説明

粉体用分散剤およびセメント分散剤

【課題】 分散性に優れる粉体用分散剤を提供する。
【解決手段】 水溶性のリグノフェノール系化合物誘導体からなる粉体用分散剤である。好ましくは、ポリアルキレンオキシド鎖、カルボキシル基、スルホニル基などの官能基を有するものである。本発明の粉体用分散剤は、セメント分散剤として好ましく使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性のリグノフェノール系化合物誘導体からなる粉体用分散剤、および該分散剤からなるセメント分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、パルプ排液からリグニンが回収されており、このリグニンを変性してリグニン誘導体を得る方法が報告されている。このような変性リグニンの一種であるリグニンスルホン酸は木材を亜硫酸塩水溶液で処理して得られ、長年にわたりセメント分散剤として使用されている。
【0003】
変性リグニンとして上記以外に、例えば天然リグニンに含まれるアルコール性またはフェノール性水酸基をアルカリ処理し、これを溶媒中へ分散し、次いでモノハロゲノアルキルカルボン酸を作用させてカルボキシアルキル化リグニン誘導体を製造する方法が開示されている(特許文献1)。該方法によれば、アルカリ処理によりアルコール性またはフェノール性水酸基の分極が大きくなりカルボキシアルキル化を高めることができ、溶媒中に分散することでモノハロゲノアルキルカルボン酸の加水分解を抑制してリグニン中のアルコール性および/またはフェノール性水酸基のカルボキシアルキル化反応を十分にできる、というものである。該誘導体は、リグニン本来の持つ分子の網目構造による立体障害およびカルボキシル基による吸着、反発効果によって親水性の粉体に対して凝集抑制効果を有するため、粉体用分散剤として有用である。なお、原料として使用するリグニンは、木材チップを酢酸および塩酸を用いて高温で蒸煮して得られる酢酸蒸解リグニンや、高圧の飽和水蒸気圧を瞬間に開放して木材を粉砕して得られる蒸煮爆砕リグニン、または水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムとの混合水溶液を蒸解液として使用し、高温で木材チップを蒸解することで得られるクラフトリグニンなどである。
【0004】
また、広範囲のpH領域の水溶液に対して溶解性を有する酢酸蒸解リグニンおよび蒸煮爆砕リグニンの変性物もある。具体的には、酢酸蒸解リグニンまたは/および蒸煮爆砕リグニンのカルボキシアルキル化物であってpH3〜13で水溶性を示し、赤外吸収スペクトルの測定による1,750cm−1付近のカルボン酸陰イオンの吸収強度が増大し、かつ1,050cm−1付近のアルコール性水酸基の吸収強度が相対的に減少してなるカルボキシアルキル化リグニン誘導体である(特許文献2)。酢酸爆砕リグニンや蒸煮爆砕リグニンのアルコール性もしくはフェノール性水酸基をカルボキシルアルキル化して、pH3〜13の範囲でも水溶性に優れるリグニン誘導体を得る、というものである。
【0005】
一方、植物資源から得たリグノフェノールおよびその誘導体を水溶性架橋剤を用いて架橋ポリマーとし、高い吸水性特性を有するハイドロゲルとして使用する方法もある(非特許文献1)。該報告は植物資源の有効利用の一環として開発されたものであり、セルロースと立体的にからみあうため抽出が困難であり、このため使用頻度が低かったリグニンを有効利用するものであり、かつ製品として一次利用された後に廃棄前に分子レベルに資源変換して新たな製品をつくる資源循環システムを提案するものである。該工程で得られるリグノフェノールを架橋することで吸水特性に優れるハイドロゲルを形成させている。なお、植物体はセルロースなどの親水性炭水化物と、疎水性のリグニンとの複合体として構築されていることに着目し、構成炭水化物およびリグニンに対しそれぞれ相互に混合しない別の溶媒系を設定し、異なる相で個々に構造変換する、いわゆる相分離システムによってリグニンを分離している。
【特許文献1】特開平5−302097号公報
【特許文献2】特開平6−49223号公報
【非特許文献1】平成14年度岐阜県生活技術研究所研究報告 No.5、第26〜33頁、関範雄等
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
植物は貴重な天然資源であり、主成分であるセルロースとリグニンとを簡便に分離し、その双方を効率的に利用できることが好ましい。しかしながら、上記特許文献1や特許文献2記載の方法は、酢酸蒸解リグニンなど予め植物から単離されたリグニンを原料とするものであるため、木材チップに含まれるセルロースとの分離効率に関する記載はない。
【0007】
