説明

米粉の製造方法とその用途

原料米が玄米、精白米のいずれであっても同一の工程を用いて米粉に加工することができ、且つ、安価で大量生産が可能な米粉の製造方法を提供することを第一の課題とし、この方法を用いて製造した米粉とその製パン、製麺用途を提供することを第二の課題とする。本発明は、原料米を水浸漬した後、圧扁し、次いで、トレハロース又はマルチトールを浸透させ、部分乾燥した後、粉砕することを特徴とする米粉の製造方法を提供し、この方法で得られる米粉とその製パン、製麺用途を提供することで上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、新規な米粉の製造方法及びこの製造方法によって得られる米粉とその製パン、製麺用途に関するものである。
【背景技術】
近年、米が健康食品であるとの認識の高まりにより、米粉の発酵パン、麺類への応用が注目され、玄米又は精白米を原料とし、小麦粉の代替として製パン、製麺に適した玄米粉又は精白米粉を製造する方法に関する提案が数多くなされている。
玄米粉は、従来、玄米を精白せずに焙煎した後、製粉して生産されている。玄米粉の製造方法としては、例えば、特開昭63−22155号公報に開示されているように、玄米に熱と圧力を加え爆発的に膨張加工したものを乾燥し、粉砕する方法、また、特開2002−45130号公報に開示されているように、玄米を湿熱処理した後、乾燥し、粉砕する方法などが提案されている。
一方、精白米粉は、まず、玄米を精米機にかけ、糠分を削り落として精白し、次いで、精白した米を水浸漬し、乾燥した後、ロール式、衝撃式、胴搗式、水挽式などの製粉方式で粉末化して生産されている。ロール式製粉法で生産される上新粉や、胴搗式製粉法で生産される上用粉などがよく知られている。近年提案されている精白米粉の製造方法に関しては、例えば、特開平4−287652号公報に記載されているように、米をペクチナーゼを含む溶液で浸漬処理した後、脱水、製粉し、水分15質量%(以下,本明細書では質量%を単に%と略称する。)程度に乾燥して微細米粉を調製し、更に、この微細米粉を150℃程度の温度で仮焼する方法、特開平5−68468号公報に記載されているように、原料とする米をヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、ペクチンエステラーゼなどの酵素を含む溶液で浸漬処理した後、乾燥、製粉する方法、更には、特開2000−175636号公報に記載されているように、各種の有機酸塩又は有機酸塩とともにペクチナーゼを含有する溶液で浸漬処理した後、脱水、乾燥、製粉する方法などが提案されている。
上記したように、原料米として玄米を用いた場合と、精白米を用いた場合の、米粉(本明細書を通じて、玄米粉及び精白米粉を総称して、単に「米粉」と呼ぶこともある。)の加工方法はそれぞれ異なっており、この理由としては、玄米と精白米とは米粒の性状が異なることが挙げられる。これら製造方法が異なることから、玄米粉と精白米粉の両方を製造しようとする場合、それぞれの製造方法に合った装置及び工程が必要となり、生産コストも高価とならざるを得ないという欠点があった。玄米と精白米を同一の製造方法で米粉に加工する提案もなされており、例えば、特許第3075556号公報には、玄米を含む生米を、アミラーゼを添加した水中に浸漬した後、凍結し、乾燥して粉末化する方法が開示されている。しかしながら、この方法は米を凍結する必要があり、やはり生産コストが高価にならざるを得ないという欠点があった。
本発明は、上記従来の米粉の製造方法が有する種々の欠点を解決するために為されたもので、原料米が玄米、精白米のいずれであっても同一の工程を用いて米粉に加工することができ、且つ、安価で大量生産が可能な米粉の製造方法を提供することを第一の課題とし、この方法を用いて製造した米粉とその製パン、製麺用途を提供することを第二の課題とするものである。
【発明の開示】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、米粉の製造方法を改善することを目的として、糖質の利用に着目し、鋭意研究を続けてきた。
