説明

米原料を配合したバッター及びそれを用いて調製した揚げ物類

【課題】米原料が配合されたバッターを使用して調製された揚げ物類の食感をソフトにし、歯切れが良く、口溶けを良くすることを課題とする。
【解決手段】米原料を配合したバッターに水溶性大豆多糖類を添加することで、油調後の食感(特に噛み終わりの部分)がソフトになり、歯切れが良く、口溶けを良くすることができ、また、フライ後のソフトさ、歯切れの良さ、口溶けの良さが低下するのを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米原料を配合したバッター及びそれを用いて調製した揚げ物類に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国の食料自給率は、カロリーベースで約40%と戦後から大きく低下している。特に、食糧用小麦はその86%を輸入に依存しており、他国の供給能力に非常に大きく影響を受ける穀物の一つである。さらには、近年、小麦粉の価格が大きく上昇を続けていることから、小麦粉の代替品として米粉が注目されるようになった。小麦粉の替わりに米粉を使用した様々な加工食品がこれまで開発されている。
【0003】
小麦粉完全代替または小麦粉の一部を米粉に置換した食品として、例えば、天ぷらやコロッケなどのフライ食品が挙げられる。これらフライ食品類の衣材に米原料を適量使用することで、小麦粉のみの場合に比べて油の吸収率が低く、さっぱりとしてヘルシーになるなどの特徴が知られている(非特許文献1)。また、米粉と乳化剤を配合したバッターを用いることで、揚げたての衣の食感が軽くなる等の技術(特許文献1)や、改質米粉を配合することで油調してから時間が経っても衣のべちゃつきが少なくサクミがある程度維持できる技術(特許文献2)が開示されている。
【0004】
また、揚げ物衣の食感等の品質改良方法として、水溶性大豆多糖類を添加する方法(特許文献3)により、揚げ物衣の食感を軽くし、クリスピーにする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-46783号公報
【特許文献2】特開2010-104246号公報
【特許文献3】特開平11-169117号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Shih, F., and Daigle, K., Oil uptake properties of fried batters from rice flour. J. Agric. Food Chem., 1999, 47(4), p1611
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
米原料は配合量が少量であれば、適度な硬さが付与でき、またクリスピーな良い食感改良効果が得られる。しかし、配合量が多くなるにしたがって、バリバリとした硬さが目立つようになり、このようなバリバリとした硬さに伴い、歯切れや口溶けが悪くなる等フライ食品には好ましくない食感になる問題がある。特許文献3では、揚げ物衣にクリスピーな食感を付与する技術が開示されているが、米原料を配合した揚げ物衣等の衣の硬化を抑え、歯切れ良くし、口溶けを良くする技術は未だ知られておらず、米原料を配合した場合でもソフトで、歯切れが良く口溶けを良くする技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、これら問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、米原料を配合したバッターに水溶性大豆多糖類を添加することで、油調後の食感(特に噛み終わりの部分)がソフトになり、歯切れ、口溶けが向上できること、また、フライ後のソフト感、歯切れの良さ、口溶けの良さが低下するのを抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)水溶性大豆多糖類を含有することを特徴とする米原料配合バッター。
(2)米原料の配合割合がバッターの固形分中20重量%以上である、(1)記載のバッター。
(3)水溶性大豆多糖類の含有量がバッターの固形分中0.1〜5重量%であることを特徴とする(1)または(2)記載のバッター。
(4)(1)乃至(3)記載のバッターを用いて調製した揚げ物類。
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、米原料を配合したバッターで調製した揚げ物類のバリバリと硬く好ましくない食感を、ソフトにし、歯切れ良く、口溶けを向上することができる。また、フライ後のソフト感、歯切れの良さ、口溶けの良さが低下するのを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を具体的に説明する。
(米原料配合バッター)
本発明の米原料配合バッターは、米原料及び水溶性大豆多糖類を含有し、その形態として、米原料及び水溶性大豆多糖類を含有する粉末状の衣材またはその衣材に加水してできるスラリー状の衣材,米原料及び、水溶性大豆多糖類の水溶液を含有するスラリー状の衣材またはその衣材にさらに加水してできるスラリー状の衣材が含まれる。本発明の米原料配合バッターは適宜、具材に付着して揚げ物類等に使用する。
