説明

粉中のグルテンを完全に分解するための微生物バイオ技術のプロセス

本発明は、選択された乳酸菌および真菌酵素の、パンおよびデュラム小麦の両方、大麦、ライ麦、ならびにオーツ麦粉からのグルテン完全分解のための、使用に関する。特に、本発明は、選択された乳酸菌および真菌酵素の、様々なグルテンフリー食物の製造のため、標準的な生物工学的なプロトコルに従って解毒後に使われうる、穀粉のグルテン完全分解(残留グルテン濃度20 ppm未満)のための使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉中のグルテンを完全に分解するための、微生物バイオ技術に関する。特に、本発明によるプロセスは、液体発酵条件下で、完全グルテン分解(残留グルテン濃度20 ppm未満)のために、発酵ベークト製品の製造に日常的に使用される、選択された乳酸菌、および真菌プロテアーゼの使用に関する。発酵プロセスから得られた穀粉は、セリアック病患者に食されるようデザインされた、グルテンフリー(gluten-free)の食品の製造のための、原料として、使われうる。提唱された生物工学的プロセスは、元からグルテンフリーの、または、抽出プロセスの結果としての成分によって作られた、従来のグルテンフリーの食品の製造プロセスに比べて、様々な経済的、社会的、栄養的、および官能の利点を、生じる。
【背景技術】
【0002】
グルテン不耐性疫学またはセリアック病は連続的に増大している。ヨーロッパおよびアメリカ合衆国の住民についての最近の調査は、100人に1人の罹患者から成る、罹患率を報告する(Rewers, 2005. Epidemiology of celiac disease; what are the prevalence, incidence, and progression of celiac disease. Gastroenterology 128: 47-51)。現在の知見によれば、この食事性の不耐に対する、唯一効果的な療法は、全生涯にわたって厳密に監視される完全なグルテンフリーの食事である(Hamer, 2005.Celiac Disease: Background and biochemical aspects. Biotechnol Advanc 23: 401-408)。例えば、グルテンフリーの粉からの、ベークト製品の調製のための、乳酸菌の使用が、知られている(More et al. Cereal Chemistry, American Association of Cereal Chemists. Minneapolis, US, vol. 84, no. 4, 1 January 2007, pp. 357-365 、および、Moore et al. European Food Research and Technology, vol. 266, 6 June 2007, pp. 1309-1316)。しかし、また、グルテンフリーの食事は、明らかなデメリットをもたらす。グルテンフリーの製品は非常に高価で、穀物ベースの製品と比較した場合、低い官能的な質および貯蔵機能を示し、食事を厳密に監視することが困難であり、栄養士により継続的にモニターされること、また、食事に完全に穀物を欠く結果として、栄養的なアンバランス(例えば、繊維、ミネラル、およびビタミン類)を配慮することを必要とする(Grehn et al., 2001. Dietary habits of Swedish adult coeliac patients treated by a gluten-free diet for 10 years. Scand J Nutr 45: 178-182、Mariani et al., 1998 The gluten-free diet: a nutritional risk factor for adolescents with celiac disease. J Pediart Gastroenterol Nut 27: 519-523、Thompson et al., 2005. Gluten-free diet survey: are Americans with celiac disease consuming recommended amounts of fibre, iron, calcium and grain foods? J. Human. Nutr. Diet. 18:163-169)。さらに、場合によっては (例えば「難治性スプルー」) 、また、グルテンフリーの食事の完全な遵守は、腸の機能性の完全な回復をもたらさない(Sollid and Khosla, 2004. Future therapeutic options for celiac disease. Gastroenterol. Hepatol. 2: 140-147)。グルテンフリーの食事に代替する治療的処置の中で、様々な研究は、毒性をもたらすエピトープの配列における現在の知見を活用し、微生物の酵素、特に、ポリペプチドの加水分解のための、プロリルエンドぺプチダーゼ(PEPs)の使用を、検討してきた。微生物の酵素は、ダイエットサプリメントとして、(Shan et al., 2004. Comparative biochemincal analysis of three bacterial prolylendpeptidases: implications for celiac sprue. Biochem. J. 383:311-318)および/または、グルテンのin vitro における解毒のために(Chen et al., 2003. Identification and characterization of Lactobacillus helveticus PePO2, an endopeptidase with post-proline specificity. Appl. Environ. Microbiol. 69: 1276-1
282、Stepniak et al., 2005. Highly efficient gluten degradation with a newly identified prolyl-endoprotease: implications for celiac disease. Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol. 291: G621-G629)、示唆されてきた。
【0003】
特許出願WO2008/010252および、Cagno et al.(Journal of Food Protection, vol. 71, no. 7, 2008, pp. 1491-1495)は、グルテンフリーの粉からのベークト製品の調製についてのプロセスであって、グルテンフリーの材料から調製された、これら製品の栄養的、官能的、および貯蔵機能の特性を改善することを目的とするプロセスを開示する。
【0004】
