説明

粉体塗膜を有するアルミ建材

【課題】 陽極酸化皮膜に粉体塗装を施すに際して、陽極酸化皮膜をストックすることにより塗膜密着性が低下する問題点を解消する。
【解決手段】 陽極酸化皮膜に無機系微粉末を含有する電着塗料によって電着塗装を施し、複合皮膜の塗装下地を形成し、これに粉体塗装を施すことによって粉体塗膜を形成する。無機系微粉末、例えば酸化チタンを含有すると、これが応力緩和作用を発揮するために、電着塗料及び粉体塗料の焼付け処理時の縮合反応によって生じる圧縮応力を緩和して塗膜密着性を確保すると考えられる。この電着塗膜は膜厚5乃至20μmとし、電着塗料中の無機系微粉末の濃度は3乃至25wt%とするのがよい。高度な塗膜性能を確保でき、ストックによる複合皮膜の塗装下地に対する影響はない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サッシ、カーテンウオール、ドア、門扉、構造材等の各種建材として好適に用いられる粉体塗膜を有するアルミ建材に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミ建材に粉体塗装を行うについて、6価クロムによる化成皮膜を形成して、該化成皮膜を塗装下地とすると良好な塗膜密着性を確保することができるが、環境面から、該化成皮膜の塗装下地に代えて、陽極酸化皮膜を塗装下地として用いて、これに粉体塗膜を形成するものとされるが、陽極酸化皮膜を塗装下地とした場合、陽極酸化直後、即ち陽極酸化皮膜生成直後であれば、同様に密着性に優れた粉体塗膜を得られるが、陽極酸化後に日数を経過した陽極酸化皮膜に粉体塗装を施しても密着性を得られないという結果となり易く、従って、陽極酸化皮膜の塗装下地に粉体塗膜を形成するには、粉体塗装に先んじて都度これに用いるアルミ材に陽極酸化処理を施すことが必要となり、例えば、粉体塗装用のアルミ押出材や板材をストックし、需要や用途に応じて、これを用いて粉体塗装を施すことによって製品化して工場出荷するといったことができず、一般に陽極酸化から電着塗装及びその焼付け処理を行うように設定されている表面処理ラインを用いて陽極酸化処理のみを施し粉体塗装設備に搬送して粉体塗装を施すという如くに、表面処理ラインを特殊な形態で使用することが必要となり、粉体塗装を施すアルミ建材の生産を計画的に行うことができず、その生産コストがアップする傾向がある。
【0003】
これに対して、下記特許文献1は、陽極酸化皮膜と電着塗膜による複合皮膜を塗装下地として表面に粉体塗膜を配置したアルミ建材を提案しており、これによれば、陽極酸化皮膜に電着塗装を施し、電着塗料を熱硬化する塗装後の焼付け処理を110乃至160℃の温度(常法の焼付け処理は180℃程度)で行って、電着塗膜が完全硬化する前の状態とし、これをストックして、必要に応じて該電着塗膜を塗装下地として粉体塗装を施すことによって良好な密着性を確保することが可能となるとしており、この場合、電着塗膜は長期に亘って完全硬化していない状態を保つことによって、例えば、電着塗膜形成後3ヶ月が経過したときでも、陽極酸化皮膜と電着塗膜の複合皮膜に粉体塗装を施しても有効な密着性を確保できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−116594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この場合、陽極酸化皮膜と電着塗膜の複合皮膜を有する粉体塗装用のアルミ建材をストックし、必要に応じて該ストックしたアルミ建材に対して粉体塗装を施すことによって複合皮膜上に粉体塗膜を形成することが可能になるとともに、ストックしたアルミ建材の上記陽極酸化皮膜を塗装下地とする場合に生じる密着性不良を解消することができるから、そのメリットは大きいといえるが、一方で、電着塗膜を完全硬化しないことによって陽極酸化皮膜と電着塗膜が界面で剥離する可能性が残ることによって、電着塗膜と粉体塗膜間の密着性