説明

粉体に対するクラスタ堆積方法及び粉体に対するクラスタ堆積装置

【課題】簡便な工程でありながら、1バッチで粉体に対してクラスタを均一に堆積させることが可能な粉体に対するクラスタ堆積方法を提供すること。
【解決手段】ターゲット材料からクラスタCを生成する工程と、
クラスタCの中から質量フィルタによりクラスタサイズを基準として堆積用のクラスタを選別する工程と、
担体粒子Pからなる粉体と液体との混合物を真空中に噴出させる工程と、
真空中に噴出された前記混合物中の担体粒子Pに、前記堆積用のクラスタを接触させることにより、担体粒子Pの表面上にクラスタCを堆積させる工程と、
を含むことを特徴とする粉体に対するクラスタ堆積方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体に対するクラスタ堆積方法、並びに、粉体に対するクラスタ堆積装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より触媒の分野等においてクラスタを担体に担持する技術が検討されてきた。このようなクラスタを担体に担持する方法としては、例えば、特開2003−245563号公報(特許文献1)において、スパッタ法等によりターゲット材料からクラスタを生成し、生成されたクラスタの中から質量フィルタにより所定サイズの堆積用のクラスタを選別し、選別されたクラスタを基体に接触させて、クラスタを担体の表面上に堆積させるクラスタ堆積方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−245563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような従来のクラスタ堆積方法は、固定された担体に対してクラスタを堆積する方法であった。そのため、特許文献1に記載のような従来のクラスタ堆積方法においては、担体として粉体を利用する場合、粉体を平面上に敷き詰めて利用する必要があり、1バッチでは、その平面上に敷き詰められた粉体の一方の面側にクラスタを堆積できるのみであった。このように、特許文献1に記載のような従来のクラスタ堆積方法においては、1バッチで粉体を構成するそれぞれの粒子の表面全体に均一にクラスタを堆積させることができなった。そして、特許文献1に記載のような従来のクラスタ堆積方法を利用して、粉体を構成する各粒子の表面に均一にクラスタを堆積させるためには、クラスタの堆積処理を行った後に平面上に敷き詰めた粉体の粒子の向きを変える操作を行い、再度クラスタを堆積させる処理を数回繰り返す必要があり、真空中において処理を行う場合、その処理ごとに脱気して真空状態を形成する必要があり、工程が煩雑となって工業性等の点で必ずしも十分なものではなかった。このように、特許文献1に記載のような従来の基体に対するクラスタ堆積方法は、簡便の工程で粉体に対して均一にクラスタを担持させるという点では必ずしも十分なものではなかった。
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、簡便な工程でありながら1バッチで粉体に対してクラスタを均一に堆積させることが可能な粉体に対するクラスタ堆積方法を提供すること、及び、その方法に用いる粉体に対するクラスタ堆積装置を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ターゲット材料からクラスタを生成し、そのクラスタの中から質量フィルタによりクラスタサイズを基準として堆積用のクラスタを選別し、担体粒子からなる粉体と液体との混合物を真空中に噴出させて、真空中に噴出された前記混合物中の前記担体粒子に対して、前記堆積用のクラスタを接触させ、前記担体粒子の表面上にクラスタを堆積(デポジット)させることにより、簡便な工程でありながら1バッチで粉体に対してクラスタを均一に堆積させることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の粉体に対するクラスタ堆積方法は、ターゲット材料からクラスタを生成する工程と、
前記クラスタの中から質量フィルタによりクラスタサイズを基準として堆積用のクラスタを選別する工程と、
担体粒子からなる粉体と液体との混合物を真空中に噴出させる工程と、
真空中に噴出された前記混合物中の前記担体粒子に、前記堆積用のクラスタを接触させることにより、前記担体粒子の表面上にクラスタを堆積させる工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0008】
上記本発明の粉体に対するクラスタ堆積方法においては、前記担体粒子の表面上にクラスタを堆積させた後に、前記クラスタが堆積された前記担体粒子を凍結させることにより、前記担体粒子上に前記クラスタを固定化する工程を更に含むことが好ましい
また、上記本発明の粉体に対するクラスタ堆積方法においては、前記液体が、水、エタノール、アセトン、ペンタノール、アセトニトリル、エチレングリコール、ヘキサン、テトラヒドロフラン、トリフラート及びイミダゾリウム系イオン性液体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
さらに、上記本発明の粉体に対するクラスタ堆積方法においては、前記ターゲット材料からクラスタを生成する工程が、スパッタ法又はレーザー照射により前記ターゲット材料から原子及び/又は原子イオンを放出させた後、前記原子及び/又は原子イオンを凝集させてクラスタを生成する工程であることが好ましい。
【0010】
また、本発明のクラスタ堆積装置は、クラスタを生成するためのクラスタ生成手段と、
前記クラスタ生成手段により生成されたクラスタの中からクラスタサイズを基準として堆積用のクラスタを選別するための質量フィルタを備えるクラスタ選別手段と、
担体粒子からなる粉体と液体との混合物を噴出させるための混合物噴出手段と、
前記クラスタ選別手段により選別された堆積用のクラスタと前記混合物噴出手段から噴出された混合物とを接触させための空間を有する堆積処理容器と、
