説明

米糠の利用方法

【課題】 米糠から製造された油を原料とすることなく、米糠を直接原料として、遊離脂肪酸等のための前処理を必要とせず、環境有害物質の排出なしにBDFを製造する米糠の利用法を開発する。
【解決手段】 過熱気化アルコールによる米糠の油分の抽出・反応を行い、BDFを気相採取する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は米糠の工業的な利用方法、特に米糠中の油成分のバイオ燃料としての有効な利用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
米糠は古くから漬物等の食品加工の媒体として利用されるほか、20%前後含まれる油分が米油として食用或いは健康補助食品として用いられて来た。 更に最近では、地球温暖化対策の一環として、炭酸ガスの最大発生源の一つである化石系燃料を炭酸ガスニュートラルな植物系燃料に置き換えることが大きな命題となって来たため、米糠もそのための資源として検討されつつある。これまでのところでは、米油を原料としてアルカリ触媒或いは酵素触媒を用いて脂肪酸エステルを得、これをバイオディーゼル燃料(以下BDFと略記)とすることが提案され(特許文献1、非特許文献1、2)、基本的にはこれが可能であることが示されている。
【0003】
しかしながら、米油は製造にかなりのコストを必要とするため、これを原料とする限り他の安価な植物油原料からのBDFとは競争力が無く、また、米油は遊離脂肪酸の含有量が通常の原料植物油に比べて著しく高く、アルカリ触媒法では前処理でこれを反応系から除外しておくことが必要なため、原理的に不利を免れない。酵素触媒はこのような前処理を必要としないが、反応速度が遅いため、現行のBDF製造には殆ど使用されていない。 一方、本発明者らは、既に触媒を必要としないBDF製造方法を開発している(特許文献2〜4)が、この方法の応用によって、米糠から直接BDFを製造することが可能であることを見出した。
【特許文献1】特開2002−233393
【特許文献2】PCT/JP2004/010349
【特許文献3】特願2004−231676
【特許文献4】特願2005−225911
【非特許文献1】S.Zullaikah他:Bioresource Technology 96(2005)p.1889−1896
【非特許文献2】Yi−Hsu Ju他:J.Sci.Ind.Res.vol.64 No.11(2005)p.866−882
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
米糠から製造された油を原料とすることなく、米糠を直接原料として、遊離脂肪酸等のための前処理を必要とせず、環境有害物質の排出なしにBDFを製造する米糠の利用法を開発する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)米油を原料とすることなく、米糠に過熱気化アルコールを作用させて脂肪酸エステル若しくは脂肪酸エステルとグリセリンとを採取することを特徴とする米糠の利用法。
(2)米油を原料とすることなく、米糠に過熱気化アルコールを作用させて脂肪酸エステル若しくは脂肪酸エステルとグリセリンとを採取する米糠の利用法において、適宜の形式の熱風式乾燥機若しくは該乾燥機をベースとした同種形式の装置或いは適宜の形式の空気流式粉砕機若しくは該粉砕機をベースとした同種形式の装置或いは一定雰囲気中に保持された摩砕式粉砕機若しくは該粉砕機をベースとした同種形式の装置(以上の各装置を総称して以下気相抽出反応装置と言う)を使用し、熱風若しくは気流に代えて過熱気化アルコールを用いるか、該一定雰囲気を過熱気化アルコールとするかして、エステル化及び/又はエステル交換反応によって米糠中の油分から脂肪酸エステルを得、該脂肪酸エステルを含む反応生成物を余剰の過熱気化アルコールと共に気相採取し、沸点差又は/及び比重差を利用して脂肪酸エステルと副反応性生物(グリセリン等)とを分離することを特徴とする米糠の利用法。
