説明

簡易型電気泳動式ゼータ電位計

【課題】移動界面電気泳動法によるゼータ電位測定に用いることが出来て、明瞭な界面を容易に形成させることができる、構造が簡単で、小型で携帯も可能であり、操作が簡便な簡易型電気泳動式ゼータ電位計を提供する。
【解決手段】コロイド溶液とその分散媒との間に出現した界面の移動を観測するための透明な鉛直円管を有するコロイド溶液収容容器及び前記の透明な鉛直円管内で重力方向に電圧を印加するための、一方が前記の透明な鉛直円管の上部に配置された一対の電極を具備している簡易型電気泳動式ゼータ電位計であって、前記鉛直円管内の上部に配置された電極として、円形の平板であって、前記鉛直円管の内径より僅かに小さい径の電極を用いるか、又は前記鉛直円管内の上部に配置された電極が、コロイド粒子を透過させない半透膜により、コロイド溶液と接触しないようにした簡易型電気泳動式ゼータ電位計。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイド溶液中のコロイド粒子のゼータ電位を測定するための電気泳動式ゼータ電位計であって、コロイド溶液とその分散媒との間に出現した界面の移動を容易に且つ明瞭に観測することができる電気泳動式ゼータ電位計に関するものであり、特に、構造が簡単で測定も容易な、濃厚コロイド溶液中のコロイド粒子のゼータ電位測定も可能である簡易型電気泳動式ゼータ電位計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コロイド溶液の分散安定性を示す、コロイド粒子のゼータ電位の測定は、食品、飲料、医薬品、化粧品、塗料、セラミックスなどの製造過程或いは製品の管理、切削・研磨、各種廃液の処理、土木、建築、ナノ粒子等無機微粒子の利用分野など広い分野で行われている。しかし、純粋な水の中に存在するコロイド粒子であれば、コロイド粒子のゼータ電位は容易に測定することができるが、コロイド粒子が存在している様々な状態によっては、例えば、コロイド溶液が濃厚である状態では、コロイド粒子のゼータ電位を測定することが、従来の測定機器を用いては難しくなる。特に、現場での測定となると、測定機器の設置、移動さえも難しく、煩わしいことになる。具体的には、トンネル工事或いは大規模な建設現場では、掘削、基礎工事などの際に、鉱物粘土、特にベントナイトが用いられているが、その分散液におけるゼータ電位を頻繁に計測して、工事環境、工事の安全、ベントナイトの再利用などにおける問題を解決して行かなければならず、これまで、ユーザーの要望に対応できるように、簡便な方法で測定することができ、濃厚な試料でも測定することができ、現場で直ぐにも使え、かつ、ユーザーに技術面と価格面で受け容れられるゼータ電位測定装置はなかった。
【0003】
従来、コロイド溶液の分散安定性の指標として、分散質であるコロイド粒子のゼータ電位が測定されており、その測定法として、移動界面電気泳動法、ゾーン電気泳動法、キャピラリー電気泳動法などが知られていた。移動界面電気泳動法は、コロイド溶液とその上に重ねたその分散媒との間で界面を形成させ、界面の移動を観察して電気泳動速度を測定する方法で、この方法には、U字管法とチゼリウス(A.W.K.Tiselius)の方法がある。U字管法は、コロイドを含む溶液とこのコロイドを含まない溶液との界面を形成させるが、界面の形成が難しく、界面の形成に熟練と時間を要することなどから、今では殆ど採用されていない。チゼリウスの方法は、矩形セルをスライドさせて前記同様の界面を形成させるが、用いる装置の構造が複雑で取扱いが難しく、グリースを使うので試料汚染の恐れもあり、今日では、その装置は販売されていない(非特許文献1及び非特許文献2参照)。
【0004】
また、ゼータ電位は、測定されたコロイド粒子速度から、スモルコフスキー(Smoluchowski)の式
【数1】
ζ=ηU/εε
及び
【数2】
U=νL/V
により求められていた。ここで、ζはゼータ電位、ηは溶媒の粘性、Uは電気泳動移動度、εは真空の誘電率、εは溶媒の比誘電率、νはコロイド粒子の泳動速度、Lは電極間距離、Vは印加電圧を表す(非特許文献1及び非特許文献2参照)。
【0005】
