米粉パン生地、米粉パンおよび米粉パンの製造方法
【課題】イースト発酵により良好に膨張し、十分な成型性、保形性を有する米粉パン生地によって、高品質な成形米粉パンを製造すること。
【解決手段】米粉70〜90重量部およびアルファ化米粉10〜30重量部によって調整された合計100重量部の混合米粉と、混練後の生地のせん断粘度を5×104〜5×105(Pa・s)とする量の水と、酵母とを含有することを特徴とする米粉パン生地によって、成形米粉パンを製造する。
【解決手段】米粉70〜90重量部およびアルファ化米粉10〜30重量部によって調整された合計100重量部の混合米粉と、混練後の生地のせん断粘度を5×104〜5×105(Pa・s)とする量の水と、酵母とを含有することを特徴とする米粉パン生地によって、成形米粉パンを製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米粉パン生地、米粉パンおよび米粉パンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国における米の消費量は減少している。国民の健康維持、さらには自国の主要農産物の育成と食糧自給の観点から見て、米の生産及び消費の拡大は必要であり、そのために米を原料とする多様な加工食品の開発が強く要請されている。
【0003】
また、近年では小麦にアレルギー反応を示す人(以下、小麦アレルギー保有者)が増加している。小麦アレルギー保有者は小麦が原料であるパンは勿論、小麦粉およびグルテンを含有したパンも食した場合には生命の危機に関わるため食することができない。そのため、小麦アレルギー保有者でも安心して食することができる米粉パンが望まれている。
【0004】
しかし、従来の米粉パンの製造方法は、単に米粉をグルテン分の多い強力小麦粉に加える、またはグルテンそのものを添加して作られるものであった(例えば、特許文献1−4など)。そのため、「米粉パン」と称したパンであっても、小麦アレルギー保有者には食することができないものであった。
【0005】
また、米粉を原料としたパンは、米粉由来の独特の粘りやしっとりとした食感が得られる。この独特の食感は、殆どの人にとって好ましいものであるため、良質な米粉パンの生産は、小麦アレルギー保有者でない人々にとっても喜ばしいことであり、また、米の消費拡大の点からも有用であると考えられる。
【0006】
このような事情から、小麦粉、グルテンを添加せず、米粉を主成分とした米粉パンの製造方法が提案されている(特許文献5)。
【0007】
特許文献5には、小麦粉を原料とするパン生地では、イースト発酵の際のせん断粘度が1×105(Pa・s)程度であるのに対し、米粉を主成分とした生地のせん断粘度を1×102〜4×104(Pa・s)の範囲に調整することで、イースト発酵により良好な発泡倍率を得ることができ、小麦粉、グルテンを添加しなくてもパン状の製品を得られることが記載されている。また、特に当該せん断粘度以上で、従来の小麦粉を用いた生地のせん断粘度と同程度にした米粉パン生地を用いた場合には、イースト発酵により十分な発泡を行うことができず、実質的にパン状の製品が得られないことが記載されている。特許文献5に記載のせん断粘度を有する米粉パン生地は実質的にペースト状であって流動性が高く、米粉パン生地を所望の形状に成形して保持させることが困難であるため、特許文献5には当該生地を用いるイースト発酵やその後の焼成を所定の焼き型内で行うことが記載されている。
【0008】
また、特許文献6には、グルテンを使用しない米粉パンの製造方法として、所定の前処理を行った米粉を主成分として、増粘多糖類やアルファ化米粉を配合した生地を用いることにより、良好なパンが得られることが記載されている。しかしながら、特許文献6の方法においても、良好な膨張を得るためには流動性を有する生地とする必要がある旨が記載されるとともに、型を用いて生地の発酵・膨張と焼成が行われている。
【0009】
一方、従来の小麦粉を用いたパンにおいては、食パンのように焼き型を用いて製造されるパンの他に、例えば、ロールパンにように生地を成形した状態でイースト発酵させて焼成した成形パンが多数存在する。しかし、上記引用文献5、6に記載された方法によれば、米粉を主成分とする生地をイースト発酵により良好に膨張させるためには比較的流動性の高い生地にする必要がある。このため、当該発明によっては米粉を主成分とした成形パンを製造することが困難であり、米粉を広くパンの製造に用いる際の障害となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−68468号公報
【特許文献2】特開平6−7071号公報
【特許文献3】特開平11−32706号公報
【特許文献4】特開平7−8158号公報
【特許文献5】特開2003−189786号公報
【特許文献6】特開2005−245409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、イースト発酵により良好に膨張し、十分な成型性、保形性を有する米粉パン生地によって、高品質な成形米粉パンを製造することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するため、以下のことを特徴としている。
【0013】
第1に、米粉パン生地において、米粉70〜90重量部およびアルファ化米粉10〜30重量部によって調整された合計100重量部の混合米粉と、混練後の生地のせん断粘度を5×104〜5×105(Pa・s)とする量の水と、酵母とを含有する。
【0014】
第2に、米粉パン生地において、更に混合米粉100重量部に対して、油脂が1〜5重量部添加されている。
【0015】
第3に、米粉パン生地において、油脂は、ベニハナ油、ゴマ油、米油、ナタネ油、オリーブ油、バター、マーガリンのうちの1種または2種以上である。
【0016】
第4に、米粉パンであって、前記いずれかの米粉パン生地から製造される。
【0017】
第5に、米粉パンの製造方法であって、所望の形状の米粉パンを製造する方法であって、以下の工程: 米粉およびアルファ化米粉が混合された混合米粉が合計100重量部となるように、米粉を70〜90重量部、アルファ化米粉を10〜30重量部に調整し、この混合米粉に対して、混練後のせん断粘度を5×104〜5×105(Pa・s)とする量の水、酵母を混合して米粉生地を作製する工程;米粉生地を酵母の発酵作用により発泡膨張させる工程;米粉生地を所望の形状に成形する工程;米粉生地を焼成する工程;を含む。
【0018】
第6に、米粉パンの製造方法における米粉生地を作製する工程において、更に、混合米粉100重量部に対して、油脂を1〜5重量部添加する。
【0019】
第7に、米粉パンの製造方法における米粉生地を作製する工程において、添加される油脂は、ベニハナ油、ゴマ油、米油、ナタネ油、オリーブ油、バター、マーガリンのうちの1種または2種以上である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来の問題点を解消し、食感食味がよい成形米粉パンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】通常の米粉に対してアルファ化米粉を各種割合で混合した際の製パン性の変化を示す外観図である。
【図2】図1の断面図である。
【図3】アルファ化米粉を含む混合米粉を用いた製パンにおいて、油脂を添加した際の表面状態の変化を示す図である。
【図4】アルファ化米粉を含む混合米粉を用いた製パンにおいて、油脂としてベニハナ油を添加した際のパンの状態を示す外観図である。
【図5】図4の断面図である。
【図6】アルファ化米粉を含む混合米粉を用いた製パンにおいて、各種の油脂を添加した際のパンの状態を示す外観図である。
【図7】図6の断面図である。
【図8】アルファ化米粉を含まない通常の米粉を用いた製パンにおいて、各種の油脂を添加した際のパンの状態を示す外観図である。
【図9】図8の断面図である。
【図10】表7の条件1の生地の製パン性を示す外観図である。
【図11】表7の条件2の生地の製パン性を示す外観図である。
【図12】表7の条件3の生地の製パン性を示す外観図である。
【図13】表7の条件4の生地の製パン性を示す外観図である。
【図14】表7の条件5、6の生地の製パン性を示す外観図である。
【図15】表7の条件7、8の生地の製パン性を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の米粉パンの製造方法には、アルファ化米粉と、通常の米粉(以下、アルファ化米粉と区別してベータ米粉と呼ぶことがある)を使用することができる。
