簡易施設を用いた植物の無農薬土耕栽培法
【課題】 簡易施設を用いて無農薬且つ安い費用で種々の植物(農作物)を栽培できる土耕栽培法の提供。
【解決手段】 地上に栽培用空間を形成するための枠組みを作り、該枠組みの外側を近紫外線カットタイプのフィルム又はシートで覆って外被膜とし、該枠組みの内側に防虫ネットを設けて内被膜とし、培地の下に該枠組みよりも広い幅で地下水の滲み揚がりを防止するフィルム又はシート(以下、防水シートという)を敷き、該防水シート上の枠組みよりも外側に外被膜表面に降った雨を速やかに圃場外に排水するための機構(以下、排水機構という)を設け、潅水、施肥及び通気兼用のパイプ又はチューブを培地内に埋設する植物の無農薬土耕栽培法。
【解決手段】 地上に栽培用空間を形成するための枠組みを作り、該枠組みの外側を近紫外線カットタイプのフィルム又はシートで覆って外被膜とし、該枠組みの内側に防虫ネットを設けて内被膜とし、培地の下に該枠組みよりも広い幅で地下水の滲み揚がりを防止するフィルム又はシート(以下、防水シートという)を敷き、該防水シート上の枠組みよりも外側に外被膜表面に降った雨を速やかに圃場外に排水するための機構(以下、排水機構という)を設け、潅水、施肥及び通気兼用のパイプ又はチューブを培地内に埋設する植物の無農薬土耕栽培法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易施設を用いた種々の植物の無農薬土耕栽培法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業を始めて以来、人は病害虫や雑草から農作物を守るための努力を行ってきた。その方法としては、病害虫に強い品種の利用、作物を収穫した残りの部分の除去による病害虫発生の耕種的防除、ビニールシートや敷き藁による雑草抑制及び太陽熱利用による土壌の消毒などの物理的防除、クモなどの天敵を利用した生物的防除などがある。歴史的には、江戸時代に鯨油を水田に撒き稲に付いている害虫を払い落とす方法が考案され、昭和の初期まで続けられた。また、戦前には除虫菊(蚊取り線香の成分)や硫酸ニコチン(タバコの成分)を含む殺虫剤、銅、石灰硫黄を含む殺菌剤などの天然物由来の農薬が用いられていた。しかし、病害虫の有効な防除方法がなかった時代には、例えば我が国では、享保年間にウンカによる稲の大被害が発生し、多くの人が餓死したという記録がある。また、外国では1845年にアイルランドで人々の主食であるジャガイモの疫病が発生し、悲惨な飢饉が生じたという記録がある。一方、雑草に対しては有効な対策が見つからず、手取りによる除草が中心で、戦後に除草剤が開発されるまで続けられたが、炎天下の除草作業は大変な重労働であった。
戦後、化学合成農薬や化学肥料が開発され農業は飛躍的に発展した。特に化学合成農薬は現代農業の技術成果であって、収量の増大や作業量の減少に大きな貢献をしている。
図1に、水稲栽培における総労働時間と除草時間の変化を示すが、何れも顕著に減少していることが分る。また、農薬を用いないで栽培した場合の病害虫等の被害に関する日米の調査結果を図2に示すが、農薬使用の効果は歴然としている。図2中の「推定収穫量減少率」は、農薬を用いた場合に対する農薬を用いない場合の収穫量の減少率である。
しかし、毒性の強い農薬も多く、農作物や土壌中に残留し易いものもあり、昭和40年代には社会問題となった。また、最近の厚生省の調査によると、国民の3人に1人が何らかの形でアレルギー疾患の症状を持っており、その原因の一つに農薬が挙げられている。従って従来の農薬や化学肥料を用いない農業の普及が望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
無農薬で植物(農作物)を栽培するためには、植物を徹底して隔離し、水や肥料の過不足を決して生じない肥培管理を行い、温度・湿度などの栽培環境を完全に管理できる施設で栽培する必要があり、施設内に害虫が侵入しないように培地の完全消毒を行い作業者の施設内への出入りを完全に管理する必要がある。しかし、このような栽培条件は植物工場なみに完備した施設で、植物毎に完全な肥培管理や培地管理を行って初めて満たすことができるものであり、栽培費用が非常に高くなるため、実際に無農薬栽培を実現することは難しい。
水耕栽培では減農薬を実現した作物が増えつつあるが、本発明者の知る限り、土耕栽培では、トンネル栽培法はあるものの、実際に実施可能な無農薬栽培法は見当たらない。また、ハウスを用いた土耕栽培でも、培地管理や植物の遮蔽が不完全であったり、ハウス内での水管理や施設管理が不十分であったりして無農薬栽培は実現されていない。
従って本発明は、簡易施設を用いて無農薬且つ安い費用で種々の植物(農作物)を栽培できる土耕栽培法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題は、次の1)〜5)の発明によって解決される。
1) 地上に栽培用空間を形成するための枠組みを作り、該枠組みの外側を近紫外線カットタイプのフィルム又はシートで覆って外被膜とし、該枠組みの内側に防虫ネットを設けて内被膜とし、培地の下に該枠組みよりも広い幅で地下水の滲み揚がりを防止するフィルム又はシート(以下、防水シートという)を敷き、該防水シート上の枠組みよりも外側に外被膜表面に降った雨を速やかに圃場外に排水するための機構(以下、排水機構という)を設け、潅水、施肥及び通気兼用のパイプ又はチューブを培地内に埋設することを特徴とする植物の無農薬土耕栽培法。
