説明

簡易筋力測定器

【課題】四肢に対する閉運動連鎖の筋力測定を簡便な操作で実施できる筋力測定器を、簡潔かつ安価に実現し提供すること。
【解決手段】被験者の体幹又は四肢の近位部と、四肢の遠位端とを接続する接続具と、前記接続具の任意の位置に被験者の筋力を検出する筋力検出部を設け、被験者が被験者の体幹又は四肢の近位部と、四肢の遠位端とを離開させる方向に発揮する筋力を測定できるようにした。更に、前記接続具は、被験者の体幹又は四肢の近位部に装着する装具と、前記装具と被験者の四肢の遠位端との間隔を所定の間隔に保持する接続帯とで構成され、前記接続帯は、被験者の左右側面視で、被験者の体幹又は四肢の近位部の直近に隣接する第一関節上から、第一関節の次に遠位端側にある第二関節上の間を通るように延設され、かつ、前記接続帯の延設方向は、被験者が筋力を発揮する方向に追従できるようにすることで、閉運動連鎖の筋力測定を簡便に行えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四肢の筋力増強、その他の機能回復・治療等のために用いる筋力測定器に関する。
【背景技術】
【0002】
筋力の評価は、スポーツ選手の体力測定から傷害後の機能回復の評価、健康づくりにおける体力チェックに至るまで多くの場面で活用され、筋力の測定には徒手で測定可能なポータブルなものから据置型で高精度・高機能なものまで多種多様な機器が用いられている。
【0003】
筋力の評価方法も様々で、例えば上肢・下肢の筋力評価においては、単関節運動である開運動連鎖(Open Kinetic Chain:以下OKC)による評価方法と、多関節運動である閉運動連鎖(Closed Kinetic Chain:以下CKC)による評価方法が知られている。
【0004】
OKCによる評価方法は、四肢の遠位端が床等に接していない開放状態で主動筋が拮抗筋に対し優位に作用するため関節にずれや不安定性が生じて危険であるのに対し、CKCによる評価方法は、四肢の遠位端が床等に接した状態で主動筋と拮抗筋がバランス良く作用するため関節のずれや痛みの発生が抑制され安全であるという違いがある。従って、CKCによる評価方法は、関節に痛みを感じて十分に筋力を発揮できない、或いは大きな筋力を発揮して関節を損傷する等のリスクが伴うといった問題がなく、関節疾患のある患者や高齢者等であってもOKCに比べて安全かつ精度良く筋力測定を行えるメリットがあることが知られている。
【0005】
更に、CKCによる評価はOKCによる評価に比べて加齢や廃用による筋力低下を鋭敏に反映できることや、人間にとって最も日常的な運動である歩行をはじめ椅子からの立ち上がりなど下肢の日常の生活動作ではCKC運動による様式が殆どであることからも、荷重運動機能の判定には下肢全体の機能を評価するCKCによる評価がより現実に即しているというメリットがある。
【0006】
しかしながら、旧来からOKCによる評価方法の研究・普及が先行し、使用する機器類も圧倒的にOKC方式が主流であるために、CKCによる評価方法は一般には普及していないのが現状である。更に、CKCで出力される筋力はOKCに比べて格段に大きいために、特許文献2〜5に代表されるように機器類が大型化し、持ち運びができないだけでなく、機器自体の価格も高額となり、予算の限られた施設では購入さえできないので、使用できる臨床現場が大病院のリハ室や大学等の研究機関の研究室等に限定され、実際に筋力測定を必要とする病棟、高齢者福祉施設、在宅のベッドサイドや、公民館・体育館等の公的な施設で行われる健康増進等に関する各種教室では活用できないという問題がある他、特に、下肢の場合は出力される筋力が2000N(ニュートン)を超えることもあり、特許文献1に代表されるような徒手による測定器では出力される筋力に抗して測定器を支えることができないので測定が行えないといった問題もあり、CKCによる評価は一般への普及が進まないという課題があった。
【0007】
前記問題点とは別に、従来のCKC方式の機器類は、被験者のCKC筋力を発揮する方向と装置の筋力検出方向を一致させることが極めて困難であるために、高精度で再現性の良い測定が行えないという決定的な問題があった。
