説明

米粉含有パン類製造用ブレンド粉とそれを用いた米粉パン類

【課題】画期的に製パン性の良好なアルカリ処理米粉と凍結乾燥グルテンのパン用ブレンド粉とそれを用いて品質良好な米粉パン類を提供する。
【解決手段】画期的に製パン性の良好なアルカリ処理米粉と凍結乾燥グルテンを適当量ブレンドし、従来の米粉、グルテンブレンド粉に比べ製パン性の非常に優れた米粉ブレンド粉を調製し、本米粉ブレンド粉を用いて従来品に比べ格段に高品質の米粉パン類を製造できる。本法によって得られる米粉パン類は従来品に比べ総合的なパン品質が良好で、特に食感(モチモチ感)、風味に優れた特性を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製パン性の良好なアルカリ処理米粉と凍結乾燥グルテンを適当量ブレンドした製パン性に優れた米粉含有パン類製造用ブレンド粉に関する。更に詳しくは、本発明は、従来の米粉とグルテンのブレンド粉に比べ格段に製パン性に優れたブレンド粉とそれを用いて製造された品質良好な米粉パン類に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、米は米飯として、粒食の用途が大部分であり、粉食用途としては団子、米菓、打物等の和菓子に限られ、小麦粉の様な広範囲の加工利用は行われてこなかった。しかしながら、最近、米を多量の損傷澱粉を出すことなく微粉砕する技術が開発され、米粉の広範囲の加工利用技術が開発されつつある。
【0003】
しかしながら、これまでの検討は主に米粉の製粉方法の改善と得られた米粉をパン等に利用するための製パン法の改良について行われてきた。米粉の製粉方法については、例えば、特許文献1〜4に記載があり、製パン法の改良については、特許文献5〜11に記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−287652号公報
【特許文献2】特開平5−68468号公報
【特許文献3】特開平11−32706号公報
【特許文献4】特開2000−175636号公報
【特許文献5】特開平5−15298号公報
【特許文献6】特開平6−7071号公報
【特許文献7】特開平7−184576号公報
【特許文献8】特開平11−346690号公報
【特許文献9】特開2001−169740号公報
【特許文献10】特開2001−327242号公報
【特許文献11】特開2002−95404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの技術によって米粉の製パン性等はある程度向上したが、その製パン性はいまだ十分なものでなかった。また、大部分の例が製パン性向上のために粉末グルテンを添加しているにも関わらず、その製パン性は未だに小麦粉のそれには遙かに劣る状況である。更に、大部分の例が粉末グルテンの種類を限定していないため、独特のグルテン臭のため得られた食品の風味が非常に劣ること、十分な製パン性が付与されていないという欠点も持っている。このような状況から、米粉とグルテンのブレンド粉を用いて十分な品質のパン類が製造できていないのが現状である。
【0006】
このような状況から、米粉ブレンド粉を用いたパン類製造において、小麦粉並の製パン性が強く望まれていると共に、米粉ブレンド粉を用いた小麦粉製品並み品質で、且つ、米粉の良好な特徴が発揮された特徴的パン類の製造技術と開発が強く求められている。
【0007】
本発明の目的は、米粉とグルテンとのブレンド粉であって、従来のグルテンをブレンドした米粉に比べて格段に優れた製パン性を有する、米粉ブレンド粉を提供することにある。さらに本発明の目的は、このブレンド粉を用いて、米粉の良好な特徴が発揮された特徴的パン類を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の問題を解決するための米粉の調製法、米粉にブレンドするグルテンの種類、特性、米粉とグルテンのブレンド割合等について鋭意研究した結果、本発明を完成した。
【0009】
本発明は以下の通りである。
[1]
凍結乾燥グルテンを12質量部〜18質量部およびアルカリ処理米粉を88質量部〜82質量部含有するパン類製造用ブレンド粉であって、但し、凍結乾燥グルテンおよびアルカリ処理米粉の合計を100質量部とし、前記アルカリ処理米粉は、平均粒径が3.0μm以上20.0μm以下、損傷澱粉量が0.5質量 %以上5.0質量%以下、タンパク質含量が0.01質量%以上1.0質量%以下で、且つ、非澱粉性糖類が1.0質量%以上2.0質量%以下の米粉である、前記ブレンド粉。
[2]
前記凍結乾燥グルテンは、生グルテンを凍結乾燥し、その後任意に粉砕して得られる粉末である[1]に記載のブレンド粉。
[3]
前記米粉が以下の工程(1)〜(3)を含む方法で製造される米粉である、[1]または[2]に記載のブレンド粉。
(1)生米粒をアルカリ性水溶液とともに粉砕処理するか、または生米粒を粉砕した米粉をアルカリ性水溶液に浸漬処理し、処理後の米粉とアルカリ性水溶液とを分離する工程、
(2)分離した米粉をアルカリ性水溶液に浸漬処理し、処理後の米粉とアルカリ性水溶液とを分離する工程、但し、この工程は、1回または2回以上行う、
(3)得られた米粉を、任意に水洗及び/又は中和した後に、脱水及び/又は乾燥して米粉を得る工程
[4]
[1]〜[3]のいずれかに記載のブレンド粉を用いてパン類を製造する、パン類の製造方法。
[5]
米粉ブレンド粉の質量に対して、糖類を8%〜30%添加したパン生地を用いてリッチなパン類を製造する、[4]に記載のパン類の製造方法。