【0023】
いずれの米粉も原料は、粳米あるいはもち米を粉砕、粉末化した米粉を使用することができる。例えば、粳米としては、ジャポニカ米、インディカ米、ジャバニカ米等の各種のものでよく特に制限されるものではない。また、粉砕する前の生米は、精白米、玄米、屑米、古米など特に制限されるものでなく、粉砕後の粒度は一般に市販される上新粉の程度であれば通常に使用することができる。また、本発明で用いられるアルファ化米粉は、例えば、粳米あるいはもち米に対して炊飯や機械的処理を行うことにより、粳米あるいはもち米に含有されるデンプンを非晶化すると共に、粉砕して粉末状にしたものを使用することができる。その製造方法や原料は特に限定されることはなく、従来公知のものを含め、各種の方法によって製造されたアルファ化米粉を採用することができる。特に一般に市販される粳米を炊飯した後に乾燥して粉砕して得られるアルファ化米粉は、含まれるデンプンのほぼ全量がアルファ化されている点で好ましい。また、米粒を炊飯することなく機械的処理によりアルファ化して粉砕したアルファ化米粉を使用しても同様のパンを製造することができる。なお、特に機械的処理によりアルファ化した米粉については、その製造条件により必ずしも全てのデンプンがアルファ化されておらず、ベータ米粉とアルファ化米粉の混合物となっているものが製造される。このように部分的にアルファ化された米粉を用いる場合には、当該アルファ化がされている割合(アルファ化率)に応じてベータ米粉とアルファ化米粉が混合しているものと扱うことで本発明に係るパン生地の製造に用いることができる。
【0024】
本発明においては、まず、米粉およびアルファ化米粉の合計が100重量部となるように、米粉を70〜90重量部、アルファ化米粉を10〜30重量部に調整する。好ましくは、米粉を75〜85重量部に対してアルファ化米粉を15〜25重量部配合して、合計を100重量部の混合米粉に調整する。アルファ化米粉の割合が上記範囲より小さくなると、例えば、引用文献5に示されるようにせん断粘度を低くすることが良好な膨張を得るために必須となる。一方、アルファ化米粉の割合が上記範囲より大きくなると、イースト発酵の際に均一な膨張が行われず良好なパンを得ることができない。
【0025】
そして、このようにして調整された混合米粉に対し、適量の水、酵母等の通常の製パンに必要なものを、例えば市販のミキサー等を使用して混合攪拌する。この際、添加する水の量は、生地のせん断粘度が5×104〜5×105(Pa・s)となる量とする。具体的な水の配合量は、例えば、米粉およびアルファ化米粉(混合米粉)の合計100重量部に対し、50〜80重量部、好ましくは60〜70重量部の範囲を例示することができるが、アルファ化米粉の添加量や、最終的に得られるパンの性状に応じて上記せん断粘度になる範囲の中で適宜変更することが可能である。これによって、生地の粘度を適切に調整して、型を用いずとも生地を成形することができる。したがって、棒状、ロール状など、所望の形状の成形パンを製造することができる。なお、上記せん断粘度が5×104〜5×105(Pa・s)は、小麦粉を用いて成形パンを製造するために用いられる通常の生地のせん断粘度と同程度であり、生地の成形性、保形性が確保されている。
【0026】
混合する水の量が多く、得られる生地のせん断粘度が5×104(Pa・s)以下になると、流動性が高すぎるために保形性が低く成形後に変形を生じるために成形パンの製造に適していない。また、得られる生地のせん断粘度が5×105(Pa・s)以上になると、アルファ化米粉が混合されていてもイースト発酵の際の膨張率が小さいなど、良好なパンを得ることができない。生地のせん断粘度は、以下に説明する油脂やその他の添加成分によっても変化するため、混合米粉に添加する水の量は、最終的に得られる生地のせん断粘度が5×104〜5×105(Pa・s)となるように適宜決定される。
【0027】
上記のように、原料として所定量のアルファ化米粉を混合することで、従来よりも高いせん断粘度の生地であってもイースト発酵により十分な膨張率が得られる。その理由は必ずしも明らかでないが、混合したアルファ化米粉が米粉の粒子間に存在してイースト発酵の際のデンプン粒の移動度を向上することが原因であると考えられる。つまり、通常の米粉内に存在するデンプン粒間に存在する水が少量の場合には、デンプン粒間の相互作用が生じてイースト発酵の際の微視的な変形が抑制されるために、水分量を増加してデンプン粒子間の距離を大きくする必要があり、この結果として生地のせん断粘度を低く調整する必要があったものと考えられる。これに対して、アルファ化米粉は水を含んでペースト状になりデンプン粒間の相互作用を抑制するため、米粉とアルファ化米粉を混合し、水分量を減らすことで、小麦粉を用いた生地と同程度のせん断粘度とした場合でも、イースト発酵の際にデンプン粒間の移動度が向上して生地全体として膨張が容易になったものと考えられる。このようにアルファ化米粉がグルテンの作用の一部を代替えする機構が発現することにより、デンプンに対して予めグルテンが含有される小麦粉を用いる場合と同程度のせん断粘度の生地とした場合でも、良好な製パン性が発現するものと推察される。
【0028】
なお、本発明においては、米粉とアルファ化米粉の混合米粉を使用するが、求められるパンの性状に応じて適宜グルテンを含まない穀物、野菜等に由来するデンプン質を混合して使用することもできる。また、場合によっては、生地に小麦粉を配合することもできる。また、本発明においては、通常の米粉に対してアルファ化米粉を混合して得られるパン生地の成形性を更に向上し、また焼成後のパンの表面性状を改善するために、所定量の油脂を更に混合することが好ましい。所定量の油脂を混合することで、同等のせん断粘度の生地であっても更に展伸性を向上することができる。また、油脂を添加しない場合には、焼成後のパンの表面にイーストに起因する析出物が発生するが、油脂の添加により当該析出物の発生を防止することができる。展伸性の向上などのために生地に添加される油脂は、焼成後に得られるパンの風味やキメに応じて各種の油脂を選択して用いることができる。例えば、主にオレイン酸とリノール酸からなる植物性油脂であるベニハナ油、ゴマ油、米油、ナタネ油、オリーブ油等や、動物性油脂であるバター、各種マーガリン製品のうちの1種または2種以上を適宜混合して用いることができる。油脂の添加量は、焼成後のパンの風味や性状も考慮して適宜決定されるが、生地の展伸性の向上の観点からは、米粉およびアルファ化米粉の混合米粉に対して1重量部以上が適当であり、より好ましくは3重量部以上とすることができる。一方、過剰に混合された油脂は生地中に微細な粒子として存在するようになり生地の展伸性の向上には寄与しないが、焼成後のパンの風味や表面性状にも影響を与えるため、混合する油脂の量は、展伸性が確保される量の範囲で焼成後のパンに所望の性状を与える量として、混合米粉に対して5重量部以下とすることが好ましい。以上のような観点から、生地に混合される油脂の量を米粉およびアルファ化米粉の混合粉に対して1〜5重量部とすることで、生地の展伸性が向上され、且つ、焼成後のパン表面の析出物の発生を防止することができる。また、5重量部以上の油脂を添加することで、生地の展伸性を確保しつつ、揚げパンのような食感を持つパンを得ることができる。このように、通常の米粉に対してアルファ化米粉と共に所定量の油脂を混合することで生地の展伸性が向上する理由は明らかでないが、アルファ化米粉に起因するデンプン分子と油脂が複合体を形成することで高分子量のデンプン分子となり、生地の混練時にこれらが相互に絡まり合うことで、アルファ化米粉の混合によりデンプン粒子間の移動度が向上する効果を更に高めるためと考えられる。
【0029】
また、小麦粉でパンを製造する際と同様に、製造するパン・菓子の種類等に応じて、糖類、食塩、ガム質、乳成分、卵成分、無機塩類およびビタミン類からなる群より選ばれる1種または2種以上をさらに生地に配合することができる。
【0030】
前記糖類としては、イースト発酵に必要な糖分の他、パンに甘味を付与するためのぶどう糖、果糖、乳糖、砂糖、マルトース、イソマルトースなどの糖、またはソルビト−ル、マルチトール、パラチニット、水添水飴などの糖アルコールが挙げられる。
【0031】
前記食塩としては、主に風味付けを目的として塩化ナトリウムが99%以上の精製塩、または天日塩もしくは粗塩等の粗製塩などを用いることができる。
【0032】
前記ガム質としては、アルギン酸、キサンタンガム、デキストリン、セルロース等が挙げられる。