2) 栽培用空間をトンネル状とし、枠組みを農業用パイプで作成し、防虫ネットには天然物由来の害虫忌避剤を散布すると共に銀糸を織り込んだものを用い、排水機構として枠組みのすぐ外側に暗渠排水パイプを敷設し、培地の表面をポリマルチで覆い、高温時に外被膜を枠組みの上部に巻き上げて栽培用空間の換気を行うことを特徴とする1)記載の植物の無農薬土耕栽培法。
3) ポリマルチが銀色ポリマルチであることを特徴とする1)又は2)記載の植物の無農薬土耕栽培法。
4) バンカープランツ及び/又はコンパニオンプランツを用いて害虫を寄せ付けないようにすることを特徴とする1)〜3)の何れかに記載の植物の無農薬土耕栽培法。
5) 植物の特性や養分吸収比率に合わせた配合の液肥を、栽培ステージに適した濃度で施肥することを特徴とする1)〜4)の何れかに記載の植物の無農薬土耕栽培法。
【0005】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
無農薬土耕栽培に必要な要素としては、次の(イ)〜(ハ)が挙げられる。
(イ)植物(農作物)を害虫から隔離する。
・ハウスを防虫網などで覆って害虫が植物(農作物)に付かないようにする。
・バンカープランツ(障壁植物)を用いて害虫を寄せ付けないようにする。
・コンパニオンプランツ(共栄作物)を用いて害虫を寄せ付けないようにする。
(ロ)植物(農作物)を健常に栽培する。
・肥培管理を正しく行い、病弱な植物(農作物)を作らないようにする。
・栽培環境を植物(農作物)の生育に好ましい状態にする。
(ハ)環境に優しい防除法を用いる。
・天然物由来の(人畜無害の)忌避剤などを用いる。
・ホルモントラップや天敵などを利用して穏やかな防除を行う。
【0006】
上記バンカープランツとは、畑や果樹園の周囲を土手のように囲んで害虫の天敵が生息できるようにした植物或いは植生帯のことで、これにより栽培植物に害虫が付かないようにするものである。例えば栽培植物には害をなさず天敵のエサとなる虫をバンカープランツに寄生させ、その虫により天敵を充分に増やせば害虫を補食させることができる。
また、コンパニオンプランツとは、栽培作物と共生し、栽培作物に対して有益な効果を発揮する植物のことで、例えばコンパニオンプランツから発生する臭いで害虫が寄り付かないようにしたり、栽培作物の生育を助成したりする効果を有するものである。
このように、ある種の植物同士をうまく組み合わせると病害虫や雑草を減らしたり無くしたりできる。そのメカニズムは、(1)害虫の忌避、(2)害虫を誘引するおとりの植物になること、(3)植物体内の毒物質による殺虫作用や殺菌作用、(4)天敵の定着による害虫の抑制、(5)病害や雑草への拮抗作用などである。栽培植物とバンカープランツやコンパニオンプランツを組み合わせるときの留意点は、双方の栽培季節が合っているか、他方の植物の害虫を呼ばないか、共通の病害虫がいないかなどであり、相性の良い組み合わせとしては、虫が好む植物と嫌う植物、養分要求の高い植物と低い植物、深根性植物と浅根性植物、日当たりを好む植物と日陰を好む植物、草丈の高い植物と低い植物などである。バンカープランツやコンパニオンプランツの具体例を図3に示す。
【0007】
本発明者は上記(イ)〜(ハ)の各要素について工夫し、種々の植物(農作物)に適用可能な無農薬土耕栽培法を開発した。以下、各構成要件について説明する。なお、本発明の実施の態様の一例を図4に示す。
まず、栽培用空間の枠組みの外側を近紫外線カットタイプのフィルム又はシートで覆って外被膜とし、該枠組みの内側に防虫ネットを設けて内被膜とすることにより植物を害虫から隔離する。フィルム又はシートとしては、例えば、農業用の軟質ビニール製のものを用いる。近紫外線をカットすることでアブラムシやスリップスの活動を阻害でき、害虫の防除効果が増大する。外被膜は雨よけでもあるが、高温時には巻き上げ機などで枠組みの上部に巻き上げて栽培用空間内の換気を行うようにするとよい。また、害虫は光を反射する素材を嫌うため、防虫ネットとして銀糸を織り込んだものを用いると忌避効果が高く、アブラムシなどの害虫が栽培用空間に近寄らないようにできるので好ましい。しかし、銀糸を織り込んだ防虫ネットや銀色ポリマルチを用いても、曇天では十分な効果が期待できないので、天然物由来の害虫忌避剤、例えば害虫忌避能力のある草木から抽出した図5に示すような人畜無害の忌避剤を(必要に応じて複数混合して)散布し、害虫が栽培用空間に近寄らないようにするとよい。
栽培用空間を形成する枠組みの形状は任意であるが、公知のトンネル状が簡便である。また、枠組みは農業用パイプ(亜鉛メッキ鋼管)などで作成する。
【0008】
培地の下には地下水などの土中の水の滲み揚がりを防止するシート(防水シート)を敷き、完全な潅水管理を行う。例えば、圃場の培土の一部(表土50cm程度)を圃場外に移動させ、農業用ポリオレフィンフィルム(以下、POフィルムという)を敷いた後、培土を20cm程度埋め戻す。この埋め戻しは、以後の畝立て作業を機械で行う際のPOフィルムの保護のためである。