[6]
パン類がバターロールまたは菓子パン類である[4]に記載のパン類の製造方法。
[7]
パン類が最終生地ミキシング後、生地発酵工程を経ずに製造される、[4]〜[6]のいずれかに記載のパン類の製造方法。
[8]
パン類の製法がノーターム法またはリミックスストレート法である[7]に記載のパン類の製造方法。
[9]
[1]〜[3]のいずれかに記載のブレンド粉を用いて製造されたパン類。
【0010】
即ち、本発明は、適当なアルカリ処理により損傷澱粉量が非常に少なく、且つ、非常に粒径の小さく、ブレンドした場合の製パン性の画期的良好な米粉に、製パン性の良好な凍結乾燥グルテンを適当量ブレンドすることによって、従来に比べ、製パン性の良好な米粉とグルテンとのブレンド粉を開発し、これを用いることによって小麦粉製品並みの品質で、且つ、米粉の良好な特徴が発揮された特徴的パン類を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のパン類製造用の米粉とグルテンとのブレンド粉を用いることにより従来の同様の米粉ブレンド粉に比べその製パン性を飛躍的に改善することができる。この効果は主に製パン性が飛躍的に改善されたアルカリ処理米粉と凍結乾燥グルテンとき併用の効果である。これにより、市販強力粉、準強力粉からのパン類とほぼ同等かそれ以上の高品質の各種パン類を本発明の米粉ブレンド粉を用いて製造することが可能である。その結果、従来、外麦(外国産小麦)強力粉、準強力粉を主に用いて製造されていた各種パン類を国内産、地域産の米粉と凍結乾燥グルテン用いて製造することが可能になり、従来粒食に限られていた米の消費の拡大と国内産、地域産グルテンの需要拡大に多大の寄与が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ブレンド粉]
本発明は、凍結乾燥グルテンを12質量部〜18質量部およびアルカリ処理米粉を88質量部〜82質量部含有するパン類製造用ブレンド粉である。但し、凍結乾燥グルテンおよびアルカリ処理米粉の合計を100質量部とする。前記アルカリ処理米粉は、平均粒径が3.0μm以上20.0μm以下、損傷澱粉量が0.5質量 %以上5.0質量%以下、タンパク質含量が0.01質量%以上1.0質量%以下で、且つ、非澱粉性糖類が1.0質量%以上2.0質量%以下の米粉である。
【0013】
本発明で用いる凍結乾燥グルテンとは、小麦粉に水を加えて混捏し、小麦粉中に含まれるグルテンを水和、膨潤させて粘着性でまとまりのある生地をつくり、この生地を水で洗浄して生地中の澱粉や水溶性物質を洗い出し調製した生グルテンを凍結乾燥した後、粉砕して製造されるグルテン粉末のことである。具体的な凍結乾燥グルテン製品としては、北国フード株式会社のH印小麦蛋白、内麦小麦蛋白を挙げることができるが、上記の方法で作成された凍結乾燥グルテンであれば特に限定は無く、本発明の凍結乾燥グルテンに包含される。
【0014】
上記したアルカリ処理米粉にブレンドする凍結乾燥グルテン含量としては、凍結乾燥グルテンおよびアルカリ処理米粉の合計を100質量部としたときに、凍結乾燥グルテンを12質量部〜18質量部とし、アルカリ処理米粉を88質量部〜82質量部とする。この範囲より凍結乾燥グルテン含量が低いと十分な製パン性が発揮されず、逆に凍結乾燥グルテン含量が上記範囲より高いと得られたパンの食感が好ましくない傾向を示す。同様の観点で、凍結乾燥グルテンは14質量部〜18質量部の範囲であることが好ましい。
【0015】
なお、本発明において、米粉、凍結乾燥グルテンの重量はすべて13.5%水分ベースの重量であり、米粉ブレンド粉の米粉、凍結乾燥グルテンの重量パーセントもすべて13.5%水分ベースの重量に基づく重量%である。
【0016】
<アルカリ処理米粉>
本発明のブレンド粉で用いるアルカリ処理米粉とは、平均粒径が3.0μm以上20.0μm以下、損傷澱粉量が0.5質量 %以上5.0質量%以下、タンパク質含量が0.01質量%以上1.0質量%以下で、且つ、非澱粉性糖類が1.0質量%以上2.0質量%以下である米粉である。
【0017】
本発明で用いる米粉は、好ましくは、平均粒径が4.0μm以上10.0μm以下、損傷澱粉量が0.8質量%以上3.0質量%以下、タンパク質含量が0.1質量%以上0.5質量%以下で、且つ、非澱粉性糖類が1.2質量%以上1.9質量%以下である。本発明で用いる米粉は、さらに好ましくは、平均粒径が5.0μm以上7.0μm以下、損傷澱粉量が1.0質量%以上2.5質量%以下、タンパク質含量が0.15質量%以上0.2質量%以下で、且つ、非澱粉性糖類が1.3質量%以上1.8質量%以下である
【0018】
本発明における米粉は、平均粒径が3.0μm以上20.0μm以下である。平均粒径が3.0μm未満になると、パン類の製造過程で本米粉に水分を加えて生地を形成する際にまとまりにくく、製造されたパン類の内相はつぶれ不規則な構造となるため、品質が非常に低下するという問題がある。平均粒径が20.0μmを超えると、製造されたパン類は十分に膨らまず、内相はつぶれて食感は粗くなり、風味も劣るため、各種パン類、の品質が非常に低下するという問題がある。
【0019】
本発明における米粉は、損傷澱粉量が0.5質量%以上5.0質量%以下であることで、本米粉を用いた本発明の米粉ブレンド粉から製造されたパン類が、市販の小麦粉のみで製造したパン類とほぼ同等の品質で、かつ米粉がもたらす良好な食感等の特徴が付与されるという利点がある。損傷澱粉量を0.5質量%未満にするためには、製造工程が複雑となってコストがかかるという問題があり、5.0質量%を超えると製造されたパン類は十分に膨らまず、内相はつぶれて食感と風味が劣るため、各種パン類の品質が非常に低下するという問題がある。
