説明

粉体塗料、粉体塗料の塗装方法及び電子機器筐体

【課題】塗装面に垂直な断面に、この塗装面に平行な複数の塗膜層を形成した塗膜を得ることができる、新規な複数の粉体塗料の組み合わせを提供する。
【解決手段】複数の粉体塗料の組み合わせを噴射ノズルから被塗装面に対し噴射して塗装面を得、次いで塗装面を加熱処理した場合に、塗装面に垂直な断面に、塗装面に平行な複数の塗膜層が見られるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗装技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータ等の電子機器製品の表面塗装には、油性塗料、水性塗料、粉体塗料等を用いた塗装方法が用いられている。このうち、有機溶媒型塗料、水性エマルジョン型塗料は、ともに、VOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)を含有するが、粉体塗料では溶媒を使用しないため、このようにVOCの発生が全くなく、環境負荷が低い。
【0003】
粉体塗料の場合、有色塗料の塗装は、グレー色等のベース塗料に対して赤や青の原色のカラー塗料を目的の色味となるようあらかじめ一定比率で計量し、これらをタンク内にて混合して調色を行なった後、調色済塗料を塗装機に送って塗装に供していた。
【0004】
しかしながら、この場合にベース塗料とカラー塗料とを貯蔵タンクから一定比率で搬送・計量し、更に混合を行なうための自動計量混合装置は、設備費が高く、制御システム装置も大きく、設置場所を広く確保する必要があった。またタンク容量も大きくする必要があり、また、色替え時に不要になった塗料を多量に廃却する必要があり、少量多品種の塗装に不向きであった。また、塗装する色毎に塗料の在庫を持つ必要があるため、余分な塗料の製造が必要であり、少量多品種の塗装において問題になる。更に、着色剤毎に帯電性や電気抵抗が異なるため、静電的に塗装面に塗料を付着させるためには、精密な帯電性や電気抵抗の制御が必要であり、短期間で新しい色の塗装を行うことが困難である。
【0005】
これまでの技術としては、複数の色相の異なる粉体を混合する発明が開示されている(たとえば特許文献1参照)。この方法ではあらかじめ原色塗料を製造すれば、短納期で新しい色の塗装を行うことが可能であるが、色毎に塗料の在庫を持たなければならない問題がある。
【0006】
なお、上記は、電子機器製品の表面塗装について説明したが、本明細書において説明される各種の発明態様は、電子機器製品の表面塗装に限定されるものではなく、粉体塗装一般に適用されることは言うまでもない。
【特許文献1】特開平11−100534号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、塗装面に垂直な断面に、この塗装面に平行な複数の塗膜層を形成した塗膜を得ることを目的としている。本発明の更に他の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、噴射ノズルから被塗装面に対し噴射して塗装面を得、次いで塗装面を加熱処理した場合に、塗装面に垂直な断面に、塗装面に平行な複数の塗膜層が見られる、粉体塗料の組み合わせが提供される。
【0009】
本発明の他の一態様によれば、それぞれの粉体塗料の200℃の溶融状態における表面張力が、互いに2dyne/cm以上異なる粉体塗料の組み合わせが提供される。
【0010】
本発明の更に他の一態様によれば、噴射ノズルから被塗装面に対し噴射して塗装面を得、次いで塗装面を加熱処理した場合に、塗装面に垂直な断面に、塗装面に平行な複数の塗膜層が見られる、粉体塗料の塗装方法が提供される。この方法は、上記粉体塗料の組み合わせを使用することと関係なく、あるいは上記粉体塗料の組み合わせを使用することに関連して、行うことができる。
【0011】
具体的には、複数の粉体塗料の組み合わせ中のそれぞれの粉体塗料を、別々に、複数の噴射ノズルから被塗装面に対し、噴射時期を重複させて噴射して塗装面を得、次いで塗装面を加熱処理する。そして、加熱処理において、加熱温度と加熱時間との少なくともいずれか一方を調節することにより、加熱処理後の塗装面に垂直な断面に、塗装面に平行な複数の塗膜層が見られるようになすのである。上記の加熱処理前の操作の代わりに、複数の粉体塗料の組み合わせを、一緒に、一つの噴射ノズルから被塗装面に対し噴射して塗装面を得る方法もある。
【0012】
これらの態様により、各種の色彩効果、感触効果等を持つ塗膜が得られる。このような組み合わせはこれまでに知られていない。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施態様によれば、塗装面に垂直な断面に、この塗装面に平行な複数の塗膜層を形成した塗膜を得ることができる。また、そのような塗膜が得られることに関係して、均一な色の塗装面を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態を図、表、式、実施例等を使用して説明する。なお、これらの図、表、式、実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0015】
以下、粉体塗料を噴射ノズルから被塗装面に噴射し、得られた塗装面を加熱処理(焼付けともいう)する塗装を「粉体塗装」とも言う。
【0016】
複数の粉体塗料の組み合わせを噴射ノズルから被塗装面に対し噴射して塗装面を得、次いで塗装面を加熱処理した場合に、塗装面に垂直な断面にある、塗装面に平行な複数の塗膜層が見られる場合があることが判明した。本明細書では、「塗装面に垂直な断面にある、塗装面に平行な複数の塗膜層」を「特定複数塗膜層」とも言う。
【0017】