また、該防水シート上の枠組みよりも外側に、外被膜表面に降った雨を速やかに圃場外に排水するための機構(排水機構)を設け、雨水を速やかに圃場外に排水し培地に余分な水分を与えないようにする。例えば、培地を埋め戻した後、枠組みのすぐ外側のPOフィルム上に枠組みとほぼ同じ幅で暗渠排水パイプを敷設(埋設)する。
【0009】
また、潅水、施肥及び通気兼用のパイプ又はチューブを培地内に埋設する。このパイプ又はチューブを介して水、液肥及び空気(暖気、外気温空気、冷気)を必要に応じて適切に送ることにより完全な肥培管理を行う。パイプ又はチューブの具体例としてはユニホース社の地中潅水専用のシーパーホースが挙げられる。材質はゴム製(ラバーチップ製)で多孔質である。通常、埋設深さは30〜50センチ、灌水時間は1〜1.5時間とする。灌水は1日に1回程度とし、1週間に1度くらいの割合で養液を送る。通気にはスクロールブロワやロータリーブロワなどの高吐出圧ブロワを使用する。通気の圧力損失は20〜25KPaほどである。例えば1m当たりの送気量を5リットル/分程度、送気時間を2〜3分とし、灌水後にバルブを切り替えて自動送気を行う。
埋設作業は、例えば防水シートを敷く際に圃場外に移動させた培土(但し埋め戻した培土を除く)を暗渠排水パイプの敷設が完了した段階で圃場に戻し、完熟堆肥を10a当り3〜4t加えてロータリーで十分に混和し、混和が完了したら畝立て機で畝立てし、各畝の中(畝の中央で深さ15〜20cmの位置)にパイプ又はチューブを埋設すればよい。
上記したパイプ又はチューブ、防水シート及び雨よけ兼用外被膜の組み合わせにより、精度の高い十分な水管理を行うことができ、植物の健常育成を実現できる。
【0010】
更に、培地の表面をポリマルチ(ポリエチレン製の農業用シートで一般に黒色である)などで覆って水分の蒸散防止(培土表面の乾燥防止)や雑草抑制を行うことが好ましく、銀色ポリマルチを用いれば、前述した銀糸を織り込んだ防虫ネットの場合と同様の光の反射による害虫の忌避効果も期待できる。
更に、植物の特性や養分吸収比率に合わせた配合(特にアミノ酸配合)の液肥を栽培ステージに適した濃度で施肥する。これにより、養分の過剰や不足による虚弱で病気に罹り易い植物が発生し難くなる。植物別の施肥濃度の具体例を図6に示す。図中の「me」は「ミリグラム当量」である。また、アミノ酸配合の具体例を図7に示す。アミノ酸配合は植物の種類によらず同じでよい。
液肥としては、化学肥料や化学薬品を含むものは用いないで、人畜無害の有機肥料を用いることが望ましく、特に、窒素、リン酸、カリに加えて、カルシウム及び微量要素である他のミネラルを総合的に含むことから、アミノ酸含有有機液肥と天然の酸性ミネラルで卵殻を溶解したものを混合した液肥が好ましい。なお、アミノ酸含有有機液肥とは、フィッシュソリブル(魚の粗から魚油を分離し濃縮した液体)を蛋白質分解微生物で醗酵処理し、蛋白質をアミノ酸、ペプチド、核酸などに分解した液体のことである。また、天然の酸性ミネラルの代表的なものとしては、火山の火口付近で採取される極酸性の液を用いて麦斑石を溶解したpHが2.5程度の酸性液が挙げられ、この酸性液を用いれば極めて簡単に卵殻を溶かしてpH5前後の溶解液を作成することができる。
植物は体内で酵素を使って種々のアミノ酸を合成し組織を創り出している。これらのアミノ酸は組織の一部となる他に、臭いや味(甘味・酸味・苦み・辛み・旨味など)の要素となっている。近年の研究では、植物は葉面からも根からも低分子のアミノ酸や核酸を直接吸収でき、アミノ酸や核酸をそのまま活用できると報告されており、各種のアミノ酸系の肥料や活性剤が発売され栽培に供されている。図11にアミノ酸が植物の生長にどのような効果を発揮するのかについての研究報告を纏めた。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡易施設を用いて無農薬且つ安い費用で種々の植物(農作物)を栽培できる土耕栽培法を提供できる。
【実施例】
【0012】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0013】
実施例1
本発明の栽培法でシシトウを栽培した。概要は図4、図9に示す通りである。なお図4中の寸法の単位は「mm」である。
まず、幅0.9mの畝を、0.3mの通路を挟んで2条造り、同じ畝の組を、0.6m離して9組建てた。畝建てした後、農業用の亜鉛メッキ鋼管(径25mm)からなるトンネル支柱を0.9m間隔で打ち込み(図示せず)、幅2.2m、長さ39m、高さ約1.8mのトンネルの枠組を作った。この枠組みの内側に、0.8ミリ目の防虫ネットを設けて内被膜とし、外側を近紫外線カット機能のあるフィルムで覆って外被膜としてトンネルを作製した。このトンネルを、10aの圃場に9棟設置した。
また、トンネル設置前に圃場の用土を30cmほど掻き出し、軽く填圧後に防水シートを全面に敷き、トンネルとトンネルの間の位置(2.8m間隔になる)の防水シート上に暗渠排水用のコルゲートパイプ(φ50×40m)を10本並べた後、掻き出した用土を覆土した。
