説明

粉体塗料組成物の製造方法

【課題】メッキ調のメタリック色を発色させるのに適したような特定形状を有するフレーク状顔料を含んだ粉体塗料組成物を好適に製造できる方法を提供する。
【解決手段】フレーク状顔料がその表面に結合した熱硬化性樹脂粉末を含む粉体塗料組成物の製造方法であって、10μm以下の平均粒径または60nm以下の平均厚みを有するフレーク状顔料を準備する第1工程と、該熱硬化性樹脂粉末を溶解しない溶媒に上記フレーク状顔料を分散させることにより分散液を得る第2工程と、該熱硬化性樹脂粉末と上記分散液とを混合することにより混合物を得る第3工程と、上記混合物を撹拌しながら上記溶媒を揮発させて除去する第4工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレーク状顔料がその表面に結合した熱硬化性樹脂粉末を含む粉体塗料組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粉体塗料は、有機溶剤を使用しない低公害型塗料として、自動車部品、電化製品、家具、工作機械、事務機器、玩具などに需要が増加しつつある。粉体塗料による塗装はこのように低公害型であることに加え、1回の塗装で形成される塗膜が厚く、従来の溶剤型塗料のように何度も重ね塗りする必要がないため、塗装時間を短縮することができる。さらに、塗料中に溶剤を含有しないため、塗膜中にピンホールを発生させることがないなどの利点も有している。粉体塗料に求められるカラーバリエーションも従来の塗料と同様であることが要求され、メタリック色に対する要求も多い。中でもメッキ調のメタリック色はインテリア製品を中心に近年その要求が高まっている。
【0003】
上記のような特性を有する粉体塗装では、フレーク状顔料を含有しない場合には塗膜特性は良好であり、特に問題はない。しかし、フレーク状顔料を含有する場合は、以下に述べるような問題点がある。
【0004】
従来、粉体塗料でメタリック塗装を行なうには、フレーク状顔料を溶融法によりあらかじめ樹脂や着色顔料と十分混練した後、粉砕などにより粉末化するメルトブレンド法、樹脂粉末とフレーク状顔料とを混合して塗装するドライブレンド法、表面にフレーク状顔料を付着させた樹脂粉末を使用するボンデッド法などが知られている(特開昭51−137725号公報(特許文献1)、特開平09−071734号公報(特許文献2)、特開昭50−034642号公報(特許文献3)、国際公開第2002/094950号パンフレット(特許文献4)など)。
【0005】
メルトブレンド法においては、混練工程やその後の粉砕などによる樹脂粉末粒度調整工程でフレーク状顔料の変形が生じやすく、塗装後良好なメタリック感が得られない。さらに、フレーク状顔料がアルミニウムフレークの場合には粉砕工程において、アルミニウムの活性な表面が露出し、発火、粉塵爆発などの危険性が高くなる。
【0006】
ドライブレンド法では、フレーク状顔料の変形は比較的生じ難いが、塗装時に顔料を帯電させる必要があるため、アルミニウムフレークなどの金属顔料を用いる場合にはあらかじめ表面に樹脂などをコーティングしておかねばならない。樹脂コートなどの被覆がされていないと、特にコロナ方式での静電塗装において、印加した電圧がリークして電圧低下を発生させたり、電極近傍でスパークを発生させることがあり、特に後者は粉塵爆発の着火源となる可能性があることから、実質的には被覆されていない金属顔料(フレーク状顔料)のドライブレンド法による塗装は、不可能と考えてよい。また、金属顔料の表面が樹脂コートされたフレーク状顔料の場合であっても、フレーク状顔料と樹脂粉末の帯電率が異なるため、塗装時に樹脂粉末とフレーク状顔料の分離現象が生じる。これにより塗膜の意匠性が低下するとともに、粉体塗料の塗布前後での顔料含有率が変化するため塗料を回収して再使用すると色調が変化してしまい、塗料のリサイクルが事実上不可能になる。また、塗装中に樹脂粉末とフレーク状顔料の偏在が生じ、色ムラが発生し易い。
【0007】
以上の二法に対して、樹脂粉末とフレーク状顔料が理想的な形態で結合したボンデッド構造が実現できれば、前述の問題点を全て解消することができるので、フレーク状顔料を含有する粉体塗料の形態としてはボンデッド法が最も優れている。しかし、どのようにしてボンデッド構造を形成させるかが問題となる。ボンデッド構造を形成させる方法としては、ブラシポリッシャーによりフレーク状顔料を樹脂粉末表面に付着させる方法や、フレーク状顔料で被覆されたアルミナボールなどの分散メディアに樹脂粉末を接触させて、樹脂粉末の表面にフレーク状顔料を転写し結合させる方法や、樹脂粉末とフレーク状顔料とを該樹脂粉末の融点前後の温度をかけながら三次元回転式ミキサーなどで分散させ、樹脂粉末とフレーク状顔料とを熱融着させる方法や、結合剤を用いてフレーク状顔料を樹脂粉末表面に付着させる方法などが知られている。特に結合剤を用いる方法は、フレーク状顔料と樹脂粉末との結合率が高く、さらにその製造工程においてフレーク状顔料と樹脂粉末との凝集塊を生成し難いという特長を有しており、特に優れた形成方法であると考えられる(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭51−137725号公報
【特許文献2】特開平09−071734号公報
【特許文献3】特開昭50−034642号公報
【特許文献4】国際公開第2002/094950号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
フレーク状顔料を用いてメッキ調のメタリック色を発色させるためには、フレーク状顔料として平均粒径が10μm以下の微細粒であるか、または平均厚みが60nm以下の非常に薄いフレーク状顔料を用いる必要がある。しかし、ドライブレンド法でメッキ調のメタリック色の塗装を行なおうとすれば、上記したドライブレンド法の問題から、フレーク状顔料に金属顔料を用いた場合、フレーク状顔料の表面を樹脂で被覆する必要がある。
【0010】
しかしながら、フレーク状顔料の表面を樹脂で被覆すると、メッキ調の鮮映性のある色調が得られなくなる傾向を示す場合が多い。特に、フレーク状顔料100gあたり5g以上の樹脂で被覆する場合にこの傾向は顕著となり、被覆された樹脂皮膜の乱反射により、たとえ反射率は高くてもメッキ調のような鮮映性のある色調は得られなくなってしまう。なお、ここでいう鮮映性とは、塗膜の反射により観察される反射像(鏡映像)がはっきりと視認できる程度の視認効果を意味する。
【0011】
よって、上記したドライブレンド法の問題を考え合わせると、メッキ調のメタリック色を発色させるのに適した上記のような特定形状のフレーク状顔料をドライブレンド法で塗装することは、実質的に不可能である。すなわち、ドライブレンド法によってメッキ調のメタリック色を発現させることはできない。
【0012】
他方、ボンデッド法でメッキ調のメタリック色の粉体塗料組成物を得ようとすれば、一旦フレーク状顔料を乾燥状態の粉末とする必要がある。このような状態とする際にフレーク状顔料が凝集してしまい、これにより所望のボンデッド構造を得ることができなくなってしまう。また、この凝集物を再粉砕する場合、金属微粉末を扱う危険性を伴い、さらにフレーク形状が変形することから色調の低下を伴う。また、たとえ工夫を重ねることにより凝集させずに乾燥させることができたとしても、そのフレーク状顔料の乾燥粉末は、粉塵になり易く、操作性が悪く、さらに粉塵爆発の危険性がある。よってボンデッド法でも所望のメッキ調のメタリック色の粉体塗料組成物は製造できない。
【0013】
このようにメッキ調のメタリック色を発色させるのに適した形状を有するフレーク状顔料を含んだ粉体塗料組成物を好適に製造できる方法は、未だ知られていない状況にある。
【0014】