を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡便な工程でありながら1バッチで粉体に対してクラスタを均一に堆積させることが可能な粉体に対するクラスタ堆積方法を提供すること及びその方法に用いる粉体に対するクラスタ堆積装置を提供することが可能となる。このように、本発明の粉体に対するクラスタ堆積方法によれば、1バッチで粉体に対してクラスタを均一に堆積させることが可能であるため、粉体に対してクラスタを堆積させる際の時間の短縮化や経済性や工業性等を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の粉体に対するクラスタ堆積装置の好適な一実施形態を模式的に示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の粉体に対するクラスタ堆積方法及び本発明の粉体に対するクラスタ堆積装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
図1は、本発明の粉体に対するクラスタ堆積装置の好適な一実施形態を模式的に示す概略縦断面図である。図1に示す粉体に対するクラスタ堆積装置は、基本的に、クラスタ生成手段1と、クラスタ選別手段2と、混合物噴出手段3と、堆積処理容器4とを備えるものである。なお、本実施形態においては、クラスタ生成手段1とクラスタ選別手段2と堆積処理容器4とは配管5により接続されており、混合物噴出手段3は、その噴出口が堆積処理容器4に直接接続されている。更に、本実施形態においては、クラスタ生成手段1とクラスタ選別手段2との間にイオンファンネル6を備えており、また、クラスタ選別手段2と堆積処理容器4との間にクラスタ偏向器7を備えている。図1中の符号Cはクラスタを示し、符号Pは粉体を構成する担体粒子を示す。また、矢印A〜Aは基本的に流体(例えば、装置内を流通するクラスタC、装置内のガス、前記粉体と液体との混合物(液状物)等)が流れる(動く)方向を概念的に示すものである。
【0015】
クラスタ生成手段1は、エネルギー照射装置1Aと、それを収容するクラスタ生成処理容器1Bとを備える装置である。このように、本実施形態のクラスタ生成手段1においては、エネルギー照射装置1Aは容器1B内に配置されている。このようなエネルギー照射装置1Aとしては、エネルギーを照射してターゲット材料からクラスタを製造することが可能な装置を適宜利用でき、公知のスパッタ装置(例えば、イオンスパッタ装置、マグネトロンスパッタ装置、イオンビームスパッタ装置等)や、イオン蒸着等に用いることが可能なレーザー照射装置などを適宜利用することができる。
【0016】
また、クラスタ生成処理容器1Bとしては特に制限されず、その容器1B内においてクラスタCを生成することが可能な容器を適宜選択して用いることができる。また、このようなクラスタ生成処理容器1Bは壁面の温度を調整できるような構成としてもよく、例えば、壁面を冷却できるようにクラスタ生成処理容器1Bに液体窒素シュラウドを設けてもよい。このような液体窒素シュラウドの構成は特に制限されず、目的に応じて設計を適宜変更できる。なお、クラスタ生成手段1においては、クラスタCを生成する際に、エネルギー照射装置1Aによりエネルギーを照射してクラスタを発生させるためのターゲット材料(図示省略)も配置される。
【0017】
また、このようなターゲット材料としては特に制限されず、例えば、金属(例えば、Pt、Pd、Rh等の貴金属やNi、Cu、Fe等の遷移金属)、複合金属(金属の混合物、合金等:例えば、PtRu合金、PtFe合金等)、Si等の半導体及びそれらの酸化物等からなる材料が挙げられる。なお、このようなクラスタ生成用のターゲット材料は、エネルギー照射装置1A等によりエネルギーを照射してクラスタCの生成が可能となるように、容器1B内に適宜配置すればよい。また、このようなターゲット材料の形状等も特に制限されず、用いるエネルギー照射装置1Aの種類等に応じて、その形状等を適宜変更することができる。なお、生成するクラスタは酸素と反応させて酸化物のクラスタとしてもよい。
【0018】
クラスタ生成手段1においては、容器1B内にガスを流入するためにガス流入管8(ガス流Aが流入する管)が接続されており、かかるガス流入管8は図示を省略したガスボンベに接続されている。このように、本実施形態においては、前記ガスボンベを用いて容器1B内に気体(例えば、ヘリウムやアルゴン等の希ガス)を導入することが可能であり、これによりクラスタ生成処理容器1B内のガス雰囲気を適宜変更することが可能となっている。また、このようなクラスタ生成処理容器1Bはスパッタの際の容器1B内の圧力を調整するという観点から脱気装置(例えば真空ポンプ)等に適宜接続してもよい。
【0019】
クラスタ選別手段2は、クラスタ生成手段1により生成されたクラスタCの中からクラスタサイズを基準として担体粒子に堆積させるためのクラスタ(堆積用のクラスタ)を選別するための質量フィルタ2Aを備える。
【0020】
このような質量フィルタ2Aとしては、クラスタCをクラスタサイズを基準として選別することが可能なものであればよく、特に制限されず、例えば、多重極子質量分析器や磁場偏向型質量分析器、飛行時間型の分析器等の公知の装置を適宜用いることができる。このような多重極子質量分析器、磁場偏向型質量分析器及び飛行時間型の分析器としては公知の構成のものを適宜用いることができ、本明細書においては、その構成についての説明は省略する。また、このような質量フィルタ2Aとしては、クラスタイオン強度の観点からは、多重極子質量分析器(例えば四重極子質量分析器)を用いることが好ましく、より高度な分解能を得るという観点からは、磁場偏向型質量分析器を用いることが好ましい。
【0021】
また、このような質量フィルタ2Aとしては、クラスタCが1〜16000a.m.u(より好ましくは、10〜4000a.m.u:原子質量単位)となるサイズのものを選別することが可能な構成のものを用いることが好ましい。このような質量が前記上限を超えるとイオン透過率が低下し、収量が低下する傾向にある。
【0022】
このように、質量フィルタ2Aを用いてクラスタを選別することで、例えば、粒径が数オングストロームで均一なクラスタCを利用することが可能となり、より具体的には、ターゲット材料が白金の場合に、白金原子の10量体からなるクラスタCのみを選択して担体粒子Pに堆積すること等も可能となる。なお、このような質量フィルタ2Aとしては市販のものを用いることができる。
