説明

米粉中麺の製造方法

【課題】米粉中麺の老化および変質が防止され、該中麺を長期間保存可能とする米粉中麺の製造方法を提供すること。
【解決手段】米粉100重量部と、塩7〜300重量部と、水との混合物を混捏して、中麺を60〜100℃に練り上げることを特徴とする中麺の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米粉中麺の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米粉中麺の製造方法としては、米粉と水とを混捏して中麺を製造する方法が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、製造された中麺は保存すると急速に品質劣化(または老化)が起こり、中麺の変色や細菌の繁殖、生地物性の低下を引き起こす。このため、長期保存により品質の劣化した米粉中麺を用いてベーカリー製品を製造すると、製パン適性の低下や、製パン吸水の低下等の問題が生じるため、米粉中麺を長期間流通過程に置くことは不可能であった。米粉中麺の品質劣化の主要因は、米粉に含まれる澱粉の構造変化と考えられており、米粉中麺の品質改善方法として、米粉に、グルテン及び難発酵性糖質塩を添加する方法も知られている(特許文献2参照)。
しかしながら、米粉中麺を冷凍保存した後、解凍した米粉中麺を用いてパン生地を作製する場合、解凍した中麺は品質劣化が起こっているため、パン生地に混ざりにくく、パン生地につぶが残るという難点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−235439号公報
【特許文献2】特表2003−063596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、中麺の老化および変質が防止され、該中麺を長期間保存可能とする米粉中麺の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、所定量の塩を添加することにより顕著に老化および変質が防止されることを見出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
[1]米粉100重量部と、塩7〜300重量部と、水との混合物を混捏して、中麺を60〜100℃に練り上げることを特徴とする米粉中麺の製造方法、
[2]混合物を加熱しながら混捏することを特徴とする前記[1]記載の製造方法、
[3]米粉が、上新粉、上用粉、もち粉、白玉粉及び玄米粉からなる群から選択される少なくとも1種以上である前記[1]又は[2]に記載の製造方法、
[4]塩が、塩化ナトリウムである前記[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法、
[5]水が、70〜100℃の熱水である前記[3]又は[4]に記載の製造方法、
[6]混合物が、さらに副材料を含む前記[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法、
[7]副材料が、米粉以外の穀粉、澱粉、糖、糖アルコール、イースト、イーストフード、油脂類、乳製品、卵製品、膨脹剤、乳化剤、酵素類、調味料、保存料、蛋白質、アミノ酸及びフレーバーからなる群から選択される少なくとも1種以上である前記[6]記載の製造方法、
[8]前記[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法により製造された米粉中麺、
[9]前記[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法により製造された米粉中麺、副材料、および、所望により水分を混捏してベーカリー製品用生地を作製する生地作製工程を包含することを特徴とするベーカリー製品の製造方法、及び
[10]副材料が、穀粉、塩、澱粉、糖、糖アルコール、イースト、イーストフード、油脂類、乳製品、卵製品、膨脹剤、乳化剤、酵素類、調味料、保存料、蛋白質、アミノ酸及びフレーバーからなる群から選択される少なくとも1種以上である前記[9]記載の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法により、常温にて長期間保存した場合でも中麺の老化を防止することができるため、このような長期間保存した後、ベーカリー製品を製造しても品質の良好なベーカリー製品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の米粉中麺の製造方法は、米粉100重量部と、塩7〜300重量部と、水との混合物を混捏して、中麺を60〜100℃に練り上げることを特徴とする。
【0009】
本発明に用いる米粉としては、特に限定されないが、うるち米またはもち米等から作られた米粉、米澱粉、及び加工米澱粉であり、例えば、上新粉、上用粉、もち粉、白玉粉、又は玄米粉が例として挙げられる。これらの米粉は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
本発明に用いる塩は、食品添加剤として許容されるものであれば特に制限なく使用することができる。塩としては、酸付加塩、金属塩等が例として挙げられる。前記酸付加塩としては、塩酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等の有機酸塩が例として挙げられ、前記金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩が例として挙げられ、好ましくは塩化ナトリウムである。これらの塩は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。上記米粉100重量部に対して、塩の添加量は、通常7〜300重量部程度、好ましくは10〜120重量部程度である。塩の添加量が少なすぎると、十分な老化防止効果を示さないためである。本発明に用いる水は、熱水であってもよく、常温の水であってもよいが、好ましくは70〜100℃程度の熱水である。本発明に用いる水の添加量は、特に限定されないが、100〜300重量部程度が好ましく、140〜250重量部程度がより好ましい。
【0010】