【0008】
即ち、特許文献2〜5に開示されている技術は、概ね被験者が着座する座部と、被験者の足部を置き筋力を発揮する際に踏みつける足底板と、筋力を検出する筋力検出手段と、椅子部と足底板との距離或いは足底板の角度等を被験者の個体差に応じて調節・固定可能な個体差調節手段と、その他制御部、コントローラー部、表示部等で構成され、筋力を測定する際に被験者を着座させ足部を足底板に置いた後に、被験者の個体差や所定の測定条件、測定姿勢等に応じて個体差調節手段を調節・固定するようになっている。しかし、どのように個体差調節手段を調節しても、被験者が筋力を発揮している最中は、被験者が筋力を発揮する方向に装置の筋力を検出する方向が追従できないので、被験者が意図的に装置の筋力を検出する方向に極力沿うように筋力を発揮する必要があり、筋力測定を行うまでに何回か練習するなどして、被験者が測定方法に熟練する必要があった。また、被験者が意図的に同一方向へ筋力を発揮しても、大腿四頭筋とハムストリング(主動筋と拮抗筋)の筋力比が加齢や手術などの影響によって変化すると筋力の出力方向も変化してしまう場合もあり、被験者のCKC筋力を発揮する方向と装置の筋力検出方向を一致させることは極めて困難であった。
【0009】
従って、特許文献2〜5に開示されている技術は、測定前に何回か練習することによって測定を行う迄に被験者が疲労してしまう、練習せずに測定を行うと高精度な測定ができない、或いは日をおいて繰り返し測定する内に被験者が測定方法に熟練することによって筋力の検出値が向上するので、測定結果が純粋にリハビリや筋力増強訓練による筋力向上であるか否かを判別できない等の問題があった。また、実際には被験者が正確な方向に筋力を発揮しているかどうかを確認することや、被験者自身が意図的に正確な方向に筋力を発揮することは到底不可能であるため、高精度で再現性の良い測定が行えないといった問題もあり、測定結果自体の信頼性が得られ難いという課題があった。
【0010】
更に、上肢のCKC筋力測定が行える機器についても下肢同様特許文献4又は5のような機器のように大型で高額な機器しかなく、日常生活で起居動作を行う際に手をつく、或いは下肢に何らかの障害を負った場合に杖をつくなどに代表される上肢のCKC筋力評価は、前述の徒手によるあいまいな筋力評価が行われている程度で、臨床現場で活用されるには至っていないのが現状である。
【0011】
以上のような問題点が複合的に作用し、CKCによる評価はOKCによる評価よりも優れているにも関わらず一般に普及し難いという課題があり、このような問題点を解決し、四肢に対するCKCによる評価を簡易に行える安価な筋力測定器の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】実公平02−046321公報
【特許文献2】特開2006−296703公報
【特許文献3】特開2007−130190公報
【特許文献4】特開2001−346840公報
【特許文献5】特開2003−180868公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記問題点を鑑みて、四肢に対するCKCの筋力測定を簡便な操作で実施できる筋力測定器を、簡潔かつ安価に実現し提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
即ち、請求項1記載の発明は、上記課題を解決するため、被験者の体幹又は四肢の近位部と、四肢の遠位端とを接続する接続具と、前記接続具の任意の位置に被験者の筋力を検出する筋力検出部を設け、被験者が被験者の体幹又は四肢の近位部と、四肢の遠位端とを離開させる方向に発揮する筋力を測定することを特徴とする筋力測定器である。
【0015】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記接続具は、被験者の体幹又は四肢の近位部に装着する装具と、前記装具と被験者の四肢の遠位端との間隔を所定の間隔に保持する接続帯とで構成され、前記接続帯は、被験者の左右側面視で、被験者の体幹又は四肢の近位部の直近に隣接する第一関節上から、第一関節の次に遠位端側にある第二関節上の間を通るように延設され、かつ、前記接続帯の延設方向は、被験者が筋力を発揮する方向に追従可能であることを特徴とする筋力測定器である。
