説明

米の無洗化処理評価方法及びこれに用いる試料容器

【課題】 米の無洗化処理の程度を簡単に測定して、品質を評価できるようにし、その米が研がずに炊けるか、どうかの判断や、あるいは、無洗化処理の有無にかかわらず、食味度測定を可能にする。
【解決手段】 試料容器1は、片面若しくは両面が開放された空所3を有する容器本体2と、その空所の開放面を当接遮蔽する蓋8とからなる。この試料容器1に被検査米Aを入れ、蓋8を固定し、加水・加熱装置10に入れて加水・加熱する。この完了後、引抜測定装置20にかけ、蓋8の固定を解放して、容器本体2のみを荷重検出装置22で引抜く。この引抜き時の最大荷重を測定して、米の無洗化処理の程度を数値的に評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、精米工場や炊飯調理場などで利用可能な、米の無洗化処理の程度を数値的に評価する方法、及びこれに用いる試料容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、米の無洗化処理の程度を数値的に評価するには、米の洗滌液を測定する方式が一般的である。即ち、無洗化処理した米から所定量をサンプリングし、これを一定量の水に入れて振とうし、その水溶液の濁度値を測定する方式や、化学的酸素要求量(COD)を測定する方式(特許文献1参照)、または、水溶液を蒸発させた乾固物を測定する方式などによって、無洗化処理の程度を評価しようとするものである。
【特許文献1】特開2004−184244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、前記の濁度方式でも、乾固物方式でも、その水溶液の濁りが、糠によるものか、澱粉によるものかの判定ができないため、無洗化処理程度の正確な評価が難しい。その上、濁度や乾固物量が、いかほどのものが、消費者にて、普通の精白米を手で洗米した程度に除糠されたものに匹敵するのかの判定が困難であった。しかし、無洗米の処理程度を正確に評価することは、その米が研がずに食べられる程度に除糠されたものか、どうか、などを知るために非常に重要であり、特に、近年は無洗米が普及し、これに伴い市場には「無洗米」と表示された商品が満ちているのに、そのまま洗米せずに炊くと糠臭がする、いわゆる「不完全無洗米」も含まれていて、消費者を悩ましている。従って、これを簡単に見分ける方法は当業界から渇望されていた。
また、米の食味度を測定した場合、無洗化処理の有無で測定値に大きな差が出て、同じ米でも無洗化処理したものの方が高くなる場合がある。このように、無洗米の食味度測定値の信憑性は非常に乏しいので、無洗化処理の有無や、その処理の程度を知ることは極めて重要である。
【0004】
本発明はこのような点に鑑み、米に加えられた無洗化処理加工の有無、更には、その無洗化処理の程度を簡単、かつ、正確に知ることができる、米の無洗化処理評価方法を提供するものである。更に、本発明は、米の無洗化処理の評価に用いて便利で、かつ、廉価に製造可能な試料容器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の米の無洗化処理評価方法の技術的手段は、空所を有する容器本体と、空所の開放面を当接遮蔽する蓋とからなる試料容器に、被検査米を入れて加水・加熱し、この後、蓋の固定を解放し、容器本体と蓋との引抜分離時の荷重を測定して、被検査米の無洗化処理の程度を判定することにある。
【0006】
また、被検査米を入れた試料容器を、水温を一定に保持した加水・加熱装置に入れて、約10分間処理し、試料容器を取出した後、約3分間放置するようにしてもよい。更に、加水・加熱処理が完了した試料容器を、引抜測定装置にかけ、容器本体のみを荷重検出装置で引抜いて、その際の最大荷重を測定するようにしてもよい。また、引抜時の引抜速度を常に一定にするのが好ましい。
【0007】
本発明の米の無洗化処理評価に用いる試料容器の技術的手段は、容器本体と、蓋と、止め具とからなり、容器本体は、被検査米を入れるための片面若しくは両面が開放された空所を有し、この空所の開放面は、蓋で当接遮蔽され、容器本体と蓋とは止め具によって着脱自在に固定保持され、かつ、容器本体と蓋とは引抜分離されることにある。
