説明

米デンプン含有粉並びにその製造方法

【課題】 米澱粉と同様に良好な膨化を可能としながらも、米穀粒に含まれるたんぱく質、脂質等の栄養成分が除去されることなく含まれている新規な米デンプン含有粉と、この米デンプン含有粉を低コストで製造することのできる新規な製造方法の開発を技術課題とした。
【解決手段】 米穀粒1におけるデンプン細胞10を構成するアミロプラスト13に内包されていた米デンプン粒子11が単粒状態とされ、更に前記アミロプラスト13及び米穀粒1に含まれる他の成分が微細化された状態で含まれていることを特徴として成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は米穀粒を原料として得られる米デンプン含有粉並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デンプンの原料としては、じゃがいも、さつまいも、とうもろこし、小麦、米等が挙げられるものであり、このうち米を原料とする米澱粉は、デンプンの中では粒径が最も小さく(平均粒径2〜5μm)、食品以外にも印画紙や化粧品の原料として供されている。
前記米澱粉は、米穀粒を単にすり潰して得られた米粉(小麦粉の代用としてパン等の原料として用いるために市販されているもの。)とは別物であり、原料の玄米を精白し、更に米デンプン粒子を内包しているアミロプラストを破壊することにより、米デンプン粒子のみが取り出されて精製されたものである。そして前記アミロプラストを破壊する方法としては、米穀粒をアルカリ溶液に浸漬した後、粉砕する手法が工業的に広く普及している(例えば特許文献1参照)。
しかしながらこのような手法は、アルカリ溶液並びにアルカリ溶液の除去のための洗浄工程が必須であるため、製造コストの低減には限界があり、更に歩留まりが低いため、市場に流通している米澱粉は高価なものとなっている。このため米澱粉を、小麦粉の代用として使用するのは現実的ではないというのが実情である。
【0003】
この他にも前記アルカリ溶液を用いることなく、米デンプン粒子を包含しているアミロプラストを破壊する方法も試みられている(例えば特許文献2、3参照)。
しかしながら前記特許文献2による手法は、米穀粒を、水への浸漬、粉砕を行う前に75℃以上で加熱するものであり、更に特許文献2においては得られた米粉・デンプンの性状についての検証がなされていないため、熱による変性の可能性があり、実用性に耐え得るものであるのか否かが不明である。
【0004】
また特許文献3に示された米粉は澱粉損傷率が6.6〜10.9%であり、アルカリ溶液を用いて製造された米澱粉の澱粉損傷率(1.2%)と比較すると大きな開きがあり、高品質なものとは言い難い。
【0005】
ところで上述したような米澱粉を、小麦粉の代用としてパンの原料とした場合には、良好な膨化状態となることが確認されている(図10比較例1参照。)。しかしながら米澱粉は上述したように、米穀粒に含まれるデンプンが精製されたものであるため、アルカリ処理後の洗浄や、脱水操作が行われることによってたんぱく質、脂質や各種栄養成分が除去されたものとなっている。
一方、前記米粉は、米穀粒を単にすり潰して得られたものであり、米穀粒に含まれるデンプンのほかにも、たんぱく質、脂質や各種栄養成分がそのまま含まれたものである。しかしながら米粉を小麦粉の代用としてパンの原料とした場合には、良好な膨化状態とならないことが確認されている(図10比較例2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−57438
【特許文献2】特開平11−75728
【特許文献3】特開2005−287365
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような背景を考慮してなされたものであって、特に小麦粉の代用としてパンの原料とされた場合に、米澱粉と同様に良好な膨化を可能としながらも、米穀粒に含まれるたんぱく質、脂質等の栄養成分が除去されることなく含まれている新規な米デンプン含有粉と、この米デンプン含有粉を低コストで製造することのできる新規な製造方法の開発を技術課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち請求項1記載の米でんぷん含有粉は、米穀粒におけるデンプン細胞を構成するアミロプラストに内包されていた米デンプン粒子が単粒状態とされ、更に前記アミロプラスト及び米穀粒に含まれる他の成分が微細化された状態で含まれていることを特徴として成るものである。
