに限定されず、公知の部品や器具を使用することができる。
なお、前フレーム11は、その上端の高さが後フレーム12の上端よりも低くなるように形成されているが、その理由は後述する。
【0023】
(連結フレーム13の説明)
図2に示すように、前フレーム11と後フレーム12との間は、連結フレーム13によって連結されている。連結フレーム13は、前フレーム11の上端と後フレーム12の上端との間を連結する上部接続フレーム14と、上部接続フレーム14よりも下方の位置を連結する下部接続フレーム15とから構成されている。
【0024】
(上部接続フレーム14の説明)
上部接続フレーム14は、上方フレーム14aと傾斜フレーム14bとから構成されている。
【0025】
上方フレーム14aは、その後端が後フレーム12の上端と連結されており、その軸方向が前フレーム11の軸方向と交差するように(好ましくは直交するように)設けられている。この上方フレーム14aの軸方向の長さは、前フレーム11と後フレーム12との間の距離よりも短くなっている。
【0026】
この上方フレーム14aの前端と前フレーム11の上端との間には、両者の間をつなぐように傾斜フレーム14bが設けられている。上述したように、前フレーム11の上端の位置が後フレーム12の上端の位置よりも低くなっているので、傾斜フレーム14bは、前フレーム11の上端から後方に向かって(上方フレーム14aの前端に向かって)上方に傾斜するように設けられる。
【0027】
つまり、側方フレーム10sの前方上端が傾斜フレーム14bになっており、側方フレーム10sは、側方から見たときに、前端上部の角が削られたような形状に形成されている。このため、本実施形態の簡易アイソレータ1を取り付けた車椅子WCを介護用車などの搬送車に載せる際に、簡易アイソレータ1のフレームが搬送車のボディと干渉することを防ぐことができる。
【0028】
(下部接続フレーム15の説明)
また、下部接続フレーム15は、前フレーム11と後フレーム12とを連結するものであり、後フレーム12の軸方向と直交する水平フレーム15aと、水平部15aから下方に延びた保護フレーム15bとを備えている。なお、保護フレーム15bはその下端が前フレーム11の下端と連結されている。
【0029】
水平フレーム15aは、本実施形態の簡易アイソレータ1を車椅子WCに取り付けたときに、肘掛ARよりもわずかに高い位置になるように配設されている(図1参照)。
一方、脚部保護フレーム15bは、水平フレーム15aの前端から下方に延びている。この脚部保護フレーム15bは、その軸方向が前フレーム11と軸方向と平行となるように配置されている。しかも、脚部保護フレーム15bは、本実施形態の簡易アイソレータ1を車椅子WCに取り付けたときに、車椅子WCの足置きFRの側方に位置するように設けられている。
【0030】
また、水平フレーム15aと後フレーム12との間には、L字状に曲がった支持フレーム15cが設けられている。この支持フレーム15cは、その水平部分が水平フレーム15aと平行となるように配置されており、水平部分が水平フレーム15aと上方フレーム14aのほぼ中間に位置するように配設されている。
【0031】
以上のように、側方フレーム10sに脚部保護フレーム15bおよび支持フレーム15cが設けられているので、カバー20をフレーム10に取り付けたときに、カバー20が内方に凹んで、カバー20内の患者と接触することを防ぐことができる。すると、カバー20内の患者に収容されている患者の不快感を極力抑えることができる。具体的には、カバー20が内方に凹んで患者の肩などに接触することを支持フレーム15cによって防ぐことができるし、カバー20が内方に凹んで患者の足などに接触することを脚部保護フレーム15bによって防ぐことができる。
【0032】
(連結機構18の説明)
また、左右一対の側方フレーム10s,10sの間には、両者を連結する連結機構18が設けられている。
この連結機構18は、一対のパイプ材18a,18bの一端同士を軸18cによって屈曲可能に連結したものであり、一対のパイプ材18a,18bの他端は、それぞれ左右一対の側方フレーム10s,10sに軸着されている。このため、連結機構18を屈曲させれば、左右一対の側方フレーム10s,10sの上端間を接近させることができ、連結機構18を伸ばせば、左右一対の側方フレーム10s,10sの上端間を離間させて、所定の距離だけ離すことができる。
【0033】