本発明は、このような状況に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、メッキ調のメタリック色を発色させるのに適するような特定形状を有するフレーク状顔料を含んだ粉体塗料組成物を好適に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記のような課題を解決するために鋭意検討を重ねたところ、メッキ調のメタリック色を発色させるのに適した形状を有するフレーク状顔料が乾燥時に極めて凝集し易いという特性を有している点に着目し、逆にこの特性を利用して樹脂粉末の表面にフレーク状顔料を結合させられるのではないかという知見を得た。そして、さらにこの知見に基づき鋭意研究を重ねた結果、樹脂粉末を溶解しない揮発性溶媒にフレーク状顔料を分散させ、その分散液を樹脂粉末と混合し、撹拌しながら当該溶媒を揮発除去させることで好適な粉体塗料組成物を製造できることを見出し、ついに本発明を完成させるに至ったものである。
【0016】
すなわち、本発明は、フレーク状顔料がその表面に結合した熱硬化性樹脂粉末を含む粉体塗料組成物の製造方法であって、10μm以下の平均粒径または60nm以下の平均厚みを有するフレーク状顔料を準備する第1工程と、該熱硬化性樹脂粉末を溶解しない溶媒に上記フレーク状顔料を分散させることにより分散液を得る第2工程と、該熱硬化性樹脂粉末と上記分散液とを混合することにより混合物を得る第3工程と、上記混合物を撹拌しながら上記溶媒を揮発させて除去する第4工程と、を含むことを特徴としている。
【0017】
ここで、上記第4工程は、上記混合物を−5℃〜50℃の範囲で撹拌することが好ましく、上記第3工程と上記第4工程は、同時に実施されることとすることもできる。また、上記第1工程は、フレーク状顔料が有機溶剤中に分散されたペースト状態でフレーク状顔料を準備することが好ましい。
【0018】
また、上記熱硬化性樹脂粉末を溶解しない上記溶媒は、大気圧下での沸点が28〜130℃の範囲にあることが好ましく、上記フレーク状顔料は、アルミニウムフレークであることが好ましい。
【0019】
さらに本発明は、上記のいずれかの製造方法によって得られる粉体塗料組成物にも関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の粉体塗料組成物の製造方法は、上記の通りの構成を有することにより、フレーク状顔料の凝集を防止しつつ、粉体塗料組成物として要求される特性(たとえばリサイクル性に優れ、危険が少なく、色ムラを発生し難く、塗膜にメタリック感、光輝感、輝度などを与えることができるという特性)を備えた粉体塗料組成物を提供することができる。そして、特にフレーク状顔料としてアルミニウムフレーク等の金属顔料を用いた場合、製造される粉体塗料組成物は優れたメッキ調のメタリック色を与えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<粉体塗料組成物>
本発明は、粉体塗料組成物の製造方法に関するものである。本発明の製造方法により製造される粉体塗料組成物は、特定の形状を有するフレーク状顔料がその表面に結合した熱硬化性樹脂粉末を含む。本発明の粉体塗料組成物は、このようなフレーク状顔料がその表面に結合した熱硬化性樹脂粉末を含む限り、他の成分が含まれていても差し支えない。このような他の成分としては、たとえばこの種の粉体塗料組成物に添加される各種の添加剤を挙げることができる。
【0022】
ここで、「フレーク状顔料がその表面に結合した熱硬化性樹脂粉末」とは、典型的には1つの熱硬化性樹脂粉末の表面に複数のフレーク状顔料が結合した形態をいい、従来例に見られるようなフレーク状顔料の表面に複数の熱硬化性樹脂粉末が結合した形態のものとは明確に区別されるものである。ただし、複数の熱硬化性樹脂粉末同士が結合したものや、1つのフレーク状顔料のみが表面に結合した熱硬化性樹脂粉末が含まれていても、本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0023】
このような本発明の粉体塗料組成物において、特定の形状を有するフレーク状顔料としてアルミニウムフレークのような金属顔料が含まれる場合、当該粉体塗料組成物は特に優れたメッキ調のメタリック色を発色させるものとなる。
【0024】
<フレーク状顔料>
本発明の粉体塗料組成物に含まれるフレーク状顔料は、10μm以下の平均粒径または60nm以下の平均厚みを有するものである。このような形状を有するフレーク状顔料は、個々のフレーク状顔料を粉末状態で得ようとする場合極めて凝集しやすいという特性を有することから、従来粉体塗料組成物とすることが困難であったものである。
【0025】
このような形状を有するフレーク状顔料が、金属顔料である場合、メッキ調のメタリック色を発色させるのに特に適したものとなる。このような金属顔料としては、たとえばアルミニウム、亜鉛、銅、ブロンズ、ニッケル、チタン、ステンレスなどの金属フレークおよびそれらの合金フレークを挙げることができる。これらの金属顔料の中でもアルミニウムフレークは金属光沢に優れ、安価であるとともに比重が小さいため扱いやすく、特に好適である。
【0026】
メッキ調のメタリック色を発色させるのに適したフレーク状顔料は、上述のように平均粒径が10μm以下であることが好ましく、さらに8μm以下であることが好ましい。平均粒径の下限は特に限定されないが、製造上の諸条件から通常その下限は2μm以上である。また、平均厚みは60nm以下であることが好ましく、さらに40nm以下であることが好ましい。平均厚みの下限は特に限定されないが、製造上の諸条件から通常その下限は15nm以上である。
【0027】
上記のような平均粒径および平均厚みという2つの条件は、いずれか一方が満足されていればメッキ調のメタリック色を発現させることができる。平均粒径が10μmを超え、かつ平均厚みが60nmを超える場合は、メッキ調のメタリック色を発現させることができなくなるとともに、乾燥に伴うフレーク状顔料同士の凝集性が低下し、熱硬化性樹脂粉末と結合しないフレーク状顔料の比率が高くなる。また、従来のボンデッド法を利用してこのような本発明の規定外のフレーク状顔料と熱硬化性樹脂粉末とを結合させても、それにより得られる塗膜の鮮映性は低く、メッキ調のメタリック色を発現することはできない。
【0028】
本発明において、上記の金属顔料からなるフレーク状顔料は、表面に樹脂などを被覆したものであってもよい。ただし、その被覆量はフレーク状顔料100gあたり5g以下であることが好ましい。この被覆量が5gを超えると、たとえ上記のような平均粒径または平均厚みを有していてもメッキ調のメタリック色を発現しない傾向にあるため好ましくない。このように樹脂などで表面を被覆したフレーク状顔料(金属顔料)は、コロナ粉体塗装の際に高電圧のかかった電極との間でスパークするなどの危険を回避できるため好ましい。
【0029】
また、上記のような金属顔料としてボールミル等で磨砕された金属顔料を用いる場合、そのような金属顔料の表面には、磨砕時に添加する磨砕助剤が吸着していてもよい。このような磨砕助剤としては、たとえば脂肪酸(オレイン酸、ステアリン酸)、脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族アルコール、エステル化合物などが挙げられる。これらの磨砕助剤は、金属顔料がアルミニウムフレークである場合、アルミニウムフレーク表面の不必要な酸化を抑制し、光沢を改善する効果を有する。このような磨砕助剤の吸着量は、金属顔料100質量部に対し2質量部未満であることが好ましい。2質量部以上の場合は、表面光沢が低下するおそれがある。
【0030】
本発明においては、特にステアリン酸を磨砕助剤として使用したものが推奨される。フレーク状顔料(金属顔料)としてアルミニウムフレークを用いる場合、ステアリン酸が表面に吸着したアルミニウムフレークは、別名リーフィングアルミとも呼ばれ、塗膜形成時に空気相との界面に浮き易い性質を有し、メッキ調のメタリック色の発現に特に好適である。
【0031】
一方、本発明においては、フレーク状顔料として、上記のような金属顔料以外に金属等を基材表面に蒸着した後にその基材から剥離することによりフレーク片を得る蒸着法により製造されたフレーク状顔料も好適に使用できる。この場合、非常に薄いフレーク状顔料が得られる。
【0032】
さらに、本発明に用いるフレーク状顔料としては、たとえばマイカ、表面着色マイカ、ガラスフレーク、表面着色ガラスフレーク、パールなどを挙げることができる。
【0033】
本発明のフレーク状顔料は、上記に例示したものを各単独で用いることができるとともに、2種以上のものを併用することもできる。
【0034】