具体的には、二つの色(有彩色と無彩色である白色)を持つ粉体塗料の組み合わせを用い、複数の噴射ノズルにそれぞれ供給し、粉体塗装を行ったところ、色むらが発生する場合と均一な色が得られる場合とがあることが見出された。この相違について、加熱処理後の塗装断面(塗装面に垂直な断面)を観察したところ、その断面が、塗装面に平行な二層に分かれている場合があることが見出された。更に、断面が塗装面に平行な二層に分かれている場合には、塗装面に垂直な方向から眺めた場合に、断面が塗装面に平行な二層に分かれていない場合に比べ、色むらがなくあるいは少なく、均一な色が得られることも見出された。
【0018】
この様子を、被塗装面に垂直な断面を表す図1,2に模式的に示す。これらの図は拡大鏡で拡大した断面を表している。図1は、二層に分かれなかった場合、図2は、二層に分かれた場合である。
【0019】
拡大鏡で観察した結果、(a)の段階では両者に差は見られなかった。しかしながら(b)においては、図1の場合には、一層の塗膜層に二つの色の領域が混ざり合っている一方、図2の場合には、それぞれの色に対応する二層の塗膜層が生じていることが判明した。
【0020】
図1の場合には、肉眼では一層の塗膜層に二つの色の領域が混ざり合っているとまでは認識できなくても、色むらとして認識されたものと思われる。これに対して、図2の場合には、それぞれの色の塗膜層には色むらがないため、塗装面に垂直な方向から眺めた場合には、均一な色が得られたものと思われる。
【0021】
このような関係は、粉体塗料の数を3以上にしても可能である。すなわち、上記の結果、具体的には、次の条件を充足する粉体塗料の組み合わせが、均一な色の塗膜を与えるものと考えることができる。
【0022】
(1)個々独立した複数の粉体塗料の組み合わせを使用すること。
【0023】
(2)この組み合わせ中の粉体塗料を、別々に、複数の噴射ノズルから被塗装面に対し、噴射時期を重複させて噴射して塗装面を得ること。
【0024】
(3)次いで塗装面を加熱処理した場合に、特定複数塗膜層が見られること。
【0025】
ここで、この複数の粉体塗料の組み合わせにおけるそれぞれの粉体塗料は、互いに混ぜ合わせたものではなく、個々独立したものとして、別々に、複数の噴射ノズルのそれぞれに供給される。ただし、これら複数の粉体塗料の内の一つ以上が、複数の粉体塗料を混ぜ合わせたものである場合もあり得る。
【0026】
複数の粉体塗料を使用する場合の一般的な目的は、単独使用の場合とは異なる、色相、明度または彩度を得ることである。従って、これら複数の粉体塗料は、色相、明度、彩度のいずれかが相異なるものであることが一般的である。しかしながら、手触り等の他の特性を付与する等の目的がある場合には、これらが同一の場合もあり得る。これを粉体塗料の組成としてみれば、粉体塗料の組成は、互いに異なることが一般的であるが、同一である場合もあり得ると言いかえることもできる。
【0027】
上記において、噴射時期を重複させて噴射するのは、粉体塗料の入り交じった、図2の(a)のような塗膜層を形成するためである。噴射量比は1:1でなくともよい。
【0028】
なお、粉体塗料の組み合わせ自体は、粉体塗料間の相互作用がなければ、噴射ノズルから出た後に混ぜ合わせても、噴射ノズルに入る前に混ぜ合わせても、同様の効果を得られると考えられる。従って、具体的には、次の条件を充足する粉体塗料の組み合わせでも、均一な色の塗膜を与えるものと考えることができる。
【0029】
(a)複数の粉体塗料の組み合わせを使用すること。
【0030】
(b)この粉体塗料の組み合わせを、一緒に、一つの噴射ノズルから被塗装面に対し噴射して塗装面を得ること。
【0031】
(c)次いで塗装面を加熱処理した場合に、特定複数塗膜層が見られること。
【0032】
この場合の複数の粉体塗料の組み合わせは、噴射ノズルから噴射される前に混合されるようになっている。このような混合は、複数の粉体塗料を予め混ぜ合わせることによっても、噴射ノズルの吸引側に、それぞれの粉体塗料を別々に供給することによっても実現することができる。
【0033】
これらの形態の粉体塗料を使用することにより、特定複数塗膜層が見られる新規な塗膜を実現することができる。そして、この特定複数塗膜層により種々の実際的効果を期待することができる。その例としては、例えば、次のようなものが挙げられる。
【0034】
・表面層に透明な耐光性トップコートを持ち、その下に有色層を持つ塗膜。
【0035】
・表面層に特定の特性(例えば特定の肌理、感触、空気浄化能力、臭気除去能力)を持つトップコートを持ち、その下に有色層を持つ塗膜。
【0036】
・表面層とその下層との色を合わせることにより、ある色彩効果(中間色、虹色、モルフォ蝶ライクの色調等)を狙った塗膜。
【0037】
・色むらのないあるいは少ないまたは均一な色を持つ塗膜。
【0038】
塗装面に垂直な断面は、加熱処理後に降温した塗装対象物を塗装面に垂直に切断し、顕微鏡等の拡大鏡下で観察することができる。塗膜の厚さには特に制限はないが、あまり薄いと複数の層であることの認識が困難になる場合がある。また、あまり厚いと層形成自体が困難になる場合がある。このため、塗膜層の全体で5〜50μmの範囲内であることが好ましい。
【0039】
「特定複数塗膜層が見られる」ことは、肉眼や顕微鏡等の拡大鏡下等での観察の結果、複数の層があると認識できる程度で十分である。層間を示す線が歪んでいたり、途中で切れていたり、他の層間を示す線と部分的に重複していたりする場合もあり得る。層間がにじんだ状態になっていたり、層間そのものが細い層として認識できる場合もあり得る。
【0040】
なお、特定複数塗膜層の数は、必ずしも、使用した粉体塗料の数と一致しなくともよい。
【0041】
上記において「見られる」とは、特定複数塗膜層が見られない部分があり得ることも想定している。また、例えば加熱処理時間等の塗装の条件によっては見られない場合があっても、「見られる」場合がありさえすれば、上記条件を充足することを意味している。
【0042】