昨今では、前述の移動界面電気泳動法に依らない、顕微鏡電気泳動法、超音波振動電位法、レーザードップラー法などに基づいたゼータ電位等の電位計が開発され、また、各種ゼータ電位計が販売されている。しかし、顕微鏡電気泳動法に基づいたゼータ電位計は、携帯性、セルのディスポーザブル性がなく、超音波振動電位法に基づいたゼータ電位計は、希薄試料の測定はできず、携帯性、セルのディスポーザブル性もなく、レーザードップラー法に基づいたゼータ電位計は、特殊な装置を除いて濃厚試料の測定はできず、携帯性、セルのディスポーザブル性もない。このような状況から、移動界面電気泳動法に基づかなければ、電気泳動式ゼータ電位計を、携帯できる程度に小型化し、操作も簡便にすることは困難であると考えられる。
【0006】
【非特許文献1】北原文雄、古沢邦夫、尾崎正孝、大島広行著,「ゼータ電位:微粒子界面の物理化学」,サイエンティスト社,p.54−57(1995)
【非特許文献2】北原文雄、渡辺晶編,「界面電気現象」,共立出版,p.182−187(1972)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、従来のゼータ電位計が、携帯するには大きくて、様々な現場で求められている条件で、簡便かつ精度高くゼータ電位を測定することができる、所謂、現場測定用のゼータ電位計ではなかったことから、これらの欠点を克服することを課題に、前記の移動界面電気泳動法に基づけば、これらの欠点を克服できる簡易な電気泳動式ゼータ電位計を開発することがでると考え研究を重ねた結果、鉛直方向に立てた透明な直状円管にコロイド溶液を収容し、前記直状円管内の上部に配置する電極として、円形の平板を用い、その径を可及的に大きくする、又は前記直状円管内の上部に配置する電極を、コロイド粒子を透過させない半透膜により、コロイド溶液と接触しないようにして、重力方向に電圧を印加すると、重力方向での界面移動が生じ、明瞭な界面を容易に形成させ得ることを見出し、管中の電気泳動本来の極めて単純な構造とすることを基本に、本発明を完成するに至った。
【0008】
このように、本発明の目的は、明瞭な界面を容易に形成させることができ、各種現場でゼータ電位測定が可能で、携帯にも利便であり、面倒な操作を要することもなく扱いが簡便で、しかも信頼性の高い精度でゼータ電位を測定することができる簡易型電気泳動式ゼータ電位計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を解決するための、以下の事項により特定されるものである。
(1)コロイド溶液とその分散媒との間に出現した界面の移動を観測するための透明な鉛直円管を有するコロイド溶液収容容器及び前記鉛直円管内で重力方向に電圧を印加するための、一方が前記鉛直円管内の上部に配置された一対の水平な電極を具備している簡易型電気泳動式ゼータ電位計であって、前記鉛直円管内の上部に配置された電極が、円形の平板であって、前記鉛直円管の内径より僅かに小さい径であることを特徴とする簡易型電気泳動式ゼータ電位計。
(2)透明な鉛直円管内の上部に配置された電極の材質が、パラジウム及びその他の貴金属から選ばれた金属であることを特徴とする前記(1)に記載の簡易型電気泳動式ゼータ電位計。
(3)コロイド溶液とその分散媒との間に出現した界面の移動を観測するための透明な鉛直円管を有するコロイド溶液収容容器及び前記鉛直円管内で重力方向に電圧を印加するための、一方が前記鉛直円管内の上部に配置された一対の水平な電極を具備している簡易型電気泳動式ゼータ電位計であって、透明な鉛直円管内の上部に配置された電極が、コロイド粒子を透過させない半透膜により、コロイド溶液と接触しないようにされていることを特徴とする簡易型電気泳動式ゼータ電位計。
(4)透明な鉛直円管の上部でその径が大きくなっており、透明な鉛直円管の上部に配置された電極が、透明な鉛直円管の上部に挿入された円筒体で囲まれて配置され、前記円筒体の下方開口部は、コロイド粒子を透過させない半透膜で覆われていることを特徴とする前記(3)に記載の簡易型電気泳動式ゼータ電位計。
(5)電極が、コロイド溶液及び/又は気体をコロイド溶液収容容器の外部に逃がすための開閉可能な孔を有し、鉛直円管又は円筒体の開口部に脱着可能に嵌合するホルダーに固定されていることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の簡易型電気泳動式ゼータ電位計。
【0010】
次に、本発明について、更に詳細に説明する。