(3)(2)記載の気相抽出反応装置が、乾燥対象と熱風とが直接接触する方式の円筒回転型乾燥機若しくはこれをベースととした同種形式の装置であり、傾斜円筒内部に掻上板を備え、円筒の回転につれて上方から供給された米糠が上昇・落下を繰り返し、キルンアクションによって下方に移動しつつ、向流若しくは並流として導入される過熱気化アルコールとの接触が行われる連続操業形式のもの、或いは更に接触機会を増加させるために小仕切り格子又は/及び還状堰を設ける等の改良を施したものであるか、若しくは円筒を水平に保持してバッチ式操業が行われるものであることを特徴とする米糠の利用法。
(4)(2)記載の気相抽出反応装置が、乾燥対象と熱風とが直接接触する方式の通気円筒回転型乾燥機若しくはこれをベースととした同種形式の装置であり、傾斜二重円筒の、多数の羽根を重ねた形状の内筒内に上方から米糠を供給し、円筒の回転につれて米糠がキルンアクションによって下方に移動しつつ、内・外筒間の環状部に向流若しくは並流として導入され、羽根の間隙から内筒に流入した過熱気化アルコールと接触する連続操業形式若しくはこれに適宜の改良を加えたものであるか、若しくは円筒を水平に保持してバッチ式操業が行われるものであることを特徴とする米糠の利用法。
(5)(2)記載の気相抽出反応装置が、乾燥対象と熱風とが直接接触する方式の多段円盤回転型乾燥機若しくはこれをベースととした同種形式の装置であり、複数段の水平固定円盤上に各々攪拌翼を設け、中心軸の回転により、上方から供給される米糠を攪拌しつつ漸次下段に落とし、下方より導入される過熱気化アルコールと接触する連続操業形式であるか、若しくは1枚のみの円板を使用してバッチ式操業が行われるものであるか、若しくはこれらに適宜の改良を加えたものであることを特徴とする米糠の利用法。
(6)(2)記載の気相抽出反応装置が、1段若しくは多段(多室を含む)の流動層型乾燥機若しくはこれをベースととした同種形式の装置であり、多孔板を底板とする容器内に米糠を供給し、多孔板下方より過熱気化アルコールを導入して、米糠を一定の高さまで流動させつつ接触を行う、連続若しくはバッチ式操業形式のものであることを特徴とする米糠の利用法。
(7)(2)記載の気相抽出反応装置が、相互に平行に同方向又は逆方向に回転する2枚の回転翼または回転板の間に被粉砕物を導入し、翼間又は板間に生ずる気流に乗った被粉砕物の相互衝撃により粉砕を行う自粉砕方式の粉砕機若しくはこれをベースとした同種形式の装置であり、米糠を被粉砕物とし、気流を過熱気化アルコールとして、米糠の粉砕と同時に過熱気化アルコールとの接触を行うものであるか、若しくは該粉砕機若しくはこれをベースとした同種形式の装置を(2)〜(6)記載の各装置に前段として結合したものであることを特徴とする米糠の利用法。
(8)(2)記載の気相抽出反応装置が、一定雰囲気中に保持された1段若しくは多段ロール粉砕機若しくはこれをベースとした同種形式の装置であり、米糠を被粉砕物とし、気流を過熱気化アルコールとして、米糠の粉砕と同時に過熱気化アルコールとの接触を行うものであるか、若しくは該粉砕機若しくはこれをベースとした同種形式の装置を(2)〜(6)記載の各装置に前段として結合したものであることを特徴とする米糠の利用法。
(9)米油を原料とすることなく、米糠に過熱気化アルコールを作用させて脂肪酸エステル若しくは脂肪酸エステルとグリセリンとを採取する米糠の利用法において、攪拌装置を備えた容器中に米糠及びアルコールを入れて混合し、攪拌しつつアルコール中に過熱気化アルコールを微細気泡として導入し、エステル化及び/又はエステル交換反応によって米糠中の油分から脂肪酸エステルを得、該脂肪酸エステルを含む反応生成物を余剰の過熱気化アルコールと共に気相採取し、沸点差又は/及び比重差を利用して脂肪酸エステルと副反応生成物(グリセリン等)とを分離することを特徴とする米糠の利用法。