【0020】
本発明における米粉は、タンパク質含量が0.01質量%以上1.0質量%以下であることで、本発明の米粉ブレンド粉から製造したパン類が、市販の小麦粉のみで製造したパン類とほぼ同等の品質で、且つ、米粉がもたらす良好な食感等の特徴が付与されるという利点がある。タンパク質含量を0.01質量%未満にするためには、製造工程が複雑となってコストがかかるという問題があり、1.0質量%を超えると製造されたパン類は十分に膨らまず、内相はつぶれて食感と風味は劣るため、各種パン類の品質が非常に低下するという問題がある。
【0021】
本発明における米粉は、非澱粉性糖類が1.0質量%以上2.0質量%以下であることで、例えば本米粉を適当量含有する本発明の米粉ブレンド粉を用いることにより、パン類が、市販の小麦粉のみで製造したパン類とほぼ同等の品質で、且つ、米粉が持たらす良好な食感等の特徴が付与されるという利点がある。非澱粉性糖類を1.0質量%未満にするためには、製造工程が複雑となってコストがかかるという問題があり、2.0質量%を超えると製造されたパン類は十分に膨らまず、内相はつぶれて食感と風味が劣るため、各種パン類の品質が非常に低下するという問題がある。
【0022】
なお、アルカリ処理米粉の平均粒径は、Sympatec社(ドイツ)のHELOS Particle Size Analysisを用いて水分含量12.0%から14.0%の範囲の試料を用いて測定される平均粒径の値と定義される。また、損傷澱粉量は、乾物試料ベースでメガザイム社(アイルランド)のstarch damage assay kitを用いて測定される損傷澱粉量(質量%)と定義される。本米粉のタンパク質含量は、乾物試料ベースで標準ケルダール法で求めた値(%)と定義する。また、本米粉の非澱粉性糖類の含量は、乾燥試料ベースの値(%)であり、測定値は全乾物試料質量を100%とし、それから酵素法により求めた乾物試料ベースでの澱粉含量(質量%)と上記のタンパク質含量(%)を差し引いて求めた値(%)と定義する。
【0023】
乾物試料ベースでの試料中の澱粉含量の値(%)は以下のように測定する。試料0.1〜0.2gに50%エタノール水溶液を添加混合し上清を除去することによって低分子の糖を除去する。次に、十分量の水を添加したサンプルをほぼ100℃で3分間加熱し、完全に澱粉を糊化させる。このサンプルを冷却後グルコアミラーゼ剤(日本バイオコン株式会社製)を十分量添加し、37℃、2時間インキュベートし、澱粉を完全に分解する。この分解サンプルを適当な濾紙で濾過し濾液中のグルコース量をグルコース測定キットを用いて測定する。得られたグルコース量から以下の式によって乾物試料当たりの澱粉含量(%)を計算によって求める。
乾物試料当たりの澱粉含量(%)=グルコース量(g)×0.9/乾物試料質量(g)×100
【0024】
本発明のブレンド粉で用いるアルカリ処理米粉は、以下の工程(1)〜(3)を含む方法によって製造することができる。
(1)生米粒をアルカリ性水溶液とともに粉砕処理するか、または生米粒を粉砕した米粉をアルカリ性水溶液に浸漬処理し、処理後の米粉とアルカリ性水溶液とを分離する工程、
(2)分離した米粉をアルカリ性水溶液に浸漬処理し、処理後の米粉とアルカリ性水溶液とを分離する工程、但し、この工程は、1回または2回以上行う、
(3)得られた米粉を、任意に水洗及び/又は中和した後に、脱水及び/又は乾燥して米粉を得る工程
【0025】
工程(1)
工程(1)では、生米粒をアルカリ性水溶液とともに粉砕処理するか、または生米粒を粉砕した米粉をアルカリ性水溶液に浸漬処理する。米原料の種類は特に限定は無く、例えば、粳種、糯種、長粒種、中粒種、短粒種など種々のものが使用できる。また、米粒は、通常精米が使用され、例えば、70〜90質量%の精米歩合のものを使用することができる。70〜90質量%の精米歩合のものを使用することで、アルカリ処理の効果が首尾良く発揮され、望ましい特性の米粉を効率的に調製することができるという利点がある。
【0026】
アルカリ性水溶液としては、例えば、NaOH水溶液が用いられるがそれに限定されるものではない。食品製造に使用可能なアルカリ性の物質溶液でNaOH水溶液と同様の塩基度、効果を発揮するアルカリ物質の水溶液であればいずれのも使用することができる。アルカリ物質としては、Na、K、Caなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物や炭酸塩等いずれも用いることができる。米粒をアルカリ性水溶液に浸漬して米粉を調製する場合は、浸漬処理した米粒を水挽き方式の粉砕機(グラインダー方式粉砕機、石臼製粉機、胴搗粉砕機等)を用いて粉砕する。生米粒を粉砕した米粉をアルカリ性水溶液に浸漬処理する場合には、事前に、生米粒を乾式または湿式粉砕し、得られた米粉をアルカリ性水溶液に浸漬処理する。
【0027】