その結果、原料米である生米を、従来と同様に水浸漬処理した後、機械的に圧扁し、玄米の場合には玄米粒に亀裂を生じさせ、また、精白米の場合には粗砕して、次いで、α,α−トレハロース(以後、本明細書ではα,α−トレハロースを単にトレハロースと略称する。)又はマルチトールを浸透させ、部分乾燥した後に粉砕することによって、意外にも、玄米と精白米のいずれであっても同一の工程を用いて米粉を製造し得ることを見出した。また、この方法によって得られた米粉は米粉加工品への加工適性、とりわけ製パン性において優れており、更には、トレハロース又はマルチトールを含んでいることから米特有の糠臭の発生も抑制されていることを見出して本発明を完成した。
即ち、本発明は、原料米を水浸漬処理した後、圧扁し、次いで、トレハロース又はマルチトールを浸透させ、部分乾燥した後に粉砕する米粉の製造方法、並びに、当該製造方法によって得られる米粉を提供することによって上記の課題を解決するものである。本発明の米粉の製造方法によれば、米を凍結する必要もなく、通常の製粉装置をそのまま利用して原料米の区別なく同一の工程を用いて、品質に優れ、米粉加工品への加工適性に優れ、具体例としては、製パン性、製麺性に優れた米粉を、安価かつ大量に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の原料米としての生米は、粳米、餅米などその種類を問わず使用でき、また、精選玄米はもとより、くず米、古米、ミニマムアクセス米等の玄米、及びそれらを精白して得られる精白米が有利に利用できる。更に、精白米の場合、標準精白米はもとより、必要に応じて、例えば、3分搗き、5分搗き、7分搗きなどの精白度の精白米、胚芽米などを適宜選択すれば良い。加えて、発芽米も有利に利用できる。
生米は、まず、通常、1乃至24時間、好ましくは5乃至16時間水に浸漬する。水としては清水を用いるのが好ましいものの、必要に応じて、調味料、着色料、強化剤、乳化剤などの品質改良剤を添加した水であってもよい。水温は特に厳密に制御する必要はなく、通常、室温で充分である。水浸漬することにより米粒に水を充分浸透させ、浸漬後の米粒の水分として、通常、28%以上、好ましくは30乃至33%に調整するのが望ましい。通常、米粉の製造工程においては、生米に付着しているゴミや異物を取り除くために生米の水洗が行われるものの、本発明の米粉の製造方法において、水洗を行う時期は水浸漬処理の前でも後でもよく、適宜選択できる。なお、本明細書でいう米の水分は、厚生省通知衛新13号(平成11年4月26日付)「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」に記載の常圧加熱乾燥法に従い、米を粉末化して、135℃、2時間乾燥し、その重量変化を測定することにより求められる。
水浸漬処理及び水洗した米は機械的に圧扁する。圧扁は、原料生米が玄米の場合は玄米粒に少なくとも亀裂が生じる程度に行えば良く、場合によっては一部又は全部が粗砕されていても良い。また、原料生米が精白米の場合は圧扁によって米粒が粗く砕ける程度に行うのが良い。原料米が玄米の場合にはこの操作は必須であり、圧扁処理により玄米粒に亀裂を生じさせないと、表皮、種皮、果皮などからなる外層部分が硬い玄米では、後工程で行うトレハロース又はマルチトールの浸透処理が良好に行えない。一方、原料米が精白米の場合にはトレハロース又はマルチトールの浸透処理に時間をかければ、圧扁処理を行う必要は特にないものの、トレハロース又はマルチトール浸透の効率を考慮すると圧扁処理を行い、粗砕して表面積を大きくするのが望ましい。米粒の圧扁に用いる装置としては、目的の圧扁が行えるものであればよく、一般の、ロール式製粉機やロール式製麺機などを、特に改良など施すことなく有利に利用できる。圧扁時のロールのスリット幅は、玄米の場合は1乃至2mmに、また、精白米の場合は2乃至3mmに調節するのが好ましい。上記操作によると、玄米粒は米粒に亀裂を生じる程度にとどまり、一方、精白米は粗砕される。
次いで、上記圧扁操作により米粒に亀裂が生じた玄米、又は粗砕された精白米にトレハロース又はマルチトールを浸透させる。具体的な方法としては、水浸漬する前の生米重量に対して無水物換算で3乃至20%、好ましくは8乃至15%のトレハロース又はマルチトールを、圧扁処理した玄米、精白米などに振りかけ、均一に混合する。トレハロース又はマルチトールは粉末状であっても溶液状であってもよい。粉末状のトレハロース又はマルチトールを振りかけた場合、米粒には水分が含まれていることから、この操作により米粒表面のトレハロース又はマルチトールは一旦溶解し、また、溶液状のトレハロース又はマルチトールを噴霧した場合はその溶液のままで、玄米の場合は、圧扁処理により生じた玄米粒の亀裂部分から、また、精白米の場合は粗砕された米粒の表面から浸透する。