また、非特許文献1記載の方法では、いわゆる相分離システムを採用するためセルロースとリグニンとの分離性に優れるが、得られたリグノフェノール誘導体は吸水特性に限定されるため、他の用途の開発が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、植物資源にフェノール類を作用させてリグニンをフェノール化するとリグニンとセルロースとの分離が容易となり、いわゆる相分離システムによって植物資源を有効利用できること、および得られたリグノフェノールを誘導体化すると、水溶性に優れるリグノフェノール系化合物誘導体が合成できること、特にリグノフェノール系化合物誘導体の水溶液やこのような水溶性のリグノフェノール系化合物誘導体の粉末は、他の粉体に添加するとその粉体の分散性を向上させ得ることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0009】
本発明の粉体用分散剤は、セルロースとの分離工程で単離されるリグノフェノール系化合物を原料として調製することができる。本発明の粉体状分散剤は、リグノフェノール系化合物誘導体を水溶液に溶解して液剤として使用することができ、乾燥物を粉砕して粒子状の粉体用分散剤として使用することができ、多様な形態で粉体用分散性として使用することができる。特に、セメント分散剤として使用する場合には、セメント粉体の流動性を確保できるだけでなく、少量の水でセメント混和物を調製して流動性に優れるセメント混和物とすることができるため、減水効果によってセメント硬化時間の短縮、強度の付加が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の第一は、水溶性のリグノフェノール系化合物誘導体からなる粉体用分散剤である。本発明の粉体用分散剤は、リグノフェノール類を基本骨格に有し、これに置換基などを導入して誘導体化したものであり、水溶性に優れ、粉体に混和した場合にその粉体の分散性を向上し得る。
【0011】
リグニンは、セルロースやヘミセルロースと共に森林資源に含まれる有用成分であり、細胞隙間に充填され細胞間の接着物質として働く成分である。天然物であるため化学構造は明確でないが、一般にフェニルプロパンを骨格とする構成単位体が縮合してできた網状高分子化合物である。天然リグニンに含まれるベンゼン環にはフェノール性水酸基および/またはアルコキシ基が存在し得る。図1に天然リグニンの構成単位の一例を示し、図2にリグノフェノール基本骨格中へのフェノール類の導入様式を示す。図3に、リグノフェノール系化合物の一例としてリグノクレゾールの模式構造図を示す。
【0012】
本発明において、「リグノフェノール系化合物誘導体」とは、リグノフェノール系化合物を構造の一部に含む化合物である。従って、リグノフェノール系化合物に置換基を導入したもの、リグノフェノール系化合物の架橋体などが含まれる。また、「リグノフェノール系化合物」とは、リグニンにフェノール類が結合したものである。フェノール類の結合位置、結合数、結合形態などは限定されない。「水溶性」とは、pH3〜13の範囲で、温度25℃のイオン交換水100gに0.01〜1,900g溶解することをいう。
【0013】
本発明におけるフェノール類とは、少なくとも1個以上のフェノール性水酸基が結合した化合物である。一価のフェノールとしては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、3,5−キシレノール、カルバクロール、チモール、α−ナフトール、β−ナフトールなどがある。2価のフェノールとしてはカテコール、レゾルシン、ヒドロキノンがあり、三価のフェノールとしては、ピロガロール、フロログルシンなどが好適に使用できる。リグノフェノール系化合物としては、リグノフェノール、リグノクレゾール、リグノ−2,4−キシレノール、リグノ−2,6−シキレノール、リグノ−2−メトキシ−4−メチルフェノール、リグノカテコール、リグノレゾルシン、リグノピロガノールなどがある。本発明では、これらの一種以上がリグニンに結合していればよい。したがって、リグノフェノール系化合物としては、リグノフェノール、リグノクレゾールなどのようにリグニンにフェノール類が1種付加した化合物のほかに、リグノフェノールクレゾールなどのように2種以上のフェノール類が付加した化合物であってもよい。天然リグニンに対するフェノール類の導入量は、1〜60質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜55質量%、特に好ましくは1〜50質量%である。1質量%を下回ると官能基の導入量が低下するため粉体分散性に劣る場合がある。一方、60質量%を超えると、未反応のフェノール類が残るという点で不利となる。リグノフェノール系化合物の重量平均分子量は、その後に導入する官能基の種類などによって適宜選択することができるが、1,000〜1,000,000であることが好ましく、より好ましくは1,000〜500,000、特には2,000〜100,000である。1,000を下回ると、分散性に劣る場合があり、一方1,000,000を超えると凝集剤として働く場合があり不利である。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPC)による、ポリエチレングリコール換算での値である。
【0014】
GPC測定条件
使用カラム:東ソー社製TSKguardcolumn SWXL+TSKgel G4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL
