説明

米粉食品用生地及びそれを加熱調理した米粉食品

【課題】加熱処理の際に溶け出しにくく、加熱処理でα化された際にコシを得ることができる米粉食品用生地及びそれを用いた米粉食品を提供する。
【解決手段】米粉を主成分とする米粉食品用生地において、生地表層がレジスタントスターチ化されていることを特徴とする米粉食品用生地である。生地を成形加工後に湿熱処理が行なわれることにより、生地表層がレジスタントスターチ化されていることが好ましく、この場合、前記湿熱処理は、成形した状態の含水率が30〜130%、α化度が70%以下の原料生地を105〜140℃で5分〜240分、密閉された空間内での湿熱処理又は生地表面に加熱水蒸気をあてることによって、行なわれることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米粉より作られる米粉食品用生地及びそれを加熱調理した米粉食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、米飯中心の食事からパン・麺など多様な食事形態に変わり、米の消費量が低下している。米離れの結果、日本の水田耕作面積の40%近くが減反・転作を余儀なくされ、カロリーベースで先進国でも一番低い食糧自給率が社会問題となっている。そのため、米の需要拡大として、従来小麦から作るパン・麺などに米を粉砕加工して使用することが研究されている。しかし、米粉には、小麦粉のように澱粉の他にたんぱく質であるグルテンが入っていないという欠点がある。グルテンが入ると、パンが発酵で膨らんでそのまま萎まずに骨格を維持できる、麺状につながってコシのある食感を維持する、老化の経時変化が小さいなどの効果があるが、米にはグルテン成分がないので、餅々した食感はとれても経時変化による老化が激しく、ボソボソして食味が整わない、麺状にはつながりにくいなどの問題がある。
【0003】
そのような問題点を解消するため、例えば、特許文献1には、穀粉として米でん粉及び米糠を含む玄米粉のみを用いて製される麺類もしくは皮類であり、前記米でん粉が部分的にα化されていることを特徴とする玄米食品について記載されている。この玄米食品は、米でん粉を部分的にα化し、そのα化度を20〜30%にすることで製麺化および製皮化に最適な粘弾性、伸展性に富む生地を得ている。また、例えば、特許文献2には、つなぎや合成添加剤が含まれず、実質的に米粉と水のみからなる米麺類について記載されている。この米麺類は、デンプンが部分的にα化しており、表層は内部より糊化度が高いことを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−172297号公報
【特許文献2】特開2007−174911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2記載の米粉麺は、どちらもデンプンが部分的にα化しており、茹でたり蒸したりする加熱処理のα化工程で溶け易い、コシがない、麺がちぎれやすい、経時においてもノビやすい、吸水してふやけやすいなど多くの問題がある。
【0006】
このため、米粉だけでの製品化は難しく、小麦粉を多く併用したり、グルテンを加えるなどにより製品化しているのが現状である。特に、麺の場合、小麦粉を使わず米粉だけで作ることは非常に難しく、グルテンを加えてもパンにおけるような効果は得られていない。
【0007】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、加熱処理の際に溶け出しにくく、加熱処理でα化された際にコシを得ることができる米粉食品用生地及びそれを用いた米粉食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために、鋭意検討した結果、生地表層をレジスタントスターチ化させることで、加熱処理の際に溶け出しにくく、加熱処理でα化された際にコシを得ることができることを見出し、本発明に至った。