(10)米油を原料とすることなく、米糠に過熱気化アルコールを作用させて脂肪酸エステル若しくは脂肪酸エステルとグリセリンとを採取する米糠の利用法において、攪拌装置を備えた容器中に米糠、アルコール及び環式炭化水素化合物を入れて混合し、攪拌しつつアルコール中に過熱気化アルコールを微細気泡として導入し、エステル化及び/又はエステル交換反応によって米糠中の油分から脂肪酸エステルを得、該脂肪酸エステルを含む反応生成物を余剰の過熱気化アルコールと共に気相採取し、沸点差又は/及び比重差を利用して脂肪酸エステルと副反応生成生物等(グリセリン等)とを分離することを特徴とする米糠の利用法。
(11)(3)〜(10)の何れかに記載された利用法を複数組み合わせて使用することを特徴とする米糠の利用法。
(12)(1)〜(11)記載の利用法の何れかにおいて、米糠に接触する過熱気化アルコールの温度が200℃〜350℃であり、圧力が大気圧近傍であることを特徴とする米糠の利用法。
(13)(7)又は(8)記載の米糠の利用法において、粉砕機中で米糠に接触する過熱気化アルコールの温度が150℃〜200℃であることを特徴とする米糠の利用法。
(14)(1)〜(13)の何れかに記載の米糠の利用法において、エステル化及び/又はエステル交換反応を無触媒で行うことを特徴とする米糠の利用法。
(15)(1)〜(13)の何れかに記載の米糠の利用法において、エステル化及び/又はエステル交換反応を触媒(アルカリ、酸、固体アルカリ、固体酸、遷移金属、ゼオライト及びイオン交換樹脂各系のうち1又は複数を含むもの)の存在下で行うことを特徴とする米糠の利用法。
(16)油脂類とアルコールとの反応を行うための装置を主体とする工程(以下反応工程と言う)、熱交換により反応生成物の冷却と原料(原料アルコール及び原料油脂類。以下同様)の昇温とを行うための装置を主体とする工程及び反応生成物を分離・取得するための装置を主体とする工程のうちの2以上を連結する過熱気化アルコール循環経路を有することを特徴とする脂肪酸エステルの製造方法において、請求項2〜請求項16の何れかに記載のエステル化及び/又はエステル交換反応のための装置を反応工程に含むことを特徴とする米糠の利用法。
(17)(1)〜(15)の何れかに記載の米糠の利用法において、使用されるアルコールがメタノール又は/及びエタノールであることを特徴とする米糠の利用法。
(18)(1)〜(16)の何れかに記載の米糠の利用法において製造される脂肪酸エステル及びグリセリン。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、米糠から他の植物油を原料とするBDFと競争力を有するBDFを製造することが可能となり、温暖化対策の一翼を担うことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
第1の実施形態:第1の実施形態は、(1)、(12)、(14)、(15)及び(17)に述べたように、米糠中の油分の抽出・反応に過熱気化アルコール特に過熱気化メタノール又は/及び過熱気化アルコールを使用するものである。米油の製造においては、油分の抽出には通常ヘキサン等の溶媒が用いられ、アルコール特にメタノールは油の溶解度が低いため全く使用されない。しかし、過熱気化アルコールの状態としたメタノールは米糠中の油分を溶出させ、これとエステル交換若しくはエステル化反応することで脂肪酸メチルエステルを作る。先に述べた特許文献2〜4は、原料油中に過熱気化アルコールを吹き込み、反応生成物を過剰の過熱気化アルコールと共に気相で採取し、これからBDFとして脂肪酸エステルを、副産物としてグリセリンを得る方法に関するものであるが、該原料油に代えて米糠を適宜の手段によって過熱気化アルコール例えば過熱気化メタノールと接触させ、反応生成物を過剰の過熱気化メタノールと共に気相で採取し、適宜の手段例えば逐次凝縮によって脂肪酸エステルとグリセリンとを得ることが出来る。