なお、本発明のフレーク状顔料の平均粒径は、レーザー回折法、マイクロメッシュシーブ法、コールターカウンター法などの公知の粒度分布測定法により測定された粒度分布より体積平均を算出して求められる。また、平均厚みの測定については、フレーク状顔料の製造方法の相違により異なった方法が採用される。ボールミル等により磨砕されたフレーク状顔料の場合には、通常、平均厚みは比較的大きいので、フレーク状顔料を構成する金属材料の密度と水面拡散被覆面積とから算出して求めることができる。一方、蒸着法により製造されたフレーク状顔料の場合には、厚みが非常に薄いので原子間力顕微鏡を用いて直接計測する。前者は、フレーク状顔料1枚ごとの厚みはわからないが全体としての平均厚みの精度は高く、測定も簡便である。しかし、この前者の方法は、厚みが非常に薄いフレーク状顔料に対しては、フレーク状顔料が凝集してしまうので採用できない。後者は、非常に薄い膜厚でも精度よく測定することが可能であるが、測定値はフレーク状顔料1枚ごとのデータとなるので、全体を代表する平均とするためには少なくとも10枚以上は測定しなければならず、測定は簡便とは言えない。
【0035】
以下に、フレーク状顔料としてアルミニウムフレークの場合の平均厚みの測定方法を詳細に述べる。
【0036】
まず、上記測定方法のうち前者の測定方法の場合、アルミニウムフレークを含んだアルミニウムペーストまたは粉体状のアルミニウムフレークを、アセトンで洗浄後、乾燥させたアルミニウムフレークの質量w(g)を測定するとともに、そのアルミニウムフレークを水面に均一に浮かべたときの水面の被覆面積A(cm2)を測定し、下記式1より、WCA(水面拡散被覆面積)を算出する。次いで、そのように算出されたWCA値を下記式2に代入して、アルミニウムフレーク粒子の平均厚みを算出する。
【0037】
WCA(cm2/g)=A(cm2)/w(g) ・・・式1
平均厚み(μm)=104/(2.5(g/cm3)×WCA)・・・式2
一方、上記測定方法のうち後者の測定方法の場合、上記同様に洗浄後乾燥したアルミニウムフレークをガラス板状に均一に分散させ、プローブ顕微鏡(セイコーインスツルメンツ(株)製、ナノピクス(Nanopics)1000)にて、任意のアルミニウムフレーク粒子10個について各々の厚さを測定し、その平均値を平均厚みとする。
【0038】
本発明において、平均厚みが60nm以下のフレーク状顔料を使用する場合には、後者の原子間力顕微鏡を用いて厚みを直接計測する方法を採用するのが好ましい。
【0039】
また、このようなフレーク状顔料は、熱硬化性樹脂粉末100質量部あたり通常0.05〜5質量部程度、より好ましくは0.1〜3質量部となる配合割合で用いることができる。フレーク状顔料が0.05質量部未満では十分なメタリック感および光輝感が得られないおそれがあるとともに、基材を隠蔽するために塗装厚を厚くする必要がある。5質量部を超える場合には、メッキ調の鮮映性が失われ白くぼけた色調になるとともに、塗膜の平滑性が失われ、外観が悪化する傾向を示す。
【0040】
<熱硬化性樹脂粉末>
本発明で用いられる熱硬化性樹脂粉末は、この種の粉体塗料組成物の粉体塗料樹脂として知られるものであればいずれのものも用いることができる。このため、本発明における「熱硬化性樹脂粉末」とは、熱可塑性樹脂に硬化剤や架橋剤等を配合することにより熱の適用下に硬化する特性を備えた熱可塑性樹脂の複合粉末をも意味するものである。
【0041】
このような熱硬化性樹脂粉末としては、たとえばアクリル樹脂系とポリエステル樹脂系の樹脂を特に好適なものとして挙げることができる。上記のポリエステル樹脂系のものとしては、たとえばエポキシ樹脂で硬化させるもの、イソシアネートで硬化させるもの(ウレタン系)、プリミドで硬化させるもの(プリミド系)などを挙げることができる。本発明においては、熱硬化性樹脂粉末として、上記で例示したような各樹脂を各単独で用いることができるとともに、2種以上のものを併用することもできる。
【0042】
本発明の熱硬化性樹脂粉末には、硬化剤(架橋剤)が含まれる。硬化剤としては特に限定されず、公知のものまたは市販品を使用することができ、たとえばアミン、ポリアミド、ジシアンジアミド類、イミダゾール類、カルボン酸ジヒドラジド、酸無水物、ポリスルフィド、三フッ化ホウ素、アミノ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、トリスエポキシプロピルイソシアヌレート、プリミド、エポキシ樹脂、その他の二塩基酸類、イミダゾリン類、ヒドラジド類、イソシアネート化合物などを挙げることができる。また適宜硬化促進剤を併用することもできる。また、分散剤などを添加してもよい。このような分散剤としては特に限定されず、公知のものまたは市販品を使用することができ、たとえばリン酸エステル類、アミン類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類などの公知の界面活性剤などを挙げることができる。
【0043】
また、本発明の熱硬化性樹脂粉末は、各種の着色剤を含むこともできる。このような着色剤としては、たとえばキナクリドン、ジケトピロロピロール、イソインドリノン、インダンスロン、ペリレン、ペリノン、アントラキノン、ジオキサジン、ベンゾイミダゾロン、トリフェニルメタンキノフタロン、アントラピリミジン、黄鉛、フタロシアニン、ハロゲン化フタロシアニン、アゾ顔料(アゾメチン金属錯体、縮合アゾなど)、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、銅フタロシアニン、縮合多環類顔料などを挙げることができる。これらの着色剤の配合量はその種類によって異なるが、本発明のフレーク状顔料によってもたらされる効果を害することがなく、かつ塗膜表面の平滑性が損なわれない範囲に設定することが望ましい。
【0044】
本発明の熱硬化性樹脂粉末は、上記に挙げた各種の添加成分の他、必要に応じ次のような添加剤を含むこともできる。そのような添加剤としては、たとえばベントナイト、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルクなどの各種充填剤、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウムなどの各種流動性調整剤、アクリルオリゴマー、シリコーンなどの各種流展剤、ベンゾインなどの各種発泡防止剤、ワックス類、カップリング剤、酸化防止剤、磁性粉、安定剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、増粘剤、沈降防止剤などを挙げることができる。このように本発明の熱硬化性樹脂粉末は、上記のような各種添加剤および各種機能性材料を含むことができる。
【0045】
このような熱硬化性樹脂粉末の平均粒径は特に限定されないが、通常5〜100μm程度が好ましく、特に好ましくは15〜60μmである。平均粒径が5μm未満では、フレーク状顔料と均一に混合することが困難になるとともに、熱硬化性樹脂粉末同士が凝集する傾向が高くなり粉体塗装の際に均一に粉塵化できない場合がある。また、平均粒径が100μmを超える場合には、塗膜表面の平滑性が阻害され、良好な外観が得られない場合がある。なお、このような平均粒径は、レーザー回折法、マイクロメッシュシーブ法、コールターカウンター法などの公知の粒度分布測定法により求めることができる。
【0046】
このような熱硬化性樹脂粉末を製造するには、たとえば、樹脂、硬化剤、および必要に応じて添加する充填剤などの各種添加剤を原材料として準備し、これらの原材料をまずミキサーやブレンダーなどの混合機を用いてドライブレンドする。ドライブレンド後、ニーダーにより原材料を溶融混練し、冷却する。次に、機械または気流式の粉砕機を用いて冷却された溶融混練物を粉砕し、その後、気流式分級機を用いて分級することにより、本発明の熱硬化性樹脂粉末を得ることができる。この方法以外にも、たとえばスプレードライ法や重合法によっても熱硬化性樹脂粉末を製造することができる。
【0047】
<粉体塗料組成物の製造方法>