【0009】
また請求項2記載の米でんぷん含有粉は、前記請求項1記載の要件に加え、損傷デンプン率が5%以下であることを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項3記載の米でんぷん含有粉は、前記請求項1または2記載の要件に加え、吸水率が60〜80%であることを特徴として成るものである。
【0011】
更にまた請求項4記載の米でんぷん含有粉は、前記請求項1、2または3記載の要件に加え、糊化開始温度が72〜74℃であることを特徴として成るものである。
【0012】
更にまた請求項5記載の米でんぷん含有粉は、前記請求項1、2、3または4記載の要件に加え、小麦粉の10〜50%を米デンプン含有粉に置き換えて製造したパンの比容積が3.0以上となるものであることを特徴として成るものである。
【0013】
また請求項6記載の米でんぷん含有粉の製造方法は、米穀粒を水に浸漬して米浸漬液とした状態で米穀粒への吸水を図り、その後、米浸漬液を粉砕機に投入して粉砕することにより、米デンプン粒子を内包するアミロプラストを破壊して米デンプン粒子を自由状態とした米ペーストを得て、その後、この米ペーストを乾燥することを特徴として成るものである。
【0014】
更にまた請求項7記載の米でんぷん含有粉の製造方法は、前記請求項6記載の要件に加え、前記乾燥は米ペーストの水分を脱水処理により除去することなく行われることを特徴として成るものである。
【0015】
更にまた請求項8記載の米でんぷん含有粉の製造方法は、前記請求項6または7記載の要件に加え、前記米穀粒を浸漬する水を、米穀粒重量1に対し0.5〜1.5とすることを特徴として成るものである。
【0016】
更にまた請求項9記載の米でんぷん含有粉の製造方法は、前記請求項6、7または8記載の要件に加え、前記水に対する米穀粒の浸漬時間を、2時間以上とすることを特徴として成るものである。
【0017】
更にまた請求項10記載の米でんぷん含有粉の製造方法は、前記請求項6、7、8または9記載の要件に加え、前記粉砕を、磨砕式粉砕機で行うことを特徴として成るものである。
【0018】
更にまた請求項11記載の米でんぷん含有粉の製造方法は、前記請求項6、7、8、9または10記載の要件に加え、前記乾燥は熱風乾燥機を用いて行われるものであり、熱風温度を80℃以下に設定することを特徴として成るものである。
そしてこれら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0019】
まず請求項1記載の発明によれば、米デンプン含有粉は米穀粒と同じ成分を有するものであるため、米デンプン含有粉が適用された加工食品の栄養価を高めることができる。
【0020】
また請求項2記載の発明によれば、米デンプン含有粉の歩留まりが良好であるため、米デンプン含有粉を低価格で市場に供給することが可能となる。
【0021】
また請求項3記載の発明によれば、米デンプン含有粉を原料とした加工食品を、しっとりした食感あるいはもちもちとした食感を有するものとすることができる。
【0022】
また請求項4記載の発明によれば、米デンプン含有粉を原料とした加工食品の加熱時における性状変化を、米澱粉を用いた場合と同様のものとすることができる。
【0023】
また請求項5記載の発明によれば、米デンプン含有粉を小麦粉の代用として用いた場合であっても、良好な見た目と食感が得られる商品性の高いパンを製造することができる。
【0024】
また請求項6記載の発明によれば、米デンプン含有粉に含まれる米デンプン粒子を単粒状態のものとして得ることができる。
【0025】
また請求項7記載の発明によれば、米デンプン含有粉を、米穀粒の栄養成分が全て含まれたものとすることができる。
【0026】
また請求項8記載の発明によれば、粉砕の際に複粒状態の米デンプン粒子を効果的にほぐして最小単位のものとすることを可能にすることができる。
【0027】
また請求項9記載の発明によれば、粉砕の際に複粒状態の米デンプン粒子を効果的にほぐして最小単位のものとすることを可能にすることができる。
【0028】
また請求項10記載の発明によれば、米デンプン粒子を内包するアミロプラストを破壊するとともに、粉砕することができる。また複粒状態の米デンプン粒子を損傷することなく最小単位のものとすることができる。
【0029】
