説明

米菓用改質剤

【課題】 膨化性に優れソフトな食感を有した米菓を得ることができ、かつ米菓の生産効率の向上に寄与することができる米菓用改質剤、ならびに該米菓用改質剤を用いて製造された米菓用生地、米菓を提供する。
【解決手段】 米菓用生地、米菓の製造に際して、ポリグリセリン脂肪酸エステルからなることを特徴とする米菓用改質剤であって、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの主構成脂肪酸が炭素数14〜22の飽和脂肪酸であるものを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米菓用改質剤ならびにそれを含有する米菓用生地、米菓に関する。
【背景技術】
【0002】
米菓は、米または米穀粉を主原料とした焼き菓子で、その独特の風味、食感に支えられ日本人に広く親しまれている。従来から様々な食感のものがあり好みは人それぞれであるが、近年、軽い食感が好まれる傾向の中で、膨化性に優れソフトな食感を有した米菓が望まれている。
【0003】
一般に、米菓は粳米を用いる煎餅、糯米を用いるあられ、おかき類に分けられる。その膨化性は、何れも原料の主体である澱粉の性状に影響を受けることが知られており、米質はもちろんその製造条件にも大きく依存する。
【0004】
通常、煎餅は、洗米→水浸漬→水切りを行なった後に製粉され、さらに蒸練→水冷→練出しの工程を経て、圧延→型抜きが行なわれ、これを乾燥→寝かせの後、焼上げ→仕上げ(味付け)の工程を経て製造される。一方、あられ、おかき類では、洗米→水浸漬→水切りを行なった後、製粉することなく蒸きょう→もち搗きの後、冷蔵により硬化させた後に硬化生地をスライスし、これを乾燥→焼上げ→仕上げ(味付け)の工程を経て製造される。また、糯米を主原料として煎餅の製造工程と同様に処理し、あるいは粳米を主原料としてあられ、おかき類の製法と同様にして製品化することも行われ、実際には多様な製造条件で生産が行われている。
【0005】
このように、米菓の製造には多数の工程が存在する。しかしながら、その種類に因らず乾燥させた生地を焼成することで製造されており、焼成に供される生地の性状を最終決定する意味において乾燥工程は非常に重要である。この乾燥工程の手間を省いた場合、焼成時の浮きが悪くなり、得られる米菓は堅くなってしまうことから、時間と労力をかけじっくりと乾燥生地を造り上げる必要があるが、この一連の工程は生産効率の向上を妨げる要因ともなっており、その改善もが望まれている。
【0006】
これまで、上記課題のうち、米菓のソフト化の手段の一つとして食品用乳化剤の利用が知られており、米菓原料に油脂、及び/又は食用乳化剤を配合することを特徴とするソフトな食感を有する米菓類の製造法(特許文献1)が提案されている。かかる技術では、食用乳化剤としてショ糖脂肪酸エステル、レシチン等が用いられ、一定の改善効果は見られているが、近年のニーズに対して必ずしも充分なものとは言えなかった。また、約0.5〜50μの粒径になるまで粉砕した粳米粉を主原料とする粳米菓の製造法(特許文献2)が開示されている。特許文献2においては、特定の粒径の米穀粉を用いたことによる過剰な膨化を改善するために乳化剤が添加されており、乳化剤のうち殊にポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルがよく、その他の乳化剤は一般に膨化を抑制しすぎる傾向があるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭55−42524号公報
【特許文献2】特開平3−259041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、膨化性に優れソフトな食感を有した米菓を得ることができ、かつ米菓の生産効率の向上に寄与することができる米菓用改質剤、ならびに該米菓用改質剤を用いて製造された米菓用生地、米菓を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が鋭意研究を重ねた結果、米菓用生地に特定のポリグリセリン脂肪酸エステルを配合することによって、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、ポリグリセリン脂肪酸エステルからなることを特徴とする米菓用改質剤であって、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが、炭素数14〜22の飽和脂肪酸を主構成脂肪酸とすることを特徴とする。さらに、前記米菓用改質剤を含有する米菓用生地、米菓に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る米菓用改質剤によれば、膨化性に優れ大きくすっきりとした外観の米菓が得られるだけでなく、米菓として程よい歯触りを有したままソフトな食感をも付与することができる。