特定複数塗膜層は、塗装面が水平でも垂直でも観察される。従って、複数の塗装膜が得られる原因には重力の影響は働いていない、あるいはほとんど働いていないものと考えられる。検討の結果、粉体塗料の溶融時における表面張力が関与していることが見出された。具体的には、複数の粉体塗料の組み合わせであって、そのそれぞれの200℃の溶融状態における表面張力が、互いに2dyne/cm以上異なる場合に、複数の塗膜層が見られることが多い。加熱処理の際に粉体塗料が軟化すると表面張力の差により互いに分離し、複数の塗膜層が形成されるものと考えられる。表面張力のより低い塗料の塗膜が塗膜表面に形成され、表面張力のより高い塗料の塗膜が被塗装面に近い部分に形成される。なお、この場合の塗装方法としてはどのような方法でもよいと考えられるが、上記方法を適用することが有利であろう。
【0043】
粉体塗料は通常100〜250℃の温度範囲で加熱処理すると、粉体が溶融してレベリングし、塗膜が形成される。この際の表面張力は温度によって変わり得る。上記では、この種々の温度の溶融状態における表面張力を、粉体塗料の200℃の溶融状態における表面張力で代表して把握する。
【0044】
この表面張力の測定方法には特に制限はなく、公知の方法を採用できる。例として、ウィルヘルミ法等を挙げることができる。粉体塗料が熱硬化性樹脂を含有する場合には、熱硬化剤を除いた状態で測定してもよい。迅速に測定を行い、測定時間をゼロ(0)時に内挿することにより、熱硬化が始まる直前の表面張力を求めるやり方が可能であれば、そのような方法でもよい。
【0045】
表面張力測定には、具体的には、たとえば、ウイルヘルミ法による表面張力測定装置(デジオマチックESB−V、協和科学社製)を用いることができる。たとえば、粉体塗料10gをステンレスシャーレに入れ、200℃の恒温槽中で10分加熱し、溶融させる。そして200℃に設定した表面張力計で表面張力を測定することができる。
【0046】
粉体塗料の表面張力は、その組成の影響を受ける。特に使用される樹脂の種類の影響や、界面活性剤が使用される場合にはその影響が大きい。従って、特定の表面張力の粉体塗料を得るには、後述する樹脂や界面活性剤の種類および/または量を検討することが有用である。上記に述べた、それぞれの200℃の溶融状態における表面張力が、互いに2dyne/cm以上異なる粉体塗料としては、界面活性剤を含み、その粉体塗料中における樹脂に対する割合が互いに異なるものであることが好ましい。また、その界面活性剤がシリコーン系界面活性剤であることが好ましい。噴射ノズルから被塗装面に対し噴射して塗装面を得、次いで塗装面を加熱処理した場合に、この特定複数塗膜層が見られる粉体塗料の組み合わせについても、表面張力に拘わらず、同様であると考えることができる。
【0047】
なお、「互いに2dyne/cm以上異なる」条件や、「界面活性剤を含み、その粉体塗料中における樹脂に対する割合が互いに異なるものである」条件については、使用される粉体塗料の全部について成立することが好ましいが、そうでなくてもよい場合もある。
【0048】
なお、実施態様によっては、上記「特定複数塗膜層」の形成に表面張力が関与しているか否かは必須の要件ではない。更に、例えば、実際に噴射して特定複数塗膜層が見られることを要件とするときには、塗料中に含まれる樹脂が熱硬化性樹脂である場合、溶融時における表面張力自体を具体的測定することが困難なこともあり得る。ただし、上記のように、実際に噴射して特定複数塗膜層が見られることを要件とする場合に、それぞれの200℃の溶融状態における表面張力が、互いに2dyne/cm以上異なる複数の粉体塗料の組み合わせを使用することは好ましい。その場合における、界面活性剤の要件についても上記と同様である。
【0049】
使用できる粉体塗料の種類には特に制限はない。具体的には、マゼンタ、イエロ、シアン、ホワイト、グレーおよびブラックのうち少なくとも1種類以上の色を有するものであることが、種々の色を実現できるので好ましい。粉体塗料における色の組み合わせについても特に制限はない。ホワイト、グレー、ブラックから選ばれた無彩色の色調を有する第一の塗料と、イエロ、マゼンタ、シアンから選ばれた有彩色の色調を有する第二の塗料との組み合わせを選べば、広範囲の色をカバーできるので好ましい場合が多い。
【0050】
使用される粉体塗料、すなわち上記における「複数の粉体塗料」には、色相、明度、彩度のいずれかが互いに異なる複数の粉体塗料が含まれる場合が多い。しかしながら、色相、明度、彩度のいずれかも同じ複数の粉体塗料が含まれていてもよい。たとえば、その成分や粒径が異なるため、同一の色であっても、塗装面への付着のし易さが異なる複数の粉体塗料を含ませる場合が該当する。なお、使用される粉体塗料が予め複数の別々の粉体塗料を混合したものである場合は、単一のノズルを使用するか、複数のノズルを使用するかに応じて、一つの粉体塗料と考えてもよく、複数の別の粉体塗料の組み合わせと考えてもよい場合もある。
【0051】
ここで、「粉体塗料」は、樹脂、着色剤、帯電制御剤、電気抵抗制御剤、界面活性剤等を含んでなる固体粒子の集合を意味する。使用される樹脂、着色剤、帯電制御剤、電気抵抗制御剤等には特に制限はなく、公知のものから適宜選択することができる。
【0052】
使用される樹脂は、着色剤をつなぎ止める意味からバインダーと呼ばれる場合もある。使用される樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ユリア樹脂、メラニン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂等の粉体塗料に通常用いられている樹脂を用いることができる。一つの粉体塗料が複数の樹脂を含んでいてもよい。その場合、複数の樹脂が一粒の粉体塗料粒子中に共存する場合も、一粒の粉体塗料粒子中には一つの樹脂しか存在しない場合もあり得る。
【0053】
ポリエステル樹脂は、主にジカルボン酸等の多塩基酸(又はメチルエステル)とジオール等の多価アルコールとのエステル化物である。