また請求項11記載の発明によれば、米デンプン粒子の糊化等の変質を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の米デンプン含有粉の製造方法並びにパンの製造方法を示す工程図である。
【図2】米穀粒のデンプン細胞を示す拡大図である。
【図3】米ペースト、米粉、米澱粉及び米デンプン含有粉を水に分散させて撮影した顕微鏡写真である。
【図4】米ペースト及び米粉を対象とした0.1%コンゴーレッド溶液による染色試験の結果を撮影した顕微鏡写真である。
【図5】米デンプン含有粉及び米ペースト並びに米粉及び米澱粉の粒度分布を示すグラフである。
【図6】米デンプン含有粉及び米ペースト乾燥物並びに米粉及び米澱粉の吸水率及び損傷デンプン率を示すグラフである。
【図7】米デンプン含有粉及び米ペースト並びに米粉、米澱粉及び米澱粉ペースト乾燥物の糊化開始温度及び最高粘度特性を示すグラフである。
【図8】米デンプン含有粉及び米ペースト並びに米粉、米澱粉及び米澱粉ペースト乾燥物の糊化開始温度及び最高粘度に達するまでの時間特性を示すグラフである。
【図9】米穀粒と水との混合比を異ならせて調製した米ペーストの状態を撮影した顕微鏡写真である。
【図10】米デンプン含有粉及び米ペースト並びに米粉、米澱粉及び米澱粉ペースト乾燥物を用いたパンの比容積及びかたさ応力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の「米デンプン含有粉並びにその製造方法」を実施するための形態は、以下に示すものを最良の形態の一つとするとともに、この技術思想に基づき改変される形態も含むものである。
なお本明細書において「米粉」、「米澱粉」とは、それぞれ以下のように定義されるものである。
まず前記「米粉」とは、乾燥状態の米穀粒1を、胴搗きしたり、すり潰したりして得られたものである。
また前記「米澱粉」とは、米穀粒1をアルカリ溶液に浸漬する等して、米デンプン粒子11を内包しているアミロプラスト13を破壊した後、洗浄、乾燥することにより、米デンプン粒子11のみが取り出されて精製されたものである。
以下、本発明の「米デンプン含有粉の製造方法」について図1を参照しながら説明し、続いてこの方法により得られる米デンプン含有粉16について説明する。
【0032】
〔原料〕
まず本発明の米デンプン含有粉16の原料として用いられる米穀粒1は、国内に普及しているジャポニカ種を使用することが好ましいが、インディカ種、ジャバニカ種であってもよい。
また米穀粒1の状態は、少なくとも、もみ殻を除去したものであればよく、玄米状態、精米状態のいずれでもよいが、米デンプン含有粉16がパン7や中華まん生地等の膨化を伴う加工食品の原料とされることを考慮すると精米状態のものが好ましい。もちろん健康志向の要求に応じる場合には、米穀粒1として適宜玄米状態のものを適用するのが好ましく、更にうどん、クレープ生地、ホワイトソース等の膨化を伴わない加工食品の原料とされる場合には玄米状態のものであってもなんら問題はない。
更にまた米穀粒1としては、商品価値の低い、いわゆる破砕米を適用することもできる。
なお米穀粒1は図2に拡大して示すように、複数の米デンプン粒子11をアミロプラスト13が膜状に内包したものが、更に細胞膜14に内包されて成るデンプン細胞10が多数集まって形成されているものである。また図には示されていないが、極めて微細なたんぱく質粒が、米デンプン粒子11の隙間を埋めるようにして存在している。
【0033】
〔水への米穀粒の浸漬〕
そして前記米穀粒1を水2に浸漬することにより米浸漬液3を得るものであり、この実施例では水2の量が、米穀粒1の重量1に対し0.5〜1.5(重量比)となるようにした。なおこの比率が0.4以下である場合には、複粒12が多く生成されてしまうことが確認されており、これについては後程詳しく説明する。
また本発明の米デンプン含有粉16をパン7の原料として用いることを考慮した場合、米穀粒1の重量1に対する水2の比率を、好ましくは0.7以上、更に好ましくは0.8以上とする。なお上限値については、米ペースト15の乾燥効率を考慮したうえで、適宜選択されるものである。
【0034】
更にこの実施の形態では、前記水2に対する米穀粒1の浸漬時間を2時間以上とするものであり、好ましくは2〜24時間とする。
因みに常温下における2時間での浸漬で、米穀粒1に吸収される水2はほぼ飽和状態となることが確認されている。また雑菌の繁殖を防ぐことを考慮した場合には5℃程度の冷蔵温度とすることが好ましい。