本発明では、透明な直状円管を有するコロイド溶液収容容器に、前記直状円管を鉛直にしたとき、即ち、直立させたとき、その内部で電圧を重力方向に印加するための、一方が前記直状円管内の上部に配置された一対の電極を配置し、前記直状円管内の上部に配置された電極として、円形の平板であって、前記鉛直円管の内径より僅かに小さい径の電極を用いるか、又は前記直状円管内の上部に配置された電極が、コロイド粒子を透過させない半透膜により、コロイド溶液と接触しないようにして、コロイド粒子のゼータ電位を測定するために用いる簡易型電気泳動式ゼータ電位計とする。測定は、ゼータ電位測定の対象となるコロイド溶液を、前記の透明な直状円管を有するコロイド溶液収容容器、つまり前記直状円管に入れて行う。その際に、コロイド溶液に気泡が残らないようにコロイド溶液を入れ、コロイド溶液を収容した透明な直状円管は、垂直にして、両電極間に電圧を印加する。電圧印加後、コロイド溶液とその分散媒との間に出現した界面の、鉛直方向での移動速度を観測する。ここで、前記の透明な直状円管は、測定の際、鉛直になっていなければならないので、透明な鉛直円管と表す。この透明な鉛直円管を有するコロイド溶液収容容器は、普通には、直状円管の一方の開口部を成型時又は測定に使用する時に塞いで、容器とされ、その中に上部に位置する上部電極及び下部に位置する下部電極を配置する。しかし、透明な鉛直円管を有するコロイド溶液収容容器は、U字型にして、その一方の端側を前記の透明な鉛直円管とし、他方の端側に配置した電極からの影響を少なくしても良い。
【0011】
コロイド溶液収容容器の材料、特に透明な鉛直円管の材料としては、界面を観察できる程度に可視光を透過する透明材料であって、コロイド溶液に対し化学的に安定で、電気絶縁性である材質のもの或いは化学的安定性、電気絶縁性を付与する処理をした透明材料であれば良く、それ以上に限定されないが、普通には、加工のし易さ、形状安定性、価格面などから、ガラス、プラスチックなどが用いられる。ガラス、プラスチックなどを用いた安価なコロイド溶液収容容器である場合は、電極材料とは分離して使い捨てにできる。また、コロイド溶液収容容器は、洗浄して再利用することができる。前記容器の透明な鉛直円管は、界面を観測する部分が、鉛直にした時、水平断面の内部面積が上下方向で同じでさえあれば良く、該鉛直円管の上部の径を、電極をコロイド溶液から隔離するための半透膜付円筒体を収容できるように、下部よりも大きくしても良い。更に、界面の高さの変化を目視して記録するために便利なように、透明な鉛直円管に、例えばメスシリンダーにおけるような目盛を標しておくこともできる。別法として、目盛を標したスタンドに、簡易型電気泳動式ゼータ電位計を載せて測定に用いても良い。このスタンドでは、目盛の起点を上下に移動可能にすることもできる。
【0012】
本発明では、前記の透明な鉛直円管において、前記鉛直円管内の上部に配置された電極として、円形の平板であって、前記鉛直円管の内径より僅かに小さい径の電極を用いるか、又は前記直状円管内の上部に配置された電極が、コロイド粒子を透過させない半透膜により、コロイド溶液と接触しないようにすることにより、容易に且つ明瞭に、コロイド溶液とその分散媒との間に出現した界面の移動を観測することができるようになり、また、コロイド溶液の濃度が大きい場合でも、特に、半透膜を用いるときに、界面の移動を容易に且つ明瞭に観測することができるようになった。
【0013】
鉛直円管内の上部に配置された電極として、円形の平板であって、前記鉛直円管の内径より僅かに小さい径の電極を用いる場合に、前記電極の径については、前記鉛直円管内へのコロイド溶液の収容或いは前記鉛直円管内への該電極の装着の際に、空気が電極表面に残らないようにできる限りにおいて、前記鉛直円管の内径に可及的に近づけることが好ましい。また、前記電極は、測定を始める際、その下面全体がコロイド溶液に接触するようにする必要がある。そのためにも、電極の下面を、滑らかで、歪のない平面とするとともに、清浄にする。前記電極の材質としては、化学的に安定なパラジュウム、白金等の貴金属が適している。特に、パラジウムは、通電により発生した水素を吸収するため、水素気泡の発生が少なく、界面が鮮明となり、また、小さい電流で測定できるため、発熱や界面の乱れも生ずることがないので、最適である。
【0014】
