説明

粉体塗装方法

【課題】被塗装物の塗膜厚の良否判定を迅速且つ正確に行うことができる粉体塗装方法を提供する。
【解決手段】接地した被塗装物1の表面に、粉体スプレーガン4により帯電した粉体塗料を吹き付ける粉体塗布工程と、被塗装物1の表面に塗布された粉体塗料を加熱して塗膜を形成する塗膜形成工程とを設ける。粉体スプレーガン4は、その内部を流動する粉体塗料を接触させて粉体塗料に摩擦静電気を付与する接触内面を備えると共に、接触内面が接地ケーブル8を介して電気的に接地される。粉体塗布工程に、粉体塗料の吹き付け時に、接地ケーブル8を介して接地電流値を計測する接地電流計測工程と、接地電流計測工程により計測された接地電流値に基づいて塗膜厚の良否を検査する検査工程とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料を用いて塗装を行う粉体塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製被塗装物に塗装を施す際に採用される粉体塗装においては、摩擦により静電気が付与された粉体塗料を噴出させる摩擦静電気式の粉体スプレーガンを用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この種の粉体スプレーガンは、その内部に設けられた粉体流路に沿って流動する粉体塗料を粉体流路内面に接触させてその摩擦により粉体塗料を帯電させる接触内面と、この接触内面を通過して帯電した粉体塗料を噴出させるノズルとを備えている。
【0004】
粉体スプレーガンにより、被塗装物に向かって粉体塗料を吹き付けることで、ノズルから吐出されて被塗装物の近傍に達した粉体塗料は、その静電気力により、電気的に接地された被塗装物に引き付けられて付着する。その後、粉体塗料が付着した被塗装物をオーブンに投入し、150℃〜200℃で加熱して粉体塗料を融解させることにより、被塗装物の表面に塗膜を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−206018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、粉体塗装により所望の塗膜厚を得るためには、その塗膜厚に対応する量の粉体塗料を被塗装物の表面に付着させる必要がある。
【0007】
しかし、前記粉体スプレーガンを長期に亘り使用すると、粉体塗料が粉体スプレーガン内部の流路に付着し蓄積して粉体スプレーガンからの粉体塗料の吐出量が次第に低下するために、所望の塗膜厚が得られなくなる。また、粉体スプレーガン内部の流路で粉体塗料の固まりが形成されていると、その固まりがノズルを通過する際にノズル口を閉塞することがあり、これによっても、粉体塗料の吐出量が急激に低下して所望の塗膜厚が得られなくなる。
【0008】
また、粉体塗装においては、被塗装物に付着しなかった粉体塗料を吸引回収し、この粉体塗料(リサイクル塗料)を混在させた粉体塗料を粉体スプレーガンに供給することで粉体塗料を無駄なく使用することができる利点がある。その反面、リサイクル塗料が混在する粉体塗料を用いて塗装を行うと、粉体塗料の被塗装物への付着量の変動がみられ、それに伴い被塗装物毎の塗膜厚も一定にならない場合がある。
【0009】
十分な厚みの塗膜が得られていない被塗装物を排除するためには、塗膜厚を測定してその良否を検査する必要があるが、従来においては、個々の被塗装物の塗膜厚の測定が作業者の手作業により行われているため効率が悪い。しかも、多数の被塗装物を連続して塗装する場合に、検査作業の効率を上げるために所定数おきに検査する所謂抜き取り検査を行うと、塗膜厚が不良の被塗装物を見逃すことが考えられる。このため、塗膜厚が不良の被塗装物を確実に排除することができないだけでなく、粉体スプレーガンの掃除等の対応が遅れ、塗装に係る効率が著しく低下する不都合がある。