アルカリ性水溶液としては、例えば、0.2質量%(0.05規定)から5質量%(1.25規定)、好ましくは0.2(0.05規定)から3質量%(0.75規定)のNaOH溶液相当の塩基度のアルカリ水溶液を用いる。上記濃度範囲のアルカリ性水溶液を用いることで、米粉の澱粉が糊化することなく、タンパク質、損傷澱粉、非澱粉性糖類が容易に除去されるというという利点がある。このアルカリ性水溶液中に、米粒または米粉を、1℃から40℃の温度範囲、好ましくは3℃から10℃の範囲で8から24時間好ましくは10から15時間浸漬することで行うことができる。この範囲の温度及び時間とすることで、本発明の所望の米粉を得ることができる。米粒または米粉のアルカリ処理用のアルカリ性水溶液の量は、米粒または米粉に対して6から10倍量、好ましくは7から9倍量である。この範囲の量とすることで、本発明の所望の米粉を得ることができる。但し、アルカリ処理効果が十分に発揮できる割合であれば、温度、時間及び量には、特に制限はない。
【0028】
浸漬処理後、遠心分離、デカンテーション等の操作でアルカリ性水溶液の上清を除去する。
【0029】
工程(2)
工程(2)では、工程(1)で分離した米粉を、再度、0.2質量%(0.05規定)から5質量%(1.25規定)、好ましくは0.2質量%(0.05規定)から3質量%(0.75規定)のアルカリ性水溶液に浸漬処理し、処理後の米粉とアルカリ性水溶液とを分離する。アルカリ性水溶液への浸漬処理は、工程(1)と同様の条件で実施してもよいし、工程(1)と異なる条件で実施してもよい。但し、このアルカリ性水溶液のアルカリ度や浸漬温度、時間及び量は、工程(1)の説明を参照することができる。浸漬処理後の分離は、遠心分離、デカンテーション等の操作によって上清のアルカリ水溶液を除去することが行う。工程(2)では、このアルカリ性水溶液への浸漬および分離を1回または2回以上行う。2回以上行う場合、繰り返しの回数は、米粉のアルカリ処理の度合い等を考慮して、適宜決定することができ、例えば、10回までの範囲で実施できる。但し、上限は10回に限定される意図ではない。必要により10回を超える回数のアルカリ性水溶液への浸漬および分離を実施することもできる。繰返し操作におけるアルカリ性水溶液への浸漬条件や分離条件は、各回同一でも異なってもよい。
【0030】
工程(3)
工程(3)では、工程(2)で分離した米粉を、脱水及び/又は乾燥して米粉を得る。脱水及び/又は乾燥前には、任意で、水洗及び/又は中和をすることもできる。中和処理に使用する酸は食品用に利用できる酸であれば特に限定はなく、例えば、塩酸、硫酸、亜硫酸などの無機酸や酢酸、乳酸、クエン酸などの有機酸やこれらの塩の単独もしくは2種以上組み合わせて用いることができる。中和処理後の水洗は、通常大過剰の水を加えた後、中和処理した米粉混合液を良く混合し、遠心分離、デカンテーション等の操作によって、上清の分離と脱水を行う。中和処理後の水洗は、一回でも目的を達成できるが、好ましくは中和処理によって生成する塩類、可溶性タンパク質、非澱粉性糖類等を極力除去するため3回程度行うことが好ましい。
【0031】
上清の分離と脱水後の乾燥は、通常行われる乾燥法(通風乾燥、棚式乾燥、チューブドライヤー乾燥、ドラムドライヤー乾燥等)のいずれの方法も採用可能であるが、米粉の澱粉の糊化が起こらない50℃以下の温度で乾燥することが好ましい。
【0032】
上記のアルカリ溶液処理により、本発明が目的とする米粉の調製は可能であるが、より高品質の本発明の米粉を調製するためには、アルカリ、中和処理の前後でタンパク質分解酵素または細胞壁溶解酵素を含有した溶液中での処理が有効ある。この操作により、得られる米粉のタンパク質、非澱粉性糖類の含量を効率的に低下でき、得られる米粉の品質をより向上させることができる。これらの酵素処理は、原料米粒又はその粉砕した米粉に対して、アルカリ、中和処理の前後でタンパク質分解酵素又は細胞壁溶解酵素を含有した水溶液による浸漬処理を単独又は複数組み合わせて施すことが望ましい。本処理により米粒又は米粉中のタンパク質、非澱粉性糖類が首尾良く分解され、アルカリ浸漬、洗浄工程でより効率的にタンパク質、非澱粉性糖類が除去される。
【0033】
上記タンパク質分解酵素としては、例えば、各種酸性、中性又はアルカリ性プロテアーゼなどのタンパク質を分解する作用のある酵素すべてが包含されるが、タンパク質の除去効率向上にはエンド型プロテアーゼがより効果的である。これらの酵素は、混合して使用しても良く、また、目的の活性を持っていれば純粋酵素である必要は無く、粗酵素でも使用できる。タンパク質分解酵素水溶液による浸漬条件は、米粒又は米粉の平均粒径や粒度分布、アルカリ、中和処理の前後のどちらで酵素処理を行うかによってその条件は最適化する必要があるが、基本的には約0.005〜0.5%の酵素液に20〜50℃の範囲好ましくは25〜40℃の範囲で0.5〜24時間の範囲で、更に好ましくは3〜10時間の範囲で浸漬すれば良く、個々の条件を勘案し適宜最適条件を設定する。
【0034】
上記細胞壁溶解酵としては、例えば、ペクチナーゼ、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、マセレーティング酵素などの植物細胞壁を溶解する作用のある酵素を用いる。これらの酵素は、混合して使用しても良く、また、目的の活性を持っていれば純粋酵素である必要は無く、粗酵素でも使用できる。細胞壁溶解酵素水溶液による浸漬条件は、米粒又は米粉の平均粒径や粒度分布、アルカリ、中和処理の前後のどちらで酵素処理を行うかによってその条件は最適化する必要があるが、基本的には約0.005〜0.5%の酵素液に20〜50℃の範囲好ましくは25〜40℃の範囲で0.5〜24時間の範囲で、更に好ましくは3〜10時間の範囲で浸漬すれば良く、個々の条件を勘案し適宜最適条件を設定する。
【0035】
タンパク質分解酵素または細胞壁溶解酵素を含有した溶液中での処理、水洗及び/又は中和の後、150メッシュのベントシーブなどにより篩別を行い、粗粒や細胞壁成分の除去を行い、その後乾燥という操作で米粉を調製することが好ましい。