また、防水シートを敷く際に圃場外に移動させた培土(但し埋め戻した培土を除く)を暗渠排水パイプの敷設が完了した段階で圃場に戻し、完熟堆肥を10a当り3〜4t加えてロータリーで十分に混和し、混和が完了したら畝立て機で畝立てし、各畝の中(畝の中央で深さ15〜20cmの位置)に潅水、施肥及び通気兼用チューブを深さ約40cmの位置に埋設した。チューブにはユニホース社のシーパーホースを用いた。仕様は、内径:9.2mm、最大滴下量:40ml/分/m、肉厚:2.2mm、最適滴下量:10ml/分/m以下、最大延長距離:60m、呼径:3/8、使用水圧:0.1〜0.2MPa以下、破裂圧力:0.5〜0.7MPa、外径:13.6mmである。
潅水ポンプには吐出圧力が最大で0.2Mpaのものを使用し、灌水時間は1〜1.5時間とした。灌水は1日に1回で1週間に1度の割合で養液を送り施肥した。
通気にはスクロールブロワを使用した。通気の圧力損失は20KPa〜25KPa程度であり、1m当りの送気量は約5リットル/分、送気時間は2〜3分とし、灌水後にバルブを切り替えて自動送気を行った。
外被膜にはフイルム巻き上げ機を取り付け、夏期の高温時は外被膜を巻き上げてトンネル内の温度の過剰な上昇を抑えるようにした。
播種から収穫までの年間スケジュールの概要を図8に示した。栽培上の特徴及び留意点は次の(1)〜(4)の通りである。
(1)露地栽培に比べて寒い時期に育苗を開始するため、育苗期間(播種から定植までの期間)はやや長くなる(80〜100日)。なお、育苗は本発明の簡易施設とは別の施設で従来法に準じて行う。
(2)定植前にトンネルの外被膜を閉じ、用土の温度をなるべく高くする。
(3)用土には元肥として堆肥を10a当たり2t〜3t鍬込み、生育に必要な養分は液肥を用いて地中灌水チューブを介して供給する。
(4)日中、トンネル内の温度が28〜30℃になったら外被膜を巻き上げて換気し、23℃以下になったら換気を中止する。換気を止めるとトンネル内に結露が起き易くなり、病気にかかる可能性が高くなるから、日中、葉が濡れている時は、曇天でも少し換気をし葉を乾かしてやる必要がある。夏は夜間の気温が20℃以上ならば外被膜を巻き上げたままにする。梅雨明け後の高温多湿時は換気に十分注意し、トンネル内が過湿とならないように注意する必要がある。
液肥には、図6に示した成分濃度の肥料と図7に示した配合のアミノ酸を混合したものを用いた。
以上のようにして栽培した結果を露地栽培の場合と比較したところ、収量及び所得は、図10に示す通りであった。即ち、露地栽培と比べて、10a当りの収量は2.4倍、所得は約2.8倍となった。しかも無農薬栽培であるから、作物の商品価値は高く人々の健康や環境への寄与も計り知れないものがある。
なお、本実施例では採用しなかったが、シシトウの栽培で効果を期待できるコンパニオンプランツとしては、ガーリック、キャットニップ、コリアンダー、スイートマジョラム、フレンチタラゴン、ミント類、ローレル、マリーゴールド等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】水稲栽培における総労働時間と除草時間の変化を示す図。
【図2】農薬を用いないで栽培した場合の病害虫等の被害に関する日米の調査結果を示す図。
【図3】バンカープランツやコンパニオンプランツの具体例を示す図。
【図4】本発明の実施の態様の一例を示す図。
【図5】害虫忌避能力のある草木から抽出した人畜無害の忌避剤の例を示す図。
【図6】施肥濃度の具体例を示す図。
【図7】アミノ酸配合の具体例を示す図。
【図8】播種から収穫までの年間スケジュールの概要を示す図。
【図9】圃場の畝及びトンネルの配置の概要を示す図。
【図10】実施例と露地栽培の場合との収量及び所得の比較結果を示す図。
【図11】植物に対するアミノ酸の効果を纏めた図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易施設を用いた種々の植物の無農薬土耕栽培法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業を始めて以来、人は病害虫や雑草から農作物を守るための努力を行ってきた。その方法としては、病害虫に強い品種の利用、作物を収穫した残りの部分の除去による病害虫発生の耕種的防除、ビニールシートや敷き藁による雑草抑制及び太陽熱利用による土壌の消毒などの物理的防除、クモなどの天敵を利用した生物的防除などがある。歴史的には、江戸時代に鯨油を水田に撒き稲に付いている害虫を払い落とす方法が考案され、昭和の初期まで続けられた。また、戦前には除虫菊(蚊取り線香の成分)や硫酸ニコチン(タバコの成分)を含む殺虫剤、銅、石灰硫黄を含む殺菌剤などの天然物由来の農薬が用いられていた。しかし、病害虫の有効な防除方法がなかった時代には、例えば我が国では、享保年間にウンカによる稲の大被害が発生し、多くの人が餓死したという記録がある。また、外国では1845年にアイルランドで人々の主食であるジャガイモの疫病が発生し、悲惨な飢饉が生じたという記録がある。一方、雑草に対しては有効な対策が見つからず、手取りによる除草が中心で、戦後に除草剤が開発されるまで続けられたが、炎天下の除草作業は大変な重労働であった。
