説明

粉体吸引型混練装置

【課題】粉体を十分に湿潤できると共に、構造が簡単で耐久性が向上した粉体吸引型混練装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
回転羽根58の一側側に粉体室60、他側側に液体室62が設けられ、固定羽根58との間に形成されるスリット部56において粉体と液体とを混合させる粉体吸引型混練装置において、前記回転羽根58に、前記スリット部56と前記液体室62とを連通する貫通口52Cを形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粉体と液体とを混合するための粉体吸引型混練装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のミキシングノズルは、例えば図6に示すように、吸引ノズル86に接続された粉体供給管81から供給される粉体を溶媒供給管82から供給される溶媒と混合し、混合した混合液を溶解装置89に供給するミキシングノズル88を、粉体供給管81の端部を、それよりも大径に形成した混合室83に挿入して開口させていた。それにより、混合室83の中心部に粉体を供給し、また、粉体供給管81の外周壁と混合室83の内周壁の隙間から溶媒を旋回流として混合室83に供給して、混合室83において粉体と溶媒を混合し、混合した混合液を溶解装置89に供給するように構成されていた。
このようなミキシングノズルとしては、例えば、特許文献1に記載された粉体供給装置におけるミキシングノズルが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−184174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この特許文献1に記載された粉体供給装置におけるミキシングノズルでは、混合室83の内周壁に沿って溶媒が供給されるため、混合室83の中心部に供給される粉体を十分に湿潤できるとは限らなかった。
また、粉体の供給量や混練中の粘度に応じて溶媒の供給量を制御する必要があり、装置が複雑で大がかりなものとなった。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、粉体を十分に湿潤できると共に、構造が簡単で耐久性が向上した粉体吸引型混練装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の問題点を解決するために、本発明の粉体吸引型混練装置は、次の構成を有している。
(1)回転羽根の一側側に粉体室、他側側に液体室が設けられ、固定羽根との間に形成されるスリット部において粉体と液体とを混合させる粉体吸引型混練装置において、前記回転羽根に、前記スリット部と前記液体室とを連通する連通口を形成したことを特徴とする。
(2)(1)に記載する粉体吸引型混練装置において、前記連通口を前記回転羽根の前記スリット部側側面に開口させると共に、開口位置を前記粉体室の底面と略同じにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上記構成を有する本発明の粉体吸引型混練装置の作用・効果について説明する。
(1)回転羽根の一側側に粉体室、他側側に液体室が設けられ、固定羽根との間に形成されるスリット部において粉体と液体とを混合させる粉体吸引型混練装置において、前記回転羽根に、前記スリット部と前記液体室とを連通する連通口を形成したので、粉体を十分に湿潤できると共に、構造が簡単で耐久性が向上するなど優れた作用効果を奏する。
【0008】
(2)(1)に記載する粉体吸引型混練装置において、前記連通口を前記回転羽根の前記スリット部側側面に開口させると共に、開口位置を前記粉体室の底面と略同じにしたので、粉体の吸引力を低下させることなく粉体を十分に湿潤できると共に、構造が簡単で耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態1に係る粉体吸引型混練装置を概略的に示す図である。
【図2】実施形態1に係る混練装置の断面図である。
【図3】内側回転羽根を示す上面図である。
【図4】実施形態2に係る混練装置の断面図である。
【図5】(A)は、粉体吸引時間の実験結果を示す図、(B)は、混入Fe量の実験結果を示す図、(C)は、粉体平均粒径の実験結果を示す図である。
【図6】従来のミキシングノズルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