また、トレハロース又はマルチトールが米粒に浸透するのに要する時間は、浸透時に加熱するか否かによって異なるものの、通常、30乃至60分で充分である。用いるトレハロース又はマルチトールの由来は問わない。例えば、特開平7−170977号公報、特開平7−213283号公報等に記載されている澱粉から酵素糖化法を用いて得られる含水結晶トレハロースや、特許出願公告昭63−2439号公報等に記載されているマルトースを還元することにより得られる無水結晶マルチトールなどが有利に利用できる。市販のトレハロースやマルチトールを使用することもできる。例えば、株式会社林原商事が販売している、高純度含水結晶トレハロース((株)林原商事販売、登録商標『トレハ』、トレハロース含量98.0%以上)や、粉末還元麦芽糖(マルチトール)水飴((株)林原商事販売、登録商標『粉末マビット』、マルチトール含量93.5%以上)を使用することも有利に実施できる。
このトレハロース又はマルチトールの浸透処理をほどこして得られる米粉は、後述するように、製パンに用いると、ふっくらと膨らむ発酵パンが得られ、一方、浸透処理を行なわず調製した米粉では膨らみの悪い発酵パンが得られる。このことは、粉砕時に起こる米粉澱粉の損傷が、トレハロース又はマルチトールを米粒に浸透させることにより、抑制されているものと推定される。
また、本出願人は、先に特開2001−123194号公報において、玄米を精白する際や無洗米製造時に、玄米にトレハロース及び/又はマルチトールを含有させると、糠や胚芽に含まれる脂肪酸類からの揮発性アルデヒドの生成を抑制し、また、脂肪酸自体の分解を抑制するため、いわゆる「米糠臭」の発生を強く抑えることができ、高品質の精白米や無洗米を製造できることを開示している。本発明の米粉の製造方法においてトレハロース又はマルチトールを米に浸透させることは、得られる米粉製品にトレハロース又はマルチトールを含ませることになり、米粉製品に含まれる糠及び/又は胚芽成分に由来する「米糠臭」を抑える点においても好適である。
トレハロース又はマルチトールを浸透させた米は粉砕する前に部分乾燥させる。本発明でいう部分乾燥とは、トレハロース又はマルチトールを浸透させた米の水分が約30%であるところ、14乃至25%程度になるまで乾燥させることを意味する。米の水分が25%より高いと、後工程の粉砕時に付着性の米粉が多くなり、粉砕機の運転に支障をきたすことになる。また、米の水分が14%より低いと、粉砕時に問題はないものの、粉砕中に水分が蒸発して水分8%未満の米粉となり、後述する製パン性試験において膨らみが悪く、加工適性が劣る米粉となる。部分乾燥は米にトレハロース又はマルチトールを浸透させた後で行なうことも、また、浸透処理と並行して行うことも適宜選択できる。乾燥させる温度としては、米の品温で60℃未満が望ましい。
部分乾燥して得られる米は、ロール式、衝撃式、胴搗式など一般の粉砕方式によって容易に粉砕することができる。使用する粉砕機は特に限定されないものの、後述する加工適性(製パン適性)を考慮すると、平均粒径が30乃至80μmであり、粒度分布ができるだけシャープな米粉が得られるものが望ましい。また、好ましくは篩にかけて上記平均粒径の米粉を回収するのが高品質の米粉を得る上で望ましい。更に、最終米粉製品の水分は通常、8乃至16%、好ましくは10乃至14%になるよう調整するのが望ましい。平均粒径が小さい米粉や水分が8%未満になるまで乾燥させた米粉は、加工適性、とりわけ製パン性が劣ることになる。
本発明により製造される米粉は、原料米が玄米の場合、アミノ酸、ビタミン、ミネラル等の栄養成分が豊富な、且つ、糠臭の抑制された高品質な玄米粉である。また、原料米が精白米の場合、上新粉や上用粉のように純白な、糠臭の抑制された高品質な精白米粉である。いずれの米粉も加工適性に優れた米粉であり、製パン用のプレミックス粉の原材料として、また、発酵パン、麺類の原材料としても有利に利用できる。
以下に、実験により本発明を具体的に説明する。
実験1
<米粉の製造法の検討と得られる米粉の評価>
本発明の米粉の製造法において、圧扁処理と糖質浸透処理の有無、及び米粉製品の水分が米粉の品質に与える影響を調べる目的で、後記する実験1−1乃至1−4においては、下記の圧扁処理工程及び糖質浸透処理工程の有無と、米粉の水分が異なる5種類の製造法により米粉を調製し、米粉の評価を行うとともに、得られた米粉の品質を更に評価するために、下記の製パン性試験法により製パン性を調べた。