は確保し得るとしても、該界面の剥離により陽極酸化皮膜と電着塗膜間の密着性を得られなくなる可能性があること、電着塗膜を完全硬化させないように常法より低い焼付け温度とする必要が生じるから、電着塗膜のアルミ建材用に通常180℃程度に設定されている焼付け炉の焼付け温度を、粉体塗膜用のアルミ建材の場合に限って上記110乃至160℃という如くに低下させて焼付け処理を施すというように、焼き付け炉の温度調整を行うことは、一般には困難であるとともに著しく煩雑であり、仮にこのような温度調整を行うとすると長時間を要することになるから、表面処理コストの大幅なアップを招き、生産コストをアップさせるものとなる可能性がある。
【0006】
本発明はかかる事情の鑑みてなされたもので、その解決課題とするところは、可及的に常法に従った処理をなし得るとともに、アルミ建材を粉体塗装用にストックし得るとともにストックしたアルミ建材に粉体塗膜を形成しても良好な塗膜密着性を確保できる粉体塗膜を有するアルミ建材を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に沿って鋭意検討したところ、陽極酸化皮膜と電着塗膜の複合皮膜を塗装下地として、これに粉体塗膜を形成すること、この場合でも、上記陽極酸化皮膜を塗装下地とする場合と同様に塗膜密着性を確保することはできないが、該電着塗膜を、無機系微粉末を含有した塗膜とすることによって、陽極酸化皮膜と電着塗膜の界面剥離可能性の解消を含めて、高度な塗膜密着性を確保することが可能となるとの事実を見出して、本発明を行うに至ったもので、即ち、請求項1に記載の発明を、陽極酸化皮膜と電着塗膜による複合皮膜を塗装下地として表面に粉体塗膜を配置したアルミ建材であって、上記電着塗膜を、無機系微粉末を含有することによって塗膜密着性確保の塗装下地としてなることを特徴とする粉体塗膜を有するアルミ建材としたものである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、上記に加えて、上記無機系微粉末として、顔料を用いることにより簡便にして塗膜密着性を有効に確保し得ることから、これを、上記無機系微粉末を、無機系顔料としてなることを特徴とする請求項1に記載の粉体塗膜を有するアルミ建材としたものである。
【0009】
請求項3に記載の発明は、同じく上記に加えて、上記無機系顔料として、酸化チタンを用いることにより、同じく簡便にして塗膜密着性を有効に確保し得ることから、これを、上記無機系顔料を、酸化チタンとして上記電着塗膜を白色系の着色塗膜としてなることを特徴とする請求項2に記載の粉体塗膜を有するアルミ建材としたものである。
【0010】
請求項4に記載の発明は、同じく上記に加えて、上記電着塗膜を、比較的薄い5μm程度とし、また、相当程度に厚い20μm程度とすることによって塗膜密着性の確保に適した膜厚とし得ることから、これを、上記電着塗膜の膜厚を、5μm乃至20μmとしてなることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の粉体塗膜を有するアルミ建材としたものである。
【0011】
請求項5に記載の発明は、同じく上記に加えて、無機系顔料を、電着塗膜の膜厚との関係で、膜厚が薄いときは比較的低濃度とし、膜厚が厚くなると比較的高濃度とするのが、塗膜密着性の確保に有効であるが、一般に、これを、3wt%から25wt%の範囲とするのが塗膜密着性の確保に適した濃度とし得ることから、これを、上記無機系顔料の濃度を、3wt%乃至25wt%としてなることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の粉体塗膜を有するアルミ建材としたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は以上のとおりに構成したから、請求項1に記載の発明は、陽極酸化皮膜と電着塗膜の複合皮膜を塗装下地として、これに粉体塗