説明

米麹の製造方法、およびこれを用いた酒精含有甘味調味料の製造方法

【課題】従来一般的にもろみ中では溶解しにくいとされてきた米麹に代わり、もろみ中でも溶解しやすい米麹を製造し、これを使用することによって圧搾液の収得率を上げると共に、風味豊かな高品質の酒精含有甘味調味料を提供することを、本発明の課題とする。
【解決手段】上記課題は、酒精含有甘味調味料の製造方法において、製麹時、乾燥させた原料米に、水に溶解もしくは分散させたα−アミラーゼ(高度耐熱性または中度耐熱性α−アミラーゼ)を吸着させることによって、解決された。又本発明においては、α−アミラーゼ(高度耐熱性または中度耐熱性α−アミラーゼ)を吸着させた米を米麹とし原料の一部に用いる酒精含有甘味調味料の製造方法もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、醸造食品の製造に有用な米麹の製造方法、およびこれを用いたに酒精含有甘味調味料の製造方法に関する。より具体的には、本発明は、圧搾後の粕量や不溶性固形分を減らすことによって効率的に酒精含有甘味調味料を製造するための米麹の製造方法、及びこれを用いた香味豊かな酒精含有甘味調味料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酒精含有甘味調味料は、蒸した糯米に米麹とエタノールを添加し、もろみとし、そのもろみを糖化、熟成させて製造される。もろみ中では米麹が生産する酵素によってもろみが液化するとともに糯米の中のデンプンがブドウ糖に、たんぱく質はアミノ酸に分解される。そのため、大量の米麹を使用すると、香味は良好となる。しかしながら、大量の米麹を使用すると、もろみ中でのデンプンの老化等に起因して、溶解性が悪化し、粕量が多くなり利用率が低下する。
【0003】
もろみの発酵・熟成の期間を経た後、もろみを圧搾して圧搾液と粕に分離するが、その際、圧搾液が多く粕量が少ない方が圧搾液量の収得率が高くなり、大きなコストダウンに繋がる。しかしながら、一般的に、もろみ中では米麹は溶解しないため、大量の米麹を使用すると、香味は良好となるものの、粕量が多く、製造コストを増加させる。
【0004】
米麹の量を減らすことによって粕量を低減することができるが、米麹は酒精含有甘味調味料に醸造香を付与する効果が高く、減らすことは風味を低減させ、酒精含有調味料の価値を低下させることに繋がる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
良好な風味および香味を維持しつつ、圧搾液量の収得率を高くする米麹の製造方法が求められている。本発明は、良好な風味および香味を維持しつつ、圧搾液量の収得率を高くする米麹の製造方法、およびこれを用いた酒精含有甘味調味料の製造方法を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、米麹をもろみ中で溶解させることによって解決された。すなわち、従来技術においては、米麹をもろみ中で溶解させることは困難とされてきたが、本発明では、米麹を溶解しやすくし、粕量を低減させるための米麹の製造方法を提供することによって、上記課題を解決した。
【0007】
具体的には、本発明においては、原料米の蒸煮工程の前に原料米を乾燥させ、これに、水に溶解もしくは分散させたα−アミラーゼ(高度耐熱性または中度耐熱性α−アミラーゼ)を吸着させ、その後に蒸煮する工程を含有する麹製造方法を利用することによって上記課題を解決した。
【0008】
本発明の麹製造方法では原料米を乾燥させた後、これにα−アミラーゼ(高度耐熱性または中度耐熱性α−アミラーゼ)を吸着させ、その後に蒸煮することにより、米麹がもろみ中で溶解されやすくなり、粕量が減少し、圧搾液量の収得率が向上する。さらに本発明によって製造される米麹を用いることによって高品質の酒精含有甘味調味料の製造が可能となる。また、本発明の方法によって香味良好な酒精含有甘味調味料が製造される。
【0009】
本発明は例えば、以下を提供する。
(項目1)
米麹の製造方法であって、以下の工程:
(a)原料米を乾燥する工程、
(b)工程(a)において乾燥させた該原料米にα−アミラーゼを接触する工程であって、該α−アミラーゼが高度耐熱性または中度耐熱性である、工程、
(c)工程(b)において該α−アミラーゼを接触させた米を蒸煮する工程、および、
(d)工程(c)において該蒸煮した米に、種麹を接種して、製麹する工程、