【0008】
更に、容器本体と蓋との接触面には、引抜時の摩擦力を低減するための加工を施してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の米の無洗化処理評価方法では、米を加水・加熱した時に、米粒(飯粒)表面に生じる粘液(以下「保水膜」という)の中の肌糠(これは、米粒の組織として残っている糠層のことではなく、精白米を水中で攪拌した時に遊離する糠のことである)の有無、及び、それが多いか、少ないかによって、それと反比例した付着力の差が生ずることを発見した。従って、この付着力を測定することによって、無洗化処理の程度を数値的に評価でき、また、無洗米の品質を簡単かつ正確に評価できるようになった。更に、本発明では、被測定米が、普通の精白米であるか、無洗米であるかの判定も可能である。要するに、本発明は、分づき米のように米肌に残留している糠層ではなく、肌糠の残留量を調べるものであるから、分づき米や胚芽米のように糠層が残っている米についても無洗化レベル(肌糠がどれほど除去されているか)を把握することができ、完全精白米でも、不完全精白米でも、無洗化処理の程度を正確に評価できるのである。
【0010】
請求項2のものでは、被検査米に一定条件で正確な加水と加熱とを加えることができ、被検査米の評価の信頼性を高めることができる。
【0011】
請求項3のものでは、容器本体のみを引抜く方式であるから、米による、容器本体と蓋との付着力を正確に測定できる。
【0012】
請求項4のものでは、引抜速度を常に一定にしたので、食味度測定時の誤差が小さくなり、米の食味度を正確に測定できる。
【0013】
本発明の試料容器は、米の無洗化処理評価に用いて便利であり、正確な測定結果を得ることができる。また、その構成は簡単であり、廉価に製造可能である。更に、この試料容器は、評価測定の後に、そのまま食味度計にかけて、食味の測定ができるので、実用上、非常に便利である。
【0014】
請求項6のものでは、容器本体と蓋との接触面には、摩擦力低減加工が施されているので、引抜き検査時には容器本体と蓋との摩擦抵抗が少なく、ほとんどが米の付着力による抵抗となるので、正確な測定が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を実施するための最良の形態を、以下に図面の実施例に基づいて説明する。図1には、試料容器1が分解状態で示されている。2は容器本体で、形状はほぼリング状で、中央に両面が開放された空所3がある。なお、この実施例では両面が開放されているが、片面のみの開放でもよい。また、空所3の内径は、図示例では80mmで、深さは8mmである。この容器本体2の上部には、取手4が取付けられ、更に、上部には直径2mmの空気抜き孔5が形成され、また、下部には、直径1mmの水浸入孔6が形成されている。
【0016】
容器本体2の表裏の開放面には、空所3を囲むようにOリング7が取付けられている。この空所3には、被検査米Aを33g入れ、図2に示されるように、その表裏に蓋8を当接させて、遮蔽する。この表裏の蓋8は、組立状態で複数個所を止め具9で固定する。なお、蓋8及びOリング7の表面は、フッ素系合成樹脂でコーティング処理されていて、引抜作業時の摩擦係数を低減させてある。
【0017】
図3には、加水・加熱装置10が示されている。11は釜、12はヒータ、13は給水ポンプ、14は攪拌装置、15は水温センサ、16は水位センサ、17はコンピュータ式の制御装置である。これらの構成により、釜11の中では、水温と水位とが一定に保たれる。
この釜11の中に、前記の米を封入した試料容器1を入れると、下方の孔6からは湯が浸入し、上方の孔5からは空気が流出して、容器内の米は加水・加熱され、中途炊飯されることになる。なお、実施例では、加水・加熱の処理時間は10分間とした。
【0018】