【0033】
前記乳成分としては粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳等があげられる。
【0034】
前記卵成分としては、卵黄、卵白、全卵その他の卵に由来する成分があげられる。特に乳成分や卵成分の主成分であるタンパク質は、パンの焼成時に変成・硬化して焼成後のパンの形状を保持する骨格となるため、グルテン等のタンパク質を含まない米粉パンの製造においては添加することが好ましい。
【0035】
また、前記無機塩類としては、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、硫酸アンモニウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸三カルシウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、焼成カルシウム、アンモニウムミョウバン等が挙げられる。
【0036】
前記ビタミン類としては、ビタミンC、ビタミンB1 、ビタミンB2 、ビタミンD、ビタミンE、カロチン等が挙げられる。
【0037】
上記各原料を混合して適宜混練して調整した生地は、通常の小麦粉を用いたパンの製造方法と同様に、イースト発酵により膨張され、適宜の温度で焼成することでパンを製造することができる。そして、その工程において適宜のタイミングで成形を行うことで小麦粉やグルテンを含まない成形米粉パンを製造することができる。つまり、例えば、生地を約40℃で、10〜70分程度放置することで、発泡膨張させることができる。温度、時間等の条件は、生地や酵母の量に応じて適宜変更することができる。また、酵母による発酵は、一回でもよく、複数回行うこともできる。
【0038】
そして、生地を所望の形状に成形するが、この工程は、前記の生地の発泡膨張工程の前または後のいずれか、または両方において行ってもよい。前記の通りに生地を配合することで、型を用いず生地を成形することができる。
【0039】
このようにして、成形、発泡膨張した生地を150℃〜250℃、好適には、180℃〜230℃程度で焼成する。焼成温度、時間などは、生地の大きさ、形状等に応じて適宜設計することができる。
【0040】
以上の工程によって、型を用いることなく、適度な気泡が形成されたふっくらとした形状で、食感も良好な成形米粉パンを製造することができる。
【0041】
なお、前記発酵生地または生地を成形する際に、アン、カレー、各種惣菜などの具材料を包み込んでアンパン、カレーパン、惣菜パンなどに仕上げることもできる。また、パンと同様の食感が求められる食品、例えば、ケーキのスポンジなども、本発明の方法によって製造することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>米粉パン生地へのアルファ化米粉の配合の検討
アルファ化させていない通常の米粉に対し、適宜の量のアルファ化米粉を混合したものを主原料として製パンを行った際の、アルファ化米粉の混合割合が生地の膨らみ具合、成型性への影響について検討した。
【0043】
生地の主要として、以下の通りの割合で配合した。([表1])
【0044】
【表1】
【0045】
米粉は、市販の上新粉(日の本穀粉株式会社製)とアルファ化米粉(フライスター社製)を使用した。使用した上新粉は生米を粉砕したものであって、デンプンがアルファ化していない通常の上新粉である。また、アルファ化米粉は生米を炊飯した後に乾燥して粉砕したものであって、米粉に含まれるデンプンのほぼ全てがアルファ化しているものである。以下、便宜的に、純生粉をB粉、アルファ化米粉をA粉とする。
【0046】
上記A粉とB粉を表2に示す割合で混合したものを主原料の米粉として、水等を表1に示す割合でミキサーを使って室温で2分間混合したものをパン生地とした。このように作製した生地についてせん断粘度測定すると共に、一個80グラムの略ドーム状に手で生地を成形し40℃で30分発酵させて生地を膨張させた。その後、180℃で30分間焼成し、焼き上がった米粉パンの断面を観察し、生地の膨らみ具合を評価した。
【0047】
なお、せん断粘度は、TAインストルメント社製の回転タイプのレオメータ(製品名ARES)を用いて、平行平板型(円形の板が2枚あり、この間に試料を入れて、片側(下側)が回転して、片側(上側)で応力を検出する)を用い、実験は室温で、空気雰囲気中で行った。測定は、一定のひずみ速度(0.01 /s)で測定を開始した後、ほぼ粘度が安定した時の値を測定値とすることとし、具体的には測定開始から約1000秒後の粘度を測定値とした。
【0048】
また、製パン性の評価は、イースト発酵により大きなひび割れ等を生じることなく生地全体が均一に膨張することを主な観点として、その他にパンを製造する際の問題の有無について適宜判断を行った結果を加味して総合的に行った。
【0049】
検討の結果を表2に示す。また、焼成して得られたパンの外観図を図1に、断面図を図2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示したように、製造した生地は混合したアルファ化米粉の量に応じてせん断粘度が変化するが、概ね1.2×105〜2.0×105(Pa・s)の範囲のせん断粘度を示し、いずれもドーム状に成形可能であった。また、図1に示したように、米粉の10〜30%をアルファ化米粉としたサンプル2〜4では、イースト発酵や焼成により大きなひび割れ等を生じることなく生地全体が均一に膨張してスポンジ構造を形成しており、製パンが可能なことが示された。また、このサンプル2〜4のパンを試食したところ、引用文献5に記載される低いせん断粘度の生地を用いて製造したパンと同様に、米粉パン独特のもちもち感を有したパンであることが確認された。ただし、図3に示すように、サンプル2〜4ではいずれも焼成後のパンの表面にイーストに起因すると思われる析出物が観察される点で改善すべき課題を有していた。一方、図1に示したように、アルファ化米粉を含まないサンプル1では全体として膨張が小さく、断面観察においても内部に存在する気泡が僅かであると共に、表面には多数の大きく深いひび割れを生じており、製パン性が見られなかった。また、米粉の40〜100%をアルファ化米粉としたサンプル5〜7では、内部に大きな割れや空洞生じた結果、実質的に膨張が起こっておらず、製パン性に問題が見られた。
【0052】
<実施例2>米粉パン生地への油脂添加の検討
実施例1で作成した生地に適宜の量のベニハナ油を添加して、ベニハナ油の添加に伴う成形性、製パン性への影響について検討した。実験は実施例1で作成したアルファ化米粉を20%混合した米粉を用いたサンプル3の生地に対して、表3に示すように1.0〜10重量部(米粉を100重量部とした時のベニハナ油の重量)のベニハナ油をそれぞれ添加した生地を、実施例1と同様に作成、焼成を行ってせん断粘度と製パン性の評価を行った。
【0053】
検討の結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表2に示したように、ベニハナ油の添加を添加して製造した生地はその添加量に応じてせん断粘度が若干ずつ増加し、概ね1.6×105〜2.0×105(Pa・s)の範囲のせん断粘度を示した。また、定量的な測定は困難であるが、ベニハナ油の添加により生地の成形性が大きく変化した。つまり、ミキサーで2分間程度の混練を行った生地において、ベニハナ油を添加していない生地では、3倍程度の長さに引き延ばした段階で生地がちぎれるのに対して、3.0重量部のベニハナ油を添加した生地においては、ちぎれを生じるまでの伸び量がその2〜3倍程度に増加し、ベニハナ油の添加による展伸性の向上が明らかであった。
【0056】
また、3.0〜10.0重量部のベニハナ油を添加した生地においては、そのような展
伸性はほぼ同様である一方、5.0重量部以上のベニハナ油を添加した生地においては混
練の際にミキサーの内側等に油が付着するようになることから、油が生地に溶解せず、生
地中に微細な粒となって存在するようになることが推察された。
【0057】
図4の外観図、図5の断面図に示すように、1.0〜10.0重量部のベニハナ油を添加した生地をイースト発酵させた後に焼成して得られたパンは、いずれも良好な膨張性を示すと共に、ベニハナ油を添加しないものと比較して焼成後のスポンジ構造のキメが細かくなる傾向が見られた。また、5.0〜10.0重量部のベニハナ油を添加した生地を焼成したパンにおいては焼成後のパン表面に油が析出して、焦げ目が付きやすくなると共に、特に10.0重量部のベニハナ油を添加したものでは表面が揚げパンのような様相を呈していた。