【0008】
この反応は通常無触媒で行われるが、触媒(アルカリ、酸、固体アルカリ、固体酸、遷移金属、ゼオライト及びイオン交換樹脂各系のうち1又は複数を含むもの)の存在下で行うことも可能である。触媒と反応系との接触は気相で行うことも、適宜の分散媒を用いて米糠をその中に分散させ、液相で行うことも可能である。目的に応じて、複数段に分けて、各段に同一若しくは異なる触媒を使用して接触反応を行うことも出来る。
【0009】
反応時の過熱気化アルコールの温度は200℃〜350℃、好ましくは250℃〜290℃であり、圧力は大気圧近傍である。
【0010】
使用されるアルコールは主としてメタノールであり、エタノールを単独若しくはメタノールと共に使用することも出来る。
【0011】
第2の実施形態:第2の実施形態は、(2)、(3)、(4)、(5)、(12)、(14)、(15)及び(17)に述べたように、具体的な反応装置(気相抽出反応装置)として、米糠を機械的に攪拌しつつ過熱気化アルコールを接触させるものである。この目的に適した装置としては、既存の熱風式乾燥機若しくは該乾燥機をベースとした同種形式の装置、より具体的には次の3種類の装置が利用可能であり、何れの場合も乾燥対象に代えて米糠を、熱風に代えて過熱気化アルコールを使用する。
【0012】
a.乾燥対象と熱風とが直接接触する方式の円筒回転型乾燥機若しくはこれをベースととした同種形式の装置であり、傾斜円筒内部に掻上板を備え、円筒の回転につれて上方から供給された米糠が上昇・落下を繰り返し、キルンアクションによって下方に移動しつつ、向流若しくは並流として導入される過熱気化アルコールとの接触が行われるもの、或いは更に接触機会を増加させるために小仕切り格子又は/及び還状堰を設ける等の改良を施したもの等の連続操業形式若しくはこれに適宜の改良を加えたものであるか、若しくは円筒を水平に保持してバッチ式操業を行うもの。
【0013】
b.乾燥対象と熱風とが直接接触する方式の通気円筒回転型乾燥機若しくはこれをベースととした同種形式の装置であり、傾斜二重円筒の、多数の羽根を重ねた形状の内筒内に上方から米糠を供給し、円筒の回転につれて米糠がキルンアクションによって下方に移動しつつ、内・外筒間の環状部に向流若しくは並流として導入され、羽根の間隙から内筒に流入した過熱気化アルコールと接触する連続操業形式若しくはこれに適宜の改良を加えたものであるか、若しくは円筒を水平に保持してバッチ式操業を行うもの
【0014】
c.乾燥対象と熱風とが直接接触する方式の多段円盤回転型乾燥機若しくはこれをベースととした同種形式の装置であり、複数段の水平固定円盤上に各々攪拌翼を設け、中心軸の回転により、上方から供給される米糠を攪拌しつつ漸次下段に落とし、下方より導入される過熱気化アルコールと接触する連続操業形式若しくはこれに適宜の改良を加えたものであるか、若しくは1枚のみの円板を使用してバッチ式操業を行うもの
【0015】
いずれの装置を用いるにしても、これらをBDF製造のための反応工程部分としてプラントに組み込むため、反応部を所定の温度に保つための保温・加熱装置を付加し、適宜の位置に過熱気化アルコールの導入及び導出部を設けることが必要である。
【0016】
この反応は通常無触媒で行われるが、気相部分において触媒(固体アルカリ、固体酸、遷移金属、ゼオライト及びイオン交換樹脂各系のうち1又は複数を含むもの)の存在下で行うことも可能である。目的に応じて、複数段に分けて、各段に同一若しくは異なる触媒を使用して接触反応を行うことも出来る。
【0017】
反応時の過熱気化アルコールの温度は200℃〜350℃、好ましくは250℃〜290℃であり、圧力は大気圧近傍である。
【0018】
使用されるアルコールは主としてメタノールであり、エタノールを単独若しくはメタノールと共に使用することも出来る。
【0019】