【0035】
〔米穀粒の粉砕〕
次いで前記米浸漬液3を全て粉砕機8に投入することにより、細胞膜14及びアミロプラスト13が破壊され、このアミロプラスト13に内包されていた米デンプン粒子11が自由状態とされるものであり、図3(a)に示すように米デンプン粒子11が水2中に分散したペースト状の物質が得られる。そしてこのペースト状物質を米ペースト15と呼ぶものである。なお図3(a)は、写真撮影を容易にするために、米ペースト15を水2に分散(希釈)させて撮影した写真である。
またすべてのアミロプラスト13が完全に破壊されるわけではなく、図2中、仮想線で示した部分が取り除かれるようにして、一部が破壊されたアミロプラスト13の内部に、複数の米デンプン粒子11が残存することもあり、この状態のものを複粒12と呼ぶ。
因みに米穀粒1をすり潰して得られた米粉100の場合は、図3(b)に示すように多くのアミロプラスト13が破壊されずに複粒12の状態で多く存在していることが確認された。なお図3(b)は、写真撮影を容易にするために、米粉100を水2に分散させて撮影した写真である。
また図3(c)に示すように、米澱粉101には、アミロプラスト13は含まれておらず、単粒である米デンプン粒子11のみが存在している(一部、複数の米デンプン粒子11が再結合して塊状となっている。)。なお図3(c)は、写真撮影を容易にするために、米澱粉101を水2に分散させて撮影した写真である。
【0036】
なおこの実施の形態では、前記粉砕機8として磨砕式粉砕機が適用されるものであり、市販されている装置の好ましいものとして、一例として増幸産業株式会社製、スーパーマスコロイダー(MKCA6−2)等が採用される。
この装置は、石臼が上下に重ねられ、その間に米穀粒1を導いて石臼の回転によりすり潰すように粉挽きするものである。
なお石臼の作用による加工時間は、例えば石臼の回転数が1500rpmの場合、米浸漬液3を1400g(米700g+水700g)ホッパから投入したときには、10秒〜2分ほどで全量が米ペースト15として排出される程度であった。
また粉砕機8としては、市販されているミル付きミキサー(一例として象印マホービン株式会社製 BM−RS08)を用いることもできる。この場合、米浸漬液3を14500rpm程度の回転数にて一分間、粉砕処理することにより、前記米ペースト15を得ることができた。
【0037】
〔米ペーストの乾燥と米デンプン含有粉の生成〕
次いで前記米ペースト15を乾燥するものであり、この実施例では、米ペースト15の水分を脱水処理等により除去することなく、全量を乾燥するようにした。
具体的には乾燥機9としては一例として自然対流式の熱風乾燥機(一例としてヤマト科学株式会社製 定温乾燥機)が用いられる。
そして乾燥条件は、熱風温度を80℃以下とするものであり、好ましくは40〜70℃、更に好ましくは50〜60℃とする。
この結果、粉末状の米デンプン含有粉16が得られるものであり、この米デンプン含有粉16には図3(d)に示す写真では視認できないが、米デンプン粒子11の他に、粉砕されたアミロプラスト13及びたんぱく質粒が含まれており、更に水2中に溶出、浸出していた米穀粒1の成分も全て含まれている。なお図3(d)は、写真撮影を容易にするために、米デンプン含有粉16を水2に分散させて撮影した写真である。
また図4(a)に示す写真は、0.1%コンゴーレッド溶液による米ペースト15の染色後の顕微鏡写真であり、前記粉砕されたアミロプラスト13は見当たらないものの、全体が青紫色に染色されており、液体部分にたんぱく質が分散していることが確認できる。このためアミロプラスト13は、微細化されて米ペースト15全体に分散した状態となっていると考えられる。
ちなみに図4(b)に示す写真は同様に、0.1%コンゴーレッド溶液による米粉100の染色後の顕微鏡写真であり、たんぱく質が存在している部分が濃い青紫色に染色されており、このことは、粉砕されていないアミロプラスト13にたんぱく質が存在していることによる事象であると考えられる。
以下、上述のようにして得られた米デンプン含有粉16の性状について、乾燥温度を40℃としたものと、60℃としたものとの双方を検証する。
【0038】
〔粒径〕
まず粒径について検証すると、前記米デンプン含有粉16の粒径は図3(a)、(d)に示されているように1〜10μmとなっている。ちなみに図3(b)に示すように米粉100は粒径30μm程のものが多く含まれている。