以下、本発明に係る粉体吸引型混練装置について、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施形態に係る粉体吸引型混練装置は、例えば、リチウムイオン二次電池の正極ペーストや負極ペーストを製作する際に用いられるものである。
なお、以下の実施例において図は、適宜簡略化或いは変形誇張されて描画されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも実施例と同一ではない。
【0011】
図1は、実施形態1に係る粉体吸引型混練装置を概略的に示す図である。
図1において、粉体吸引型混練装置10は、床に設置されたフレーム12を有し、そのフレーム12には、混練装置14、混練される粉体を収容可能な粉体用ホッパー16、前記混練装置14を駆動するためのモーター18が支持されている。
また、前記フレーム12には、ベアリングユニット20が固定されており、前記混練装置14の回転軸22は、このベアリングユニット20により回転可能に支持されている。前記回転軸22の上端は、ベルト24を介して前記モーター18に連結されており、したがって、前記モーター18によって回転軸22は回転駆動される。
前記粉体用ホッパー16は、粉体供給パイプ26によって混練装置14と接続されている。
床に設置されたタンク28は、溶媒や混練されたペーストを収容可能であり、供給パイプ30および帰還パイプ32を介して前記混練装置14と接続されている。
【0012】
図2は、実施形態1に係る混練装置14の断面図である。
図2において、前記混練装置14のハウジング34は、前記回転軸22が上下に貫通する貫通孔38を有し、また、その下部には下方向けて開口する凹部40が形成されており、前記貫通孔38の下端は、その凹部40と連通している。また、前記ハウジング34には、粉体供給パイプ26から供給される粉体を前記貫通孔38を介して前記凹部40に案内する粉体供給通路42が形成されており、その上部開放端は、粉体供給パイプ26が接続されている。さらに、前記ハウジング34の側面には、前記凹部40と連通する吐出口44が形成されており、その開放端には、前記帰還パイプ32が接続されている。
前記ハウジング34の凹部40の下方開口部は、蓋体46がネジ46Aによって固定されており、したがって、凹部40の下方開口部は、前記蓋体46により閉鎖される。前記蓋体46の中央には、吸入口48が形成されており、その吸入口48には、前記供給パイプ30が接続されている。前記ハウジング34と前記蓋体46との間は、Oリング46Bにより気密が確保されている。
【0013】
前記ハウジング34の凹部40内には、略円筒形状をなす固定羽根50がネジ50Aにより固定されており、その固定羽根50には、その内面側と外面側とを連通する複数の透孔50Bが形成されている。
前記回転軸22の下端には、内側回転羽根52がネジ52Aにより固定されており、そのホイール部52Eの外周部上下面には、図3に示すように、間隔をおいて複数の羽根部52Bが突設されている。また、前記内側回転羽根52のホイール部52Eの外周部には、図3に示すように、前記羽根部52Bと羽根部52Bの間に位置するようにして複数の貫通孔52Cが形成されている。前記複数の羽根部52Bと前記複数の貫通孔52Cは、略同心円上に配置されている。なお、貫通孔52Cが本発明の連通孔に相当する。
前記羽根部52Bの下端面には、略リング状のホイール部を有する外側回転羽根54がネジ54Aにより固定されており、そのホイール部の外周部上面からは、前記羽根部52Bと同じピッチで外側羽根部54Bが突設されている。
したがって、前記内側回転羽根52の羽根部52Bと外側回転羽根54のホイール部および前記外側羽根部54Bとにより上方に開放する環状のスリット部56が区画形成され、そのスリット内には、前記固定羽根50が位置する。つまり、前記内側回転羽根52と前記外側羽根部54Bとに挟まれて固定羽根50が位置する構成となる。また、前記内側回転羽根52と前記外側回転羽根54とにより回転羽根58が構成され、したがって、前記凹部40は、回転羽根58により前記内側回転羽根52の前記ホイール部52E上部側の粉体室60と前記ホイール部52E下部側の液体室62に区画形成される。さらに、前記貫通孔52Cの上部は、前記粉体室60の底部に開口することになり、前記液体室62と前記粉体室60とを連通することになる。
【0014】
前記粉体用ホッパー16に収容される粉体としては、正極ペーストの場合には、正極活物質、正極導電材および分散剤などである。また、負極ペーストの場合には、負極活物質、負極導電材および分散剤などである。