また、透明な鉛直円管内の上部に配置する電極を、コロイド粒子を透過させない半透膜により、コロイド溶液と接触しないようにする手段としては、鉛直円管内に前記半透膜を固定し、逆さにして、コロイド溶液を流入させ、半透膜の下にコロイド溶液を収容する手段も考えられるが、作業のし易さからは、例えば、透明な鉛直管状体内の上部に配置する電極を、透明な鉛直円管の上部開口部から挿入した円筒体で囲まれるようにし、この円筒体の下方開口部を、コロイド粒子の透過しない半透膜で覆う手段を採用することができる。この場合に、前記鉛直円管の上部、即ち、前記円筒体が収容される部分の径は、下部よりも大きくしても良い(図2参照)。半透膜の下面は、測定を始めるとき、その全体が、コロイド溶液と接触するように注意をする必要がある。そのためには、半透膜表面が平面となるようにする。また、半透膜と前記の透明な鉛直円管の内壁との間では、間隙が無いようにする、或いは間隙を少なくすることが望ましい。コロイド粒子を透過させない半透膜を用いることにより、電極がコロイド溶液と接触して、コロイド溶液の電気分解或いは電極上で発生する気体による界面の乱れが生ずることを防ぐことができる。
【0015】
前記円筒体は、透明な鉛直円管の上部開口部に嵌合させる蓋或いは栓などであってもよいホルダーを上下に貫く形態とし、該ホルダーと該円筒体とを合体させて、該円筒体を透明な鉛直円管に取り付けることもできる。また、コロイド粒子を透過させない半透膜は、膜ホルダーに取り付け、透明な鉛直円管内の一定位置に固定しても良い。コロイド粒子を透過させない半透膜としては、例えば、普通には、セロファン膜が用いられる。前記円筒体の材料としては、前述の透明な鉛直円管の材料と同じで良いが、必ずしも透明である必要はない。なお、透明な鉛直円管内の上部に配置する電極を、コロイド粒子を透過させない半透膜により、コロイド溶液と接触しないようにする手段を採用した場合に、円筒体内に電解質溶液、例えば、コロイド溶液の分散媒を入れ、電極が電解質溶液と接触するようにして通電する。
【0016】
本発明で用いる電極は、化学的に安定で、通電による表面変化の小さいものが好ましいが、種々の材質の電極を採用し得る。しかし、高価であっても洗浄して再使用する場合には、化学的に安定な貴金属が適している。電圧が印加される一対の電極は、ともに円形の平板状で、透明な鉛直円管内に配置されているとき、可及的に平面積が大きく、互いに平行であって円管に垂直である、即ち、測定時にはともに水平になるように配置される。電極平面で、表面に歪みがある或いは表面が水平でない場合は、界面が読みずらくなり、一定時間毎の界面移動距離にバラツキが生じ易くなる。
【0017】
本発明で用いる電極の材質が高価であり、コロイド溶液収容容器を現場で廃棄できるようにするには、電極とコロイド溶液収容容器とを分離できるようにする。例えば、電極を蓋或いは栓などであってもよいホルダーに固定して、コロイド溶液収容容器に装着する。また、透明な鉛直円管内の上部に配置される電極は、該鉛直円管内のコロイド溶液、空気などを外部に逃がす穴が設けられ、その穴を必要により開閉できるようにしたプラスチック製などのホルダーに固定し、そのホルダーを該鉛直円管の上部開口部に装着するようにしても良い。
【0018】
本発明に係る簡易型電気泳動式ゼータ電位計の電源としては、測定現場にある電源を使用しても良いが、測定現場で直流電源が得られるとは限らないので、本発明に係る簡易型電気泳動測定装置は、直流電源を備えたものであることが好ましい。この場合、携帯に適するように、バッテリーなどを用いることができる。バッテリーを用いる場合でも、測定の際の電流は小さいので、小型バッテリーを用い軽量化するこができる。本発明に係る簡易型電気泳動式ゼータ電位計は、通常、2ボルト/cm〜10ボルト/cmの電圧を印加して測定を行うことができる。
【0019】