ここ数十年の間、また、発酵ベークト製品のバイオ技術は大幅に変化し、以前にグルテンベースの食事を受けていた人々全体の栄養的習慣に影響を及ぼした。現在、発酵ベークト製品は、極めて迅速な技術的プロセス(例えば、化学的発酵剤またはパン酵母の使用)によって製造され、原料由来の野生型の乳酸菌および酵母を用いた、およびサワードウとして用いられた、長期の発酵プロセスと完全に置き換わった。現在のプロセスでは、穀物の成分(例えばタンパク質)は、食品加工の間、任意の加水分解活性に供されず、原材料特性を維持する(Gobbetti, 1998. The sourdough microflora: interactions between lactic bacteria and yeasts. Trends Food Sci. Technol. 9: 267-274)。前記の検討に基づいて、および、選択された乳酸菌混合物の酵素能力を利用して、様々な研究(Di Cagno et al., 2002. proteolysis by sourdough lactic bacteria: effects on wheat flour protein frantions and gliadin peptides involved in human cereal intolerance. Appl. Environ. Microbiol. 68: 623-633、 Di Cagno et al., 2004. Sourdough bread made from wheat and non toxic flours and started with selected lactobacilli is tolerated in celiac sprue patients. Appl. Environ. Microbiol. 70: 1088-1096、Di Cagno et al., 2005. Pasta made from durum wheat semolina fermented with selected lactobacilli as a tool for a potential decrease of the gluten intolerance. J. Agr. Food Chem. 53: 4393-4402、De Angelis et al., 2005. VSL#3 probiotic preparation has the capacity to hydrolyze gliadin polypeptides responsible for celiac sprue. Biochim. Biophys. Acta. 1762:80-93)は、伝統的なバイオ技術を用い、選択された乳酸菌の使用および長い発酵時間に基づいて、初期の穀物グルテン濃度を著しく減少させることが可能であることを実証した。
【0005】
WHO(世界保健期間)(World Health Organization)およびFAO(国際連合食料農業機関)(Food and Agricultural Organization)により採択されたコーデックス委員会(Codex Alimentarius)は、グルテン濃度が20 ppm未満の成分を含む「グルテンフリー製品」および、残留グルテン濃度200 ppm未満である「グルテンフリーメイド(gluten-free made)製品」を区別する。しかし、「プロラミン類ワーキンググループ(Prolamins Working Group)」によって公表されたガイドラインで最も決定的な点に達した、様々な研究は、どんな場合でも、20 ppm未満のグルテンの閾値を維持するように提案する(Stern et al. ,2001. Analysis and clinical effects of gluten in celiac disease. Eur. J. Gastroenterol. Hepatol. 13: 741-747)。Rizzelloらによる最近の研究(Rizzello et al., 2007. Highly efficient gluten degradation by lactobacilli and fungal proteases during food processing: new perspectives for celiac disease. Appl. Environ. Microbiol. 73: 4499-4507)は、半液体混練条件下での、10種の選択された乳酸菌、真菌プロテアーゼから成るさらに複雑な混合物の使用、および長い発酵時間(37℃で48時間)を検討した。電気泳動を用いた解析、クロマトグラフによる解析、および免学的な解析によれば、小麦粉中に含まれるグルテンは20 ppm閾値未満の濃度に分解された。
【0006】
さらに、既知の特許出願WO2006/097415の中で、前記の研究と類似して、少なくとも6種の乳酸菌および/またはビフィズス菌から成る複雑な混合物の使用、ならびに長い発酵時間(24-31時間)による、グルテン分解のプロセスが記載されている。しかし、前記の特許出願に記載された方法は、グルテンを完全に分解するためには適していない、従って、セリアック病患者への投与は不可能である。特許出願WO2006/097415の図1Bは、実際、微生物による加水分解の後に、グリアジン類が分解されていない明確なスポットがまだ存在しており、これは、表2で確かめられ、再度述べるが、同じ特許出願から、いくらかのグリアジン類が部分的に加水分解されるのに対して、他は加水分解プロセスに感受性でないことが、明らかである。
【0007】
文献および以前に記述されたデータに基づいて、いくつかの問題が、解毒された穀粉からのグルテンフリー食物の製造についての主な関心であるように思われる:(i)分解プロセスのために使用される、選択された乳酸菌の組成を単純化すること、(ii)発酵時間を大幅に減らし、従って、産業的プロセスに使用されるために適切にすること、(iii)異なる品種に属するパンおよびデュラム小麦粉、ならびに大麦、ライ麦およびオーツ麦で効果的に作用するための、乳酸菌および真菌酵素の能力を、実証すること、(iv)グルテンフリーの製品を製造するための解毒した穀粉を使用することを可能とする、グルテンの加水分解のためのバイオ技術のプロセスを提供すること、ならびに(v)in vivo慢性医薬試験を用いて、解毒された小麦粉に基づいたグルテンフリー製品の持続投与の後の、セリアック病患者への絶対的耐性を実証すること。
【0008】
従って、前記事項に照らし合わせれば、解毒された粉から成る、グルテンフリーベークト製品の調製のための、材料と方法であって、一方で、文献データの、経済的、社会的、栄養的、官能的調査から生じた不利益、他方で、現在市販されているグルテンフリー製品の不利益は示さない材料と方法を提供することの必要性が明白である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2008/010252
【特許文献2】WO2006/097415
【特許文献3】WO2006/097415
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Rewers, 2005. Epidemiology of celiac disease; what are the prevalence, incidence, and progression of celiac disease. Gastroenterology 128: 47-51
【非特許文献2】Hamer, 2005.Celiac Disease: Background and biochemical aspects. Biotechnol Advanc 23: 401-408
【非特許文献3】More et al. Cereal Chemistry, American Association of Cereal Chemists. Minneapolis, US, vol. 84, no. 4, 1 January 2007, pp. 357-365
【非特許文献4】Moore et al. European Food Research and Technology, vol. 266, 6 June 2007, pp. 1309-1316
【非特許文献5】Grehn et al., 2001. Dietary habits of Swedish adult coeliac patients treated by a gluten-free diet for 10 years. Scand J Nutr 45: 178-182
【非特許文献6】Mariani et al., 1998 The gluten-free diet: a nutritional risk factor for adolescents with celiac disease. J Pediart Gastroenterol Nut 27: 519-523
【非特許文献7】Thompson et al., 2005. Gluten-free diet survey: are Americans with celiac disease consuming recommended amounts of fibre, iron, calcium and grain foods? J. Human. Nutr. Diet. 18:163-169