本発明の粉体塗料組成物の製造方法は、10μm以下の平均粒径または60nm以下の平均厚みを有するフレーク状顔料を準備する第1工程と、該熱硬化性樹脂粉末を溶解しない溶媒に上記フレーク状顔料を分散させることにより分散液を得る第2工程と、該熱硬化性樹脂粉末と上記分散液とを混合することにより混合物を得る第3工程と、上記混合物を撹拌しながら上記溶媒を揮発させて除去する第4工程と、を含むことを特徴とする。以下、各工程について説明する。
【0048】
なお、本発明の粉体塗料組成物の製造方法は、上記の第1工程〜第4工程を含む限り、他の工程を含んでいても差し支えない。
【0049】
<第1工程>
本発明の第1工程は、10μm以下の平均粒径または60nm以下の平均厚みを有するフレーク状顔料を準備する工程である。
【0050】
アルミニウムフレークに代表されるフレーク状顔料は、工業製品としては乾燥した粉末として取り扱われることは少なく、一般的にはフレーク状顔料が有機溶剤中に分散されたペースト状態で取り扱われることが多い。このため、本発明の第1工程は、フレーク状顔料が有機溶剤中に分散されたペースト状態でフレーク状顔料を準備することが好ましい。しかし、これのみに限られるものではなく、フレーク状顔料が凝集しない限りフレーク状顔料を粉末状として準備することもできる。
【0051】
フレーク状顔料をペースト状態で準備する場合、後述の第2工程においては、このようなペースト状態のフレーク状顔料をそのまま使用することもできる。しかし、このようなペースト状態のフレーク状顔料は、有機溶剤としてミネラルスピリット、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソパラフィン等を用いてペースト状態とされており、このような有機溶剤は、イソパラフィンを除き通常本発明において用いられる熱硬化性樹脂粉末を溶解乃至膨潤してしまう。したがって、フレーク状顔料をペースト状態で準備する場合は、後述の第2工程を実行する前に、当該有機溶剤の影響を低減させるためにこのような有機溶剤を第2工程で用いられる溶媒で置換させることが好ましい。
【0052】
このような溶媒の置換方法としては、たとえば濾過装置を用いてそのような有機溶剤とフレーク顔料とを含むペースト(すなわち市販のペースト状態のフレーク状顔料)を、第2工程で用いられる溶媒で洗浄する方法や、そのようなペーストを第2工程で用いる溶媒に分散させた後、濾過もしくは遠心分離を行なうことにより第2工程で用いる溶媒に分散させた状態でフレーク状顔料を回収する方法などを挙げることができる。本発明の第1工程は、このような溶媒の置換工程をも含むものとする。
【0053】
<第2工程>
本発明の第2工程は、上記の第1工程で準備されたフレーク状顔料を、本発明で用いる熱硬化性樹脂粉末を溶解しない溶媒に分散させることにより分散液を得る工程である。
【0054】
本第2工程で用いられる溶媒は、本発明で用いる熱硬化性樹脂粉末を溶解しないという特性を有する限り、特に限定されるものではない。ここで、「熱硬化性樹脂粉末を溶解しない」とは、熱硬化性樹脂粉末を溶解したり、膨潤させたりする性質を有していないことを意味し、この特性を数値で規定することは困難であるが、通常ソルビリティーパラメータが8.2以下であればこのような特性を示す。
【0055】
そして、熱硬化性樹脂粉末を溶解しない溶媒は、低い沸点を有していることが好ましい。通常、粉体塗料用の熱硬化性樹脂粉体は50℃〜80℃で溶融するので、この溶融温度未満で留去できるような低い沸点を有していることが好ましい。そして、後述の第4工程は、真空下、−5℃〜50℃の範囲、より好ましくは0℃〜30℃の範囲の温度で実行されるため、当該溶媒をこれらの温度範囲で完全に揮発させて除去できることが特に望まれる。
【0056】
上記のような条件に合致する溶媒としては、大気圧下での沸点が特定の範囲にある溶媒であることが好ましい。すなわち、この沸点は、28℃以上であることが好ましく、特に60℃以上であることが好ましい。また、この沸点は、130℃以下であることが好ましく、特に110℃以下であることが好ましい。
【0057】
この溶媒の沸点が130℃を超えると、真空下でも50℃を超える温度でなければ揮発させることが困難となり、熱硬化性樹脂粉末同士のブロッキングが生じる傾向がある。逆に、この沸点が28℃未満の場合には、溶媒の引火点も低下するので安全性の点で問題を生じる傾向がある。
【0058】
このような溶媒としては、たとえば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの直鎖アルカン類、イソペンタン、イソヘキサン、イソヘプタン、イソオクタンなどのイソパラフィン類等が挙げられる。
【0059】
本第2工程で得られる分散液中におけるフレーク状顔料の濃度は、1〜35質量%が好ましいが、この値は次の第3工程および第4工程における適切な溶媒使用量に連動して必然的に規定される。所望のメッキ調の発色をさせるために、最終製品である粉体塗料組成物に含まれるフレーク状顔料の種類と、そのフレーク状顔料と熱硬化性樹脂粉末との比率が決定される。たとえば、あるフレーク状顔料と熱硬化性樹脂粉末との組み合わせにおいて、最適のフレーク状顔料濃度が、熱硬化性樹脂粉末100gに対してフレーク状顔料1gであると仮定する。そしてこの場合、第3工程および第4工程における溶媒の適切な含有量範囲については後述するが、便宜上、その固形分濃度が91%になると仮定する。
固形分濃度(%)=(熱硬化性樹脂粉末質量+フレーク状顔料質量)/(熱硬化性樹脂粉末質量+フレーク状顔料質量+溶媒質量)×100
すると、上記関係式より熱硬化性樹脂粉末100gに対しフレーク状顔料1g、溶媒10gを混合すれば良いことになる。すなわち、第2工程で調製する分散液は、フレーク状顔料1gに対し溶媒10gの比率に規定され、このため当該フレーク状顔料の濃度は9.1%になる。仮に、第1工程で準備したフレーク状顔料がペースト状態であり、そのペーストにおけるフレーク状顔料濃度が50%であると仮定すると、このペースト2gに対し溶媒9gの比率で分散液を調製すればよいことになる。
【0060】
<第3工程>
本発明の第3工程は、上記の第2工程で得られた分散液と熱硬化性樹脂粉末とを混合することにより混合物を得る工程である。この工程は、より具体的には、熱硬化性樹脂粉末に上記で得られた分散液を添加し混練することにより混合物を得る工程とすることが好ましい。そして、当該混合物は、熱硬化性樹脂粉末と分散液との均一混合物であることが好ましい。
【0061】
ここで、上記分散液の添加は一度に添加してもよいし、複数回に分けて添加してもよい。かかる添加の方法も特に限定されるものではないが、工業的生産においては熱硬化性樹脂粉末に対して、該粉末を撹拌しながら上記分散液を噴霧添加することが好ましい。これにより、上記分散液と熱硬化性樹脂粉末とを均一に混合させることができるからである。このような第3工程は、大気圧下で実行することが好ましい。
【0062】
なお、上記分散液中に熱硬化性樹脂粉末を添加すると、始めに分散液が混合撹拌槽内壁に付着し、撹拌翼と内壁間にはクリアランスが存在するので、分散液の均一混合撹拌が困難になり好ましくない。
【0063】
ここで、当該混合物の固形分濃度は、50〜98質量%とすることが好ましく、特に70〜95質量%とすることがより好ましい。固形分濃度が98質量%を超える場合、フレーク状顔料と熱硬化性樹脂粉末との均一混合が困難となる場合がある。また、固形分濃度が50%未満の場合、後述の第4工程における溶媒の揮発除去に多大な時間とエネルギーが必要となる。
【0064】
このような第3工程において混合に用いることができる装置としては、たとえば逆円錐型リボン式混合撹拌装置、常圧ニーダーミキサー、2軸スクリュー型混練機、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサーなどの高速ミキサー、ブレンダーなどを用いることができる。
【0065】
<第4工程>
本発明の第4工程は、上記の第3工程で得られた混合物を撹拌しながら上記溶媒を揮発させて除去する工程である。ここで、「撹拌」とは、たとえば「混練」等の行為をも含む広い概念の用語として理解すべきである。
【0066】