[米粉製造法]
国産米(あけぼの)の玄米又は精白米40kgを、80リットルの水に浸し16時間浸漬して吸水させた後、水洗してゴミ、異物を除去した。水浸漬処理した米は5等分し、表1に示した製造法別に5種類の米粉を製造した。

なお、圧扁処理は、原料米が玄米の場合にはスリット幅1mmに、また原料米が精白米の場合にはスリット幅2mmに調整したロール式製麺機((株)スズキ麺工製、スズキ麺機)を用いて行い、糖質浸透処理は、原料米重量に対して無水物換算で10%量のトレハロース又はマルチトールを振りかけ、ゆっくり攪拌を加えつつ室温条件下で50分間保持することにより行った。なお、トレハロースとしては高純度含水結晶トレハロース((株)林原商事販売、登録商標『トレハ』、トレハロース含量98.0%以上)を、また、マルチトールとしては粉末還元麦芽糖(マルチトール)水飴((株)林原商事販売、登録商標『粉末マビット』、マルチトール含量93.5%以上)を用いた。部分乾燥は、糖質浸透処理後、米粒の水分が約24%になるように60℃で4時間かけて行い、部分乾燥した米は、出口温度60℃に調整した乾式微粉砕機(日機装株式会社販売、トルネードミル)に投入して粉砕し、シフターで篩い分けして平均粒径30乃至60μmに微粉化した。
微粉化した米粉の評価項目として、平均粒径、水分及び米糠臭を調べた。平均粒径は遠心沈降式粒度分布測定装置((株)島津製作所製、SA−CP3L型)を用いて測定した。水分は、前記の常圧加熱乾燥法により求めた。米糠臭は、調製した米粉をそれぞれポリエチレン袋に入れ、密封状態で室温にて10日間保存した後、パネラー20名でにおいを嗅ぐことにより評価した。評価結果は、米糠臭が明瞭に認められるものを×、わずかに認められるものを△、ほとんど認められないものを○とした。
[製パン性試験法]
米粉100質量部、グルテン(千葉製粉(株)製、商品名『グルリッチA』)15質量部、トレハロース((株)林原商事販売、登録商標『トレハ』、トレハロース含量98.0%以上)2質量部、砂糖3質量部、食塩2質量部、無塩バター10質量部、海洋酵母(三共フーズ(株)製)2質量部、プルラン((株)林原商事販売、商品名『プルランPF−20』)2質量部、水75質量部を、ミキサーを用い、25℃で低速5分、中速6分で混捏し、一時停止した後、更に4分間混捏し、パン生地を作製した。なお、製造法1及び2によって製造された米粉に関しては、糖質浸透処理を行なっていないため、米粉自体にトレハロース又はマルチトールが含まれていないので、パン生地中の糖質の量をそろえる目的で、上記の原材料の配合において米粉100質量部に相当する部分を米粉90質量部、トレハロース又はマルチトール10質量部とした。パン生地を調製後、それぞれをフロアータイムとして50分発酵させた。生地を分割して丸めを行い、20分間のベンチタイムをとった後、型下3.5cmの容器に入れて山食パンに成形を行い、40℃、湿度80%のホイロにて50分間の発酵を行った。発酵終了後、上火230℃、下火200℃のオーブンにて45分間焼成し、米粉山食パンを調製した。米粉の製パン性の評価は、得られたパンのかさ高さ(膨らみ)を測定することと、パネラー20名で食味を評価することにより行った。評価結果は、食味が悪いものを×、食味が良いものを○として表中に示した。更に、米粉の総合評価として、米粉の米糠臭と製パン性(かさ高さ、食味)のいずれもが不良のものを×、いずれか一方が不良のものを△、いずれもが良いものを○とした。
実験1−1
<玄米を原料米とし、トレハロースを用いて製造した米粉>
原料米として国産精選玄米(あけぼの)を用い、前記米粉製造法及び製パン性試験法により玄米粉を製造し、品質評価を行った。結果を表2に示した。なお、玄米粉1、玄米粉2、玄米粉3、玄米粉4及び玄米粉5はそれぞれ表1の製造法1、製造法2、製造法3、製造法4、及び製造法5で製造された玄米粉を表している。

表2に示したように、玄米粉製造時に圧扁処理もトレハロース浸透処理も行わなかった玄米粉1は米糠臭が強く、製パン性評価においても、かさが比較的低く、膨らみの悪いパンが得られる上に食味も悪いことから、品質の劣るものと評価された。圧扁処理を行い、トレハロース浸透処理を行わなかった玄米粉2は、上記玄米粉1と同様に品質の劣るものであった。圧扁処理を行わず、トレハロース浸透処理を行った玄米粉3は、トレハロースを含んでいるため、米糠臭は抑制されていたものの、製パン性においては玄米粉1及び2と同様に劣っていた。その理由として、圧扁処理を行わずトレハロース浸透処理を行っても、玄米は表皮、種皮、果皮などの外層部分が硬いためトレハロースが充分浸透していないことが考えられる。一方、圧扁処理、トレハロース浸透処理とも行って得た玄米粉4及び玄米粉5では、米糠臭が抑制されている上に、製パンして得られる発酵パンの食味も良かった。しかしながら、米粉の水分が12.4%と高い玄米粉5のほうが、水分6.7%の玄米粉4に比べて発酵パンの膨らみが大きく、品質良好であった。