【非特許文献8】Sollid and Khosla, 2004. Future therapeutic options for celiac disease. Gastroenterol. Hepatol. 2: 140-147
【非特許文献9】Shan et al., 2004. Comparative biochemincal analysis of three bacterial prolylendpeptidases: implications for celiac sprue. Biochem. J. 383:311-318
【非特許文献10】Chen et al., 2003. Identification and characterization of Lactobacillus helveticus PePO2, an endopeptidase with post-proline specificity. Appl. Environ. Microbiol. 69: 1276-1282
【非特許文献11】Stepniak et al., 2005. Highly efficient gluten degradation with a newly identified prolyl-endoprotease: implications for celiac disease. Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol. 291: G621-G629
【非特許文献12】Cagno et al. Journal of Food Protection, vol. 71, no. 7, 2008, pp. 1491-1495
【非特許文献13】Gobbetti, 1998. The sourdough microflora: interactions between lactic bacteria and yeasts. Trends Food Sci. Technol. 9: 267-274
【非特許文献14】Di Cagno et al., 2002. proteolysis by sourdough lactic bacteria: effects on wheat flour protein frantions and gliadin peptides involved in human cereal intolerance. Appl. Environ. Microbiol. 68: 623-633
【非特許文献15】Di Cagno et al., 2004. Sourdough bread made from wheat and non toxic flours and started with selected lactobacilli is tolerated in celiac sprue patients. Appl. Environ. Microbiol. 70: 1088-1096
【非特許文献16】Di Cagno et al., 2005. Pasta made from durum wheat semolina fermented with selected lactobacilli as a tool for a potential decrease of the gluten intolerance. J. Agr. Food Chem. 53: 4393-4402
【非特許文献17】De Angelis et al., 2005. VSL#3 probiotic preparation has the capacity to hydrolyze gliadin polypeptides responsible for celiac sprue. Biochim. Biophys. Acta. 1762:80-93
【非特許文献18】Stern et al. ,2001. Analysis and clinical effects of gluten in celiac disease. Eur. J. Gastroenterol. Hepatol. 13: 741-747
【非特許文献19】Rizzello et al., 2007. Highly efficient gluten degradation by lactobacilli and fungal proteases during food processing: new perspectives for celiac disease. Appl. Environ. Microbiol. 73: 4499-4507
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、この度、真菌プロテアーゼと組み合わせた、わずか二種の選択された乳酸菌を使用して、グルテン分解に必要な発酵時間が著しく減少することを発見した。さらに、異なるパンおよびデュラム小麦品種、大麦、ライ麦およびオーツ麦粉からの、完全グルテン分解についての、乳酸菌および真菌プロテアーゼの能力が、立証された;解毒された小麦粉からの、様々な発酵ベークト製品製造のための、バイオ技術のプロトコルが提供された;ならびに、セリアック病患者のための絶対的な製品耐性が実証され、従って、完全に革新的な方法で、小麦粉を、グルテンフリー発酵ベークト製品の製造のためにの成分として使用することが可能となった。
【0012】
本発明による乳酸菌は、Lactobacillus属に属し、南イタリアの典型的なパンの製造に使用される「サワードゥ」から単離された。Lactobacillus sanfranciscensis DPPMA12(DSMZ N. DSM22063として2008/11/28に寄託された)および、Lactobacillus plantarum DPPMA125(DSMZ N. DSM22064として2008/11/28に寄託された)。
【0013】
望まれる特徴による様々なパーセンテージでの、パン酵母を用いた短い発酵(約1〜3時間)のための成分としての、グルテンフリー発酵ベークト製品(残留グルテン含有量20 ppm未満)の製造のための、選択された乳酸菌および真菌プロテアーゼの、20〜50重量%で水に再懸濁された穀粉の非常に早い発酵プロセス(12〜20時間)中での使用、およびその連続的な使用を含むバイオ技術のプロトコルは、標準化され、最適化された。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、解毒されたグルテンフリーの小麦粉からの、発酵ベークト製品の製造のための、生物工学的プロトコルのアウトラインを報告する。
【0015】
【表1】

【0016】
可能な処方の一つによれば、最初のグルテンの10gに相当する量を含むベークト製品を、セリアック病患者に、60日間にわたって、毎日投与した。免疫化学的、および組織学的アッセイは、解毒されたグルテンフリーの粉からの調製物の絶対的耐性を立証した。
【0017】
電気泳動技術、クロマトグラフ技術、および免学的技術を用いた補完的なアッセイによれば、本発明による、以前の研究では使用されていない選択された乳酸菌および真菌プロテアーゼを用いた発酵プロセスは、以下を達成する:(i)完全なグルテンの解毒(残留グルテン含有量20 ppm 未満)、(ii)従来のグルテンフリーの製品に関して栄養的な特性を上昇させる、低分子量ペプチドおよび、特にアミノ酸(小麦粉中<1000 mg/kgについて、約15.000 mg/kg)の混合物から成る、加水分解された粉の製造、(iii)論文に報告されたデータと比較したプロセス時間の著しい減少、従って前記プロセスを、産業的スケールアップ変換へ適するようにする、(iv)解毒した小麦粉の異なる濃度(20〜50%)での使用を含む、異なる成分処方のグルテンフリーベークト製品の製造、ならびに、(v)初めて報告された医学的データによる、持続投与後の、セリアック病患者のための調製物の絶対的耐性。
