説明

粉体塗装装置およびその塗装方法

【課題】大きな塗装ブース全体の清掃を省き、作業員の負担を軽減すると共に、色替え時間を短縮することができ、また設備コストを低減することができる粉体塗装装置を提供する。
【解決手段】塗装ブース1に粉体塗料を噴霧する塗装ガン3を設置し、この塗装ブース1内の粉体塗料噴霧位置の下方と塗装ブース1外に移動可能に部分回収ホッパー2を設け、部分回収ホッパー2を塗装ブース内に設置した状態で部分回収ホッパー2に、オーバースプレー粉の吸引回収装置6を接続してオーバースプレー粉を回収し、部分回収ホッパー2によって回収した回収粉を塗装ガン3に供給して再利用しながら塗装作業を行い、色替えの際は、部分回収ホッパー2を塗装ブース1外に引き出して清掃するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粉体塗装装置、特に色替え作業を容易に行うことができる静電粉体塗装の塗装ブースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
静電粉体塗装は、静電塗装ガンによって粉体塗料を被塗物に吹き付け、静電気によって粉体塗料を被塗物に付着させる塗装方法である。
【0003】
この静電粉体塗装において、被塗物への粉体塗料の吹き付けは、粉体塗料の飛散を防止するために、通常、塗装ブース内で行われている。そして、被塗物に付着しなかったオーバースプレー粉は、回収精選され、再利用することができるので、静電粉体塗装は、環境に良い塗装として年々注目されている。
【0004】
従来、オーバースプレー粉は、ブースに回収ダクトを接続し、ブース全体からオーバースプレー粉を回収するようにしており、このような塗装ブースは特許文献1にも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特開2002−361121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、同じ塗装ブースを使用して、粉体塗料の色を替える、いわゆる色替え作業を行う場合、塗装ブース内を綺麗に清掃しないと、回収粉に他色が混じり、色が斑点状に現れるコンタミという塗装不良が発生する。
【0007】
色替え作業は、例えば、小ロットの製品を塗装するような場合には、頻繁に行う必要がある。
【0008】
ところが、色替え作業の際には、塗装ラインを止めて、塗装ブース内の全体と、回収経路、集塵回収装置をコンタミが生じないように全て綺麗に清掃する必要があり、塗装ラインを長時間停止せざるを得ず、生産性を低下させるという大きな問題があった。また、大きな塗装ブースを清掃するには、塗装ブース内に作業員が入って作業を行う必要があり、作業員の負担も大きい。
【0009】
この色替え時間を短縮する方法としては、図7(a)に示すように、塗装ラインCに、複数の塗装ブースD、Dを設置し、塗装ブースD、Dを各色専用に使用する方法があるが、塗装ブースD、Dのうちの一つの色替えを行おうとする場合には、塗装ブースD、Dが同じ塗装ライン上に設置されているため、色替えを行わない塗装ブースも他方の塗装ブームの色替え中は塗装を中断する必要があり、また大きな塗装ブース全体の清掃には時間がかかり、やはり塗装ラインを長時間停止せざるを得ない。
【0010】
また、図7(b)に示すように、塗装ラインCに、複数の塗装ブースD、Dを設置し、例えば、塗装ブースD、Dのうち、塗装ブースDの色替えを行う場合、塗装ラインCから塗装ブースDを取り外し、オフライン上で色替えを行うようにする方法もある。この方法では、塗装ブースDの清掃中に、塗装ブースDを使用できるというメリットがあるが、塗装ブースDをオフライン上に設置するスペースが必要となり、塗装ラインの側方に2倍の設置スペースを要する。
【0011】
そして、図7(a)、(b)に示す両方式も、最低2ブースが必要であり、設置スペースと共に、ブースに応じて集塵回収装置などの機器が2倍必要となり、設備コストがかかるという問題がある。
【0012】
そこで、この発明は、大きな塗装ブース全体の清掃を省き、作業員の負担を軽減すると共に、色替え時間を短縮することができ、また設備コストを低減することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、上記の課題を解決するために、塗装ブースに粉体塗料を噴霧する塗装ガンを設置し、この塗装ブース内の粉体塗料噴霧位置の下方と塗装ブース外に移動可能に部分回収ホッパーを設け、部分回収ホッパーを塗装ブース内に設置した状態で部分回収ホッパーに、オーバースプレー粉の吸引回収装置を接続してオーバースプレー粉を回収し、部分回収ホッパーによって回収した回収粉を塗装ガンに供給して再利用しながら塗装作業を行い、色替えの際は、部分回収ホッパーを塗装ブース外に引き出して清掃可能にしたものである。