【0010】
上記の点に鑑み、本発明は、被塗装物の塗膜厚の良否判定を迅速且つ正確に行うことができる粉体塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、電気的に接地された金属製被塗装物の表面に、粉体スプレーガンにより帯電した粉体塗料を吹き付ける粉体塗布工程と、該粉体塗布工程により被塗装物の表面に塗布された粉体塗料を加熱して塗膜を形成する塗膜形成工程とを備える粉体塗装方法において、前記粉体スプレーガンは、その内部を流動する粉体塗料を接触させて該粉体塗料に摩擦静電気を付与する接触内面を備えると共に、該接触内面が接地ケーブルを介して電気的に接地され、前記粉体塗布工程は、粉体塗料の吹き付け時に、前記接地ケーブルを介して接地電流値を計測する接地電流計測工程と、該接地電流計測工程により計測された接地電流値に基づいて塗膜厚の良否を検査する検査工程とを備えることを特徴とする。
【0012】
塗膜の厚みに係る被塗装物に付着する粉体塗料の塗布量は、帯電した粉体塗料の電荷量に応じて変化する。そして、粉体塗料が十分な電荷量を保有していれば、所望の塗膜厚に対応する量の粉体塗料を被塗装物の表面に吹き付けることで、確実に所望の塗膜厚を得ることがきる。
【0013】
本発明者は、粉体スプレーガンから得られる粉体塗料の電荷量を確認する方法について各種試験を行った結果、粉体スプレーガンにおいて粉体塗料に摩擦静電気を付与するための接触内面を接地ケーブルを介して電気的に接地させ、接地ケーブルから大地に流れる電流(接地電流値)を計測することにより粉体塗料の電荷量が正確に把握できることを知見した。本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
【0014】
即ち、本発明によれば、前記接地電流計測工程により前記接地ケーブルを介して接地電流値を計測し、前記検査工程により、接地電流値に基づいて塗膜厚を検査する。計測された接地電流値を確認することで粉体塗料の電荷量が把握できるので、前記塗膜形成工程により塗膜が形成されるに先立って、前記粉体塗布工程において迅速に被塗装物の塗膜厚を検査することができる。
【0015】
具体的には、粉体塗料が粉体スプレーガン内部の流路に付着し蓄積すると粉体スプレーガンからの粉体塗料の吐出量が低下すると同時に、粉体塗料の前記接触内面への粉体塗料の接触が十分に得られず摩擦静電気の発生が減少する。このため、粉体塗料に対して摩擦静電気に伴う電荷が付与されなくなり、前記接地ケーブルにより接触内面から大地へ流れる接地電流値も低下する。このときの接地電流値の低下を、接地電流計測工程により計測することで、粉体塗料の電荷量が少なく被塗装物の塗膜厚が低下する状況であることが把握でき、塗膜厚の良否を検査することができる。
【0016】
また、粉体塗料の固まりが粉体スプレーガン内部の流路を閉塞すると、粉体スプレーガン内部における粉体塗料の流動が停止するため、粉体塗料の前記接触内面への粉体塗料の接触が十分に得られなくなり、これによっても、接地電流値が低下する。このときの接地電流値の低下を、接地電流計測工程により計測することで、被塗装物の塗膜厚が低下する状況であることが把握でき、塗膜厚の良否を検査することができる。
【0017】
また、被塗装物に付着しなかった粉体塗料を吸引回収し、この粉体塗料(リサイクル塗料)を混在させた粉体塗料を粉体スプレーガンに供給した場合、リサイクル塗料は摩滅により粒子径が小さくなるため、帯電してもその電荷量が新しい粉体塗料より小さい。このことから、前記接地電流計測工程により接地電流値を計測することで、粉体塗料に混在するリサイクル塗料の量に応じて粉体塗料が保有する電荷の変動が把握でき、これに基づいて塗膜厚の良否を検査することができる。
【0018】