【0016】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、筋力を測定する際に被験者の四肢の遠位端を載置する載置部が設けられることを特徴とする筋力測定器である。
【0017】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記筋力検出部が前記載置部に設けられることを特徴とする筋力測定器である。
【0018】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至3記載の発明において、前記装具と前記接続帯の接続部、又は前記接続帯の中間部、又は前記載置部と前記接続帯の接続部の左右いずれか一方に前記筋力検出部を設け、被験者が発揮する筋力に比較して前記筋力検出部に作用する力を軽減することを特徴とする筋力測定器である。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の発明によれば、被験者の体幹又は四肢の近位部と、四肢の遠位端とを接続する接続具と、前記接続具の任意の位置に被験者の筋力を検出する筋力検出部を設け、被験者が被験者の体幹又は四肢の近位部と、四肢の遠位端とを離開させる方向に発揮する筋力を測定することを特徴とする筋力測定器であるから、徒手による筋力測定器と同様の簡易な構成で、OKC筋力に比較して格段に大きなCKC筋力を使用者が労することなく測定を実施できる。また、従来のCKC筋力測定器に比較して安価に購入でき、取扱が容易で任意の臨床現場に持ち運ぶこともできるので、予算の限られた小規模な施設でも購入し易くなり、使用する臨床現場が制限されることもなく、関節疾患のある患者や高齢者等であっても安全かつ高精度で再現性の高い筋力測定を簡便に実施でき、熟練した専門スタッフが不在の場合でも四肢のCKCによる評価方法が広く活用できるようになり、好都合である。更に、CKCによる評価が新たな理学療法評価方法として広く普及浸透することにより、被験者の安全が確保され、これまで以上に適正な評価が実施できるようになり、臨床・研究分野で治療、リハビリや健康増進等に関する各種手法の新規開発や発展が期待でき、好都合である。
【0020】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明において、前記接続具は、被験者の体幹又は四肢の近位部に装着する装具と、前記装具と被験者の四肢の遠位端との間隔を所定の間隔に保持する接続帯とで構成され、前記接続帯は、被験者の左右側面視で、被験者の体幹又は四肢の近位部の直近に隣接する第一関節上から、第一関節の次に遠位端側にある第二関節上の間を通るように延設され、かつ、前記接続帯の延設方向は、被験者が筋力を発揮する方向に追従可能であることを特徴とする筋力測定器であるから、被験者が測定時に筋力を発揮する方向を意識したり機器の使用方法や測定方法に熟練することなく、容易かつ自然に筋力を発揮する方向と筋力検出部の筋力検出方向を一致させることができるので、被験者が筋力を発揮する方向を意識しすぎるあまり十分に筋力を発揮できない、或いは測定前の練習による疲労や練習不足で十分に筋力を発揮できないといったことがなく、測定方法に熟練することによる測定値への影響も最小限に抑制できるので、高精度で再現性の高い測定が行え、測定値の信頼性が飛躍的に向上し、治療、リハビリや筋力増強訓練による成果が適正に評価でき、好都合である。
【0021】