【0012】
米原料配合バッターの原料として、米原料及び水溶性大豆多糖類の他、小麦粉類、澱粉類などの穀物原料、食塩、砂糖、粉末醤油などの調味料、ブラックペッパーなどの香辛料、乳化剤、膨張剤、ガム剤などの食品添加物を適宜配合し用いることができるし、水、牛乳、卵などの液状原料も配合することができる。
米原料配合バッターの具体的な例として、揚げ物類用の衣材等が挙げられる。揚げ物類用の衣材とは、天ぷらやコロッケ等の衣だけに限らず、いわゆるフリッターの衣といった起泡性のある生地や、穀物原料を含み膨張剤や糖類などと合わせたアメリカンドッグの衣状生地も含む。また、いわゆる衣付けのためフライ種と衣のつなぎに用いられるバッターも含まれる。
【0013】
(米原料)
本発明における米原料とは、玄米、精米等を粉砕した米粉である。米はうるち米あるいはもち米のいずれも使用することができる。これらの米原料は1種以上を併用して使用することができる。米原料の粉砕方法としては、ロールミル、ピンミル、気流粉砕機などが挙げられるが、湿式と乾式のどちらでも使用することが出来る。米原料の粒度も特に限定されるものではない。市販の米粉を使用しても何ら問題はない。
バッター中の米原料の配合量が多くなるに従い、バリバリとした硬い食感が強くなり、歯切れ、口溶けが悪くなる傾向にあり、水溶性大豆多糖類は、特にそのような食感を改良する効果を有する。このような観点から米原料の配合量は、バッター中に高配合されていることが好ましく、米原料の配合量は、バッターの固形分中、好ましくは20重量%以上である。
【0014】
(水溶性大豆多糖類)
本発明の水溶性大豆多糖類とは、大豆から抽出される水溶性の多糖類を指す。水溶性大豆多糖類の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、豆腐や分離大豆蛋白質の製造時の副産物であるオカラや脱脂大豆などの原料に水を加えた後、pHとして3〜7、好ましくは蛋白質の等電点付近のpHである4〜6で、温度として好ましくは100℃を超える温度で抽出後、例えば遠心分離機により固液分離して不溶性画分を除去することにより得ることができる。水溶性大豆多糖類の原料として、分離大豆蛋白を製造する工程で得られるオカラが好ましい。
このようにして得られた水溶性大豆多糖類は、粉体あるいは水溶液の形態で使用することができ、抽出ろ液や抽出ろ液を精製して得られたろ液をそのまま米原料配合バッターに添加して使用しても良いし、抽出ろ液や精製した抽出ろ液を乾燥させたものを使用しても良い。
【0015】
(水溶性大豆多糖類の添加量)
水溶性大豆多糖類の添加量としては、米原料配合バッターの固形分中に、水溶性大豆多糖類の乾燥重量で0.1〜5重量%が好ましく、さらに好ましくは0.3〜4重量%、さらにより好ましくは0.5〜4重量%が適当である。水溶性大豆多糖類の添加量が少なすぎると目的とされる食感の衣が得られない場合があり、また、添加量が多すぎると衣が硬くなり揚げ物の食感として好ましくならない場合がある。
【0016】
(水溶性大豆多糖類の添加方法)
水溶性大豆多糖類の添加方法としては、特に制限はなく米原料配合バッター中に、水溶性大豆多糖類が均一に混ざる添加方法であればどのような方法を選択しても差し支えはない。例えば、他の乾燥原料と一緒に粉体混合して添加しても良いし、予め水溶液を調製してから添加しても良い。また、調製後のバッターに後から添加することもできる。
【0017】
(揚げ物類)
本発明により製造される揚げ物類とは、肉や魚、野菜などの具材に、本発明の水溶性大豆多糖類を添加した米原料配合バッターを付着させて高温の油でフライしてできる食品のことをいう。揚げ物類として、例えば、コロッケ、トンカツ、エビフライ、フリッター、唐揚げ、チキンナゲット、アメリカンドック、天ぷら、かき揚げ、揚げ玉などが挙げられる。
米原料配合バッターを用いて製造された揚げ物類は、例えばバリバリとして硬い食感であり、歯切れ、口溶けが悪かったが、本発明の水溶性大豆多糖類を添加した米原料配合バッターを用いることにより、バッター中に米原料が高配合されていても、食感がソフトで、歯切れが良く、口溶けが良好となる。また、フライ後保存する場合においても、そのソフトさ、歯切れや口溶けの良さが低下するのを抑制することができる。また、経時的な老化も抑制する効果も有する。
【0018】
以下に実施例を記載する。ただし、本発明の技術がこれらに限定されるものではない。なお、例中の部は重量基準を意味する。
【0019】
(比較例1〜7)
米原料として、米粉をバッター中に配合した場合に、その配合量を変化させたときの食感に与える影響について確認した。
表1の配合に基づき、予め粉体混合しておいた乾燥原料に冷水を加えてジューサーミキサー(BM-FS08型、象印マホービン(株)製)で30秒間攪拌混合して米粉を配合したバッターを調製した。
次に、各配合で調製したバッターを菜種油で175℃で2分間油調することにより、揚げ玉を作成した。揚げ玉は油調した後、室温条件下で1時間静置して冷ました後に官能評価し、バリバリとした硬い食感の有無について確認した。
【0020】
(表1)バッターの配合(部)とバッターを用いて調製した揚げ玉の官能評価