また、前記タンク28に収容される溶媒としては、例えば、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類、水等が挙げられる。なお、溶媒がこの発明の液体に相当する。
【0015】
以上のように構成されたものにおいて、その動作を以下に説明する。
まず、粉体用ホッパー16に粉体を必要な量だけ収容すると共に、タンク28に溶媒を必要な量だけ収容する。
この状態でモーター18を回転駆動すると、ベルト24を介して回転軸22が回転駆動される。すると、回転軸22に固定された回転羽根58が高速で回転する。回転羽根58が高速で回転すると、内側回転羽根52の羽根部52Bの作用により、液体室62が負圧となり、供給パイプ30および吸入口48を介してタンク28から溶媒が液体室62に吸引され、さらに、羽根部52Bの間、スリット部56、固定羽根50の透孔50B、および外側回転羽根54の外側羽根部54Bを通って吐出口44から排出され、さらに、帰還パイプ32を介してタンク28に帰還する。
【0016】
溶媒が固定羽根50の透孔50Bを通過する際、流路が透孔50Bにより絞られてそこの部分での溶媒の流速が上がり、その結果、スリット部56および粉体室60が負圧となって粉体用ホッパー16に収容された粉体が粉体供給パイプ26および粉体供給通路42を介して粉体室60に吸引される。粉体室60に吸引された粉体は、回転する回転羽根58と固定羽根50との間でせん断されると共に吸入口48から供給された溶媒と混練されて吐出口44から排出される。そして、粉体用ホッパー16に収容された粉体が全て吸引されて混練されると、作業が終了する。
【0017】
この際、粉体室60に吸引された粉体は、回転羽根58と固定羽根50との間でせん断される前に液体室62から複数の貫通孔52C介して流入する溶媒によって十分湿潤され、そしてその後に回転羽根58と固定羽根50との間でせん断されるため、粉体によって回転羽根58と固定羽根50とが摩滅させられることがなく、装置の耐久性が向上する。
特に、リチウムイオン二次電池の正極ペーストの正極活物質の場合には硬度が高く硬いため、回転羽根58と固定羽根50とが正極活物質によって摩滅しやすいが、本実施例の場合にはそのようなことがない。
また、リチウムイオン二次電池の負極ペーストの負極活物質の場合には比較的軟らかく、負極活物質が回転羽根58と固定羽根50とにより粉砕されやすいが、本実施例の場合にはそのようなことがない。
さらに、粉体室60に吸引された粉体は、複数の貫通孔52C介して流入する溶媒と液体室62から内側回転羽根52の羽根部52B間を通って流入する溶媒とによって全体的に十分に湿潤されて吐出口44されるため、従来のような中心部の粉体が湿潤され難いといった問題も発生しにくい。
【0018】
吐出口44から吐出される溶媒によって湿潤された粉体は、ペーストとして帰還パイプ32を介してタンク28に帰還する。
粉体用ホッパー16に収容した粉体が粉体室60に吸引され全て混練されることにより、混練作業が終了し、混練されたペーストは、タンク28に収容される。
この際、複数の貫通孔52C介して流入して粉体をあらかじめ湿潤させるための溶媒は、タンク28に収容された溶媒が使用されるため、あらかじめ粉体を湿潤させるために必要な溶媒の容量などを管理する必要がなく、装置全体が簡単な構造となる。
【0019】
(実施形態2)
図4は、実施形態2に係る混練装置14の断面図であり、以下に、その図面に基づいて詳細を説明する。なお、その説明中、前述の実施例と同じ作用効果を奏するものには、同じ符号を付して説明する。
【0020】
すなわち、前述の実施例においては、内側回転羽根52の羽根部52Bと羽根部52Bの間に位置するようにして複数の貫通孔52Cが形成されているのに対して、本実施例においては、回転羽根58の内側回転羽根52の各羽根部52B部分において、貫通孔52Dが形成されている点で相違し、その他の点は、前述の実施例と変わることがない。
【0021】
前記貫通孔52Dは、図4に示すように、その下端は、羽根部52Bの内周側で、且つ内側回転羽根52のホイール部52Eの下面側、つまり液体室62側に開口し、また、その上端は、羽根部52Bの外周側で、且つ内側回転羽根52のホイール部52Eの上面側、つまり粉体室60の底部と同じ位置で開口している。
【0022】
以上のように構成されたものにおいて、その動作を以下に説明する。
まず、粉体用ホッパー16に粉体を必要な量だけ収容すると共に、タンク28に溶媒を必要な量だけ収容する。