【0018】
本発明のプロセスにより入手可能な製品は、従来技術製品(元からグルテンフリーな粉からの、グルテンフリー製品)によって提供されなかった、有利な官能的、レオロジー的、化学的特性を示す。本発明による製品は、実際、粉に含むグルテンの栄養的特性を、従って、グルテンフリーの粉から得られた製品と比較して、より良い栄養的特性の提供を、維持する。
【0019】
さらに、本発明による製品は、本発明の乳酸菌によって行ったグルテン分解プロセスの結果、他の既知の乳酸菌(WO2006/097415、WO2008/010252)を用いて得られた製品よりも、完全にグルテンフリーである。特許出願WO2008/010252による乳酸菌は、本発明による乳酸菌と同じ条件下で使用され、グルテンの分解には適しておらず、実際、残留グルテン含有量は、約6000〜10000 ppmである(図5)。従って、前記バクテリアは、ただグルテントレースの汚染除去に使われうるだけで、本発明によるバクテリアと同様のパフォーマンスは示さない。
【0020】
Rizzelloらによる文献(Appl. Environ. Microbiol. 73: 4499-4507, 2007)に関して、著しく短い時間(48時間に比較して18時間)で完全なグルテン分解を得る可能性は、第一に、その転換プロセスを、オーブン製品について最も頻出し共通した産業的プロセスに匹敵させるという、かなりの技術的利点を意味する。あまりに長い(48時間)発酵プロセスは、技術的コストの増加に加えて、衛生学的―公衆衛生的リスクが存在する可能性があった。その上、さらに速いグルテン分解プロセスは不可避に、遊離アミノ酸の異なるプロフィールで特徴付けられ、それゆえ、不可避に異なる酵素的動力学によって特徴付けられるより長いプロセスと比較してグルテンフリー製品の異なる官能的特性をもたらすのに適する、未加工の原料(完全に加水分解したグルテンを伴う粉)を作製できるようする。
【0021】
従って、本発明の具体的な対象は、Lactobacillus sanfranciscensis DSM 22063およびLactobacillus plantarum DSM 22064乳酸菌を含む、または、から成る、混合物である。混合物はさらに、真菌タンパク質分解酵素、例えば、Aspergillus oryzae、Aspergillus niger プロテアーゼ、またはそれらの混合物を含みうる。
【0022】
さらに、本発明の対象は、パンおよびデュラム小麦の両方、大麦、ライ麦、オーツ麦粉に含まれるグルテンの完全分解のための、前記に定義された混合物の使用である。
【0023】
さらに、本発明は、発酵グルテンフリー製品の製造に適した、完全に分解されたグルテンを伴う、液体粉生地の調製プロセスに関し、以下の工程を含む、または、以下の工程から成るプロセスに関する:
a) Lactobacillus sanfranciscensis DSM22063およびLactobacillus plantarum DSM 22064乳酸菌を繁殖する培養、
b) 20〜50%、好ましくは30%の濃度の粉および、a) 工程の二種のバクテリアの混合物を細胞密度約108 cfu/gで含む、50〜80%の、好ましくは70%の水の混合、
c) 各濃度200〜500 ppm、好ましくは400 ppmでの、一つまたは複数の真菌プロテアーゼの添加
d) 8〜20時間、好ましくは12時間の、30〜37℃での発酵。
【0024】
当該プロセスはさらに工程d)で得られた液体生地を乾燥させるという工程e)を含みうる。当該プロセスで使用するのに適した粉の中には、パンおよびデュラム小麦の両方、大麦、ライ麦、オーツ麦粉、またはそれらの混合物、好ましくはパンおよびデュラム小麦が存在する。
【0025】
真菌タンパク質分解酵素は、Aspergillus oryzae、Aspergillus niger プロテアーゼ、またはそれらの混合物、から成る群から選択されうる。
【0026】
従って、本発明は、また、前記に定義されたプロセスによって、生地中のグルテンが完全に分解された、液体または乾燥した粉生地に関する。
【0027】
さらに、本発明の対象は、例えば、原生トウモロコシ、白色トウモロコシ、米、キノア、テフ、または、アマランス、およびソバ粉から成る群から選択される、一つまたは複数の元からグルテンフリーの粉と組み合わせた、上記で定義された生地を含む、または、前記生地から成る、混合物である。特に、上記で定義された粉は、以下のパーセンテージに従って、使われうる:原生トウモロコシ 5〜15%、好ましくは10%、白色トウモロコシ 5〜15%、好ましくは10%、米、キノア、テフ、またはアマランス 10〜30%、好ましくは20%、および、ソバ粉 1〜10%、好ましくは5%(前記パーセンテージは、粉組成物の全重量に基づいた重量で表現される)。解毒された小麦粉に基づく、グルテンフリーベークト製品の処方に加えうる、他の成分は、例えば、砂糖、バター、卵および動物性液体クリームである。
【0028】
さらに、本発明の対象は、前記で定義されたプロセスに従ってグルテンが解毒された粉を用いた、発酵ベークト製品の調製のためのプロセスであり、以下の工程を含む、または、以下の工程から成るプロセスである:
a) 元からグルテンフリーな粉 10-40%、好ましくは30%、パン酵母 1-2%、塩 0.1-1.0%、および、構造化剤 0.5-1%の混合物を、前記で定義されたプロセスを用いたグルテンが解毒された液体粉生地へ加え、混練し、
b) 約1〜3時間、好ましくは1.5時間、30℃で発酵させ、
c) 50分間、220℃で焼く(グルテンを解毒した粉生地を乾燥させる場合、成分と水の%比率は約1.2:0.8となる)。
【0029】
元からグルテンフリーの粉は、原生トウモロコシ、白色トウモロコシ、米、キノア、テフ、アマランス、ソバ粉、またはそれらの混合物から成る群から選択されうる。一方で、グルテンが解毒化された粉は、パンおよびデュラム小麦の両方、大麦、ライ麦、オーツ麦粉、および、それらの混合物、好ましくはパンまたはデュラム小麦粉、から成る群から選択されうる。
【0030】
従って、本発明の対象は、また、前記で定義されたプロセスを用いて得られる、発酵ベークト製品の調製に関する。
【0031】
さらに、本発明の対象は発酵ベークト製品の調製についてのプロセスであり、以下の工程を含む、または、以下の工程から成るプロセスである:
a) 直接、原生トウモロコシ、米粉、卵、砂糖、バター、およびパン酵母を、前記で定義されたプロセスに従ってグルテンが解毒された粉生地に加え、混練し、
b) 1.5時間、30℃で発酵させ、
c) 発酵生地を50分間250℃で焼く。
【0032】
特に、工程a)において、成分%は以下のようである:原生トウモロコシ 10%、米粉 10%、卵 5%、砂糖3%、バター1%、およびパン酵母1.5%。
【0033】
従って、前記のプロセスを用いて得られる発酵ベークト製品は、本発明の対象を構成する。
【0034】
さらに、本発明の対象は、また、本発明による製品の使用、すなわち、粉生地、グルテンフリーの粉と生地の混合物、発酵ベークト製品、グルテンフリーの食事に起因する栄養的なアンバランスをカバーするのに適した発酵ベークト製品の使用である。
【0035】
最終的に、Lactobacillus sanfranciscensis DSM22063およびLactobacillus plantarum DSM22064乳酸菌は、本発明の対象を示す。
【0036】