膜を形成すること、このとき、粉体塗膜形成の直接の下地をなす電着塗膜を、無機系微粉末を含有する塗膜として、陽極酸化皮膜と電着塗膜の界面剥離可能性の解消を含めて、高度な塗膜密着性を確保することによって、可及的に常法に従った処理をなし得るとともに、アルミ建材を粉体塗装用にストックし得るとともにストックしたアルミ建材に粉体塗膜を形成しても良好な塗膜密着性を確保できる粉体塗膜を有するアルミ建材を提供することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、上記に加えて、上記無機系微粉末として、顔料を用いることにより簡便にして塗膜密着性の確保に有効なものとすることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、同じく上記に加えて、上記無機系顔料として、酸化チタンを用いることにより、同じく簡便にして塗膜密着性の確保に有効なものとすることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、同じく上記に加えて、上記電着塗膜を、比較的薄い5μm程度とし、また、相当程度に厚い20μm程度とすることによって塗膜密着性の確保に適した膜厚のものとすることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、同じく上記に加えて、無機系顔料を、電着塗膜の膜厚との関係で、塗膜密着性の確保に適した濃度のものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】塗膜密着性確保の推定メカニズムを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下更に本発明を具体的に説明すれば、本発明にあってアルミ建材の粉体塗膜は、陽極酸化皮膜と電着塗膜による複合皮膜を塗装下地としてアルミ建材の表面に配置したものとしてあり、このとき、上記電着塗膜は、これを、無機系微粉末を含有することによって塗膜密着性確保の塗装下地としたものとしてある。
【0019】
このとき、電着塗膜に含有する微粉末は、無機系のものとするのが、電着塗膜に対する影響を与える可能性が少なく且つ塗膜密着性を有効に確保するものとすることができる。無機系微粉末としては、無機系顔料とすることができ、また、無機系顔料とするとき上記酸化チタンとして上記電着塗膜を白色系の着色塗膜とすることができ、これによって簡便且つ確実に上記塗膜密着性を確保した粉体塗膜の塗装下地とすることができる。無機系顔料として、上記酸化チタンの他に、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム等を使用することができるが、更に、上記無機系微粉末として、無機系顔料以外の用途に使用される、例えば、酸化亜鉛、シリカ等をも使用することができる。無機系微粉末は、その粒径を可及的に小さいものとすることが好ましく、例えば5μm以下とするのが特に好ましい。
【0020】
陽極酸化皮膜と電着塗膜の複合皮膜を塗装下地として、これに粉体塗膜を形成することを前提としても、これによっては塗膜密着性を確保することができない一方で、電着塗膜に無機系微粉末を含有することによって塗膜密着性を確保することができるメカニズムは、必ずしも明らかではないが、無機系微粉末の有無による塗膜密着性への影響を考慮すると、図1に示すメカニズムによるものと推定することができる。
【0021】
即ち、複合皮膜における陽極酸化皮膜上の電着塗膜と、これに粉体塗装を施すことによって形成した粉体塗膜は、例えば180℃、30分という如くに高温長時間の焼付け処理を施して、電着塗料、粉体塗料を熱硬化したものとされるところ、該焼付け処理によって電着塗料、粉体塗料は、それぞれ縮合反応を生じて熱硬化するに至るために、熱硬化した電着塗膜及び粉体塗膜はそれぞれ塗膜の面内で縮合反応時の圧縮応力を受けた状態で硬化しており、従ってこれら塗膜は、この圧縮応力によるストレスを受けた状態となっているものと見られる。
