説明

米飯食品の製造方法

【課題】通常の水の割合で炊飯して米飯を製造しても軟らかく、好ましい食感である米飯食品の製造方法、好ましい食感である米飯食品、及び米飯食品改質用の酵素製剤を提供すること。
【解決手段】ホスホジエステラーゼを用いて米飯食品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホジエステラーゼを用いる米飯食品の製造方法、ホスホジエステラーゼを含有する米飯食品、及び米飯食品改質用の酵素製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高齢者においては、様々な要因により喫食率が低下し、このため必要な栄養を摂取できない状況が発生することがある。一方で主食である「米飯」の嗜好は高く、喫食率が低下した者でもほぼ完食する傾向にあり、エネルギーや栄養の供給源として重要な要素となっている。しかし咀嚼・嚥下、あるいは消化能力の低下から、通常の白飯ではなく粥を摂取する対象者においては、この主食より得られる栄養が白飯の半分以下となる。これは、食べやすい食感を得るために、たくさんの水分を用いて粥を調製するためであり、結果として不足する栄養分を、濃厚流動食などで補っている現状となっている。
【0003】
米飯を軟らかくする方法としては、粥のように水を多く加えることのほかに、例えば、物理的に米を砕く方法などがあるが、糊状になり米飯自体の食感を全体として損なうなど本質的な問題解決とはなっていない。
【0004】
また酵素を用いて米飯を軟らかくする方法も知られており、α−アミラーゼやプロテアーゼを用いた商品が存在している。しかしα−アミラーゼやプロテアーゼは酵素分解によって生成する糖とアミノ酸が反応し褐変反応を起こし、いわゆる「焦げ」が発生しやすいため多くを加えることが出来ないという課題がある。また一度粥をミキサーにかけて糊状にした後にアミラーゼで酵素分解させる高齢者用の粥調製剤も市販されているが、出来上がる食品は、白飯や粥に比べと食感が異なるという課題がある。
【0005】
米飯の物性及び食味を改善する方法として、米飯食品の製造に糖鎖のα−1,4結合をα−1,6結合へと変換する糖転移活性を有する酵素及びトランスグルタミナーゼを用いることを特徴とする米飯食品の製造方法が知られている(特許文献1)。当該文献には、酵素を用いることで米飯食品の製造直後の品質を向上させ、時間経過による該食品の品質劣化を抑制することの記載がある。
【0006】
一方、ホスホジエステラーゼは、RNAを分解して核酸を生成することから、一般に酵母エキスの製造などに用いられる。また穀物などの食品素材にグルタミナーゼ及びホスホジエステラーゼを作用させる食品素材加工物の製造方法が知られている(特許文献2)。
【0007】
ホスホジエステラーゼを米に作用させるものとしては、醸造用酵素剤とそれを用いた醸造方法が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−222267号公報
【特許文献2】特開2009−254336号公報
【特許文献3】特開平10−248562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら特許文献1は、澱粉の老化を防止するための発明であり、米飯の弾力性や保水性を向上させた食感とすることは出来るが、例えばお粥のような軟らかく十分に澱粉が膨潤した食感にしようとすると、α−グルコシダーゼの作用により発生する糖による焦げが発生しやすくなるという課題がある。
【0010】
更に特許文献2はうま味の相乗効果を得ることが目的のため、グルタミン酸と5’−ヌクレオチドを共存させることが必須の発明であり、その解決手段として、遊離グルタミンにグルタミナーゼを作用させ、核酸にホスホジエステラーゼを作用させる酵素の用い方のみが記載されている。具体的には、椎茸、鰹粉節、昆布、緑茶などのうま味物質が多く含まれている原料に対してお湯で抽出作業を行い、その抽出物にグルタミナーゼとホスホジエステラーゼを作用させてうま味物質を生成させる記載があるのみであり、物性の記載、特に米飯に関する物性については記載も示唆もない。また特許文献2には、グルタミナーゼのみを用いたり、プロテアーゼ、ホスホジエステラーゼ、デアミナーゼの3種を用いたのでは好ましい旨味がでないことの記載があり、酵素の選択、組み合わせで全く異なる結果になることの記載がある。
【0011】
特許文献3は、低温での発酵醸造用の蒸米の溶解を促進するために用いるものであり、麹や、あるいは麹が生み出す酵素の作用を助けるものとしてホスホジエステラーゼを使用しており、ホスホジエステラーゼ単独での効果についての記載はなく、ましてや米飯食品の改良については示唆もない。
【0012】
上記の背景下において、本発明の目的は、通常の水の割合で炊飯して米飯を製造しても軟らかく、好ましい食感である米飯食品の製造方法、好ましい食感である米飯食品、及び米飯食品改質用の酵素製剤を提供することであり、特に味や香りに影響を与えることなく、焦げも発生させることなく、米飯食品に軟らかさやもちもち感を付与せしめる方法を提供することである。
更に米のつぶしやすさなどの軟化状態をより好ましい状態とし、且つしっとり感などの保水性をより好ましい状態とした米飯食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、米飯にホスホジエステラーゼを用いることにより、上記目的を達成しうることを見出し、本発明を完成した。本発明は以下の各発明を包含する。
(1) ホスホジエステラーゼを用いることを特徴とする米飯食品の製造方法。
(2) 原料生米1g当たり0.05〜1000Uのホスホジエステラーゼを米に作用させることを特徴とする発明(1)記載の米飯食品の製造方法。