戦後、化学合成農薬や化学肥料が開発され農業は飛躍的に発展した。特に化学合成農薬は現代農業の技術成果であって、収量の増大や作業量の減少に大きな貢献をしている。
図1に、水稲栽培における総労働時間と除草時間の変化を示すが、何れも顕著に減少していることが分る。また、農薬を用いないで栽培した場合の病害虫等の被害に関する日米の調査結果を図2に示すが、農薬使用の効果は歴然としている。図2中の「推定収穫量減少率」は、農薬を用いた場合に対する農薬を用いない場合の収穫量の減少率である。
しかし、毒性の強い農薬も多く、農作物や土壌中に残留し易いものもあり、昭和40年代には社会問題となった。また、最近の厚生省の調査によると、国民の3人に1人が何らかの形でアレルギー疾患の症状を持っており、その原因の一つに農薬が挙げられている。従って従来の農薬や化学肥料を用いない農業の普及が望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
無農薬で植物(農作物)を栽培するためには、植物を徹底して隔離し、水や肥料の過不足を決して生じない肥培管理を行い、温度・湿度などの栽培環境を完全に管理できる施設で栽培する必要があり、施設内に害虫が侵入しないように培地の完全消毒を行い作業者の施設内への出入りを完全に管理する必要がある。しかし、このような栽培条件は植物工場なみに完備した施設で、植物毎に完全な肥培管理や培地管理を行って初めて満たすことができるものであり、栽培費用が非常に高くなるため、実際に無農薬栽培を実現することは難しい。
水耕栽培では減農薬を実現した作物が増えつつあるが、本発明者の知る限り、土耕栽培では、トンネル栽培法はあるものの、実際に実施可能な無農薬栽培法は見当たらない。また、ハウスを用いた土耕栽培でも、培地管理や植物の遮蔽が不完全であったり、ハウス内での水管理や施設管理が不十分であったりして無農薬栽培は実現されていない。
従って本発明は、簡易施設を用いて無農薬且つ安い費用で種々の植物(農作物)を栽培できる土耕栽培法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題は、次の1)〜5)の発明によって解決される。
1) 地上に栽培用空間を形成するための枠組みを作り、該枠組みの外側を近紫外線カットタイプのフィルム又はシートで覆って外被膜とし、該枠組みの内側に防虫ネットを設けて内被膜とし、培地の下に該枠組みよりも広い幅で地下水の滲み揚がりを防止するフィルム又はシート(以下、防水シートという)を敷き、該防水シート上の枠組みよりも外側に外被膜表面に降った雨を速やかに圃場外に排水するための機構(以下、排水機構という)を設け、潅水、施肥及び通気兼用のパイプ又はチューブを培地内に埋設することを特徴とする植物の無農薬土耕栽培法。
2) 栽培用空間をトンネル状とし、枠組みを農業用パイプで作成し、防虫ネットには天然物由来の害虫忌避剤を散布すると共に銀糸を織り込んだものを用い、排水機構として枠組みのすぐ外側に暗渠排水パイプを敷設し、培地の表面をポリマルチで覆い、高温時に外被膜を枠組みの上部に巻き上げて栽培用空間の換気を行うことを特徴とする1)記載の植物の無農薬土耕栽培法。
3) ポリマルチが銀色ポリマルチであることを特徴とする1)又は2)記載の植物の無農薬土耕栽培法。
4) バンカープランツ及び/又はコンパニオンプランツを用いて害虫を寄せ付けないようにすることを特徴とする1)〜3)の何れかに記載の植物の無農薬土耕栽培法。
5) 植物の特性や養分吸収比率に合わせた配合の液肥を、栽培ステージに適した濃度で施肥することを特徴とする1)〜4)の何れかに記載の植物の無農薬土耕栽培法。
【0005】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
無農薬土耕栽培に必要な要素としては、次の(イ)〜(ハ)が挙げられる。
(イ)植物(農作物)を害虫から隔離する。
・ハウスを防虫網などで覆って害虫が植物(農作物)に付かないようにする。
・バンカープランツ(障壁植物)を用いて害虫を寄せ付けないようにする。
・コンパニオンプランツ(共栄作物)を用いて害虫を寄せ付けないようにする。
(ロ)植物(農作物)を健常に栽培する。
・肥培管理を正しく行い、病弱な植物(農作物)を作らないようにする。
・栽培環境を植物(農作物)の生育に好ましい状態にする。
(ハ)環境に優しい防除法を用いる。
・天然物由来の(人畜無害の)忌避剤などを用いる。
・ホルモントラップや天敵などを利用して穏やかな防除を行う。
【0006】
上記バンカープランツとは、畑や果樹園の周囲を土手のように囲んで害虫の天敵が生息できるようにした植物或いは植生帯のことで、これにより栽培植物に害虫が付かないようにするものである。例えば栽培植物には害をなさず天敵のエサとなる虫をバンカープランツに寄生させ、その虫により天敵を充分に増やせば害虫を補食させることができる。
また、コンパニオンプランツとは、栽培作物と共生し、栽培作物に対して有益な効果を発揮する植物のことで、例えばコンパニオンプランツから発生する臭いで害虫が寄り付かないようにしたり、栽培作物の生育を助成したりする効果を有するものである。