【0014】
上記部分回収ホッパーは、複数用意することにより、少なくとも一つの部分回収ホッパーを塗装ブース内に設置して塗装作業を行い、他の塗装ブースを塗装ブース外に引き出して、塗装作業中に、他の塗装ブースの清掃を行うことができる。これにより、色替え作業の際の塗装ラインの停止時間を最小限に抑えることができる。
【0015】
塗装ガンに対向する被塗物の背面側と塗装ブースの内面との間に、オーバースプレー粉を遮蔽する遮蔽板を、部分回収ホッパーの上縁に設置することにより、オーバースプレー粉の部分回収ホッパーへの流入効率が向上し、オーバースプレー粉の塗装ブースの内面への付着をより効果的に防止できる。
【0016】
また、部分回収ホッパーの上縁に、部分回収ホッパーの上縁部に沿ってエアーカーテンを形成するエアー噴出管を設置することにより、部分回収ホッパーの領域外に漏れるオーバースプレー粉の量を低減させることができる。
【0017】
上記塗装ブースの底面に、塗装ブースを貫通する軌道を設置し、この軌道上を走行する車輪を部分回収ホッパーの下面に設置することにより、部分回収ホッパーを作業員が押して移動できるので、移動の際の負担が少なく、しかも移動を短時間で行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明においては、上記のように、部分回収ホッパーを塗装ブース内に設置した状態で部分回収ホッパーに吸引装置を接続し、被塗物への粉体塗料の噴霧作業を行うことにより、オーバースプレー粉の大部分は、粉体塗料の噴霧位置の下方に設置された部分回収ホッパーに吸引され、部分回収ホッパーの領域外の塗装ブース内に漏れ出すオーバースプレー粉を極力少なくすることができるので、部分回収ホッパーによって吸引回収した回収粉のみで、オーバースプレー粉の大部分を再利用することができる。
【0019】
そして、色替えの際には、部分回収ホッパーを塗装ブース外に引き出して清掃作業が行えるので、作業が行いやすく、大きな塗装ブース全体を清掃するよりも短時間で清掃を完全に行うことができる。
【0020】
また、部分回収ホッパーに接続される吸引回収装置は、大きな塗装ブースの吸引回収装置よりも小型のものを使用することができるので、部分回収ホッパーに接続される吸引ダクト、サイクロン等の吸引回収装置の清掃も簡単に行うことができる。
【0021】
上記のように、塗装ブース内に部分回収ホッパーを設置してオーバースプレー粉の大部分をこの部分回収ホッパーによって吸引回収するようにしているので、部分回収ホッパーの領域外の塗装ブース内に漏れ出すオーバースプレー粉を再利用しなくても、回収粉の再利用効果にそれほど影響しないので、色替えの際に塗装ブース内の清掃を省略することが可能である。
【0022】
したがって、この発明によれば、大きな塗装ブース全体の清掃を省き、作業員の負担を軽減できると共に、色替え時間を短縮することができ、また設備コストを低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明に係る粉体塗装装置の概略縦断正面図である。
【図2】この発明に係る粉体塗装装置の全体フローを示す図である。
【図3】部分回収ホッパーを塗装ライン上に2個設置し、そのうちの一方を塗装ブース外に引き出した状態を示す概略横断平面図である。
【図4】部分回収ホッパーを塗装ライン上に2個設置し、そのうちの他方を塗装ブース外に引き出した状態を示す概略横断平面図である。
【図5】部分回収ホッパーの一例を示す斜視図である。
【図6】部分回収ホッパーの他例を示す平面図である。
【図7】(a)、(b)は従来の塗装ブースの設置例を示す概略横断平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明の実施形態を、図面に基づいて具体的に説明する。
【0025】
この発明に係る粉体塗装装置は、図1に示すように、塗装ブース1に粉体塗料Aを噴霧する塗装ガン3を設置し、粉体塗料噴霧位置の下方に、部分回収ホッパー2を設置している。
【0026】
部分回収ホッパー2は、粉体塗料噴霧位置の下方と、塗装ブース1の外部とに移動可能に設けられている。そして、部分回収ホッパー2は、塗装作業を行う際には、塗装ブース1の粉体塗料噴霧位置の下方に設置され、色替えの際には、塗装ブース1の外部に引き出して清掃作業が行えるようになっている。