【0036】
上記のアルカリ溶液処理により、本発明が目的とする米粉の調製は可能であるが、より高品質のアルカリ処理米粉を調製するためには、乾燥処理後の米粉をさらに乾式または湿式粉砕することが有効である。この処理により、得られる米粉の平均粒径を本発明の範囲内で効率的に低下でき、得られる米粉の洋菓子製造適性をより向上させることができる。
【0037】
上記の方法によって、平均粒径が3.0μm以上20.0μm以下、損傷澱粉量が0.5質量%5.0質量%以下以上、タンパク質含量が0.01質量%以上1.0質量%以下で、且つ、非澱粉性糖類が1.0質量%以上2.0質量%以下である米粉が得られる。好ましくは、条件を上記で説明した範囲で調整することで、平均粒径が4.0μm以上10.0μm以下、損傷澱粉量が0.8質量%以上3.0質量%以下、タンパク質含量が0.1質量%以上0.5質量%以下で、且つ、非澱粉性糖類が1.2質量%以上1.9質量%以下である米粉が得られる。更に好ましくは、条件を上記で説明した範囲で調整することで、平均粒径が5.0μm以上7.0μm以下、損傷澱粉量が1.0質量%以上2.5質量%以下、タンパク質含量が0.15質量%以上0.2質量%以下で、且つ、非澱粉性糖類が1.3質量%以上1.8質量%以下である米粉が得られる。
【0038】
平均粒径は、主に、工程(1)における粉砕と工程(3)において任意に実施される篩別の条件によって制御できる。損傷澱粉量は、主に、工程(1)及び(2)における浸漬時間、及び処理後の米粉とアルカリ性水溶液とを分離する回数によって制御できる。タンパク質含量は、主に、工程(1)及び(2)における浸漬時間、及び処理後の米粉とアルカリ性水溶液とを分離する回数によって制御できる。非澱粉性糖類量は、主に、工程(1)及び(2)における処理後の米粉とアルカリ性水溶液とを分離する回数によって制御できる。
【0039】
上記アルカリ処理米粉に凍結乾燥グルテンをブレンドしたブレンド粉は、製パン性が従来の米粉に比べ格段に優れている。この効果により、従来不可能であった米粉と粉末グルテンのブレンド粉より、多量に米粉を利用した高品質で、且つ、米粉の良好な特徴を発揮した各種パン類の製造が可能になる。
【0040】
本発明の米粉ブレンド粉の特徴は、主に従来のブレンド粉に比べ格段に製パン性に優れた米粉と凍結乾燥グルテンを使用していることにある。この効果により、従来の同様のブレンド粉に比べに格段に高品質なパン類を製造することが可能になる。また、本発明の米粉ブレンド粉は、風味の良好な凍結乾燥グルテンを使用しているため通常の安価な粉末グルテン特有のグルテン臭が製品に無く、風味面でも従来の米粉製品に比べ格段に良好な製品の製造が可能になる。
【0041】
本発明は、上記本発明のブレンド粉を用いてパン類を製造する、パン類の製造方法を包含する。さらに本発明は、本発明のブレンド粉を用いて製造されたパン類を包含する。
【0042】
本発明のパン類は、本発明の米粉ブレンド粉に、油脂、糖類、粉乳、膨張剤、食塩、調味料、香料、乳化剤、イースト、イーストフード、酸化剤、還元剤、及び各種酵素類等の原料の全部または一部に、水、その他の物を加えて混合し製造された生地を蒸す、焼く、揚げる、茹でる等の加熱調理をすることによって製造できる。パン類としては、例えば、食パン、フランスパン、ハードロール、バターロール、菓子パン、クロワッサン、デニッシュペーストリー等のパン類が包含される。本発明のパン類は、例えば、バターロールまたは菓子パン類であることが好ましい。
【0043】
本発明のパン類の製造は、例えば、米粉ブレンド粉の質量に対して、糖類を8%〜30%添加したパン生地を用いて行うことができ、この製造方法により、リッチなパン類を製造することができる。
【0044】
本発明のパン類は、パン類が最終生地ミキシング後、生地発酵工程を経ずに製造されることが好ましい。この様な製造方法を採用することで、分割、成型時の生地のダメージが低減されより品質良好な米粉パンが製造できるというという利点がある。そのような具体的なパン類の製法としては、例えば、ノーターム法、リミックスストレート法があるが、これらの製法を用いることによって、最終ミキシング直後に分割、成型を行うことが可能になり、生地が発酵によるガスをほとんど含有しない状態(この状態の方が分割成形による生地ダメージが格段に少なくなる。)で分割、成型操作を行うことができ、結果としてパンのボリュウム、内相等良好な米粉パンが製造可能であるという観点から好ましい。
【0045】
〔実施例〕
次に表1〜3に示す試験例(比較例を含む)に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
第1表に示す配合で、本発明の各種米粉とグルテンとのブレンド粉について、以下に示す製パン条件のノータイム法で山型食パンを製造し、製パン性等の評価を行なった。ノータイム法とは、パンの原材料をすべて始めにミキサーに投入し最適ミキシング後、直ぐに分割、丸め、ベンチタイム(生地一定時間放置し休ませる操作)操作を行い、一次発酵を行わず直ぐに成型操作を行い、最終発酵を取って焼成する製パン方法のことである。
【0047】