を含有する、方法。
(項目2)
項目1に記載の方法であって、前記工程(a)における乾燥後の水分量が13重量%以下である方法。
(項目3)
項目1に記載の方法であって、前記工程(b)において前記原料米に接触させるα−アミラーゼの添加量が該原料米に対して0.0005%(w/w)以上である方法。
(項目4)
項目1に記載の方法であって、前記工程(b)においてα−アミラーゼを接触後の米の水分量が40%(w/w)未満である方法。
(項目5)
項目1に記載の方法であって、前記工程(c)が、
前記α−アミラーゼを接触した米を100〜120℃、10〜60分間蒸煮する工程、
である、方法。
(項目6)
項目1に記載の方法であって、前記工程(d)が、
前記蒸煮した米を45℃以下に冷却し、
種麹を接種し、そして、
25〜45℃にて2〜5日間製麹する工程、
である、方法。
(項目7)
酒精含有甘味調味料の製造方法であって、以下の工程:
(a)原料米を乾燥する工程、
(b)工程(a)において乾燥させた該原料米にα−アミラーゼを接触する工程であって、該α−アミラーゼが高度耐熱性または中度耐熱性である、工程、
(c)工程(b)において該α−アミラーゼを接触させた米を蒸煮する工程、
(d)工程(c)において該蒸煮した米に、種麹を接種して、製麹する工程、および、
(e)工程(d)において製造された米麹を用いて酒精含有甘味調味料を製造する工程、
を含有する、方法。
(項目8)
項目7に記載の方法であって、前記工程(a)における乾燥後の水分量が13重量%以下である方法。
(項目9)
項目7に記載の方法であって、前記工程(b)において前記原料米に接触させるα−アミラーゼの添加量が該原料米に対して0.0005%(w/w)以上である方法。
(項目10)
項目7に記載の方法であって、前記工程(b)においてα−アミラーゼを接触後の米の水分量が40%(w/w)未満である方法。
(項目11)
項目7に記載の方法であって、前記工程(c)が、
前記α−アミラーゼを接触した米を100〜120℃、10〜60分間蒸煮する工程、
である、方法。
(項目12)
項目7に記載の方法であって、前記工程(d)が、
前記蒸煮した米を45℃以下に冷却し、
種麹を接種し、そして、
25〜45℃にて2〜5日間製麹する工程、
である、方法。
(項目13)
項目7に記載の方法であって、前記工程(e)が、焼酎又は含水エタノールに対して、米麹および蒸し糯米を添加し、15〜40℃で15〜90日間消化熟成させる工程である、方法。
(項目14)
項目7に記載の方法であって、前記工程(e)が、焼酎又は含水エタノールに対して、米麹、蒸し糯米、および、糖類を添加し、15〜40℃で15〜90日間消化熟成させる工程である、方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明にしたがって、従来もろみ中では溶解されにくいとされている米麹がもろみ中で溶けやすい米麹となり、その結果、圧搾時に粕量が減少し、圧搾液量の収得率を上げることが可能となる。本発明にしたがって、良好な風味および香味を維持しつつ、圧搾液量の収得率を高くする米麹の製造方法が提供される。また、本発明の方法によって香味良好な酒精含有甘味調味料が製造される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明にしたがって、米を乾燥させて、α−アミラーゼを接触させ、その後蒸煮することによって、米デンプンのα化と液化が同時に行われるため、老化が低減される。その結果、従来もろみ中では溶解されにくいとされている米麹がもろみ中で溶けやすい米麹となり、圧搾時に粕量が減少し、圧搾液量の収得率を上げることが可能となる。また、溶解率があがるため、充分なエキス分が溶出され、高品質の酒精含有甘味調味料の製造が可能となり、その結果、最終製品としての、香味の優れた品質の酒精含有甘味調味料が提供される。
【0012】
例えば、本発明によって、米麹の製造方法であって、以下の工程:
(a)原料米を乾燥する工程、
(b)工程(a)において乾燥させた該原料米にα−アミラーゼを接触する工程であって、該α−アミラーゼが高度耐熱性または中度耐熱性である、工程、
(c)工程(b)において該α−アミラーゼを接触させた米を蒸煮する工程、および、
(d)工程(c)において該蒸煮した米に、種麹を接種して、製麹する工程、
を含有する、方法が提供される。
【0013】