(3) 原料生米1g当たり0.05〜1000Uのホスホジエステラーゼを炊飯時に添加することを特徴とする発明(2)記載の米飯食品の製造方法。
(4) ホスホジエステラーゼと、ヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼを用いることを特徴とする発明(1)ないし(3)のいずれかに記載の米飯食品の製造方法。
(5) ホスホジエステラーゼと、ヘミセルラーゼを用いることを特徴とする発明(4)に記載の米飯食品の製造方法。
(6) ホスホジエステラーゼと、セルラーゼを用いることを特徴とする発明(4)に記載の米飯食品の製造方法。
(7) ホスホジエステラーゼと、α−グルコシダーゼを用いることを特徴とする発明(1)ないし(6)のいずれかに記載の米飯食品の製造方法。
(8) ホスホジエステラーゼと、トレハロースを用いることを特徴とする発明(1)ないし(3)のいずれかに記載の米飯食品の製造方法。
(9) ホスホジエステラーゼと、原料生米1g当たり0.005〜500Uのヘミセルラーゼ及び/又は原料生米1g当たり0.005〜500Uのセルラーゼを用いることを特徴とする発明(4)記載の米飯食品の製造方法。
(10) ホスホジエステラーゼと、原料生米1g当たり0.005〜500Uのヘミセルラーゼを用いることを特徴とする発明(5)記載の米飯食品の製造方法。
(11) ホスホジエステラーゼと、原料生米1g当たり0.005〜500Uのセルラーゼを用いることを特徴とする発明(6)記載の米飯食品の製造方法。
(12) ホスホジエステラーゼと、原料生米1g当たり0.5〜500Uのα−グルコシダーゼを用いることを特徴とする発明(7)記載の米飯食品の製造方法。
(13) ホスホジエステラーゼと、原料生米1g当たり0.01〜30重量%のトレハロースを用いることを特徴とする発明(8)記載の米飯食品の製造方法。
(14) 乳化剤を含む発明(1)ないし(13)のいずれかに記載の米飯食品の製造方法。
(15) 原料生米に対して1.2〜15重量倍量の水を原料生米に加えて炊飯する工程を含む、発明(1)ないし(14)のいずれかに記載の米飯食品の製造方法。
(16) ホスホジエステラーゼと、ヘミセルラーゼを用いることを特徴とする発明(15)記載の米飯食品の製造方法。
(17) 発明(1)ないし(16)のいずれかに記載の方法により得られる、ホスホジエステラーゼ米飯食品。
(18) 粥である、発明(17)記載の米飯食品。
(19) ホスホジエステラーゼを有効成分として含有する米飯食品改質用の酵素製剤。
(20) ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、α−グルコシダーゼ、トレハロース、乳化剤のいずれか1種以上を含有させる発明(19)記載の酵素製剤。
(21) ヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼを含有する発明(19)記載の酵素製剤。
(22) ヘミセルラーゼを含有する発明(19)記載の酵素製剤。
(23) セルラーゼを含有する発明(19)記載の酵素製剤。
(24) 原料生米1g当たり0.05〜1000Uのホスホジエステラーゼ含有量となるように調整された発明(19)記載の米飯食品改質用の酵素製剤。
(25) 酵素製剤1g中、ホスホジエステラーゼを100〜3000U、並びにヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼを100〜3000U含有する、発明(21)記載の酵素製剤。
(26) 酵素製剤1g中、ホスホジエステラーゼを100〜3000U、及びヘミセルラーゼを100〜3000U含有する、発明(22)記載の酵素製剤。
(27) 酵素製剤1g中、ホスホジエステラーゼを100〜3000U、及びセルラーゼを100〜3000U含有する、発明(23)記載の酵素製剤。
(28) ホスホジエステラーゼを用いる米飯食品の製造方法であり、加水量を1.5倍増加させてホスホジエステラーゼを用いずに製造した米飯食品と同等以下の固さを持つ米飯食品の製造方法。
(29) ホスホジエステラーゼを含有する米飯食品。
(30) ヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼを含有する発明(29)記載の米飯食品。
(31) ヘミセルラーゼを含有する発明(30)記載の米飯食品。
(32) セルラーゼを含有する発明(30)記載の米飯食品。
【0014】
なお本発明は、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で置きかえたものも含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ホスホジエステラーゼを用いることにより、通常の水の割合で炊飯して米飯を製造しても軟らかく、好ましい食感である米飯食品を得ることができ、また米飯食品改質用の酵素製剤を得ることができる。特に、焦げや異風味などを発生させずに、「軟らかさ」や「もちもち感」を有する米飯食品を製造することができ、時間経過による品質劣化も抑制することができる。
更に、ヘミセルラーゼを併用することにより、米のつぶしやすさなどの軟化状態をより好ましい状態とした米飯食品を提供することができる。
また、セルラーゼを併用することにより、米のつぶしやすさなどの軟化状態をより好ましい状態とした米飯食品を提供することができる。
また、α−グルコシダーゼを併用することにより、しっとり感などの保水性をより好ましい状態とした米飯食品を提供することができる。