すなわち本発明は、米粉を主成分とする米粉食品用生地において、生地表層がレジスタントスターチ化されていることを特徴とする米粉食品用生地、及びそれを加熱調理した米粉食品である。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、加熱処理の際に溶け出しにくく、加熱処理でα化された際にコシを得ることができる米粉食品用生地及びそれを用いた米粉食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る米粉食品用生地は、生地表層がレジスタントスターチ化されており、そのため、レジスタントスターチ米粉を用いて生地を成形するものとは異なる。一般に、レジスタントスターチとは、小腸で消化されにくく吸収されることのない澱粉の総称で、食物繊維素材として利用されている。レジスタントスターチは、加熱してもα化しにくい性質があり、特開2003−102408号公報などに記載されているように、米粉をレジスタントスターチ化して食物繊維を多く含む米粉が作られている。しかしこのようにして作られたレジスタントスターチ米粉は、米粉粒子自体がレジスタントスターチ化しており、そのため膨潤やα化が悪く食感が悪いものになったり、結合力が無いために粘りの無いボソボソの食感になってしまうため、レジスタントスターチ米粉だけからは本発明に係る米粉食品用生地を作ることはできない。また、通常の米粉とレジスタントスターチ米粉を合わせる場合も、同様の理由で、伸ばしたり生地を成形することにおいては通常の米粉よりも改悪の方向になる。
【0011】
したがって、本発明に係る米粉食品用生地のように、主に生地表層のみをレジスタントスターチ化させることによって、はじめて加熱処理の際に溶け出しにくく、加熱処理で内部はα化されるためコシを得ることができる米粉食品用生地を得ることができる。
【0012】
本発明に係る米粉食品用生地において、生地表層をレジスタントスターチ化させる方法としては、生地を成形加工後に湿熱処理加工を行う方法がある。湿熱処理は、例えば、高温・高圧処理により行うことができ、表面に過熱水蒸気をあてるなど生地表面に加湿された熱を加える方法や、生地成形後に袋や容器に入れレトルト処理を行うなど密閉された空間で外部から熱を加えることにより生地中の水分を利用する方法などによって行なうことができる。これらの方法によれば、水分が低くかつ蒸気と接触するのが表面だけであり、または少ない水分を持つ生地から加熱により発生した蒸気と熱によって表層のみがレジスタントスターチ化するため、生地の内部までレジスタントスタ−チ化することが無く、表層部分のみレジスタントスターチ化させることができる。
【0013】
また、生地表層をレジスタントスターチ化させる別の方法として、生地の成形時に成形機の成形部分を加熱するなど熱を加える方法がある。例えば麺状食品を製造する場合、米粉と水を練り合わせた後の麺状への成形工程において、押し出して麺を製造する場合には製麺機の出口のダイ部分を加熱しておくことにより表層のみレジスタントスターチ化された麺ができる。また、ロールにより生地を切断し麺状に成形する場合にはロール部分を加熱しておくことにより表層のみレジスタントスターチ化された麺ができる。エクストルーダーを使用する場合においては、混練部分は加温を行わず、圧力がかからない条件で練り合わせ、出口の成形部分のダイのみ加熱して押し出すことにより表層のみレジスタントスターチ化された麺が製造できる。
【0014】
生地表層をレジスタントスターチ化させる具体的な条件としては、成形された生地の含水率やα化度、湿熱処理工程においての吸水水分、加熱温度及び時間を調整して、生地表層のα化をできるだけ抑制することによって実現される。湿熱処理を行う前の成形された生地の含水率は、30〜130%が好ましく、40〜110%がさらに好ましい。含水量が130%より多いと加熱によりレジスタントスターチ化が起こらず逆に麺がα化してしまい、30%より少ないと麺の形状が保たれず商品価値が下がるため好ましくない。含水率は数1の式により計算できる。
【0015】
【数1】