【0054】
ジオールとしては、炭素数2〜36のアルキレングリコール(エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、テトラデカンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオールなど);炭素数4〜36のアルキレンエーテルグリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなど);炭素数4〜36の脂環式ジオール(1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールAなど);上記アルキレングリコールまたは脂環式ジオールのアルキレンオキサイド(以下AOと略記する)〔EO、プロピレンオキサイド(以下POと略記する)、ブチレンオキサイド(以下BOと略記する)など〕付加物(付加モル数1〜120);ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなど)のAO(EO、PO、BOなど)付加物(付加モル数2〜30);ポリラクトンジオール(ポリε−カプロラクトンジオールなど);およびポリブタジエンジオールなどが挙げられる。
【0055】
ジオールとしては、上記のヒドロキシル基以外の官能基を有しないジオール以外に、他の官能基を有するジオールを用いてもよい。
【0056】
他の官能基を有するジオールとしては、カルボキシル基を有するジオール等が挙げられる。
【0057】
カルボキシル基を有するジオールとしては、ジアルキロールアルカン酸[C6〜24のもの、例えば2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA)、2,2−ジメチロールブタン酸、2 ,2−ジメチロールヘプタン酸、2,2−ジメチロールオクタン酸など]が挙げられる。
【0058】
3〜8価またはそれ以上のポリオールは架橋構造を導入するのに役立つ。3〜8価またはそれ以上のポリオールとしては、炭素数3〜36の3〜8価またはそれ以上の多価脂肪族アルコール(アルカンポリオールおよびその分子内もしくは分子間脱水物、例えばグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、およびポリグリセリン;糖類およびその誘導体、例えばショ糖、およびメチルグルコシド);多価脂肪族アルコールのAO付加物(付加モル数2〜120);トリスフェノール類(トリスフェノールPAなど)のAO付加物(付加モル数2〜30);ノボラック樹脂(フェノールノボラック、クレゾールノボラックなど)のAO付加物(付加モル数2〜30);アクリルポリオール[ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと他のビニルモノマーの共重合物など];などが挙げられる。
【0059】
ジカルボン酸としては、炭素数4〜36のアルカンジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、デシルコハク酸など)およびアルケニルコハク酸(ドデセニルコハク酸、ペンタデセニルコハク酸、オクタデセニルコハク酸など);炭素数6〜40の脂環式ジカルボン酸〔ダイマー酸(2量化リノール酸)など〕、炭素数4〜36のアルケンジカルボン酸(マレイン酸、フマール酸、シトラコン酸など);炭素数8〜36の芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸など)などが挙げられる。
【0060】
3〜6価またはそれ以上のポリカルボン酸としては、炭素数9〜20の芳香族ポリカルボン酸(トリメリット酸、ピロメリット酸など)などが挙げられる。
【0061】
アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸およびその誘導体さらには必要によりこれら以外のエチレン性不飽和結合(C=C)含有モノマーなどを(共)重合したものが挙げられ、熱硬化性タイプ、熱可塑性タイプの何れであってもよい。
【0062】
(メタ)アクリル酸の誘導体としては、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類、(メタ)アクリロニトリル類などが挙げられる。
【0063】
(メタ)アクリル酸エステル類としては具体的には、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート[ドデシル(メタ)アクリレート]、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、β-メタリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、エチル-α-ヒロドキシメチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジアクリルレート、グリセリルトリ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0064】
(メタ)アクリルアミド類としては、具体的には、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド等が挙げられる。
【0065】
(メタ)アクリロニトリル類としては、具体的には、例えば、(メタ)アクリロニトリル、エチルシアノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0066】
このようなアクリル樹脂には、上記以外の「他のモノマー」が共重合されていてもよく、このような「他のモノマー」としては、具体的には、例えば、スチレン、酢酸ビニル、ビニルトルエン、マレイン酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和結合(C=C)含有モノマー等が挙げられる。