【0023】
また、本実施形態において、クラスタ選別手段2は、クラスタCを効率よく輸送して質量フィルタ2Aに導入するという観点や、サイズ選別後のクラスタCをクラスタ偏向器7や堆積処理容器4等に効率よく輸送して導入するという観点から、質量フィルタ2Aの前後にイオンガイド2Bを備えている。このようなイオンガイド2Bとしては特に制限されず、公知のイオンガイドを適宜利用することができ、多極構造のイオンガイド(多数のイオンガイドのロッド電極がクラスタCが通過する経路に平行に配置され且つその経路の中心軸からの距離が同一となるように等間隔に配置されたもの:例えば四極子イオンガイド、六極子イオンガイド、八極子イオンガイド等)を好適に利用できる。
【0024】
混合物噴出手段3は、担体粒子Pからなる粉体と液体との混合物を噴出させることが可能な構成のものであればよく、特に制限されず、前記担体粒子の直径よりも大きな噴出口を有する噴射ノズルと、該噴射ノズルから特定の速度で混合物を噴射させることが可能な加圧装置と備えるものを利用してもよい。このような噴射ノズルとしては特に制限されず、公知のノズルを適宜利用でき、市販のノズルを利用してもよい。また、このような噴射ノズルとしては、噴出口の大きさは20μm〜0.3mmの大きさのものを用いることが好ましい。このような噴出口の大きさが前記下限未満では担体粒子が詰まり易くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると噴出混合物が拡散し易くなる傾向にある。
【0025】
また、混合物噴出手段3に用いる前記加圧装置としては特に制限されず、圧力により混合物をノズル内に導入できるような加圧装置等(例えば圧縮ポンプ等)を適宜利用できる。また、このような混合物噴出手段3としては、噴射ノズルへの混合物の供給量や、噴射ノズルから噴出する前記混合物の噴出速度を制御するために制御バルブを適宜備えていてもよい。
【0026】
また、混合物噴出手段3としては、前記噴出ノズルの噴出口から音速を超える速度で前記混合物を噴出することが可能なものを用いることが好ましい。噴出ノズルの噴出口から噴出される混合物の噴出速度が音速を超えると、混合物を噴出させる空間が真空であるため、その混合物中の液体は他の気体分子にぶつかることなく直進してビーム状の分子線となり、クラスタCと液体との接触を十分に防止して担体粒子PにクラスタCをより効率よく接触させることが可能となる。なお、クラスタCのイオン強度、粉体の噴出速度、混合物中の担体粒子Pの濃度などを適宜調整することで、クラスタCの粉体への堆積量を適宜調整することができる。
【0027】
また、前記粉体は、クラスタCを堆積させるための担体粒子Pの集合物であればよく特に制限されず、クラスタCの堆積物の用途等に応じて、公知の材料からなる粉体を適宜用いることができる。このような担体粒子Pの材料としては、用途等に応じて、例えば、Ti、Zr、Al等の遷移金属元素やCe等のランタノイドの金属元素を含む金属、その金属の複合物、その金属の酸化物、それらの複合化物等を適宜利用できる。より具体的には、前記粉体にクラスタCが堆積した堆積物を触媒に用いる場合には、例えば、アルミナ、セリア、チタニア等の触媒の担体として利用されるような公知の材料からなる担体粒子Pを適宜利用してもよい。
【0028】
また、このような粉体の平均粒子径としては、用途等に応じて適宜選択すればよく、特に制限されないが、0.05〜100μmであることが好ましい。なお、このような粉体の粒子径は前記ノズルの径(噴出口の大きさ)よりも小さくする必要がある。このような粉体の平均粒子径が前記下限未満ではクラスタと粒体との衝突確率が著しく低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えるとノズルが詰まり易くなる傾向にある。
【0029】
さらに、前記液体としては、前記粉体を分散させることが可能なものであればよく、水や各種有機溶媒、イオン性液体を適宜利用することができ、工業性やの観点から、水、エタノール、アセトン、ペンタノール、アセトニトリル、エチレングリコール、ヘキサン、テトラヒドロフラン、トリフラート及びイミダゾリウム系イオン性液体が好ましい。なお、このようなイミダゾリウム系イオン性液体としては、例えば、MI−CFSO、EMI−BF、EMI−CFSO、EMI−(CFSON、EMI−PF、BMI−CFSO、BMI−(CFSONが挙げられる(なお、EMIは1−エチル−3−メチルイミダゾリウムを示し、BMIは1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムを示す。)。このような液体は1種を単独で或いは2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
また、このような混合液中の粉体の濃度としては特に制限されないが、担体粒子Pの全量が混合液中に5〜60質量%となるようにすることが好ましく、10〜50質量%とすることがより好ましい。このような濃度が前記下限未満では担持効率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えるとノズルが著しく詰まり易くなる傾向にある。なお、このような粉体と液体との混合物の製造方法は特に制限されず、両者を撹拌等により混合して製造する方法を採用してもよい。
【0031】
また、このような混合物は、粉体と液体とを混合するための混合機を混合物噴出手段3に接続して、前記混合機から混合物噴出手段3に直接供給してもよい。このような混合機は特に制限されず、市販のミキサーなどを適宜利用してもよい。
【0032】
堆積処理容器4としては、真空中で、クラスタ選別手段2により選別された堆積用のクラスタCと混合物噴出手段3から噴出された混合物とを接触させための領域(空間)を有している容器であればよい。このような堆積処理容器4の材質やサイズ等も特に制限されず、設計に応じて適宜変更できる。また、本実施形態においては、堆積処理容器4には、内部を真空状態とすることができるように図示を省略した脱気装置が接続されている。このような脱気装置としては特に制限されず、公知の脱気装置(例えば真空ポンプ)を適宜利用することができる。