なお、本発明のすべての実施例、比較例において、配合は水分含量13.5%ベースの米粉ブレンド粉100に対する質量部で示した。すべての実施例の官能評価は、(独)農研機構・北海道農業研究センターの職員3人のパネラーによって、第1〜3表に示された項目について4段階評価(◎:非常に良好、○:良好、△:やや劣る、×:劣る)で行った。また、実施例1、2ではボリューム評価を数値化するため菜種置換法によって測定された比容積により評価を行った。比容積は焼成後常温で1時間冷却した後のパンを用いて測定し、バン1gあたりの容積(ml)を示した値である。比容積の値が大きいパンは概して内相と外観の評価も優れるため、製パン適性の評価項目として比容積は最も重要である。
【0048】
以下に本実施例の試験例の米粉とグルテンとのブレンド粉に使用した米粉の調製方法を示す。
【0049】
アルカリ処理米粉A:
精米した粳米の米粒200gに4℃に冷却した0.5質量%(0.125規定)のNaOH溶液1000mlを添加し、20℃前後で、12時間放置する。次に、水挽き方式の粉砕機で米粒を粉砕する。得られた米粉懸濁液を遠心分離し、上清のアルカリ溶液を除去する。遠心分離後の米粉沈殿物に0.5質量%(0.125規定)のNaOH溶液1000mlを添加し良く混合し20℃前後で、12時間放置し、遠心分離後上清のアルカリ溶液を除去する。次に、蒸留水1000mlを米粉沈殿物に添加し塩酸でpH7前後になるように中和処理する。この米粉懸濁液を同様に遠心分離し上清を除去する。この水洗操作を更に2回繰り返す(2回目以降は中和処理無し)。最後の水洗を終了した米粉沈殿は150メッシュの篩で篩別し、粗粒や細胞壁成分の除去を行なう。最後に得られた米粉沈殿物を40℃で通風乾燥後、乾燥粉末を乳鉢でマイルドに粉砕しアルカリ処理米粉Aを得た。アルカリ処理米粉Aの物性は以下のとおり。平均粒径15.3μm、損傷澱粉量1.1%、タンパク質含量0.60%、非澱粉性糖類1.5%。
【0050】
以下に製パン工程、製パン条件を示す。
【0051】
・ミキシング:全原料をミキサーに入れ、ミキシングピーク時間後10秒程度後までミキシングする
・分割、丸目:生地量100gずつ手分割、丸目
・べンチ :30℃、20分
・成型 :モルダー、シーターにて成型
・ホイロ :温度38℃、湿度85%、70分
・焼成 :200℃、25分
【0052】
表1の結果から、本発明のアルカリ処理米粉と凍結乾燥グルテンとのブレンド粉(試験例1〜5)の製パン性は、従来の同様の米粉ブレンド粉(比較例1〜4)のパンに比べ全般に非常に良好な製パン性を示し、特に、内相、食感(モチモチ感)が良好な評価であり、明らかに大きな比容積を示した。市販強力粉100%の比較例5と比較しても米粉ブレンド粉の製パン性は、ほぼ同等かそれ以上であり、本発明の効果が非常に大きいことが判る。特に、試験例3、4では、米粉をそれぞれ85%、84%含有するにもかかわらず総合的に最も良好な製パン性を示した。尚、アルカリ処理米を用いても、スプレードライグルテンを用いた参考例1のパンは、風味が劣るものであった。
【0053】
以上の結果から、本発明の効果は明らかであり、本発明のアルカリ処理米粉と凍結乾燥グルテンとのブレンド粉を用いることによって、従来の同様の米粉パンに比べ飛躍的に高品質の米粉パンが得られ、その品質は市販強力粉のパン並みかそれ以上であることがわかる。
【0054】
【表1】

【0055】
1)アルカリ処理米粉A:平均粒径15.3μm、損傷澱粉量1.1%、タンパク質含量0.60%、非澱粉性多糖類1.5%。
2)市販米粉:酵素処理気流製粉米粉、平均粒径51.7μm、損傷澱粉量3.8%、タンパク質含量7.4%、非澱粉性糖類2.5%。
3)市販上新粉:平均粒径81.8μm、損傷澱粉量11.8%、タンパク質含量6.9%、非澱粉性糖類2.5%。
4)市販凍結乾燥グルテン:H印小麦蛋白(北国フード株式会社製)
5)市販スプレードライグルテン(シグマ株式会社製)
【0056】
6)製パン評価、製パン時生地状態、パンの外観、内相、食感、風味の評価基準は以下の通りである。
◎:非常に良好、 ○:良好、 △:やや劣る、 ×:劣る
なお、各評価項目の評価の主な基準は以下の通りである。
製パン時生地状態:生地の分割、丸め、成型時の生地物性が良好であり、作業中に生地がだれたり、べとついたりせずスムーズに製パン作業のできる生地を良好な生地状態と評価する。
外観:(i)パンが均一に良く膨らんでいるか、(ii)パンの表面色が均一で良好であるか、(iii)パンの外観、形状がきれいかどうか。を主な評価基準として評価する。
内相:パンの内相(キメ(パンの穴の部分)、マク(パンの穴の周りの膜の部分))が均一で膜が薄いかどうかで評価する。
食感:パンを食した時の米粉パン独特のモチモチ感があるかどうかで評価する。
風味:パンとして良好な食味、香りがあるかどうかで評価する。
【0057】
[実施例2]
表2に示す配合で、種々の本発明の米粉とグルテンのブレンド粉について、以下に示す製パン条件のリミックスス卜レート法で製パンを行い、山型食パンを製造し、表1と同様の製パン評価を行った。
【0058】
以下に本実施例の試験例のアルカリ処理米粉と凍結乾燥グルテンブレンド粉に使用した米粉の調製方法を示す。
【0059】
アルカリ処理米粉B:粳米の市販製気流製粉米粉200gに4℃に冷却した0.2質量%(0.05規定)のNaOH溶液を1600ml添加し、12時間、4℃の低温庫で放置する。次に、上清のアルカリ溶液をデカンテーションにより除去する。この操作を同様に更に2回繰り返す。次に、4℃に冷却した蒸留水を1600ml加え良く混合し、塩酸でpH7前後に中和処理を行う。その後同様に12時間、4℃の低温庫で放置し上清をデカンテーションにより除去する。蒸留水添加以降(中和処理は無し)の操作を同様に更に2回繰り返し、最後の米粉沈殿は、150メッシュの篩で篩別し、粗粒や細胞壁成分の除去を行なう。最後に得られた米粉沈殿物をアルカリ処理米粉Aと同条件で乾燥、粉砕しアルカリ処理米粉Bを得た。アルカリ処理米粉Bの物性は以下のとおり。平均粒径15.3μm、損傷澱粉量2.0%、タンパク質含量0.20%、非澱粉性糖類1.8%。