また、接続帯が、被験者の左右側面視で、被験者の体幹又は四肢の近位部の直近に隣接する第一関節上から、第一関節の次に遠位端側にある第二関節上の間を通る方向に延設され、被験者の筋力を発揮する方向が、接続帯の延設方向に誘導されることにより、被験者が意識することなく好適に四肢の主動筋と拮抗筋の共同収縮が得られるというメリットもある。即ち、このような状態で被験者が筋力を発揮し、筋力を発揮する方向、即ち接続帯の延設方向が被験者の左右側面視で第一関節と第二関節の中央付近を通る状態にある場合は、股関節まわりのモーメントアーム(股関節から接続帯までの鉛直距離)と膝関節まわりのモーメントアーム(膝関節から接続帯までの鉛直距離)がほぼ等しくなることから、膝関節伸展筋群である大腿四頭筋(主動筋)と股関節伸展筋群であるハムストリング(拮抗筋)のバランスの良い好適な同時収縮が得られる。更に、前記特許文献2〜5のように被験者が筋力を発揮している最中に機器の筋力を検出する方向が被験者の筋力を発揮する方向に追従できない場合は、被験者が意識するか否かに関わらず普段の日常生活動作とは異なる様式で筋力が発揮され、四肢の主動筋か拮抗筋のいずれかが優位に作用することがあり、主動筋と拮抗筋のバランスが崩れて関節にずれや不安定性が生じてしまうといった欠点があったが、請求項2の発明は、被験者が自然に日常的生活動作に近似した状態、即ち接続帯の延設方向である前記第一関節上から第二関節上の間を通る方向に誘導されながら筋力を発揮するので、日常的生活動作とは異なる状態で筋力を発揮して主動筋か拮抗筋のいずれかが優位に作用するということがなく、好適に四肢の主動筋と拮抗筋の共同収縮が得られる。従って、このような主動筋と拮抗筋の好適な共同収縮により、関節にずれや不安定性が生じることなく安全かつ安心して筋力を発揮・測定でき、関節疾患の有無等の影響が最小限に抑制されて信頼性の高い評価が行え、更により日常生活動作に近似した状態で四肢の運動機能を評価でき、好都合である。
【0022】
請求項3記載の発明によれば、請求項1又は2記載の発明において、筋力を測定する際に被験者の四肢の遠位端を載置する載置部が設けられることを特徴とする筋力測定器であるから、載置部で被験者の四肢の遠位端を保持することにより、測定前に測定姿勢の確認が容易に行え、測定開始までに測定姿勢を保持するために被験者が疲労することもなく、日を改めて再測定する等の場合に測定姿勢を再現し易く、好都合である。
【0023】
請求項4記載の発明によれば、請求項3記載の発明において、前記筋力検出部が前記載置部に設けられることを特徴とする筋力測定器であるから、筋力検出部の装着手間を省くことができ、持ち運ぶ際に部品の数が減少することによって煩わしさが解消でき、好都合である。
【0024】
請求項5記載の発明によれば、請求項1乃至3記載の発明において、前記装具と前記接続帯の接続部、又は前記接続帯の中間部、又は前記載置部と前記接続帯の接続部の左右いずれか一方に前記筋力検出部を設け、被験者が発揮する筋力に比較して前記筋力検出部に作用する力を軽減することを特徴とする筋力測定器であるから、筋力検出部に作用する力が被験者の発揮する筋力の約1/2に軽減でき、筋力検出部を構成する部品類の強度を被験者の発揮する筋力の約1/2に耐えうる必要最小限の強度に抑制でき、筋力検出部自体を小型化できるので、筋力検出部が測定の邪魔になることがなく、取り扱いが容易になり、好都合である。更に、筋力検出部のコストダウンを図ることもでき、安価に購入できるので、一般への普及が促進され、好都合である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例1の簡易筋力測定器の左側面図である。
【図2】本発明の実施例1の簡易筋力測定器の右側面図である。
【図3】本発明の実施例1の筋力検出部の説明図である。
【図4】本発明の実施例2の簡易筋力測定器の左側面図である。
【図5】本発明の実施例3の簡易筋力測定器の左側面図である。
【図6】本発明の実施例4の簡易筋力測定器の左側面図である。
【図7】本発明の実施例5の簡易筋力測定器の左側面図である。
【図8】一般的な起立動作の説明図で、(a)は座位、(b)は起立動作の初期状態、(c)は起立動作の中期状態、(d)は起立終了後の立位状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0026】