【0033】
また、堆積処理容器4においては、図示を省略した容器の壁面(クラスタの堆積物の進行方向Aと交差する壁面、すなわち、クラスタの堆積物が接触する壁面)を冷却できるように外部に液体窒素シュラウドを設けている。このようにして液体窒素シュラウドにより壁面を冷却することでクラスタCを担体粒子Pに堆積させた後に、そのクラスタの堆積した粒子を凍結して、粒子状にクラスタを固定化しつつ回収することが可能となる。
【0034】
さらに、本実施形態のクラスタ堆積装置においては、クラスタ生成手段1において生成されたクラスタCをクラスタ選別手段2に、より効率よく供給するという観点から、クラスタ生成手段1とクラスタ選別手段2との間にイオンファンネル6を備えている。このようなイオンファンネル6としては、その構造は特に制限されず、公知のイオンファンネルを適宜用いることができ、例えば、大きさの異なる穴の開いた電極を複数備えてなり且つクラスタCの進行方向(矢印Aに示す方向)に向かって前記穴の大きさが徐々に小さくなるように前記複数の電極がそれぞれ配置された構造のものを適宜用いることができる。
【0035】
また、本実施形態のクラスタ堆積装置においては、より効率よくクラスタ選別手段2で選別したクラスタCを堆積処理容器4に供給しつつクラスタ選別手段2において選別できなかった中性子を排除するという観点から、クラスタ選別手段2と堆積処理容器4との間に、クラスタCの進行方向のみを偏向することが可能となるようなクラスタ偏向器7を接続している。
【0036】
このようなクラスタ偏向器7としては、電場によりクラスタCの進行方向を偏向させることが可能な公知のイオンディフレクタ(例えば、クラスタCの進行方向を90°偏向させることが可能なイオンディフレクタ等)等を適宜用いることができ、これにより質量選別されずにクラスタ選別手段2を通過した中性粒子を効率よく除去して、クラスタCのみを堆積処理容器4に供給することが可能となる。なお、このようなイオンディフレクタとしては市販のものを用いてもよい。また、図1中、矢印Aはクラスタ選別手段2を通過する中性子の進行方向を模式的に示し、矢印Aはクラスタ選別手段2を通過した後、クラスタ偏向器7により偏向された堆積用のクラスタCの進行方向を模式的に示す。
【0037】
さらに、本実施形態のクラスタ堆積装置においては、クラスタ偏向器7により偏向された堆積用のクラスタCの供給するタイミングを調整するために、クラスタ偏向器7と堆積処理容器4とを接続する配管5中に、図示を省略したクラスタCの供給タイミングを調整する装置(タイミング調整装置)を備えている。このようなタイミング調整装置としては特に制限されないが、パルスバルブを適宜利用することができる。
【0038】
以上、図1に示すクラスタ堆積装置について説明したが、以下、このような図1に示すクラスタ堆積装置を利用してクラスタを堆積する方法を説明する。このような図1に示すクラスタ堆積装置を利用してクラスタを堆積する方法は、本発明の粉体に対するクラスタ堆積方法として好適な方法である。なお、本発明の粉体に対するクラスタ堆積方法は、ターゲット材料からクラスタCを生成する工程と、
クラスタCの中から質量フィルタ2Aによりクラスタサイズを基準として堆積用のクラスタCを選別する工程と、
担体粒子Pからなる粉体と液体との混合物を真空中に噴出させる工程と、
真空中に噴出された前記混合物中の担体粒子Pに、堆積用のクラスタCを接触させることにより、担体粒子Pの表面上にクラスタCを堆積させる工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0039】
図1に示す実施形態においては、先ず、エネルギー照射装置1Aを用いてターゲット材料にエネルギーを照射して、ターゲット材料から原子及び/又は原子イオンを放出させ、前記原子及び/又は原子イオンを凝集させてクラスタCを生成する。
【0040】
このようなターゲット材料からクラスタCを生成する工程において、エネルギー照射装置1Aによるターゲット材料へのエネルギーの照射する方法としては特に制限されず、公知の方法を適宜利用することができ、例えば、エネルギー照射装置1Aとしてスパッタ装置を用いる場合には、その装置に応じて、イオンスパッタリング法、マグネトロンスパッタ法、イオンビームスパッタ法などを適宜利用してもよく、エネルギー照射装置1Aとしてレーザー照射装置を用いる場合には、いわゆるレーザー蒸発法で利用するレーザーの照射方法などを適宜利用してもよい。また、このようにターゲット材料にエネルギーを照射する方法としては、より効率よくクラスタを製造できることから、スパッタ法又はレーザーを照射する方法を採用することが好ましい。
【0041】
また、このようなエネルギー照射装置1Aによるターゲット材料へのエネルギーの照射条件は特に制限されず、ターゲット材料から原子及び/又は原子イオンを放出させることが可能な条件とすればよく、ターゲット材料の種類やエネルギー照射装置の種類などに応じて好適な条件を適宜採用すればよい。例えば、エネルギー照射装置1Aとしてマグネトロンスパッタを用い、ターゲット材料として円盤状の白金を用いた場合には、より効率よくクラスタを生成するという観点から、ターゲット表面上の磁場を0〜800ガウス(より好ましくは下限を200ガウス以上)とし、放電気体として希ガス(不活性ガス)を用い、放電電力を15〜100W(より好ましくは20〜45W)、放電電流を10〜400mA(より好ましくは100〜300mA)とすることが好ましい。このようにして所定のエネルギーを照射することによって、ターゲットから原子及び/又は原子イオンが気相中に放出され、その気相中に放出された原子や原子イオンを凝縮させることで、クラスタC(クラスタイオン)を形成できる。すなわち、このようにして所定のエネルギーを照射することによって、ターゲットから原子及び/又は原子イオンが気相中に放出されると、クラスタ生成処理容器1Bの出口に向かう気流により原子及び/又は原子イオンが浮遊するが、この際に他の原子や原子イオンに接触して、これらが凝集してクラスタが成長し、クラスタが形成される。
【0042】