第3の実施形態:第3の実施形態は、(6)、(12)、(14)、(15)及び(17)に述べたように、1段若しくは多段(多室を含む)の流動層型乾燥機若しくはこれをベースととした同種形式の装置であり、多孔板を底板とする容器内に米糠を供給し、多孔板下方より過熱気化アルコールを導入して、米糠を一定の高さまで浮遊・流動させつつ接触を行う、連続若しくはバッチ式操業形式のものである。必要に応じ、十分な接触時間を得るために、該容器を複数段直列に接続して多段装置とするか、又は1個の容器中に天井との間に空隙を持つ仕切り板を設けて複数個の室を作り、米糠が供給側の室から順次仕切り板の上部を越えて取出し側の室へ移動しつつ過熱気化アルコールと接触するようにする。BDF製造のための反応工程部分としてプラントに組み込むため、反応部を所定の温度に保つための保温・加熱装置を付加し、適宜の位置に過熱気化アルコールの導入及び導出部を設けることが必要である。
【0020】
この反応は通常無触媒で行われるが、気相部分において触媒(固体アルカリ、固体酸、遷移金属、ゼオライト及びイオン交換樹脂各系のうち1又は複数を含むもの)の存在下で行うことも可能である。目的に応じて、複数段に分けて、各段に同一若しくは異なる触媒を使用して接触反応を行うことも出来る。
【0021】
反応時の過熱気化アルコールの温度は200℃〜350℃、好ましくは250℃〜290℃であり、圧力は大気圧近傍である。
【0022】
使用されるアルコールは主としてメタノールであり、エタノールを単独若しくはメタノールと共に使用することも出来る。
【0023】
第4の実施形態:第4の実施形態は、(7)、(8)、(12)、(13)、(14)、(15)及び(17)に述べたように、米糠の粉砕と過熱気化アルコールによる抽出・反応とを組み合わせたもので、具体的には次の2種類の粉砕機が利用可能である。
【0024】
d.相互に平行に同方向又は逆方向に回転する2枚の回転翼または回転板の間に被粉砕物を導入し、翼間又は板間に生ずる気流に乗った被粉砕物の相互衝撃により粉砕を行う自粉砕方式の粉砕機若しくはこれをベースとした同種形式の装置であり、米糠を被粉砕物とし、気流を過熱気化アルコールとして、米糠の粉砕と同時に過熱気化アルコールとの接触を行うもの。
【0025】
e.一定雰囲気中に保持された1段若しくは多段ロール粉砕機若しくはこれをベースとした同種形式の装置であり、米糠を被粉砕物とし、一定雰囲気を過熱気化アルコールとして、米糠の粉砕と同時に過熱気化アルコールとの接触を行うもの。
【0026】
この方式においては、米糠がより微細化すること或いは米糠の構造部分がせん断を受けることで油分が抽出され易くなると考えられ、第2及び第3の実施形態においては反応時の過熱気化アルコールの温度は200℃〜350℃、好ましくは250℃〜290℃であり、圧力は大気圧近傍であるのに対し、より低い温度、150℃〜200℃、圧力は大気圧近傍で操業を行うことが出来る。また、他の抽出反応装置の前段としても有効なものである。
【0027】
いずれの装置を用いるにしても、これらをBDF製造のための反応工程部分としてプラントに組み込むため、反応部を所定の温度に保つための保温・加熱装置を付加し、適宜の位置に過熱気化アルコールの導入及び導出部を設けることが必要である。
【0028】
この反応は通常無触媒で行われるが、気相部分において触媒(固体アルカリ、固体酸、遷移金属、ゼオライト及びイオン交換樹脂各系のうち1又は複数を含むもの)の存在下で行うことも可能である。目的に応じて、複数段に分けて、各段に同一若しくは異なる触媒を使用して接触反応を行うことも出来る。
【0029】
使用されるアルコールは主としてメタノールであり、エタノールを単独若しくはメタノールと共に使用することも出来る。
【0030】