そして更に、本発明者は、各種試験により、粉体塗料の塗布時間と接地電流値とに高い相関関係があり、粉体塗料の塗布時間と塗膜厚とに高い相関関係があることを知見し、塗布時間に応じて、接地電流値から塗膜厚が把握できることを明らかにした。
【0019】
そこで、本発明における前記検査工程においては、被塗装物の表面に塗布された粉体塗料によって得られる塗膜の所定の厚み範囲に対応する前記接地電流値の許容範囲を設定する許容範囲設定工程と、前記接地電流計測工程により計測された所定の塗布時間における接地電流値が前記設定許容範囲内にあるとき塗膜厚が良であると判定し、前記設定許容範囲外であるとき塗膜厚が不良であると判定する判定工程とを備える。
【0020】
具体的には、粉体塗料が粉体スプレーガン内部の流路に付着し蓄積した場合、粉体塗料の固まりが粉体スプレーガン内部の流路を閉塞した場合、或いは、粉体塗料に混在するリサイクル塗料の量が比較的多量であった場合等には、計測された接地電流値が、許容範囲設定工程によって設定した接地電流値の許容範囲の下限値を下回ったとき塗膜厚が不良(極度に薄い)であると判定する。また、リサイクル塗料が混在する粉体塗料の塗布を考慮して、塗布時間を比較的長く設定しているときに、粉体塗料に混在するリサイクル塗料の量が極めて少量となった場合等には、計測された接地電流値が、前記許容範囲の上限値を超えたとき塗膜厚が不良(過剰に厚い)であると判定する。このように、前記判定工程を設けることにより、前記許容範囲設定工程で設定した地電流値の許容範囲から塗膜厚の良否を極めて容易に判定することができる。
【0021】
更に、この判定工程によって塗膜厚が良であると判定されたとき、前記接地電流計測工程により計測された接地電流値が、前回の判定工程での計測時よりも低下した場合には前記粉体スプレーガンによる粉体塗料の吹き付け塗布時間を延長させ、前回の判定工程での計測時よりも上昇した場合には前記粉体スプレーガンによる粉体塗料の吹き付け塗布時間を短縮させる塗布時間変更工程を備えることが好ましい。
【0022】
これにより、判定工程の判定に基づき、粉体塗料が保有する電荷量に応じた塗布時間で前記粉体塗布工程による粉体塗料の吹き付けが行えるので、被塗装物に対して所望の厚みの塗膜が形成される量の粉体塗料を確実に塗布することができる。
【0023】
また、本発明の前記検査工程においては、前記判定工程によって塗膜厚が不良であると判定されたとき、塗膜厚が不良であることを示す報知を行う報知工程を設けることができる。これによれば、塗膜厚が不良となる被塗装物が発生したことを作業者が即座に確認でき、例えば、粉体スプレーガンの掃除等を効率良く行うことができる。
【0024】
また、本発明の前記検査工程においては、前記判定工程によって塗膜厚が不良であると判定されたとき、前記粉体塗布工程を停止させる粉体塗布停止工程を設けることができる。これによれば、例えば、作業者が粉体スプレーガンの掃除を迅速に開始することができ、粉体塗布が良好に行える状態に迅速に復帰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態で用いる粉体塗装装置の要部の説明図。
【図2】本実施形態における粉体塗布工程を示す説明図。
【図3】(a)は粉体塗料が塗布された缶胴の一部を断面視して示す説明図、(b)は塗膜が形成された缶胴の一部を断面視して示す説明図。
【図4】(a)は塗布時間と塗膜厚との関係を示す線図、(b)は塗布時間と接地電流値との関係を示す線図、(c)は接地電流値と塗膜厚との関係を示す線図。
【図5】粉体塗布工程において計測される接地電流値を示す線図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1に模式的に示しているのは、飲料用缶等に用いられる金属製缶胴1(被塗装物)の内面に後述の塗膜16(図3参照)を形成するための粉体塗装装置の要部である。缶胴1は、両端が開口(開口端2,3)した円筒状に形成されている。
【0027】