【0058】
これに対し、1.0〜5.0重量部のベニハナ油を添加したものでは、焼成後のパンにおいても油を添加した様子が観察されず、もちっとした食感の米粉パンが焼き上がり、通常のパンとして見た場合に非常に好ましい食感が得られた。また、図2に示したとおり、ベニハナ油を添加して焼成したパンでは、表面に析出物等が観察されず、良好な外観を示すことが明らかになった。
【0059】
表4には、アルファ化米粉の割合の異なる生地中へ所定量のベニハナ油を添加した場合の成形性、製パン性を検討した結果を示す。表4に記載の各生地を用いた製パンは、ベニハナ油の添加以外は実施例1と同様に行った。
【0060】
【表4】
【0061】
表4中のベニハナ油の添加なしの生地は、表1中のサンプル1〜7と同一のものである。表4から明らかなように、ベニハナ油の添加による効果は、アルファ化米粉による製パン性の向上が見られる場合にのみ顕著に観察された。特に、アルファ化米粉が添加されていない生地にベニハナ油を添加した場合には、3重量部の添加によってもミキサーの内側等に油が付着して生地にベニハナ油が溶解せずに分離する傾向が見られたことからも、米粉パンの生地にベニハナ油を添加することで得られる効果は、アルファ化米粉の混合との相乗作用であることが明らかになった。 このように、通常の米粉に対して所定量のアルファ化粉とベニハナ油を混合することで生地の展伸性が向上すると共にパンの食感が向上する理由は明らかでないが、アルファ化米粉に起因するデンプン分子と油脂が複合体を形成することで高分子量のデンプン分子となり、生地の混練時にこれらが相互に絡まり合うことで、生地内部のデンプン粒子間の移動度が向上されたためと考えられる。
【0062】
<実施例3>米粉パン生地へ添加する油脂の種類の検討
表5には、20%のアルファ化米粉を混合した生地に各種の油脂を3重量部添加した場合のせん断粘度と製パン性を検討した結果を示す。また、表6には、アルファ化米粉を混合せず通常の米粉のみを用いた生地に、同様に各種の油脂を3重量部添加した場合のせん断粘度と製パン性を検討した結果を示す。また、表5に記載の各生地を焼成して得られたパンの外観と断面の様子を図6、図7に、表6に記載の各生地を焼成して得られたパンの外観と断面の様子を、図8、図9に示す。表5,6に記載の各生地を用いた製パンにおいて、各種の油脂を添加する以外は実施例1と同様に行った。
【0063】
【表5】
【0064】
【表6】
【0065】
表5に示すように、20%のアルファ化米粉を混合した生地に各種の油脂を3重量部添加した場合、添加する油脂の種類によって概ね0.6×105〜1.8×105(Pa・s)の範囲のせん断粘度を示すことが明らかになった。また、表5に示す各生地をミキサーで2分間混合して得た後の展伸性を検討した結果、特にベニハナ油、コメ油、オリーブ油、バターを添加した生地において大きな展伸性が観察されたが、他の油脂についても油脂を添加しない状態と比較して明らかに展伸性が向上することが確認された。
【0066】
また、図6の外観図、図7の断面図に示すように、いずれの油脂を添加した生地をイースト発酵、焼成した場合でも大きな割れや空洞を生じることなく、またパンの表面に析出物が生じることもなく良好な製パン性を示すことが明らかになった。これらの油脂を添加して得られる米粉パンは、油脂を添加しないものと比較して食感が軽やかであり、食品として優れていた。また、上記の内で、特にコメ油、オリーブ油、バター、マーガリンを用いたものは、香りも良好で食品として特に好ましいものであった。
【0067】
これに対し、表6、図8の外観図、図9の断面図に示すように、アルファ化米粉を混合せず通常の米粉からなる生地に各種の油脂を添加した場合(B100)には、それぞれのせん断粘度に相違を生じる一方で、製パン性に大きな変化は観察されず、いずれも製パンに適するとは認められなかった。また、表6のいずれの生地においても、生地に添加した油脂が溶解しない様子が観察された点で、油脂の種類によらずベニハナ油を添加した場合と同様の傾向が観察された。
【0068】
以上のことから、実験を行った油脂については、その種類によらず、アルファ化米粉を混合した生地に添加することで展伸性や製パン性の向上が見られることが明らかになり、所定量のアルファ化米粉と油脂を米粉パンの生地に同時に添加することによって、せん断粘度が高く成形パンの製造が容易な米粉パンの生地を提供可能であることが明らかになった。
【0069】
<実施例4>生地のせん断粘度が製パン性へ与える影響の検討
表1に記載したパン生地の配合よりも水の量を減らすことで、せん断粘度が高い生地を作製した。油脂(オイル)を添加する場合は、ベニバナ油(三和油脂株式会社、食用サフラワー油)を使用した。せん断粘度の測定は、実施例1の測定方法によって行った。
【0070】
具体的には、以下の[表7]に示す条件1〜8とし、生地のせん断粘度および製パン性を確認した。各条件の生地のせん断粘度と製パン性の結果を[表8]に示す。
【0071】
【表7】
【0072】
【表8】
【0073】
混練後の生地のせん断粘度が、5×104〜5×105(Pa・s)範囲内である条件1、2の場合は、図10、図11に示したように、焼成後のパンの断面に気泡が確認され、製パンが可能であった。一方、生地のせん断粘度が5×105(Pa・s)以上である条件3、4は、図12、図13に示したように、焼成後のパンの断面に気泡がなく、製パンは困難であった。生地のせん断粘度が5×105(Pa・s)以上である場合には、油脂の添加の有無に関わらず、製パンが困難であることが確認された。さらに、配合する水の量を70g以下とした条件5〜8では、粘度が高すぎたため、生地のせん断粘度を測定することはできなかった。条件5〜8では、図14(A)(B)および図15(A)(B)に示したように、生地にまとまりがなく、製パンできる状態ではなかった。したがって、生地のせん断粘度を5×104〜5×105(Pa・s)範囲内に調整することで、十分な成型性、保形性を有する米粉パン生地となり、製パンも可能であることが確認された。
【0074】
以上の通り、本発明によれば、通常の米粉に対して所定量のアルファ化米粉を混合することにより、成形パンの製造が可能な程度のせん断粘度に調整した場合でも良好に米粉パンが製造可能となり、小麦粉やグルテンを使用せずに成形が可能な米粉パンを提供可能となった。また、当該所定量のアルファ化米粉を混合した生地に所定量の油脂を添加することで、更に生地の展伸性が向上すると共に焼成後の米粉パンに適度な気泡が形成されたふっくらとした形状の米粉パンを製造することが可能となり、米粉パンの商品性を向上することが可能となった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、米粉パン生地、米粉パンおよび米粉パンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国における米の消費量は減少している。国民の健康維持、さらには自国の主要農産物の育成と食糧自給の観点から見て、米の生産及び消費の拡大は必要であり、そのために米を原料とする多様な加工食品の開発が強く要請されている。
【0003】
また、近年では小麦にアレルギー反応を示す人(以下、小麦アレルギー保有者)が増加している。小麦アレルギー保有者は小麦が原料であるパンは勿論、小麦粉およびグルテンを含有したパンも食した場合には生命の危機に関わるため食することができない。そのため、小麦アレルギー保有者でも安心して食することができる米粉パンが望まれている。
【0004】
しかし、従来の米粉パンの製造方法は、単に米粉をグルテン分の多い強力小麦粉に加える、またはグルテンそのものを添加して作られるものであった(例えば、特許文献1−4など)。そのため、「米粉パン」と称したパンであっても、小麦アレルギー保有者には食することができないものであった。
【0005】
また、米粉を原料としたパンは、米粉由来の独特の粘りやしっとりとした食感が得られる。この独特の食感は、殆どの人にとって好ましいものであるため、良質な米粉パンの生産は、小麦アレルギー保有者でない人々にとっても喜ばしいことであり、また、米の消費拡大の点からも有用であると考えられる。
【0006】
このような事情から、小麦粉、グルテンを添加せず、米粉を主成分とした米粉パンの製造方法が提案されている(特許文献5)。
【0007】
