説明

簡易紫外線量測定方法

【課題】高価な測定機器を使用することなく、簡単な構成で屋外構造物の複数の部位の長期間の紫外線量を測定が可能な簡易紫外線量測定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】簡易紫外線量測定方法において、紫外線の照射量に比例した黄変度を示すポリカーボネイト板に、超促進耐候試験機から紫外線を照射する促進劣化試験を実施し、前記ポリカーボネイト板への紫外線の照射量と前記ポリカーボネイト板の黄変度の相関関係を取得し、前記取得した相関関係に基づき、屋外の構造物の複数の特定個所に長期間配置した前記促進劣化試験に用いたものと同じポリカーボネイト板の黄変度から前記特定個所の長期間の紫外線量を測定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物等の屋外に構築される構造物の各部位における長期間の紫外線の照射量を測定するための簡易紫外線量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、屋外に構築される建築物等の構造物には、塗料、シーリング材、プラスチック製パネル等の高分子系の建材が多く使用されている。これらの高分子系の建材は、太陽光線中の紫外線により変色したり劣化する。これらの高分子系建材の紫外線に対する耐候性のグレードを最適化するために、構造物の各部位に照射される紫外線量を測定する必要がある。太陽光線中の紫外線量を測定する方法として直接紫外線測定機器により測定する方法がある。また、特開平11−101685号公報には、銀系抗菌剤を含有する樹脂成形体を、測定すべき環境下に載置し、樹脂成形体の着色の度合に基づいて前記環境下の紫外線の照射量を決定する紫外線量測定方法が開示されている。
開示されている
【特許文献1】特開平11−101685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、紫外線量を直接紫外線測定機器で測定する方法は、測定機器が高価であり、電源を必要とし、こまめなメンテナンスが必要となるという問題と、短時間の測定では、気象の影響等の理由で正確な紫外線量を測定できないという問題を有する。また、特開平11−101685号公報に開示された紫外線量測定方法は、短期間の紫外線量の測定は可能であるが、長期間の測定の場合、紫外線量と樹脂成形体の着色度の相関関係が一定しないため、季節毎に変動する長期間の紫外線量を正確に測定することができないという問題を有する。
【0004】
本発明は、上記従来技術のもつ課題を解決する、高価な測定機器を使用することなく、簡単な構成で屋外構造物の複数の部位の長期間の紫外線量を測定が可能な簡易紫外線量測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の簡易紫外線量測定方法は、紫外線の照射量に比例した黄変度を示すポリカーボネイト板に、超促進耐候試験機から紫外線を照射する促進劣化試験を実施し、前記ポリカーボネイト板への紫外線の照射量と前記ポリカーボネイト板の黄変度の相関関係を取得し、前記取得した相関関係に基づき、屋外の構造物の複数の特定個所に長期間配置した前記促進劣化試験に用いたものと同じポリカーボネイト板の黄変度から前記特定個所の長期間の紫外線量を測定することを特徴とする。
【0006】
また、本発明の簡易紫外線測定方法は、複数種のポリカーボネイト板に対して超促進耐候試験機から紫外線を照射する促進劣化試験を実施し、紫外線の照射量に比例した黄変度を示すポリカーボネイト板を選定することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の簡易紫外線量測定方法は、前記ポリカーボネイト板の屋外の複数の特定個所の長期間配置が1年未満の場合は、季節毎の紫外線量の変動に応じて紫外線量を補正することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の簡易紫外線量測定方法は、前記ポリカーボネイト板が耐候性成分を含まないことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の簡易紫外線量測定方法は、前記屋外の構造物の複数の特定個所に配置した前記ポリカーボネイト板の紫外線量の測定結果に基づき、前記構造物の複数の特定個所に使用する高分子系建材の耐候性グレードの最適化を図ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の紫外線の照射量に比例した黄変度を示すポリカーボネイト板に、超促進耐候試験機から紫外線を照射する促進劣化試験を実施し、前記ポリカーボネイト板への紫外線の照射量と前記ポリカーボネイト板の黄変度の相関関係を取得し、前記取得した相関関係に基づき、屋外の構造物の複数の特定個所に長期間配置した前記促進劣化試験に用いたものと同じポリカーボネイト板の黄変度から前記特定個所の長期間の紫外線量を測定する構成により、高価な測定機器を用いることなく、屋外構造物の複数の特定個所の長期間の紫外線照射量を正確に測定することができる。