粉体塗装装置は、缶胴1の一方の開口端2から缶胴1の内部に向かって後述の粉体塗料15(図2及び図3参照)を吹き付ける粉体スプレーガン4と、缶胴1の他方の開口端3から粉体塗料15の余剰分を吸引する吸引ダクト5と、図示しないが、粉体スプレーガン4と吸引ダクト5との間に設けられた缶胴保持位置に缶胴1を保持すると共に当該位置への缶胴1の投入と払い出しとを行う缶胴保持手段とを備えている。このとき缶胴1は、缶胴保持手段を介して電気的に接地される。
【0028】
また、図示しないが、缶胴1の払い出し下流には、内面に粉体塗料15が塗布された缶胴1を150℃〜200℃で加熱し、粉体塗料15を融解させ硬化させることにより缶胴1の内面に塗膜16を形成するオーブンが配設されている。
【0029】
粉体スプレーガン4は、先端部に設けられて粉体塗料15を吐出するノズル6と、ノズル6に連設されて、粉体塗料15に摩擦静電気を付与する静電気付与ユニット7とを備えており、静電気付与ユニット7の後端側からは、搬送エアと共に粉体塗料15が供給される。
【0030】
本実施形態においては、粉体塗料15として熱硬化型ポリエステル樹脂系塗料を使用した。これ以外の粉体塗料15として、従来公知の熱硬化型、熱可塑型の粉体塗料用樹脂、例えば、熱硬化型ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂等を単独或いは併用し、所望によりその他の添加剤を配合したものも使用することができる。
【0031】
静電気付与ユニット7は、図2において一部を示すように、流動する粉体塗料15を接触させる接触内面8がポリエステル樹脂等で形成されている。粉体塗料15は、静電気付与ユニット7の内部を流動するときに接触内面8に接触し、その摩擦により電荷が付与されて帯電する。
【0032】
また、静電気付与ユニット7には、接触内面8に電荷が蓄積しないように接地された電極が内蔵されている。この電極は、図1に示すように、接地ケーブル9を介して接地されている。
【0033】
吸引ダクト5は、缶胴1の内部から粉体塗料15の余剰分を吸引するが、このとき回収された粉体塗料15は、リサイクル塗料として再び粉体スプレーガン4に供給される。従って、粉体スプレーガン4からは、新しい粉体塗料15と、缶胴1の内部を通過したリサイクル塗料とが混在した状態で吐出される。
【0034】
図1において符号10で示すものは、粉体塗装装置を制御するコンピュータ等からなる制御手段である。制御手段10は、前記接地ケーブル9から大地に流れる電流(接地電流)を計測する接地電流計測部11と、接地電流計測部11により計測された接地電流値に基づいて缶胴1の塗膜検査を行う検査処理部12と、粉体塗料の塗布時間を短縮又は延長させる制御を行う塗布時間制御部13を機能的に備えている。検査処理部12には検査結果を表示するディスプレイ等の表示手段14が接続されている。
【0035】
なお、図示しないが、本実施形態の粉体塗装装置は、複数(例えば4つ)の缶胴保持位置が隣接して平行に配設されており、各粉体塗布位置における粉体スプレーガン4及び吸引ダクト5は、その向きが隣接するもの同士で反対方向となるように交互に設けられている。
【0036】
次に、以上の構成からなる粉体塗装装置による缶胴1の内面塗装について説明する。先ず粉体塗布工程においては、図2に示すように、缶胴保持位置に保持された缶胴1に対して、缶胴1の一方の開口端2に粉体スプレーガン4のノズル6を近接して対向させ、缶胴1の他方の開口端3に吸気ダクト5を近接して対向させる。次いで、粉体スプレーガン4のノズル6から粉体塗料15を缶胴1の内面に向けて吹付ける。これにより、粉体スプレーガン4の内部で摩擦静電気が付与された粉体塗料15はその静電気力により図中矢印で示すように缶胴1に向かって引き付けられて缶胴1の内面に付着し、缶胴1の内面に付着しなかった粉体塗料15は吸気ダクト5により吸引されてリサイクル塗料として回収される。