第5の実施形態:第5の実施形態は、(9)、(10)、(12)、(14)、(15)及び(17)に述べたように、攪拌装置を備えた容器中に米糠、アルコール若しくはアルコールと油脂の良溶媒である環式炭化水素化合物との混合物を入れて混合し、攪拌しつつアルコール若しくはアルコールと油脂の良溶媒である環式炭化水素化合物との混合物中に過熱気化アルコールを微細気泡として導入し、エステル化及び/又はエステル交換反応によって米糠中の油分から脂肪酸エステルを得、該脂肪酸エステルを含む反応生成物を余剰の過熱気化アルコールと共に気相採取し、沸点差又は/及び比重差を利用して脂肪酸エステルと副反応生成物(グリセリン等)とを分離するものである。この方法に対しては、油の溶剤抽出装置若しくはこれをベースとした同種形式の装置を利用することが可能であり、BDF製造のための反応工程部分としてプラントに組み込むため、反応部を所定の温度に保つための保温・加熱装置を付加し、適宜の位置に過熱気化アルコールの導入及び導出部を設けることが必要である。
【0031】
分散媒として容器中に入れられたアルコール若しくはアルコールと環式炭化水素化合物との混合物は、導入された過熱気化アルコールによって加熱され、蒸発して反応生成物と共に過剰の過熱気化アルコールと共に容器外に出,脂肪酸エステルと副反応生成生物等(グリセリン等)と同様、沸点差又は/及び比重差によって分離・回収後再使用される。
【0032】
この反応は通常無触媒で行われるが、触媒(アルカリ・酸等の化学触媒、固体アルカリ、固体酸、遷移金属、ゼオライト及びイオン交換樹脂各系のうち1又は複数を含むもの)の存在下で行うことも可能である。目的に応じて、複数段に分けて、各段に同一若しくは異なる触媒を使用して接触反応を行うことも出来る。
【0033】
反応時の過熱気化アルコールの温度は200℃〜350℃、好ましくは250℃〜290℃であり、圧力は大気圧近傍である。
【0034】
使用されるアルコールは主としてメタノールであり、エタノールを単独若しくはメタノールと共に使用することも出来る。
【0035】
第6の実施形態:第6の実施形態は、(16)に述べたように、上記の各実施形態の気相抽出反応装置を含む全体プラントの設計に関するものであって、特許文献3の内容である、「油脂類とアルコールとの反応を行うための装置を主体とする工程(以下反応工程と言う)、熱交換により反応生成物の冷却と原料(原料アルコール及び原料油脂類。以下同様)の昇温とを行うための装置を主体とする工程及び反応生成物を分離・取得するための装置を主体とする工程のうちの2以上を連結する過熱気化アルコール循環経路を有することを特徴とする脂肪酸エステルの製造方法」において、「上記の各実施形態の気相抽出反応装置の何れかを反応工程に含む」とするものである。
【0036】
第1〜第5の各実施形態におけるエステル交換反応及びエステル化反応は何れも平衡反応であるので、平衡条件を有利にするため理論値よりも過剰のアルコールが使用される。本実施形態は、該アルコールの回収・再使用を容易にし、熱収支を改善するため、各工程を密閉された過熱気化アルコール循環経路で連結し、該経路から必要生成物を取り出すと同時に該生成物のために消費された分の原料のみを該経路に供給するものである。過剰分のアルコールは、過熱気化アルコールの状態で常に一定量が密閉経路内に保持され、反応分以外のアルコールを供給する必要は無い。この方法によれば、熱交換を十分利用すれば、反応に必要な熱エネルギーは、BDFに換算して生産BDFの5%以下であることが示されている。
【産業上の利用可能性】
【0037】
米糠は米油・飼料等として利用されてはいるが、廃棄される部分もあり、特に東南アジアの米生産国ではその利用は十分でない。本発明はこれら未利用資源としての米糠から容易かつ安価にBDFを製造することを可能にするものであり、広範囲な利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米油を原料とすることなく、米糠に過熱気化アルコールを作用させて脂肪酸エステル若しくは脂肪酸エステルとグリセリンとを採取することを特徴とする米糠の利用法。
【請求項2】