複数種のポリカーボネイト板に対して超促進耐候試験機から紫外線を照射する促進劣化試験を実施し、紫外線の照射量に比例した黄変度を示すポリカーボネイト板を選定する構成により、長期間の紫外線量を測定するための正確なものさしを得ることができる。
ポリカーボネイト板の屋外の複数の特定個所の長期間配置が1年未満の場合は、季節毎の紫外線照射量の変動に応じて紫外線量を補正する構成により、季節変動する紫外線量を補正することで年間の正確な紫外線量を得ることができる。
ポリカーボネイト板が耐候性成分を含まない構成により、紫外線の照射量と黄変度がある程度比例関係となり、正確な紫外線量を測定することができる。
屋外の構造物の複数の特定個所に配置した前記ポリカーボネイト板の紫外線量の測定結果に基づき、前記構造物の複数の特定個所に使用する高分子系建材の耐候性グレードの最適化を図る構成により、屋外の構造物の各部位毎の紫外線量を把握した上で高分子系の建材の耐候性グレードが決定されるので構造物の耐久性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
建築物等の屋外構造物には、外装材として塗料、シーリング材、プラスチックパネルなどの高分子系の建材が多く使用される。これらの、高分子系の建材は、改装まで少なくとも十数年の間の寿命を保持する必要がある。これらの高分子系の建材の劣化は、太陽光線中の紫外線による変色や劣化が大きな要因となっている。そのため、屋外構造物の各部位に用いられる高分子系の建材を、紫外線量に応じた耐候性グレードを最適化する必要がある。
【0012】
高分子系の建材の耐候性グレードを最適化するために、高分子系の建材の寿命が少なくとも十数年と長いので、紫外線量も長期間の紫外線の照射量のデータが要求される。紫外線の照射量の測定は、紫外線測定機器を構造物の特定個所毎に設置し、長期間測定する方法があるが、紫外線測定機器は高価であり、測定には電源が必要であり、メンテナンスもこまめにする必要があり、長期間の紫外線量の測定には適していない。
【0013】
銀系抗菌剤を含有する樹脂成形体を、測定すべき環境下に載置し、樹脂成形体の着色の度合に基づいて前記環境下の紫外線の照射量を決定する紫外線量測定方法は、短期間の紫外線量の測定は可能であるが、長期間の紫外線量の測定は、紫外線量と樹脂成形体の着色度の相関関係が正確に把握することができず困難である。
【0014】
紫外線の照射量に応じて着色する樹脂としては、ABS樹脂、ポリカーボネイト樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0015】
これらの樹脂の中で、紫外線照射量に応じて黄変度がある程度比例する樹脂としてポリカーボネイト樹脂が最適であると決定し、市販されているポリカーボネイト樹脂を4種類準備した。4種類のポリカーボネイト樹脂を厚さ3mmの板状に成形し、それぞれ試料No.1〜4とし、その中で最も長期間の紫外線量の測定に適したもの選定するために、選定試験を実施した。選定試験を実施したポリカーボネイト樹脂を下記の表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
選定試験には、超促進耐候性試験機としてスパーUV−W151(岩崎電気社製)を用いた促進劣化試験を実施した。試験条件は、照射6時間/結露6時間のサイクルで、紫外線照度は100mw/cm2、照射時BP温度は63℃、照射時湿度は50%であった。
【0018】
ポリカーボネイト板の変色の測定は、色彩色差計CR−400(コニカミノルタ社製)を用いた。その測定方法は、機器補正用の白色校正板と機器との間にポリカーボネイト板を挟み、測定器から発せられた光がポリカーボネイト板を通過し白色校正板で反射され、再度ポリカーボネイト板を通過して戻ってきたところの色を測定した。変色は促進劣化試験前後の色差として数値化した。
【0019】
それぞれのポリカーボネイト板の試料No.1〜4の超促進耐候性試験機による促進劣化試験の結果を図1に示す。
【0020】
図1に示されるように、試料No.1〜3に関しては初期段階において、促進劣化試験の紫外線暴露時間とポリカーボネイト板の色差の変化の関係が下に凸のカーブを描いている。これは、試料No.1〜3のポリカーボネイト板に耐候性成分が含まれているからと思われる。試料No.4のポリカーボネイト板は色差が約25に達するまでの初期段階において、促進劣化試験の紫外線暴露時間とポリカーボネイト板の色差の変化の関係が直線的に変化している。試料No.4のポリカーボネイト板には、耐候性成分が含まれていなかった。