溶離液:水10999g、アセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶かし、更に30%水酸化ナトリウムでpH6.0に調整したものを用いる。
【0015】
打ち込み量:0.5%溶離液溶液100μL
溶離液流速:0.8mL/min
カラム温度:40℃
標準物質:ポリエチレングリコール、重量平均分子量(Mw)272500、219300、85000、46000、24000、12600、4250、7100、1470。
検量線次数:三次式
検出器:日本Waters社製 410 示差屈折検出器
解析ソフト:日本Waters社製 MILLENNIUM Ver.3.21
【0016】
本発明の粉体用分散剤として好適なリグノフェノール系化合物誘導体としては、上記リグノフェノール系化合物に各種官能基や長鎖親水性置換基を導入した化合物やリグノフェノール系化合物および/またはリグノフェノール系化合物誘導体の重合体並びにこれらの架橋体などがある。
【0017】
導入しうる官能基としては、カルボキシル基、スルホニル基、リン酸基等のアニオン性置換基;アミノ基、アミド基等のカチオン性置換基;アルコキシ基、カルボン酸エステル、リン酸エステル、硫酸エステル、水酸基、ニトリル基、チオール基等のノニオン性置換基;前記アニオン性置換基、カチオン性置換基、ノニオン性置換基を一部に含む有機基がある。なお、上記アニオン性置換基を一部に含む有機基としては、カルボキシアルキル基、スルホニルアルキル基、フォスフォアルキル基などがあり、カチオン性置換基を一部に含む有機基としては、アミノアルキル基などがあり、同様に、ノニオン性置換基を一部に含む有機基としては、アルキル基をRで示す場合に−OCHCHCOORなどのカルボン酸エステル含有基、−OCHCHCNで示されるカルボニトリル基などがある。
【0018】
なお、上記官能基の表示は、リグノフェノール系化合物の水素原子と置換していずれかに直接結合した場合を示すものである。リグノフェノール系化合物には、少なくともフェノール性水酸基があるため、該水酸基と反応させることで各種官能基および/または長鎖親水性置換基を導入することができるが、フェノール類に含まれる他の官能基と反応させてこれらを導入してもよく、更に、天然リグニンに由来する水酸基やアルコキシ基等と反応しうる化合物を作用させてこれらを導入することもできる。したがって、リグノフェノール系化合物に含まれるフェノール性水酸基(Ph−OH)を介して結合する場合には、上記官能基は酸素原子を介して結合される。例えば、カルボキシアルキル基であるカルボキシメチル基(−CHCOOH)がフェノール性水酸基(Ph−OH)を介して結合する場合には、Ph−OCHCOOHとなる。なお、水溶性のリグノフェノール系化合物誘導体は、含まれる酸基が中和され塩を形成していてもよい。このような塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどの第一族元素;マグネシウム、カルシウム、バリウムなどの第2族元素;エタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウム、トリエタノールアンモニウム等のアルカノールアンモニウムやトリエチルアンモニウムなどのプロトン化した有機アミンである有機アンモニウム;さらにアンモニウムなどを使用することができる。
【0019】
上記したアニオン性置換基の導入量は、粉体用分散剤として添加する粉体の種類によっても異なるが、一般にはリグノフェノール1分子あたりの水酸基に対し、0.1〜100モル%であることが好ましく、より好ましくは1〜100モル%、特には5〜100モル%である。0.1モル%を下回ると、水溶性に劣る場合がある。
【0020】
カチオン性置換基の導入量は、一般にはリグノフェノール1分子あたりの水酸基に対し、0.1〜100モル%であることが好ましく、より好ましくは1〜100モル%、特には5〜100モル%である。0.1モル%を下回ると、水溶性に劣る場合がある。
【0021】
ノニオン性置換基の導入量は、一般にはリグノフェノール1分子あたりの水酸基に対し、0.1〜100モル%であることが好ましく、より好ましくは1〜100モル%、特には5〜100モル%である。0.1モル%を下回ると、水溶性に劣る場合がある。
【0022】
本発明で使用するリグノフェノール系化合物に導入しうる長鎖親水性置換基としては、ポリアルキレンオキシド鎖、重合性単量体の単独重合体または2種以上の共重合体鎖、水溶性多糖類鎖、ポリアミノ酸鎖、ポリアセタールなどがある。リグノフェノール系化合物誘導体に導入されるポリアルキレンオキシド鎖としては、−O−(YO)n−Rで示されるものが好適である。ここに、YOはオキシアルキレンを示し、nはオキシアルキレンの重合度を示し、Rは水素原子または炭素数1〜30のアルキル基を示す。本発明では、YOは炭素数2〜4のオキシアルキレンであることが好ましく、n個のオキシアルキレンは、同一でも異なっていてもよく、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい。nは1〜200であることが好ましい。
【0023】