本発明は、ここに、それ自身の好ましい実施態様に従い、特に含まれる図を参照に、例示的に記述するが、限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、Lactobacillus sanfranciscensis DPPMA12(DSM22063)およびLactobacillus plantarum DPPMA125(DSM22064)の、(a)においては、Nタイプアミノぺプチダーゼ(PepN)、ジペプチダーゼ(PepV)、および、トリぺプチダーゼ(PepT)、ならびに(b)においては、プロリンイミノぺプチダーゼ(PepI)、プロリダーゼ(PepQ)、プロリナーゼ(PepR)、ジペプチジル-ぺプチダーゼ(PepX)の、それぞれ、Leu-p-NA、Leu-Leu、Leu-Leu-Leu、ならびに、Pro-p-NA、Val-For-Gly、および、Gly-For-Wing合成基質における、活性を示す。Rizzelloらの研究(Rizzello et al., 2007. Appl. Environ. Microbiol. 73: 4499-4507)で用いた乳酸菌をコントロールとして使用した(Lactobacillus alimentarius 15M、Lactobacillus brevis 14G、L. sanfranciscensis 7A、Lactobacillus hilgardii 51BおよびL. sanfranciscensis LS3、LS10、LS19、LS23、LS38およびLS47)。酵素活性を、活性ユニット(U)、すなわち、p-ニトロアニリドを1μmol/minで、または、p-ニトロアニリドと異なる基質における活性についてはアミノ酸を1μmol/minで、放出するのに必要な酵素量として、表現した。
【図2】図2は、様々なデュラム小麦品種(SvevoおよびDuilio)の、選択された乳酸菌および真菌プロテアーゼで処理前および後の、二次元電気泳動プロファイルを示す。
【図3】図3は、選択された乳酸菌および真菌プロテアーゼによる加水分解プロセス前および後の、小麦粉のタンパク質組成を、示す。
【図4】図4は、WO2008/010252(Lactobacillus sanfranciscensis LS40、LS13、LS44、LS35、LS14、LS11、LS18、LS4、LS15、およびLS41)ならびに本発明[L. sanfranciscensis DPPMA12(DSM22063)およびLactobacillus plantarum DPPMA125(DSM22064)]によって使用された乳酸菌の、アミノぺプチダーゼ(a)、プロリンイミノペプチダーゼ(b)、および、プロリル-ジペプチジルアミノぺプチダーゼ(c)の活性を、示す。頭字語15M、14G、7A、51B、LS3、LS10、LS19、LS23、LS38、およびLD47は、Rizelloら(2007)の出版物に従って使われたバイオタイプを、表す。
【図5】図5は、Lactobacillus sanfranciscensis LS40、LS13、LS44、LS35、LS14、LS11、LS18、LS4、LS15、およびLS41(WO2008/010252)、ならびにL. sanfranciscensis DPPMA12(DSM22063)およびLactobacillus plantarum DPPMA125(DSM22064)で、12時間37℃で、発酵させた生地内の残留グルテン濃度(ppm)を示す。
【図6】図6は、WO2008/010252による異なる組み合わせの乳酸菌を用いた時の発酵生地(生地1、2、3、4、および5)内の、ならびに、本発明の二種の乳酸菌(DPPMA12およびDPPMA125)で発酵させた小麦粉生地内の、遊離アミノ酸の合計濃度(mg/kg)を、示す。
【図7】図7は、WO2008/010252によるパン(1、2、4、および5)、ならびに、本発明による解毒された小麦粉を用いて得られたパン(DPPMA12およびDPPMA125)の、官能解析から得られた、主成分分析(Principal Component Analysis(PCA))のデータを、示す。
【実施例1】
【0038】
実施例1:選択された乳酸菌のぺプチダーゼ活性
以前に「サワードゥ」から単離された、the Dipartimeto di Protezione delle Piante and Microbiologia Applicata dell’Universita delgi Studi di Bariの 培養コレクションからの、L. sanfranciscensis DPPMA12およびL. plantarum DPPMA125は、30℃、24時間、通常の成分に加えて、5% マルトース、および10%酵母水‐最終pH 5.6を含む改変MRS(mMRS)中で、増殖させた。ぺプチダーゼ活性のコントロールとして、Rizzelloらによる最近の文献(Rizello et al., 2007. Appl. Environ. Microbiol. 73:4499-4507)で使用されている乳酸菌:Lactobacillus alimentarius 15M、Lactobacillus brevis 14G、L. sanfranciscensis 7A、Lactobacillus hilgardii 51B、およびL. sanfranciscensis LS3、LS10、LS19、LS23、LS38、およびLS47が、使用された。
【0039】
細胞を24時間培養し、遠心分離(10000 rpm、4℃)で回収し、二回、リン酸バッファー 50mM、pH 7.0で洗浄し、同じバッファーで、108 cfu/mlに相当する2.5(A620 nm)光学密度で再懸濁し、酵素アッセイのために用いた。タイプN(PepN)アミノぺプチダーゼおよびプロリンイミノペプチダーゼ(PepI)活性を、それぞれ、Leu-p-NAおよびPro-p-NA合成基質を用いて、決定した。反応混合液は、溶解された合成基質(最終濃度2 mM)および100 μlの細胞懸濁液を含む0.9 mlのK-リン酸バッファー(50mM、pH 7.0)から成る。酵素活性は活性ユニット(U)として表し、活性ユニット(U)は、n-ニトロアニリドの1 μmol/minの放出に必要な酵素量に相当する(Gobbetti et al., 1996. The proteolytic system of Lactobacillus sanfranciscensis CB1: purification and characterization of a proteinase, a dipeptidase, and an aminopeptidase. Appl. Environ. Microbiol. 62: 3220-3226)。プロリダーゼ(PepQ)、プロリナーゼ(PepR)および、ジペプチジル−ぺプチダーゼ(PepX)を、Cagnoおよび共同研究者によって述べられているように(Di Cagno et al., 2004. Sour dough bread made from wheat and nontoxic flours and starter with selected lactobacilli is tolerated in celiac sprue patients, Appl. Environ. Microbiol. 70: 1088-1096)、それぞれ、Val-Pro、Pro-Gly、およびGly-Pro-Alaを用いて決定した。ジペプチダーゼ(PepV)、および、トリぺプチダーゼ(PepT)を、Cd-ニニドリン(ninidrine)法(Gobbetti et al., 1999. Study of the effects of temperature, pH, NaCl, and aw on the proteolytic and lipolytic activities of cheese-related lactic bacteria by quadratic response surface methodology, Enzyme Microbial Technol 25: 795-809)に従って、それぞれ、Leu-LueおよびLeu-Leu-Leuを用いて、決定した。1活性ユニット(U)を、1 μmol/minのアミノ酸を放出するのに必要な酵素量として、定義する。
【0040】
比較目的のために、WO2008/010252に記載された乳酸菌(L. sanfranciscensis LS40、LS13、LS44、LS35、LS14、LS11、LS18、LS4、LS15、およびLS41)で、また、試験を繰り返した。