このように、ある種の植物同士をうまく組み合わせると病害虫や雑草を減らしたり無くしたりできる。そのメカニズムは、(1)害虫の忌避、(2)害虫を誘引するおとりの植物になること、(3)植物体内の毒物質による殺虫作用や殺菌作用、(4)天敵の定着による害虫の抑制、(5)病害や雑草への拮抗作用などである。栽培植物とバンカープランツやコンパニオンプランツを組み合わせるときの留意点は、双方の栽培季節が合っているか、他方の植物の害虫を呼ばないか、共通の病害虫がいないかなどであり、相性の良い組み合わせとしては、虫が好む植物と嫌う植物、養分要求の高い植物と低い植物、深根性植物と浅根性植物、日当たりを好む植物と日陰を好む植物、草丈の高い植物と低い植物などである。バンカープランツやコンパニオンプランツの具体例を図3に示す。
【0007】
本発明者は上記(イ)〜(ハ)の各要素について工夫し、種々の植物(農作物)に適用可能な無農薬土耕栽培法を開発した。以下、各構成要件について説明する。なお、本発明の実施の態様の一例を図4に示す。
まず、栽培用空間の枠組みの外側を近紫外線カットタイプのフィルム又はシートで覆って外被膜とし、該枠組みの内側に防虫ネットを設けて内被膜とすることにより植物を害虫から隔離する。フィルム又はシートとしては、例えば、農業用の軟質ビニール製のものを用いる。近紫外線をカットすることでアブラムシやスリップスの活動を阻害でき、害虫の防除効果が増大する。外被膜は雨よけでもあるが、高温時には巻き上げ機などで枠組みの上部に巻き上げて栽培用空間内の換気を行うようにするとよい。また、害虫は光を反射する素材を嫌うため、防虫ネットとして銀糸を織り込んだものを用いると忌避効果が高く、アブラムシなどの害虫が栽培用空間に近寄らないようにできるので好ましい。しかし、銀糸を織り込んだ防虫ネットや銀色ポリマルチを用いても、曇天では十分な効果が期待できないので、天然物由来の害虫忌避剤、例えば害虫忌避能力のある草木から抽出した図5に示すような人畜無害の忌避剤を(必要に応じて複数混合して)散布し、害虫が栽培用空間に近寄らないようにするとよい。
栽培用空間を形成する枠組みの形状は任意であるが、公知のトンネル状が簡便である。また、枠組みは農業用パイプ(亜鉛メッキ鋼管)などで作成する。
【0008】
培地の下には地下水などの土中の水の滲み揚がりを防止するシート(防水シート)を敷き、完全な潅水管理を行う。例えば、圃場の培土の一部(表土50cm程度)を圃場外に移動させ、農業用ポリオレフィンフィルム(以下、POフィルムという)を敷いた後、培土を20cm程度埋め戻す。この埋め戻しは、以後の畝立て作業を機械で行う際のPOフィルムの保護のためである。
また、該防水シート上の枠組みよりも外側に、外被膜表面に降った雨を速やかに圃場外に排水するための機構(排水機構)を設け、雨水を速やかに圃場外に排水し培地に余分な水分を与えないようにする。例えば、培地を埋め戻した後、枠組みのすぐ外側のPOフィルム上に枠組みとほぼ同じ幅で暗渠排水パイプを敷設(埋設)する。
【0009】
また、潅水、施肥及び通気兼用のパイプ又はチューブを培地内に埋設する。このパイプ又はチューブを介して水、液肥及び空気(暖気、外気温空気、冷気)を必要に応じて適切に送ることにより完全な肥培管理を行う。パイプ又はチューブの具体例としてはユニホース社の地中潅水専用のシーパーホースが挙げられる。材質はゴム製(ラバーチップ製)で多孔質である。通常、埋設深さは30〜50センチ、灌水時間は1〜1.5時間とする。灌水は1日に1回程度とし、1週間に1度くらいの割合で養液を送る。通気にはスクロールブロワやロータリーブロワなどの高吐出圧ブロワを使用する。通気の圧力損失は20〜25KPaほどである。例えば1m当たりの送気量を5リットル/分程度、送気時間を2〜3分とし、灌水後にバルブを切り替えて自動送気を行う。
埋設作業は、例えば防水シートを敷く際に圃場外に移動させた培土(但し埋め戻した培土を除く)を暗渠排水パイプの敷設が完了した段階で圃場に戻し、完熟堆肥を10a当り3〜4t加えてロータリーで十分に混和し、混和が完了したら畝立て機で畝立てし、各畝の中(畝の中央で深さ15〜20cmの位置)にパイプ又はチューブを埋設すればよい。
上記したパイプ又はチューブ、防水シート及び雨よけ兼用外被膜の組み合わせにより、精度の高い十分な水管理を行うことができ、植物の健常育成を実現できる。
【0010】
更に、培地の表面をポリマルチ(ポリエチレン製の農業用シートで一般に黒色である)などで覆って水分の蒸散防止(培土表面の乾燥防止)や雑草抑制を行うことが好ましく、銀色ポリマルチを用いれば、前述した銀糸を織り込んだ防虫ネットの場合と同様の光の反射による害虫の忌避効果も期待できる。
更に、植物の特性や養分吸収比率に合わせた配合(特にアミノ酸配合)の液肥を栽培ステージに適した濃度で施肥する。これにより、養分の過剰や不足による虚弱で病気に罹り易い植物が発生し難くなる。植物別の施肥濃度の具体例を図6に示す。図中の「me」は「ミリグラム当量」である。また、アミノ酸配合の具体例を図7に示す。アミノ酸配合は植物の種類によらず同じでよい。