実験1−2
<精白米を原料米とし、トレハロースを用いて製造した米粉>
原料米として国産の精白米(あけぼの)を用いた以外は実験1−1と同様に米粉を製造し、製パン性を含め品質評価を行った。結果を表3に示した。なお、精白米粉1、精白米粉2、精白米粉3、精白米粉4及び精白米粉5はそれぞれ表1の製造法1、製造法2、製造法3、製造法4、及び製造法5で製造された精白米粉を表している。

表3に示したように、精白米粉製造時に圧扁処理もトレハロース浸透処理も行わなかった精白米粉1は米糠臭がわずかに認められ、製パン性評価においても、かさ高さが比較的低く(膨らみが悪く)、食味も不良であった。圧扁処理を行い、トレハロース浸透処理を行わなかった精白米粉2も上記精白米粉1と同様に品質の劣るものであった。圧扁処理を行わず、トレハロース浸透処理を行った精白米粉3は米糠臭がほとんど認められず、製パン性においては食味の良いパンが得られたものの、膨らみは不良であった。これは圧扁処理により米粒を粗砕していないので、トレハロースが充分浸透しなかったためと考えられる。一方、圧扁処理、トレハロース浸透処理とも行って得た精白米粉4及び精白米粉5では、いずれも米糠臭が抑制されている上に、製パンして得られる発酵パンの食味は良かったものの、パンの膨らみにおいては水分が12.8%と高い精白米粉5のほうが、水分が6.3%と低い精白米粉4に比べて良好であった。
実験1−3
<玄米を原料米とし、マルチトールを用いて製造した米粉>
浸透させる糖質としてトレハロースに替えてマルチトールを用いた以外は実験1−1と同様に玄米粉を製造し、製パン性を含め品質評価を行った。結果を表4に示した。なお、玄米粉1、玄米粉2、玄米粉3、玄米粉4及び玄米粉5はそれぞれ表1の製造法1、製造法2、製造法3、製造法4、及び製造法5で製造された玄米粉を表している。

表4に示したように、玄米粉製造時に圧扁処理もマルチトール浸透処理も行わなかった玄米粉1は米糠臭が強く、製パン性評価においても、かさが比較的低く、膨らみの悪いパンが得られる上に食味も悪いことから、品質の劣るものと評価された。圧扁処理を行い、マルチトール浸透処理を行わなかった玄米粉2は、上記玄米粉1と同様に品質の劣るものであった。圧扁処理を行わず、マルチトール浸透処理を行った玄米粉3は、マルチトールを含んでいるため、米糠臭は抑制されていたものの、製パン性においては玄米粉1及び2と同様に劣っていた。その理由として、圧扁処理を行わずマルチトール浸透処理を行っても、玄米は表皮、種皮、果皮などの外層部分が硬いためマルチトールが充分浸透していないことが考えられる。一方、圧扁処理、マルチトール浸透処理とも行って得た玄米粉4及び玄米粉5では、米糠臭が抑制されている上に、製パンして得られる発酵パンの食味も良かった。しかしながら、米粉の水分が13.2%と高い玄米粉5のほうが、水分6.1%の玄米粉4に比べて発酵パンの膨らみが大きく、品質良好であった。
実験1−4
<精白米を原料米とし、マルチトールを用いて製造した米粉>
原料米として国産の精白米(あけぼの)を用い、トレハロースに替えてマルチトールを用いた以外は実験1−1と同様に米粉を製造し、製パン性を含め品質評価を行った。結果を表5に示した。なお、精白米粉1、精白米粉2、精白米粉3、精白米粉4及び精白米粉5はそれぞれ表1の製造法1、製造法2、製造法3、製造法4、及び製造法5で製造された精白米粉を表している。

表5に示したように、精白米粉製造時に圧扁処理もマルチトール浸透処理も行わなかった精白米粉1は米糠臭がわずかに認められ、製パン性評価においても、かさ高さが比較的低く(膨らみが悪く)、食味も不良であった。圧扁処理を行い、マルチトール浸透処理を行わなかった精白米粉2も上記精白米粉1と同様に品質の劣るものであった。圧扁処理を行わず、マルチトール浸透処理を行った精白米粉3は米糠臭がほとんど認められず、製パン性においては食味の良いパンが得られたものの、膨らみは不良であった。これは圧扁処理により米粒を粗砕していないので、マルチトールが充分浸透しなかったためと考えられる。一方、圧扁処理、マルチトール浸透処理とも行って得た精白米粉4及び精白米粉5では、いずれも米糠臭が抑制されている上に、製パンして得られる発酵パンの食味は良かったものの、パンの膨らみにおいては水分が12.8%と高い精白米粉5のほうが、水分が5.9%と低い精白米粉4に比べて良好であった。