【0027】
部分回収ホッパー2は、開口部が4角形で、上方に向かって広がるホッパー部4を有し、このホッパー部4の下方に吸引管5が設けられている。このホッパー部4の吸引管5は、図2の全体フローで示すように、塗装ブース1内に引き入れられた状態で、サイクロン式の吸引回収装置6の導入管7に接続されている。
【0028】
塗装ブース1の底面には、塗装ブース1を塗装ラインに沿って貫通するように軌道8が設置され、この軌道8上を走行する車輪9を部分回収ホッパー2の下面に設置している。部分回収ホッパー2は、車輪9によって軌道8上を走行するようになっているので、作業員が部分回収ホッパー2を押して、簡単に移動させることができる。部分回収ホッパー2を、上記のように、軌道8上を走行させる移動方法は、一例であり、車輪だけを設けて移動させるようにしてもよいし、部分回収ホッパー2が軽量であれば、作業員が持ち上げて移動させるようにしてもよい。
【0029】
次に、図3及び図4に示す実施形態は、上記軌道8上に2個の部分回収ホッパー2を設置し、一方の部分回収ホッパー2を塗装ブース1内に引き入れて塗装作業を行い、他方の部分回収ホッパー2を塗装ブース1外に引き出して、一方の部分回収ホッパー2によって塗装作業を行っている間に、部分回収ホッパー2の清掃作業を行えるようにした例である。
【0030】
図3は、塗装ブース1の右側の扉を開いて、右側の部分回収ホッパー2を塗装ブース1外に引き出し、左側の部分回収ホッパー2を塗装ブース1の噴霧作業位置に引き入れた状態を示している。
【0031】
反対に、図4は、塗装ブースの左側の扉を開いて、左側の部分回収ホッパー2を塗装ブース1外に引き出し、右側の部分回収ホッパー2を塗装ブース1の噴霧作業位置に引き入れた状態を示している。
【0032】
そして、塗装作業を行う際には、塗装ブース1内に引き入れた部分回収ホッパー2の下方の吸引管5と、サイクロン式の吸引回収装置6の導入管7とをダクト10によって接続し、図1に示すように、塗装ガン3から被塗物Bに向かって粉体塗料Aが噴霧される。そして、被塗物Bに付着しなかったオーバースプレー粉としての粉体塗料Aの大部分は、部分回収ホッパー2内に吸引される。
【0033】
部分回収ホッパー2は、オーバースプレー粉が流入しやすいように、開口部が4角形で上方に向かって広がるホッパー形状をしているが、図1及び図5に示すように、塗装ガン3に対向する被塗物Bの背面側と塗装ブース1の内面との間に、オーバースプレー粉を遮蔽する遮蔽板11を設けることが好ましい。遮蔽板11を設置することにより、オーバースプレー粉が遮蔽板11に当たり、部分回収ホッパー2にオーバースプレー粉が落下しやすくなると共に、塗装ブース1の内面へのオーバースプレー粉の付着をより効果的に防止することができる。
【0034】
また、図6に示すように、部分回収ホッパー2の上縁に、部分回収ホッパー2の上縁部に沿ってエアーカーテンを形成するエアー噴出管12を設置することにより、部分回収ホッパー2の領域外に漏れるオーバースプレー粉の量を低減させることも可能である。
【0035】
図2は、この発明に係る粉体塗装装置の全体フローを示している。
【0036】
塗装ブース1には、排気ダクト13が設置され、部分回収ホッパー2によって吸引しきれなかったオーバースプレー粉を吸引するようにしている。排気ダクト13は、カートリッジフィルター15を備える集塵機14の吸気管16に、ダクト17によって接続されている。
【0037】
塗装ブース1内に設置された部分回収ホッパー2は、吸引管5によってサイクロン式の吸引回収装置6に接続されている。サイクロン式の吸引回収装置6は、塗装ブース1内に設置された部分回収ホッパー2に接続されるものであるから、大型のものは必要でなく、小型のものでよい。
【0038】
サイクロン式の吸引回収装置6は、漏斗状または円筒状のサイクロン本体18の導入管7から搬送エアーと共に粉体塗料を吸引し、搬送エアーをサイクロン本体18の円の中心から上方の排気管19に排気させることにより、粉体塗料を遠心分離し、分離した粉体塗料をサイクロン本体18の壁面に衝突させ、その後重力によりサイクロン本体18の下部の回収タンク27に粉体塗料を回収する装置である。サイクロン本体18の排気管19から排気されるエアーは、ダクト20、ダクト17を介して、集塵機14に供給されている。
【0039】
サイクロン式の吸引回収装置6において回収したオーバースプレー粉は、搬送ホース21を経由して塗料タンク22へと送られる。塗料タンク22に回収されたオーバースプレー粉は、新粉と混合した後、インジェクター23から搬送ホース24を介して塗装ガン3に送られて再利用される。