【0016】
湿熱処理を行う前の成形された生地に含まれる澱粉は、β化していることが好ましく、α化度が70%以下であり、50%以下が好ましく、30%以下がさらに好ましい。α化度が70%より多いと高温・加圧処理により湿熱処理が起こらずα化度がさらに進み、溶け出しが多い食感の悪い米粉食品になってしまう。湿熱処理工程における吸水水分は、例えば茹でる時間、水量、茹でる温度、蒸す場合においては蒸気量によって調整することができる。加熱温度は、105〜140℃が好ましく、110〜130℃がさらに好ましい。105℃より低いと湿熱処理化が起こらないか極端に遅くなり、140℃より高いと米粉自体の変性がおこり異臭が発生し食感が悪くなる。加熱時間は、5〜240分が好ましく、10〜180分がさらに好ましい。加熱時間が5分に満たない場合、湿熱処理が充分に行われず、240分を超えると澱粉自体の劣化やタンパク質の変性等で異臭が発生したり麺の強度が低下するため好ましくない。
【0017】
また、特開2008−99671号公報、特開2007−17911号公報、特許4388131号公報などにおいて、生地を高温蒸気中に所定時間曝す工程が記載されているが、それらは最終茹で加工を短くするために、麺を茹でる前に加熱して半α化しているのであって、生地表層をレジスタントスターチ化させる本発明に係る米粉食品用生地とは異なる。
【0018】
本発明に係る米粉食品用生地において、主成分となる米粉としては、特に限定はなく、精白米、玄米、餅米などの米粉が挙げられる。
【0019】
本発明に係る米粉食品用生地は、生地表層がレジスタントスターチ化されているが、その一部がα化されていても良い。生地表層がレジスタントスターチ化していることの指標は、生地を加熱処理後、α化せずにβ化の状態でいる米粉中の澱粉の割合を測定することにより調べることができる。例えば、Park−Johnson法にて澱粉にα―アミラーゼを作用させ加水分解を行い、生じた還元末端の定量を調べることにより確認できる。具体的には、サンプル10g分を切断し精製水200gを加え、これを95℃で加熱処理しα化させる処理を行う。これを37℃に冷却後、α−アミラーゼ50ユニットを添加し、一定時間後にサンプリングを行い、Park−Johnson法にてα−アミラーゼの消化作用によって生じた澱粉の還元末端の定量を行う。生地を95℃で10分間茹でた際のPark−Johnson法による120分後のα−アミラーゼの消化作用によって生じた還元末端の割合が、湿熱処理を行わない生地を同様にアミラーゼ処理したものに比べ80%以下であることが好ましく、70%以下であることがさらに好ましい。また、表層以外の部分がレジスタントスターチ化していないことの指標は、本発明に係る米粉食品用生地をホモジナイズしたものについて、同様にPark−Johnson法にて澱粉にα―アミラーゼを作用させ加水分解を行い、生じた還元末端の定量を調べることにより確認できる。生地をホモジナイズした場合、95℃で10分間茹でた際のPark−Johnson法による120分後のα−アミラーゼの消化作用によって生じた還元末端の割合が、湿熱処理を行わない生地を同様にアミラーゼ処理したものに比べ85%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。ここで、湿熱処理を行わない生地を同様にアミラーゼ処理したものについて、生地が湿熱処理を行ったかどうか不明の場合には、表層がレジスタントスターチ化した米粉食品と同量の米粉を完全にα化し、これにアミラーゼを作用させたものであっても良い。
【0020】
前記米粉の重量平均粒子径は、20〜300μmであることが好ましく、20〜200μmであることがさらに好ましい。重量平均粒子径が20μm未満では、粉砕が困難であり製造が難しい。300μmを超えると粒子の比表面積が減るため生地表層のレジスタントスターチ化が少なくなり溶け出しが多くなると同時に食感にざらつきが生じるため好ましくない。
【0021】
また、前記米粉の澱粉損傷率は、30%以下であることが好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。澱粉損傷率が30%を超えると、米粉粒子から澱粉の流出が多く米粉同士の結着から生まれる独特な歯ごたえ(食感)が得られない点で好ましくない。米粉の澱粉損傷率は酸溶解法(有坂と吉井 1991)で行うことが出来る。具体的には、米粉約500mgを0.25N塩酸溶液50mLの入った共栓三角フラスコに秤量し、55℃恒温水槽中で2時間振とう後、溶液をガラス製遠心管に移し遠心分離機を使用して遠心分離(5000rpm、20分)し、上澄液の全糖量をフェノール硫酸法により求める。澱粉損傷率(%)は数2の式により計算できる。
【0022】
【数2】