長鎖親水性置換基を構成する重合性単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクロレイン、メタクロレイン、アクロニトリル、メタクリルアミド、アクリルアミド、マレイン酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸などのα,β−不飽和カルボニル化合物やその誘導体などがある。例えば、α,β−不飽和カルボニル化合物やその誘導体、3−メチル−3−ブテン−1−オール、(メタ)アリルアルコール、3−ブテン−1−オール等の炭素数1から30の不飽和アルコールなどがある。本発明では、これら重合性単量体の単独重合体鎖のほか、これらの2種以上の共重合体鎖を使用してもよい。これらの中でも、本発明ではアクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アリルアルコール、3−メチル−3−ブテン−1−オールのいずれか1種以上を含む重合体鎖を付加することが好ましい。リグフェノール系化合物に導入する長鎖親水基は、誘導される化合物の溶解度が、0.01〜95質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜70質量%である。
【0024】
水溶性多糖類鎖としては、セルロース、酢酸セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルエチルセルロース、ヘミセルロース、デンプン、メチルデンプン、エチルデンプン、メチルエチルデンプン、寒天、カラギーナン、アルギン酸、ペクチン酸、グアーガム、タマリンドガム、ローカストビーンガム、コンニャクマンナン、デキストラン、ザンサンガム、プルラン、ゲランガム、キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヒアルロン酸等があり、水溶性多糖類としては、多糖類をカルボキシアルキル化、ヒドロキシアルキル化した化合物がある。具体的には、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、デンプングリコール酸、寒天誘導体、カラギーナン誘導体等が挙げられる。これら水溶性多糖類は、単独で使用してもよく、また、二種類以上を適宜混合して使用してもよい。リグフェノール系化合物に導入する水溶性多糖類鎖は、誘導される化合物の溶解度が、0.01〜95質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜70質量%である。
【0025】
ポリアミノ酸鎖としては、アミノ酸が脱水縮合したポリペプチドからなる。使用できるアミノ酸としては、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、プロリン、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、リジン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、プロリン、セリン、シスチン、アスパラギン酸、グルタミン酸、L−システイン酸、L−オルニチン、γ−アミノ酪酸、酸性アミノ酸のω−エステル、塩基性アミノ酸のN置換体を挙げることができる。これらのアミノ酸およびその誘導体は、光学活性体(L体、D体)であってもラセミ体であってもよい。なお、アミノ酸の誘導体としては、これらに更にアミノ基、カルボキシル基、リン酸基、ニトロ基、水酸基、スルホン基などの官能基、エステル結合、アミド結合、チオエステル結合、イミド等がある。これらアミノ酸やその誘導体は、単独で使用してもよく、また、二種類以上を適宜混合して使用してもよい。
【0026】
本発明で使用するポリアミノ酸鎖としては、上記単量体成分に加えて、他の共重合体の単量体成分を結合したものであってもよい。そのような他の単量体成分としては、アミノカルボン酸、スクシンイミド、アミノスルホン酸、アミノホスホン酸、ヒドロキシカルボン酸、メルカプトカルボン酸、メルカプトスルホン酸、メルカプトホスホン酸等が挙げられる。さらに、多価アミン、多価アルコール、多価チオール、多価カルボン酸、多価スルホン酸、多価ホスホン酸、多価ヒドラジン化合物、多価カルバモイル化合物、多価スルホンアミド化合物、多価ホスホンアミド化合物、多価エポキシ化合物、多価イソシアナート化合物、多価イソチオシアナート化合物、多価アジリジン化合物、多価カーバメイト化合物、多価カルバミン酸化合物、多価オキサゾリン化合物、多価反応性不飽和結合化合物、多価金属等も挙げられる。本発明では、ポリアスパラギン酸の架橋体、ポリグルタミン酸の架橋体、ポリリジンの架橋体を使用することが好ましい。リグフェノール系化合物に導入するポリアミノ酸鎖は、誘導される化合物の溶解度が、0.01〜95質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜70質量%である。
【0027】