なお図5に示すように米デンプン含有粉16の粒度は1〜10μmの範囲に集中して分布していることが確認された。因みに5μmは、米澱粉101の平均粒子径に近いものであるため、粉砕機8の作用によって細胞膜14及びアミロプラスト13が破壊されることにより、塊状の米デンプン粒子11に対し、遊離水20が流動性を付与するように関与して、最小単位にまで細分化させたものと考えられる。なおこの点については後程詳しく検証する。
また縦軸のスケールを拡大して示した図5(b)を見ると、数十μm付近に二次ピーク値が確認できるものであり、これは前記複粒12が崩壊せずに残ったものである。
【0039】
〔損傷デンプン率〕
次に損傷デンプン率について検証する。この検証は、米デンプン含有粉16、米粉100及び米澱粉101を損傷デンプン測定キット(Megazyme製STARCH DAMAGE ASSAY KIT)を用いて測定し、その値を比較するものである。なお米澱粉101に対する熱影響を確認するために、米澱粉101に水を加えてペースト状にし、このものを40℃で乾燥して粉末状としたもの(米澱粉ペースト乾燥物)についてもあわせて検証を行った。
結果は図6に示すように、米デンプン含有粉16の損傷デンプン率は5%以下となっており、米澱粉101及び米澱粉ペースト乾燥物と同等の値となっている。
なお米粉100の損傷デンプン率は13.5%と、米デンプン含有粉16及び米澱粉101に比べて高い値となっていることが確認された。因みに損傷デンプン率が高いほど、パンの膨化度は低下することが確認されている。
【0040】
〔吸水率〕
次に吸水率について検証する。この検証は、米デンプン含有粉16、米粉100及び米澱粉101をそれぞれ同量の水に浸漬したものを、3500rpmで30分間遠心分離機にかけた後、残存した水分の米デンプン含有粉16、米粉100及び米澱粉101の重量に対する割合(吸水率)を算出し、その値を比較するものである。なお前記米澱粉ペースト乾燥物についてもあわせて検証を行った。
結果は図6に示すように、米デンプン含有粉16、米澱粉101及び米澱粉ペースト乾燥物の吸水率が70%前後であるの対し、米粉100の吸水率は110数%と大きく異なっていることが確認された。
なお損傷澱粉の場合、吸水率が増大することが知られており、このことから米デンプン粒子11は損傷が生じていないか、僅かな損傷しか生じていないものと考えられる。
【0041】
〔糊化開始温度〕
次に糊化開始温度について検証するものであり、米デンプン含有粉16、米粉100及び米澱粉101について糊化開始温度を求め、その値を比較する。なお前記米澱粉ペースト乾燥物及び米ペースト15についてもあわせて検証を行った。
ここで糊化開始温度の求め方について説明すると、粉末試料2.5gを25mlの水に分散させ、Rapid Visco Analyser(Newport Scientificc Pty製 RVA−4)によりデンプンの糊化特性を測定するものであり、測定条件を、50℃で1分間撹拌、50℃から93℃まで4分間で昇温、93℃で7分保持、93℃から50℃まで4分間で降温、50℃で3分間保持とするプログラムに沿って変化させるものである。
そして得られた粘度曲線から、立ち上がりの温度を糊化開始温度とし、最高に達した時の粘度を最高粘度とするものである。このとき、最高粘度に達するまでの時間についても測定を行うものである。
結果は図7に示すように、米デンプン含有粉16及び米澱粉101は約73℃となっているのに対し、米粉100は約69℃となっていた。
【0042】
〔最高粘度及び最高粘度に達するまでの時間〕
次に最高粘度及び最高粘度に達するまでの時間について検証する。この検証は、米デンプン含有粉16、米粉100及び米澱粉101について、前出のように最高粘度及び最高粘度に達するまでの時間を求め、その値を比較するものである。なお前記米澱粉ペースト乾燥物及び米ペースト15についてもあわせて検証を行った。
結果は図8に示すように、米デンプン含有粉16は5.6分、5.7分、米澱粉101は5.5分であるの対し、米粉100は6分と長くなっていることが確認された。
また最高粘度の値は図7に示すように、米デンプン含有粉16が約6000であるのに対して、米粉100及び米澱粉101では約4000となっていた。
【0043】
〔粉砕時の水量〕