また、本発明によって、酒精含有甘味調味料の製造方法であって、以下の工程:
(a)原料米を乾燥する工程、
(b)工程(a)において乾燥させた該原料米にα−アミラーゼを接触する工程であって、該α−アミラーゼが高度耐熱性または中度耐熱性である、工程、
(c)工程(b)において該α−アミラーゼを接触させた米を蒸煮する工程、
(d)工程(c)において該蒸煮した米に、種麹を接種して、製麹する工程、および、
(e)工程(d)において製造された米麹を用いて酒精含有甘味調味料を製造する工程、
を含有する、方法が提供される。
【0014】
上記工程(a)で使用する原料米は、粳米であってももち米(糯米)であってもよく、玄米を常法どおり精白した精白米を用いる。原料米の水分含量は通常13〜17重量%である。本発明の目的である米麹製造においては予め、原料米にα−アミラーゼを接触させることが必要であり、この接触は、好ましくは、原料米にα−アミラーゼを吸着させることによって行われる。良好な接触のためには乾燥後の米水分が3〜13重量%であることが好ましく、より好ましくは4〜12重量%にすることが重要であるがこれに限定されるものではない。水分含量が13重量%を超えるとα−アミラーゼの接触が不良となり、原料米がα−アミラーゼを吸収するために長時間を要し、かつ、吸収は、不十分かつ不均一となり、米デンプンのα化、液化がうまく行われず、圧搾液収得率向上が望めない。また米の水分を3重量%以下にすると米粒の崩壊が顕著となり胴割れが生じて米が細砕され、蒸煮、製麹操作が困難となるので好ましくない。原料米の水分調整には如何なる手段を用いてもよく、例えば加熱、温風乾燥、熱風乾燥、減圧乾燥,有機溶剤脱水などの手段を用いることが出来るが、これらに限定されるものではない。
【0015】
上記工程(b)で使用するα−アミラーゼは、高度耐熱性または中度耐熱性である。好ましくは、上記工程(b)で使用するα−アミラーゼは、水溶性溶液に溶解もしく分散させたα−アミラーゼである。本明細書において使用する場合、用語「高度耐熱性α−アミラーゼ」とは、100℃以上で急速に活性を失うα−アミラーゼをいう。例えば、コクゲンSD−T20M(大和化成社製)、スミチームAH(新日本化学工業社製)、スピターゼXP404−V2、として市販されている。本明細書において使用する場合、用語「中度耐熱性α−アミラーゼ」とは、70〜75℃以上で急速に活性を失うα−アミラーゼをいう。例えば、コクゲンSD−A(大和化成社製)、クライスターゼP−8(大和化成社製)、スピターゼCP−40FG(ナガセケムテック社製)、ユニアーゼBM−8(ヤクルト薬品工業社製)、スミチームVA(新日本化学工業社製)、フクタミラーゼ50(エイチビィアイ社製)として市販されている。
【0016】
上記酵素的性質を有するα−アミラーゼであれば、その起源は特に限定されず、微生物の生産するもの、植物の生産するものなどいかなる起源のものでもよい。上記α−アミラーゼを含む酵素剤としては、例えば、微生物の培養培地のろ過液、微生物の培養培地からの抽出液の硫安塩析物、微生物の培養培地のエタノールもしくはアセトン等の有機溶剤を用いた沈殿物、微生物の培養培地の限外ろ過濃縮物、微生物の培養培地の乾燥物、あるいはそれらの精製物が挙げられるがこれらに限定されない。
【0017】
α−アミラーゼの添加量は、必要に応じて、当業者が適宜決定することができる。好ましい添加量としては、例えば、α−アミラーゼを原料米に接触(例えば、吸着)させて蒸煮した後の蒸煮米のヨード澱粉反応を赤紫色〜無色とするのに必要な量が挙げられるが、これに限定されない。用いるα−アミラーゼ製剤の種類、力価によって異なるが、例えば粳米1kg当たりの必要量は、市販されているα−アミラーゼ10mg〜5gである。この蒸煮においては、蒸煮後の原料米のヨード澱粉反応を赤紫色〜無色にすることが重要であり、青色〜青紫色を呈したものを使用した場合、もろみ中で澱粉の老化が容易に起こり、この老化澱粉が糖化、熟成工程のもろみ中に分散して、もろみの被圧搾性を著しく低下させる。
【0018】
工程(b)においては、α−アミラーゼを接触させた後の原料米の水分量は27〜40重量%が好ましく、より好ましくは29〜38重量%である。水分含量が40重量%以上になると水分が多すぎて製麹操作が困難となる。水分含量が25重量%以下となると米に水分が十分行きわたらず蒸しむらが生じ、麹菌の生育が不均一となるので好ましくない。また、使用するα−アミラーゼの量は乾燥前の原料米に対し0.0005%(w/w)以上が好ましく、より好ましくは0.002%(w/w)〜0.02%(w/w)である。0.0005%(w/w)以下では圧搾液の収得率向上は望めず、0.02%(w/w)以上では蒸し米の液化が進み過ぎて製麹の作業性が悪くなる。