また、このようなクラスタを生成する工程においては、クラスタの内部エネルギーを効率よく奪い、クラスタ生成を促進するという観点から、ターゲット材料から放出した原子及び/又は原子イオンを凝集させる空間の雰囲気がヘリウムやアルゴン等の希ガス雰囲気であることが好ましい。このような希ガス雰囲気は、ガス流入管8を利用してクラスタ生成処理容器1B内に希ガスを導入することで容易に達成できる。
【0043】
また、このようにクラスタCを生成する際の容器1B内のスパッタ装置近傍の温度(原子や原子イオンを発生させ、それを凝集、成長させる領域の温度)は特に制限されないが、10〜150K(ケルビン)とすることが好ましい。このような温度が前記上限を超えると、クラスタの生成効率が著しく低下する傾向にある。
【0044】
また、このようにクラスタCを生成する際のクラスタ生成処理容器1Bの内部の圧力の条件としては特に制限されないが、1kPa〜20kPaとすることが好ましい。このような圧力が前記下限未満ではクラスタ生成が進まなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると生成したクラスタが次の系(次室)へ到達できなくなる傾向にある。
【0045】
また、クラスタCは冷却してもよい。このようなクラスタCを冷却する方法としては特に制限されず、例えば、クラスタCに対して冷却された雰囲気ガスを衝突させる方法を採用してもよい。このようなクラスタCに対して冷却された雰囲気ガスを衝突させる方法としては、例えば、クラスタ生成処理容器1BのクラスタCが放出される出口近傍の内壁を冷却して、容器1Bの出口近傍でクラスタCを冷却された雰囲気ガスに衝突させる方法を採用してもよく、あるいは、クラスタ生成処理容器1Bの出口とクラスタ選別手段2との間に、冷却用の配管や冷却用の容器(冷却室)を別途設けて、それらの内壁を冷却してクラスタ生成処理容器1Bから放出されたクラスタCを、その配管や容器内に導入し、その配管や容器内において冷却された雰囲気ガスに衝突させる方法を採用してもよく、更には、それらの両方を採用してもよい。なお、前記容器1Bの内壁の冷却や、冷却用の配管、冷却用の容器(冷却室)の冷却を実行するために、液体窒素シュラウドを利用してもよい。このような液体窒素温度の冷却によって、クラスタが並進運動エネルギー分布が狭くなり、後段の質量フィルタ2AによるクラスタCの選別効率が十分に向上させることが可能となるとともに、担体粒子Pとの衝突エネルギーが低下させて担体粒子Pの分解を十分に抑制しながら、クラスタCを担体粒子Pの表面に担持することが可能となる。
【0046】
また、このような冷却用の配管や冷却用の容器においては、内部の圧力が10−4〜10kPa(より好ましくは10−4〜10−2Pa)であることが好ましい。また、前記容器1Bの内壁、冷却用の配管の内壁、冷却用の容器の内壁の冷却温度は、10〜150Kであることが好ましく、例えば、液体窒素を用いて比較的容易冷却温度を制御できることから77K(液体窒素温度)としてもよい。さらに、クラスタCを冷却する際に、クラスタCに衝突させる雰囲気ガス(冷却用のガス)としては、クラスタ生成処理容器1B内に導入されたガス(冷却用の配管や冷却用の容器においてはクラスタ生成処理容器1Bから排出された希ガス等)を利用することができる。
【0047】
次に、図1に示す実施形態においては、上記工程によりクラスタCが生成されると、生成されたクラスタCはイオンファンネル6に流入し、これを通過して、クラスタ選別手段2に導入される。このようにしてイオンファンネル6を利用することにより、より効率よくクラスタ選別手段2にクラスタCを導入できる。また、このようにしてクラスタ選別手段2に流入したクラスタCは、次いで、前段のイオンガイド2Bを通過して質量フィルタ2Aに導入される。そして、このような質量フィルタ2Aにおいて、質量フィルタ2Aに導入された全てのクラスタCの中から、クラスタのサイズに基づいて堆積用のクラスタが選別される。このようにして、質量フィルタ2Aにより所定サイズの堆積用のクラスタのみが選別されて質量フィルタ2Aから放出され、後段に配置されたイオンガイド2Bに、その選別された堆積用のクラスタCのみが導入される。このように、クラスタ選別手段2においては質量フィルタ2Aを用いることにより、クラスタCの中からクラスタサイズを基準として堆積用のクラスタCを選別することを可能とする。
【0048】
このようなクラスタCを選別する工程において、選別するクラスタCのサイズ(堆積用のクラスタのサイズ)としては、クラスタCの堆積物の用途等に応じて異なるものであり、一概には言えないが、担体粒子PにクラスタCが堆積した堆積物を触媒に用い、クラスタCの材料にPt(白金)を利用する場合には、クラスタCのイオン質量数が194〜12000a.m.u(より好ましくは、585〜3900a.m.u)であることが好ましい。このようなクラスタCのサイズが前記下限未満では反応性が乏しくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えるとクラスタ選別の効果が見られなくなる傾向にある。なお、質量数195a.m.uとなる白金クラスターが総原子数1の白金クラスター(原子)であり、質量数1951a.m.uとなる白金クラスターが総原子数10の白金クラスター(10量体)である。
【0049】
また、単にスパッタのみを施してクラスタのサイズに基いて堆積用のクラスタCを選別しない場合について検討すると、スパッタにより得られるクラスタは、通常2〜3nm程度の粒子になり、且つ、その粒子のサイズは非常に不均一なものとなる。例えば、1粒子当たりの原子数が数個のものから数百個や数千個のものまで混在し、粒子サイズはばらついている。一方、本発明のように、質量フィルタ2Aを用いて、クラスタCのサイズを基準として堆積用のクラスタを選択する場合には、所望のサイズのクラスタを選択して均一なサイズのクラスタを堆積用のクラスタとして利用することができ、これにより粒径が十分に均一で、しかも小さなもののみを利用すること等も可能となる。例えば、クラスタの粒子の粒径が数オングストロームで均一であり、且つ、1粒子当たりの原子数が特定の数となるクラスタ(例えば原子数が数個〜数10個のクラスタ)のみを堆積用のクラスタとして利用することも可能である。そのため、このようにクラスタサイズを基準としてクラスタを選別して用いる方法は、例えば、比表面積等の観点から微細な粒子を利用することが好適な触媒の分野に利用する堆積物の製造などに有効に利用できる。より具体的には、メタンの脱水素反応(Ptn++CH→Ptn+(CH)+H)は、2量体(総原子数が2)のクラスタ上で最も効率よく進行し、担体粒子に2量体が堆積された触媒を用いた場合の反応速度は、通常のスパッタにより堆積用のクラスタを選別しない場合と比較して数十倍の速度となる。従って、白金2量体が堆積されるようにクラスタのサイズを選択することで、メタンの脱水素反応触媒(例えば燃料電池の炭化水素改質剤)に好適に利用することが可能な堆積物を得ることも可能となる。