【0021】
上記選定試験の結果、試料No.4のパンライトL−1225Y(帝人化成社製)を採用することに決定した。
【0022】
促進劣化試験に用いたと同じパンライトL−1225Y(帝人化成社製)のポリカーボネイト板を90日間宮古島で直接暴露試験を実施したところ色差は7.85であった。このポリカーボネイト板の直接暴露試験の結果から、促進劣化試験による試料No.4の変色比例限界に達する時間(色差25に達するまでの時間)は280日程度かかる計算になる。
【0023】
しかし、図2に示されるように、紫外線照射量はその地域の季節毎に大きく変化する。そのため、1年に満たない直接暴露の結果から紫外線量を判断する場合は、その地域の季節毎の紫外線量の変化のデータを取得し、取得したデータに応じた補正が必要である。
【0024】
この紫外線量の簡易測定方法の利用について説明する。屋外に構築される建築物等の構造部の高分子系建材を用いる複数の個所に、促進劣化試験に用いたと同じポリカーボネイト板を固定して配置し直接暴露試験を実施する。配置期間は、構造物の施工期間等を考慮して決定するが、正確なデータを得るためできる限り長期間が望ましい。
【0025】
所定の配置期間後、直接暴露試験に用いたポリカーボネイト板の黄変度を色彩色差計CR−400(コニカミノルタ社製)を用いて測定する。測定した色差の数値と、予め、促進劣化試験で得れたポリカーボネイト板の前記測定色差に達する紫外線量を計算する。直接暴露試験の期間が1年未満の場合は、得られた紫外線量をその地域の季節毎の紫外線量の変化のデータに基づいて補正し、年当たりの紫外線量に補正する。
【0026】
得られた年当たりの紫外線量に基づいて、建築物の特定個所に用いられる高分子系の建材の耐用年数を勘案して用いられる高分子系の建材のグレード(耐候成分の含有量等)を最適化する。
【0027】
以上のように本発明の簡易紫外線量測定方法によれば、高価な測定機器を用いることなく、屋外構造物の複数の特定個所の長期間の紫外線照射量を正確に測定することができ、また、季節変動する紫外線量を補正することで年間の正確な紫外線量を得ることができ、さらに、屋外の構造物の各部位毎の紫外線量を把握した上で高分子系の建材の耐候性グレードが決定されるので構造物の耐久性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態を示す図である。
【図2】本発明の実施形態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線の照射量に比例した黄変度を示すポリカーボネイト板に、超促進耐候試験機から紫外線を照射する促進劣化試験を実施し、前記ポリカーボネイト板への紫外線の照射量と前記ポリカーボネイト板の黄変度の相関関係を取得し、前記取得した相関関係に基づき、屋外の構造物の複数の特定個所に長期間配置した前記促進劣化試験に用いたものと同じポリカーボネイト板の黄変度から前記特定個所の長期間の紫外線量を測定することを特徴とする簡易紫外線量測定方法。
【請求項2】
複数種のポリカーボネイト板に対して超促進耐候試験機から紫外線を照射する促進劣化試験を実施し、紫外線の照射量に比例した黄変度を示すポリカーボネイト板を選定することを特徴とする請求項1に記載の簡易紫外線量測定方法。
【請求項3】
前記ポリカーボネイト板の屋外の複数の特定個所の長期間配置が1年未満の場合は、季節毎の紫外線照射量の変動に応じて紫外線量を補正することを特徴とする請求項1または2に記載の簡易紫外線量測定方法。
【請求項4】
前記ポリカーボネイト板が耐候性成分を含まないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の簡易紫外線量測定方法。
【請求項5】
前記屋外の構造物の複数の特定個所に配置した前記ポリカーボネイト板の紫外線量の測定結果に基づき、前記構造物の複数の特定個所に使用する高分子系建材の耐候性グレードの最適化を図ることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の簡易紫外線量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−250699(P2009−250699A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−96885(P2008−96885)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】