ポリアセタールは、アセタール結合を主鎖にする重合体であって、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類の重合体であり、α−ポリオキシメチレン、β−ポリオキシメチレン、γ−ポリオキシメチレン、δ−ポリオキシメチレン、ε−ポリオキシメチレン、ポリグリオキシル酸などがある。本発明では、ポリグリオキシル酸を好適に使用することができる。リグフェノール系化合物に導入するポリアセタール鎖は、誘導される化合物の溶解度が、0.01〜95質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜70質量%である。
【0028】
なお、上記長鎖親水性置換基には、更に、前記アニオン性官能基、ノニオン性官能基、カチオン性官能基が結合していてもよい。
【0029】
リグノフェノール系化合物誘導体としては、リグノフェノール系化合物の架橋体であってもよく、例えばリグノフェノール系化合物と反応し得る少なくとも2個の官能基を有する化合物を作用させたものがある。なお、リグノフェノール系化合物誘導体の架橋体であってもよい。
【0030】
本発明において粉体用分散剤として使用するには、リグノフェノール系化合物に好ましくはカルボキシル基やスルホン酸基などのアニオン性官能基を導入したもの、加水分解して酸基を生成しうるカルボン酸エステル基、リン酸エステル基および硫酸エステル基など、その他ポリアルキレンオキシド鎖などの長鎖親水性置換基を導入したものが好ましい。親水性の粉体に添加する際にリグノフェノール系化合物誘導体がアニオン性基を有すると、該アニオン性基が親水性の粉体粒子表面に吸着し、該粒子の凝集を抑制し、優れた分散性を発揮することができるからである。また、長鎖親水性置換基を導入して水溶性を確保した誘導体は、粉体の分散性に優れるとともに、水溶液中での粉体や粉体組成物の分散性も確保できるため好ましい。特に、上記水溶性のリグノフェノール系化合物誘導体をセメント分散剤として使用すると、セメント使用時に少量の水で混和しても均一組成のセメント組成物を調製することができ、分散効果によってセメント組成物の流動性を確保することができ、かつセメント埋設後には減水効果によってセメント硬化時間を短縮させることができる。同様に、加水分解して酸基を生成しうるカルボン酸エステル基、リン酸エステル基および硫酸エステル基等は、水性媒体の下でアルカリ性物質の添加によって速やかに加水分解反応が進行し、親水性のカルボキシイオンが発現するため、セメントなどのアルカリ性物質に分散剤として使用する場合にはセメント組成物の分散性、流動性を確保でき、減水効果によってセメント組成物の硬化時間を短縮することもでき好ましい。なお、セメント組成物に配合される粉体用分散剤としては、その併用する効果に応じて、セメント分散剤、セメント減水剤、セメント増粘剤、セメント分離低減剤、乾燥収縮低減剤等と称される。本発明では該誘導体の特性を選択することでいずれの用途にも好適に使用することができる。
【0031】
本発明において、上記官能基や長鎖親水性基等は、前記したようにリグノフェノール系化合物のいずれに置換していてもよい。以下に、本発明で好適に使用できる水溶性リグノフェノール系化合物誘導体の構造の一例を示す。これらは特にセメント分散剤として好適に使用することができる。
【0032】
【化1】

【0033】
本発明の粉体用分散剤は、剤形を問わない。従って、水溶性のリグノフェノール系化合物誘導体を溶解した液剤としてもよく、水溶性のリグノフェノール系化合物誘導体を乾燥および整粒し、粉末または顆粒剤としてもよい。液剤とする場合には、含まれる水溶性のリグノフェノール系化合物誘導体の濃度に制限はなく、誘導体の種類や溶解後の粘度、溶液中での安定性などによって適宜選択できる。一般には、0.01〜95質量%である。95質量%を超えると粘度が高くなりすぎ、粉体への混和が困難となる場合がある。
【0034】
一方、粉末剤の場合には、混合する粉体の種類やその粒径などによっても異なるが、一般には平均粒子径10〜1,000μm、好ましくは20〜500μm、より好ましくは50〜100μmである。平均粒子径が上記範囲を外れると粉体との混合性が低下する場合がある。なお、本発明で使用するリグノフェノール系化合物誘導体は、天然リグニンを構成するフェニルプロパン1モルに対して1〜6モルのフェノール類を結合することができ、結合したフェノール類は収率高く上記置換基を導入することができる。このため、従来のリグニン系化合物誘導体よりも分散性が高い。
【0035】
本発明の粉体用分散剤は、上記水溶性のリグノフェノール系化合物誘導体をそのまま粉体用分散剤として使用することができるが、その特性を損なわない範囲で、他の公知のセメント分散剤や他の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張剤、防水剤、遅延剤、急結剤、水溶性高分子物質、増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、硬化促進剤、消泡剤、高分子エマルジョン、防水剤、防錆剤などがある。
【0036】
本発明の粉体用分散剤の使用量は、水溶性のリグノフェノール系化合物誘導体に換算して、粉体100質量部に対して0.1〜50質量%配合すればよく、より好ましくは0.1〜25質量%、特に好ましくは0.1〜10質量%である。0.1質量%を下回ると分散性を発揮することが困難な場合があるが、一方50質量%を超えると、分散性は変化しないが大量の添加によって粉体用分散剤自体の影響がでる場合がある。