【0023】
前記米粉は、加水処理し混練後、製麺機等で麺状や多様なパスタ形状にするか、圧延し成形してギョウザやワンタン、シュウマイ、春巻きの皮状の生地に成形加工される。
【0024】
本発明に係る米粉食品用生地において、生地にはさらに、キサンタンガム、グアーガム、タラガム、ペクチン、カードラン、ゼラチン、タマリンドガム、サイリウムシードガム、アラビアガム、カシアガム、プルラン、CMC−Na、カラギナン、コンニャクマンナン、ローカストビーンガム、寒天、ジェランガム、アルギン酸塩より選ばれる1以上の糊料を含むことが好ましく、キサンタンガム、グアーガム、コンニャクマンナン、ローカストビーンガム、寒天、ジェランガム、アルギン酸塩より選ばれる1以上の糊料を含むことがさらに好ましい。前記糊料を含むことで、米粉に加水したときのまとまりや、ドウを伸ばしたときにちぎれず広げやくする、生地を切断しやすくする、または押し出したりしやすくするなどの生地の成形加工を容易にすることができる。
【0025】
前記糊料は、溶解されゾルまたはゲルの状態で米粉に混合することがさらに好ましい。糊料を粉末で米粉に混ぜた場合、加水して混練したときに米粉との水分の奪い合いになり、溶解が完全でなくなるため溶解不十分の分だけ効果が低下する。これに対し糊料をゾル状またはゲル状で米粉に添加したものは、一度水に溶解しているため糊料分子が完全に広がった状態になっており、米粉中に均一に分散され充分な効果が得られる。
【0026】
また、生地成形加工の際の加水は、冷水よりも温水で行うことがより有効であり、温水の温度は、40〜80℃が好ましい。温水を使用することにより、米粉が極わずかα化し、これにより結着力が強くなりドウがしっかりしたものになる。
【0027】
前記糊料が含まれた生地は、糊料が含まれていないものと比較すると、米粉に加水した時、よりまとまりやすく、まとまったドウを伸ばした時もちぎれず広げやすく、生地を切断したり押し出したりする加工がしやすく、更に、加熱処理してα化された米粉食品は、加熱処理の際に溶け出しにくく、切れにくく、コシのある食感を得ることができる。
【0028】
本発明に係る米粉食品用生地は、米粉麺、米粉パスタの生地の他、ギョウザやワンタンの皮、シュウマイの皮、春巻きの皮などの生地に利用することができる。
【0029】
本発明に係る米粉食品用生地を加熱調理、例えば茹でたり蒸したりすることで、米粉麺、米粉パスタ(マカロニやペンネなど)、ギョウザやワンタンの皮、シュウマイの皮、春巻きの皮などの米粉食品に利用することができる。
【0030】
例えば、米粉100%の米粉麺を作ることは、米粉の消費拡大とともに小麦アレルギーの人にとって重要である。米粉主体の米粉麺であっても、新規用途であり米粉の消費拡大には重要である。また精白米以外にも玄米粉を使うとミネラル・ビタミンなど多く、健康に有効である。玄米を米飯で食べるよりは、味付けがされた麺やスープを加えた麺として玄米の好ましくない味が緩和でき有効である。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではない。
【0032】
本発明に係る米粉食品用生地において、生地が加熱による単なるα化ではなく、レジスタントスターチ化していることの指標としては、Park−Johnson法にてα―アミラーゼの消化作用によって生じた還元末端の定量により確認できる。勿論、麺の茹でや蒸しによる吸水α化で麺線のちぎれや溶け出し、麺としての物理的評価や食感としての官能試験としても評価できる。
【0033】
[実験例1(実施例1、比較例1〜2)]
米粉(重量平均粒子径50μm、澱粉損傷率7.5%:日の本穀粉社製)5000gに、60℃の湯3500gを徐々に加えながら混練し、含水率70%の生地を作製した(製麺機:万能手打麺機:さぬき麺機社製)。その後、この生地を厚さ2mmのシート状とした後、幅3mmに裁断し麺状生地とした。これを100gずつ袋に入れてレトルト殺菌機にて湿熱処理(120℃、20分)を行うことで、実施例1に係る麺状食品用生地を得た。比較として、実施例1と同様にして作製した生地を、0.1MPaの蒸気にて7分間蒸練し(蒸練機:飯田製作所社製)、この混練物を実施例1と同様にして製麺し、レトルト殺菌機にて湿熱処理(120℃、20分)を行うことで、比較例1に係る麺状食品用生地を得た。さらに、比較として、実施例1の割合で製麺し、レトルト処理を行わない比較例2に係る麺状食品用生地を得た。
【0034】
実施例1、比較例1〜2に係る麺状食品用生地について、加熱処理したものをα−アミラーゼ処理し、生じた澱粉分解物の還元末端の定量を行い、澱粉のレジスタントスターチ化の測定を行った。具体的には、サンプル10g分を切断し精製水200gを加えた。これについてホモジナイズを行わず原形を維持させた状態で95℃にて10分間加熱処理しα化させる処理を行った。これを37℃に冷却後、α−アミラーゼ(和光純薬工業社製)50ユニットを添加し、振とうさせながら30分、60分、及び120分間反応させ、その後に溶液のサンプリングを行い、溶液をろ過後、Park−Johnson法にてα−アミラーゼの消化作用によって生じた澱粉の還元末端の定量を行った。比較例2の120分後の還元末端数を100として、これに対するそれぞれの還元末端数の割合を示した。結果を表1に示す。また、別に、麺の破断強度は、茹で時間3分で麺を茹でた直後に麺3本を並べ、ピアノ線にて破断した時の強度を英弘精機株式会社製のテクスチャーアナライザーにて測定した。また、同時に茹で上がった麺を5人のパネラーに試食してもらい食感の評価を、5点:腰があってつるみがある。3点:腰があってつるみがあるが表面が少し溶け出している。1点:腰が弱く溶け出しが多い。の点数付けで行った。さらに、麺を茹でた時の茹で汁を観察することにより麺からの溶け出しの多少を比較した。結果を表2に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1のように、麺状に加工後に茹でる工程や蒸す工程を行わず、直接湿熱処理を行った麺の表層はレジスタントスターチ化していた。
【0037】
【表2】