【0060】
製パン工程は、以下に示す工程以外ノータイム法と同様に行った。
・第1ミキシング :全原料をミキサーに入れ、低速で2分程度ミキシングする
・第1ミキシング後の発酵:30℃、60分
・第2ミキシング :発酵終了後の生地を全量ミキサーに入れ、ミキシングピーク時間後10秒程度後までミキシングする
・ホイロ :温度38℃、湿度85%、55分
【0061】
表2の結果から、本発明のアルカリ処理米粉、凍結乾燥グルテンとのブレンド粉(試験例6〜10)の製パン性は、リミックスストレート法製パン試験においても従来の同様の米粉ブレンド粉(比較例6〜9)に比べ全般に非常に良好な製パン性を示し、特に、食感が良好な評価であり、明らかに大きな比容積を示した。市販強力粉100%の比較例10と比較しても本発明の米粉ブレンド粉の製パン性は、ほぼ同等程度であり、本発明の効果が非常に大きいことが判る。特に、試験例9の本発明の米粉84%と凍結乾燥グルテン16%を含有する米粉ブレンド粉の製パン性は、総合的に最も良好な結果を示した。尚、アルカリ処理米を用いても、スプレードライグルテンを用いた参考例2のパンは、風味が劣るものであった。
【0062】
以上の結果から、本発明の効果は明らかであり、本発明の米粉ブレンド粉を用いることによって、成型時生地のダメージが大きいと言われているリミックスストレート法による製パンにおいても、従来の同様の米粉ブレンド粉の米粉パンに比べ飛躍的に高品質の米粉パンが得られ、その品質は市販強力粉のパン並であることがわかる。
【0063】
【表2】

【0064】
1)アルカリ処理米粉B:平均粒径15.3μm、損傷澱粉量2.0%、タンパク質含量0.20%、非澱粉性糖類1.8%。
2)市販米粉:酵素処理気流製粉米粉、平均粒径51.7μm、損傷澱粉量3.8%、タンパク質含量7.4%、非澱粉性糖類2.5%。
3)市販上新粉:平均粒径81.8μm、損傷澱粉量11.8%、タンパク質含量6.9%、非澱粉性糖類2.5%。
4)市販凍結乾燥グルテン:H印小麦蛋白(北国フード株式会社製)
5)市販スプレードライグルテン(シグマ株式会社製)
【0065】
6)製パン評価、製パン時生地状態、パンの外観、内相、食感、風味の評価基準は以下の通りである。
◎:非常に良好、 ○:良好、 △:やや劣る、 ×:劣る
なお、各評価項目の評価の主な基準は以下の通りである。
製パン時生地状態:生地の分割、丸め、成型時の生地物性が良好であり、作業中に生地がだれたり、べとついたりせずスムーズに製パン作業のできる生地を良好な生地状態と評価する。
外観:(i)パンが均一に良く膨らんでいるか、(ii)パンの表面色が均一で良好であるか、(iii)パンの外観、形状がきれいかどうか、を主な評価基準として評価する。
内相:パンの内相(キメ(パンの穴の部分)、マク(パンの穴の周りの膜の部分))が均一で膜が薄いかどうかで評価する。
食感:パンを食した時の米粉パン独特のモチモチ感があるかどうかで評価する。
風味:パンとして良好な食味、香りがあるかどうかで評価する。
【0066】
[実施例3]
第3表に示すバターロール配合で種々の本発明のアルカリ処理米粉と凍結乾燥グルテンのブレンド粉を用いて、以下に示す製パン条件のノータイム法でバターロールを製造し、製パン性等の評価を行なった。なお、ノータイム法の製法については、配合がバターロール配合になった以外、実施例1と基本的に同様である。
【0067】
以下に本実施例の試験例の米粉、グルテンブレンド粉に使用した米粉の調製方法を示す。
【0068】
アルカリ処理米粉C:精米した粳米の米粒200gに4℃に冷却した0.5質量%(0.125規定)のNaOH溶液の1000mlを添加し、12時間、4℃の低温庫で放置する。次に、水挽き方式の粉砕機で米粒を粉砕する。得られた米粉懸濁液を遠心分離し、上清のアルカリ溶液を除去する。遠心分離後の米粉沈殿物に0.2質量%(0.05規定)のNaOH溶液1000mlを添加し良く混合後12時間、4℃の低温庫で放置する。その後この米粉懸濁液を遠心分離し上清のアルカリ溶液を除去する。次に、この遠心分離後の米粉沈殿物に蒸留水1000mlを添加し良く混合し塩酸でpH7前後になるように中和処理する。更に、この米粉懸濁液に、0.1%濃度になるように中性プロテアーゼ(天野製薬株式会社製)を添加し良く混合し、35℃で3時間保持した。次にこの酵素処理米粉懸濁液をアルカリ米粉Aの調製の場合と同様に遠心分離し上清除去する水洗操作(中和処理無し)を3回繰り返す。最後に得られた米粉沈殿物をアルカリ処理米粉Aと同条件で篩別、乾燥後、ミルで米粉を微粉砕しアルカリ処理米粉Cを得た。アルカリ処理米粉Cの物性は以下のとおり。平均粒径5.5μm、損傷澱粉量2.4%、タンパク質含量0.20%、非澱粉性糖類1.8%。
【0069】
以下に製パン工程を示す。
・ミキシング:全原料をミキサーに入れ、ミキシングピーク時間後10秒程度後までミキシングする
・分割、丸目:生地量40gずつ手分割、丸目
・ベンチ :30℃、20分
・成型 :手でロール型に成型
・ホイロ発酵:38℃、湿度85%で生地が一定の大きさになるまで発酵
・焼成 :200℃、13分
【0070】