【0037】
本発明の粉体用分散剤は、セメント分散剤、顔料分散剤、染料分散剤、塗料分散剤として好適に使用することができる。
【0038】
本発明のセメント分散剤は、一般的な水硬性セメントに配合することができる。従って早強ポルトランドセメント、低発熱性ポルトランドセメント、高酸化鉄型ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等の特殊ポルトランドセメントの他、普通ポルトランドセメント、天然セメント、ローマンセメント、水硬性石灰、石灰混合セメント、混合ポルトランドセメント、アルミナセメント、ビーライト高含有セメント、各種混合セメント等に配合することができる。
【0039】
本発明のセメント分散剤の添加量は、セメントに対する固形分換算値で、0.1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%である。また、本発明のセメント分散剤を硬化促進剤あるいは急結剤として使用する場合には、セメントに対する固形分換算値で0.1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%である。本発明のセメント分散剤にセメントと水とを添加すれば、セメントペーストが得られ、これに細骨材である砂や粗骨材である小石を配合して、モルタルやコンクリートなどのセメント組成物を調製することができる。
【0040】
本発明の粉体用分散剤や本発明で使用する水溶性のリグノフェノール系化合物誘導体の製造方法に制限はなく、いずれの方法で製造することもできる。以下、本発明に好適な製造方法を説明する。
【0041】
(1)リグノフェノール系化合物の合成
原料として使用するリグノフェノール系化合物は、リグニンにフェノール類が結合した化合物である。その製造方法はいずれであってもよく、従来公知の方法で製造することができ市販品を購入してもよい。このようなリグノフェノール系化合物を製造するために、例えばアセトン脱脂された微粉化した植物にリグニンあたり1〜10モル倍のクレゾールを収着させ、次いでこの収着試料に硫酸を添加し攪拌してリグニンの水酸基にクレゾールを付加させる。これによって、一般には図2に示すようにα位、β位、γ位にフェノール類が結合する。これに大過剰の水を投入した後に不溶解沈殿物を遠心分離し、更に硫酸と未反応のクレゾールを水洗除去した後に乾燥する。これにアセトンを添加して一昼夜攪拌後、不溶物を遠心分離した後、エバポレーターで濃縮し、大過剰のジエチルエーテルに滴下し、その不溶解沈殿物を遠心分離および洗浄するとリグノクレゾールを得ることができる。クレゾールに代えてフェノール、3,5−キシレノール、ナフトール、カテコール、ピロガロールなど他のフェノール類を使用すれば、対応するリグノフェノール類を得ることができる。なお、リグノフェノールに水酸化ナトリウムなどのアルカリ性水溶液を作用させ、温度140℃以上で0.5〜12時間作用させると、リグノクレゾールを低分子量化することができる。反応時間やアルカリ濃度を調整すれば、分子量も調整することができる。
【0042】
本発明では、リグノフェノール系化合物を誘導体の原料とする点に特徴があるが、リグノフェノール系化合物は分散性に優れる誘導体を調製しやすいこと、および植物資源にフェノール類を作用して天然リグニンをリグノフェノール系化合物とすれば、セルロースとの分離が容易だからである。しかも、反応性に優れるフェノール類が付加されたため異なる特性を有するリグノフェノール系化合物誘導体を容易に合成することができる。本発明では、このようなリグノフェノール系化合物誘導体の中で、水溶性に優れるものが粉体用分散剤として好適に使用できることを見出した。天然リグニンにもフェノール性水酸基が含まれるが、本発明では天然リグニンに多量に付加したフェノール性水酸基に上記官能基などが導入され、これによって粉体の分散性に優れる誘導体となる点に特徴がある。
【0043】
(2)カルボキシアルキル化
カルボキシメチル化を一例とすれば、リグノフェノール系化合物またはアルカリ処理されたリグノフェノール系化合物をイソプロピルアルコールなどの溶媒で分散させ、水酸化ナトリウム水溶液を加えて静置する。これにイソプロピルアルコールを加え十分に静置する。この不均一混合溶液を攪拌下に温度20〜90℃に維持し、モノクロロ酢酸をイソプロピルアルコールに溶解させた液を徐々に添加し、更に温度20〜90℃で1〜10時間攪拌する。反応液を、水酸化ナトリウムを含むリグニン誘導体の塊状の沈殿物と一部溶解したリグニン誘導体を含むアルコール溶液とに分離する。アルコール溶液をエバポレータなどで留去し、溶解物を乾固させる。この乾固物に塩酸で中和し生じた沈殿を遠心分離などで除去し、上澄みを回収すると、リグノフェノール系化合物のカルボキシメチル化体が得られる。
【0044】
(3)アルキレンオキシドの付加