また、トレハロースを併用することにより、しっとり感などの保水性をより好ましい状態とした米飯食品を提供することができる。
また、乳化剤を併用することにより、しっとり感などの保水性をより好ましい状態とした米飯食品を提供することができる。
また、本発明によれば、好ましい食感であるホスホジエステラーゼ含有米飯食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の米飯食品の製造方法は、ホスホジエステラーゼを用いることを特徴とする。また本発明の米飯食品の製造方法は、ホスホジエステラーゼと併せて、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、α−グルコシダーゼ、トレハロース、乳化剤のいずれか1種以上を用いることが好ましく、中でも米のつぶしやすさなどの軟化状態をより好ましい状態とする観点から、ヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼを用いることがより好ましく、ヘミセルラーゼを用いることが特に好ましい。
【0017】
本発明で用いるホスホジエステラーゼは、正確な名称としては5’-ホスホジエステラーゼであり、ヌクレアーゼとも呼ばれる。RNAを5’-ヌクレオチドに加水分解する酵素である。5’-ホスホジエステラーゼは、微生物由来、植物由来のものなど種々の起源のものが知られているが、本発明で用いる酵素はこの活性を有している酵素であれば構わず、その起源としてはいずれのものでも構わない。また、組み換え酵素であっても構わない。「スミチームNP」という商品名で新日本化学工業(株)より市販されている微生物由来の5’-ホスホジエステラーゼが一例である。
【0018】
本発明のセルラーゼはβ-1,4グルカン(例えば、セルロース)のグルコシド結合を分解する酵素である。ヘミセルラーゼはペントースあるいはグルコース、フラクトース以外のヘキソースが多数結合している多糖類ヘミセルロースを加水分解する酵素群の総称であり、それらを分解する酵素である。両酵素ともに植物細胞の細胞壁を分解することで、米澱粉の膨潤を促進していると考えられる。セルラーゼ、ヘミセルラーゼは微生物由来、植物由来のものなど種々の起源のものが知られているが、本発明で用いる酵素はこの活性を有している酵素であれば構わず、その起源としてはいずれのものでも構わない。また、組み換え酵素であっても構わない。「スミチームX」という商品名で新日本化学工業(株)より市販されている微生物由来のヘミセルラーゼが一例である。セルラーゼについてはセルラーゼ活性、ヘミセルラーゼについてはキシラナーゼ活性を有していれば、他の製剤との混合物であっても構わない。
【0019】
本発明のα-グルコシダーゼは、非還元末端α-1,4-グルコシド結合を加水分解し、α-グルコースを生成する酵素である。α-グルコシダーゼのうち、α-1,4結合をα-1,6結合へと変換する糖転移活性を有するトランスグルコシダーゼが好ましい。尚、α−グルコシダーゼ「アマノ」という商品名で天野エンザイム(株)より市販されている酵素が、α−グルコシダーゼの一例である。
【0020】
本発明で用いるトレハロースは、2つのα-グルコースが1,1-グリコシド結合してできた二糖類である。本発明では、酵素の使用により膨潤した澱粉内の水分保持を補助し、経時変化を少なくする働きがあると考えられる。トレハロースはその製造方法で、酵母からの抽出と、澱粉に酵素を作用させるものが知られているが、そのどちらであっても構わない。「TOREHA」という商品名で(株)林原商事より市販されているものが一例である。
【0021】
また本発明で用いる乳化剤は、O/W(水中油滴)型乳化に適したHLB値が高いもの(望ましくは8以上のもの)を使用する。米澱粉であるアミロースは螺旋構造を形成して外側が親水性を、内側が親油性を示す。このため乳化剤親油基部分を螺旋内にとりこみ複合体を形成することで、再老化を防止するものと考えられる。乳化剤としては前述の条件を満たすものであれば、特に規定しないが、一例としてあげると、「リョートーシュガーエステルP1670」(三菱化学フーズ(株)製)があげられる。
【0022】
本発明の米飯食品として、炊飯米(白飯)、酢飯(寿司飯)、赤飯、ピラフ、炒飯、炊き込みご飯、おこわ、粥、リゾット、おにぎり、寿司、弁当などが挙げられる。また、これらの冷凍品、チルド品、無菌包装品、レトルト品、乾燥品、缶詰品も含まれる。本発明においては、軟らかさを求められる米飯食品に作用させることが特に有効であると考えられる。代表的な例としては「粥」などが挙げられる。
【0023】
本発明の米飯食品の原料となる米は、どのような品種の米でもよく、軟質米でも硬質米でも、また新米でも古米でも構わない。また、低食味米でも良食味米でも構わない。更に、低タンパク米(タンパク調整米)等酸や酵素で処理された加工米でも構わない。
【0024】
本発明の米飯食品の製造方法において、ホスホジエステラーゼ、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、α−グルコシダーゼ、トレハロース、乳化剤を米に作用させる方法は、炊飯までのどの段階で作用させてもかまわない。すなわち吸水のため米を浸漬させる浸漬液に酵素などを添加してもよいし、浸漬後、炊飯前に酵素などを添加してもよい。また、炊飯後炊飯米に酵素を振りかけて作用させてもよい。蒸米製造ラインにおいては、蒸し工程の前もしくは後に酵素などを振りかけて作用させてもよい。ホスホジエステラーゼ、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、α−グルコシダーゼ、トレハロース、乳化剤を米に作用させる順序は特に問わず、いずれかの1種もしくは2種の酵素などを先に作用させた後、残りの酵素などを作用させてもよいが、同時に作用させるのが効率・効果の点で好ましい。さらに、これらの酵素など以外の他の酵素や物質を併用しても構わない。