【0038】
表2のように、麺状に加工後に茹でる工程や蒸す工程を行わず、直接湿熱処理を行った麺は食感が良く溶け出しも少なかった。
【0039】
[実験例2(実施例2〜9)]
米粉(重量平均粒子径50μm、澱粉損傷率7.5%:日の本穀粉社製)500gに、キサンタンガム(イナゲルV−10:伊那食品工業(株)製)5g、グアーガム(イナゲルGR−10:伊那食品工業(株)製)5g、コンニャクマンナン(イナゲルマンナン100A:伊那食品工業(株)製)5g、ローカストビーンガム(イナゲルL−10:伊那食品工業(株)製)5g、寒天(伊那寒天UP−37:伊那食品工業(株)製)5g、ジェランガム(イナゲルGP−10:伊那食品工業(株)製)5g、アルギン酸ナトリウム(イナゲルGS―70:伊那食品工業(株)製)5gをそれぞれ加え、水400gを徐々に加えながら混練し含水率80%の生地を作製した。その後、この生地を厚さ2mmのシート状とした後、幅3mmに裁断し麺状生地とした(さぬき製麺)。これを袋に入れてレトルト殺菌機にて湿熱処理(120℃、20分)を行うことで実施例3〜9に係る麺状食品用生地を得た。また、糊料を添加しないものについても同様にして作製した(実施例2)。
【0040】
実施例2〜9に係る麺状食品用生地について、実験例1と同様に澱粉のレジスタントスターチ化の測定を行った。実験例1における比較例2の120分後の還元末端数を100として、これに対するそれぞれの還元末端数の割合を示した。結果を表3に示す。また、ドウを製麺機に通し、麺線を作製した時の製麺機へのドウの付着のしやすさと麺のちぎれ易さを目視にて観察した。麺の破断強度、食感の評価、茹でた時の溶け出しは、実験例1と同様に評価した。結果を表4に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
以上のように、湿熱処理することにより麺の表層がレジスタントスターチ化して食感の良い米粉麺を作ることが出来たが、糊料を含有しているものの方が麺線のちぎれが少なく麺の破断強度が上がりさらに良かった。
【0044】
[実験例3(実施例10〜12)]
米粉(重量平均粒子径50μm、澱粉損傷率7.5%:日の本穀粉社製)500gにキサンタンガム(イナゲルV−10:伊那食品工業(株)製)2.5g、コンニャクマンナン(イナゲルマンナン100A:伊那食品工業(株)製)2.5gを添加し、粉体混合したものに、お湯400gを徐々に加えながら混練し生地を作製した。その後、この生地を厚さ2mmのシート状とした後、幅3mmに裁断し麺状生地とした。これを袋に入れレトルト殺菌機にて湿熱処理(120℃、20分)することで実施例10に係る麺状食品用生地を得た。
これとは別に、キサンタンガム(イナゲルV−10:伊那食品工業(株)製)2.5g、コンニャクマンナン(イナゲルマンナン100A:伊那食品工業(株)製)2.5gを水400gへ継粉に注意しながら丁寧に分散後、加熱溶解したゾル状態のものを熱いまま(80℃)米粉500gへ投入し混練して生地を作製した。その後、この生地を厚さ2mmのシート状とした後、幅3mmに裁断し麺状生地とした。これを袋に入れレトルト殺菌機にて湿熱処理(120℃、20分)することで実施例11に係る麺状食品用生地を得た。
これとは別にキサンタンガム(イナゲルV−10:伊那食品工業(株)製)2.5g、コンニャクマンナン(イナゲルマンナン100A:伊那食品工業(株)製)2.5gを水400gへ継粉に注意しながら丁寧に分散後、加熱溶解した後冷却しゲルとした後、撹拌機(バーミックス:チェリーテラス社製)を使用して粉砕し、米粉500gへ投入し混練して生地を作製した。その後、この生地を厚さ2mmのシート状とした後、幅3mmに裁断し麺状生地とした。これを袋に入れレトルト殺菌機にて湿熱処理(120℃、20分)することで実施例12に係る麺状食品用生地を得た。これらについて、実験例1と同様にして評価を行い、結果を表5、6に示した。
【0045】
【表5】