この第4工程において、当該溶媒が揮発し全体が粉体化するまで撹拌を継続し、当該溶媒が完全に除去された後、スクリーンを用いて分級することにより本発明の粉体塗料組成物を得ることができる。このように、当該混合物を撹拌しながら当該溶媒を揮発させて除去することにより、フレーク状顔料が熱硬化性樹脂粉末上に凝集し、以ってフレーク状顔料が表面に結合した熱硬化性樹脂粉末が得られる。この場合、熱硬化性樹脂粉末同士がブロッキングしない理由は次のように考えられる。
【0067】
すなわち、熱硬化性樹脂粉末自体は、上記した平均粒径から自己凝集性は無い。さらに、その形状はガラスを粉砕したような不定形であり、このため熱硬化性樹脂粉末同士の接触は、点接触もしくは線接触となる。したがって、熱硬化性樹脂粉末同士がブロッキングしないのは、溶媒除去中も混合撹拌を継続しているためであり、熱硬化性樹脂粉末同士の点接触や線接触による結合は撹拌等による外部からの物理的な力によりすぐに剥離してしまうためである。
【0068】
なお、これに対しフレーク状顔料と熱硬化性樹脂粉末との接触は、面接触であり凝集効果が発現し易いために、熱硬化性樹脂粉末上にフレーク状顔料が結合するものと考えられる。このようなフレーク状顔料と熱硬化性樹脂粉末との結合の態様は、その詳細は不明であるが、恐らくファンデルワールス結合であると考えられる。
【0069】
ここで、このような第4工程は、真空吸引しながら溶媒を揮発させて除去することが好ましい。また、この第4工程は、上記の混合物を−5℃〜50℃の範囲で撹拌することが好ましい。特に0℃以上の温度に上記混合物を保持することがより好ましく、35℃以下の温度に上記混合物を保持することがより好ましい。当該温度が50℃を超えると熱硬化性樹脂粉末同士の結合が促進されブロッキングする可能性がある。この場合、ジェットミルなどの物理的粉砕方法で凝集粒子(ブロッキングした粒子)を解砕することも可能であるが、その作業に伴いフレーク状顔料が熱硬化性樹脂粉末の表面から剥離し、延いては熱硬化性樹脂粉末粒子自体の破壊を引き起こす可能性がある。また、上記温度が−5℃未満であると、溶媒の揮発に長時間を必要とするため実用的ではない。すなわち、本発明の第4工程は、熱硬化性樹脂粉末同士がブロッキングを生じない温度(すなわち熱硬化性樹脂粉末の溶融温度以下の温度)であって、上記溶媒の揮発が効率的に行なわれる温度で実行することが好ましい。
【0070】
なお、本発明においては、上記第3工程と第4工程とを逆円錐型リボン式混合撹拌装置や真空ニーダーミキサーなどの同一装置内で連続的に行なうことも可能である。また、上記第3工程とこの第4工程とを、同時に実施すること、すなわち熱硬化性樹脂粉末と上記分散液とを撹拌下混合しながら、同時にその混合物から順次溶媒を揮発させて除去することも可能である。しかしながら、第3工程と第4工程とは分離して独立した工程として行なう方が、生産性を向上できるため好ましい。
【0071】
このような第4工程において撹拌に用いることができる装置としては、上記の第3工程において用いた装置をそのまま使用することができ、いずれの装置を用いる場合であっても上記の第3工程終了後において引き続き撹拌を継続させるとともに好ましくは真空吸引を行なうことにより、溶媒を揮発させて除去することができる。
【0072】
また、上記の第3工程終了後において、一旦当該混合物を装置から取り出した後に、振動乾燥機や連続式流動乾燥機などの乾燥機にその混合物を再度投入することにより、当該第4工程を実行することもできる。
【0073】
<用途等>
本発明は、上記のような製造方法によって得られる粉体塗料組成物にも関する。このような粉体塗料組成物を塗装する方法としては、あらかじめ塗装表面をブラスト処理後、化成処理などの公知の処理を施した被塗装材(基材)に粉体塗料組成物を付着させ、その後加熱硬化させることが好ましい。
【0074】
被塗装材としては特に制限されないが、加熱硬化(焼付け)により変形や変質などが発生しないものが好ましい。たとえば、公知の鉄、銅、アルミニウム、チタンなどの金属および各種合金などが好ましいものとして挙げられる。具体的な形態としては、たとえば車体、事務用品、家庭用品、スポーツ用品、建築材料、電気製品などに利用することができる。
【0075】
本発明の粉体塗料組成物を基材表面に付着させる方法としては、たとえば流動浸漬法、静電粉体塗装法などが適用できるが、静電粉体塗装法が塗着効率に優れるため、より好ましい。静電粉体塗装法としては、たとえばコロナ放電方式、摩擦帯電方式などの公知の方法を用いることができる。
【0076】
上記加熱硬化させる温度としては、用いる熱硬化性樹脂粉末の種類に応じて適宜設定できるが、通常は120℃以上、好ましくは150〜230℃とすればよい。加熱時間は加熱温度に応じて適宜選択することができるが、一般的には1分間以上、好ましくは5〜30分間とすればよい。加熱により形成された塗膜の厚みは、限定的ではないが、通常20〜100μm程度である。
【0077】
本発明においては、塗膜のメッキ調メタリック色の発現は、グロス(光沢)で評価することができる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明の実施例および比較例を示し、本発明の特徴を一層明確にする。ただし、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0079】
まず、実施例および比較例の試料、評価方法、および使用機材について説明する。
<フレーク状顔料含有ペーストの加熱残分測定方法>
フレーク状顔料がペースト状態で準備される場合(以下、このようなペーストを「フレーク状顔料含有ペースト」と記す)、そのフレーク状顔料含有ペーストに含まれるフレーク状顔料の比率は、加熱残分として測定した数値を用いた。
【0080】
まず、円筒形金属容器(底部40mmφ、高さ50mm)をあらかじめ精秤しておく。次に、その円筒形金属容器に試料であるフレーク状顔料含有ペースト約5gを採取し、採取量を精秤する。次いで、その円筒形金属容器にミネラルスピリット約20mlをさらに添加し、フレーク状顔料を分散させた後、300℃のサンドバスに該円筒形金属容器を乗せ溶媒を完全に蒸発させる(約20分)。その後、室温まで冷却した後、該円筒形金属容器の質量を再度測定し、以下の式から加熱残分を測定した。
【0081】
加熱残分(%)=(加熱後の円筒形金属容器質量−円筒形金属容器質量)/試料質量×100
<平均粒径(D50)の測定方法>
溶媒としてエタノール系溶媒(株式会社ゴードー製GSアルコ EP−7)を使用し、Honeywell社製Microtrac 9320 X−200を用いて平均粒径(D50)を測定した。なお、試料がフレーク状顔料含有ペーストの場合は、試料約0.5gをトルエンに分散させ、その分散液を測定槽(上記のエタノール系溶媒を充填)に滴下し、超音波で分散(40W30秒)した後に平均粒径(D50)を測定した。また、試料が粉体状態の場合は、試料約0.5gを上記のエタノール系溶媒に分散させ、平均粒径(D50)を測定した。
【0082】
<熱硬化性樹脂粉末>
本発明の実施例および比較例で使用した熱硬化性樹脂粉末は、ポリエステル系樹脂粉末(久保孝ペイント株式会社製Teodur PE 785−900クリア)である。
【0083】
<熱硬化性樹脂粉末とフレーク状顔料との結合状態の評価方法>
フレーク状顔料がその表面に結合した熱硬化性樹脂粉末は「ボンデッド」と呼称されるが、熱硬化性樹脂粉末とフレーク状顔料との結合率に関しては従来あまり議論がされていなかった。この結合率は、概念的に結合率0%がドライブレンド、結合率100%が理想的なボンデッドと表現できる。実際の工業製品の場合、熱硬化性樹脂粉末と結合していない遊離のフレーク状顔料が全く存在しないということはあり得ない。すなわちドライブレンドとボンデッドの間には結合率による明確な境界は存在しない。しかし、この結合率が低下してくると前述したドライブレンド法の問題点が発現し、特にメッキ調のメタリック色を発色させるのに適したフレーク状顔料として金属顔料を用いた場合、静電塗装に危険性を伴ってくる。そこで、ボンディング操作を行なった試料についても、その結合状態を確認し、その上で静電塗装する必要がある。
【0084】
そこで、熱硬化性樹脂粉末とフレーク状顔料との結合状態を表わす指標として、熱硬化性樹脂粉末とフレーク状顔料との結合率を以下のようにして測定した。すなわち、本測定方法は、「フレーク状」と「粒子状」という形状の違いを利用したものである。つまり、フレーク状顔料がその表面に結合した熱硬化性樹脂粉末を「粒子状」とみなし、遊離のフレーク状顔料を「フレーク状」とみなすことを前提とするものである。そして、これら両者の形状の違いに由来する特性、すなわち紙面に対する付着率の違いを利用することにより、結合率を近似的に測定するものである。