なお前記米浸漬液3における米穀粒1の重量1に対する水2の比率が異なると、複粒12及び単粒状態の米デンプン粒子11の割合が極端に異なるものであり、ここでこれらの関係について検証する。
具体的には米穀粒1と水2との比率を異ならせるとともに、粉砕機8による破砕条件(時間、回転数等)を同一にして得られた五種の米ペースト15の性状比較を行った。 図9に、米穀粒1と水2との混合比(重量比)を異ならせて調製した米ペースト15の写真を拡大して示す。
図9(a)は、米穀粒1と水2との混合比を1:0.4としたものであり、同様に図9(b)は、1:0.5としたもの、図9(c)は、1:0.6としたもの、図9(d)は、1:0.7としたもの、図9(e)は、1:0.8としたものである。
図9(a)に示したものは、米デンプン粒子11の他に、複数の複粒12が多く確認された。
また図9(b)に示したものは、米デンプン粒子11の他に、僅かに複粒12が確認された。
また図9(c)、(d)に示したものでは、米デンプン粒子11の他に、微細な複粒12が僅かに確認された。
また図9(e)に示したものは、米デンプン粒子11のみが確認され、複粒12は確認されなかった。
【0044】
また水2に浸漬した米穀粒1を米ペースト15とする前に、米穀粒1の硬さを測定したところ、水2の量にかかわらず、略同一の硬度となることが確認された。
このことから、米穀粒1の破砕時における、アミロプラスト13の破砕および複粒12の崩壊は、米穀粒1の硬度に依存したものではなく、米浸漬液3に含まれる水2の量に依存したものであるといえる。
したがって粉砕機8の作用によって細胞膜14及びアミロプラスト13が破壊される際に、遊離水20が流動性を付与するように関与して、塊状の米デンプン粒子11を最小単位にまで崩壊させたものと考えられる。
【0045】
〔パンへの適用〕
次に本発明の米デンプン含有粉16が用いられた加工食品の一例であるパン7について説明する。
まず図1に示すようにパン生地6の調製工程において、小麦粉に対して米デンプン含有粉16の代替率が10〜50%、好ましくは20〜40%となるように混入し、イースト及び調味剤とを水を加えて混捏(一例として2分)してパン生地6を調製する。
そしてその後、前記パン生地6を適宜醗酵させ、更に適宜成形した後、焼成することにより、パン7が製造される。
因みにパン生地6の醗酵から焼成工程に至るまでの工程は、従来手法が踏襲される。
【0046】
〔実施例1:パンとしての加工食品〕
以下、パン7の実施例1を例示する。
この実施例1は、実質的に小麦粉の30%を米デンプン含有粉16によって代替するものであり、各材料の配合は以下に示すようにした。

小麦粉 :210g
米デンプン含有粉: 90g
砂糖 : 20g
塩 : 5g
スキムミルク : 5g
イースト : 3g
バター : 20g
水 :200g
【0047】
〔比較例1〕
比較例1として、小麦粉の30%を米澱粉101によって代替したパンを用意した。各材料の配合は以下に示すようにした。

小麦粉 :210g
米澱粉 : 90g
砂糖 : 20g
塩 : 5g
スキムミルク: 5g
イースト : 3g
バター : 20g
水 :200g
【0048】
〔比較例2〕
比較例2として、小麦粉の30%を米粉100によって代替したパンを用意した。各材料の配合は以下に示すようにした。

小麦粉 :210g
米粉 : 90g
砂糖 : 20g
塩 : 5g
スキムミルク: 5g
イースト : 3g
バター : 20g
水 :200g
【0049】
〔膨化度の比較〕
次に上記パン生地6を同じ条件で焼成して膨化させたパン7の状態での比較を目視により行った結果及び比容積の測定結果を図10に示す。
ここで比容積とは、式:比容積=パン7の容積(ml)÷パン生地6の量(g)によって求められる値であり、パン7の食感は、この値が大きいほど軽く、小さいほど重いとされている。
比較例1を基準にすると、実施例1は比較例1の90%程度に膨化していることが確認され、またいわゆるきめの細かさも、同程度であり、更に比容積が3.0以上となっていることが確認された。
一方、比較例2は比較例1を基準にすると、70%以下の膨化にとどまっていることが確認された。またいわゆるきめの細かさについては粗くなっており、更に比容積が2.5以下となっていることが確認された。
このように、米デンプン含有粉16を小麦粉の代用としたパン7は、米澱粉101を用いた場合と同等の膨化状態であり、また比容積が3.0以上であり、更に米穀粒1の栄養成分が全て含まれたものとなるものである。