【0050】
次いで、上述のようにして、クラスタ選別手段2により選別された堆積用のクラスタCは、クラスタ選別手段2から放出され、堆積用処理容器4に導入される。なお、図1に示す実施形態においては、中性子を排除して堆積用のクラスタCを堆積用処理容器4により効率よく導入するという観点から、クラスタ選別手段2と堆積処理容器4との間にクラスタ偏向器7を設けている。そのため、図1に示す実施形態においては、クラスタ選別手段2により選別された堆積用のクラスタCは、クラスタ選別手段2から放出された後に、クラスタ偏向器7により進行方向が90°偏向され、堆積用処理容器4に導入される。一方、クラスタ選別手段2を通過した中性子は、クラスタ偏向器7により偏向されず、そのまま排除される。
【0051】
また、このような堆積用のクラスタが導入される堆積処理容器4の内部には、混合物噴出手段3から担体粒子Pからなる粉体と液体との混合物が噴出される。
【0052】
このように混合物噴出手段3から混合物が噴出される堆積処理容器4は、内部は真空状態とする必要がある。ここにいう「真空状態」は、圧力が10〜10−6Pa(より好ましくはの10〜10−5Pa)の状態をいう。このような圧力が前記下限未満ではクラスタ粒子が粉体に到達できず、効率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると巨大な排気が必要となり、大幅なコスト増につながる傾向にある。なお、このような真空状態は公知の脱気装置により容易に達成することができる。また、クラスタ生成処理容器1B内の真空度と堆積処理容器4の真空度を異なるものとする場合等には差動排気できるような設計としてもよい。
【0053】
また、このように、堆積用のクラスタを導入するとともに混合物を噴出させる際の堆積処理容器4の内部の温度としては、−196〜30℃であることが好ましい。このような温度が前記下限未満では冷却コストが大幅に増加する傾向にあり、他方、前記上限を超えると液体の蒸気圧が高くなり、排気系への負担が大きくなる傾向にある。なお、経済性の観点等から、前記堆積処理容器4の内部の温度は室温としてもよい。
【0054】
さらに、堆積処理容器4中に混合物噴出手段3から混合物を噴出する際には、前記混合物の噴出口における速度は音速を超える速度とすることが好ましく、350〜1800m/Sとすることがより好ましい。このような混合物の速度が前記下限未満では混合物中の液体が分子線とならず、液体にもクラスタCが接触してしまい、効率よく担体粒子PにクラスタCを接触させることが困難となる傾向にある。なお、このような混合物の噴出速度は、粉体と液体との混合物にかかる圧力と、噴出ノズル径などの条件を適宜調整することにより、容易に制御することが可能である。
【0055】
また、堆積処理容器4中に堆積用のクラスタを導入する際においては、磁場や電場等により導入速度を調整してもよい。このような導入速度としては、目的とする用途におけるクラスタの担持量(照射量)等に応じて適宜変更すればよい。なお、堆積用のクラスタを堆積処理容器4中に導入(入射)する際には、粉体粒子Pに対してクラスタCが接触できるように、クラスタを導入すればよく、その導入時のクラスタの入射方向等は特に制限されず、例えば、混合物噴出手段3の噴出ノズルから噴出される担体粒子Pの進行方向Aに対して直交する方向からクラスタCを入射させてもよい。
【0056】
さらに、堆積処理容器4中に導入する堆積用のクラスタのイオン電流の強度としては、クラスタの材料の種類や、選別するクラスタのサイズによっても異なるものであり、一概には言えず、粉体の噴出速度と目標担持量によって最適なイオン強度に調整すればよい。なお、クラスターのイオン電流の強度は、質量フィルタ2Aの分解能を下げることによって大きくすることができる。そして、クラスタCのイオン電流の強度を調整することで、クラスタCの担体粒子Pへの照射量(堆積量)を適宜調整することも可能である。
【0057】
このようにして、堆積処理容器4中の真空空間にクラスタCを導入しつつ、担体粒子Pからなる粉体と液体との混合物を真空中に噴出させることにより、真空中に噴出された前記混合物中の担体粒子Pに、堆積用のクラスタを接触させることが可能となり、これにより担体粒子Pの表面上にクラスタCが堆積(デポジット)される。なお、クラスタCが担体粒子Pに接触(衝突)した瞬間には、その衝突点付近は高温、高圧となり、クラスタCと担体粒子Pを構成する原子とが強く結合する。そのため、クラスタCを担体粒子Pに接触させることで、クラスタCは担体粒子Pに良好に固定される。
【0058】
このようにして堆積されるクラスタCの平均粒子径としては、得られる堆積物の用途等によっても、その好適な範囲が異なるものであり、一概には言えないが、0.2〜50nmであることが好ましく、0.2〜3nmであることがより好ましい。なお、このような堆積物上のクラスタCの平均粒子径は、走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope:例えばOmicron社製の商品名「LT−STM」)により、室温(25℃)条件下、深針電位が2.2Vとなる条件で電解研磨により作成したW探針を用いて掃引して担体粒子上に担持されている任意の30個のクラスタCの粒子径を求め、それを平均化することにより求めることができる。
【0059】
このような担体粒子Pと堆積用のクラスタCとの接触の際の衝突エネルギーの平均値は0.1〜2.2eV/atomであることが好ましい。このような衝突エネルギーの平均値が前記上限を超えるとクラスタが壊れたり、粉体表面に損傷を与えたりする傾向にある。このような衝突エネルギーは阻止電場法により測定できる。