この状態でモーター18を回転駆動すると、ベルト24を介して回転軸22が回転駆動される。すると、回転軸22に固定された回転羽根58が高速で回転する。回転羽根58が高速で回転すると、内側回転羽根52の羽根部52Bの作用により、液体室62が負圧となり、供給パイプ30および吸入口48を介してタンク28から溶媒が液体室62に吸引され、さらに、羽根部52Bの間、スリット部56、固定羽根50の透孔50B、および外側回転羽根54の外側羽根部54Bを通って吐出口44から排出され、さらに、帰還パイプ32を介してタンク28に帰還する。
【0023】
溶媒が固定羽根50の透孔50Bを通過する際、流路が透孔50Bにより絞られてそこの部分での溶媒の流速が上がり、その結果、スリット部56および粉体室60が負圧となって粉体用ホッパー16に収容された粉体が粉体供給パイプ26および粉体供給通路42を介して粉体室60に吸引される。粉体室60に吸引された粉体は、回転する回転羽根58と固定羽根50との間でせん断されると共に吸入口48から供給された溶媒と混練されて吐出口44から排出される。そして、粉体用ホッパー16に収容された粉体が全て吸引されて混練されると、作業が終了する。
【0024】
この際、粉体室60に吸引された粉体は、回転羽根58と固定羽根50との間でせん断される前に液体室62から複数の貫通孔52Dを介して流入する溶媒によって十分湿潤され、そしてその後に回転羽根58と固定羽根50との間でせん断されるため、粉体によって回転羽根58と固定羽根50とが摩滅させられることがなく、装置の耐久性が向上する。
特に、リチウムイオン二次電池の正極ペーストの正極活物質の場合には硬度が高く硬いため、回転羽根58と固定羽根50とが正極活物質によって摩滅しやすいが、本実施例の場合にはそのようなことがない。
また、リチウムイオン二次電池の負極ペーストの負極活物質の場合には比較的軟らかく、負極活物質が回転羽根58と固定羽根50とにより粉砕されやすいが、本実施例の場合にはそのようなことがない。
さらに、粉体室60に吸引された粉体は、複数の貫通孔52Dを介して流入する溶媒と液体室62から内側回転羽根52の羽根部52B間を通って流入する溶媒とによって全体的に十分に湿潤されて吐出口44されるため、従来のような中心部の粉体が湿潤され難いといった問題も発生しにくい。
【0025】
(実験例1)
以下に、実施形態1に係る混練装置14の性能を立証するために下記の条件で実験を行った。以下にその詳細と、実験結果を説明するが本発明の主旨を超えない限り、本発明は以下に記載される実験例に限定されるものではない。
使用粉体
正極活性物質
負極活性物質
粉体の使用量・・・25kg
使用媒体
有機溶剤(粉体が正極活性物質の場合)
水(粉体が負極活性物質の場合)
測定項目
混練作業を開始してから終了するまでの粉体吸引時間
混練完了後の正極ペースト内Fe成分混入量(粉体が正極活性物質の場合)
混練完了後の負極ペースト内粉体の平均粒径(粉体が負極活性物質の場合)
粉体吸引型混練装置10の粉体用ホッパー16に、正極活性物質または負極活性物質を投入し、また、タンク28に、有機溶剤(粉体が正極活性物質の場合)または水(粉体が負極活性物質の場合)を投入後、モーター18を回転駆動して実施形態1に係る混練装置14を用いて混練を行った。粉体用ホッパー16に投入された正極活性物質または負極活性物質が混練装置14に全て吸引されて混練が終了すると、作業が終了する。
混練終了後、タンク28に収容された正極ペーストまたは負極ペーストを取り出し、上記測定項目について測定をした。
【0026】
(実験例2)
次に、実施形態2に係る混練装置14の性能を立証するために下記の条件で実験を行った。以下にその詳細と、実験結果を説明するが本発明の主旨を超えない限り、本発明は以下に記載される実験例に限定されるものではない。
使用粉体、粉体の使用量、使用媒体および測定項目は、上記実験例1と同じであるので、説明を省略する。
粉体吸引型混練装置10の粉体用ホッパー16に、正極活性物質または負極活性物質を投入し、また、タンク28に、有機溶剤(粉体が正極活性物質の場合)または水(粉体が負極活性物質の場合)を投入後、モーター18を回転駆動して実施形態2に係る混練装置14を用いて混練を行った。粉体用ホッパー16に投入された正極活性物質または負極活性物質が混練装置14に全て吸引されて混練が終了すると、作業が終了する。
混練終了後、タンク28に収容された正極ペーストまたは負極ペーストを取り出し、上記測定項目について測定をした。
【0027】
(比較例)