【0022】
従って、外力や経時変化を契機として塗膜にクラックが入ったとき、塗膜のストレスによって塗膜には、クラック側に縮もうとする圧縮応力が作用するために、陽極酸化皮膜と電着塗膜間、電着塗膜と粉体塗膜間が剥離するに至る。このとき電着塗膜の膜厚が薄い場合には圧縮応力が少ないために剥離は比較的少なくなる傾向があるが、電着塗膜の膜厚が厚い場合には、圧縮応力が大きくなり、剥離は比較的大きくなる傾向があるものと考えられる。
【0023】
一方、電着塗膜は、これに無機系微粉末、例えば上記無機系顔料を含有したときは、同様に熱硬化しても、該電着塗膜中に微粉末が散在するために、該微粉末が、電着塗膜の圧縮応力を緩和して塗膜剥離を防止するように応力緩和作用を発揮する結果、塗膜剥離を解消して、塗膜密着性を確保するに至る。このとき電着塗膜の膜厚が薄い場合、厚い場合のいずれも微粉末の応力緩和作用によって塗膜密着性を確保するものと考えられる。
【0024】
沸騰水浸漬20分後の碁盤目試験によると、該無機系微粉末を含有した電着塗膜は、その膜厚を、5μm乃至20μmとすることが好ましい。例えば、比較のために、該微粉末を含有しないが、電着塗料への密着付与剤による密着性向上措置を施したものでは、表1に示すとおり、膜厚5μm及び7μmで剥離は認められないが、膜厚10μmでは一部剥離が見られるに至る。これに対して無機系微粉末を含有した電着塗膜では、同じく表1に示すとおり、膜厚5μm、7μm、10μm、15μm及び20μmのいずれも全く剥離は認められず、極めて良好な密着性を呈する。
【0025】
【表1】

【0026】
更に、膜厚を15μm及び20μmとして、沸騰水浸漬時間を大幅に延長した同じく碁盤目試験によると、表2に示すとおり、沸騰水浸漬24時間という現実には想定されない極めて過酷な条件下では、無機系微粉末を含有する電着塗膜にあっても、全面乃至一部剥離の傾向が見られるに至るが、沸騰水浸漬2時間、5時間及び10時間とした条件下では、膜厚15μmで全く剥離は認められず、一方、膜厚20μmでは、電着塗料メーカーの相違によって一部剥離が見られることがあるが、実験に用いたものにあっては剥離なしという結果であり、同様に極めて良好な密着性を呈する。
【0027】
【表2】

【0028】
この結果を踏まえて検討すると、5μmを下回る膜厚の電着塗膜の形成は、一般に膜厚管理が煩雑化する傾向を招き易いから、電着膜厚の下限の膜厚は、これを5μm以上とするのが膜厚管理が簡便であり好ましい。一方、塗膜密着性は、電着塗膜の膜厚によって影響を受けないから、殊更に電着塗膜の膜厚を過剰に厚膜とすべき必然性はなく、従って、該電着塗膜の膜厚は、これを20μm以下とするのが好ましく、また、膜厚を20μmとすると、電着塗料メーカーによっては一部剥離が生じることから、これを15μm以下とするのが特に好ましい。
【0029】
塗膜密着性は、電着塗膜に含有する無機系顔料の濃度によって影響を受けることがあり、該塗膜密着性は、電着塗膜の膜厚との関係で、膜厚が薄いときは比較的低濃度とし、膜厚が厚くなると比較的高濃度とするのが、塗膜密着性の確保に有効である。
【0030】
即ち、無機系顔料が濃度不足になると、上記無機系微粉末の応力緩和作用が不足して、塗膜密着性を低下する可能性がある一方、濃度が過剰となると、塗膜の脆弱化を招き、同じく塗膜密着性を低下する可能性がある。電着塗膜の膜厚を5μmとしたとき、無機系微粉末、例えばチタンによる無機系顔料の濃度3wt%、5wt%、7wt%、10wt%、15wt%、20wt%及び25wt%(電着塗料における濃度)としたとき、初期(沸騰水浸漬なし)、沸騰水浸漬20分及び5時間の碁盤目試験(碁盤目1mm)においてそれぞれ全く剥離がなく、高度な塗膜密着性を呈した。
【0031】