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。米粉の製造について実施例Aに、製造した米粉を用いた製パン用プレミックス粉の調製及び製パンについて実施例Bに示した。
【実施例A−1】
<玄米からの米粉の製造>
国産精選玄米(あけぼの)を、2倍量の水に浸し16時間浸漬して吸水させた後、水洗してゴミ、異物を除去した。次いで、この玄米をスリット幅1.5mmに調整したロール式製麺機((株)スズキ麺工製、スズキ麺機)を用いて圧扁し、亀裂を生じた玄米粒を調製した。次いで、原料米重量の10%の高純度含水結晶トレハロース((株)林原商事販売、登録商標『トレハ』、トレハロース含量98.0%以上)を振りかけ、ゆっくり攪拌を加えつつ60分間保持することにより米粒にトレハロースを浸透させた。次いで、玄米粒の水分が約24%になるように60℃で4時間かけて玄米粒を部分乾燥した。次いで、この部分乾燥した玄米を、出口温度60℃に調製した乾式微粉砕機(日機装株式会社販売、トルネードミル)に投入して粉砕し、シフターで篩い分けして平均粒径60μmに微粉化した水分13%の玄米粉を得た。得られた玄米粉は、アミノ酸、ビタミン、ミネラルを豊富に含んでいるのに加えて、トレハロースを含むことから、米糠臭の抑制された高品質の玄米粉であり、製パン、製麺など各種米粉加工品の原料として有利に利用できる。
【実施例A−2】
<精白米からの米粉の製造>
国産の精白米(あけぼの)を、3倍量の水に浸し8時間浸漬して吸水させた後、水洗してゴミ、異物を除去した。次いで、この精白米をスリット幅2.5mmに調整したロール式製粉機((株)井上製作所製、スリーロールミルS型)を用いて圧扁し、米粒を粗粉砕した。次いで、この粗粉砕した米に、濃度30%の高純度含水結晶トレハロース((株)林原商事販売、登録商標『トレハ』、トレハロース含量98.0%以上)水溶液を、原料米重量に対して30%量均一に噴霧し、ゆっくり攪拌を加えつつ45分間保持することにより米粒にトレハロースを浸透させた。次いで、米粒の水分が約18%になるように50℃で10時間かけて米粒を部分乾燥した。次いで、この部分乾燥した米を、ロール式製粉機((株)井上製作所製、スリーロールミルS型)に投入して粉砕し、乾燥して水分10%に調整した後、シフターで篩い分けして平均粒径80μmに微粉化した米粉を得た。得られた米粉は、トレハロースを含むことから、米糠臭の抑制された高品質の米粉であり、製パン、製麺など各種米粉加工品の原料として有利に利用できる。
【実施例A−3】
<玄米からの米粉の製造>
国産精選玄米(ヒノヒカリ)を、3倍量の水に浸し16時間浸漬して吸水させた後、水洗してゴミ、異物を除去した。次いで、この玄米をスリット幅1.5mmに調整したロール式製麺機((株)スズキ麺工製、スズキ麺機)を用いて圧扁し、亀裂を生じた玄米粒を調製した。次いで、この玄米粒に、濃度30%の粉末還元麦芽糖(マルチトール)水飴((株)林原商事販売、登録商標『粉末マビット』、マルチトール含量93.5%以上)水溶液を、原料米重量に対して30%量均一に噴霧し、ゆっくり攪拌を加えつつ45分間保持することにより米粒にマルチトールを浸透させた。次いで、玄米粒の水分が約22%になるように60℃で4時間かけて玄米粒を部分乾燥した。次いで、この部分乾燥した玄米を、ロール式製粉機((株)井上製作所製、スリーロールミルS型)に投入して粉砕し、乾燥して水分13%に調整した後、シフターで篩い分けして平均粒径80μmに微粉化した玄米粉を得た。得られた玄米粉は、アミノ酸、ビタミン、ミネラルを豊富に含んでいるのに加えて、マルチトールを含むことから、米糠臭の抑制された高品質の玄米粉であり、製パン、製麺など各種米粉加工品の原料として有利に利用できる。
【実施例A−4】
<精白米からの米粉の製造>