次に、実施形態1およびに実施形態2に係る混練装置14の性能を立証するために、比較例として下記の条件で実験を行った。比較例に係る混練装置は、実施形態1に係る混練装置14において、貫通孔52C(52D)が存在しない回転羽根を備える混練装置を用いた。その他の構成は、実施形態1と同じであるので、実施形態1の符号を用いて以下に説明をする。
なお、使用粉体、粉体の使用量、使用媒体および測定項目は、上記実験例1および実験例2と同じであるので、説明を省略する。
粉体吸引型混練装置10の粉体用ホッパー16に、正極活性物質または負極活性物質を投入し、また、タンク28に、有機溶剤(粉体が正極活性物質の場合)または水(粉体が負極活性物質の場合)を投入後、モーター18を回転駆動して比較例に係る混練装置を用いて混練を行った。粉体用ホッパー16に投入された正極活性物質または負極活性物質が混練装置14に全て吸引されて混練が終了すると、作業が終了する。
混練終了後、タンク28に収容された正極ペーストまたは負極ペーストを取り出し、上記測定項目について測定をした。
【0028】
比較例、実験例1および実験例2の各測定結果を図5にまとめたが、図5(A)に示すように、実験例1および実験例2では、比較例に比べて25kgの正極活性物質または負極活性物質の混練に時間を要する結果となった。これは、回転羽根58に設けた複数の貫通孔52C(52D)の影響により、粉体の吸引力が低下したためと推察されるが、実施形態2に係る混練装置14の貫通孔52Dの方が、粉体の吸引力に与える影響が実施形態1に係るものと比べて少なかった。これは、実施形態1の貫通孔52Cが直接粉体室60に開口するのに対して、実施形態2の貫通孔52Dは、内側回転羽根52外周面のスリット部56に臨む位置で、且つ、内側回転羽根52のホイール部52Eの上面側、つまり粉体室60の底部と同じ位置で開口しているためと推察する。
【0029】
また、図5(B)に示すように、実験例1および実験例2では、比較例に比べて混練完了後のペースト内に混入するFe成分の混入量を減少させることができた。これは、粉体室60に吸引された正極活性物質が、回転羽根58と固定羽根50との間でせん断される前に液体室62から複数の貫通孔52C(52D)を介して流入する有機溶剤によって十分湿潤され、そしてその後に回転羽根58と固定羽根50との間でせん断されるため、回転羽根58と固定羽根50とが正極活性物質によって摩滅させられることが軽減された為と推察される。したがって、比較例の混練装置に比べて実施形態1およびに実施形態2に係る混練装置14は、耐久性が向上する。
【0030】
さらに、図5(C)に示すように、実験例1および実験例2では、比較例に比べて混練完了後のペースト内の平均粒径が初期値から低下する割合を低下することができた。これは、粉体室60に吸引された負極活性物質が、回転羽根58と固定羽根50との間でせん断される前に液体室62から複数の貫通孔52C(52D)を介して流入する水によって十分湿潤され、そしてその後に回転羽根58と固定羽根50との間でせん断されるため、回転羽根58と固定羽根50とよって負極活性物質が粉砕されることが軽減された為と推察される。したがって、比較例の混練装置に比べて実施形態1およびに実施形態2に係る混練装置14では、混練に際して負極ペーストの性能を低下させる恐れが少ない。
【0031】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0032】
10・・・粉体吸引型混練装置
14・・・混練装置
58・・・回転羽根
50・・・固定羽根
56・・・スリット部
60・・・粉体室
62・・・液体室
52C・・貫通孔
52D・・貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転羽根の一側側に粉体室、他側側に液体室が設けられ、固定羽根との間に形成されるスリット部において粉体と液体とを混合させる粉体吸引型混練装置において、
前記回転羽根に、前記スリット部と前記液体室とを連通する連通口を形成したことを特徴とする粉体吸引型混練装置。
【請求項2】
請求項1に記載する粉体吸引型混練装置において、前記連通口を前記回転羽根の前記スリット部側側面に開口させると共に、開口位置を前記粉体室の底面と略同じにしたことを特徴とする粉体吸引型混練装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−111486(P2013−111486A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256815(P2011−256815)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】