電着塗膜の膜厚を10μmとしたとき、濃度3wt%のものは、沸騰水浸漬20分において一部剥離(99/100)が見られたが、沸騰水浸漬5時間では剥離は解消(100/100)し、また、5wt%乃至25wt%のものは、いずれも全く剥離がなく、同じく高度な塗膜密着性を呈した。
【0032】
電着塗膜の膜厚を15μmとしたとき、同じく濃度3wt%、5wt%、20wt%、25wt%のものは、沸騰水浸漬20分の試験で一部剥離(3wt%のとき94/100、5wt%のとき97/100、20wt%のとき89/100、25wt%のとき99/100)が見られたが、その余の7wt%乃至15wt%のものは、いずれも全く剥離を生じない結果であった(実験結果の表3及びこれを纏めて評価した表4参照)。
【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
従って、電着塗膜の無機系微粉末、特に酸化チタンによる無機系顔料濃度は、これを、3wt%から25wt%の範囲とするのが好ましいが、電着塗膜の膜厚を10μmとするとき、無機系顔料濃度を5乃至25wt%とし、15μmとするとき、7wt%から15wt%の範囲とするのが、また、電着塗膜の膜厚の如何に拘らずに高度な塗膜密着性を示すものとするには、該15μmの場合の7wt%から15wt%の範囲とし、更に、一般に該膜厚は5乃至10μm以下とすれば足りるから、この膜厚とするには、5wt%から15wt%の範囲とするのが特に好ましい。
【0036】
複合皮膜の陽極酸化皮膜は、常法に従って硫酸浴中で電解処理を施すことによってアルミ押出材、板材等の建材に生成したものとすればよく、このとき、該陽極酸化皮膜は、その生成後に金属塩浴中で二次電解処理を施した着色皮膜としてもよい。
【0037】
電着塗膜は、例えばアクリル系、アクリルメラミン系等の電着塗料に、上記無機系微粉末、例えば上記無機系顔料の酸化チタン等を添加することによって上記所定濃度含有させて、常法に従って電気泳動処理によって上記陽極酸化皮膜上に電着塗装して、その後同じく常法に従って高温の焼付け処理を施すことによって熱硬化した熱硬化塗膜とすればよい。しかし、このとき該電着塗膜の焼付け処理は、180℃程度、例えば170乃至190℃の焼付け温度とする方が、これより高い焼付け温度とするより、塗膜密着性が優れる傾向があり、該焼付け温度は、例えば210℃以上とすると、塗膜密着性が幾分低下する傾向が生じるので、該焼付け温度は、これを上記170℃程度とするのが好ましい。
【0038】
粉体塗膜は、例えばポリエステル系、アクリル系、エポキシ系等の粉体塗料に、一般には所望の無機系顔料を添加することによって、常法に従って上記陽極酸化皮膜と電着塗膜による塗装下地に対して静電塗装によってその粉体塗装を施すようにすればよく、また、静電塗装後に常法に従って高温の焼付け処理を施して熱硬化塗膜とすればよい。
【0039】
このように形成した粉体塗膜を有するアルミ建材は、顔料添加による色調の外観良好にして優れた塗膜密着性を呈するものとして、例えば、サッシ、カーテンウオール、ドア、門扉、構造材、パネル等の各種の用途に使用することができる上、粉体塗膜の密着性確保の塗装下地として、需要や用途に応じて都度粉体塗装を施すように、ストックのアルミ押出材や板材として屋内外で保管することができるから、粉体塗装設備を備えることによって簡便且つ迅速な生産が可能となり、一般に陽極酸化と電着塗装を行うように設定されている表面処理ラインに無機系微粉末を添加した電着塗料を建浴した電着槽を配置すれば済み、陽極酸化処理のみを施して粉体塗装設備に搬送して粉体塗装を施すという如くに、表面処理ラインを特殊用途に使用するロスを解消することができる。
【0040】
本発明の実施に当って、アルミ建材、陽極酸化皮膜、電着塗膜、これらによる複合皮膜、無機系微粉末、必要に応じて用いる無機系顔料、酸化チタン等の具体的構造、形状、材質、形成方法、これらの関係、これらに対する付加等は、上記発明の要旨に反しない限り様々な形態のものとすることができる。
【実験例1】
【0041】