【0046】
表5のように、糊料はゾル又はゲル状態で添加したほうが湿熱処理後に表層がレジスタントスターチ化している程度が高かった。
【0047】
【表6】

【0048】
表6のように、糊料は粉末で添加してもゾル又はゲル状態で添加しても効果的であったが後者の方が若干効果的であった。
【0049】
[実験例4(実施例13〜18、比較例3)]
米粉(重量平均粒子径50μm、澱粉損傷率7.5%:日の本穀粉社製)500gを用意した。これとは別に、水500gに寒天(ウルトラ寒天UX−30:伊那食品工業(株)製)5gを加え沸騰溶解させた。この液を65℃に冷却し、徐々に米粉に加えながら混練し含水率100%の生地を作製した。その後、この生地を厚さ2mmのシート状とした後、幅3mmに裁断し麺状生地とした(さぬき製麺)。この生地を一定時間(10分、20分、30分、40分、50分、60分)蒸し上げたものについて、澱粉のα化度を測定した。測定方法は、麺状生地1.0gをサンプリングし、50mLの水を加えホモジナイザーを使用して均一化した。これにα−アミラーゼ(和光純薬工業社製)50ユニットを添加して撹拌しながら37℃で90分間放置した。別に、米粉1.0gに水50mLを加え90℃にて60分間処理し充分にα化したものを作製し、同様にα−アミラーゼで処理を行った。これらについて、Park−Johnson法にてα−アミラーゼの消化作用によって生じた澱粉の還元末端の定量を行い、米粉を使用したときの還元末端数を100、α化度100とした。これに対する各還元末端数の割合を調べ、表7に示した。
【0050】
また、これら作製した麺状生地について、100gを袋に充填しレトルト殺菌機を使用して120℃、30分湿熱処理を行うことで実施例13〜18、比較例3に係る麺状食品用生地を得た。これらについて、実験例1同様にしてα化度、物性を測定し、結果を表8、表9に示した。
【0051】
【表7】

【0052】
【表8】

【0053】
【表9】

【0054】
以上のように、湿熱処理する前の生地のα化度を70%以下にすることにより、生地の表層がレジスタントスターチ化され食感が良く茹でた時の溶け出しが少ないものができた。
【0055】
[実験例5(実施例19〜23、比較例4〜5)]
米粉(重量平均粒子径50μm、澱粉損傷率7.5%:日の本穀粉社製)500gを用意した。これとは別に、水500gにグアーガム(イナゲルGR−10:伊那食品工業(株)製)5gを加え溶解させた。この液を70℃に加温し、徐々に米粉に加えながら混練し生地を作製した。その後、この生地を厚さ2mmのシート状とした後、幅3mmに裁断し麺状生地とした(さぬき製麺)。この生地100gを袋に充填しレトルト殺菌機を使用して一定温度(100℃、105℃、110℃、120℃、130℃、140℃、145℃)にて30分間湿熱処理を行うことで実施例19〜23、比較例4〜5に係る麺状食品用生地を得た。これらについて実験例1同様にしてα化度、物性を測定し、結果を表10、11に示した。
【0056】
【表10】

【0057】
【表11】

【0058】
以上のように、加熱処理時間は105〜140℃で生地の表層がレジスタントスターチ化され食感が良く茹でた時の溶け出しが少ないものができた。
【0059】
[実験例6(実施例24〜28、比較例6〜7)]
米粉(重量平均粒子径50μm、澱粉損傷率7.5%:日の本穀粉社製)500gを用意した。これとは別に、水500gにコンニャクマンナン(イナゲルマンナン100A:伊那食品工業(株)製)5gを加え溶解させた。この液を70℃に加温し、徐々に米粉に加えながら混練し生地を作製した。その後、この生地を厚さ2mmのシート状とした後、幅3mmに裁断し麺状生地とした(さぬき製麺)。この生地100gを袋に充填しレトルト殺菌機を使用して、表12に示した温度、時間で湿熱処理を行うことで実施例24〜28、比較例6〜7に係る麺状食品用生地を得た。これらについて実験例1同様にしてα化度、物性を測定し、結果を表12、13に示した。
【0060】
【表12】

【0061】
【表13】

【0062】
以上のように、加熱処理時間は5〜240分で生地の表層がレジスタントスターチ化され食感が良く茹でた時の溶け出しが少ないものができた。240分を越えると生地内部の澱粉粒の破壊によるものと思われる食感低下が起きた。
【0063】
[実験例7(実施例29〜33、比較例8〜9)]
米粉(重量平均粒子径50μm、澱粉損傷率7.5%:日の本穀粉社製)500gを用意した。これとは別に、表14に示した水量にアルギン酸ナトリウム(イナゲルGS―70:伊那食品工業(株)製)5gを加え溶解させた。この液を70℃に加温し、表14に示した添加水量を徐々に米粉に加えながら混練し生地を作製した。その後、この生地を厚さ2mmのシート状とした後、幅3mmに裁断し麺状生地とした(さぬき製麺)。この生地100gを袋に充填しレトルト殺菌機を使用して120℃、25分間湿熱処理を行うことで実施例29〜33、比較例8〜9に係る麺状食品用生地を得た。これらについて実験例1同様にしてα化度、物性を測定し、結果を表14、15に示した。
【0064】
【表14】