以上のごとき連結機構18を設ければ、連結機構18を伸すことによって左右一対の側方フレーム10s,10s間に患者を収容するスペースを形成することができる。また、連結機構18を屈曲させることによって(図2点線の状態)、フレーム10をコンパクトに畳んでおくことができる。
すると、安定した状態で簡易アイソレータ1を使用できるし、使用しないときには、小さなスペースでも簡易アイソレータ1を保管できる。
【0034】
なお、左右一対の側方フレーム10s,10sにおいて、一対のパイプ材18a,18bの他端が接続される部分はとくに限定されない。接続する部分としては、例えば、後フレーム12の上端近傍、または、上方フレーム14aの後端近傍、を挙げることができる。
【0035】
また、一対のパイプ材18a,18bの連結部分には、一対のパイプ材18a,18bが一方向にのみ屈曲することを許容するカバー18dを設けておくことが好ましい。かかるカバー18dを設けておけば、連結機構18が必要以上に曲がることを防ぐことができる。
この場合、一対のパイプ材18a,18bが屈曲する方向はとくに限定されないが、図2に示すように、外方にのみ屈曲するように設けることが好ましい。すると、使用中に何らかの衝撃や震動等が加わって連結機構18が折れ曲がることがあったとしても、カバー20が患者に接触することを防ぐことができるし、折れ曲がった連結機構18が患者に当たることもない。
【0036】
さらに、連結機構18は複数本設けてもよい。この場合、カバー20内の気圧を陰圧とした場合でも、カバー20が内方に凹むこと連結機構18によって防ぐことができる。例えば、連結機構18を互いに平行となるように、上部フレーム14aの軸方向に沿って複数本配置し、隣接する連結機構18の軸18c同士を連結する連結軸を設ければ、カバー20が内方に凹むことを確実に防ぐことができるし、連結軸を持って連結機構18を屈曲できるので好ましい。
【0037】
上記の連結機構18を伸ばした状態が、特許請求の範囲にいう使用姿勢に相当し、連結機構18を屈曲させた状態が、特許請求の範囲にいう折畳姿勢に相当する。
なお、連結機構18の構造は上記のごとき構造に限定されず、使用姿勢と折畳姿勢との間で姿勢を変更することができる構造であれば、どのような構造も採用することができる。
【0038】
また、フレーム10における側方フレーム10sに、点滴などを取り付けることができる点滴台を設けてもよい。例えば、側方フレーム10sの側方に、フックを有する棒状の部材を設けておけば、そのフックに点滴容器を吊り下げることができる。すると、後述するカバー20に、点滴用チューブを通すことができる孔であって点滴用チューブを孔に通した状態で気密性を確保できる構造を有するものを形成しておけば、その孔を通してカバー20内の患者に点滴をすることができるし、点滴をしたまま移動することも可能となる。
【0039】
(カバー20の説明)
カバー20は、内部に中空な空間を形成することができる構造を有する袋状の部材であり、前記フレーム10に取り付けて使用されるものである。このカバー20は、内部を膨らませた状態では、側面形状が、フレーム10の側方フレーム10sとほぼ同じ形状となるように形成されている。
【0040】
図3および図4に示すように、カバー20は、複数枚のシート状部材21を補強部材22によって連結した構造を有している。
具体的には、側方フレーム10sとほぼ同じ形状に形成された一対の側面シート21a,21a、一対の側面シート21a,21a間に設けられた3つのシート状部材(背面シート21b、座部シート21c、上部シート21d)から構成されており、隣接するシート同士を補強部材22によって連結して形成されている。この補強部材22が設けられている部分が、特許請求の範囲に言う補強部分に相当する。
【0041】
なお、カバー20は、一枚のシートから形成してもよい。この場合には、カバー20内を外部から気密に保ちやすくなるという利点が得られる。
また、カバー20を構成する各シート状部材の素材はとくに限定されない。例えば、通気性を有しない素材である、塩化ビニール(PVCシート)、ポリエチレン(PE、PE/EVA/PE)(PEシート)、ポリエステル(PETシート)などによって形成されたシートを挙げることができる。
【0042】
つぎに、各シート状部材を説明する。
【0043】
一対の側面シート21a,21aは、側方フレーム10sとほぼ同じ形状に形成されたシート状の部材である。
【0044】