米油を原料とすることなく、米糠に過熱気化アルコールを作用させて脂肪酸エステル若しくは脂肪酸エステルとグリセリンとを採取する米糠の利用法において、適宜の形式の熱風式乾燥機若しくは該乾燥機をベースとした同種形式の装置或いは適宜の形式の空気流式粉砕機若しくは該粉砕機をベースとした同種形式の装置或いは一定雰囲気中に保持された摩砕式粉砕機若しくは該粉砕機をベースとした同種形式の装置(以上の各装置を総称して以下気相抽出反応装置と言う)を使用し、熱風若しくは気流に代えて過熱気化アルコールを用いるか、該一定雰囲気を過熱気化アルコールとするかして、エステル化及び/又はエステル交換反応によって米糠中の油分から脂肪酸エステルを得、該脂肪酸エステルを含む反応生成物を余剰の過熱気化アルコールと共に気相採取し、沸点差又は/及び比重差を利用して脂肪酸エステルと副反応性生物(グリセリン等)とを分離することを特徴とする米糠の利用法。
【請求項3】
請求項2記載の気相抽出反応装置が、乾燥対象と熱風とが直接接触する方式の円筒回転型乾燥機若しくはこれをベースととした同種形式の装置であり、傾斜円筒内部に掻上板を備え、円筒の回転につれて上方から供給された米糠が上昇・落下を繰り返し、キルンアクションによって下方に移動しつつ、向流若しくは並流として導入される過熱気化アルコールとの接触が行われる連続操業形式のもの、或いは更に接触機会を増加させるために小仕切り格子又は/及び還状堰を設ける等の改良を施したものであるか、若しくは円筒を水平に保持してバッチ式操業が行われるものであることを特徴とする米糠の利用法。
【請求項4】
請求項2記載の気相抽出反応装置が、乾燥対象と熱風とが直接接触する方式の通気円筒回転型乾燥機若しくはこれをベースととした同種形式の装置であり、傾斜二重円筒の、多数の羽根を重ねた形状の内筒内に上方から米糠を供給し、円筒の回転につれて米糠がキルンアクションによって下方に移動しつつ、内・外筒間の環状部に向流若しくは並流として導入され、羽根の間隙から内筒に流入した過熱気化アルコールと接触する連続操業形式若しくはこれに適宜の改良を加えたものであるか、若しくは円筒を水平に保持してバッチ式操業が行われるものであることを特徴とする米糠の利用法。
【請求項5】
請求項2記載の気相抽出反応装置が、乾燥対象と熱風とが直接接触する方式の多段円盤回転型乾燥機若しくはこれをベースととした同種形式の装置であり、複数段の水平固定円盤上に各々攪拌翼を設け、中心軸の回転により、上方から供給される米糠を攪拌しつつ漸次下段に落とし、下方より導入される過熱気化アルコールと接触する連続操業形式であるか、若しくは1枚のみの円板を使用してバッチ式操業が行われるものであるか、若しくはこれらに適宜の改良を加えたものであることを特徴とする米糠の利用法。
【請求項6】
請求項2記載の気相抽出反応装置が、1段若しくは多段(多室を含む)の流動層型乾燥機若しくはこれをベースととした同種形式の装置であり、多孔板を底板とする容器内に米糠を供給し、多孔板下方より過熱気化アルコールを導入して、米糠を一定の高さまで流動させつつ接触を行う、連続若しくはバッチ式操業形式のものであることを特徴とする米糠の利用法。
【請求項7】
請求項2記載の気相抽出反応装置が、相互に平行に同方向又は逆方向に回転する2枚の回転翼または回転板の間に被粉砕物を導入し、翼間又は板間に生ずる気流に乗った被粉砕物の相互衝撃により粉砕を行う自粉砕方式の粉砕機若しくはこれをベースとした同種形式の装置であり、米糠を被粉砕物とし、気流を過熱気化アルコールとして、米糠の粉砕と同時に過熱気化アルコールとの接触を行うものであるか、若しくは該粉砕機若しくはこれをベースとした同種形式の装置を請求項2〜請求項6記載の各装置に前段として結合したものであることを特徴とする米糠の利用法。
【請求項8】