国産の精白米(朝日)を、2倍量の水に浸し8時間浸漬して吸水させた後、水洗してゴミ、異物を除去した。次いで、この精白米をスリット幅2.5mmに調整したロール式製粉機((株)井上製作所製、スリーロールミルS型)を用いて圧扁し、米粒を粗粉砕した。次いで、この粗く砕いた米に原料米重量の10%の粉末還元麦芽糖(マルチトール)水飴((株)林原商事販売、登録商標『粉末マビット』、マルチトール含量93.5%以上)を振りかけ、ゆっくり攪拌を加えつつ60分間保持することにより米粒にマルチトールを浸透させた。次いで、米粒の水分が約15%になるように50℃で10時間かけて米粒を部分乾燥した。次いで、この部分乾燥した米を、乾式微粉砕機(日機装株式会社販売、トルネードミル)に投入して粉砕し、乾燥して水分12%に調整した後、シフターで篩い分けして平均粒径70μmに微粉化した米粉を得た。得られた米粉は、マルチトールを含むことから、米糠臭の抑制された高品質の米粉であり、製パン、製麺など各種米粉加工品の原料として有利に利用できる。
【実施例B−1】
<米粉パン製造用プレミックス粉>
実施例A−1で得た玄米粉100質量部に、グルテン(千葉製粉(株)製、商品名『グルリッチA』)15質量部、精製マルトース((株)林原商事販売、商品名『サンマルトS』、マルトース含量92.0%以上)5質量部、粉末油脂(ミヨシ油脂株式会社販売、商品名『マジックファット250』)1質量部を加え、ミキサーを用いて混合し、製パン用のプレミックス粉を調製した。
本プレミックス粉は、玄米粉を用いていることから、アミノ酸、ビタミン、ミネラルを豊富に含んでおり、栄養価の高い発酵パンの製造に有利に利用できる。また、玄米粉中にトレハロースを含有していることから、プレミックス粉を長期間保存した場合においても米糠臭の発生を抑制することが期待できる。
【実施例B−2】
<米粉パン製造用プレミックス粉>
実施例A−2で得た米粉100質量部に、グルテン(千葉製粉(株)製、商品名『グルリッチA』)20質量部、高純度含水結晶トレハロース((株)林原商事販売、登録商標『トレハ』、トレハロース含量98.0%以上)2質量部、マルチトール((株)林原商事販売、商品名『粉末マビット』、マルチトール含量93.5%以上)4質量部、プルラン((株)林原商事販売、商品名『プルランPF−20』)3質量部を加え、ミキサーを用いて混合し、製パン用のプレミックス粉を調製した。
本プレミックス粉は、発酵パンの製造に有利に利用できる。また、トレハロース及びマルチトールを含有していることから、プレミックス粉を長期間保存した場合においても米糠臭の発生を抑制することが期待できる。
【実施例B−3】
<玄米粉パン>
実施例A−1で得た玄米粉72質量部、グルテン(千葉製粉(株)製、商品名『グルリッチA』)8質量部、トレハロース((株)林原商事販売、登録商標『トレハ』、トレハロース含量98.0%以上)4質量部、食塩1.6質量部、砂糖2.4質量部、脱脂粉乳2.4質量部、海洋酵母(三共フーズ(株)製)2質量部、プルラン((株)林原商事販売、商品名『プルランPF−20』)1.6質量部、バター4質量部、水64質量部をミキサーを用い、23℃で低速6分、中速3分で混捏し、一時停止した後、更に4分間混捏し、パン生地を作製した。次いで、これをフロアータイムとして50分発酵させた。生地を分割して丸めを行い、20分間のベンチタイムをとった後、容器に入れて山食パンに成形を行い、40℃、湿度80%のホイロにて50分間の発酵を行った。発酵終了後、上火230℃、下火200℃のオーブンにて45分間焼成し、玄米粉山食パンを調製した。
本実施例で得られた玄米粉山食パンは、ふっくらと膨らみ、食味も良かった。また、玄米粉を用いていることから、アミノ酸、ビタミン、ミネラルを豊富に含む栄養価の高いパンであった。さらに、トレハロースを含有していることから、米糠臭も抑制された高品質のパンであった。
【実施例B−4】
<米粉パン>
実施例A−2で得た米粉80質量部、グルテン(千葉製粉(株)製、商品名『グルリッチA』)8質量部、砂糖10質量部、食塩1.8質量部、脱脂粉乳2質量部、海洋酵母(三共フーズ(株)製)2質量部、セルロース誘導体(第一工業製薬(株)製、商品名『セロゲン』)2質量部、生クリーム10質量部、無糖練乳5質量部、ショートニング4重量部、水80質量部をミキサーを用い、23℃で低速6分、中速3分で混捏し、一時停止した後、更に4分間混捏し、パン生地を作製した。次いで、これをフロアータイムとして60分発酵させた。生地を分割して丸めを行い、20分間のベンチタイムをとった後、容器に入れて山食パンに成形を行い、40℃、湿度80%のホイロにて50分間の発酵を行った。発酵終了後、上火230℃、下火200℃のオーブンにて45分間焼成し、米粉山食パンを調製した。