【実施例2】
【0041】
実施例2:小麦粉からのタンパク質抽出および電気泳動解析
タンパク質を、Weissらによって記載された方法(Weiss et al., 1993. Electrophoretic characterization of wheat grain alergens from different cultivars involved in bakers’ asthma. Electrophoresis. 14: 805-816)によって小麦粉から抽出した。約30 μgの抽出フラクションタンパク質の二次元電気泳動解析を、イモビリン(immobiline)―ポリアクリルアミド法(De Angelis et al., 2005. Biochim. Biophys. Acta. 1762: 80-93)に従って実行した。各独立した発酵に対して4枚のゲルを解析し、データをBiniらが提案しているような手順(Bini et al., 1997. Protein expression profiles in human breast ductal carcinoma and histologically normal tissue. Electrophoresis. 18: 2831-2841)に従ってノーマライズした。
【実施例3】
【0042】
実施例3:免疫学的およびマススペクトロメトリーMALDI-TOF解析
免疫学的解析を、R5抗体、ならびに、サンドウィッチおよび競合的ELISA試験(Transia Plate、Diffchamb)(Valdez et al., 2003. Innovative approach to low-level gluten determination in foods using sandwich enzyme-linked immunosorbent assay protocol. Eur. J. Gastroenterol. Hepatol. 15: 465-474)を用いて行った。MALDI-TOFスペクトメトリー解析を、Voyager-De Pro-workstation(PerSeptive Biosystems United Kingdom)を用い、Hernandoらによって報告された方法(Hernando et al.,2003. New strategy for the determination of gliadin in maize or rice-based foods matrix-assisted laser desorption/ionization time-of-flight mass spectrometry fractionation of gliadin from maize or rice-prolamins by acid treatment. J. Mass Spectrom. 38: 862-871)に従って、行った。
【0043】
タンパク質濃度を、ブラッドフォード法(Bradford, 1976. A rapid and sensitive method for the quantification of microgram quanties of protein utilizing the principle of protein-dye binding. Anal. Biochem. 72: 248-254)に従って決定した。有機窒素濃度を、ケルダール法に従って決定した。遊離アミノ酸濃度を、amino acid analyser(Biochrom Ltd., Cambridge Science Park, United Kingdom)(Di Cagno et al. 2004. Appl. Environ. Microbiol. 70: 1088-1096)を用いて決定した。
【0044】
また、比較目的のために、WO2008/010252に記載されたlattobacilli(L. sanfranciscensis LS40、LS13、LS44、LS35、LS14、LS11、LS18、LS4、LS15、およびLS41)を用いて、前記出願の図8において報告されたプロトコルに指示されたような手順に従って、24時間30℃の発酵の後に得られた生地中の、遊離アミノ酸濃度を、決定した。
【実施例4】
【0045】
実施例4:解毒された小麦粉を用いた発酵ベークト製品製造
前記のように、二種の選択された乳酸菌の培養物を培養培地で増殖させ、洗浄し、水に再懸濁した。小麦粉を30%で、細胞密度約108 cfu/gの前記の二種の乳酸菌の混合物を含む水(70%)と混合し、各400 ppmの濃度の真菌の酵素を加えた。発酵を12時間、37℃で行った。発酵の後に、直接的に、液体生地へ、原生トウモロコシ(10%)、米粉(10%)、卵(5%)、砂糖(3%)、バター(1%)、およびパン酵母(1.5%)を加えた。濃度は全生地重量に基づいている。混練の後に、発酵を1.5時間、30℃で行い、発酵生地を50分間、250℃で焼いた。
【0046】
プロセスは、さらに、液体小麦粉生地の乾燥工程を含みうる。異なる成分を、また、グルテンフリーのパンの製造のために使用する。
【0047】
また、比較目的のために、パン1、2、4および5を、特許出願WO2008/010252のプロトコルに従って、作製した。本発明および従来技術それぞれに従って得られたパンの官能分析を行い、特に、以下を考慮した(弾力性、酸フレグランス、酸味、甘み、乾燥度、およびフレグランス)。各要素は、スコアスケール0から100によって評価した。官能解析の結果は、主成分分析によって処理された。さらに、パンを、アメリカ穀物科学者協会(American Association of Cereal Chemistry(AACC))の標準方法に従って、体積比、パン内部の構造、堅さおよび繊維含有量について分析した。
【実施例5】
【0048】
実施例5:解毒された小麦粉から作られた発酵ベークト製品のセリアック病患者への投与
解毒された小麦粉に基づくベークト製品を前記に記載されたように得て、5人のセリアック病患者へ投与した。セリアック病の病理学診断を、適切に、欧州小児栄養消化器肝臓学会(European Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition)によって提言された基準に従って、得た。患者の平均年齢は15歳であった。セリアック病患者は、少なくとも2年寛解状況下にあり、コントロールされたグルテンフリーの食事に供されていた。動員時、全ての患者は、陰性の組織化学的アッセイと同様に、血清学的、病理学的陰性指標を示した。各患者は、60日間の間、毎日、10 gの天然グルテンに相当する量の解毒された小麦粉を含むベークト製品を、消費した。免疫化学的および組織学的アッセイを、Dipartimento di Pediatria e Gastroeneterologia dell’Universita degli Studi di Napoli, Federico IIで、実施した。患者の募集は親のインフォームドコンセントと共に行い、親は、ナポリ大学倫理委員会(Ethical Committee of the University of Naples)に事前に許可された実験スケジュールに供されている。
【0049】
<結果>
(1)選択された乳酸菌のぺプチダーゼ活性