【0085】
より具体的には、以下のような仮定に基づく測定方法である。すなわち、紙面(平面)と「粒子状」物体の接触は点接触とみなし、かつ「粒子状」物体が十分な質量を有しているため、振動を与えた場合にはその紙面から「粒子状」物体は容易に剥離すると仮定する。一方、「フレーク状」物体はフレーク状であるが故、紙面とは面接触し、しかも体積が小さく質量も小さいため、振動を与えた後にも紙面に付着すると仮定する。
【0086】
実際には、黒色アート紙の紙面上に試料を均一に広げた後、黒色アート紙に振動を与え、試料をふるい落とす操作をする。これにより、「フレーク状」物体と「粒子状」物体とを分離することができる。すなわち、「フレーク状」物体は紙面に付着したまま紙面上に残存し、「粒子状」物体は紙面から剥離することになるため、両者は分離される。
【0087】
したがって、フレーク状顔料としてアルミニウムフレークを使用した場合には、黒色アート紙上に付着した「フレーク状」物体であるフレーク状顔料はシルバーの色彩を有するので、その色彩を観察すれば付着状態を目視観察で簡単に確認することができる。換言すれば、シルバーの色彩が強いものほど黒色アート紙上に付着したフレーク状顔料の量が多く、すなわち上記結合率が低いことになる。逆に、黒色アート紙に付着したフレーク状顔料が少ないほど(シルバーの色彩が弱いものほど)上記結合率は高いと評価できる。
【0088】
すなわち、黒色アート紙に付着したフレーク状顔料がほとんど存在しなければ、結合状態良好(表1における評価「A」)、黒色アート紙に付着したフレーク状顔料が少しあれば、結合状態不完全(同「B」)、黒色アート紙に付着したフレーク状顔料が多数あれば、結合状態不良(同「C」)と評価した。
【0089】
<粉体塗装方法>
粉体塗料組成物をコロナ放電式静電粉体塗装機(商品名「MXR−100VT−mini」、旭サナック株式会社製)を用いて印加電圧80kVで、日本テストパネル株式会社製標準試験板(ボンデ鋼板 100×200mm)に塗装し、190℃で20分間焼き付けることにより塗板を作成した。
【0090】
<グロス測定方法>
光沢計(東京電色株式会社製 Gloss Meter TC−108DP/A)を用い、塗板の法線に対し60°の角度から光を照射し、正反射位置で受光してグロス(光沢)を測定し、メッキ調のメタリック色を評価した。表1では「Gloss」と表記し、数値が高くなるほど、良好なメッキ調のメタリック色であることを示す。
【0091】
<目視による鮮映性評価>
本評価の鮮映性は、塗膜の反射により目視される反射像(鏡映像)が明瞭に確認できるか否かで評価した。たとえ光の反射率が高くても乱反射の程度が高ければ、白く輝くだけで鏡映像は見えない。メッキは鏡面のような反射をするので、その最大の特徴である鏡映像の有無で、メッキ調の程度を評価することができる。
【0092】
具体的には、塗板に観察者の顔を映し、その観察者の目や鼻や口などが判別できる状態を「A」、観察者の顔の輪郭は判別できるが目鼻は判別できない状態を「B」、観察者の顔の輪郭すら判別できない状態を「C」として評価した。評価結果(鮮映性(目視評価))を表1に示す。
【0093】
<実施例1>
ペースト状態のフレーク状顔料として東洋アルミニウム株式会社製アルミペースト(商品名:0670TS)を準備した(アルミニウムフレークをフレーク状顔料として含むものである)。このペースト状態のフレーク状顔料50gを、280gのノルマルヘプタン(沸点98.4℃)に分散させ、遠心分離機(株式会社コクサン製 H−38F)にて3000rpmで20分間遠心分離を行なった。得られた沈殿物はノルマルヘプタンにより溶媒置換されたペースト状態のフレーク状顔料で、加熱残分は65.1%であり、フレーク状顔料の平均粒径(D50)は4.7μmであり、平均厚みは60nmであった(以上「第1工程」)。なお、「0670TS」はリーフィングタイプと呼ばれる品種で、表面にステアリン酸が吸着している。
【0094】
次に、上記のようにして準備されたペースト状態のフレーク状顔料(ノルマルヘプタンにより溶媒置換されたアルミニウムペースト)0.93gを、20gのノルマルヘプタン(熱硬化性樹脂粉末を溶解しない溶媒)に分散させることにより分散液を作製した(第2工程)。
【0095】
次いで、上記で得られた分散液の全量を熱硬化性樹脂粉末(商品名:Teodur PE 785−900クリア)100gに添加し、よく混合撹拌することにより混合物を得た(第3工程)。
【0096】
引き続き混練(撹拌)を継続しながらノルマルヘプタンを自然蒸発させた。この蒸発操作は乾粉特有の流動性が戻ってくるまで行ない、十分な流動性が得られるまで乾燥させた。その後、当該混合物を1リットルのナス型フラスコに入れ、エバポレーターにて真空下(常温約20℃)、回転撹拌しながら完全にノルマルヘプタンを揮発させて除去した(第4工程、なおこの第4工程は約20分間行なった)。得られた粉末を目開き100μmのスクリーンにて篩過することにより、本発明の粉体塗料組成物を得、試料とした。
【0097】
このようにして得られた粉体塗料組成物の熱硬化性樹脂粉末とフレーク状顔料との結合状態の評価を行なったところ、その結合状態は極めて良好で黒色アート紙に付着して残存するフレーク状顔料はほとんど無かった。そこで粉体塗装を行なったが、印加電圧の降下やスパークは観測されなかった。また、この粉体塗料組成物を用いて粉体塗装して得られた塗板について、目視による鮮映性評価を行なったところ、良好なメッキ調のメタリック色を呈していた。グロスの測定結果は248であった。
【0098】
<実施例2>
実施例1で用いた東洋アルミニウム株式会社製アルミペースト(商品名:0670TS)に代えて、東洋アルミニウム株式会社製アルミペースト(商品名:0231E−N)を用いることを除き、他は全て実施例1と同様にして第1工程を行なうことにより、ノルマルヘプタンにより溶媒置換されたペースト状態のフレーク状顔料(アルミニウムフレーク)を準備した。このペースト状態のフレーク状顔料の加熱残分は71.3%であり、フレーク状顔料の平均粒径(D50)は7.2μmであり、平均厚みは130nmであった。なお、「0231E−N」もリーフィングタイプと呼ばれる品種で、表面にステアリン酸が吸着している。
【0099】
次に、上記のようにして準備されたペースト状態のフレーク状顔料(ノルマルヘプタンにより溶媒置換されたアルミニウムペースト)1.68gを、20gのノルマルヘプタン(熱硬化性樹脂粉末を溶解しない溶媒)に分散させることにより分散液を作製した(第2工程)。
【0100】
次いで、上記で得られた分散液の全量を用いることを除き、他は全て実施例1と同様にして第3工程および第4工程を実施した。
【0101】
このようにして得られた粉体塗料組成物の熱硬化性樹脂粉末とフレーク状顔料との結合状態の評価を行なったところ、その結合状態はきわめて良好で黒色アート紙に付着して残存するフレーク状顔料はほとんど無かった。そこで粉体塗装を行なったが、印加電圧の降下やスパークは観測されなかった。また、この粉体塗料組成物を用いて粉体塗装して得られた塗板について、目視による鮮映性評価を行なったところ、良好なメッキ調のメタリック色を呈していた。グロスの測定結果は231であった。
【0102】
<実施例3>
東洋アルミニウム株式会社製アルミペースト(商品名:メタシーン 71−0010、加熱残分:10%)をペースト状態のフレーク状顔料として準備した(アルミニウムフレークをフレーク状顔料として含むものである)。このペースト状態のフレーク状顔料198.3gにノルマルヘプタン500gを加え分散させた。続いて、実施例1と同様の遠心分離操作を行うことにより沈殿物を得、この沈殿物に対してさらにノルマルヘプタン300gを加え再分散させた。次いで、この分散液を再度上記と同様の遠心分離操作を行なうことによりノルマルヘプタンにより溶媒置換されたペースト状態のフレーク状顔料を得た(第1工程)。このペースト状態のフレーク状顔料の加熱残分は38.7%であり、フレーク状顔料の平均粒径(D50)は12.9μmであり、平均厚みは25nmであった。なお、「メタシーン71−0010」はアルミの蒸着法で製造された製品であり、表面にステアリン酸は吸着していない。