また、米菓の製造過程では、乾燥工程において生地全体が均一に乾燥しやすくなり、乾燥や焼成時における破損を防止できると共に、短時間で米菓を製造することができる。このため、製造条件の柔軟性が高まり、嗜好の変化や多様化にも対応できるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施形態に基づき以下に説明するが、本発明の範囲はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で、変更等が加えられた形態も本発明に属する。
【0013】
本発明におけるポリグリセリン脂肪酸エステルは、平均重合度が2以上のグリセリン重合体と脂肪酸とのエステル化物であり、従来公知のエステル化反応等により得られる。ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸としては、炭素数14〜22の飽和脂肪酸を主構成脂肪酸とすることを特徴とし、より好ましくは炭素数16〜22の飽和脂肪酸を使用する。ここで、主構成脂肪酸とは、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の大部分は前記脂肪酸よりなるが、本発明の目的、効果が達成される範囲で、他の脂肪酸が一種または二種以上含まれてもよいとの意味である。本発明のように、炭素数14〜22の飽和脂肪酸を主構成脂肪酸とすることで、米菓用生地の乾燥工程において生地全体が均一に乾燥しやすくなる。炭素数14〜22の飽和脂肪酸としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸等が例示される。一方、その他の脂肪酸には、動植物油脂類を起源とする食用可能な脂肪酸として、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸といった炭素数8〜12の飽和脂肪酸、デセン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、エルカ酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0014】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンとしては、特に限定されないが、平均重合度が2〜20であれば良く、平均重合度が4〜20であるとより好ましい。例えば、ジグリセリン(平均重合度2)、トリグリセリン(平均重合度3)、テトラグリセリン(平均重合度4)、ヘキサグリセリン(平均重合度6)、デカグリセリン(平均重合度10)等が挙げられる。ここで平均重合度(n)は、末端分析法による水酸基価から算出される値であり、詳しくは、次式(式1)及び(式2)から平均重合度(n)が算出される。
(式1)分子量=74n+18
(式2)水酸基価=56110(n+2)/分子量
【0015】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBとしては、好ましくは2〜12、より好ましくは4〜10のものを使用する。ここで、HLBとは、一般に乳化剤の親水性と親油性(疎水性)の程度を表わす尺度であり、親水性の強いものほど値が大きい。HLBの求め方としては既存の種々の手法が利用されるが、本発明においては、Griffinの経験式(式3)が用いられる。
(式3)HLB=20(1−SV/NV)
SV:エステルのケン化価
NV:脂肪酸の中和価
【0016】
本発明における米菓用改質剤の使用量は、米菓製造の各種条件が多様であり一概には決定することができないが、通常、米菓に0.01〜2.0重量%、好ましくは0.05〜1.0重量%の割合で添加することにより十分な効果を得ることができる。0.01重量%未満では本発明の目的とする効果が期待できず、2.0重量%より多いと機能的メリットに対するコスト高が許容されない場合がある。なお、本発明の米菓用改質剤は、米粒あるいは米粉などを蒸煮してから混練またはつき上げて米菓用生地を調製する場合には混練あるいはつき上げ工程の直前に原材料混合物に添加され、米粉、デンプンなどを水とともに混練して生地を調製してから蒸煮する場合には混練工程で原材料混合物に添加される。
【0017】
本発明の米菓用改質剤には、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルの他に、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の他の乳化剤を併用してもよい。
【0018】