背面シート21bは、一対の側面シート21a,21a間の背面部間に配置されるシートである。具体的には、本実施形態の簡易アイソレータ1を車椅子WCに取り付けたときに、車椅子WCの背もたれB部分の位置に配置されるように、背面シート21bは設けられている。
【0045】
座部シート21cは、一対の側面シート21a,21a間の下部の間に配置されるシートである。具体的には、本実施形態の簡易アイソレータ1を車椅子WCに取り付けたときに、車椅子WCの座部Sから足置きFRまでを覆うように、座部シート21cは設けられている。
【0046】
上部シート21dは、一対の側面シート21a,21a間の上部および前部の間に配置されるシートである。具体的には、本実施形態の簡易アイソレータ1を取り付けた車椅子WCに患者を座らせたときに、患者の頭上および前面を覆うように、上部シート21dは設けられている。この上部シート21dの前面には、ファスナーfによって開閉できる扉部drが設けられている。この扉部drは、ファスナーfを開けば上部シート21dの前面に開口が形成されてこの開口からカバー20内に患者が出入りでき、ファスナーfによって開口を閉じればカバー20内部と外部との間を隔離できるように形成されている。この扉部drを開閉するファスナーfはとくに限定されず公知のファスナーを使用できるが、ファスナーfを閉じると、扉部drを略気密に閉じることができるものが好ましい。例えば、ファスナーfとしては、ビスロン、砲金(真鍮)、、アルミニウム、ステンレス製のファスナーなどを挙げることができる。
【0047】
(補強部材22の説明)
上述したように、隣接するシート状部材同士の間には、補強部材22が設けられている。
具体的には、一対の側面シート21a,21aの後端縁と背面シート21bの側端縁との間には、これらの端縁に沿って補強部材22が取り付けられている。一対の側面シート21a,21aの下端縁と座部シート21cの側端縁との間には、これらの端縁に沿って補強部材22が取り付けられている。一対の側面シート21a,21aの前端縁および上端縁と上部シート21dの側端縁との間も、これらの端縁に沿って補強部材22が取り付けられている。そして、背面シート21bの上端縁と上部シート21dの後端縁との間、背面シート21bの下端縁と座部シート21cの後端縁との間、および、上部シート21dの前端縁と座部シート21cの前端縁との間も、これらの端縁に沿って補強部材22が取り付けられている。
【0048】
この補強部材22は、シート状部材の材料よりも高強度の材料によって形成された略テープ状の部材である。この補強部材22の材料には、例えば、塩化ビニール、ポリエチレン(PE、PE/EVA/PE)、ポリエステルなどを挙げることができる。
【0049】
この補強部材22には、カバー20をフレーム10に取り付けるための固定部材22aが設けられている。この固定部材22aは、面状ファスナーなどであり、フレーム10に対して着脱できるものであれば、とくに限定されない。面状ファスナーの素材もとくに限定されず、例えば、ポリエステル100%のものなどを使用することができる。
【0050】
以上のごとき構成を有するので、固定部材22aをフレーム10に対して固定すれば、カバー20をフレーム10に固定することができる。しかも、固定部材22aは、シート状部材の材料よりも高強度の材料によって形成された補強部材22に取り付けられている。すると、フレーム10とカバー20との間を離間させるような力が加わっても、その力は固定部材22aを介して補強部材22に加わるがシート状部材21には加わらないから、シート状部材21が損傷する可能性を低くすることができる。
【0051】
(シートベルト25について)
また、図4(B)に示すように、カバー20内部には、患者の体を保持するためのシートベルト25が設けられている。このシートベルト25は、ベルト25aと、ベルトの巻き取り繰り出しを行うリトラクター25bと、ベルトを固定するベルトアンカー25cと、から構成されている。リトラクター25bは、図1における背面シート21bの下端縁と座部シート21cの後端縁との間に設けられた、左側の補強部材22に取り付けられている。また、ベルトアンカー25cは、図1における背面シート21bの下端縁と座部シート21cの後端縁との間に設けられた、右側の補強部材22に取り付けられている。
【0052】
このため、カバー20内で車椅子WCの座部Sに患者を座らせて、腰の部分の上を通るようにベルト25aを配置して、このベルト25aをベルトアンカー25cに固定すれば、患者はカバー20の補強部材22に固定される。補強部材22は、固定部材22aおよびフレーム10を介して車椅子WCに固定されている。すると、本実施形態の簡易アイソレータ1を取り付けた車椅子WCを搬送車などに固定しておけば、シートベルト25によって保持された患者の体は、実質的に、搬送車などに固定された状態になる。