図1乃至3に実施例1を示す。簡易筋力測定器1は、被験者35の体幹36又は被験者35の肩や臀部等四肢の近位部と四肢の遠位端とを接続する接続具2と、前記接続具2の任意の位置に設けられ被験者35の筋力を検出する筋力検出部10等で構成され、被験者35が被験者35の体幹36又は四肢の近位部と、四肢の遠位端とを離開させる方向に発揮する筋力を測定することができる。
【0027】
図1は被験者35の下肢の筋力測定を行う場合の実施例である。接続具2は、被験者35の体幹36又は四肢の近位部に装着する装具3と接続帯5で構成される。図1及び図2に示すように、装具3は、被験者35の体幹36の腹部付近に装着され、装具3と接続帯5の左右いずれか一方に筋力検出部10が掛合され、反対側には掛合部材8が掛合される。尚、筋力検出部10と掛合部材8は、測定時の周囲環境、作業性等に応じて左右いずれに装着するかを選択できるよう、着脱可能に掛合できる。
【0028】
接続帯5は、その一端が筋力検出部10に掛合される一方、他端は図2に示すように装具3の反対側に設けられる掛合部材8に掛合され、被験者35の下肢の遠位端(具体的には足部の土踏まず付近)に掛け回して取り付けられる。更に、接続帯5の両端が掛合される部分には、被験者35の個体差や測定姿勢等に応じて接続帯5の長さを調節できるよう接続帯調節部7が設けられている。尚、本実施例の測定器は、両足での測定か左右いずれか一方の足のみの測定かを選択して行うことができる。両足での測定を行う場合は接続帯5を被験者35の両足に掛け回し、左右いずれか一方の足のみの測定を行う場合は接続帯5を測定対象の被験者35の足に掛け回して取り付けられる。当然の如く、上肢の測定を行う場合も同様に選択可能であることは言うまでもない。
【0029】
図1に示すように、簡易筋力測定器1は、関節にずれや不安定性が生じることなく安全かつ安心して筋力を発揮・測定できるようにし、下肢全体の機能評価をより現実に即した形態で行えるようにするため、被験者35の測定姿勢が概ね図8(b)に示す起立動作の初期状態と同様の姿勢になるように装着される。即ち、接続帯5は、被験者35の左右側面視で、被験者35の体幹36又は四肢の近位部の直近に隣接する第一関節(具体的には股関節37)上から、第一関節の次に遠位端側にある第二関節(具体的には膝関節38)上の間を通るように延設され、被験者35が体幹36と下肢の遠位端とを離開する方向に筋力を発揮する際に、接続帯5と筋力検出部10は、接続帯5の延設方向と筋力検出部10の筋力検出方向が被験者35の筋力を発揮する方向に一致するように追従することができる。
【0030】
ここで、図8は、最も日常的な生活動作の一つである一般的な起立動作の説明図であり、(a)は座位、(b)は起立動作の初期状態、(c)は起立動作の中期状態、(d)は起立終了後の立位状態を示す。被験者35が、座位から起立位に至るまでの間、(b)〜(d)に示すように、被験者35は意識するか否かに関わらず側方に転倒しないようにバランスをとりながら、被験者35の重心を被験者35の足部の鉛直上方に押し上げるように下肢筋力Fを発揮する。下肢筋力Fは、CKC運動による様式であり、概ね被験者35の左右側面視で、被験者35の股関節37上から膝関節38上の間を通る方向に発揮され、その際、下肢の主動筋である大腿四頭筋と拮抗筋であるハムストリングの共同収縮が得られる。特に、下肢筋力Fが、概ね被験者35の左右側面視で、被験者35の股関節37から膝関節38の中央付近を通る方向に発揮される状態にある時には、股関節37まわりのモーメントアーム(股関節37から接続帯5までの鉛直距離)と膝関節38まわりのモーメントアーム(膝関節38から接続帯5までの鉛直距離)がほぼ等しくなることから、膝関節伸展筋群である大腿四頭筋(主動筋)と股関節伸展筋群であるハムストリング(拮抗筋)のバランスの良い好適な同時収縮が得られる。従って、簡易筋力測定器1を概ね図8(b)に示す起立動作の初期状態と同様の姿勢になるように装着することにより、関節にずれや不安定性が生じることなく安全かつ安心して筋力を発揮・測定できると共に、下肢全体の機能評価をより日常的な生活動作に即した形態で行うことができる。
【0031】