【0037】
次いで、缶胴1を、隣接する缶胴保持位置に保持し、缶胴1の他方の開口端3(前回においては吸気ダクト5に対向していた側)に粉体スプレーガン4のノズル6を近接して対向させ、缶胴1の一方の開口端2(前回においては粉体スプレーガン4のノズル6に対向していた側)に吸気ダクト5を近接して対向させる。即ち、図2における粉体スプレーガン4と吸気ダクト5の位置を入れ換えた場合と同様の状態である。そして、粉体スプレーガン4のノズル6から粉体塗料15を缶胴1の内面に向けて吹付けると、前回と同様に、粉体スプレーガン4の内部で摩擦静電気が付与された粉体塗料15はその静電気力により缶胴1の内面に付着し、缶胴1の内面に付着しなかった粉体塗料15は吸気ダクト5により吸引されてリサイクル塗料として回収される。
【0038】
その後、缶胴1の一方の開後端2からの粉体塗料15の吹き付けと、缶胴1の他方の開口端3からの粉体塗料15の吹き付けとを数回(本実施形態においては2回ずつ合計4回)繰り返す。こうすることにより、缶胴1の内面で粉体スプレーガン4のノズル6から離間した位置の塗布量が少なくなることがなく、缶胴1の内面全面に均一に粉体塗料15を塗布することができる。なお、この時点では、粉体塗料15は、図3(a)に示すように各粒子が缶胴1の内面に堆積した状態である。
【0039】
その後、缶胴1はオーブンに投入されて加熱される。これにより、缶胴1の内面に塗布された粉体塗料15が融解し硬化することで、図3(b)に示すように缶胴1の内面に塗膜16が形成される(塗膜形成工程)。この塗膜16の厚さが塗膜厚L(通常、約30μm〜約50μm)である。
【0040】
ところで、長期に亘って粉体スプレーガン4による粉体塗料15の塗布を行うと、主に次のような状況が発生することがあるために、粉体塗料15の缶胴1の内面への良好な付着が得られなくなる。
【0041】
即ち、1つには、粉体スプレーガン4内部の粉体塗料15の流路にある接触内面8に粉体塗料15が付着して、流動する粉体塗料15と接触内面8とによる摩擦静電気の発生が減少し、流動する粉体塗料15の電荷量が少なくなる。
【0042】
2つには、粉体スプレーガン4の内部を搬送エアに搬送されて流動する粉体塗料15は、搬送エアの気流や粉体スプレーガン4への粉体塗料15の供給路の形状、或いは湿度等の影響によって固まりとなり、この固まりが粉体スプレーガン4のノズル6に詰まる場合がある。この場合には、粉体塗料15の吐出が停止すると同時に、粉体スプレーガン4の内部に粉体塗料15が停滞するので、接触内面8との摩擦による静電気の発生が減少し、粉体塗料15の電荷量が少なくなる。
【0043】
3つには、前述したリサイクル塗料の個々の粒子径が摩滅により小さくなっていると、塗料粒子が保有できる電荷量も少ない。そして、このようなリサイクル塗料を新しい粉体塗料15に混在させて粉体スプレーガン4に供給するため、粉体スプレーガン4から吐出する粉体塗料15の電荷量は、リサイクル塗料の量に応じて著しく変動する。
【0044】
そして、少なくとも上記3つの状況が生じると、缶胴1の内面に所望の塗膜厚Lが得られない。本発明者はこの点に着目して各種試験を行ったことにより、塗膜16の形成に先立って塗膜厚Lを前記接地ケーブル9から大地に流れる接地電流値から把握することができ、且つ、これによって粉体塗料15を塗布した段階で塗膜厚Lの良否が判定できることを明らかとした。即ち、缶胴1に形成される塗膜厚Lは、オーブンによる粉体塗料15の融解及び硬化を経て計測可能となるものであるが、本発明者の知見によれば、図4(a)に示すように、粉体塗料15の塗布時間と塗膜厚Lとの間には高い相関関係があり、且つ、図4(b)に示すように、粉体塗料15の塗布時間と接地電流値との間には高い相関関係がある。このことから、図4(c)に示すように、接地電流値と塗膜厚Lとの間にも高い相関関係があるので、オーブンによる粉体塗料15の融解及び硬化を経ることなく、接地電流値を確認するだけで、塗膜厚Lの良否が判断できる。本発明はこの知見に基づくものであり、本実施形態においては、次のようにして本発明の要旨に係る塗膜厚Lの検査を行う。