【0103】
次に、上記のようにして準備されたペースト状態のフレーク状顔料(ノルマルヘプタンにより溶媒置換されたアルミニウムペースト)1.03gを、20gのノルマルヘプタン(熱硬化性樹脂粉末を溶解しない溶媒)に分散させることにより分散液を作製した(第2工程)。
【0104】
次いで、上記で得られた分散液の全量を用いることを除き、他は全て実施例1と同様にして第3工程および第4工程を実施した。
【0105】
このようにして得られた粉体塗料組成物の熱硬化性樹脂粉末とフレーク状顔料との結合状態の評価を行なったところ、その結合状態はきわめて良好で黒色アート紙に付着して残存するフレーク状顔料はほとんど無かった。そこで粉体塗装を行なったが、印加電圧の降下やスパークは観測されなかった。また、この粉体塗料組成物を用いて粉体塗装して得られた塗板について、目視による鮮映性評価を行なったところ、良好なメッキ調のメタリック色を呈していた。グロスの測定結果は189であった。
【0106】
<実施例4>
実施例3で用いた蒸着法によるアルミニウムペーストに含まれるフレーク状顔料(アルミニウムフレーク、以下「蒸着アルミ」とも記す)を、国際公開第2005/007755号パンフレットに記載の表面処理剤を用いてリーフィング化し、本発明で使用するフレーク状顔料として用いて、上記の各実施例と同様の方法で本発明の粉体塗料組成物を調製した。
【0107】
(表面処理剤の調製)
1リットルのセパラブルフラスコにパーフルオロオクチルエチルアクリレート(共栄社化学株式会社製、商品名:ライトアクリレートFA−108)48.2g、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート(共栄社化学株式会社製、商品名:ライトエステルP−1M)6.5g、メチルメタクリレート45.7g、シクロヘキサノン360gを入れ、良く撹拌することにより均一な溶液とした。
【0108】
続いて、系内を窒素で十分に置換し、70℃まで昇温した後、重合開始剤としてAIBN0.8gを添加し反応を開始した。反応開始3時間後と6時間後に、それぞれメチルメタクリレート9.8gを添加し、20時間反応させることにより、フレーク状顔料をリーフィング化する表面処理剤を得た。
【0109】
得られた表面処理剤約20gを精秤し、アセトン20gで希釈した後、この希釈液を激しく撹拌したヘキサン1700ml中に滴下した。そして、沈殿したポリマー成分を濾過し、乾燥させ秤量することにより、表面処理剤溶液のポリマー濃度を算出した。有効成分であるポリマー濃度は18.1%であった。
【0110】
(表面処理剤による蒸着アルミのリーフィング化処理)
蒸着アルミを含むアルミニウムペースト(メタシーン71−0010、加熱残分:10%)300g(すなわちフレーク状顔料30g)を酢酸エチル208gにて希釈することにより、蒸着アルミの分散液を得た。他方、上記で調製した表面処理剤溶液6.6g(表面処理剤溶液の有効成分濃度は18.1%であるから1.2gの表面処理剤(ポリマー成分)になる)を酢酸エチル253gで希釈することにより、表面処理剤の希釈液を得た。そして、上記で得られた蒸着アルミの分散液を撹拌させながら、そこに表面処理剤の希釈液を添加した。
【0111】
次いで、75℃で1時間撹拌を継続することにより、表面処理剤をフレーク状顔料である蒸着アルミの表面に吸着させた。その後、実施例1と同様の遠心分離操作を行なうこととにより、酢酸エチル中にリーフィング化されたフレーク状顔料が分散したペーストを得た。そのペーストの加熱残分を測定すると29.1%であった。
【0112】
(リーフィング化された蒸着アルミによる粉体塗料組成物の調製)
上記で得られたペースト24gに酢酸エチル25gを添加することにより、フレーク状顔料(リーフィング化された蒸着アルミ)を分散させた。その後、激しく撹拌したノルマルヘプタン280g中に上記の分散液を投入し、上記と同様の遠心分離操作を行なうことによりフレーク状顔料ペーストを分離した。上澄み液を除去後、酢酸エチルを完全に除去するために、さらにノルマルヘプタン280gをこのペーストに添加し、再分散させ、上記と同様の遠心分離操作を行なうことにより、溶媒置換を行ない第1工程を完了した。得られたフレーク状顔料ペーストの加熱残分を測定すると18.3%であり、フレーク状顔料の平均粒径(D50)は13.0μmであり、平均厚みは25nmであった。
【0113】
次に、上記のようにして準備されたペースト状態のフレーク状顔料(ノルマルヘプタンにより溶媒置換されたアルミニウムペースト)2.7gを、20gのノルマルヘプタン(熱硬化性樹脂粉末を溶解しない溶媒)に分散させることにより分散液を作製した(第2工程)。
【0114】
次いで、引き続き実施例1と同様の第3工程および第4工程を実施した。
このようにして得られた粉体塗料組成物の熱硬化性樹脂粉末とフレーク状顔料との結合状態の評価を行なったところ、その結合状態はきわめて良好で黒色アート紙に付着して残存するフレーク状顔料はほとんど無かった。そこで粉体塗装を行なったが、印加電圧の降下やスパークは観測されなかった。また、この粉体塗料組成物を用いて粉体塗装して得られた塗板について、目視による鮮映性評価を行なったところ、良好なメッキ調のメタリック色を呈していた。グロスの測定結果は229であった。
【0115】
<比較例1>
実施例1の第1工程で準備されたペースト状態のフレーク状顔料5gを静置乾燥させたところ、ペーストの形状を維持したまま凝集してしまった。そこで、実施例1の第1工程で準備されたペースト状態のフレーク状顔料5gをシャーレに入れ、薬匙で丹念に塊をほぐし続けながら自然乾燥させた。そして、ほぼ乾粉と同程度の流動性が得られたところで、真空デシケーターに入れ、常温真空乾燥を1時間行ない、溶媒(ノルマルヘプタン)を完全に揮発させて除去した。
【0116】
得られた粉体を目開き100μmのスクリーンにて篩過すると、スクリーンを通過した粉体は47%のみであった。スクリーンを通過した粉体の平均粒径(D50)は、5.4μmであった。しかし、上記のようにして得られた粉体であるフレーク状顔料は、篩過の様子から明らかに凝集しており、液体を媒体とする粒度分布測定法では媒体による再分散が起き、正確な粒度はわからない。そこで表1においては、あえて「凝集」とのみ記載した。
【0117】
実施例1で用いたのと同じ熱硬化性樹脂粉末100gに対して上記粉体0.6gを添加し、ドライブレンドを行なうことにより粉体塗料組成物を得た。すなわち、この粉体塗料組成物は従来のドライブレンド法によるドライブレンド物に該当する。
【0118】
この粉体塗料組成物について、実施例1と同様にして結合状態を評価したところ、黒色アート紙には多量のアルミ粉が付着していた。すなわち、熱硬化性樹脂粉末とフレーク状顔料との結合率は極めて低く、遊離のフレーク状顔料が多量に存在することが確認された。このため、危険であると判断し、粉体塗装を行なうことはできなかった。また、たとえかかる粉体塗料組成物を用いて実施例と同様の粉体塗装を行なったとしても、乾粉状態ではフレーク状顔料は凝集していたので、メッキ調のメタリック色を発現することはできないと予想される。
【0119】
<比較例2>
比較例1で得られた粉体状のフレーク状顔料を用いて、結合剤を使用する従来のボンデッド法(特許文献4)にてボンディングを行なうことにより粉体塗料組成物(ボンデッド)を得た。
【0120】
具体的には、まず比較例1で得られた粉体状のフレーク状顔料0.6gと実施例1で用いたのと同じ熱硬化性樹脂粉末100gを混合することにより、ドライブレンド物を得た。結合剤(ヤスハラケミカル株式会社製、商品名:YSポリスターTH−130)1.5gをノルマルヘプタン20gに溶解し、この溶液を上記で得られたドライブレンド物に添加し、十分に混合した。引き続き、実施例1の第4工程と同様の操作を行なうことにより、粉体塗料組成物を得た。
【0121】