液肥としては、化学肥料や化学薬品を含むものは用いないで、人畜無害の有機肥料を用いることが望ましく、特に、窒素、リン酸、カリに加えて、カルシウム及び微量要素である他のミネラルを総合的に含むことから、アミノ酸含有有機液肥と天然の酸性ミネラルで卵殻を溶解したものを混合した液肥が好ましい。なお、アミノ酸含有有機液肥とは、フィッシュソリブル(魚の粗から魚油を分離し濃縮した液体)を蛋白質分解微生物で醗酵処理し、蛋白質をアミノ酸、ペプチド、核酸などに分解した液体のことである。また、天然の酸性ミネラルの代表的なものとしては、火山の火口付近で採取される極酸性の液を用いて麦斑石を溶解したpHが2.5程度の酸性液が挙げられ、この酸性液を用いれば極めて簡単に卵殻を溶かしてpH5前後の溶解液を作成することができる。
植物は体内で酵素を使って種々のアミノ酸を合成し組織を創り出している。これらのアミノ酸は組織の一部となる他に、臭いや味(甘味・酸味・苦み・辛み・旨味など)の要素となっている。近年の研究では、植物は葉面からも根からも低分子のアミノ酸や核酸を直接吸収でき、アミノ酸や核酸をそのまま活用できると報告されており、各種のアミノ酸系の肥料や活性剤が発売され栽培に供されている。図11にアミノ酸が植物の生長にどのような効果を発揮するのかについての研究報告を纏めた。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡易施設を用いて無農薬且つ安い費用で種々の植物(農作物)を栽培できる土耕栽培法を提供できる。
【実施例】
【0012】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0013】
実施例1
本発明の栽培法でシシトウを栽培した。概要は図4、図9に示す通りである。なお図4中の寸法の単位は「mm」である。
まず、幅0.9mの畝を、0.3mの通路を挟んで2条造り、同じ畝の組を、0.6m離して9組建てた。畝建てした後、農業用の亜鉛メッキ鋼管(径25mm)からなるトンネル支柱を0.9m間隔で打ち込み(図示せず)、幅2.2m、長さ39m、高さ約1.8mのトンネルの枠組を作った。この枠組みの内側に、0.8ミリ目の防虫ネットを設けて内被膜とし、外側を近紫外線カット機能のあるフィルムで覆って外被膜としてトンネルを作製した。このトンネルを、10aの圃場に9棟設置した。
また、トンネル設置前に圃場の用土を30cmほど掻き出し、軽く填圧後に防水シートを全面に敷き、トンネルとトンネルの間の位置(2.8m間隔になる)の防水シート上に暗渠排水用のコルゲートパイプ(φ50×40m)を10本並べた後、掻き出した用土を覆土した。
また、防水シートを敷く際に圃場外に移動させた培土(但し埋め戻した培土を除く)を暗渠排水パイプの敷設が完了した段階で圃場に戻し、完熟堆肥を10a当り3〜4t加えてロータリーで十分に混和し、混和が完了したら畝立て機で畝立てし、各畝の中(畝の中央で深さ15〜20cmの位置)に潅水、施肥及び通気兼用チューブを深さ約40cmの位置に埋設した。チューブにはユニホース社のシーパーホースを用いた。仕様は、内径:9.2mm、最大滴下量:40ml/分/m、肉厚:2.2mm、最適滴下量:10ml/分/m以下、最大延長距離:60m、呼径:3/8、使用水圧:0.1〜0.2MPa以下、破裂圧力:0.5〜0.7MPa、外径:13.6mmである。
潅水ポンプには吐出圧力が最大で0.2Mpaのものを使用し、灌水時間は1〜1.5時間とした。灌水は1日に1回で1週間に1度の割合で養液を送り施肥した。
通気にはスクロールブロワを使用した。通気の圧力損失は20KPa〜25KPa程度であり、1m当りの送気量は約5リットル/分、送気時間は2〜3分とし、灌水後にバルブを切り替えて自動送気を行った。
外被膜にはフイルム巻き上げ機を取り付け、夏期の高温時は外被膜を巻き上げてトンネル内の温度の過剰な上昇を抑えるようにした。
播種から収穫までの年間スケジュールの概要を図8に示した。栽培上の特徴及び留意点は次の(1)〜(4)の通りである。
(1)露地栽培に比べて寒い時期に育苗を開始するため、育苗期間(播種から定植までの期間)はやや長くなる(80〜100日)。なお、育苗は本発明の簡易施設とは別の施設で従来法に準じて行う。
(2)定植前にトンネルの外被膜を閉じ、用土の温度をなるべく高くする。
(3)用土には元肥として堆肥を10a当たり2t〜3t鍬込み、生育に必要な養分は液肥を用いて地中灌水チューブを介して供給する。
(4)日中、トンネル内の温度が28〜30℃になったら外被膜を巻き上げて換気し、23℃以下になったら換気を中止する。換気を止めるとトンネル内に結露が起き易くなり、病気にかかる可能性が高くなるから、日中、葉が濡れている時は、曇天でも少し換気をし葉を乾かしてやる必要がある。夏は夜間の気温が20℃以上ならば外被膜を巻き上げたままにする。梅雨明け後の高温多湿時は換気に十分注意し、トンネル内が過湿とならないように注意する必要がある。
液肥には、図6に示した成分濃度の肥料と図7に示した配合のアミノ酸を混合したものを用いた。
以上のようにして栽培した結果を露地栽培の場合と比較したところ、収量及び所得は、図10に示す通りであった。即ち、露地栽培と比べて、10a当りの収量は2.4倍、所得は約2.8倍となった。しかも無農薬栽培であるから、作物の商品価値は高く人々の健康や環境への寄与も計り知れないものがある。