【0060】
また、このようにして担体粒子Pの表面上にクラスタCを堆積した後に、前記クラスタが堆積された担体粒子Pを凍結させることにより、担体粒子P上にクラスタCを固定化することが好ましい。このように凍結させる工程を実施することで、クラスタCが担体粒子P上により十分に固定化され、固定された状態がより安定したものとなる。また、このような凍結させる工程は、例えは、担体粒子Pの表面上にクラスタCを堆積した後の堆積物が接触する壁面を液体窒素シュラウドにより冷却しておき、これにより凍結させる方法を利用してもよく、かかる方法を利用した場合には、効率よく堆積物を回収することも可能となる。
【0061】
以上、図1を参照して本発明の粉体に対するクラスタ堆積方法及び本発明の粉体に対するクラスタ堆積装置の好適な実施形態について説明したが、本発明の粉体に対するクラスタ堆積方法及び本発明の粉体に対するクラスタ堆積装置は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明の粉体に対するクラスタ堆積装置は、クラスタを生成するためのクラスタ生成手段1と、クラスタ生成手段1により生成されたクラスタCの中からクラスタサイズを基準として堆積用のクラスタを選別するための質量フィルタ2Aを備えるクラスタ選別手段2と、担体粒子Pからなる粉体と液体との混合物を噴出させるための混合物噴出手段2と、クラスタ選別手段2により選別された堆積用のクラスタと混合物噴出手段3から噴出された混合物とを接触させための空間を有する堆積処理容器4とを備えていればよく、他の構成は特に制限されない。そのため、クラスタ堆積装置は、例えば、クラスタ生成手段1とクラスタ選別手段2との間にイオンファンネル6を設けずに、クラスタ生成手段1とクラスタ選別手段2とを直接接続してもよく、また、クラスタ生成手段1とクラスタ選別手段2との間にイオンファンネル6を設けることなく、イオンファンネル6が設置されている配管をクラスタの冷却用の配管(冷却室)としてもよく、更には、クラスタ生成手段1とクラスタ選別手段2との間に、クラスタの冷却用の配管や冷却用の容器を別途接続するような構成としてもよい。更に、上記実施形態においては、クラスタ堆積装置が偏向器7を備えているが、本発明のクラスタ堆積装置においては偏向器7は特に利用しなくてもよい。
【0062】
また、上記実施形態においては、クラスタ生成手段1がエネルギー照射装置1Aとクラスタ生成処理容器1Bとを備えるものであるが、クラスタ生成手段1の構成は特に制限されず、クラスタを生成することが可能なものであれば適宜用いることができる。また、上記実施形態においては、質量フィルタ2Aの前段と後段にイオンガイドをそれぞれ設置しているが、クラスタ選別手段2は質量フィルタ2Aを備えていればよく、他の構成は特に制限されるものではない。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
イオンファンネル6を用いず、図1中のイオンファンネル6の設置されていた配管5をクラスタCの冷却用の配管(以下、便宜のため「冷却室」という。)として利用した以外は、図1に示すクラスタ堆積装置と同様の構成の装置を用いて、粉体に対してクラスタCを堆積させた。
【0065】
ここで、クラスタ生成手段1としては、エネルギー照射装置1Aとしてマグネトロンスパッタ装置(Angstrom社製の商品名「ONYX−1」)を利用し、クラスタ生成処理容器1Bとしてステンレス製の直径50cm、長さ80cmの筒状の容器を用いた。また、クラスタ生成手段1においては、生成されたクラスタCが排出される出口が形成されている面から気体の導入用のガス流入管8が接続された面に向かって70cmの範囲で、その容器の側面を液体窒素シュラウドにより77Kに冷却した。また、クラスタ生成処理容器1Bには、図示を省略した脱気装置を接続して内部の圧力を調整するとともに、アルゴンガスとヘリウムガスをガス流入管8から流入させた。また、スパッタのターゲット材料としては直径2インチ、厚さ1/8インチの円盤状の白金ターゲット(白金の含有量:99.99質量%)を用いた。また、クラスタ選別手段2中の質量フィルタ2Aとしては、四重極子質量分析器(Extrel社製の商品名「MEXM−4000」)を利用した。また、イオンガイド2Bとしては、四極子イオンガイド(Extrel社製)を利用した。更に、クラスタ偏向器7としてはExtrel社製の偏向器を利用し、これによりクラスタ選別手段2から放出されたクラスタを90°偏向させた。また、混合物噴出手段3としては、排出口のサイズが70μmのノズルを利用し、該ノズルから混合物を720m/Sの速度で噴出させることが可能な加圧装置を備えるものを利用した。また、粉体と液体との混合物としては、粉体としてCeO(平均粒子径5μm)を利用し、液体としてジエチレングリコールを利用した。また、混合物中の粉体の含有量は35質量%とした。また、堆積処理容器4としてはステンレス製の直径35cm、長さ80cmの筒状の容器を用い、容器内を真空状態とできるように脱気装置と接続した。更に、堆積処理容器4内に噴出された混合物が最終的に接触する壁面は液体窒素シュラウドにより77Kに冷却した。以下に、クラスタCを堆積させる際に採用した、クラスタ生成手段1、冷却室、クラスタ選別手段2、混合物噴出手段3、堆積処理容器4の各種運転条件等を示す。
【0066】
[クラスタ生成手段1]
エネルギー照射装置1A:マグネトロンスパッタ
ターゲット:直径2インチ、厚さ1/8インチの円盤状の白金ターゲット(白金の濃度:99.99重量%以上)
ターゲット面の磁場:1300ガウス
放電気体:アルゴン(毎分80ccの流量で導入)、ヘリウム(毎分200ccの流量で導入)
放電電力:25W、
放電電流:200mA
容器1Bのクラスタの放出される出口における圧力:0.1Pa
容器1Bの前記出口の形成されている近傍の側面の温度:77K(液体窒素温度)。
【0067】
[冷却室(クラスタCの冷却)]
冷却気体:ヘリウムとアルゴンの混合気体(クラスタ生成手段1からの流入ガス)
冷却室の出口における圧力:10−3Pa
内壁の温度:77
K(液体窒素温度)。