加水・加熱処理が終了すると、試料容器1を加水・加熱装置10から取出し、3分間放置する。この放置の後、図4の引抜測定装置20にかける。この測定装置20は、アクチュエータ21と、荷重検出装置22と、コンピュータ式の制御装置23と、台板24と、この台板に設けられた弾性板(図示せず)とからなる。試料容器1を引抜測定装置20にかけると、蓋8は弾性板によって、上下方向に移動できない状態で、両側から軽く押圧(100g〜3kgの荷重でよいが、本実施例では、1kgの荷重で)されるようになる。その後、止め具9を外し、容器本体2の取手4に、荷重検出装置22のフック25を引掛けて、引上げ力を加える。そして、容器本体2が、上方向に蓋8から抜取られる際の、最大荷重を測定する。なお、この引抜き時の引抜速度は一定に保つものとする。
【0019】
この抜取り時の荷重は、加水・加熱処理された米(飯)の表面に生じた保水膜の状況によって、差がでる。即ち、保水膜に肌糠が存在すると、これが処理時の米表面の付着力を阻害する。このため、被検査米が、肌糠の除去が進んだ無洗米では、加水・加熱後には通常の精白米よりも蓋8との付着力が大きくなって、引抜強度が高くなる。
【0020】
図5には、通常の精白米と、無洗米との引抜強度の違いの分布図が示されている。即ち、この試験は、精米工場において、精米処理した精白米(米の銘柄は色々)95点と、それをBG式無洗化処理した無洗米95点とを前記の方法によって測定し、その引抜強度の分布を調べたものである。
この試験結果から、精白米と無洗米との間の引抜強度には、銘柄の如何にかかわらず、明確な差のあることが分かる。また、この結果から、試験した米が、精白米であるか、無洗米であるかを、自動的に判別することが可能となる。また、これを用いて、食味度の試験値に自動的に補正を加えるようにすることもできる。
【0021】
(実施試験例1)
新潟県産コシヒカリを被検査米として、各種の方式で無洗化処理加工を加え、それぞれの引抜強度、濁度、食味度を測定した。試験の詳細は以下の通りである。
被検査米の銘柄:新潟県産コシヒカリ
無洗化処理の内容
1、元の精白米:精白しただけで、無洗化処理をしていない米
2、乾式弱処理:家庭用の乾式無洗米機で弱処理したもの
3、乾式標準処理:家庭用の乾式無洗米機で標準処理したもの
4、乾式強処理:家庭用の乾式無洗米機で強処理したもの
5、BG式処理:工場で無洗化処理したもの
6、BG式処理:工場で無洗化処理したもの
7、乾式処理:コイン精米無洗米機で無洗化処理したもの(但し、元の精白米は同一ではない。)
8、タピオカ式処理:工場で無洗化処理したもの(但し、元の精白米は同一ではない。)
9、タピオカ式処理:工場で無洗化処理したもの(但し、元の精白米は同一ではない。)
なお、7〜9は、市販されている「新潟県産コシヒカリ」、「無洗米」と表示された商品を被検査米としたものであり、また、無洗化処理方式は同商品に表示された業者名から割り出した。
引抜試験機:前記実施例のもの
引抜速度:2秒
濁度計:日本電気工業株式会社製の濁度測定器(型番:WH2000N)
食味度計:株式会社東洋精米機製作所製の味度メーター(型番:MA−90B)(偏光方式を利用したもの)
この試験の結果は、表1に示されている。
【0022】
【表1】

【0023】
(実施試験例2)
ブレンド米を被検査米として、前記実施試験例1の1〜5と同様に試験した。結果は表2に示されている。
【0024】
【表2】

【0025】
以上の実施試験例1及び2から分かるように、同一の産地及び品種の精白米であっても、無洗化処理の有無によって、また、無洗化処理の内容によって、引抜強度と食味度とが明確に変化することが分かる。因みに、一般家庭の主婦5名に精白米を通常通りに洗米してもらい、その洗米後の米の肌糠の残存が最も多いものに匹敵する無洗米の引抜強度(N)は27であった。従って、同値が27以上のものを「無洗米」と判定し、それ以下のものを無洗化処理していないか、若しくは、無洗化処理がほとんど行われていない精白米と判定することができる。更に、引抜強度を測定して、無洗化処理の程度を知ることにより、測定した食味度に適正に補正を加えることができる。