【0045】
粉体塗布工程において粉体スプレーガン4のノズル6から粉体塗料15を缶胴1の内面に向けて吹付けているとき、先ず、制御手段10の接地電流計測部11が前記接地ケーブル9から大地に流れる電流(接地電流)を計測する。
【0046】
制御手段10は、接地電流計測部11により計測される接地電流値が所定の電流値以上(例えば5μA以上)となっている間の接地電流値の平均値(以下、電流実効値という)を記憶する。即ち、接地電流計測部11から出力される計測結果は、図5に示すように曲線で表される。そして、粉体塗布の1サイクルT1(缶胴保持位置への缶胴1の投入から排出までの時間であり、例えば700ms)中における粉体塗料15の塗布時間T2(粉体スプレーガン4の作動時間であり、例えば300ms)のうち、接地電流値が所定の電流値以上となっている区間T3(例えば160ms)で所定時間間隔(例えば4ms)毎に採取される接地電流値の平均値が前記電流実効値とされ、制御手段10は、このときの電流実効値を記憶する。
【0047】
次いで、制御手段10の検査処理部12は、このときの電流実効値と、別に記憶している許容範囲(粉体塗料15によって得られる所定の塗膜厚Lの範囲に対応する接地電流値の範囲)とを比較する。
【0048】
このとき用いられる許容範囲は、過去の電流実効値を含めた缶胴1の所定個数の平均値(例えば100缶置きに10缶の電流実効値を平均して算出した値)に、粉体塗料15の種類や缶胴1の大きさを考慮して定めた所定の数値を加算することにより上限値と下限値とを求め、この範囲を許容範囲として設定する(許容範囲設定工程)。具体的には、上下限値の設定数値が±0.8μAとされ、100缶置きに10缶の電流実効値を平均して算出した値が6.8μAである場合には、設定される許容範囲の下限値は6.0μAとされ、上限値は7.6μAとされる。但し、前記の平均値は、塗膜の所定厚みに対応する接地電流値の許容範囲を超えたときは不良とする。
【0049】
そして、制御手段10は、検査処理部12による上記比較の結果により塗膜16の良否を判定する(判定工程)。即ち、制御手段10の検査処理部12は、当該塗布サイクルにおける電流実効値が前記許容範囲の上限値を超え、或いは下限値を下回ったとき、塗膜厚Lが不良であるとする。これに伴って、制御手段10は、図示しない報知手段を駆動して塗膜厚Lが不良である旨の報知を行うか(報知工程)、或いは、粉体塗布工程に係る作業を停止させる(粉体塗布停止工程)。これにより、作業者は、即座に粉体スプレーガン4の掃除等を行い、粉体塗布工程を迅速に復帰させることができる。
【0050】
一方、制御手段10の検査処理部12は、当該塗布サイクルにおける電流実効値が前記許容範囲内にあるとき、良好な塗膜厚Lが得られるとするが、更に、このとき採取された電流実効値の傾向に従い、塗布時間の変更を行う(塗布時間変更工程)。
【0051】
即ち、制御手段10は今回の判定時の電流実効値が、前回の判定時の電流実効値よりも低下して下限値に近づいている場合には、粉体塗料15の電荷量が少なくなっているので、塗布時間T2(粉体スプレーガン4の作動時間)を延長させる。
【0052】
このときの延長時間は、制御手段10のデータテーブルに図4(a)〜(c)に示した関係に対応するデータを格納し、塗布時間制御部13により粉体塗料の塗布時間を変更することにより、所望の塗膜厚Lに対応する接地電流値が得られるように設定して制御することができる。これによれば、図5を参照して、塗布時間T2の延長に伴い、固定された区間T3の実効電流値が増加するので、所望の塗膜厚Lが確保されたと判断することができる。
【0053】