混合物には、上記した米粉、塩及び水以外に、所望により副材料(以下、中麺作製用副材料ともいう。)を添加してもよい。副材料を添加することで中麺の老化防止効果を増強することができる。副材料としては、米粉以外の穀粉(例えば、小麦粉(例えば、強力粉、薄力粉、準強力粉、中力粉等)、大麦粉、ライ麦粉、そば粉、とうもろこし粉、あわ粉、ひえ粉、はと麦粉又は大豆粉等)、イースト、イーストフード、油脂類(例えば、ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油、粉末油等)、澱粉(例えば、コーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、エンドウ豆澱粉、又はこれらの加工澱粉等)、糖(例えば、トレハロース、グルコース、フルクトース、ラクトース、砂糖、マルトース、イソマルトース等)、糖アルコール(例えば、ソルビト−ル、マルチトール、パラチニット、水添水飴等)、乳製品(例えば、乳類、粉乳類、クリーム類、チーズ類等)、卵製品、膨脹剤(重曹、炭酸アンモニウム、ベーキングパウダー等)、乳化剤(例えば、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等)、酵素類、調味料(例えば、アミノ酸、核酸等)、保存料、蛋白質、アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン酸等)、フレーバー等が例として挙げられる。これらの副材料は、単独で添加してもよく、又は2種以上を混合して添加してもよい。
【0011】
上記の米粉、塩、水と所望により副材料との混合物を混捏して米粉中麺を作製する(以下、この工程を中麺作製工程という。)。作製された米粉中麺は60〜100℃程度に練り上げられていることが好ましい。常温の水を使用する場合、上記の米粉、塩、所望により副材料を常温の水とともに蒸気、直火、オーブン等の任意の方法で加熱しながら混捏することにより、中麺を60〜100℃程度に練り上げることが好ましい。70〜100℃程度の熱水を使用する場合、上記の米粉、塩、所望により副材料を70〜100℃程度の熱水とともに穀粉を混ぜ合わせた後、加熱工程を省略することにより、中麺を60〜100℃程度に練り上げることが好ましい。
【0012】
上記のようにして得られた米粉中麺と、副材料(以下、生地作製用副材料ともいう。)、及び、所望により水分を混捏してベーカリー製品用生地を作製する(以下、この工程を生地作製工程という。)。具体的には、米粉中麺、生地作製用副材料及び、所望により水分を一緒にミキサーに投入して一度に混捏することによりベーカリー製品用生地を作製することができる。
【0013】
ベーカリー製品用生地の作製に用いる副材料(生地作製用副材料)としては、穀粉(例えば、小麦粉(例えば、強力粉、薄力粉、準強力粉、中力粉等)、大麦粉、米粉、ライ麦粉、そば粉、とうもろこし粉、あわ粉、ひえ粉、はと麦粉又は大豆粉)、塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等)、イースト、イーストフード、油脂類(例えば、ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油、粉末油等)、澱粉(例えば、コーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、エンドウ豆澱粉、又はこれらの加工澱粉等)、糖(例えば、トレハロース、グルコース、フルクトース、ラクトース、砂糖、マルトース、イソマルトース等)、糖アルコール(例えば、ソルビト−ル、マルチトール、パラチニット、水添水飴等)、乳製品(例えば、乳類、粉乳類、クリーム類、チーズ類等)、卵製品、膨張剤(例えば、重曹、炭酸アンモニウム、ベーキングパウダー等)、乳化剤(例えば、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等)、酵素類、調味料(例えば、アミノ酸、核酸等)、保存料、蛋白質、アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン酸等)、フレーバー等が好適な例として挙げられる。
【0014】
また、生地作製工程において、混捏時にさらに穀粉を加えるのが好ましい。穀粉の添加量は、中麺作製工程の穀粉の使用量を100重量部として、約50〜10000重量部が好ましく、約100〜2500重量部がさらに好ましい。また、米粉中麺以外のベーカリー製品用生地を構成する原料(水、生地作製用副材料、穀粉等)をあらかじめ混捏して中間生地を作製したのち、米粉中麺と中間生地とを混捏してベーカリー製品用生地を作製してもよい。
【0015】
ベーカリー製品の種類に応じて、作製した生地を用いて常法に従ってベーカリー製品を製造することができる。例えば、ベーカリー製品がパン類の場合は、生地作製工程に続いて、生地発酵工程、加熱処理工程に移る。生地発酵工程及び加熱処理工程は、常法の製パン工程でよい。加熱処理工程は、ベーカリー製品の種類に応じて、焼成する、蒸す、蒸し焼きにする、油で揚げる等の方法によって行う。
【0016】
本発明のベーカリー製品としては、例えばパン類、パン類乾燥品、ケーキ類、ワッフル、シュー、ドーナツ、揚げ菓子、パイ、ピザ、クレープ等が例として挙げられる。パン類としては、食パン(例えば白パン、黒パン、フランスパン、乾パン、バラエティブレッド、ロールパン等)、調理パン(例えばホットドッグ、ハンバーガー、ピザパイ等)、菓子パン(例えばジャムパン、アンパン、クリームパン、レーズンパン、メロンパン、スイートロール、クロワッサン、ブリオッシュ、デニッシュ、コロネ等)、蒸しパン(例えば肉まん、あんまん等)、特殊パン(例えばグリッシーニ、マフィン、ナン等)等が例として挙げられる。パン類乾燥品としては、ラスクやパン粉等が例として挙げられる。ラスクは一般に食パン等のパン類を薄切りにし、中が乾燥するまできつね色にトーストして得られるものである。パン粉は一般にパン類を粉砕し、そのまま生パン粉とするか、あるいは乾燥してドライパン粉として得られる。ケーキ類としては、蒸しケーキ、スポンジケーキ、バターケーキ、ロールケーキ、ホットケーキ、ブッセ、バームクーヘン、パウンドケーキ、チーズケーキまたはスナックケーキ等が例として挙げられる。
【実施例】
【0017】
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
[実施例1]
100重量部の米粉に対して、食塩10重量部を加え、150重量部の80℃の熱水とともに混捏して、練り上げ終了時には、70℃程度の米粉中麺に練り上げた。
【0019】
[実施例2]
100重量部の米粉に対して、さらに砂糖20重量部を添加する以外は実施例1と同様にして米粉中麺を作製した。
【0020】
[比較例1]
食塩を添加しない以外は、実施例1と同様にして米粉中麺を作製した。
【0021】
[試験例1]
実施例1〜2及び比較例1で得られた米粉中麺を−20℃で12時間冷凍する冷凍工程と、25℃12時間放置し解凍する解凍工程を5回繰り返した後、これらの米粉中麺を硬さ、色及び離水(水が染み出す現象)の有無について評価した。結果を表1に示す。
【表1】