特許文献5には、小麦粉を原料とするパン生地では、イースト発酵の際のせん断粘度が1×105(Pa・s)程度であるのに対し、米粉を主成分とした生地のせん断粘度を1×102〜4×104(Pa・s)の範囲に調整することで、イースト発酵により良好な発泡倍率を得ることができ、小麦粉、グルテンを添加しなくてもパン状の製品を得られることが記載されている。また、特に当該せん断粘度以上で、従来の小麦粉を用いた生地のせん断粘度と同程度にした米粉パン生地を用いた場合には、イースト発酵により十分な発泡を行うことができず、実質的にパン状の製品が得られないことが記載されている。特許文献5に記載のせん断粘度を有する米粉パン生地は実質的にペースト状であって流動性が高く、米粉パン生地を所望の形状に成形して保持させることが困難であるため、特許文献5には当該生地を用いるイースト発酵やその後の焼成を所定の焼き型内で行うことが記載されている。
【0008】
また、特許文献6には、グルテンを使用しない米粉パンの製造方法として、所定の前処理を行った米粉を主成分として、増粘多糖類やアルファ化米粉を配合した生地を用いることにより、良好なパンが得られることが記載されている。しかしながら、特許文献6の方法においても、良好な膨張を得るためには流動性を有する生地とする必要がある旨が記載されるとともに、型を用いて生地の発酵・膨張と焼成が行われている。
【0009】
一方、従来の小麦粉を用いたパンにおいては、食パンのように焼き型を用いて製造されるパンの他に、例えば、ロールパンにように生地を成形した状態でイースト発酵させて焼成した成形パンが多数存在する。しかし、上記引用文献5、6に記載された方法によれば、米粉を主成分とする生地をイースト発酵により良好に膨張させるためには比較的流動性の高い生地にする必要がある。このため、当該発明によっては米粉を主成分とした成形パンを製造することが困難であり、米粉を広くパンの製造に用いる際の障害となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−68468号公報
【特許文献2】特開平6−7071号公報
【特許文献3】特開平11−32706号公報
【特許文献4】特開平7−8158号公報
【特許文献5】特開2003−189786号公報
【特許文献6】特開2005−245409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、イースト発酵により良好に膨張し、十分な成型性、保形性を有する米粉パン生地によって、高品質な成形米粉パンを製造することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するため、以下のことを特徴としている。
【0013】
第1に、米粉パン生地において、米粉70〜90重量部およびアルファ化米粉10〜30重量部によって調整された合計100重量部の混合米粉と、混練後の生地のせん断粘度を5×104〜5×105(Pa・s)とする量の水と、酵母とを含有する。
【0014】
第2に、米粉パン生地において、更に混合米粉100重量部に対して、油脂が1〜5重量部添加されている。
【0015】
第3に、米粉パン生地において、油脂は、ベニハナ油、ゴマ油、米油、ナタネ油、オリーブ油、バター、マーガリンのうちの1種または2種以上である。
【0016】
第4に、米粉パンであって、前記いずれかの米粉パン生地から製造される。
【0017】
第5に、米粉パンの製造方法であって、所望の形状の米粉パンを製造する方法であって、以下の工程: 米粉およびアルファ化米粉が混合された混合米粉が合計100重量部となるように、米粉を70〜90重量部、アルファ化米粉を10〜30重量部に調整し、この混合米粉に対して、混練後のせん断粘度を5×104〜5×105(Pa・s)とする量の水、酵母を混合して米粉生地を作製する工程;米粉生地を酵母の発酵作用により発泡膨張させる工程;米粉生地を所望の形状に成形する工程;米粉生地を焼成する工程;を含む。
【0018】
第6に、米粉パンの製造方法における米粉生地を作製する工程において、更に、混合米粉100重量部に対して、油脂を1〜5重量部添加する。
【0019】
第7に、米粉パンの製造方法における米粉生地を作製する工程において、添加される油脂は、ベニハナ油、ゴマ油、米油、ナタネ油、オリーブ油、バター、マーガリンのうちの1種または2種以上である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来の問題点を解消し、食感食味がよい成形米粉パンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】通常の米粉に対してアルファ化米粉を各種割合で混合した際の製パン性の変化を示す外観図である。
【図2】図1の断面図である。
【図3】アルファ化米粉を含む混合米粉を用いた製パンにおいて、油脂を添加した際の表面状態の変化を示す図である。
【図4】アルファ化米粉を含む混合米粉を用いた製パンにおいて、油脂としてベニハナ油を添加した際のパンの状態を示す外観図である。
【図5】図4の断面図である。
【図6】アルファ化米粉を含む混合米粉を用いた製パンにおいて、各種の油脂を添加した際のパンの状態を示す外観図である。
【図7】図6の断面図である。
【図8】アルファ化米粉を含まない通常の米粉を用いた製パンにおいて、各種の油脂を添加した際のパンの状態を示す外観図である。
【図9】図8の断面図である。
【図10】表7の条件1の生地の製パン性を示す外観図である。
【図11】表7の条件2の生地の製パン性を示す外観図である。
【図12】表7の条件3の生地の製パン性を示す外観図である。
【図13】表7の条件4の生地の製パン性を示す外観図である。
【図14】表7の条件5、6の生地の製パン性を示す外観図である。
【図15】表7の条件7、8の生地の製パン性を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の米粉パンの製造方法には、アルファ化米粉と、通常の米粉(以下、アルファ化米粉と区別してベータ米粉と呼ぶことがある)を使用することができる。
【0023】
いずれの米粉も原料は、粳米あるいはもち米を粉砕、粉末化した米粉を使用することができる。例えば、粳米としては、ジャポニカ米、インディカ米、ジャバニカ米等の各種のものでよく特に制限されるものではない。また、粉砕する前の生米は、精白米、玄米、屑米、古米など特に制限されるものでなく、粉砕後の粒度は一般に市販される上新粉の程度であれば通常に使用することができる。また、本発明で用いられるアルファ化米粉は、例えば、粳米あるいはもち米に対して炊飯や機械的処理を行うことにより、粳米あるいはもち米に含有されるデンプンを非晶化すると共に、粉砕して粉末状にしたものを使用することができる。その製造方法や原料は特に限定されることはなく、従来公知のものを含め、各種の方法によって製造されたアルファ化米粉を採用することができる。特に一般に市販される粳米を炊飯した後に乾燥して粉砕して得られるアルファ化米粉は、含まれるデンプンのほぼ全量がアルファ化されている点で好ましい。また、米粒を炊飯することなく機械的処理によりアルファ化して粉砕したアルファ化米粉を使用しても同様のパンを製造することができる。なお、特に機械的処理によりアルファ化した米粉については、その製造条件により必ずしも全てのデンプンがアルファ化されておらず、ベータ米粉とアルファ化米粉の混合物となっているものが製造される。このように部分的にアルファ化された米粉を用いる場合には、当該アルファ化がされている割合(アルファ化率)に応じてベータ米粉とアルファ化米粉が混合しているものと扱うことで本発明に係るパン生地の製造に用いることができる。
【0024】
本発明においては、まず、米粉およびアルファ化米粉の合計が100重量部となるように、米粉を70〜90重量部、アルファ化米粉を10〜30重量部に調整する。好ましくは、米粉を75〜85重量部に対してアルファ化米粉を15〜25重量部配合して、合計を100重量部の混合米粉に調整する。アルファ化米粉の割合が上記範囲より小さくなると、例えば、引用文献5に示されるようにせん断粘度を低くすることが良好な膨張を得るために必須となる。一方、アルファ化米粉の割合が上記範囲より大きくなると、イースト発酵の際に均一な膨張が行われず良好なパンを得ることができない。
【0025】