なお、本実施例では採用しなかったが、シシトウの栽培で効果を期待できるコンパニオンプランツとしては、ガーリック、キャットニップ、コリアンダー、スイートマジョラム、フレンチタラゴン、ミント類、ローレル、マリーゴールド等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】水稲栽培における総労働時間と除草時間の変化を示す図。
【図2】農薬を用いないで栽培した場合の病害虫等の被害に関する日米の調査結果を示す図。
【図3】バンカープランツやコンパニオンプランツの具体例を示す図。
【図4】本発明の実施の態様の一例を示す図。
【図5】害虫忌避能力のある草木から抽出した人畜無害の忌避剤の例を示す図。
【図6】施肥濃度の具体例を示す図。
【図7】アミノ酸配合の具体例を示す図。
【図8】播種から収穫までの年間スケジュールの概要を示す図。
【図9】圃場の畝及びトンネルの配置の概要を示す図。
【図10】実施例と露地栽培の場合との収量及び所得の比較結果を示す図。
【図11】植物に対するアミノ酸の効果を纏めた図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上に栽培用空間を形成するための枠組みを作り、該枠組みの外側を近紫外線カットタイプのフィルム又はシートで覆って外被膜とし、該枠組みの内側に防虫ネットを設けて内被膜とし、培地の下に該枠組みよりも広い幅で地下水の滲み揚がりを防止するフィルム又はシート(以下、防水シートという)を敷き、該防水シート上の枠組みよりも外側に外被膜表面に降った雨を速やかに圃場外に排水するための機構(以下、排水機構という)を設け、潅水、施肥及び通気兼用のパイプ又はチューブを培地内に埋設することを特徴とする植物の無農薬土耕栽培法。
【請求項2】
栽培用空間をトンネル状とし、枠組みを農業用パイプで作成し、防虫ネットには天然物由来の害虫忌避剤を散布すると共に銀糸を織り込んだものを用い、排水機構として枠組みのすぐ外側に暗渠排水パイプを敷設し、培地の表面をポリマルチで覆い、高温時に外被膜を枠組みの上部に巻き上げて栽培用空間の換気を行うことを特徴とする請求項1記載の植物の無農薬土耕栽培法。
【請求項3】
ポリマルチが銀色ポリマルチであることを特徴とする請求項1又は2記載の植物の無農薬土耕栽培法。
【請求項4】
バンカープランツ及び/又はコンパニオンプランツを用いて害虫を寄せ付けないようにすることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の植物の無農薬土耕栽培法。
【請求項5】
植物の特性や養分吸収比率に合わせた配合の液肥を、栽培ステージに適した濃度で施肥することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の植物の無農薬土耕栽培法。
【請求項1】
地上に栽培用空間を形成するための枠組みを作り、該枠組みの外側を近紫外線カットタイプのフィルム又はシートで覆って外被膜とし、該枠組みの内側に防虫ネットを設けて内被膜とし、培地の下に該枠組みよりも広い幅で地下水の滲み揚がりを防止するフィルム又はシート(以下、防水シートという)を敷き、該防水シート上の枠組みよりも外側に外被膜表面に降った雨を速やかに圃場外に排水するための機構(以下、排水機構という)を設け、潅水、施肥及び通気兼用のパイプ又はチューブを培地内に埋設することを特徴とする植物の無農薬土耕栽培法。
【請求項2】
栽培用空間をトンネル状とし、枠組みを農業用パイプで作成し、防虫ネットには天然物由来の害虫忌避剤を散布すると共に銀糸を織り込んだものを用い、排水機構として枠組みのすぐ外側に暗渠排水パイプを敷設し、培地の表面をポリマルチで覆い、高温時に外被膜を枠組みの上部に巻き上げて栽培用空間の換気を行うことを特徴とする請求項1記載の植物の無農薬土耕栽培法。
【請求項3】
ポリマルチが銀色ポリマルチであることを特徴とする請求項1又は2記載の植物の無農薬土耕栽培法。
【請求項4】
バンカープランツ及び/又はコンパニオンプランツを用いて害虫を寄せ付けないようにすることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の植物の無農薬土耕栽培法。
【請求項5】
植物の特性や養分吸収比率に合わせた配合の液肥を、栽培ステージに適した濃度で施肥することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の植物の無農薬土耕栽培法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−55008(P2006−55008A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237271(P2004−237271)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(501421487)株式会社セントラルサン (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(501421487)株式会社セントラルサン (7)
【Fターム(参考)】
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