触媒量の塩基を加えたリグノフェノール系化合物にアルキレンオキシドを添加すると、水酸基と塩基により発生するアルコキシド部から、アルキレンオキシドの開環重合が進行しポリアルキレンオキシド鎖が付加される。また、触媒量の塩基を加えたリグノフェノール系化合物に、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリルリレートなどの基質中にエポキシと不飽和結合の2官能基とを有する化合物を添加し、アルコキシド部とエポキシ基とで開環付加を行なってリグノフェノールに反応性不飽和結合を加え、次いで長鎖親水性置換基を有する重合性単量体と共重合させる方法がある。
【0045】
(4)リグノフェノール系化合物へのスルホニル基の導入
リグノフェノール系化合物にスルホニル基を導入するには、リグノフェノール系化合物をpH1〜2の重亜硫酸塩溶液中で、130〜170℃で加熱する。また、リグノフェノールをアルカリ性水溶液に溶解させた後、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩を加え、50〜100℃で1〜10時間加熱してもスルホニル基を導入することができる。
【0046】
(5)他の官能基
例えば、カルボン酸エステル含有有機基、硫酸エステルエステル含有有機基、リン酸エステル含有有機基などを含む誘導体を製造するには、例えば、上記(3)に準じてリグノフェノール系化合物にアクリル酸を作用させ、該アクリル酸の二重結合を介してカルボン酸エステルを含有する重合性単量体、硫酸エステルを含有する重合性単量体、リン酸エステルを含有する重合性単量体などを重合または付加させて調製することができる。また、触媒量の塩基を加えたリグノフェノール系化合物に、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリルリレートなどの基質中にエポキシと不飽和結合の2官能基とを有する化合物を添加し、アルコキシド部とエポキシ基とで開環付加を行なってリグノフェノールに反応性不飽和結合を加え、次いでカルボン酸エステルや硫酸エステルを含有する重合性単量体やリン酸エステルを含有する重合性単量体と反応させると、これらの基を導入することができる。
【0047】
このような重合性単量体としては、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸等のスルホン酸基含有重合性単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ヒドロキシエチル等のカルボン酸エステル基含有重合性単量体、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシ−3−クロロプロピルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスフェート等の酸性リン酸エステル基含有重合性単量体などを挙げることができる。本発明では、これらの1種を単独で使用できるほか2種以上を併用することもできる。
【0048】
(6)リグノフェノール系化合物および/またはリグノフェノール系化合物誘導体の架橋体
リグノフェノール系化合物および/またはリグノフェノール系化合物誘導体の架橋体に水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液を作用させ、完全に溶解する。この溶液に架橋剤を加え、温度0〜100℃で反応させると、ゲル化物が得られる。なお、架橋剤としては、リグノフェノール系化合物および/またはリグノフェノール系化合物誘導体の架橋体に含まれる官能基と反応しうる2個以上の官能基を有する化合物を広く使用することができ、例えばポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルなどのポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンアクリレートメタクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルホスフェート、トリアリルアミン、ポリ(メタ)アリロキシアルカン、グリセロールジグリシジルエーテル、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、エチレンジアミン、ポリエチレンイミン、グリシジル(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリアリル、トリメチロールプロパンジ(メタ)アリルエーテル、テトラアリロキシエタン、グリセロールプロポキシトリアクリレートなどを挙げることが出来る。またこれらの架橋剤は2種以上使用してもよい。使用量はリグノフェノール系化合物に対して0.1〜10,000質量%が好ましく、10〜10,000質量%がより好ましく、10〜5,000質量%が最も好ましい。
【0049】
(7)粉体用分散剤
上記リグノフェノール系化合物誘導体から、液剤の粉体用分散剤を得るには、反応液をそのまま粉体用分散剤としてもよい。この際、粘度調整剤、pH調整剤などを添加してもよい。
【0050】