(*1)揚げ玉の官能評価: ○:バリバリとした硬い食感はなく良好 ×:バリバリとした硬い食感
【0021】
表1の官能評価で示されるように、バッターの固形分中の米粉の配合量が15重量%程度までであれば、米粉配合によるバリバリとした食感にはならなかった。しかしながら、米粉の配合量がバッターの固形分中20重量%以上になると、米粉によるバリバリとした硬さが目立つようになり、歯切れや口溶けが悪くなる等揚げ物の食感としてはあまり相応しいものではなかった。比較例5〜7の比較では、比較例7の方がバリバリとした硬さが強く、米粉の配合量が多いとより好ましくない食感となった。
【0022】
(比較例8、実施例1〜5)
表2の配合に基づき、水溶性大豆多糖類(商品名:ソヤファイブ−S、不二製油(株)製)を添加したバッターについて、比較例1〜7と同様の方法で調製した。次に、各配合で調製したバッターを、比較例1〜7と同様の方法で揚げ玉を調製し、官能評価した。
【0023】
(表2)バッターの配合2(部)

【0024】
官能評価は7名のパネラーでブラインドによる試験で行った。比較例8を基準の0点とし、硬さ、歯切れ、口溶けなどの食感から総合的に評価して、比較例8よりも非常に良いものを3点、また非常に悪いものを−3点として点数付けをし、各パネラーの平均点により評価した。官能評価の評価基準を表3に示した。
【0025】
(表3)官能評価の評価基準

【0026】
官能評価した結果を表4に示した。米粉がバッターの固形分中40重量%配合された比較例8の揚げ玉の食感は非常にバリバリと硬く、また歯の上にいつまでも残る感じがあり口溶けもあまり良くなかった。しかしながら、水溶性大豆多糖類を添加した実施例1〜5においては、比較例8に比べると特に噛み終わりの部分においてソフトで歯切れが良く、口溶け感も良く感じられ、揚げ玉の食感として良好であった。
水溶性大豆多糖類の添加量としては、0.1重量%から本発明の効果は感じられたが、0.5重量%のものがさらに良く、1〜3重量%で最も良い結果であった。また、5重量%添加のものでは、逆に硬さが強く出てしまい、1〜3重量%添加のものと比べると食感的には劣る傾向であった。
従って、米粉が高配合されたバッターを用いた系において、水溶性大豆多糖類を添加することにより、バリバリとした硬い食感にはならず、ソフトで歯切れが良く、口溶けの良い揚げ玉が得られることが確認された。
【0027】
(表4)揚げ玉の官能評価結果2

【0028】
(比較例9、実施例6〜7)
表5に示す配合に基づき、水溶性大豆多糖類(商品名:ソヤファイブ−S、不二製油(株)製)を添加したバッターについて、比較例1〜7と同様の方法で調製した。
ポテトコロッケは、約40gの中種に各配合で調製したバッター液を約12g付着させ、その上に生パン粉(6メッシュパス)を約5g付けて、菜種油で175℃で4分30秒間油調することにより調製した。ポテトコロッケを油調後すぐのものと、開放系で室温で5時間放置したものをそれぞれ官能評価した。
【0029】
(表5)コロッケバッターの配合(部)

【0030】
(ポテトコロッケの官能評価)
ポテトコロッケの官能評価は、8名のパネラーで実施した。表6に示した5段階の基準で、各パネラーが点数付けをし、その平均点により評価した。
【0031】
(表6)ポテトコロッケの官能評価基準

【0032】
官能評価した結果を表7に示した。揚げ直後は、実施例6、7、比較例9のいずれのポテトコロッケも食感として良好であり、それほど大きな差はみられなかった。しかしながら、5時間後においては比較例9の衣の食感は、歯切れが悪く口溶けが悪いものであり、さらに硬さも感じられた。
一方、水溶性大豆多糖類を添加した実施例6および実施例7においては、5時間後においてもソフトで歯切れの良い食感が維持される傾向にあり、比較例9に比べてソフトさ、歯切れ、口溶けの良さが低下するのを抑制する効果が高いことが確認された。また、実施例6、7では食感の経時的な硬化を抑える効果も有していた。
【0033】
(表7)ポテトコロッケの官能評価結果


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性大豆多糖類を含有することを特徴とする米原料配合バッター。
【請求項2】
米原料の配合割合がバッターの固形分中20重量%以上である、請求項1記載のバッター。
【請求項3】
水溶性大豆多糖類の含有量がバッターの固形分中0.1〜5重量%であることを特徴とする請求項1または2記載のバッター。
【請求項4】
請求項1乃至3記載のバッターを用いて調製した揚げ物類。

【公開番号】特開2013−85478(P2013−85478A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225510(P2011−225510)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】