【0067】
エポキシ樹脂としては、分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば任意のものを用いることができ、例えばビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ビフェニル型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型、ナフタレン型、複素環式、脂環式、各種変性等のエポキシ樹脂またはそこにハロゲンを導入したハロゲン化エポキシ樹脂などが用いられる。
【0068】
上記ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、エピコート828、エピコート1001、エピコート1004、エピコート1007、エピコート1009(いずれも商品名、シェルケミカル社製)が挙げられ、また適当な鎖延長剤を用いてこれらを鎖延長したものを用いることもできる。
【0069】
なお、上記のその他の樹脂を含め、これらの樹脂は、いずれも200℃で溶融状態とするため適宜変性したり、重合度を調節することができ、好ましい場合が多い。重合度の調節にはいわゆるオリゴマーの領域の分子量にすることも含まれる。
【0070】
これらの粉体塗料中の樹脂の主成分が熱硬化性樹脂の場合には、架橋反応を促進するための硬化剤を用いることが好ましい。
【0071】
このような硬化剤としては、例えば、アミン、アミド、ジシアンジアミド、カルボン酸、酸無水物、イソシアネート、ポリスルフィド、酸ジヒドラジド、イミダゾール等の粉体塗料に用いられている公知の硬化剤を、単独でまたは混合して用いることができる。
【0072】
着色剤としては、例えば、二酸化チタンや、ベン柄、黄色酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、キナクリドン系赤色顔料等の無機系又は有機系顔料等を挙げることができる。帯電制御剤としては、ニグロシン系の電子供与性染料、その他ナフテン酸または高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、四級アンモニウム塩、アルキルアミド、キレート、顔料、フッ素処理活性剤、電子受容性の有機錯体、銅フタロシアニンのスルホニルアミンなどが例示できる。電気抵抗制御剤としては、粒状酸化チタン、針状酸化チタン、鉄粉、フェライト粉、マグネタイト粉を例示することができる。
【0073】
これらの成分の影響を粉体塗料の物性としてとらえるとき、粉体塗料の抵抗、帯電量、粒径が重要である。粒径については、小粒径粉体塗料粒子が大粒径粉体塗料粒子に比べ帯電性が高くなることが知られている。粉体塗料中の帯電制御剤は、帯電性を増大させる働きを有し、電気抵抗制御剤は逆に帯電性を減少させる働きを有するので、これらの添加量を制御することによっても粉体塗料の帯電量を制御することが可能である。
【0074】
上記において使用できる界面活性剤の種類については特に制限はなく、公知の界面活性剤から適宜選択することができる。粉体塗料の帯電性に与える影響を及ぼしにくいことや樹脂中への分散安定性が良好であることから、親水基と疎水基を持つノニオン界面活性剤が好ましい。ただし、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤等の他の種類の界面活性剤を排除するものではない。
【0075】
このようなノニオン界面活性剤としては、例えば次の一般式で表されるポリジメチルシロキサン−ポリエーテル、ポリジメチルシロキサン−ポリエステル等のシリコーン系界面活性剤を用いることができる。また、フッ素系界面活性剤、アルキルエーテル誘導体、アルキルエステル誘導体も用いることができる。これらは併用してもよい。これらの中でも、効果の大きい点でシリコーン系界面活性剤が好ましい。
【0076】
【化1】

【0077】
【化2】

【0078】
界面活性剤は、樹脂をモノマから重合させる段階で添加しても、粉体塗料の構成材料を溶融混練する段階で添加してもよい。ただし、界面活性剤を樹脂の重合段階で添加する場合、樹脂の重合を阻害したり、副反応を誘導しない材料に限られる。
【0079】
シリコーン系界面活性剤中のシリコーンポリマの数平均分子量は5×10〜5×10がよい。数平均分子量がこの範囲を超えて大きくなると、樹脂への分散性が低下する傾向がある。5×10未満では表面張力の減少度が不十分になる場合がある。
【0080】
界面活性剤の添加量には特に制限はなく、界面活性剤の種類と使用する樹脂の表面張力とに基づき適宜選択できる。ポリエステル樹脂の場合、粉体塗料の総重量に対して0.01〜2重量%が一般的に好ましい。上記において、粉体塗料中における樹脂に対する界面活性剤の割合が互いに異なる程度についても特に制限はないが、一般的には、差が0.02〜2重量%の範囲がよいと考えられる。0.02重量%未満では効果が出にくく、2重量%を超えても特段の効果が望めない場合が多い。なお、上記の「互いに異なる」には、一方が0の場合(ゼロ、すなわち界面活性を含まない場合)も含まれる。
【0081】
上記における界面活性剤には、界面活性剤と呼ばれない物質も含まれ得る。すなわち、その名称によらず、粉体塗料の200℃の溶融状態における表面張力を変え得るものであれば、上記における界面活性剤と考えてよい。また、ある物質を加えることにより特定複数塗膜層が現れる場合や、ある物質の添加量を変更することにより特定複数塗膜層の出現と消滅とが観察される場合には、その物質を界面活性剤と考えてよい。表面張力を変えることは、表面張力を上げることによっても、下げることによっても実現するが、界面活性剤の添加は、表面張力を下げる方向に働く。表面張力を上げることは、界面活性剤の場合には、その添加量を減少させることによって実現し得る。
【0082】