また、制御手段10は今回の判定時の電流実効値が、前回の判定時の電流実効値よりも上昇して上限値に近づいている場合には、粉体塗料15の電荷量が過剰となっているので、図5に示した塗布時間T2(粉体スプレーガン4の作動時間)を短縮させる。これによれば、図5を参照して、塗布時間T2の短縮に伴い、固定された区間T3の実効電流値が減少するので、所望の塗膜厚Lが確保されたと判断することができる。
【0054】
なお、本実施形態においては、被塗装物たる缶胴1の内面に粉体塗装を行うことを例として挙げたが、本発明の方法は、従来より静電粉体塗装が行われている金属製の被塗装物であれば適用することができる。
【0055】
また、本実施形態において例示した数値等はこれに限定されるものではなく、被塗装物の形状や用途、或いは、粉体スプレーガンの形状等によって適宜設定されるものである。
【符号の説明】
【0056】
1…缶胴(被塗装物)、4…粉体スプレーガン、8…接触内面、9…接地ケーブル、15…粉体塗料、16…塗膜、L…塗膜厚。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的に接地された金属製被塗装物の表面に、粉体スプレーガンにより帯電した粉体塗料を吹き付ける粉体塗布工程と、該粉体塗布工程により被塗装物の表面に塗布された粉体塗料を加熱して塗膜を形成する塗膜形成工程とを備える粉体塗装方法において、
前記粉体スプレーガンは、その内部を流動する粉体塗料を接触させて該粉体塗料に摩擦静電気を付与する接触内面を備えると共に、該接触内面が接地ケーブルを介して電気的に接地され、
前記粉体塗布工程は、粉体塗料の吹き付け時に、前記接地ケーブルを介して接地電流値を計測する接地電流計測工程と、該接地電流計測工程により計測された接地電流値に基づいて塗膜厚の良否を検査する検査工程とを備えることを特徴とする粉体塗装方法。
【請求項2】
前記検査工程は、被塗装物の表面に塗布された粉体塗料によって得られる塗膜の所定の厚み範囲に対応する前記接地電流値の許容範囲を設定する許容範囲設定工程と、前記接地電流計測工程により計測された所定の塗布時間における接地電流値が前記設定許容範囲内にあるとき塗膜厚が良であると判定し、前記設定許容範囲外であるとき塗膜厚が不良であると判定する判定工程とを備えることを特徴とする請求項1記載の粉体塗装方法。
【請求項3】
前記粉体塗布工程は、前記判定工程によって塗膜厚が良であると判定されたとき、前記接地電流計測工程により計測された接地電流値が、前回の判定工程での計測時よりも低下した場合には前記粉体スプレーガンによる粉体塗料の吹き付け塗布時間を延長させ、前回の判定工程での計測時よりも上昇した場合には前記粉体スプレーガンによる粉体塗料の吹き付け塗布時間を短縮させる塗布時間変更工程を備えることを特徴とする請求項2記載の粉体塗装方法。
【請求項4】
前記検査工程は、前記判定工程によって塗膜厚が不良であると判定されたとき、塗膜厚が不良であることを示す報知を行う報知工程を備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の粉体塗装方法。
【請求項5】
前記検査工程は、前記判定工程によって塗膜厚が不良であると判定されたとき、前記粉体塗布工程を停止させる粉体塗布停止工程を備えることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の粉体塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−35231(P2012−35231A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180052(P2010−180052)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(505440295)北海製罐株式会社 (58)
【Fターム(参考)】