請求項2記載の気相抽出反応装置が、一定雰囲気中に保持された1段若しくは多段ロール粉砕機若しくはこれをベースとした同種形式の装置であり、米糠を被粉砕物とし、気流を過熱気化アルコールとして、米糠の粉砕と同時に過熱気化アルコールとの接触を行うものであるか、若しくは該粉砕機若しくはこれをベースとした同種形式の装置を請求項2〜請求項6記載の各装置に前段として結合したものであることを特徴とする米糠の利用法。
【請求項9】
米油を原料とすることなく、米糠に過熱気化アルコールを作用させて脂肪酸エステル若しくは脂肪酸エステルとグリセリンとを採取する米糠の利用法において、攪拌装置を備えた容器中に米糠及びアルコールを入れて混合し、攪拌しつつアルコール中に過熱気化アルコールを微細気泡として導入し、エステル化及び/又はエステル交換反応によって米糠中の油分から脂肪酸エステルを得、該脂肪酸エステルを含む反応生成物を余剰の過熱気化アルコールと共に気相採取し、沸点差又は/及び比重差を利用して脂肪酸エステルと副反応生成物(グリセリン等)とを分離することを特徴とする米糠の利用法。
【請求項10】
米油を原料とすることなく、米糠に過熱気化アルコールを作用させて脂肪酸エステル若しくは脂肪酸エステルとグリセリンとを採取する米糠の利用法において、攪拌装置を備えた容器中に米糠、アルコール及び環式炭化水素化合物を入れて混合し、攪拌しつつアルコール中に過熱気化アルコールを微細気泡として導入し、エステル化及び/又はエステル交換反応によって米糠中の油分から脂肪酸エステルを得、該脂肪酸エステルを含む反応生成物を余剰の過熱気化アルコールと共に気相採取し、沸点差又は/及び比重差を利用して脂肪酸エステルと副反応生成生物等(グリセリン等)とを分離することを特徴とする米糠の利用法。
【請求項11】
請求項3〜請求項10の何れかに記載された利用法を複数組み合わせて使用することを特徴とする米糠の利用法。
【請求項12】
請求項1〜請求項11記載の利用法の何れかにおいて、米糠に接触する過熱気化アルコールの温度が200℃〜350℃であり、圧力が大気圧近傍であることを特徴とする米糠の利用法。
【請求項13】
請求項7又は請求項8記載の米糠の利用法において、粉砕機中で米糠に接触する過熱気化アルコールの温度が150℃〜200℃であることを特徴とする米糠の利用法。
【請求項14】
請求項1〜請求項13の何れかに記載の米糠の利用法において、エステル化及び/又はエステル交換反応を無触媒で行うことを特徴とする米糠の利用法。
【請求項15】
請求項1〜請求項13の何れかに記載の米糠の利用法において、エステル化及び/又はエステル交換反応を触媒(アルカリ、酸、固体アルカリ、固体酸、遷移金属、ゼオライト及びイオン交換樹脂各系のうち1又は複数を含むもの)の存在下で行うことを特徴とする米糠の利用法。
【請求項16】
油脂類とアルコールとの反応を行うための装置を主体とする工程(以下反応工程と言う)、熱交換により反応生成物の冷却と原料(原料アルコール及び原料油脂類。以下同様)の昇温とを行うための装置を主体とする工程及び反応生成物を分離・取得するための装置を主体とする工程のうちの2以上を連結する過熱気化アルコール循環経路を有することを特徴とする脂肪酸エステルの製造方法において、請求項2〜請求項16の何れかに記載のエステル化及び/又はエステル交換反応のための装置を反応工程に含むことを特徴とする米糠の利用法。
【請求項17】
請求項1〜請求項15の何れかに記載の米糠の利用法において、使用されるアルコールがメタノール又は/及びエタノールであることを特徴とする米糠の利用法。
【請求項18】
請求項1〜請求項16の何れかに記載の米糠の利用法において製造される脂肪酸エステル及びグリセリン。

【公開番号】特開2008−266544(P2008−266544A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133470(P2007−133470)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000100757)アイシーエス株式会社 (26)
【Fターム(参考)】