【0019】
工程(c)は、米を蒸煮する工程であって、代表的には蒸煮温度100〜120℃、蒸煮時間10〜60分で蒸し米を得る工程であるがこれに限定されるものではない。
【0020】
工程(d)は、種麹を接種して、製麹する工程であり、代表的には蒸し米を45℃以下に冷却後種麹を接種し25〜45℃にて2〜5日間製麹して、米麹を得る工程であるがこれに限定されない。
【0021】
酒精含有甘味調味料製造工程(e)においては、工程(d)にて製造した米麹を用いて酒精含有甘味調味料を製造する工程であって、焼酎又は含水エタノールに米麹、蒸し糯米、場合によってはこれに、加水分解酵素類、水飴などの糖類を添加し、糖化熟成させる。添加する米麹の量は蒸し米に対して好ましくは7〜30重量%であるが、これに限定されない。添加する含水エタノールまたは焼酎の量は、好ましくは、エタノールの最終濃度を12〜15%(V/V)とする量であるがこれに限定されない。糖化熟成は代表的には15〜40℃の温度で、15〜90日間、時々撹拌しながら行なうが、これに限定されない。
【0022】
その後、常法により、適宜、圧搾、濾過、滓引き、火入れ、製成等の処理を経てエタノール分13〜16%(V/V)、エキス分43〜50%(W/V)の香味の良好な酒精含有甘味調味料を得ることが出来る。
【0023】
本発明に従って、米麹とこれを用いる酒精含有甘味調味料の製造方法であって、以下の工程;
(a)米を乾燥する工程であって、乾燥後の米水分が13重量%以下である工程
(b)工程(a)において乾燥させた米に乾燥前の原料米の重量に対し0.0005%以上の重量分を溶解もしく分散させたα−アミラーゼを吸着させる工程であって、該α−アミラーゼが高度耐熱性または中度耐熱性である工程乾燥米に水に溶解もしく分散させたα−アミラーゼを吸着する工程であって、接触又は吸着後の米水分が40重量%以下である工程;
(c)米を蒸煮する工程であって、蒸煮温度100−120℃、蒸煮時間10−60分である工程と蒸煮した蒸米を用いて製麹する工程であって、45℃以下に冷却後種麹を接種し25−45℃にて2−5日間製麹する工程;
(d)工程(c)にて製造した米麹を用いて酒精含有甘味調味料を製造する工程であって、焼酎又は含水エタノールに米麹、蒸し糯米、場合によってはこれに、加水分解酵素類、水飴などの糖類を添加し、糖化熟成させる工程;
を包含する、方法が提供される。
【0024】
本発明によって製造される酒精含有甘味調味料とは、食品の調味、調香に利用するアルコールを含有する調味料を言い、例えば、みりんや塩みりん等のようなみりんタイプの調味料、清酒タイプ、ワインタイプ、あるいは老酒タイプなどの醗酵調味料、並びにみりん風調味料などがあげられるが、これらに限定されない。さらに、粉末タイプの調味料もまた、酒精含有甘味調味料に包含される。
【0025】
本明細書で使用する場合、用語「重量%」とは、「重量/重量%」および「%(w/w)」と同義であり、互換可能に使用される。
【0026】
以下に実施例等により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
サンプル「1」は、原料米100gを乾燥することなく用いた。サンプル「2」および「3」は、原料米100gを温風乾燥し、水分量を6.5重量%にして用いた。サンプル「1」〜「3」の原料米に対して、重量比で33.6%になるように、4mgのα−アミラーゼ(コクゲンSD−T20M:大和化成(株)社製)を溶解もしくは分散させた水溶液を均一に添加し、一晩吸水させた。
【0028】
蒸し器で40分蒸煮し、30℃に冷却した後種麹を0.038g均一に添加し、37℃にて45時間かけて製麹した。その結果を、(表1)に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
得られた麹(麹米換算50g)に対して、糯米400gを蒸したもの、および、39%エタノール304mlを加えて、30℃、1ケ月、糖化熟成し、得られたもろみをハンドプレスで圧搾した。それぞれの不溶性固形分を測定し、圧搾液の成分分析結果と共に(表2)に示した。
【0031】
【表2】