以上の結果から、本発明の米粉中麺は、老化耐性に優れ、冷凍と解凍を繰り返しても安定して優れた品質を示すことが確認された。
【0022】
[処方例1]
実施例1で得られた米粉中麺を用いて以下の処方でパン生地を作製し、得られたパン生地を用いて、通常のパンの製法と同様に発酵させた後に焼成することにより食パンを作製した。
【表2】

【0023】
[比較例2]
以下の処方でパン生地を作製し、得られたパン生地を用いて、通常のパンの製法と同様に発酵させた後に焼成することにより食パンを作製した。
【表3】

【0024】
[試験例2]
処方例1及び比較例2で作製した食パンを官能性の面から32名のモニターを用いて、ソフトさ、しっとりさ、口溶け、もちもち感及び食味の各項目について、下記評価基準にて5段階評価で採点し、平均点を算出して評価した。結果を表4に示す。
<官能評価基準>
ソフトさ:非常に柔らかい(5点)、柔らかい(4点)、少し柔らかい(3点)、やや硬い(2点)、硬い(1点);
しっとりさ:非常にある(5点)、ある(4点)、少しある(3点)、あまりない(2点)、ない(1点);
口溶け:非常に良い(5点)、良い(4点)、普通(3点)、やや悪い(2点)、悪い(1点);
もちもち感:非常にある(5点)、ある(4点)、少しある(3点)、あまりない(2点)、ない(1点);
食味:非常に良い(5点)、良い(4点)、普通(3点)、やや悪い(2点)、悪い(1点)
【表4】

【0025】
上記の結果から、本発明の米粉中麺を用いてベーカリー製品を作製した場合、顕著に優れた品質を有するベーカリー製品を作製できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の製造方法により、米粉中麺の老化および変質を防止することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米粉100重量部と、塩7〜300重量部と、水との混合物を混捏して、中麺を60〜100℃に練り上げることを特徴とする米粉中麺の製造方法。
【請求項2】
混合物を加熱しながら混捏することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
米粉が、上新粉、上用粉、もち粉、白玉粉及び玄米粉からなる群から選択される少なくとも1種以上である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
塩が、塩化ナトリウムである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
水が、70〜100℃の熱水である請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
混合物が、さらに副材料を含む請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
副材料が、米粉以外の穀粉、澱粉、糖、糖アルコール、イースト、イーストフード、油脂類、乳製品、卵製品、膨脹剤、乳化剤、酵素類、調味料、保存料、蛋白質、アミノ酸及びフレーバーからなる群から選択される少なくとも1種以上である請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により製造された米粉中麺。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により製造された米粉中麺、副材料、及び、所望により水分を混捏してベーカリー製品用生地を作製する生地作製工程を包含することを特徴とするベーカリー製品の製造方法。
【請求項10】
副材料が、穀粉、塩、澱粉、糖、糖アルコール、イースト、イーストフード、油脂類、乳製品、卵製品、膨脹剤、乳化剤、酵素類、調味料、保存料、蛋白質、アミノ酸及びフレーバーからなる群から選択される少なくとも1種以上である請求項9記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−158194(P2010−158194A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2092(P2009−2092)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(591018534)奥本製粉株式会社 (20)
【Fターム(参考)】