本発明で測定の対象となるコロイド溶液については、コロイド溶液の分散質としてのコロイド粒子は、無機物質、有機物質のいずれでも良く、また、分散媒は、水、非水溶媒のいずれを主体としたもので良く、現場で測定を要する種々のコロイド溶液を対象とすることができる。しかし、本発明に係る簡易型電気泳動式ゼータ電位計によるゼータ電位の測定は、コロイド粒子の濃度が高い場合には、希釈することなく測定が可能となり、余分な測定準備を省けるが、濃度が低い場合は、界面が判りづらくなる傾向が生じる。ナノ粒子であっても、濃度が高くなると、確実に界面を確認することができる。また、通常、コロイド溶液におけるコロイド粒子の粒径は、約1〜1000nmであるが、本発明において、このような範囲の粒径のコロイド粒子を測定の対象とし得る。特に、コロイド粒子がナノ粒子である場合の測定にも適している。なお、泳動速度の分布が広いコロイド系では、界面が明瞭にならない傾向が現れ、また、コロイド粒子の種類が多いコロイド溶液についての測定には不向きである。一方、コロイド溶液の温度が、測定中に変化する環境下では、測定中のコロイド溶液の温度変化を少なくする必要が生ずる場合がある。このような場合には、例えば、界面の移動を観測するための透明な鉛直円管を二重にし、内外の透明な鉛直円管の間に、空気の層を形成する手段が採用される。
【0020】
本発明に係る簡易型電気泳動式ゼータ電位計では、透明な鉛直円管内に収容されている試料コロイド溶液に、鉛直方向に電圧を印加して、コロイド溶液とその分散媒との間に出現する界面の、鉛直方向の移動速度を測定する。この界面の移動速度は、目視でも測定できるので、本発明に係る簡易型電気泳動式ゼータ電位計による界面の移動速度の測定は、初心者でも可能な、簡単な測定である。測定された界面移動速度から、前記のスモルコフスキーの式において、νを界面移動速度として、ゼータ電位(ζ)を簡単に算出することができる。こうして算出されたゼータ電位の値は、従来の電気泳動測定装置を用いて得たゼータ電位の値と比較しても、目視である場合に、有効数字は少ないが、正確であり、信頼できるゼータ電位値である。目視によるバラツキを避けるため、或いは自動測定にしたいときには、本発明に係る簡易型電気泳動式ゼータ電位計に、界面の移動を観測するための観測装置を組み合わせることもできる。この場合には、例えば、透明な鉛直管状体の近くに、鉛直方向に移動可能に配置されたCCDカメラを配置し、前記の透明な鉛直管状体からみて前記カメラの反対側に鏡を配置し、界面の高さ位置を正確に計るための自己基準位置判別機能付高精度レベル計を使用して測定する。また、本発明に係る簡易型電気泳動式ゼータ電位計を用いると、土木・建築現場、製造現場で素早く、簡便に測定することができるだけではなく、例えば、製造ライン途中での監視、ゼータ電位を一定にしなければならない製品の製造管理などにも利用できる。更には、ゼータ電位の測定と言うよりは、一定時間後の界面の高さのみから、コロイド溶液の分散安定性などを判定するためにも利用することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、電気泳動式ゼータ電位計は、(1)明瞭な界面を容易に形成させることができる、(2)構造が簡単で、初心者でも利用できる、(3)持ち運びが容易で、現場での使用が可能となる、(4)コロイド粒子がナノ粒子である場合にも測定可能である、(5)セル(透明な垂直円管である容器など)を、安価なガラス或いはプラスチック製にすると、現場から持ち帰らなくとも済むディスポーザブルなものとすることができる、という効果を奏するものとなり、簡易型電気泳動式ゼータ電位計を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明を、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
実施例1
半透膜を用いない場合の、本発明に係る簡易型電気泳動式ゼータ電位計の実施例を示す。
(1)簡易型電気泳動式ゼータ電位計の構成(図1参照)
内径10mm、長さ200mmの目盛り付ガラス管を、それとは長さが同じではあるがそれの外径よりも内径が大きい透明ガラス管(内径20mm)の中に入れ、両管の間に、円錐台形状のゴム栓に円錐台形状の空間をもたせた、テーパ状のゴム栓を両端からそれぞれ挿入して、両管を互いに固定した。外側の透明ガラス管は、内側の透明ガラス管内の温度変化を少なくするように、空気層を形成するためのジャケットである。また、内径10mmのガラス管に嵌入させるゴム栓の中心に、電気絶縁性被覆を有する導線を貫通させ、ゴム栓の円形面に固定した直径9mmの円板状パラジウム電極に接続させた。このようなゴム栓を2個用意し、その内の1個を内径10mmガラス管の端部に嵌入させて、ガラス管容器とした。測定時には、内径10mmガラス管の他方の端に、残りのゴム栓を嵌入し、ガラス管を鉛直に立てた場合に、両電極は、ともに水平になるようにする。各導線は、電極間に電圧を印加するための40−100ボルト直流電源にそれぞれ接続する。