そして、このようにして調整された混合米粉に対し、適量の水、酵母等の通常の製パンに必要なものを、例えば市販のミキサー等を使用して混合攪拌する。この際、添加する水の量は、生地のせん断粘度が5×104〜5×105(Pa・s)となる量とする。具体的な水の配合量は、例えば、米粉およびアルファ化米粉(混合米粉)の合計100重量部に対し、50〜80重量部、好ましくは60〜70重量部の範囲を例示することができるが、アルファ化米粉の添加量や、最終的に得られるパンの性状に応じて上記せん断粘度になる範囲の中で適宜変更することが可能である。これによって、生地の粘度を適切に調整して、型を用いずとも生地を成形することができる。したがって、棒状、ロール状など、所望の形状の成形パンを製造することができる。なお、上記せん断粘度が5×104〜5×105(Pa・s)は、小麦粉を用いて成形パンを製造するために用いられる通常の生地のせん断粘度と同程度であり、生地の成形性、保形性が確保されている。
【0026】
混合する水の量が多く、得られる生地のせん断粘度が5×104(Pa・s)以下になると、流動性が高すぎるために保形性が低く成形後に変形を生じるために成形パンの製造に適していない。また、得られる生地のせん断粘度が5×105(Pa・s)以上になると、アルファ化米粉が混合されていてもイースト発酵の際の膨張率が小さいなど、良好なパンを得ることができない。生地のせん断粘度は、以下に説明する油脂やその他の添加成分によっても変化するため、混合米粉に添加する水の量は、最終的に得られる生地のせん断粘度が5×104〜5×105(Pa・s)となるように適宜決定される。
【0027】
上記のように、原料として所定量のアルファ化米粉を混合することで、従来よりも高いせん断粘度の生地であってもイースト発酵により十分な膨張率が得られる。その理由は必ずしも明らかでないが、混合したアルファ化米粉が米粉の粒子間に存在してイースト発酵の際のデンプン粒の移動度を向上することが原因であると考えられる。つまり、通常の米粉内に存在するデンプン粒間に存在する水が少量の場合には、デンプン粒間の相互作用が生じてイースト発酵の際の微視的な変形が抑制されるために、水分量を増加してデンプン粒子間の距離を大きくする必要があり、この結果として生地のせん断粘度を低く調整する必要があったものと考えられる。これに対して、アルファ化米粉は水を含んでペースト状になりデンプン粒間の相互作用を抑制するため、米粉とアルファ化米粉を混合し、水分量を減らすことで、小麦粉を用いた生地と同程度のせん断粘度とした場合でも、イースト発酵の際にデンプン粒間の移動度が向上して生地全体として膨張が容易になったものと考えられる。このようにアルファ化米粉がグルテンの作用の一部を代替えする機構が発現することにより、デンプンに対して予めグルテンが含有される小麦粉を用いる場合と同程度のせん断粘度の生地とした場合でも、良好な製パン性が発現するものと推察される。
【0028】
なお、本発明においては、米粉とアルファ化米粉の混合米粉を使用するが、求められるパンの性状に応じて適宜グルテンを含まない穀物、野菜等に由来するデンプン質を混合して使用することもできる。また、場合によっては、生地に小麦粉を配合することもできる。また、本発明においては、通常の米粉に対してアルファ化米粉を混合して得られるパン生地の成形性を更に向上し、また焼成後のパンの表面性状を改善するために、所定量の油脂を更に混合することが好ましい。所定量の油脂を混合することで、同等のせん断粘度の生地であっても更に展伸性を向上することができる。また、油脂を添加しない場合には、焼成後のパンの表面にイーストに起因する析出物が発生するが、油脂の添加により当該析出物の発生を防止することができる。展伸性の向上などのために生地に添加される油脂は、焼成後に得られるパンの風味やキメに応じて各種の油脂を選択して用いることができる。例えば、主にオレイン酸とリノール酸からなる植物性油脂であるベニハナ油、ゴマ油、米油、ナタネ油、オリーブ油等や、動物性油脂であるバター、各種マーガリン製品のうちの1種または2種以上を適宜混合して用いることができる。油脂の添加量は、焼成後のパンの風味や性状も考慮して適宜決定されるが、生地の展伸性の向上の観点からは、米粉およびアルファ化米粉の混合米粉に対して1重量部以上が適当であり、より好ましくは3重量部以上とすることができる。一方、過剰に混合された油脂は生地中に微細な粒子として存在するようになり生地の展伸性の向上には寄与しないが、焼成後のパンの風味や表面性状にも影響を与えるため、混合する油脂の量は、展伸性が確保される量の範囲で焼成後のパンに所望の性状を与える量として、混合米粉に対して5重量部以下とすることが好ましい。以上のような観点から、生地に混合される油脂の量を米粉およびアルファ化米粉の混合粉に対して1〜5重量部とすることで、生地の展伸性が向上され、且つ、焼成後のパン表面の析出物の発生を防止することができる。また、5重量部以上の油脂を添加することで、生地の展伸性を確保しつつ、揚げパンのような食感を持つパンを得ることができる。このように、通常の米粉に対してアルファ化米粉と共に所定量の油脂を混合することで生地の展伸性が向上する理由は明らかでないが、アルファ化米粉に起因するデンプン分子と油脂が複合体を形成することで高分子量のデンプン分子となり、生地の混練時にこれらが相互に絡まり合うことで、アルファ化米粉の混合によりデンプン粒子間の移動度が向上する効果を更に高めるためと考えられる。
【0029】
また、小麦粉でパンを製造する際と同様に、製造するパン・菓子の種類等に応じて、糖類、食塩、ガム質、乳成分、卵成分、無機塩類およびビタミン類からなる群より選ばれる1種または2種以上をさらに生地に配合することができる。
【0030】
前記糖類としては、イースト発酵に必要な糖分の他、パンに甘味を付与するためのぶどう糖、果糖、乳糖、砂糖、マルトース、イソマルトースなどの糖、またはソルビト−ル、マルチトール、パラチニット、水添水飴などの糖アルコールが挙げられる。
【0031】
前記食塩としては、主に風味付けを目的として塩化ナトリウムが99%以上の精製塩、または天日塩もしくは粗塩等の粗製塩などを用いることができる。
【0032】
前記ガム質としては、アルギン酸、キサンタンガム、デキストリン、セルロース等が挙げられる。
【0033】
前記乳成分としては粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳等があげられる。
【0034】
前記卵成分としては、卵黄、卵白、全卵その他の卵に由来する成分があげられる。特に乳成分や卵成分の主成分であるタンパク質は、パンの焼成時に変成・硬化して焼成後のパンの形状を保持する骨格となるため、グルテン等のタンパク質を含まない米粉パンの製造においては添加することが好ましい。
【0035】
また、前記無機塩類としては、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、硫酸アンモニウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸三カルシウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、焼成カルシウム、アンモニウムミョウバン等が挙げられる。
【0036】
前記ビタミン類としては、ビタミンC、ビタミンB1 、ビタミンB2 、ビタミンD、ビタミンE、カロチン等が挙げられる。
【0037】
上記各原料を混合して適宜混練して調整した生地は、通常の小麦粉を用いたパンの製造方法と同様に、イースト発酵により膨張され、適宜の温度で焼成することでパンを製造することができる。そして、その工程において適宜のタイミングで成形を行うことで小麦粉やグルテンを含まない成形米粉パンを製造することができる。つまり、例えば、生地を約40℃で、10〜70分程度放置することで、発泡膨張させることができる。温度、時間等の条件は、生地や酵母の量に応じて適宜変更することができる。また、酵母による発酵は、一回でもよく、複数回行うこともできる。
【0038】
そして、生地を所望の形状に成形するが、この工程は、前記の生地の発泡膨張工程の前または後のいずれか、または両方において行ってもよい。前記の通りに生地を配合することで、型を用いず生地を成形することができる。
【0039】
このようにして、成形、発泡膨張した生地を150℃〜250℃、好適には、180℃〜230℃程度で焼成する。焼成温度、時間などは、生地の大きさ、形状等に応じて適宜設計することができる。
【0040】
以上の工程によって、型を用いることなく、適度な気泡が形成されたふっくらとした形状で、食感も良好な成形米粉パンを製造することができる。
【0041】