【0065】
【表15】

【0066】
以上のように、湿熱処理前の生地の水分量は30〜130%のものが、生地の表層がレジスタントスターチ化され食感が良く茹でた時の溶け出しが少ないものができた。
【0067】
[実験例8(実施例34〜36、比較例10)]
精白米を粉砕機(マイクロバンタムミル:型式AP−B:ホソカワミクロン株式会社製)にて粉砕し、篩いにて篩い分けた米粉を用いて実験をした。粒子径は、粒度分布測定器(Microtrac,MT3000:日機装社製)を使用して測定した。表16に示した粒子径の米粉500gに、水500gを徐々に加えながら混練し生地を作製した。その後、この生地を厚さ2mmのシート状とした後、幅3mmに裁断し麺状生地とした。この生地100gを袋に充填しレトルト殺菌機を使用して120℃、25分間湿熱処理を行うことで実施例34〜36、比較例10に係る麺状食品用生地を得た。これらについて実験例1同様にしてα化度、物性を測定し、結果を表16、17に示した。また、用いた米粉の澱粉損傷率を酸溶解法(有坂と吉井 1991)で求めた。具体的には、米粉約500mgを0.25N塩酸溶液50mLの入った共栓三角フラスコに秤量し、55℃恒温水槽中で2時間振とう後、溶液をガラス製遠心管に移し遠心分離機(GRX−250:トミー精工社製)を使用して遠心分離(5000rpm、20分)し、上澄液の全糖量をフェノール硫酸法により求めた。澱粉損傷率(%)は上記数2の式により計算し、結果を表17に示した。
【0068】
【表16】

【0069】
【表17】

【0070】
以上のように、米粉の粒子径は20〜300μmにおいて、生地の表層がレジスタントスターチ化され食感が良く茹でた時の溶け出しが少ないものができ、粒子径が300μmより大きくなると麺の腰が弱くなり食感が悪くなる傾向があった。
【0071】
[実験例9(実施例37、比較例11)]
米粉(重量平均粒子径50μm、澱粉損傷率7.5%:日の本穀粉社製)100gにコンニャクマンナン(イナゲルマンナン100A:伊那食品工業(株)製)0.2g、ジェランガム(イナゲルGP−10:伊那食品工業(株)製)0.2gを添加し粉体混合したものに、お湯90gを徐々に加えながら混練し生地を作製した。その後、この生地を棒状にし、長さ15mmの円筒にカットしていき、この円筒を引き延ばして餃子の皮とした。これを袋に入れレトルト殺菌機にて115℃、40分湿熱処理を行い実施例37に係るギョーザの皮を作製した。比較例11として湿熱処理を行わない以外は実施例37と同様にしてギョーザの皮を作製した。このギョーザの皮を20分間蒸し上げた。これを3g打ち抜き、実験例1と同様にしてα化度、物性を測定し、結果を表18、19に示した。ただし、破断強度、茹でた時の溶け出しは測定せず、また食感の評価項目は、5点:腰があってしかも柔らかい食感。1点:腰が弱い。とした。
【0072】
【表18】

【0073】
【表19】

【0074】
以上のように、ギョーザの皮を使用した場合においても、生地の表層がレジスタントスターチ化され食感が良いギョーザの皮ができた。
【0075】
[実験例10(実施例19〜23、比較例4〜5、12)]
実験例5で作製した麺状食品用生地について表層以外の部分がレジスタントスターチ化しているか測定した。具体的には、実験例5で作製した麺状食品用生地のサンプル10g分を切断し精製水200gを加え、これについてホモジナイズ(T.K.HOMOMIXER MARKII:特殊機化工業社製)を行い、均一にしたものについて95℃で10分間加熱処理し、α化させる処理を行った。これを37℃に冷却後、α−アミラーゼ(和光純薬工業社製)50ユニットを添加し、振とうさせながら30分、60分、及び120分間反応させ、その後に溶液のサンプリングを行い、溶液をろ過後、Park−Johnson法にてα−アミラーゼの消化作用によって生じた澱粉の還元末端の定量を行った。麺状食品用生地10gに相当する米粉量(5g)を計りこれに精製水200gを加え、95℃で10分間加熱処理したときの還元糖量の値を同様の方法により求め、この値(120分後)を100として、これに対するそれぞれの還元糖量の割合を示した。結果を表20に示す。
【0076】
【表20】