上記における噴射ノズルには特に制限はなく、粉体塗装に使用できるものであればどのようなものであってもよい。いわゆるコロナ帯電型塗装ガンと呼ばれるもののノズルを好適に使用できる。複数の噴射ノズルは、複数の塗装ガンを使用して実現してもよく、複数のノズルを持つ塗装ガンを使用して実現してもよい。一つの噴射ノズルを使用する場合、粉体塗料の供給口が一つである場合は、複数の粉体塗料を予め混ぜ合わせてから、噴射ノズルに供給する。粉体塗料の供給口を複数設ければ、それぞれ別個に供給することも可能である。
【0083】
図3は、中黒の丸印1と中空の丸印2で示す二つの別々の色の粉体塗料1,2を同時に別々の二つの噴射ノズル3,4から、被塗装面に対し、噴射時期を重複させて噴射して塗装を行う様子を示している。被塗装面7は接地されており、印加電圧により帯電した粉体塗料1,2は、同伴するガス(たとえば空気)により噴射ノズル3,4の先端から塗装面7に向けて噴射され、被塗装面7に付着する。ガイド8は粉体塗料の噴射方向を変えるためのものである。図3中、HV1,HV2は印加される荷電圧(高電圧)を意味している。印加電圧は同一でも、互いに異なっていてもよい。
【0084】
このような構成では、荷電圧を変えると塗装面7に付着する粉体塗料1,2の付着割合が変化する場合がある。そこで、この荷電圧を変更することにより調色して、所望の色を有する塗装面を実現することもできる。この場合、荷電圧印加装置5,6の両方の荷電圧を変えてもよく、片方を固定してもう一方のみを変えてもよい。更に、同伴するガス量や粉体塗料1,2の供給量自体を変更することを加えてもよい。荷電圧の変更範囲については特に制限はないが、30〜100kVの範囲が実用的に好ましいと言えよう。
【0085】
上記荷電圧の印加方法はどのようなものであってもよい。いわゆるコロナ帯電型塗装ガンと呼ばれるものは、そのような機能を持っているので、それを利用することができる。コロナ帯電型塗装ガンでは通常30〜100kVの荷電圧が採用される。荷電圧の変更は、全部のノズルを通過する粉体塗料に対して行っても、その一部のノズルを通過する粉体塗料に対して行ってもよい。
【0086】
この場合、粉体塗料の被塗装面への付着量は、ノズルの設計(例えば最狭部の直径)、粉体塗料の供給量、同伴される気流の流速、印加される電圧値等によって影響を受ける。粉体塗料の被塗装面への付着量や、粉体塗料の供給量は、複数の粉体塗料について同一とは限らず、互いに異なっていてもよい。
【0087】
噴射ノズルは、通常被塗装面に直交して置かれるが、そうでなくてもよい。被塗装面は鉛直に置かれても、水平に置かれても、その他の角度を持って置かれてもよい。
【0088】
塗装面の加熱処理装置については特に制限はなく、公知の加熱処理装置を使用することができる。加熱方法、加熱温度、加熱時間、冷却方法、冷却時間等についても同様である。
【0089】
特定複数塗膜層が現れるかどうかは、使用される粉体塗料の種類、塗装条件および/または加熱処理条件によって左右されることがあるので、試行により、特定複数塗膜層が現れることを確認することが必要になる場合がある。
【0090】
なお、粉体塗料の如何に拘わらず、粉体塗装方法自体としても、塗装を同時に行う場合に、特定複数塗膜層を得る技術についてはこれまで知られていない。
【0091】
この新規な粉体塗装方法としては、具体的には、次の操作を含む粉体塗装方法を採用することにより、特定複数塗膜層が見られるようになすことで実現できる。この場合、その加熱処理条件を適宜調節することが好ましい場合が多い。加熱処理条件の内容は実情に応じて適宜決めることができるが、加熱温度と加熱時間との少なくともいずれか一方を調節することが、実際的であり、好ましい。加熱温度と加熱時間との調節には、加熱温度と加熱時間との単なる選択も含まれる。
【0092】
・個々独立した複数の粉体塗料の組み合わせを用いること。
【0093】
・この組み合わせ中の粉体塗料を、別々に、複数の噴射ノズルから被塗装面に対し、噴射時期を重複させて噴射して塗装面を得ること。
【0094】
・次いで塗装面を加熱処理すること。
【0095】
また、一つの噴射ノズルを用いる場合には、代わりに、次の操作を含む粉体塗装方法を採用することができる。
【0096】
・複数の粉体塗料の組み合わせを用いること。
【0097】
・この粉体塗料の組み合わせを、一緒に、一つの噴射ノズルから被塗装面に対し噴射して塗装面を得ること。
【0098】
・次いで塗装面を加熱処理すること。
【0099】
このような粉体塗料の組み合わせとしては、これまで述べた粉体塗料の組み合わせを使用することが好ましいのは言うまでもない。
【0100】
このようにして、塗装面に垂直な断面に、塗装面に平行な複数の塗膜層が見られる塗膜を実現することができる。このような塗膜は、特に限定されない種々の用途に適用することができる。このような塗膜を形成させる対象である被塗装物についても特に制限はない。何らかの製品以外にも、金属製、セラミック製等の塗装テスト片も含まれ得る。
【0101】
上記の塗装方法や粉体塗料システムを適用する塗装対象物としては特に制限はなく、公知のどのようなものにも適用することができる。ただし、対象物が多種多様であり、迅速な塗装が求められる電子機器筐体が特に好ましい用途であるといえよう。この場合、多種類の色を有する電子機器筐体を安価に作製することができる。
【0102】
このような電子機器筐体には、例えば、ノートパソコン、パーソナルデジタルアシスタンス(PDA)、携帯電話、カーナビゲーションシステム等の電子機器筐体が含まれる。図4は、本発明の電子機器筐体の一例を示すノートパソコン用筐体の正面図である。図4の筐体の表面には、本発明の粉体塗料が塗装されている。
【実施例】
【0103】
次に本発明の実施例および比較例を詳述する。
【0104】
なお、200℃の溶融状態における表面張力の測定には、ウイルヘルミ法による表面張力測定装置(デジオマチックESB−V、協和科学社製)を用いた。
【0105】