JIS6063T5アルミ押出材に硫酸浴中で陽極酸化処理を施して、該アルミ押出材に6μm以上の膜厚の陽極酸化皮膜を生成し、次いで該アルミ押出材に、無機系微粉末として、顔料の酸化チタンを25wt%程度含有したアクリルメラミン系の電着塗料を用いて、電着浴中で電着塗装を施した後、180℃の焼付け温度で30分程度焼付け処理して、陽極酸化皮膜と無機系顔料入りの膜厚5μmの電着塗膜及び10μmの電着塗膜による塗装下地を有するアルミ押出材を作成し、その後、このアルミ押出材に、それぞれ同じくアクリルメラミン系の粉体塗料を静電塗装し、常法に従って焼き付け処理して、上記塗装下地に粉体塗膜を形成したもの(1コート)及びこれとは別に静電塗装と焼付け処理を2回行って粉体塗膜を形成したもの(2コート)を作成した。一方、比較のために上記陽極酸化処理を施し、その洗浄後に同様に静電塗装を施して該陽極酸化皮膜を塗装下地とする同様に1コート及び2コートの粉体塗膜を形成したものを作成した。
【0042】
これらサンプルについてJISに定める基準に従って、外観、膜厚、塗膜硬度、塗膜密着性、耐衝撃性、促進耐候性、耐塩水噴霧性を○、△、×の3段階で判定乃至数値を測定した。外観はサンプルを目視して判定し、膜厚は膜厚計を用いて測定し、塗膜硬度は3H鉛筆を用いて傷の有無を判定し、密着性は1mm掛ける100の碁盤目試験によって剥離の有無を判定し、耐衝撃性は衝撃性試験機を用いて、1/2インチ径、500gの鋼球を50cm高さからサンプル表面に落下させて表面の塗膜剥離の有無を判定し、促進耐候性は、促進試験機にサンプルを240時間保持した後、光沢を含めた外観異常の有無を判定し、耐塩水噴霧性は、50℃の酸性塩水をサンプルに噴霧するキャス試験により塗膜表面のフクレ幅2mm以下のフクレの有無を判定した。結果を表5に示す。
【0043】
【表5】

【0044】
以上の結果、陽極酸化皮膜と無機系微粉末を含有する膜厚5μm、10μmの電着塗膜による塗装下地とする粉体塗膜は、陽極酸化皮膜を直接に塗装下地とする粉体塗膜と同等の外観、塗膜硬度、塗膜密着性、耐衝撃性、耐塩水噴霧性の優れた塗膜性能を有する結果であり、充分に実用に適するものといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極酸化皮膜と電着塗膜による複合皮膜を塗装下地として表面に粉体塗膜を配置したアルミ建材であって、上記電着塗膜を、無機系微粉末を含有することによって塗膜密着性確保の塗装下地としてなることを特徴とする粉体塗膜を有するアルミ建材。
【請求項2】
上記無機系微粉末を、無機系顔料としてなることを特徴とする請求項1に記載の粉体塗膜を有するアルミ建材。
【請求項3】
上記無機系顔料を、酸化チタンとして上記電着塗膜を白色系の着色塗膜としてなることを特徴とする請求項2に記載の粉体塗膜を有するアルミ建材。
【請求項4】
上記電着塗膜の膜厚を、5μm乃至20μmとしてなることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の粉体塗膜を有するアルミ建材。
【請求項5】
上記無機系顔料の濃度を、3wt%乃至25wt%としてなることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の粉体塗膜を有するアルミ建材。
【請求項6】
上記無機系顔料の濃度を、7wt%乃至15wt%としてなることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の粉体塗膜を有するアルミ建材。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−214055(P2011−214055A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82663(P2010−82663)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】