なお、前記発酵生地または生地を成形する際に、アン、カレー、各種惣菜などの具材料を包み込んでアンパン、カレーパン、惣菜パンなどに仕上げることもできる。また、パンと同様の食感が求められる食品、例えば、ケーキのスポンジなども、本発明の方法によって製造することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>米粉パン生地へのアルファ化米粉の配合の検討
アルファ化させていない通常の米粉に対し、適宜の量のアルファ化米粉を混合したものを主原料として製パンを行った際の、アルファ化米粉の混合割合が生地の膨らみ具合、成型性への影響について検討した。
【0043】
生地の主要として、以下の通りの割合で配合した。([表1])
【0044】
【表1】
【0045】
米粉は、市販の上新粉(日の本穀粉株式会社製)とアルファ化米粉(フライスター社製)を使用した。使用した上新粉は生米を粉砕したものであって、デンプンがアルファ化していない通常の上新粉である。また、アルファ化米粉は生米を炊飯した後に乾燥して粉砕したものであって、米粉に含まれるデンプンのほぼ全てがアルファ化しているものである。以下、便宜的に、純生粉をB粉、アルファ化米粉をA粉とする。
【0046】
上記A粉とB粉を表2に示す割合で混合したものを主原料の米粉として、水等を表1に示す割合でミキサーを使って室温で2分間混合したものをパン生地とした。このように作製した生地についてせん断粘度測定すると共に、一個80グラムの略ドーム状に手で生地を成形し40℃で30分発酵させて生地を膨張させた。その後、180℃で30分間焼成し、焼き上がった米粉パンの断面を観察し、生地の膨らみ具合を評価した。
【0047】
なお、せん断粘度は、TAインストルメント社製の回転タイプのレオメータ(製品名ARES)を用いて、平行平板型(円形の板が2枚あり、この間に試料を入れて、片側(下側)が回転して、片側(上側)で応力を検出する)を用い、実験は室温で、空気雰囲気中で行った。測定は、一定のひずみ速度(0.01 /s)で測定を開始した後、ほぼ粘度が安定した時の値を測定値とすることとし、具体的には測定開始から約1000秒後の粘度を測定値とした。
【0048】
また、製パン性の評価は、イースト発酵により大きなひび割れ等を生じることなく生地全体が均一に膨張することを主な観点として、その他にパンを製造する際の問題の有無について適宜判断を行った結果を加味して総合的に行った。
【0049】
検討の結果を表2に示す。また、焼成して得られたパンの外観図を図1に、断面図を図2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示したように、製造した生地は混合したアルファ化米粉の量に応じてせん断粘度が変化するが、概ね1.2×105〜2.0×105(Pa・s)の範囲のせん断粘度を示し、いずれもドーム状に成形可能であった。また、図1に示したように、米粉の10〜30%をアルファ化米粉としたサンプル2〜4では、イースト発酵や焼成により大きなひび割れ等を生じることなく生地全体が均一に膨張してスポンジ構造を形成しており、製パンが可能なことが示された。また、このサンプル2〜4のパンを試食したところ、引用文献5に記載される低いせん断粘度の生地を用いて製造したパンと同様に、米粉パン独特のもちもち感を有したパンであることが確認された。ただし、図3に示すように、サンプル2〜4ではいずれも焼成後のパンの表面にイーストに起因すると思われる析出物が観察される点で改善すべき課題を有していた。一方、図1に示したように、アルファ化米粉を含まないサンプル1では全体として膨張が小さく、断面観察においても内部に存在する気泡が僅かであると共に、表面には多数の大きく深いひび割れを生じており、製パン性が見られなかった。また、米粉の40〜100%をアルファ化米粉としたサンプル5〜7では、内部に大きな割れや空洞生じた結果、実質的に膨張が起こっておらず、製パン性に問題が見られた。
【0052】
<実施例2>米粉パン生地への油脂添加の検討
実施例1で作成した生地に適宜の量のベニハナ油を添加して、ベニハナ油の添加に伴う成形性、製パン性への影響について検討した。実験は実施例1で作成したアルファ化米粉を20%混合した米粉を用いたサンプル3の生地に対して、表3に示すように1.0〜10重量部(米粉を100重量部とした時のベニハナ油の重量)のベニハナ油をそれぞれ添加した生地を、実施例1と同様に作成、焼成を行ってせん断粘度と製パン性の評価を行った。
【0053】
検討の結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表2に示したように、ベニハナ油の添加を添加して製造した生地はその添加量に応じてせん断粘度が若干ずつ増加し、概ね1.6×105〜2.0×105(Pa・s)の範囲のせん断粘度を示した。また、定量的な測定は困難であるが、ベニハナ油の添加により生地の成形性が大きく変化した。つまり、ミキサーで2分間程度の混練を行った生地において、ベニハナ油を添加していない生地では、3倍程度の長さに引き延ばした段階で生地がちぎれるのに対して、3.0重量部のベニハナ油を添加した生地においては、ちぎれを生じるまでの伸び量がその2〜3倍程度に増加し、ベニハナ油の添加による展伸性の向上が明らかであった。
【0056】
また、3.0〜10.0重量部のベニハナ油を添加した生地においては、そのような展
伸性はほぼ同様である一方、5.0重量部以上のベニハナ油を添加した生地においては混
練の際にミキサーの内側等に油が付着するようになることから、油が生地に溶解せず、生
地中に微細な粒となって存在するようになることが推察された。
【0057】
図4の外観図、図5の断面図に示すように、1.0〜10.0重量部のベニハナ油を添加した生地をイースト発酵させた後に焼成して得られたパンは、いずれも良好な膨張性を示すと共に、ベニハナ油を添加しないものと比較して焼成後のスポンジ構造のキメが細かくなる傾向が見られた。また、5.0〜10.0重量部のベニハナ油を添加した生地を焼成したパンにおいては焼成後のパン表面に油が析出して、焦げ目が付きやすくなると共に、特に10.0重量部のベニハナ油を添加したものでは表面が揚げパンのような様相を呈していた。
【0058】
これに対し、1.0〜5.0重量部のベニハナ油を添加したものでは、焼成後のパンにおいても油を添加した様子が観察されず、もちっとした食感の米粉パンが焼き上がり、通常のパンとして見た場合に非常に好ましい食感が得られた。また、図2に示したとおり、ベニハナ油を添加して焼成したパンでは、表面に析出物等が観察されず、良好な外観を示すことが明らかになった。
【0059】
表4には、アルファ化米粉の割合の異なる生地中へ所定量のベニハナ油を添加した場合の成形性、製パン性を検討した結果を示す。表4に記載の各生地を用いた製パンは、ベニハナ油の添加以外は実施例1と同様に行った。
【0060】
【表4】
【0061】
表4中のベニハナ油の添加なしの生地は、表1中のサンプル1〜7と同一のものである。表4から明らかなように、ベニハナ油の添加による効果は、アルファ化米粉による製パン性の向上が見られる場合にのみ顕著に観察された。特に、アルファ化米粉が添加されていない生地にベニハナ油を添加した場合には、3重量部の添加によってもミキサーの内側等に油が付着して生地にベニハナ油が溶解せずに分離する傾向が見られたことからも、米粉パンの生地にベニハナ油を添加することで得られる効果は、アルファ化米粉の混合との相乗作用であることが明らかになった。 このように、通常の米粉に対して所定量のアルファ化粉とベニハナ油を混合することで生地の展伸性が向上すると共にパンの食感が向上する理由は明らかでないが、アルファ化米粉に起因するデンプン分子と油脂が複合体を形成することで高分子量のデンプン分子となり、生地の混練時にこれらが相互に絡まり合うことで、生地内部のデンプン粒子間の移動度が向上されたためと考えられる。
【0062】
<実施例3>米粉パン生地へ添加する油脂の種類の検討
表5には、20%のアルファ化米粉を混合した生地に各種の油脂を3重量部添加した場合のせん断粘度と製パン性を検討した結果を示す。また、表6には、アルファ化米粉を混合せず通常の米粉のみを用いた生地に、同様に各種の油脂を3重量部添加した場合のせん断粘度と製パン性を検討した結果を示す。また、表5に記載の各生地を焼成して得られたパンの外観と断面の様子を図6、図7に、表6に記載の各生地を焼成して得られたパンの外観と断面の様子を、図8、図9に示す。表5,6に記載の各生地を用いた製パンにおいて、各種の油脂を添加する以外は実施例1と同様に行った。
【0063】
【表5】
【0064】
【表6】
【0065】