[例1](ポリエステル樹脂の作製)
ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン5.0モル、エチレングリコール5.0モル、テレフタル酸8.0モル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸無水物(無水トリメリット酸)1.0モル、及び5.9gのジブチル錫オキシドをガラス製の4つ口フラスコに入れ、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を取り付け、マントルヒーター中において窒素気流下で、190℃にて3時間、220℃にて3時間、240℃にて3時間、さらに同温度で60mmHgの減圧下にて1時間反応せしめて反応を終了した。
【0106】
得られた樹脂は淡黄色の固体であり、フローテスターによる軟化点は120℃、DSCによるガラス転移温度は68℃であった。
【0107】
[例2](表面張力の制御)
表1に、200℃の溶融状態における種々の樹脂の表面張力を測定した結果を示す。表1において、「ポリエステル樹脂」は、実施例1で作製したポリエステル樹脂を意味し、「エポキシ樹脂」はビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン社製「エピコート1055」(エポキシ当量850)であり、「アクリル樹脂」はポリメタクリレートを意味し、「スチレンアクリル樹脂」はポリメタクリレートとスチレンとの共重合体を意味する。これらは全て熱可塑性樹脂である。
【0108】
【表1】

【0109】
第一の粉体塗料として実施例1で作製したポリエステル樹脂の粉体(表面張力21dyne/cm、平均粒径10μm)を用い、第二の粉体塗料としてアクリル樹脂(ポリメタクリレート)粉体(表面張力10dyne/cm、平均粒径10μm)を用いて、塗装試験を行った。なお、第一の粉体塗料については、着色剤として、樹脂を100重量部とした場合に、白色の着色剤を50重量部混合した。第二の粉体塗料については、着色剤として、樹脂を100重量部とした場合に、マゼンタ色の着色剤を20重量部混合した。第一の粉体塗料の供給量と第二の粉体塗料の供給量とは同一にした。
【0110】
塗装機としては、二つの噴射ノズルを持つ粉体塗装機(ランズバーグインダストリ社製、品名OptiFlex)を使用した。塗装後、150℃に加熱したオーブン内で15分間加熱処理し、室温に冷却後、倍率500倍の顕微鏡で塗膜断面を観察した。塗膜の全膜厚(二つの膜の合計)は30μmであった。
【0111】
この結果、塗料が層分離し、塗装面に平行な二層が形成された。具体的には、塗膜表面に表面張力の低い第二の塗料塗膜が形成され、被塗装面に近い部分に第一の塗料が形成されていることが見出された。二つの層の厚さは同等であった。
【0112】
[例3](表面張力の制御)
例2と同じポリエステル樹脂を使用し、溶融状態のポリエステル樹脂に、表面張力低減剤として、シリコーン系界面活性剤を添加して得た組成物の、200℃の溶融状態における表面張力を測定した結果を表2に示す。シリコーン系界面活性剤としては、東レ・ダウコーニング社製のFZ-2162を使用した。
【0113】
【表2】

【0114】
[例4](表面張力の制御)
表2のシリコーン系界面活性剤が0.00重量%の溶融物を固化し、粉砕して平均粒径10μmの粉体塗料Aを得た。
【0115】
同様に、表2のシリコーン系界面活性剤が2.00重量%の溶融物を固化し、粉砕して平均粒径10μmの粉体塗料Bを得た。ただし、この場合は、着色剤として、樹脂と界面活性剤の総量を100重量部とした場合に、白色の着色剤に代えてマゼンタ色の着色剤を20重量部混合した。
【0116】
これらの粉体塗料を、例2と同様にして粉体塗装し、全膜厚が30μmの塗膜を得た。この結果、塗料が層分離し、塗膜表面に表面張力のより低い塗料Bの塗膜が形成され、被塗装面に近い部分に、塗膜表面に表面張力のより高い塗料Aの塗膜が形成されていることが見出された。二つの層の厚さは同等であった。
【0117】
[例5](色むらの評価)
表3の粉体塗料を使用した。表3に記載された以外の成分は使用しなかった。
【0118】
表3に記載した樹脂と着色剤と界面活性剤とを溶融混合し、冷却固化した後、粉砕し、平均粒径10μmの各粉体塗料を得た。表面張力は、各粉体塗料の200℃の溶融状態における値である。
【0119】
【表3】

【0120】
これらの粉体塗料を組み合わせ、例2と同様にして、別々のノズルから同時に噴射し、平坦なマグネシウム合金表面に付着させた。その後、150℃で15分焼付けを行い、塗膜を形成させた。塗装面に直交する方向から塗装面を直した場合における色むらを肉眼で観察した結果を表4に示す。
【0121】
【表4】

【0122】
色むらの評価には、3名の評価担当者を起用した。色むらなしを1点とし、色むらありを0点とし、合計で3点のものを○、2点以下のものを×として評価した。
【0123】
この結果、表面張力が2dyne/cm以上ある場合には、全て、○印が得られることが判明した。これらのいくつかについて、塗膜の断面を観察したところ、第1の塗料群の塗料と第2の塗料群の塗料が相分離し、特定複数塗膜層が形成されていた。
【0124】
なお、上記に開示した内容から、下記の付記に示した発明が導き出せる。
【0125】
(付記1)
複数の粉体塗料の組み合わせであって、
当該粉体塗料の組み合わせを噴射ノズルから被塗装面に対し噴射して塗装面を得、次いで当該塗装面を加熱処理した場合に、当該塗装面に垂直な断面に、当該塗装面に平行な複数の塗膜層が見られる、
粉体塗料の組み合わせ。
【0126】
(付記2)
複数の粉体塗料の組み合わせであって、
当該組み合わせのそれぞれの粉体塗料の200℃の溶融状態における表面張力が、互いに2dyne/cm以上異なる、
粉体塗料の組み合わせ。
【0127】
(付記3)
複数の粉体塗料の組み合わせであって、