【0032】
その結果、同条件で製麹した通常用いられる乾燥させない粳米麹「1」と同様に香り豊かな糯米麹「2」粳米麹「3」ができた(表1)。また、(表2)の結果より、各麹を使用して仕込み行ったところ、香味が良好な酒精含有甘味調味料が得られた。表2の「粕量」および「不溶性固形分量」に示される結果の比較から明らかなように、「2」、「3」の米麹を使用したものは「1」の米麹を使用したものと比較して、圧搾液量やエキス分が高く、粕量、粕中の不溶性固形分量が減少していたことから、もろみ中では溶解されにくいとされている米麹が溶解されていることが示された。
【0033】
この結果より、従来の米麹を使用した場合より圧搾取得率上げることができ、エキス分の高い高付加価値をもつ酒精含有調味料の製造を可能にすることが示された。
【0034】
(実施例2)
乾燥後の糯米、及び粳米の水分含量を「1」2.4重量%「2」3.4重量%、「3」4.5重量%、「4」6.5重量%「5」8.5重量%、「6」10.4重量%、「7」12.2重量%、「8」13.8%に調整し、乾燥前の原料米100gに対し4mgのα−アミラーゼ(コクゲンSD−T20M:大和化成(株)社製)を溶解もしくは分散させた水溶液を添加後、米水分が34%になるようにし、実施例1と同様に製麹した。その結果を表3(糯米)および表4(粳米)に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
得られた麹(麹米換算50g)を用いて、糯米400gを蒸したものと39%エタノール304mlを加えて、30℃、1ケ月、糖化熟成し、得られたもろみをハンドプレスで圧搾した。圧搾後の粕量と粕中の不溶性固形分量を圧搾液の成分分析結果と共に表5(糯米)および表6(粳米)に示した。
【0038】
【表5】