【0025】
本発明において、米に作用させるホスホジエステラーゼの添加量は、本発明の効果が得られれば特に限定はないが、原料生米1g当たり0.05〜1000U、好ましくは0.5〜500U、より好ましくは1.5〜500Uの範囲が適正である。尚、5’-ホスホジエステラーゼの酵素活性(ヌクレアーゼ活性)については1mol/L酢酸緩衝液(pH5.0)に希釈した基質(RNA)溶液に酵素溶液を添加し40℃、15分間反応させ、260nmの吸光度を測定し算出する。40℃、pH5.0条件下において1分間に1μmolの酸可溶性リボヌクレオチドを生成する酵素量を1U(ユニット)と定義した。
もちもち感の付与や、米の軟化効果であれば0.05U以上で、効果がより認められるが、特に本発明の効果が顕著に現れる、通常レベルの加水量で粥様の舌と口蓋のみでつぶせる食感まで軟らかくする効果を得るには、1.5U以上の添加が望ましい。また多く加えることでの食感上の問題は特にないが、ハンドリングやコストの面から上記範囲が好ましい。
【0026】
本発明において、米に作用させるヘミセルラーゼの添加量は、本発明の効果が得られれば特に限定はないが、原料生米1g当たり0.005〜500U、好ましくは0.5〜100Uの範囲が適正である。
本発明において、米に作用させるセルラーゼの添加量は、本発明の効果が得られれば特に限定はないが、原料生米1g当たり0.005〜500U、好ましくは0.5〜100U、の範囲が適正である。
ヘミセルラーゼの酵素活性(キシラナーゼ活性)については0.2mol/Lクエン酸溶液(pH4.0)に希釈したキシランを基質として酵素反応によるグルコシド結合の切断に伴って増加する還元糖と3,5-ジニトロサリチル酸を40℃、10分間反応させ540nmの吸光度を測定し、検量線より求め活性を算出する。pH4.0、40℃条件下において1分間に1μmolのキシロースに相当する還元糖を生成する酵素量を1U(ユニット)と定義した。
セルラーゼの酵素活性については18mm試験管に酵素液0.5mlと0.05Mクエン酸緩衝液(pH4.8)1.0mlをとり、50mgの濾紙片(ワットマン No.1、1×6cm)を入れ、濾紙片を試験管内で撹拌し、コイル状に丸める。50℃、1時間反応後、生成した還元糖を測定する。上記条件で1分間に1μmolのグルコースに相当する還元糖を生成する量を1U(ユニット)と定義した。せんい素糖化力とも呼ばれる。
【0027】
本発明において、米に作用させるα−グルコシダーゼの添加量は、本発明の効果が得られれば特に限定はないが、原料生米1g当たり0.5〜500Uの範囲が適正である。α-グルコシダーゼの酵素活性については1mMα-メチル-D-グルコシド1mlに0.02M酢酸バッファー(pH5.0)1mlを加え、酵素溶液を0.5ml添加して、40℃、60分間作用させた時に、反応液2.5ml中に1μgのブドウ糖を生成する酵素量を1U(ユニット)と定義した。
【0028】
本発明において、米に作用させるトレハロースの添加量は、本発明の効果が得られれば特に限定はないが、原料生米の0.01〜30重量%の範囲が適正である。
【0029】
本発明において、乳化剤の添加量は、目安として原料生米の0.005〜1重量%が適正である。
【0030】
本明細書中において「ホスホジエステラーゼ米飯食品」とは、上述の本発明の製造方法を用いて製造される米飯食品を意味し、ホスホジエステラーゼを含む点において通常の米飯食品とは異なるものであり、先に述べた特有の効果を有する。
【0031】
本発明は、ホスホジエステラーゼを有効成分として含有する酵素製剤も提供する。本発明の酵素製剤は、ホスホジエステラーゼを有効成分として含有する他、さらにヘミセルラーゼ、セルラーゼ、α−グルコシダーゼ、トレハロース、乳化剤のいずれか1種以上を含有することが好ましく、中でも米のつぶしやすさなどの軟化状態をより好ましい状態とする観点から、ヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼを含有することがより好ましく、ヘミセルラーゼを含有することが特に好ましい。
【0032】
本発明の酵素製剤におけるホスホジエステラーゼの含有量は、原料生米に対するホスホジエステラーゼ添加量が、原料生米1g当たり0.05〜1000U(好ましくは0.5〜500U、より好ましくは1.5〜500U)となる量であれば特に制限されないが、通常、酵素製剤1g中、通常100〜3000U、好ましくは100〜2500U、より好ましくは150〜2300Uである。また本発明の酵素製剤がヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼを含有する場合、本発明の酵素製剤におけるヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼの含有量は、酵素製剤1g中、通常100〜3000U、好ましくは200〜2800U、より好ましくは200〜2600Uである。
【0033】
本発明の酵素製剤がホスホジエステラーゼおよびヘミセルラーゼを含有するものであるとき、ヘミセルラーゼの含有量は、ホスホジエステラーゼ1U当たり、通常0.001〜1000U、好ましくは0.01〜100U、より好ましくは0.1〜10Uである。
【0034】
本発明の酵素製剤の製造は、既知の手法により行い得る。
【0035】