【0068】
[クラスタ選別手段2]
質量フィルタ2A:四重極子質量分析器(質量数1a.m.uの差を認識できる装置)
クラスタの並進エネルギー:2eV
分解能:m/dm=100(質量数)。
【0069】
[混合物噴出手段3]
混合物中の粉体:CeO
混合物中の液体:ジエチレングリコール
混合物の噴出速度:720m/S
[堆積処理容器4]
容器4内の圧力:10−6Pa
容器4内の温度:室温
クラスタCのイオン電流の強度:200pA
堆積処理時間:45分
クラスタCと担体粒子Pとの衝突エネルギーの平均値:20eV
このようにして実施例1において得られた堆積物を、電子顕微鏡により観測したところ、CeOの表面の一部の面だけではなく、全体に亘って均一にPtのクラスタが担持されていることが確認された。また、堆積されたクラスタの平均粒子径は1nmであることが分かった。このような結果から、実施例1においては、基本的に、原子数が55のクラスタがCeOの表面上に堆積されていることが分かった。なお、実施例1において得られた堆積物は、CeOの表面上に微細なPtのクラスタが堆積されたものであることから、例えば、触媒等に有効に利用できることが分かる。
【0070】
(実施例2)
クラスタ生成手段1において、アルゴンの流量を毎分100ccとするとともにヘリウムの流量を毎分100ccとし、クラスタ選別手段において分解能を100から30(質量数)に変更し、堆積処理容器4において堆積時間を30分とした以外は実施例1と同様にして、粉体に対してクラスタCを堆積させた。なお、実施例2においては、堆積処理容器4中のクラスタCのイオン電流の強度は500pAであり、クラスタCと担体粒子Pとの衝突エネルギーの平均値:10eVであった。
【0071】
このようにして実施例2において得られた堆積物を、STMや電子顕微鏡により観測したところ、CeOの表面の一部の面だけではなく、全体に亘って均一にPtのクラスタが担持されていることが確認された。また、担持されたクラスタの平均粒子径は0.7nmであることが分かった。このような結果から、実施例2においては、基本的に、原子数が13のクラスタがCeOの表面上に堆積されていることが分かった。なお、実施例2において得られた堆積物は、CeOの表面上に微細なPtのクラスタが堆積されたものであることから、例えば、触媒等に有効に利用できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、本発明によれば、簡便な工程でありながら1バッチで粉体に対してクラスタを均一に堆積させることが可能な粉体に対するクラスタ堆積方法を提供すること、及びその方法に用いる粉体に対するクラスタ堆積装置を提供することが可能となる。また、本発明の粉体に対するクラスタ堆積装置によれば、長時間の連続運転も可能であり、クラスタを担持した粉体を大量に合成することが可能である。このように、本発明の粉体に対するクラスタ堆積方法は、微細で且つ均一なクラスタを粉体に担持できるとともに、粉体の表面に均一にクラスタを担持できるため、微細なクラスタを触媒成分として利用するような触媒の製造方法等として特に有用である。
【符号の説明】
【0073】
1…クラスタ生成手段、1A…エネルギー照射装置、1B…クラスタ生成処理容器、2…クラスタ選別手段、2A…質量フィルタ、2B…イオンガイド、3…混合物噴出手段、4…堆積処理容器、5…配管、6…イオンファンネル、7…クラスタ偏向器、8…ガス流入管、A〜A…流体の流れる方向を概念的に示す矢印、P…粉体を構成する担体粒子、C…クラスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット材料からクラスタを生成する工程と、
前記クラスタの中から質量フィルタによりクラスタサイズを基準として堆積用のクラスタを選別する工程と、
担体粒子からなる粉体と液体との混合物を真空中に噴出させる工程と、
真空中に噴出された前記混合物中の前記担体粒子に、前記堆積用のクラスタを接触させることにより、前記担体粒子の表面上にクラスタを堆積させる工程と、
を含むことを特徴とする粉体に対するクラスタ堆積方法。
【請求項2】
前記担体粒子の表面上にクラスタを堆積させた後に、前記クラスタが堆積された前記担体粒子を凍結させることにより、前記担体粒子上に前記クラスタを固定化する工程を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の粉体に対するクラスタ堆積方法。
【請求項3】
前記液体が、水、エタノール、アセトン、ペンタノール、アセトニトリル、エチレングリコール、ヘキサン、テトラヒドロフラン、トリフラート及びイミダゾリウム系イオン性液体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の粉体に対するクラスタ堆積方法。
【請求項4】
前記ターゲット材料からクラスタを生成する工程が、スパッタ法又はレーザー照射により前記ターゲット材料から原子及び/又は原子イオンを放出させた後、前記原子及び/又は原子イオンを凝集させてクラスタを生成する工程であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の粉体に対するクラスタ堆積方法。
【請求項5】
クラスタを生成するためのクラスタ生成手段と、
前記クラスタ生成手段により生成されたクラスタの中からクラスタサイズを基準として堆積用のクラスタを選別するための質量フィルタを備えるクラスタ選別手段と、
担体粒子からなる粉体と液体との混合物を噴出させるための混合物噴出手段と、
前記クラスタ選別手段により選別された堆積用のクラスタと前記混合物噴出手段から噴出された混合物とを接触させための空間を有する堆積処理容器と、
を備えることを特徴とする粉体に対するクラスタ堆積装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−207249(P2012−207249A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72073(P2011−72073)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】