尚、被験者35が一般に比べてハムストリングがより優位に作用する特性がある場合は、被験者35が筋力を発揮する方向がほぼ股関節37に向かう方向に発揮され、更に、被験者35の測定姿勢を膝関節38がほぼ伸展した状態にする場合は、筋力を発揮する方向がほぼ膝関節38に向かう方向に発揮されることも想定されるが、接続帯5の延設方向と筋力検出部10の筋力検出方向はこのような場合であっても被験者35の筋力を発揮する方向に追従することができる。
【0032】
接続帯5の被験者35の足部に接触する部分には、アタッチメント9が接続帯5に対して位置調節自在に設けられ、被験者35が発揮する筋力が足部のより広範囲な面積に分散して作用するので、筋力を発揮する際に痛みが生じることはない。
【0033】
図3に示すように、筋力検出部10には、検出した筋力を表示する筋力表示部11、電源のON/OFFを行う電源スイッチ12、筋力測定を開始する際に被験者35の脚部の自重により作用している力等をキャンセルするためのゼロ補正スイッチ13の他、接続帯5を掛合する接続帯接続部14・14、筋力検出部10の各種信号を不図示のパーソナルコンピューターやデータ管理システム等に出力する外部出力端子15等が設けられている。
【0034】
図示は省略するが、筋力検出部10の内部には、接続帯接続部14・14に作用した力を筋力値として検出するロードセルの他、各種スイッチ・ロードセルの信号を演算処理し、筋力表示部11に筋力値を表示させたり、外部出力端子15から所定の信号を外部に出力する等の制御を行う制御部が内蔵されている。
【0035】
次に、本発明の実施例1に係る簡易筋力測定器1の動作について、説明する。
【0036】
被験者35は、椅子31等に腰掛け、装具3を装着する。装具3の左右の掛合部4・4には、筋力検出部10と掛合部材8を、測定時の周囲環境、作業性等に応じて左右いずれに装着するかを選択し取り付ける。尚、椅子31は、筋力測定に用いる目的で専用に製作されたものである必要はなく、所定の測定姿勢が確保できれば広く市販され日常的に使用している一般的なものでよく、椅子31の他に、ベッド、踏み台、車椅子等を活用してもよい。
【0037】
装具3に筋力検出部10と掛合部材8を取り付けた後、接続帯5の一端を筋力検出部10の接続帯掛合部14に、他端を装具3の反対側に設けられる掛合部材8に掛合し、接続帯5を被験者35の足部の土踏まず付近に掛け回して取り付ける。その後、被験者35の個体差や測定姿勢等に応じて接続帯5の長さとアタッチメント9の位置を調節する。
【0038】
測定姿勢は、測定の目的や被験者35の疾患の症状等に応じて適宜設定する。例えば、人間にとって最も日常的なCKC運動様式である椅子からの立ち上がり動作を参考に設定する方法として、被験者35の測定姿勢が概ね図8(b)に示す起立動作の初期状態と同様の姿勢になるようにする。この例では、被験者35の股関節37の角度は約90°、膝関節38の屈曲角度は約60°、足関節39の角度は約10°背屈位であり、不図示の関節角度計による測定や写真撮影等で測定姿勢を記録し、再現性を確保する。また、図示は省略するが、接続帯5に模様、縫い目、印刷等で目盛を設けたり、接続帯5の両端に掛合部を段階的に設けて調節可能な構成にし、接続帯5をどのように調節したかを定量的に記録することにより再現性を確保できるようにしてもよい。
【0039】
簡易筋力測定器1を被験者35に装着した後、筋力の測定を行う。筋力検出部10の電源スイッチ12を操作して電源を投入する。その後、必要に応じてゼロ補正スイッチ13を押下して測定を開始する。被験者35はアタッチメント9を踏みつけるように筋力を発揮し、その際に、接続帯5と筋力検出部10は、被験者35が筋力を発揮する方向に追従するので、筋力検出部10に正確に筋力が作用し、筋力表示部11に検出された筋力が表示される。この時、大腿四頭筋とハムストリングは好適に共同収縮しているので、関節にずれや不安定性が生じることはなく、安全かつ安心して最大筋力を発揮でき、かつ日常生活動作に即した状態で筋力を測定できる。
【0040】