本発明において、ホスホジエステラーゼなどと共に、デキストリン、澱粉、加工澱粉、還元麦芽糖等の賦形剤、畜肉エキス等の調味料、植物蛋白、グルテン、卵白、ゼラチン、カゼイン等の蛋白質、蛋白加水分解物、蛋白部分分解物、クエン酸塩、重合リン酸塩等のキレート剤、グルタチオン、システイン等の還元剤、アルギン酸、かんすい、油脂、色素、酸味料、香料、栄養成分等その他の食品添加物等を適宜添加混合することにより、米飯食品改質用の酵素製剤を得ることができる。本発明の酵素製剤は液体状、ペースト状、顆粒状、粉末状のいずれの形態でも構わないが、使いやすさの点で、好ましくは粉末状である。
【0036】
本発明は、ホスホジエステラーゼを用いて軟らかくて食感の良い米飯食品が製造できる点に特徴がある。そのため加水量が少なくても軟らかい粥などの米飯食品が製造することができる。
1例としてあげると、粥などの軟らかい米飯食品を炊飯したとして、それと同じ軟らかさを得られるにも関わらず、ホスホジエステラーゼやその他の酵素などを用いて本発明の米飯食品を製造したときは、約2/3〜1/3の加水量での炊飯が可能となる。このため同じ軟らかさを有しながらも、栄養価としては、本発明の米飯食品は通常の粥よりも1.5〜2.5倍の栄養価を有することとなる。
【0037】
具体的な加水量は、原料生米に対して、通常1.2〜15重量倍量、好ましくは1.5〜10重量倍量であり、より好ましい軟らかさが得られることから、より好ましくは2.0〜8.0重量倍量、特に好ましくは2.5〜6.0重量倍量である。
【0038】
各酵素の反応時間は、酵素が基質物質に作用することが可能な時間であれば特に構わず、非常に短い時間でも逆に長時間作用させても構わないが、現実的な作用時間としては5分〜48時間が好ましい。また、反応温度に関しても酵素が活性を保つ範囲であればどの温度であっても構わないが、現実的な温度としては0〜80℃で作用させることが好ましい。すなわち、通常の炊飯工程を経ることで十分な反応時間が得られる。炊飯時の水添加量を極端に増やすことなく、粥レベルの軟らかさを得たい場合には、望ましくは、1時間以上作用させた方が望ましい結果が得られる。
【0039】
本発明は、ホスホジエステラーゼを含有する米飯食品も提供する。かかる米飯食品は、ホスホジエステラーゼの他に、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、α−グルコシダーゼ、トレハロース、乳化剤のいずれか1種以上を含有することが好ましく、中でも米のつぶしやすさなどの軟化状態をより好ましい状態とする観点から、ヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼを含有することがより好ましく、ヘミセルラーゼを含有することが特に好ましい。
【0040】
ホスホジエステラーゼを含有させ得る米飯食品としては、例えば、炊飯米(白飯)、酢飯(寿司飯)、赤飯、ピラフ、炒飯、炊き込みご飯、おこわ、粥、リゾット、おにぎり、寿司、弁当等が挙げられるが、中でも軟らかさをより求められる点で、粥が好ましい。また、これらの冷凍品、チルド品、無菌包装品、レトルト品、乾燥品、缶詰品等も含まれる。
【0041】
米飯食品に、ホスホジエステラーゼを含有させる方法は特に制限されないが、例えば、先に述べたとおり、原料生米の炊飯前に、原料生米を浸漬させる前の水性液に予め添加して含有させてもよいし、原料生米を浸漬した後の浸漬液に添加して含有させてもよいし、また、原料生米の炊飯後に、炊飯米に酵素を振りかけて含有させてもよい。蒸米製造ラインにおいては、蒸し工程の前及び/又は後にホスホジエステラーゼを振りかけて含有させてもよい。これらの中でも、原料生米の炊飯前に含有させることが好ましい。
米飯食品にホスホジエステラーゼと併せて、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、α−グルコシダーゼ、トレハロース、乳化剤のいずれか1種以上を米に含有させる場合も、ホスホジエステラーゼと同様の方法により含有させることができる。この場合、含有させる順序は特に問わないが、同時に作用させるのが効率・効果の点で好ましい。
【0042】
以下、本発明について実施例でさらに説明するが、本発明の技術範囲はこれら実施例によって制限されるものではない。
【実施例】
【0043】
(実施例1 各種酵素が米飯に与える影響の検討)
生米「北海道きらら397 無洗米」100gに市水を米の1.5重量倍加水となるように加え、約1時間浸漬を行った。浸漬開始時に、α−アミラーゼ、α−グルコシダーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼなど一般に米の軟化作用があるとされている酵素と、ホスホジエステラーゼをそれぞれ、対生米重量%で0.1%ずつ溶解させ、その後、「IHジャー炊飯器NJ-HS06-S」(三菱電機社製)の「通常」の自動コースにて炊飯した。炊飯米は、炊きあがり後20分以内、50℃以上の状態で、酵素無添加をコントロールとして官能評価を行った。官能評価項目の「軟らかさ」は口中で潰す際に感じる応力の強さであり、より詳しく記すなら、舌と口蓋のみで歯を用いないで食したときの応力がコントロールよりも弱く、つぶれやすさとしてはコントロールよりつぶれやすいものを正の値として評価を行った。「もちもち感」は噛み込んだ際にもち米のように歯にまとわりつく感覚、「保水感」は噛み込んだ際に内部からの離水がない状態をそれぞれ正の値とした。「焦げ」は炊飯米の底部における加熱による褐変の発生度合いを現しており、数値が低いほど褐変が強いことを示す。酵素無添加区分を0点として、−3点から3点までの評点法にて評価人数2人又は3人で行った。評価者は食品業務に従事している十分に訓練された専門パネルを用いた。それぞれの配合と評価結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示したとおり、軟らかさとしてはα−アミラーゼやα−グルコシダーゼ、ホスホジエステラーゼにおいて効果が認められた。しかしα−アミラーゼやα−グルコシダーゼでは焦げの発生が認められ、焦げが発生せず軟らかくする作用が認められたのは、ホスホジエステラーゼのみであった。