このようにして得られた粉体塗料組成物の熱硬化性樹脂粉末とフレーク状顔料との結合状態の評価を行なったところ、その結合状態はきわめて良好で黒色アート紙に付着して残存するフレーク状顔料はほとんど無かった。そこで粉体塗装を行なったが、印加電圧の降下やスパークは観測されなかった。また、この粉体塗料組成物を用いて粉体塗装して得られた塗板について、目視による鮮映性評価を行なったところ、良好なメッキ調のメタリック色を呈していた。しかし、グロスの測定結果は197であった。
【0122】
このように当該粉体塗料組成物を用いても、結果的にはメッキ調のメタリック色を発現させることが可能であったが、実施例1に対してさらに乾燥工程、スクリーン工程、ドライブレンド工程という複数の工程が加わっており、製造効率が顕著に低下していた。しかも、実施例1と同じフレーク状顔料を用いているにも関わらず、グロスの測定結果が実施例1に対して劣っていた。
【0123】
以上の理由は定かではないが、おそらくフレーク状顔料が乾燥工程で凝集してしまっていること、および従来のボンデッド法で使用される結合剤の存在によりフレーク状顔料のメッキ調のメタリック色の発色が劣ってしまうこと、などの理由が推察できる。すなわち、従来の製造方法よりも本発明の製造方法の方が優れていることが確認できた。
【0124】
<比較例3>
東洋アルミニウム株式会社製アルミペースト(商品名:P−0100(粉体)、アルミニウムフレークであるフレーク状顔料の平均粒径D50:19.7μm、平均厚み:300nm)1.5gをノルマルヘプタン20gに分散させ、実施例1で用いたのと同じ熱硬化性樹脂粉末100gに添加し、よく混合した。なお、「P−0100」という商品もリーフィングタイプと呼ばれる品種で、表面にステアリン酸が吸着している。また、この商品はペーストを工業的に乾燥させた粉体状の製品である。以下、実施例1の第4工程と同様の操作を行なうことにより、粉体塗料組成物を得た。
【0125】
この粉体塗料組成物について、実施例1と同様にして結合状態を評価したところ、黒色アート紙には多量のアルミ粉が付着していた。すなわち、熱硬化性樹脂粉末とフレーク状顔料との結合率は極めて低く、遊離のフレーク状顔料が多量に存在することが確認された。このため、危険であると判断し、粉体塗装を行なうことはできなかった。すなわち、フレーク状顔料の平均粒径(D50)が10μmを超えると、本発明の方法により熱硬化性樹脂粉末の表面に十分にフレーク状顔料を結合させることができないことが確認できた。
【0126】
<比較例4>
比較例3で用いたフレーク状顔料を用いて、結合剤を使用する従来のボンデッド法(特許文献4)にてボンディングを行なうことにより粉体塗料組成物(ボンデッド)を得た。
【0127】
より具体的には、まず比較例3で用いた粉体状のフレーク状顔料1.5gと実施例1で用いたのと同じ熱硬化性樹脂粉末100gとを混合することにより、ドライブレンド物を得た。比較例2で用いたのと同じ結合剤1.5gをノルマルヘプタン20gに溶解し、上記で得られたドライブレンド物に添加し、十分に混合した。引き続き、実施例1の第4工程と同様の操作を行なうことにより、粉体塗料組成物を得た。
【0128】
このようにして得られた粉体塗料組成物の熱硬化性樹脂粉末とフレーク状顔料との結合状態の評価を行なったところ、その結合状態はきわめて良好で黒色アート紙に付着して残存するフレーク状顔料はほとんど無かった。そこで粉体塗装を行なったが、印加電圧の降下やスパークは観測されなかった。また、この粉体塗料組成物を用いて粉体塗装して得られた塗板について、目視による鮮映性評価を行なったところ、白色光沢はあるものの、メッキ調と呼べる鮮映性はなかった。また、グロスの測定結果は122であった。
【0129】
<参考例>
本発明の粉体塗料組成物におけるメッキ調のメタリック色がどのように優れた鮮映性を示すかを確認するために、その指標としてのグロスの測定結果を用いて、上記の実施例と以下の参考例とを比較することにより検証した。すなわち、本発明の上記実施例のグロスの数値が、以下の参考例1としての一般的なメタリック粉体塗装塗膜と比較してどの程度高い数値となるかを確認した。
【0130】
なお、グロスの測定は塗膜の平滑性にも大きく影響を受け、フレーク状顔料のような光を反射する顔料が無くても、平滑性が高い場合には樹脂自体の反射により高いグロスを発現する場合がある。このため、今回実施例で使用した熱硬化性樹脂粉末を単独で塗装した場合のグロスも参考例2として示す。顔料無添加の場合が、焼付け時に最も高い流動性が得られるので、この参考例2が今回使用した熱硬化性樹脂粉末で塗膜を形成した場合の、最大の平滑性を与えることから、樹脂由来の反射の最高値を示していると考えられる。
【0131】
<参考例1>
一般的に粉体塗装で用いられるフレーク状顔料(アルミニウムフレーク)は、樹脂により被覆されている。これはドライブレンドで使用される場合は、静電塗装時の安全性確保と塗膜の耐薬品性確保のためであり、またボンデッドで使用される場合は、塗膜の耐薬品性確保のためである。このため、このようなフレーク状顔料の一般的な代表例として、塗料用に使用されるフレーク状顔料(アルミニウムフレーク)の中でも中粒径と呼ばれる粒径のフレーク状顔料(アルミニウムフレーク)を樹脂コートした粉体製品をドライブレンドで粉体塗装した。
【0132】
すなわち、東洋アルミニウム株式会社製アルミ粉体顔料(商品名:PCF7640A、平均粒径(D50):18.1μm、平均厚み:400nm)10gを実施例1で用いたのと同じ熱硬化性樹脂粉末100gとドライブレンドした。そして、このドライブレンド物を粉体塗装して得られた塗板のグロスを測定したところ、そのグロスは61であった。
【0133】
<参考例2>
実施例1で用いたのと同じ熱硬化性樹脂粉末を単独で塗装した。そして、このようにして得られた塗板のグロスを測定したところ、そのグロスは98であった。すなわち、上記の実施例および比較例で示されたグロスは、樹脂自体の光沢の影響はあまり受けず、フレーク状顔料の反射を反映しているものと考えられる。
【0134】
以上の実験結果(評価結果)を下記の表1にまとめた。表1より明らかな通り、本発明の製造方法により得られる粉体塗料組成物(実施例)は、比較例および参考例の粉体塗料組成物に比し、優れた結果を示すことは明らかである。
【0135】
【表1】

【0136】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0137】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーク状顔料がその表面に結合した熱硬化性樹脂粉末を含む粉体塗料組成物の製造方法であって、
10μm以下の平均粒径または60nm以下の平均厚みを有するフレーク状顔料を準備する第1工程と、
前記熱硬化性樹脂粉末を溶解しない溶媒に前記フレーク状顔料を分散させることにより分散液を得る第2工程と、
前記熱硬化性樹脂粉末と前記分散液とを混合することにより混合物を得る第3工程と、
前記混合物を撹拌しながら前記溶媒を揮発させて除去する第4工程と、
を含む粉体塗料組成物の製造方法。
【請求項2】
前記第4工程は、前記混合物を−5℃〜50℃の範囲で撹拌する請求項1記載の粉体塗料組成物の製造方法。
【請求項3】
前記第3工程と前記第4工程は、同時に実施される請求項1または2に記載の粉体塗料組成物の製造方法。
【請求項4】
前記第1工程は、フレーク状顔料が有機溶剤中に分散されたペースト状態でフレーク状顔料を準備する請求項1〜3のいずれかに記載の粉体塗料組成物の製造方法。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂粉末を溶解しない前記溶媒は、大気圧下での沸点が28〜130℃の範囲にある請求項1〜4のいずれかに記載の粉体塗料組成物の製造方法。
【請求項6】
前記フレーク状顔料は、アルミニウムフレークである請求項1〜5のいずれかに記載の粉体塗料組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの製造方法によって得られる粉体塗料組成物。

【公開番号】特開2010−189597(P2010−189597A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37792(P2009−37792)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】