筋力の測定は、複数回行い、その最大値や平均値を各種評価に活用するのが通常である。この際、筋力検出部10に設けられた外部出力端子15に、不図示のパーソナルコンピューターやデータ管理システム等を接続し、筋力検出部10の各種信号を転送し記録することにより、各種データの管理や評価を行う。
【0041】
図4に実施例2を示す。実施例2は、被験者35の四肢の遠位端を保持できるように載置部20が設けた例である。載置部20は、基台21、被験者35が足を置く足受部材23、足受部材23を適宜角度に保持する足受部材角度調節手段26等で構成され、基台21の床面等に接する面には、滑り止め部材22が設けられる。足受部材23は、傾斜軸25により基台21に対して傾動可能に軸止されると共に、被験者35の足が足受部材23から脱落しないよう踵受部24が設けられている。
【0042】
足受部材角度調節手段26は、足受部材23を適宜角度に支持する足受部材支持具27と、基台21の所定の位置に設けられ足受部材23を適宜角度に調節する際に足受部材支持具27の先端が勘合する勘合部29で構成される。足受部材支持具27は、足受部材23の裏面に支持具軸28で軸止されている。
【0043】
被験者35が、脳卒中等の疾患により測定姿勢を保持することが困難な場合や、測定の信頼性を向上させる目的で測定姿勢の再現性を確保する場合には、載置部20を被験者35の四肢の遠位端に併用する。被験者35に接続帯5を装着した後に、載置部20の足受部材23に被験者35の足部を載せ、足受部材23の角度を足受部材角度調節手段26で調節した後、接続帯5の長さを接続帯調節部7を利用して調節する。この時、足受部材23には踵受部24が設けられているので、被験者35の足部が足受部材23から脱落することはない。また、足受部材23の基台21の床面と接する面には滑り止め部材22が設けられているので、滑り止め部材22と床面との摩擦力により測定準備中に被験者35が軽く足部を載置し測定姿勢を保持することができ、測定前に測定姿勢を保持するために被験者35が疲労してしまうようなことはない。更に、滑り止め部材22と床面との摩擦力は、被験者35が発揮する筋力に比べて無視できる程度に小さいので、被験者35が筋力を発揮する際の邪魔になることはない。
【0044】
図5に実施例3を示す。実施例3は、載置部20に筋力検出部10を設けた例である。筋力検出部10は、足受部材23の裏面に設けられ、筋力検出部10の両端に設けられた接続帯接続部14・14に接続帯5が掛合され、接続帯接続部14・14に作用した力を筋力値として検出する。尚、図示を省略するが、載置部20に筋力検出部10を設ける他の実施例として、足受部材23の被験者35の足部が接触する面に面圧を検出するセンサーを設け、接触面に作用する力とその方向を不図示の制御システムで演算処理しフィードバックできる構成にしても良い。
【0045】
尚、実施例3のように載置部20に筋力検出部10を設ける場合、被験者35が筋力を発揮する際には足受部材角度調節手段26は極力利用せず、接続帯5で被験者35に対する足受部材23の相対位置や角度を保持することにより、筋力検出部10の筋力検出方向が被験者35の筋力を発揮する方向に追従することができる。
【0046】
図6に実施例4を示す。実施例4は、被験者35の上肢に簡易筋力測定器1を装着し、上肢の筋力を測定する場合の実施例である。装具3は、被験者35の体幹36の胸部付近に装着され、装具3と接続帯5の左右いずれか一方に筋力検出部10が掛合され、図示は省略するが反対側には掛合部材8が掛合される。
【0047】
接続帯5は、その一端が筋力検出部10に掛合される一方、他端は装具3の反対側に設けられる掛合部材8に掛合され(図示省略)、被験者35の上肢の遠位端(具体的には手部)に掛け回して取り付けられる。接続帯5の長さは、接続帯5の両端が掛合される部分に設けられる接続帯調節部7で患者の個体差や測定姿勢等に応じて調節できる。
【0048】
接続帯5は、被験者35の左右側面視で、被験者35の体幹36又は四肢の近位部の直近に隣接する第一関節(具体的には肩関節40)上から、第一関節の次に遠位端側にある第二関節(具体的には肘関節41)上の間を通るように延設され、被験者35が体幹36と上肢の遠位端とを離開する方向に筋力を発揮する際に、接続帯5と筋力検出部10は、接続帯5と筋力検出部10の方向が被験者35の筋力を発揮する方向に一致するように追従することができる。