また炊飯器の「通常」「やわらか」「早炊き」等の自動コースを変化させた加熱条件や、無洗米、白米などの米の種類を変化させた実験も行い、同様の結果が得られたことを確認した。
【0046】
(実施例2 ホスホジエステラーゼの濃度が米飯に与える影響の検討)
生米「北海道きらら397 無洗米」100gに市水を米の3.0重量倍加水となるように加え、約1時間浸漬を行った。浸漬開始時に、デオキシリボ核酸又はリボ核酸の糖とリン酸の間のホスホジエステル結合の加水分解を行う分解能を有するホスホジエステラーゼである「ヌクレアーゼ」アマノE(天野エンザイム社製)(以下NAE)、もしくは「スミチームNP」(新日本化学工業社製)(以下NSN)を添加して溶解させ、その後、「IHジャー炊飯器NJ-HS06-S」(三菱電機社製)の「やわらか」コースにて自動炊飯を行った。各試験区における酵素添加量は表2の通りである。
炊飯米は、炊きあがり後20分以内、50℃以上の状態で官能評価を行った。結果を表2に示す。官能評価は、同様の米を用いて、同様の加水量で酵素無添加系にて炊飯したものをコントロールとして評価を行った。評価項目としては「軟らかさ」「保水感」「焦げ」とした。軟らかさについては生米100gに対して5〜6倍の加水量となるように水を加えて浸漬後炊飯した「全粥」と同等の軟らかさを示すものを「◎」とし、全粥レベルには至らないものの、十分な効果が認められるものを「○」、酵素の効果が認められるものを「△」とした。また対照区と大きな変化がないものは「−」として、逆に対照区に対し好ましくない変化をしめしたものを「×」とした。
【0047】
【表2】

【0048】
表2に示したように、ホスホジエステラーゼの添加により、無添加系よりもより軟らかい食感の米飯を得られることが確認できた。単独での添加量としては、0.07U/生米gにおいても軟化効果が認められた。一方で、焦げは酵素無添加系とかわらず、風味や呈味への影響も認められなかった。これより、ホスホジエステラーゼの添加により、焦げや異風味等の影響なく、食感を軟らかくすることができることを確認した。また本結果は、炊飯器の「通常」「やわらか」「早炊き」等の自動コースを変化させた加熱条件や、無洗米、白米などの米の種類を変化させた実験、および酵素溶解液に炊飯前に浸漬する時間も0〜48時間の間で変化させた実験も行い、いずれも同様の結果が得られることも確認した。
【0049】
(実施例3 ホスホジエステラーゼと併用する各種酵素が米飯に与える影響の検討)
米、水、炊飯条件は実施例2と同様の条件で、他の酵素素材を併用したときの効果について確認を行った。
ホスホジエステラーゼを3U/生米g添加したうえで、ヘミセルラーゼ、α−グルコシダーゼを添加してその効果を評価した。ホスホジエステラーゼのみ添加したものを対照区1として、他の酵素素材を併用したものを試験区16〜28とした。各試験区、対照区の酵素添加量および、評価結果を表3に示す。
ホスホジエステラーゼを0.07U/生米g添加したうえで、ヘミセルラーゼ、α−グルコシダーゼを添加してその効果を評価した。ホスホジエステラーゼのみ添加したものを対照区2として、他の酵素素材を併用したものを試験区29とした。対照区、試験区の酵素添加量および、評価結果を表4に示す。
評価結果は、表3、表4とも、対照区に対して著しく改良効果があるものを「◎」、対照区に対して改良効果があるものを「○」、対照区に対して十分ではないが改良効果があるものを「△」、対照区と変化が無いものを「−」、対照区に対して好ましくない変化があるものを「×」とした。
【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
表3に示したとおり、ヘミセルラーゼを添加することにより、ホスホジエステラーゼの軟化効果を損なうことなく、軟らかさの中でも米飯粒のつぶれやすさが改良された。その効果は、0.005U/生米gより認められたが、本発明で顕著な効果をえるとした全粥相当のつぶれやすさの再現という点では、0.5U/生米g以上がより好ましいと認められた。また大量に添加したときもなんら他に米飯の品質を損なうような異風味などの発現はみとめられず、500U/生米g添加したときも特に問題はなかった。
またα−グルコシダーゼにおいては、同じくホスホジエステラーゼの軟化効果を損なうことなく、保水性が強化・改良された。とくに米飯が冷めたときにその効果が認められた。その効果は、0.65U/生米gより十分認められたが、本発明で顕著な効果をえるとした全粥相当の再現という意味では、望ましくは65U/生米g以上が好ましい結果であった。また大量に添加したときには、その酵素作用によって糖が発生するため、3250U/生米g添加した系では、焦げが発生した。
また表4にあるとおり、ヘミセルラーゼ、α−グルコシダーゼを併用した系の効果は、ホスホジエステラーゼ0.05U/生米gの系においても認められた。
【0053】
(実施例4 ホスホジエステラーゼと併用する素材が米飯に与える影響の検討)
米、水、炊飯条件は実施例2と同様の条件で、他の素材を併用したときの効果について確認を行った。ホスホジエステラーゼは3U/生米g添加したうえで、トレハロースまたは乳化剤を添加してその効果を評価した。各試験区、対照区の酵素添加量および、評価結果は、表5に示したとおりである。評価結果は、対照区に対して著しく改良効果があるものを「◎」、対照区に対して改良効果があるものを「○」、対照区に対して十分ではないが改良効果があるものを「△」、対照区と変化が無いものを「−」、対照区に対して好ましくない変化があるものを「×」とした。