【0024】
(2)測定方法
粒径10nmの白金微粒子が分散しているコロイド溶液試料(約0.01重量%)を、前記のように構成したガラス管容器に入れ、残りのゴム栓を嵌入させて、開口部を封鎖した。この際に、コロイド溶液に気泡が含まれないようにするとともに、両電極が平行になるようにした。次に、垂直に立たせたガラス容器の両電極間に80ボルト直流電圧を印加した。上部電極は直流電源の−極、下部電極は直流電源の+極に接続した。電場の強さは4.84ボルト/cm、測定温度は20℃とした。電圧の印加により、コロイド粒子は下の方へ移動し、3分後には、コロイド粒子群とそれを含まない液との間の界面が、目視で判定できる状態になった。その時の界面位置を、前記目盛りで読み取り、続けて5分毎に界面の位置を読み取り、界面の位置と時間との関係を測定した。
【0025】
(3)測定結果
パラジウム電極を用いているため、気体の発生が少なく、界面が鮮明であり、また、電流も小さくて測定できるため、発熱や界面の乱れも生ずることがなかった。図3に、測定した界面の位置(cm)と第1回目の界面の位置を観測した時からの時間(分)との関係を示す。図3で、5点の各測定点は、皆直線上に並んでおり、電気泳動による界面の移動速度が一定であること、簡略には、2点の測定でも、界面の移動度を判断できることが判った。また、図3の測定結果から、界面の移動度は、4.13×10−4cm/sec/v/cmであることが判った。この界面の移動度から、前記のスモルコフスキーの式を用いて、ゼータ電位を計算すると、ゼータ電位は−58mVであった。
【0026】
実施例2
半透膜を用いる場合の、本発明に係る簡易型電気泳動式ゼータ電位計の実施例を示す。
(1)簡易型電気泳動式ゼータ電位計の構成(図2参照)
外径18mm、長さ40mmのガラス管と外径12mm(内径10mm)のガラス管とを接続して、図2に示す、高さ200mm、外径12mmガラス管の両鉛直部分の外側間距離50mmの目盛り付ガラスU字管を用意した。目盛りは、図2で表していないが、図2で左側の、外径12mmガラス管の鉛直部分外壁に塗料を用いて標した。一方、外径12mmの前記ガラス管と同じで、長さ50mmのガラス管を用意し、その一方の開口部は、半透膜としてセロファン膜を木綿糸で固定して塞いだ。測定の際には、半透膜を固定したガラス管を、半透膜を下にして、ガラスU字管の、図2で左側に挿入する。U字管の、図2で右側のガラス管内及び同左側の半透膜を固定したガラス管内で用いる電極としては、直径9mmの平らな円板電極を用いるが、本実施例の試供コロイド溶液では塩酸水溶液を分散媒としているため、ともに貴金属円板を用いた方が良く、本実施例では、白金製円板を用いた。測定時に、各電極に接続した導線は、両電極間に電圧を印加するための100−300ボルト直流電源に接続する。本実施例では、試料のコロイド粒子であるヘマタイトは+に帯電しているので、左側電極からの導線は直流定電流電源の+極に、右側電極からの導線は直流定電流電源の−極に接続する。
【0027】
(2)測定方法
長さ0.5μm、幅0.04μmのヘマタイト微粒子を、1mM塩酸水溶液に分散させて、測定に供するコロイド溶液(0.01重量%、pH=3)とした。そのコロイド溶液を、半透膜を固定したガラス管の下に間隙が少し生ずるように浮かせてU字管に入れた。その際に、コロイド溶液と半透膜の間に気泡が残らないように注意をして入れた。図2左側の半透膜を固定したガラス管の中には、1mM塩酸水溶液2mlを入れて、両電極間に電圧を印加した。測定温度は25℃、印加電圧は150ボルト、電流値は0.5ミリアンペアの定電流で行った。コロイド溶液とその分散媒との界面の高さを目視により計測し、第1回目の界面の位置を観測した時からの時間と界面の位置との関係を求めた。
【0028】
(3)測定結果