【0040】
塗装ガン3は、精電粉体塗装ガンであり、帯電方式は、摩擦帯電式、コロナ帯電式のいずれでもよい。塗装ガン3は、レシプロケーター25によって、上下動可能に設置されている。
【0041】
塗装ブース1は、天井部にコンベア26が設置され、このコンベア26によって被塗物Bが塗装ブース1内を吊り下げられた状態で搬送され、塗装ブース1内で塗装ガン3から粉体塗料Aが被塗物Bに対して吹きつけられ、吹きつけられた粉体塗料Aのうち、被塗物に付着しなかったオーバースプレー粉の大部分は、下方の部分回収ホッパー2によって回収される。
【0042】
このように、この発明に係る粉体塗装装置においては、被塗物に付着しなかったオーバースプレー粉の大部分が、部分回収ホッパー2によって回収される。したがって、塗装ブース1内に漏れ出したオーバースプレー粉を再利用しなくても、再利用率にほとんど影響しない。このため、色替えの際に、塗装ブース1の内部や集塵機14を清掃することなく、そのまま使用することができる。
【0043】
そして、色替えの際は、塗装ブース1から部分回収ホッパーを引き出して、小さな部分回収ホッパー2とサイクロン式の吸引回収装置6を清掃するだけでよい。
【0044】
なお、上記部分回収ホッパー2は、塗装ブース1から引き出し可能であるため、この部分回収ホッパー2を既存の溶剤塗料用の塗装ブースに設置することにより、溶剤塗料用の塗装ブースを使用して簡単に粉体塗装を行うことも可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 塗装ブース
2 部分回収ホッパー
3 塗装ガン
4 ホッパー部
5 吸引管
6 吸引回収装置
7 導入管
8 軌道
9 車輪
10 ダクト
11 遮蔽板
12 エアー噴出管
13 排気ダクト
14 集塵機
15 カートリッジフィルター
16 吸気管
17 ダクト
18 サイクロン本体
19 排気管
20 ダクト
21 搬送ホース
22 塗料タンク
23 インジェクター
24 搬送ホース
25 レシプロケーター
26 コンベア
27 回収タンク
A 粉体塗料
B 被塗物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体塗料を噴霧する塗装ガンを設置した塗装ブースと、この塗装ブース内の粉体塗料噴霧位置の下方及び塗装ブース外に移動可能な部分回収ホッパーと、この部分回収ホッパーを塗装ブース内に設置した状態で部分回収ホッパーに接続されるオーバースプレー粉の吸引回収装置とを備える粉体塗装装置。
【請求項2】
塗装ガンに対向する被塗物の背面側と塗装ブースの内面との間に、オーバースプレー粉を遮蔽する遮蔽板を、部分回収ホッパーの上縁に設置したことを特徴とする請求項1記載の粉体塗装装置。
【請求項3】
部分回収ホッパーの上縁に、部分回収ホッパーの上縁部に沿ってエアーカーテンを形成するエアー噴出管を設置したことを特徴とする請求項1又は2記載の粉体塗装装置。
【請求項4】
塗装ブースの底面に、塗装ブースを貫通する軌道を設置し、この軌道上を走行する車輪を部分回収ホッパーの下面に設置した請求項1〜3のいずれかの項に記載の粉体塗装装置。
【請求項5】
塗装ブースに粉体塗料を噴霧する塗装ガンを設置し、この塗装ブース内の粉体塗料噴霧位置の下方と塗装ブース外に移動可能な部分回収ホッパーを設け、部分回収ホッパーを塗装ブース内に設置した状態で部分回収ホッパーに、オーバースプレー粉の吸引回収装置を接続してオーバースプレー粉を回収し、部分回収ホッパーによって回収した回収粉を塗装ガンに供給して再利用し、色替えの際に、部分回収ホッパーを塗装ブース外に引き出して清掃を行うことを特徴とする粉体塗装方法。
【請求項6】
上記部分回収ホッパーを複数用意し、少なくとも一つの部分回収ホッパーを塗装ブース内に設置して塗装作業を行い、他の塗装ブースを塗装ブース外に引き出して、塗装作業中に、他の塗装ブースの清掃を可能にしたことを特徴とする請求項5に記載の粉体塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−247026(P2010−247026A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97100(P2009−97100)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)
【Fターム(参考)】