【0049】
接続帯5の被験者35の手部に接触する部分には、アタッチメント9が接続帯5に対して位置調節自在に設けられ、被験者35が発揮する筋力が手部のより広範囲な面積に分散して作用するので、筋力を発揮する際に痛みが生じることはない。
【0050】
図7に実施例5を示す。被験者35は、ベッド32の背部シート部33をリクライニングさせて測定姿勢を保持できるようにして座位をとり、被験者35の四肢に簡易筋力測定器1を装着し筋力を測定することもできる。図示は省略するが、ベッド32に限らず、マット、床等、測定条件を満たす測定姿勢を確保できれば、簡易筋力測定器1を利用して筋力を測定することができる。
【0051】
本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更が可能であることは言うまでもない。例えば、アタッチメント9は、下肢の筋力を測定する際には略靴形状、上肢の筋力を測定する際には略手袋形状にする等して、筋力を測定する際に接続帯5から被験者35の四肢の遠位端が脱落しないようにしても良い。更に、筋力検出部10の制御部に記憶装置を設け、複数回測定した測定値を記憶装置に記憶させ、最大値や平均値を自動算出し表示できるようにしてもよい。言うまでもないが、従来から一般的に行われている評価方法を応用し、例えば健常者の測定データとの比較評価や、被験者35の健側と患側の測定データの比較評価、日常生活からスポーツ競技に至る運動強度レベルに対応させた比較評価等を行い表示する機能を組み込んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、筋力増強、その他機能回復・治療等の評価を行う目的で四肢のCKC筋力を測定する筋力測定器に適用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 簡易筋力測定器
2 接続具
3 装具
5 接続帯
10 筋力検出部
20 載置部
35 被験者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の体幹又は四肢の近位部と、四肢の遠位端とを接続する接続具と、前記接続具の任意の位置に被験者の筋力を検出する筋力検出部を設け、
被験者が被験者の体幹又は四肢の近位部と、四肢の遠位端とを離開させる方向に発揮する筋力を測定することを特徴とする筋力測定器。
【請求項2】
前記接続具は、被験者の体幹又は四肢の近位部に装着する装具と、前記装具と被験者の四肢の遠位端との間隔を所定の間隔に保持する接続帯とで構成され、
前記接続帯は、被験者の左右側面視で、
被験者の体幹又は四肢の近位部の直近に隣接する第一関節上から、第一関節の次に遠位端側にある第二関節上の間を通るように延設され、
かつ、前記接続帯の延設方向は、被験者が筋力を発揮する方向に追従可能であることを特徴とする請求項1記載の筋力測定器。
【請求項3】
筋力を測定する際に被験者の四肢の遠位端を載置する載置部が設けられることを特徴とする請求項1又は2記載の筋力測定器。
【請求項4】
前記筋力検出部が前記載置部に設けられることを特徴とする請求項3記載の筋力測定器。
【請求項5】
前記装具と前記接続帯の接続部、又は前記接続帯の中間部、又は前記載置部と前記接続帯の接続部の左右いずれか一方に前記筋力検出部を設け、
被験者が発揮する筋力に比較して前記筋力検出部に作用する力を軽減することを特徴とする請求項1乃至3記載の筋力測定器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−206302(P2011−206302A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77735(P2010−77735)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000103471)オージー技研株式会社 (109)