特に、食味度計として、米粒の表面に発生する保水膜の量を偏光方式で測定するものを用いる場合には、無洗米化の程度によって、保水膜の質(肌糠が混入した保水膜ほど食味が悪くなる)が変わるため、従来のように単に保水膜の量を測定するだけでは正確な食味度の測定結果を得ることができなかったが、本発明の方法で、無洗米化の程度を知ることにより、適正な補正を加えることが可能となり、無洗米でも正確な食味度値が得られるようになった。
【0026】
実施試験例2のブレンド米を用いて、引抜測定時の引抜速度を変化させた時の、食味度の測定値が表3に示されている。これにより、引抜速度の違いによって、食味度の測定値に差が出ることが分かる。従って、従来のように引抜を手動で行う場合は、引抜速度に個人差があったり、同一人物でも常に一定で行うことは困難なことから、引抜速度の差異による誤差が避けられなかったが、本発明を使用することにより、正確な食味度の測定が可能となる。
【0027】
【表3】

【0028】
本発明は、前記の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載の範囲内で自由に変形実施可能である。特に、試料容器の詳細な構成は自由である。また、加水・加熱装置の構成は自由であり、加水・加熱時間や放置時間は適宜調節可能である。更に、引抜測定装置の構成は自由であり、引抜き力を正確に測定できるものであればよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明で用いる試料容器の分解状態の断面図。
【図2】組立てた状態の試料容器の断面図。
【図3】加水・加熱装置の概要図。
【図4】引抜測定装置の側面図。
【図5】引抜強度の分布を示す図。
【符号の説明】
【0030】
1 試料容器
2 容器本体
3 空所
4 取手
5 空気抜き孔
6 水浸入孔
7 Oリング
8 蓋
9 止め具
10 加水・加熱装置
11 釜
12 ヒータ
13 給水ポンプ
14 攪拌装置
15 水温センサ
16 水位センサ
17 コンピュータ式の制御装置
20 引抜測定装置
21 アクチュエータ
22 荷重検出装置
23 コンピュータ式の制御装置
24 台板
25 フック


【特許請求の範囲】
【請求項1】
空所を有する容器本体と、空所の開放面を当接遮蔽する蓋とからなる試料容器に、被検査米を入れて加水・加熱し、この後、蓋の固定を解放し、容器本体と蓋との引抜分離時の荷重を測定して、被検査米の無洗化処理の程度を判定する、米の無洗化処理評価方法。
【請求項2】
被検査米を入れた試料容器を、水温を一定に保持した加水・加熱装置に入れて、約10分間処理し、試料容器を取出した後、約3分間放置する、請求項1記載の米の無洗化処理評価方法。
【請求項3】
加水・加熱処理が完了した試料容器を、引抜測定装置にかけ、容器本体のみを荷重検出装置で引抜いて、その際の最大荷重を測定する、請求項1記載の米の無洗化処理評価方法。
【請求項4】
引抜時の引抜速度を常に一定にする、請求項1記載の米の無洗化処理評価方法。
【請求項5】
容器本体と、蓋と、止め具とからなり、容器本体は、被検査米を入れるための片面若しくは両面が開放された空所を有し、この空所の開放面は、蓋で当接遮蔽され、容器本体と蓋とは止め具によって着脱自在に固定保持され、かつ、容器本体と蓋とは引抜分離される、米の無洗化処理評価に用いる試料容器。
【請求項6】
容器本体と蓋との接触面には、引抜時の摩擦力を低減するための加工が施されている、請求項5記載の米の無洗化処理評価に用いる試料容器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−122300(P2008−122300A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308499(P2006−308499)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(000173706)財団法人雑賀技術研究所 (11)
【出願人】(000151863)株式会社東洋精米機製作所 (11)