表5に示すように、20%のアルファ化米粉を混合した生地に各種の油脂を3重量部添加した場合、添加する油脂の種類によって概ね0.6×105〜1.8×105(Pa・s)の範囲のせん断粘度を示すことが明らかになった。また、表5に示す各生地をミキサーで2分間混合して得た後の展伸性を検討した結果、特にベニハナ油、コメ油、オリーブ油、バターを添加した生地において大きな展伸性が観察されたが、他の油脂についても油脂を添加しない状態と比較して明らかに展伸性が向上することが確認された。
【0066】
また、図6の外観図、図7の断面図に示すように、いずれの油脂を添加した生地をイースト発酵、焼成した場合でも大きな割れや空洞を生じることなく、またパンの表面に析出物が生じることもなく良好な製パン性を示すことが明らかになった。これらの油脂を添加して得られる米粉パンは、油脂を添加しないものと比較して食感が軽やかであり、食品として優れていた。また、上記の内で、特にコメ油、オリーブ油、バター、マーガリンを用いたものは、香りも良好で食品として特に好ましいものであった。
【0067】
これに対し、表6、図8の外観図、図9の断面図に示すように、アルファ化米粉を混合せず通常の米粉からなる生地に各種の油脂を添加した場合(B100)には、それぞれのせん断粘度に相違を生じる一方で、製パン性に大きな変化は観察されず、いずれも製パンに適するとは認められなかった。また、表6のいずれの生地においても、生地に添加した油脂が溶解しない様子が観察された点で、油脂の種類によらずベニハナ油を添加した場合と同様の傾向が観察された。
【0068】
以上のことから、実験を行った油脂については、その種類によらず、アルファ化米粉を混合した生地に添加することで展伸性や製パン性の向上が見られることが明らかになり、所定量のアルファ化米粉と油脂を米粉パンの生地に同時に添加することによって、せん断粘度が高く成形パンの製造が容易な米粉パンの生地を提供可能であることが明らかになった。
【0069】
<実施例4>生地のせん断粘度が製パン性へ与える影響の検討
表1に記載したパン生地の配合よりも水の量を減らすことで、せん断粘度が高い生地を作製した。油脂(オイル)を添加する場合は、ベニバナ油(三和油脂株式会社、食用サフラワー油)を使用した。せん断粘度の測定は、実施例1の測定方法によって行った。
【0070】
具体的には、以下の[表7]に示す条件1〜8とし、生地のせん断粘度および製パン性を確認した。各条件の生地のせん断粘度と製パン性の結果を[表8]に示す。
【0071】
【表7】
【0072】
【表8】
【0073】
混練後の生地のせん断粘度が、5×104〜5×105(Pa・s)範囲内である条件1、2の場合は、図10、図11に示したように、焼成後のパンの断面に気泡が確認され、製パンが可能であった。一方、生地のせん断粘度が5×105(Pa・s)以上である条件3、4は、図12、図13に示したように、焼成後のパンの断面に気泡がなく、製パンは困難であった。生地のせん断粘度が5×105(Pa・s)以上である場合には、油脂の添加の有無に関わらず、製パンが困難であることが確認された。さらに、配合する水の量を70g以下とした条件5〜8では、粘度が高すぎたため、生地のせん断粘度を測定することはできなかった。条件5〜8では、図14(A)(B)および図15(A)(B)に示したように、生地にまとまりがなく、製パンできる状態ではなかった。したがって、生地のせん断粘度を5×104〜5×105(Pa・s)範囲内に調整することで、十分な成型性、保形性を有する米粉パン生地となり、製パンも可能であることが確認された。
【0074】
以上の通り、本発明によれば、通常の米粉に対して所定量のアルファ化米粉を混合することにより、成形パンの製造が可能な程度のせん断粘度に調整した場合でも良好に米粉パンが製造可能となり、小麦粉やグルテンを使用せずに成形が可能な米粉パンを提供可能となった。また、当該所定量のアルファ化米粉を混合した生地に所定量の油脂を添加することで、更に生地の展伸性が向上すると共に焼成後の米粉パンに適度な気泡が形成されたふっくらとした形状の米粉パンを製造することが可能となり、米粉パンの商品性を向上することが可能となった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
米粉70〜90重量部およびアルファ化米粉10〜30重量部によって調整された合計100重量部の混合米粉と、混練後の生地のせん断粘度を5×104〜5×105(Pa・s)とする量の水と、酵母とを含有することを特徴とする米粉パン生地。
【請求項2】
更に、混合米粉100重量部に対して、油脂が1〜5重量部添加されていることを特徴とする請求項1に記載の米粉パン生地。
【請求項3】
油脂は、ベニハナ油、ゴマ油、米油、ナタネ油、オリーブ油、バター、マーガリンのうちの1種または2種以上であることを特徴とする請求項2に記載の米粉パン生地。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の米粉パン生地から製造された米粉パン。
【請求項5】
所望の形状の米粉パンを製造する方法であって、以下の工程:
米粉およびアルファ化米粉が混合された混合米粉が合計100重量部となるように、米粉を70〜90重量部、アルファ化米粉を10〜30重量部に調整し、この混合米粉に対して、混練後のせん断粘度を5×104〜5×105(Pa・s)とする量の水、酵母を混合して米粉生地を作製する工程;
米粉生地を酵母の発酵作用により発泡膨張させる工程;
米粉生地を所望の形状に成形する工程;
米粉生地を焼成する工程;
を含むことを特徴とする米粉パンの製造方法。
【請求項6】
米粉生地を作製する工程において、更に、混合米粉100重量部に対して、油脂を1〜5重量部添加することを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
油脂は、ベニハナ油、ゴマ油、米油、ナタネ油、オリーブ油、バター、マーガリンのうちの1種または2種以上であることを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項1】
米粉70〜90重量部およびアルファ化米粉10〜30重量部によって調整された合計100重量部の混合米粉と、混練後の生地のせん断粘度を5×104〜5×105(Pa・s)とする量の水と、酵母とを含有することを特徴とする米粉パン生地。
【請求項2】
更に、混合米粉100重量部に対して、油脂が1〜5重量部添加されていることを特徴とする請求項1に記載の米粉パン生地。
【請求項3】
油脂は、ベニハナ油、ゴマ油、米油、ナタネ油、オリーブ油、バター、マーガリンのうちの1種または2種以上であることを特徴とする請求項2に記載の米粉パン生地。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の米粉パン生地から製造された米粉パン。
【請求項5】
所望の形状の米粉パンを製造する方法であって、以下の工程:
米粉およびアルファ化米粉が混合された混合米粉が合計100重量部となるように、米粉を70〜90重量部、アルファ化米粉を10〜30重量部に調整し、この混合米粉に対して、混練後のせん断粘度を5×104〜5×105(Pa・s)とする量の水、酵母を混合して米粉生地を作製する工程;
米粉生地を酵母の発酵作用により発泡膨張させる工程;
米粉生地を所望の形状に成形する工程;
米粉生地を焼成する工程;
を含むことを特徴とする米粉パンの製造方法。
【請求項6】
米粉生地を作製する工程において、更に、混合米粉100重量部に対して、油脂を1〜5重量部添加することを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
油脂は、ベニハナ油、ゴマ油、米油、ナタネ油、オリーブ油、バター、マーガリンのうちの1種または2種以上であることを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−188852(P2011−188852A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31229(P2011−31229)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(508046362)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(508046362)
【Fターム(参考)】
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