表3の結果から、本発明のアルカリ処理米粉と凍結乾燥グルテンとのブレンド粉(試験例11〜15)の製パン性は、バターロール製パン試験においても従来の同様の米粉ブレンド粉(比較例11〜14)に比べ全般に非常に良好な製パン性を示し、特に、外観、内相が良好な評価であり、明らかに大きなパンとなった。市販準強力粉100%の比較例15と比較しても本発明の米粉ブレンド粉の製パン性は、同等かそれ以上であり、本発明の効果が非常に大きいことが判る。特に、試験例13では、本発明の米粉85%と凍結乾燥グルテン15%のブレンド粉を使用し多量の米粉を含有しているにもかかわらず総合的に非常に優れた製パン性を示した。尚、アルカリ処理米を用いても、スプレードライグルテンを用いた参考例3のパンは、風味が劣るものであった。
【0071】
以上の結果から、本発明の効果は明らかであり、本発明の米粉ブレンド粉を用いることによって、バターロールのようなリッチな配合の製パンにおいても、従来の同様米粉ブレンド粉からの米粉パンに比べ飛躍的に高品質の米粉パンが得られ、その品質は市販準強力粉のパン並みかそれ以上であることがわかる。
【0072】
【表3】

【0073】
1)アルカリ処理米粉C:平均粒径5.5μm、損傷澱粉量2.4%、タンパク質含量0.20%、非澱粉性糖類1.8%。
2)市販米粉:酵素処理気流製粉米粉、平均粒径51.7μm、損傷澱粉量3.8%、タンパク質含量7.4%、非澱粉性糖類2.5%。
3)市販上新粉:平均粒径81.8μm、損傷澱粉量11.8%、タンパク質含量6.9%、非澱粉性糖類2.5%。
4)市販凍結乾燥グルテン:H印小麦蛋白(北国フード株式会社製)
5)市販スプレードライグルテン(シグマ株式会社製)
【0074】
6)製パン評価、製パン時生地状態、パンの外観、内相、食感、風味の評価基準は以下の通りである。
◎:非常に良好、 ○:良好、 △:やや劣る、 ×:劣る
なお、各評価項目の評価の主な基準は以下の通りである。
製パン時生地状態:生地の分割、丸め、成型時の生地物性が良好であり、作業中に生地がだれたり、べとついたりせずスムーズに製パン作業のできる生地を良好な生地状態と評価する。
外観:(i)パンが均一に良く膨らんでいるか、(ii)パンの表面色が均一で良好であるか、(iii)パンの外観、形状がきれいかどうか、を主な評価基準として評価する。
内相:パンの内相(キメ(パンの穴の部分)、マク(パンの穴の周りの膜の部分))が均一で膜が薄いかどうかで評価する。
食感:パンを食した時の米粉パン独特のモチモチ感があるかどうかで評価する。
風味:パンとして良好な食味、香りがあるかどうかで評価する。
パンの大きさ:見た目のパンが大きいかどうかを評価する。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、食品分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結乾燥グルテンを12質量部〜18質量部およびアルカリ処理米粉を88質量部〜82質量部含有するパン類製造用ブレンド粉であって、但し、凍結乾燥グルテンおよびアルカリ処理米粉の合計を100質量部とし、前記アルカリ処理米粉は、平均粒径が3.0μm以上20.0μm以下、損傷澱粉量が0.5質量 %以上5.0質量%以下、タンパク質含量が0.01質量%以上1.0質量%以下で、且つ、非澱粉性糖類が1.0質量%以上2.0質量%以下の米粉である、前記ブレンド粉。
【請求項2】
前記凍結乾燥グルテンは、生グルテンを凍結乾燥し、その後任意に粉砕して得られる粉末である請求項1に記載のブレンド粉。
【請求項3】
前記米粉が以下の工程(1)〜(3)を含む方法で製造される米粉である、請求項1または2に記載のブレンド粉。
(1)生米粒をアルカリ性水溶液とともに粉砕処理するか、または生米粒を粉砕した米粉をアルカリ性水溶液に浸漬処理し、処理後の米粉とアルカリ性水溶液とを分離する工程、
(2)分離した米粉をアルカリ性水溶液に浸漬処理し、処理後の米粉とアルカリ性水溶液とを分離する工程、但し、この工程は、1回または2回以上行う、
(3)得られた米粉を、任意に水洗及び/又は中和した後に、脱水及び/又は乾燥して米粉を得る工程
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のブレンド粉を用いてパン類を製造する、パン類の製造方法。
【請求項5】
米粉ブレンド粉の質量に対して、糖類を8%〜30%添加したパン生地を用いてリッチなパン類を製造する、請求項4に記載のパン類の製造方法。
【請求項6】
パン類がバターロールまたは菓子パン類である請求項4記載のパン類の製造方法。
【請求項7】
パン類が最終生地ミキシング後、生地発酵工程を経ずに製造される、請求項4〜6のいずれかに記載のパン類の製造方法。
【請求項8】
パン類の製法がノーターム法またはリミックスストレート法である請求項7に記載のパン類の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載のブレンド粉を用いて製造されたパン類。

【公開番号】特開2012−179025(P2012−179025A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45438(P2011−45438)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、経済産業省、「地域イノベーション創出研究開発事業」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(503308508)江別製粉株式会社 (7)
【出願人】(302024571)株式会社 山本忠信商店 (8)
【Fターム(参考)】