ぺプチダーゼ活性を、グルテンに由来するオリゴペプチド類の分解に重要な、ぺプチダーゼ活性に相対的に特異的な合成基質で、分析した(図1)。L. sanfranciscensis DPPMA12およびL. plantarum DPPMA125が全ての想定された酵素活性を示すことを観察することができた。tripeptidase(PepT)タイプの活性を例外として、二種の選択された乳酸菌および、特に、L. plantarum DPPMA125は、Rizzelloらによる研究(Rizzello et al., 2007. Appl. Environ. Microbiol.73: 4499-4507)で使用されたバイオタイプよりも有意に高い(p<0.05)、他のぺプチダーゼ活性に関する値を示す。有意な差を、特に、(様々な結合位置においてプロリン残基が存在する)PepI、PepQ、PepR、およびPepX活性について、検出した。グルテニンおよび、特にグリアジンは、非常に高く、並外れたパーセンテージ(40〜60%)のグルタミンおよびプロリン残基を含む。従って、前記最後のイミノ酸は、小麦粉に由来して特に、毒性エピトープを生じ、セリアック病の原因となる。プロリンが中に含まれる、結合の高度な分解のために適した微生物を提供するためには、この酵素活性は、確かに、非常に強いグルテン分解および迅速な加水分解プロセスにとっての必要条件である。従って、スクリーニングに供する大きな培養コレクションの利用可能性、および、多数のアッセイされた酵素活性が、通常得られない、選択された菌株を得るための必要条件である。選択された乳酸菌のぺプチダーゼ活性は、パン作りのプロセスにおいて通常用いられる真菌プロテアーゼの補完的な使用により、増進される。同様の酵素は、意図するベークト製品に依存して、タンパク質濃度、従って、「小麦粉強度(flour strength)」を改変するために、パン製造工場で使用される。
【0050】
図4は、従来技術乳酸菌および、本発明による二種の乳酸菌(DPPMA12およびDPPMA125)、それぞれの、ペプチダーゼ活性の比較を示し、後者が著しく高いアミノぺプチダーゼ、プロリンイミノぺプチダーゼおよびプロリルジペプチジルアミノぺプチダーゼ活性を示すことが、明らかである。
【0051】
(2)加水分解された小麦粉の特性
12時間、37℃の発酵の後、タンパク質画分を選択的に抽出し、補完的な分析的アッセイに供した。二次元電気泳動解析(図2)を用いてることによって明らかなように、発酵プロセスの終わりには、SvevoおよびDuilioデュラム小麦品種の小麦粉から、グリアジンの痕跡が検出されない。同様の結果が、パン用の市販されている「00」タイプの小麦、試験された他のデュラム小麦品種(Arcangelo、Ciccio、Colosseo、Gargano、およびSimeto)、および、大麦、ライ麦、および、オーツ麦粉のグルテニン画分で認められた。小麦粉タンパク質を、60%エタノールで抽出し、MALDI-TOF MS技術で解析した。グリアジンヨーロッパ標準に対応するピークは、12時間、37℃の発酵の後に、完全に消失した。いくつかのピークだけが、分子量8 kDa未満で、スペクトメトリー解析により、検出された。免疫学的解析をR5抗体を用いて行い、ELISAアッセイが、発酵されたサンプル中にグリアジンの痕跡が検出されないことを確かめた。同様の方法に従って、パン用の市販されているタイプ「00」小麦、デュラム小麦品種および、大麦、ライ麦、およびオーツ麦粉中の、決定された残留グルテン濃度が、全ての場合で、20 ppm未満であった。これらの決定のために用いた手法は、AIC(Associazione Italiana Celiachia)、WHO、FAOの公認した方法である。データを報告した論文(Rizzello et al. 2007. Appl. Environ. Microbiol. 73: 4499-4507)に関して、加水分解プロセスは同様の有効性(残留グルテン< 20 ppm)だが、著しく短い時間で(12対48時間)行われる。前記プロセスの高効率は、一方で、より高濃度の各真菌タンパク質分解酵素(400 ppm)に由来し、他方で、主に、選択された乳酸菌バイオタイプのより高いぺプチダーゼ活性に由来する。また、唯一、低い初期グルテン濃度のパン小麦粉を考慮していた、前記参考文献と比較して、本発明は、また、初期に大きなタンパク質濃度を持つ、様々なデュラム小麦種、および、大麦、ライ麦、および、オーツ麦小麦粉でのプロトコル有効性を示す。
【0052】
図3においては、パン用の市販されているタイプ「00」小麦粉の、発酵プロセス前後の有機窒素含有量を報告する。加水分解された小麦粉は、ほとんど全体的に、低分子量ペプチドおよびアミノ酸の混合物から成る。加水分解された小麦粉中に、初期グルテニンがわずか20%未満でまだ存在している。加水分解された小麦粉中のアミノ酸濃度は、小麦粉に、<1.000 mg/kgが見出されるのに比べ、約15000 mg/kgである。遊離アミノ酸のより高い生物学的利用能は、加水分解された小麦粉を、高い栄養を含有する原材料にし、同時に、ミネラル塩類、ビタミン類、および繊維類に関して、他の穀物の栄養特性を維持する。グルテンフリー食物の製造のための成分として使用する場合、加水分解された小麦粉は、グルテンフリーの食事由来の、栄養的なアンバランスをカバーするだろう(Grehn et al., 2001. Scand J Nutr 45: 178-182; Mariani et al., 1998. J Pediart Gastroenterol Nut 27: 519-523; Thompson et al., 2005. J. Human. Nutr. Diet. 18: 163-169)。
【0053】
従来技術乳酸菌を用いた比較試験は、最も高い加水分解条件の後で、生地中のアミノ酸濃度が著しく低く、約2000 mg/kgと同等であることを示す(図6)。このことは、小麦タンパク質の異なる加水分解度合いを裏付ける。さらに、放出されたアミノ酸は、焼きプロセス中に生じ、ベークト製品の味の決め手となる、揮発性物質化合物の前駆体であるため、著しく高い遊離アミノ酸濃度は、本発明の場合において、より多くの揮発性化合物の合成、従って、本発明による製品のより良い味を示す。
【0054】
(3)解毒された小麦粉を用いた発酵ベークト製品の製造
解毒された小麦粉に基づく、発酵ベークト製品の製造についての、バイオ技術プロトコルの応用実施例を、前記で報告した。ベークト製品の製造に加えて、プロトコルを、前記記載の成分を用いたグルテンフリーのパン製造のために、標準化し、また、最適化した。解毒された小麦粉の直接的使用の可能性に加えて、スプレードライヤーを用いたそれ自身の処置、および引き続いて乾燥した物の使用が、可能である。前記のさらなる技術的可能性は、小麦粉の栄養特性を変化させずに、所定の時間にわたる原料の簡単な保存を可能にする。
【0055】
図7は、従来技術のパンと比較した、本発明(DPPMA12+DPPMA125)によるパンのベストな官能特性を示す。さらに、表1は、本発明によるパンが、従来技術のパンと比較して、より大きな体積比、よりパンの中身に気泡があること、堅くないこと、より高い繊維含有量によって、特徴付けられることを示す。前記の相違点は、解毒されたが、よりよいレオロジー的および化学的特性が好ましく適当である、小麦粉の存在に起因する。
【0056】
【表2】

【0057】
(4)解毒された小麦粉から作られたベークト製品のセリアック病患者への投与
前記のバイオ技術プロトコルに従って準備した、ベークト製品を、毎日、セリアック病患者へ、10 gの未変性のグルテンに相当する量で投与した。表2において、解毒された小麦粉に基づいた、消費(10 gのグルテンに相当する量を、60 ggになる日まで)に供された、寛解セリアック病患者の免疫化学的、組織学的指標を、報告する。
【0058】
【表3】

【0059】
観察が可能であるように、募集時(T0)における全ての患者は正常な血清学的および組織学的値(マーシュグレード(Marshes Grade))を示す。各日10 gグルテンに相当する量の消費の後、60日間(T60)で、最初の値と比較して、生化学的および免疫化学的値に、違いはなかった。特に、バイオ光学的サンプルに基づいて検出されたような完全性条件および腸粘膜の機能性を示す、マーシュグレードは、初期値と完全に同一であることが観察されるべきである。どの患者も検証中に、腸絨毛の萎縮に進行しなかった。採用した患者の、わずか、5人のうち1人が、最終的な病理学的な状態にはよらずに個人的な理由により試験を中断した。最も注意深いin vivo 臨床解析に基づいて得られた結果に基づき、解毒された小麦粉が、全ての患者に許容されると述べることが可能である。結論として、解毒された小麦粉は、グルテンフリーの食物の調製に、使われうる。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Lactobacillus sanfranciscensis DSM22063およびLactobacillus plantarum DSM22064 乳酸菌を含む、または、から成る、混合物。