したがって、本実施形態の簡易アイソレータ1を使用すれば、車椅子WCに患者を載せたまま搬送車で搬送する場合でも、患者の体を安定した状態に保持しておくことができ、安全に搬送することができる。
【0053】
なお、シートベルト25は、リトラクター25bを備えていないものでもよく、この場合にはベルト25aの基端を直接補強部材22に固定すればよい。
上記のシートベルト25が特許請求の範囲にいう保持手段に相当するが、保持手段は、患者の体を保持することができるものであればとくに限定されない。
【0054】
(車装備のシートベルトを使用する場合について)
カバー20が上記のごときシートベルト25を備えている場合には、このシートベルト25によって患者を車椅子WCに固定できるのであるが、カバー20が、車自体が装備しているシートベルトを使用できる構造を有していてもよい。
図5において、符号sfはカバー20のように一対の側面シート21a,21aに設けられたファスナーを示している。このファスナーsfは、スライダーを一対備えたファスナーであり、一対のスライダーの位置を調整すれば、所望の位置に所望の大きさの開口を形成することができる。
このため、一方のファスナーsfから車自体が装備しているシートベルトのベルトをカバー20内に入れて、他方のファスナーsfからベルトアンカーをカバー20内に入れれば、カバー20で両者を連結することができる。すると、車自体が装備しているシートベルトによって患者を車椅子WCに固定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の簡易アイソレータは、感染症患者及び感染症の疑いのある患者を隔離して搬送するアイソレータに適している。
【符号の説明】
【0056】
1 簡易アイソレータ
10 フレーム
10s 側方フレーム
14a 上方フレーム
14b 傾斜フレーム
18 連結機構
20 カバー
21 シート状部材
22 補強部材
30 換気手段
WC 車椅子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車椅子に取り付けて使用される簡易アイソレータであって、
車椅子に固定されるフレームと、
該フレームに対して取り付けられる、中空なカバーと、
該カバー内と連通された換気手段と、を備えており、
前記カバーは、
シート状部材によって形成されたものであって、該シート状部材よりも高強度の補強部材によって補強された補強部分を有しており、
該補強部分には、
前記カバーを前記フレームに固定する固定部材と、
前記カバーの内部に設けられた、患者の体を保持する保持手段と、が固定されている
ことを特徴とする簡易アイソレータ。
【請求項2】
前記フレームは、
車椅子に取り付けた状態において、該車椅子の前側に位置する前フレームと、
該前フレームよりも上方に位置するように設けられ、該前フレーム側から後方に向かって伸びた上部フレームと、
該上部フレームの前端と前記前フレームの上端との間を連結し、かつ、該前フレームの上端から後方に向かって傾斜した傾斜フレームと、を備えている
ことを特徴とする請求項1記載の簡易アイソレータ。
【請求項3】
前記フレームが、
左右一対の側方フレームと、
該左右一対の側方フレームの間に設けられた、両者を連結する連結機構と、を備えており、
該連結機構が、
前記左右一対の側方フレームを離間した状態で固定する使用姿勢と、
前記左右一対の側方フレームが接近した折畳姿勢と、を取り得る機構である
ことを特徴とする請求項1または2記載の簡易アイソレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−110453(P2012−110453A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260774(P2010−260774)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 博覧会名:中小企業総合展2010 in Kansai、主催者名:独立行政法人中小企業基盤整備機構、開催日:平成22年5月26日から28日
【出願人】(508203666)株式会社イハラ (2)
【Fターム(参考)】