電極とコロイドとの間に半透膜を置き、半透膜を介して界面を形成させているために、電極の影響を受けることはなく、界面が鮮明であり、発熱や界面の乱れも生ずることがなかった。図4に、測定した界面の位置(cm)と第1回目の界面の位置を観測した時からの時間(秒)との関係を示す。図4で、5点の各測定点は、皆直線上に並んでおり、電気泳動による界面の移動速度が一定であること、簡略には、2点の測定でも、界面の移動度を判断できることが判った。また、図4の測定結果から、界面の移動度は、5.06×10−4cm/sec/v/cmであることが判った。この界面の移動度から、前記のスモルコフスキーの式を用いて、ゼータ電位を計算すると、ゼータ電位は−64.5mVであった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係る簡易型電気泳動式ゼータ電位計は、明瞭な界面を容易に形成させることができる、構造が簡単で、初心者でも利用できる、持ち運びが容易で、現場での使用が可能である、透明容器は、安価なプラスチック製のものでも良いので、現場から持ち帰らなくとも済むディスポーザブルなものとすることができる、コロイド粒子がナノ粒子である場合にも測定可能である、という利点を有するので、例えば、食品、飲料、医薬品、化粧品、塗料、セラミックスなどの製造現場、各種廃液の処理現場、土木・建築の工事現場などでのゼータ電位測定に、極めて利便である。また、この簡易型電気泳動式ゼータ電位計は、これらの分野で、界面高さの測定のために、目盛り付スタンド或いは光学的観測装置と組み合わせて利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の、簡易型電気泳動式ゼータ電位計(実施例1で使用)を示す概略図である。
【図2】本発明の、半透膜を備えたU字管簡易型電気泳動式ゼータ電位計(実施例2で使用)示す概略図である。
【図3】図1の簡易型電気泳動式ゼータ電位計を用いて測定した、界面の位置の経時変化を示す図である。
【図4】図2のU字管簡易型電気泳動式ゼータ電位計を用いて測定した、界面の位置の経時変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイド溶液とその分散媒との間に出現した界面の移動を観測するための透明な鉛直円管を有するコロイド溶液収容容器及び前記鉛直円管内で重力方向に電圧を印加するための、一方が前記鉛直円管内の上部に配置された一対の水平な電極を具備している簡易型電気泳動式ゼータ電位計であって、前記鉛直円管内の上部に配置された電極が、円形の平板であって、前記鉛直円管の内径より僅かに小さい径であることを特徴とする簡易型電気泳動式ゼータ電位計。
【請求項2】
透明な鉛直円管内の上部に配置された電極の材質が、パラジウム及びその他の貴金属から選ばれた金属であることを特徴とする請求項1に記載の簡易型電気泳動式ゼータ電位計。
【請求項3】
コロイド溶液とその分散媒との間に出現した界面の移動を観測するための透明な鉛直円管を有するコロイド溶液収容容器及び前記鉛直円管内で重力方向に電圧を印加するための、一方が前記鉛直円管内の上部に配置された一対の水平な電極を具備している簡易型電気泳動式ゼータ電位計であって、透明な鉛直円管内の上部に配置された電極が、コロイド粒子を透過させない半透膜により、コロイド溶液と接触しないようにされていることを特徴とする簡易型電気泳動式ゼータ電位計。
【請求項4】
透明な鉛直円管の上部でその径が大きくなっており、透明な鉛直円管の上部に配置された電極が、透明な鉛直円管の上部に挿入された円筒体で囲まれて配置され、前記円筒体の下方開口部は、コロイド粒子を透過させない半透膜で覆われていることを特徴とする請求項3に記載の簡易型電気泳動式ゼータ電位計。
【請求項5】
電極が、コロイド溶液及び/又は気体をコロイド溶液収容容器の外部に逃がすための開閉可能な孔を有し、鉛直円管又は円筒体の開口部に脱着可能に嵌合するホルダーに固定されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の簡易型電気泳動式ゼータ電位計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−226981(P2006−226981A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−75874(P2005−75874)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年8月25日 社団法人日本化学会、コロイドおよび界面化学部会発行の「第57回 コロイドおよび界面化学討論会 講演要旨集」に発表
【出願人】(393005026)株式会社マイクロテック・ニチオン (5)