【0039】
【表6】

【0040】
以上の結果より、胴割れによって細かくなりすぎない程度に乾燥させた米にα−アミラーゼを溶解もしくは分散させた水溶液を添加することによって(表3および表4の「胴割れ」参照)、表5および表6の「粕量」および「不溶性固形分量」に示される結果の比較から明らかなように、「2」〜「7」で良好な麹が得られ、特に「3」〜「6」では仕込みを行ったところ、本発明によって粕量、粕中の不溶性固形分量も減少し、圧搾液収得率が向上したことが示された。
【0041】
(実施例3)
実施例2の「4」と同様に、乾燥後の米水分含量を6.5%重量とし、各々の試験区で乾燥前の原料米100gに対し4mgのα−アミラーゼ(コクゲンSD−T20M:大和化成(株)社製)を溶解もしくは分散させた水溶液を加水後の米水分を「1」26.7%、「2」29.6%、「3」32.4%、「4」35.0%、「5」37.3%、「6」39.6%、「7」43.5%になるように加水し、実施例1と同様に製麹した。その結果を表7(糯米)および表8(粳米)に示す。
【0042】
【表7】

【0043】
【表8】

【0044】
得られた麹(麹米換算50g)を用いて、糯米400gを蒸したものと39%エタノール304mlを加えて、30℃、1ケ月、糖化熟成し、得られたもろみをハンドプレスで圧搾した。圧搾後の粕量と粕中の不溶性固形分量を圧搾液の成分分析結果と共に表9、表10に示した。
【0045】
【表9】

【0046】
【表10】

【0047】
以上の結果より、製麹がしやすい程度、米にα−アミラーゼを溶解もしくは分散させた水溶液を加水させることによって「2」〜「6」で良好な麹が得られ、特に「2」〜「6」では仕込みを行ったところ、製麹がしやすく、本発明によって粕量、粕中の不溶性固形分量減少し、圧搾液収得率が向上したことが示された。
【0048】
(実施例4)
乾燥後の米水分含量を6.5%重量とし、各々の試験区で加水後の米水分を35%になるように加水し、その際、溶解もしくは分散させるα−アミラーゼ(コクゲンSD−T20M:大和化成(株)社製)の量を原料米100gに対し、「1」0.5mg(=0.0005%(w/w))、「2」1mg(=0.001%(w/w))、「3」2mg(=0.002%(w/w))、「4」4mg(=0.004%(w/w))、「5」8mg(=0.008%(w/w))、「6」10mg(=0.01%(w/w))、「7」12mg(=0.012%(w/w))、になるよう加えて、実施例1と同様に製麹した。その結果を表11(糯米)および表12(粳米)に示す。
【0049】
【表11】

【0050】
【表12】

【0051】
得られた麹(麹米換算50g)を用いて、糯米400gを蒸したものと39%エタノール304mlを加えて、30℃、1ケ月、糖化熟成し、得られたもろみをハンドプレスで圧搾した。圧搾後の粕量と粕中の不溶性固形分量を圧搾液の成分分析結果と共に表13(糯米)、および、表14(粳米)に示した。
【0052】
【表13】