当該組み合わせのそれぞれの粉体塗料の200℃の溶融状態における表面張力が、互いに2dyne/cm以上異なり、
当該粉体塗料の組み合わせを噴射ノズルから被塗装面に対し噴射して塗装面を得、次いで当該塗装面を加熱処理した場合に、当該塗装面に垂直な断面に、当該塗装面に平行な複数の塗膜層が見られる、
粉体塗料の組み合わせ。
【0128】
(付記4)
前記組み合わせ中のそれぞれの粉体塗料に含まれる界面活性剤の当該粉体塗料に含まれる樹脂に対する割合が互いに異なる、付記1〜3のいずれかに記載の粉体塗料の組み合わせ。
【0129】
(付記5)
前記界面活性剤がシリコーン系界面活性剤である、付記4に記載の粉体塗料の組み合わせ。
【0130】
(付記6)
複数の噴射ノズルを使用し、
前記組み合わせのそれぞれの粉体塗料を、別々に、当該複数の噴射ノズルから被塗装面に対し、噴射時期を重複させて噴射して前記塗装面を得、次いで当該塗装面を加熱処理した場合に、当該塗装面に垂直な断面に、当該塗装面に平行な複数の塗膜層が見られる、付記1〜5のいずれかに記載の粉体塗料の組み合わせ。
【0131】
(付記7)
一つの噴射ノズルを使用し、
前記粉体塗料の組み合わせを、一緒に、当該一つの噴射ノズルから被塗装面に対し噴射して塗装面を得、次いで当該塗装面を加熱処理した場合に、当該塗装面に垂直な断面に、当該塗装面に平行な複数の塗膜層が見られる、付記1〜5のいずれかに記載の、粉体塗料の組み合わせ。
【0132】
(付記8)
複数の粉体塗料の組み合わせを用いることと、
当該組み合わせのそれぞれの粉体塗料を、別々に、複数の噴射ノズルから被塗装面に対し、噴射時期を重複させて噴射して塗装面を得ることと、
次いで当該塗装面を加熱処理することとを
含み、
当該加熱処理において、加熱温度と加熱時間との少なくともいずれか一方を調節することにより、当該加熱処理後の当該塗装面に垂直な断面に、当該塗装面に平行な複数の塗膜層が見られるようになす、
粉体塗料の塗装方法。
【0133】
(付記9)
複数の粉体塗料の組み合わせを用いることと、
当該粉体塗料の組み合わせを、一緒に、一つの噴射ノズルから被塗装面に対し噴射して塗装面を得ることと、
次いで当該塗装面を加熱処理することとを
含み、
当該加熱処理において、加熱温度と加熱時間との少なくともいずれか一方を調節することにより、当該加熱処理後の当該塗装面に垂直な断面に、当該塗装面に平行な複数の塗膜層が見られるようになす、
粉体塗料の塗装方法。
【0134】
(付記10)
前記粉体塗料の組み合わせとして、付記1〜7に記載の粉体塗料の組み合わせを使用する、付記8または9に記載の粉体塗料の塗装方法。
【0135】
(付記11)
付記8〜10のいずれかに記載の塗装方法を用いて塗装された、塗装面に垂直な断面に、当該塗装面に平行な複数の塗膜層が見られる塗膜。
【0136】
(付記12)
付記8〜10のいずれかに記載の塗装方法を用いて塗装された電子機器筐体。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】粉体塗装において、二層に分かれない場合を説明するための模式的断面図である。
【図2】粉体塗装において、二層(特定複数塗膜層の一種)に分かれる場合を説明するための模式的断面図である。
【図3】粉体塗装を説明するための模式図である。図では、二つの別々の色の粉体塗料を同時に別々の二つの噴射ノズルから噴射している。
【図4】表面に粉体塗料が塗装された筐体を例示する図である。
【符号の説明】
【0138】
1 粉体塗料
2 粉体塗料
3 噴射ノズル
4 噴射ノズル
5 荷電圧印加装置
6 荷電圧印加装置
7 塗装面
8 ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の粉体塗料の組み合わせであって、
当該粉体塗料の組み合わせを噴射ノズルから被塗装面に対し噴射して塗装面を得、次いで当該塗装面を加熱処理した場合に、当該塗装面に垂直な断面に、当該塗装面に平行な複数の塗膜層が見られる、
粉体塗料の組み合わせ。
【請求項2】
複数の粉体塗料の組み合わせであって、
当該組み合わせのそれぞれの粉体塗料の200℃の溶融状態における表面張力が、互いに2dyne/cm以上異なる、
粉体塗料の組み合わせ。
【請求項3】
前記組み合わせ中のそれぞれの粉体塗料に含まれる界面活性剤の当該粉体塗料に含まれる樹脂に対する割合が互いに異なる、請求項1または2に記載の粉体塗料の組み合わせ。
【請求項4】
複数の噴射ノズルを使用し、
前記組み合わせのそれぞれの粉体塗料を、別々に、当該複数の噴射ノズルから被塗装面に対し、噴射時期を重複させて噴射して前記塗装面を得る、
請求項1〜3のいずれかに記載の粉体塗料の組み合わせ。
【請求項5】
複数の粉体塗料の組み合わせを用いることと、
当該組み合わせのそれぞれの粉体塗料を、別々に、複数の噴射ノズルから被塗装面に対し、噴射時期を重複させて噴射して塗装面を得ることと、
次いで当該塗装面を加熱処理することとを
含み、
当該加熱処理において、加熱温度と加熱時間との少なくともいずれか一方を調節することにより、当該加熱処理後の当該塗装面に垂直な断面に、当該塗装面に平行な複数の塗膜層が見られるようになす、
粉体塗料の塗装方法。
【請求項6】
前記粉体塗料の組み合わせとして、請求項1〜4に記載の粉体塗料の組み合わせを使用する、請求項5に記載の粉体塗料の塗装方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の塗装方法を用いて塗装された電子機器筐体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−202117(P2009−202117A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48092(P2008−48092)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】