【請求項2】
さらに真菌プロテアーゼを含む、請求項1に記載の混合物。
【請求項3】
真菌プロテアーゼが、Aspergillus oryzae、Aspergillus nigerプロテアーゼ、または、それらの混合物から成る群から選択される、請求項2に記載の混合物。
【請求項4】
粉、および/または前記粉の発酵におけるグルテン完全分解のための、請求項1から3のいずれか一項に記載の混合物の使用。
【請求項5】
粉が、テンダーまたはデュラム小麦、大麦、ライ麦、または、オーツ麦粉から成る群から選択される、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
発酵グルテンフリー製品を製造するのに適した、グルテンが完全に分解されている液体粉生地を調製するための、以下の工程:
a) Lactobacillus sanfranciscensis DSM22063およびLactobacillus plantarum DSM22064乳酸菌を繁殖する培養工程、
b) 20〜50%、好ましくは30%の濃度の粉、および、工程a)の二種の菌株の混合物を細胞密度約108 cfu/gで含む、50〜80%、好ましくは70%の水の混合工程、
c) 各濃度200〜500 ppm、好ましくは400 ppmの濃度での、一つまたは複数の真菌プロテアーゼの添加工程、
d) 8〜20時間、好ましくは12時間、30〜37℃での発酵工程
を含む、または、から成る、プロセス。
【請求項7】
工程d)で得られた液体生地を乾燥させるという工程e)をさらに含む、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
粉が、パンおよびデュラム小麦、大麦、ライ麦、オーツ麦粉、または、それらの混合物、好ましくは、テンダーおよびデュラム小麦粉から成る群から選択される、請求項6または7に記載のプロセス。
【請求項9】
真菌タンパク質分解酵素が、Aspergillus oryzae、Aspergillus nigerプロテアーゼ、またはそれらの混合物から成る群から選択される、請求項6から8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
請求項6から9のいずれか一項に記載のプロセスを用いることによって、グルテンが完全に分解されている、液体または乾燥粉生地。
【請求項11】
一つまたは複数の、元からグルテンフリーの粉と組み合わせた、請求項10に記載の生地を含む、または、から成る混合物。
【請求項12】
元からグルテンフリーの粉が、原生トウモロコシ、白色トウモロコシ、米、キノア、テフ、またはアマランス、およびソバ粉から成る群から選択される、請求項11に記載の混合物。
【請求項13】
粉が、以下のパーセンテージ:原生トウモロコシ 5〜15%、好ましくは10%、白色トウモロコシ 5〜15%、好ましくは10%、米、キノア、テフ、またはアマランス粉 10〜30%、好ましくは20%、および、ソバ粉 1〜10%、好ましくは5%(前記パーセンテージは、粉組成物の全重量に基づいた重量で表現される)により含まれる、請求項11または12に記載の混合物。
【請求項14】
請求項6から9のいずれか一項に記載のプロセスを用いて、グルテンが解毒された粉を使用した、発酵ベークト製品の調製のための、以下の工程:
a) 元からグルテンフリーの粉 10〜40%、好ましくは30%、パン酵母 1〜2%、塩 0.1〜1.0%、および、構造化剤 0.5〜1%の混合物を、請求項6から9のいずれかに記載のプロセスを用いることによって、グルテンが解毒された液体粉生地へ、加え、混練する工程、
b) 約1〜3時間、好ましくは1.5時間、30℃で、発酵させる工程、
c) 50分間、220℃で焼く工程
を含む、または、から成る、プロセス。
【請求項15】
グルテンが解毒された粉生地を乾燥させた時、成分と水の%比率が約1.2:0.8となる、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
元からグルテンフリーの粉が、原生トウモロコシ、白色トウモロコシ、米、キノア、テフ、アマランス、ソバ粉、または、それらの混合物から成る群から選択される、請求項14または15に記載のプロセス。
【請求項17】
グルテンが解毒された粉が、パンおよびデュラム小麦、大麦、ライ麦、オーツ麦粉、またはそれらの混合物、好ましくは、テンダーおよびデュラム小麦粉から成る群から選択される、請求項14から16のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項18】
請求項14から17のいずれか一項に記載のプロセスを用いて得られる、ベークト製品。
【請求項19】
発酵ベークト製品の調製のための、以下の工程:
a) 直接、原生トウモロコシ、米粉、卵、砂糖、バター、およびパン酵母を、請求項6から9のいずれか一項に記載のプロセスに従ってグルテンが解毒された粉生地に加え、混練する工程、
b) 1.5時間、30℃で発酵させる工程、
ならびに、
c) 発酵生地を50分間250℃で焼く工程
を含む、または、から成る、プロセス。
【請求項20】
工程a)において、成分のパーセンテージが以下:原生トウモロコシ 10%、米粉 10%、卵 5%、砂糖 3%、バター 1%、およびパン酵母 1.5%である、請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
請求項19または20に記載のプロセスを用いて得られる、発酵ベークト製品。
【請求項22】
請求項10に記載の粉生地、請求11から13のいずれか一項に記載の混合物、請求項18に記載のオーブン発酵製品、請求項21に記載のオーブン発酵菓子類製品の、グルテンフリー食物の養生法に起因する栄養的アンバランスをカバーするのに適した食物の調製のための、使用。
【請求項23】
Lactobacillus sanfranciscensis DSM22063 乳酸菌。
【請求項24】
Lactobacillus plantarum DSM 22064 乳酸菌。

【図2】
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【図4(A)】
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【図4(B)】
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【図4(C)】
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【図5】
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【図6】
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【図7(A)】
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【図7(B)】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−513198(P2012−513198A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541720(P2011−541720)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際出願番号】PCT/IT2009/000569
【国際公開番号】WO2010/073283
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(511148411)
【Fターム(参考)】