【0053】
【表14】

【0054】
以上の結果より、製麹がしやすい程度の量のα−アミラーゼ(すなわち、0.0005%(w/w)以上のアミラーゼ)を溶解もしくは分散させた水溶液を乾燥させた米に加水させることによって良好な麹が得られた。「2」(=0.001%(w/w))〜「7」(=0.02%(w/w))で仕込みを行ったところ、製麹がしやすく、粕量、粕中の不溶性固形分量が減少し、圧搾液収得率が向上したことが示された。特に、「3」(=0.002%(w/w))〜「6」(=0.01%(w/w))では、圧搾液収得率が大きく向上し、かつ、かつ香味が良好であったことが示された。
【0055】
(まとめ)
以上の結果から、乾燥後の原料米の水分は、3〜13重量%が好ましく、より好ましくは4〜12重量%であることが実証された。また、乾燥原料米にα−アミラーゼを接触させた後の水分量としては、27〜40%(重量)が良好な収量を提供するために好ましく、さらに、収率のみならず作業性の観点から29〜38重量%がより好ましいことが実証された。使用するα−アミラーゼの量は乾燥前の原料米に対し、0.0005%(w/w)以上が好ましく、より好ましくは0.001%(w/w)〜0.02%(w/w)であり、さらにより好ましくは、0.002%(w/w)〜0.01%(w/w)であることが実証された。
【0056】
このように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明はこの実施形態に限定して解釈されるべきではない。本発明は、特許請求の範囲によってその範囲が解釈されるべきことが理解される。当業者は、発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載及び技術常識に基づいて等価な範囲を実施することが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によって米麹をもろみ中で溶解しやすくし、粕量を低減させるための米麹製造法であって、米を乾燥し、α−アミラーゼ(高度耐熱性または中度耐熱性α−アミラーゼ)を吸着させることによって、圧搾液量の収得率を向上させ高品質な酒精含有甘味調味料を製造する方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米麹の製造方法であって、以下の工程:
(a)原料米を乾燥する工程、
(b)工程(a)において乾燥させた該原料米にα−アミラーゼを接触する工程であって、該α−アミラーゼが高度耐熱性または中度耐熱性である、工程、
(c)工程(b)において該α−アミラーゼを接触させた米を蒸煮する工程、および、
(d)工程(c)において該蒸煮した米に、種麹を接種して、製麹する工程、
を含有する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記工程(a)における乾燥後の水分量が13重量%以下である方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記工程(b)において前記原料米に接触させるα−アミラーゼの添加量が該原料米に対して0.0005%(w/w)以上である方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記工程(b)においてα−アミラーゼを接触後の米の水分量が40%(w/w)未満である方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記工程(c)が、
前記α−アミラーゼを接触した米を100〜120℃、10〜60分間蒸煮する工程、
である、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、前記工程(d)が、
前記蒸煮した米を45℃以下に冷却し、
種麹を接種し、そして、
25〜45℃にて2〜5日間製麹する工程、
である、方法。
【請求項7】
酒精含有甘味調味料の製造方法であって、以下の工程:
(a)原料米を乾燥する工程、
(b)工程(a)において乾燥させた該原料米にα−アミラーゼを接触する工程であって、該α−アミラーゼが高度耐熱性または中度耐熱性である、工程、
(c)工程(b)において該α−アミラーゼを接触させた米を蒸煮する工程、
(d)工程(c)において該蒸煮した米に、種麹を接種して、製麹する工程、および、
(e)工程(d)において製造された米麹を用いて酒精含有甘味調味料を製造する工程、
を含有する、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、前記工程(a)における乾燥後の水分量が13重量%以下である方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法であって、前記工程(b)において前記原料米に接触させるα−アミラーゼの添加量が該原料米に対して0.0005%(w/w)以上である方法。
【請求項10】
請求項7に記載の方法であって、前記工程(b)においてα−アミラーゼを接触後の米の水分量が40%(w/w)未満である方法。
【請求項11】
請求項7に記載の方法であって、前記工程(c)が、
前記α−アミラーゼを接触した米を100〜120℃、10〜60分間蒸煮する工程、
である、方法。
【請求項12】
請求項7に記載の方法であって、前記工程(d)が、
前記蒸煮した米を45℃以下に冷却し、
種麹を接種し、そして、
25〜45℃にて2〜5日間製麹する工程、
である、方法。
【請求項13】
請求項7に記載の方法であって、前記工程(e)が、焼酎又は含水エタノールに対して、米麹および蒸し糯米を添加し、15〜40℃で15〜90日間消化熟成させる工程である、方法。
【請求項14】
請求項7に記載の方法であって、前記工程(e)が、焼酎又は含水エタノールに対して、米麹、蒸し糯米、および、糖類を添加し、15〜40℃で15〜90日間消化熟成させる工程である、方法。

【公開番号】特開2013−42708(P2013−42708A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183068(P2011−183068)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(591134672)九重味淋株式会社 (3)
【Fターム(参考)】