【0077】
比較例12として、以下の麺状食品用生地を作製した。具体的には、米粉450g、レジスタントスターチ(HB−450:三和澱粉社製)50gに、水500gにグアーガム(イナゲルGR−10:伊那食品工業(株)製)5gを加え溶解させた。この液を70℃に加温し、徐々にレジスタントスターチ含有米粉に加えながら混練し生地を作製した。その後、この生地を厚さ2mmのシート状とした後、幅3mmに裁断し麺状生地とし(さぬき製麺)比較例12に係る麺状食品用生地を得た。これについて実験例1と同様にして生地表層から生じる還元糖量を測定した。また、サンプル10g分を切断し精製水200gを加え、これについてホモジナイズ(T.K.HOMOMIXER MARKII:特殊機化工業社製)を行い均一にしたものについて同様に95℃で10分間加熱処理を行い還元糖量の測定を行った。
【0078】
還元糖量は、ホモジナイズしていないものについては比較例2の120分後の還元末端数を100として、これに対するそれぞれの還元末端数の割合を示した。ホモジナイズしたものについては米粉含有食品10gに相当する米粉量(5g)を計りこれに精製水200gを加え、95℃で10分間加熱処理したときの還元糖量の値を同様の方法により求め、この値(120分後)を100として、これに対する還元糖量の割合を示した。結果を表21に示す。
また、実験例1と同様にして物性を測定し、結果を表23に示す。
【0079】
【表21】

【0080】
【表23】

【0081】
以上のように、実施例19〜23に係る麺状食品用生地は、表層のみレジスタントスターチ化しており、加熱した場合、内部のみα化し、茹でたときの溶け出しがなく、食感が良好であることが確認された。また、レジスタントスターチを湿熱処理前に添加した比較例12は、レジスタントスターチが生地に混入されてしまっているためにα化した澱粉同士結合を阻害し食感が悪い麺になった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
米粉を主成分とする米粉食品用生地において、生地表層がレジスタントスターチ化されていることを特徴とする米粉食品用生地。
【請求項2】
生地を成形加工後に湿熱処理が行なわれることにより、生地表層がレジスタントスターチ化されていることを特徴とする請求項1記載の米粉食品用生地。
【請求項3】
前記湿熱処理は、成形した状態の含水率が30〜130%、α化度が70%以下の原料生地を105〜140℃で5分〜240分、生地表面に加湿された熱を加えること又は密閉された空間で外部から熱を加えることによって、行なわれることを特徴とする請求項2記載の米粉食品用生地。
【請求項4】
95℃で10分間茹でた際のPark−Johnson法による120分後のα−アミラーゼの消化作用によって生じた還元末端数の割合が、湿熱処理を行わない生地に対し80%以下であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の米粉食品用生地。
【請求項5】
ホモジナイズされた生地を95℃で10分間茹でた際のPark−Johnson法による120分後のα−アミラーゼの消化作用によって生じた還元末端数の割合が、湿熱処理を行わない生地に対し85%以上であることを特徴とする請求項4記載の米粉食品用生地。
【請求項6】
更に、糊料が含まれていることを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載の米粉食品用生地。
【請求項7】
前記糊料がキサンタンガム、グアーガム、タラガム、ペクチン、カードラン、ゼラチン、タマリンドガム、サイリウムシードガム、アラビアガム、カシアガム,プルラン、CMC−Na、カラギナン、コンニャクマンナン、ローカストビーンガム、寒天、ジェランガム、アルギン酸塩より選ばれる1以上であることを特徴とする請求項6記載の米粉食品用生地。
【請求項8】
麺状に成形されていることを特徴とする請求項1乃至7いずれか記載の米粉食品用生地。
【請求項9】
米粉の重量平均粒子径が20μm〜300μmであり、かつ澱粉損傷率が30%以下であることを特徴とする請求項1乃至8いずれか記載の米粉食品用生地。
【請求項10】
請求項1乃至9いずれか記載の米粉食品用生地を加熱調理した米粉食品。

【公開番号】特開2012−139157(P2012−139157A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293599(P2010−293599)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】