【0054】
【表5】

【0055】
表5に示したとおり、トレハロースや乳化剤を添加することにより、ホスホジエステラーゼで得られる軟化効果を損なうことなく、保水性の向上が認められた。
その効果は、トレハロース添加量対生米0.01%以上で認められ、乳化剤においても対生米添加量0.005%以上で確認できた。ただし乳化剤については、添加量が増えるにつれて、独特の異風味が発生するため、添加量としては対生米1%以下が望ましいものと推定された。
【0056】
(実施例5 ヘミセルラーゼとセルラーゼの添加効果の検討)
ヘミセルラーゼとセルラーゼをそれぞれ添加したときの効果について確認を行った。
生米「北海道きらら397 無洗米」105gに285g市水を加え、約1時間浸漬を行った。試験区43、44は浸漬開始時に、表6に示す添加量で、α−グルコシダーゼ、ホスホジエステラーゼ、ヘミセルラーゼまたはセルラーゼを添加して溶解させ、その後それぞれ「IHジャー炊飯器NJ-HS06-S」(三菱電機社製)の「やわらか」コースにて自動炊飯を行った。
酵素無添加のものを対照区4とし、ヘミセルラーゼを添加したものを試験区43、セルラーゼを添加したものを試験区44とした。
評価結果は、対照区に対して著しく改良効果があるものを「◎」、対照区に対して改良効果があるものを「○」、対照区に対して十分ではないが改良効果があるものを「△」、対照区と変化が無いものを「−」、対照区に対して好ましくない変化があるものを「×」とした。
結果を表6に示す。
【0057】
【表6】

【0058】
表6に示した通り、粘りの項目では、ヘミセルラーゼを添加した方が粘りが少なく、より好ましい結果であったが、軟化効果についてはセルラーゼでもヘミセルラーゼと同様の効果が確認できた。
【0059】
(実施例6〜11 ホスホジエステラーゼとヘミセルラーゼが加水により米飯に与える影響の検討)
ホスホジエステラーゼとヘミセルラーゼが加水により米飯に与える影響について確認を行った。
生米「北海道きらら397 無洗米」100gに生米に対し1.5〜10重量倍加水となるように市水を加え、約1時間浸漬を行い、「IHジャー炊飯器NJ-HS06-S」(三菱電機社製)の「おかゆ」コースにて自動炊飯を行った。ホスホジエステラーゼ、ヘミセルラーゼを無添加のものを対照区5〜10として、ホスホジエステラーゼ、ヘミセルラーゼを添加したものを試験区45〜50とした。
試験区45〜50は、浸漬開始時に、ホスホジエステラーゼを3U/生米gとヘミセルラーゼ5U/生米gとなるよう添加して溶解させ、その後同様に「IHジャー炊飯器NJ-HS06-S」(三菱電機社製)の「おかゆ」コースにて自動炊飯を行った。対照区の加水量を表7に、試験区の加水量を表8に、評価結果を表9に示す。
評価結果は、対照区に対して著しく改良効果があるものを「◎」、対照区に対して改良効果があるものを「○」、対照区に対して十分ではないが改良効果があるものを「△」、対照区と変化が無いものを「−」、対照区に対して好ましくない変化があるものを「×」とした。
【0060】
【表7】

【0061】
【表8】

【0062】
【表9】

【0063】
表9に示した通り、ホスホジエステラーゼ3U/生米g、ヘミセルラーゼ5U/生米gを添加することにより、1.5〜10重量倍量加水した実施例6〜11のいずれにおいても軟化効果が認められた。特に、2.9〜5.0重量倍量加水した実施例8〜10でより好ましい軟らかさとなった。加水量が最も多い実施例11では水が多いため、水の影響により米粒の軟化効果がややわかりにくい傾向であったが、軟化効果は認められた。
【0064】
(実施例12 酵素製剤の検討)
表10の配合に従ってホスホジエステラーゼである「スミチームNP」(新日本化学工業社製:ヌクレアーゼ活性13000U/g)と、ヘミセルラーゼである「スミチームX」(新日本化学工業社製:キシラナーゼ活性5995U/g)と、デキストリン(キャッサバ由来、DE値7〜9)とを混合し、製剤A、B、C、D、E、F、G、H、I、J、Kを調製した。なお表10中の「%」は、いずれも「重量%」を示す。また、表11に酵素製剤1g中の各酵素の配合量を示す。
【0065】
【表10】

【0066】
【表11】

【0067】
次に生米「北海道きらら397 無洗米」100gに生米に対し3.5重量倍量加水となるように市水を加え、表10の製剤A〜Kを生米に対しそれぞれ0.5重量%添加し溶解させた後、約1時間浸漬を行い、「IHジャー炊飯器NJ-HS06-S」(三菱電機社製)の「おかゆ」コースにて自動炊飯を行った。
デキストリンのみである製剤Aを対照区11とし、製剤B〜Kについては試験区51〜60とした。
対照区11および試験区51〜60の製剤量および評価結果を表12に示す。
評価結果は、対照区に対して著しく改良効果があるものを「◎」、対照区に対して改良効果があるものを「○」、対照区に対して十分ではないが改良効果があるものを「△」、対照区と変化が無いものを「−」、対照区に対して好ましくない変化があるものを「×」とした。
【0068】
【表12】

【0069】