本実施例で得られた米粉山食パンは、ふっくらと膨らみ、食味も良かった。また、トレハロースを含有していることから、米糠臭も抑制された高品質のパンであった。
【実施例B−5】
<米粉中華まん>
実施例B−2で得た米粉パン製造用プレミックス粉130質量部、砂糖5質量部、海洋酵母(三共フーズ(株)製)2質量部、脱脂粉乳2質量部、ラード2質量部、蒸し用ベーキングパウダー1.5質量部、水90質量部をミキサーを用い、24℃で低速6分、中速3分で混捏し、一時停止した後、更に中速で3分間混捏し、生地を作製した。次いで、これをフロアータイムとして50分発酵させた。生地は50gに分割して、調理された具材料を入れて成形を行い、室温にて40分間の発酵を行った。発酵終了後、蒸し器を用いて、強火で10分間蒸し上げ、米粉中華まんを調製した。
本実施例で得られた米粉中華まんは、ふっくらと膨らみ、食味も良かった。また、トレハロースを含有していることから、米糠臭も抑制された高品質の中華まんであった。
【実施例B−6】
<米粉麺>
実施例A−4で得た米粉80質量部、グルテン(千葉製粉(株)製、商品名『グルリッチA』)8質量部、食塩4.5質量部に水35質量部を添加して練り、常法により麺生地を調製後、太さ0.9mmの麺線を調製した。この麺線を5分間茹で上げ、冷却し、米粉麺を調製した。
本実施例で得られた米粉麺は食味も良く、また、マルチトールを含有していることから、米糠臭も抑制された高品質の米粉麺であった。
【産業上の利用可能性】
本発明の米粉の製造方法によれば、玄米、精白米、更には発芽米など原料米の由来を問わず、同一の製造方法を用いて容易に、効率良く、且つ、大量安価に米粉を製造することができ、また、米粉加工品への加工適性に優れた高品質の米粉を得ることができる。更には、米粉にトレハロースを含ませることで、本発明の米粉製品中に含まれる糠成分、胚芽に由来する糠臭の発生が抑制された米粉を製造することができる。なお、本発明の方法は米のみならず、他の穀類の粉末化にも応用可能であり、種々の穀物粉の製造にも適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料米を水浸漬した後、圧扁し、次いで、α,α−トレハロース又はマルチトールを浸透させ、部分乾燥した後、粉砕することを特徴とする米粉の製造方法。
【請求項2】
原料米が、玄米、精白米又は発芽米などの生米である請求の範囲第1項に記載の米粉の製造方法。
【請求項3】
圧扁により、玄米粒にあっては亀裂が生じ、又は、精白米にあっては粗砕される請求の範囲第1項又は第2項に記載の米粉の製造方法。
【請求項4】
α,α−トレハロース又はマルチトールの浸透が、原料生米重量に対して3乃至20質量%のα,α−トレハロース又はマルチトールを用いて行われる請求の範囲第1項乃至第3項のいずれかに記載の米粉の製造方法。
【請求項5】
α,α−トレハロース又はマルチトールの浸透が、粉末状又は溶液状のα,α−トレハロース又はマルチトールを用いて行われる請求の範囲第1項乃至第4項のいずれかに記載の米粉の製造方法。
【請求項6】
部分乾燥により、米の水分が14乃至25質量%に調整される請求の範囲第1項乃至第5項のいずれかに記載の米粉の製造方法。
【請求項7】
米粉の平均粒径を、30乃至80μmにする篩いないしは分級工程を含む請求の範囲第1項乃至第6項のいずれかに記載の米粉の製造方法。
【請求項8】
米粉が、製パン用又は製麺用米粉である請求の範囲第1項乃至第7項のいずれかに記載の米粉の製造方法。
【請求項9】
請求の範囲第1項乃至第8項のいずれかに記載の方法によって得られる米粉。
【請求項10】
請求の範囲第9項に記載の米粉を配合してなる製パン用プレミックス粉。
【請求項11】
請求の範囲第9項に記載の米粉を用いて得られる発酵パン又は麺類。

【国際公開番号】WO2004/047561
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【発行日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555032(P2004−555032)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015006
【国際出願日】平成15年11月25日(2003.11.25)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】