本発明において米菓用生地とは、粳米粒または糯米粒そのもの、あるいはそれらを製粉した米粉や単離したデンプン、あるいはそれらの混合物に必要に応じて水を加えて蒸煮、混練などを施して固形化したものやゲル、その乾燥物をいう。糯米生地および粳米生地はいずれも100%糯米あるいは粳米からなる必要はなく、膨化性や食感等の改善のために、他の穀粉やワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉等の未加工澱粉ならびに加工澱粉が添加されたものを含む。また、本発明により製造される米菓としては、煎餅、おかき、あられ等が挙げられ、焼き上げやフライなど従来公知の膨化方法で得ることができる。
【0019】
本発明の米菓の製造法は、上記米菓用改質を含有させることを除けば、従来の米菓製造法と特に変わりなく製造することができる。米菓用生地には、副原料として、糖類、糖アルコール類、油脂類、胡麻、豆類、海老粉、青のり等の食品素材、その他呈味原料、食品添加物などを適宜加えることができる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0021】
<実施例1>
粳米粉100重量部、米菓用改質剤0.2重量部、水80重量部を電気餅つき機に入れて、蒸し上げた後に混練して、米菓用生地を調製した。得られた米菓用生地を厚さ2mm程度に圧延し、φ80mmの形状に型抜きした。成型品を80℃で2時間もしくは2.5時間乾燥し、得られた乾燥品を210℃で5分間焙焼して素焼きの米菓(煎餅)を得た。米菓用改質剤には、ポリグリセリンパルミチン酸ステアリン酸エステル(ポリグリセリンの平均重合度6、HLB7)を用いた。
【0022】
<実施例2>
米菓用改質剤に、ポリグリセリンベヘン酸エステル(ポリグリセリンの平均重合度10、HLB8)を用いた以外は、実施例1と同様にして米菓を得た。
【0023】
<実施例3>
米菓用改質剤に、ポリグリセリンパルミチン酸ステアリン酸エステル(ポリグリセリンの平均重合度10、HLB12)を用いた以外は、実施例1と同様にして米菓を得た。
【0024】
<実施例4>
米菓用改質剤に、ポリグリセリンミリスチン酸エステル(ポリグリセリンの平均重合度4、HLB4)を用いた以外は、実施例1と同様にして米菓を得た。
【0025】
<比較例1>
米菓用改質剤に、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(ポリグリセリンの平均重合度6、HLB2)を用いた以外は、実施例1と同様にして米菓を得た。
【0026】
<比較例2>
米菓用改質剤に、レシチン(大豆由来)を用いた以外は、実施例1と同様にして米菓を得た。
【0027】
<比較例3>
米菓用改質剤に、ショ糖ステアリン酸エステル(HLB9)を用いた以外は、実施例1と同様にして米菓を得た。
【0028】
<比較例4>
米菓用改質剤を使用せず、実施例1と同様にして米菓を得た。
【0029】
実施例1〜4、比較例1〜4で調製した米菓について、以下の試験例に基づき評価を行った。その結果を表1、2に示した。
【0030】
(米菓の外観)
米菓の形状外観について以下の基準で評価した。○:表面の膨れや湾曲等が少なく、殆どの製品がすっきりと安定した形状を示す、△:湾曲等が多数見られ、安定した形状の製品が少ない、×:ひび割れ等の破損が多数みられる。
【0031】
(米菓の膨化率)
焙焼直後に米菓の重量を測定するとともに、その容積を置換法により測定し比容積を求めた。米菓用改質剤を配合した場合の膨化率として、米菓用改質剤を使用しなかった比較例4の比容積を100とした場合の相対比率を算出した。
【0032】
(米菓の食感)
米菓の歯応えについてパネリスト10名により評価した。評価は、○:柔らかく程よい噛み心地を有する、△:それほど硬くはないが噛み心地が悪い、×:ガリガリして堅い、以上の基準で評価した。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
実施例1〜4の米菓は、比較例に比べて膨化性に優れており、良好な食感を有していた。また、米菓の製造過程において乾燥時間を短縮しても、実施例においては破損が少なく良品歩合が向上した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリセリン脂肪酸エステルからなることを特徴とする米菓用改質剤であって、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが、炭素数14〜22の飽和脂肪酸を主構成脂肪酸とすることを特徴とする米菓用改質剤。
【請求項2】
請求項1に記載の米菓用改質剤を含有することを特徴とする米菓用生地。
【請求項3】
請求項2に記載の米菓用生地を用いて得られた米菓。