因みに前記米澱粉ペースト乾燥物を用いたものは、比較例1とほぼ同様の膨化度であり、更に同様のきめの細かさとなっていることが確認された。
【0050】
〔他の実施の形態〕
なお上述した基本となる実施の形態においては、米ペースト15をそのまま全部乾燥機9へ投入するようにしたが、乾燥時間の短縮や省エネルギーを重視する場合には、適宜濾紙や遠心脱水機等によって脱水した米ペースト15を投入するようにしてもよい。
ただしこの場合、米デンプン粒子11の表面に付着していた栄養成分を米デンプン含有粉16に含むことはできるものの、除去された水2に溶出、流出していた栄養成分は失われることとなる。
【0051】
また米デンプン含有粉16を、小麦粉以外の異種穀物粉または他の材料と混合して加工食品とすることもできる。ここで異種穀粉とは、そば、あわ、ひえ等のいわゆる雑穀などを用いることができ、更にこれらを混合するようにしてもよい。
また前記他の材料としては、水、卵、牛乳等の水分を含んだ材料や、食塩、砂糖、バター、膨化剤等が挙げられる。
また前記加工食品としては、うどん、そば等の麺類、ドーナツ、シュー、クレープ、クッキー、ビスケット等の焼き菓子や、ホワイトソース等が挙げられる。
更に米デンプン含有粉16を天ぷらやフライの衣として用いることもできる。
【符号の説明】
【0052】
1 米穀粒
10 デンプン細胞
11 米デンプン粒子
12 複粒
13 アミロプラスト
14 細胞膜
15 米ペースト
16 米デンプン含有粉
100 米粉
101 米澱粉
2 水
20 遊離水
3 米浸漬液
6 パン生地
7 パン
8 粉砕機
9 乾燥機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米穀粒におけるデンプン細胞を構成するアミロプラストに内包されていた米デンプン粒子が単粒状態とされ、更に前記アミロプラスト及び米穀粒に含まれる他の成分が微細化された状態で含まれていることを特徴とする米デンプン含有粉。
【請求項2】
損傷デンプン率が5%以下であることを特徴とする請求項1記載の米デンプン含有粉。
【請求項3】
吸水率が60〜80%であることを特徴とする請求項1または2記載の米デンプン含有粉。
【請求項4】
糊化開始温度が72〜74℃であることを特徴とする請求項1、2または3記載の米デンプン含有粉。
【請求項5】
小麦粉の10〜50%を米デンプン含有粉に置き換えて製造したパンの比容積が3.0以上となるものであることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の米デンプン含有粉。
【請求項6】
米穀粒を水に浸漬して米浸漬液とした状態で米穀粒への吸水を図り、その後、米浸漬液を粉砕機に投入して粉砕することにより、米デンプン粒子を内包するアミロプラストを破壊して米デンプン粒子を自由状態とした米ペーストを得て、その後、この米ペーストを乾燥することを特徴とする米デンプン含有粉の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥は、米ペーストの水分を脱水処理により除去することなく行われることを特徴とする請求項6記載の米デンプン含有粉の製造方法。
【請求項8】
前記米穀粒を浸漬する水を、米穀粒重量1に対し0.5〜1.5とすることを特徴とする請求項6または7記載の米を原料とする米デンプン含有粉の製造方法。
【請求項9】
前記水に対する米穀粒の浸漬時間を、2時間以上とすることを特徴とする請求項6、7または8記載の米を原料とする米デンプン含有粉の製造方法。
【請求項10】
前記粉砕を、磨砕式粉砕機で行うことを特徴とする請求項6、7、8または9記載の米を原料とする米デンプン含有粉の製造方法。
【請求項11】
前記乾燥は熱風乾燥機を用いて行われるものであり、熱風温度を80℃以下に設定することを特徴とする請求項6、7、8、9または10記載の米を原料とする米デンプン含有粉の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−244936(P2012−244936A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118958(P2011−118958)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(507219686)静岡県公立大学法人 (63)
【Fターム(参考)】