表12に示した通り、ホスホジエステラーゼ、ヘミセルラーゼ、デキストリンを混合し、製剤を調製したどの試験区においても酵素の効果が十分に発揮できていることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、米飯食品の製造方法及び米飯食品改質用の酵素製剤に関する。本発明の酵素製剤は、炊飯前の原料生米の浸漬液に溶かすだけで、炊飯時に酵素の力で米飯の触感を改良し、美味しさを損なうことなく、食べやすく栄養価の高い主食を提供し得るので、何らかの要因から喫食に難があり、粥食を取ることを必要とする等、低栄養状態(あるいはその予備軍)にある高齢者等の主食調理に非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホジエステラーゼを用いることを特徴とする米飯食品の製造方法。
【請求項2】
原料生米1g当たり0.05〜1000Uのホスホジエステラーゼを米に作用させることを特徴とする請求項1記載の米飯食品の製造方法。
【請求項3】
原料生米1g当たり0.05〜1000Uのホスホジエステラーゼを炊飯時に添加することを特徴とする請求項2記載の米飯食品の製造方法。
【請求項4】
ホスホジエステラーゼと、ヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼを用いることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の米飯食品の製造方法。
【請求項5】
ホスホジエステラーゼと、ヘミセルラーゼを用いることを特徴とする請求項4記載の米飯食品の製造方法。
【請求項6】
ホスホジエステラーゼと、セルラーゼを用いることを特徴とする請求項4記載の米飯食品の製造方法。
【請求項7】
ホスホジエステラーゼと、α−グルコシダーゼを用いることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の米飯食品の製造方法。
【請求項8】
ホスホジエステラーゼと、トレハロースを用いることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の米飯食品の製造方法。
【請求項9】
ホスホジエステラーゼと、原料生米1g当たり0.005〜500Uのヘミセルラーゼ及び/又は原料生米1g当たり0.005〜500Uのセルラーゼを用いることを特徴とする請求項4記載の米飯食品の製造方法。
【請求項10】
ホスホジエステラーゼと、原料生米1g当たり0.005〜500Uのヘミセルラーゼを用いることを特徴とする請求項5記載の米飯食品の製造方法。
【請求項11】
ホスホジエステラーゼと、原料生米1g当たり0.005〜500Uのセルラーゼを用いることを特徴とする請求項6記載の米飯食品の製造方法。
【請求項12】
ホスホジエステラーゼと、原料生米1g当たり0.5〜500Uのα−グルコシダーゼを用いることを特徴とする請求項7記載の米飯食品の製造方法。
【請求項13】
ホスホジエステラーゼと、原料生米1g当たり0.01〜30重量%のトレハロースを用いることを特徴とする請求項8記載の米飯食品の製造方法。
【請求項14】
乳化剤を含む請求項1ないし13のいずれか1項に記載の米飯食品の製造方法。
【請求項15】
原料生米に対して1.2〜15重量倍量の水を原料生米に加えて炊飯する工程を含む、請求項1ないし14のいずれか1項に記載の米飯食品の製造方法。
【請求項16】
ホスホジエステラーゼと、ヘミセルラーゼを用いることを特徴とする請求項15記載の米飯食品の製造方法。
【請求項17】
請求項1ないし16のいずれか1項に記載の方法により得られる、ホスホジエステラーゼ米飯食品。
【請求項18】
粥である、請求項17記載の米飯食品。
【請求項19】
ホスホジエステラーゼを有効成分として含有する米飯食品改質用の酵素製剤。
【請求項20】
ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、α−グルコシダーゼ、トレハロース、乳化剤のいずれか1種以上を含有する請求項19記載の酵素製剤。
【請求項21】
ヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼを含有する請求項19記載の酵素製剤。
【請求項22】
ヘミセルラーゼを含有する請求項19記載の酵素製剤。
【請求項23】
セルラーゼを含有する請求項19記載の酵素製剤。
【請求項24】
原料生米1g当たり0.05〜1000Uのホスホジエステラーゼ添加量となるように調整された請求項19記載の酵素製剤。
【請求項25】
酵素製剤1g中、ホスホジエステラーゼを100〜3000U、並びにヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼを100〜3000U含有する、請求項21記載の酵素製剤。
【請求項26】
酵素製剤1g中、ホスホジエステラーゼを100〜3000U、及びヘミセルラーゼを100〜3000U含有する、請求項22記載の酵素製剤。
【請求項27】
酵素製剤1g中、ホスホジエステラーゼを100〜3000U、及びセルラーゼを100〜3000U含有する、請求項23記載の酵素製剤。
【請求項28】
ホスホジエステラーゼを用いる米飯食品の製造方法であり、加水量を1.5倍増加させてホスホジエステラーゼを用いずに製造した米飯食品と同等以下の固さを持つ米飯食品の製造方法。
【請求項29】
ホスホジエステラーゼを含有する米飯食品。
【請求項30】
ヘミセルラーゼ及び/又はセルラーゼを含有する請求項29記載の米飯食品。
【請求項31】
ヘミセルラーゼを含有する請求項30記載の米飯食品。
【請求項32】
セルラーゼを含有する請求項30記載の米飯食品。

【公開番号】特開2011−172564(P2011−172564A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20045(P2011−20045)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】