一方、粉末剤や顆粒剤とするには、得られたリグノフェノール系化合物誘導体は、ACMパルベライザー(ホソカワミクロン株式会社)、ターボミル(ターボ工業株式会社)、フィッツミル(ホソカワミクロン株式会社)、ロールグラニュレーター(日本グラニュレータ株式会社)などの粉砕機によって、粉末状、顆粒状等に粉砕することで粉末化できる。なお、粉体用分散剤に他の添加剤を配合する場合には、粉砕工程や整粒工程で添加してもよく、粉末化後に添加してもよい。
【実施例】
【0051】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
【0052】
(実施例1)
リグノクレゾール1gに48質量%水酸化ナトリウム3.48gを加え、均一なスラリーが出来るまで撹拌を続けた。できたスラリーに溶媒として1,4−ジオキサン20gを加えスラリーを分散させた。スラリー分散液を70℃まで加熱し、1.3gのクロロ酢酸の溶けた1,4−ジオキサン2gを30分かけて滴下した。反応の進行に伴ないスラリーが凝集したが、凝集がひどい場合には滴下を止め凝集体を崩し、滴下を再開した。滴下後、70℃で2時間熟成した。冷却後に溶媒である1,4−ジオキサンを瀘別した。残った固体をシクロヘキサンで洗浄し、100gの水を加えた。pHがアルカリ性を示したので10質量%の希塩酸で中和した。反応生成物は中性条件でも水に可溶であるため含まれる不溶物を瀘別し、水溶性の反応生成物を得た。
【0053】
該反応生成物溶液をエバポレーターで凝縮した後、系中に残るNaClを除去するために、分子量1,000用の透析膜を使用して脱塩した。脱塩後の溶液を濃縮し、変性リグノフェノールを含む黒褐色の水溶液を得た。これを粉体用分散剤(1)とする。該分散剤(1)の溶解度は0.01〜95質量%、分子量はMW;10,000から100,000であった。
【0054】
(実施例2)
リグノクレゾール2gに30質量%水酸化ナトリウム2g、イオン交換水20gを加え、均一な水溶液となるまで撹拌を続けた。できた水溶液に、過硫酸アンモニウム0.5gを加え60℃まで加熱した後に6時間攪拌を行った。
【0055】
該反応生成物溶液をエバポレーターで凝縮した後、系中に残るNaClを除去するために、分子量1,000用の透析膜を使用して脱塩した。脱塩後の溶液を濃縮し、変性リグノフェノールを含む黒褐色の水溶液を得た。反応後の水溶液を粉体用分散剤(2)とする。該分散剤(2)の溶解度は0.01〜95質量%、分子量はMW;10,000から100,000であった。
【0056】
(実施例3、比較例1、比較例2)
実施例1、実施例2で得た粉体用分散剤(1)、(2)のセメント組成物への水の添加量、フロー値、減水率、セメント組成物の空気量を測定した。なお、比較のために粉体用分散剤(1)に代えて変性前リグノフェノール(比較例1)、リグニンスルホン酸(比較例2)を添加して同様の操作した。結果を表1に示す。なお、各項目の測定方法は、以下の方法に従った。
【0057】
(1)フロー値
フロー値はセメント分散剤の減水性能を示す指標であり、20℃条件下で3分30秒間混練後のセメント組成物のフロー値で評価した。
【0058】
(i)セメント試験材料
フロー試験に必要なセメント組成物の調整は下記の材料を用いて行なった。
【0059】
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント製);200g
細骨材(豊浦標準砂:JIS R 5201);400g
セメントに対し、0.3質量%のセメント分散剤(1)および2質量%の消泡剤(NMB社の商品名「MA404」(ポリアルキレングリコール誘導体)を使用)を含むイオン交換水;130g
【0060】
(ii)セメント組成物の調製方法
ホバート型モルタルミキサー(型番N−50、ホバート社製)に、普通ポルトランドセメント200g、および細骨材400gを加え、低速で25秒間混練した。混練開始から25秒〜30秒の間に、セメント分散剤(1)と消泡剤とを含むイオン交換水130gを入れ、混練開始から30秒後で中速に変え混練した。中速で1分(混練開始から1分半)でボールの壁についたセメント組成物を練り返し(15秒)、再度中速で混練を行なった。混練開始から3分45秒後(混練時間3分半)でセメント組成物を得た。
【0061】
(iii)フロー値の測定方法
得られたセメント組成物を、高さ5cm、内径5.4cmのステンレス製の円筒に2回に分け入れて、1回ごとにガラス棒で10回ついた後に、円筒上部のセメント組成物を平らにならした。2〜3秒かけて円筒を持ち上げた。セメント組成物が自然に広がるので、広がったセメント組成物の最長部分と、最長部分と直角な位置の長さを測定し、フロー値とした。
【0062】
(2)空気量の測定
調整したセメント組成物の容積を500mlとしたときの重量を測定し、用いた材料の比重から空気量を測定した。
【0063】
(3)添加水量
セメント分散剤(1)を使用せずにセメント組成物のフロー値が100mmになるイオン交換水の添加量を求めた。
【0064】
ホバート型モルタルミキサー(型番N−50、ホバート社製)に、普通ポルトランドセメント200g、および細骨材400g、および消泡剤4gを加え、低速で25秒間混練した。混練開始から25秒〜30秒の間に、イオン交換水をいれ、混練開始から30秒後で中速に変え混練した。中速で1分(混練開始から1分半)でボールの壁についたセメント組成物を練り返し(15秒)、再度中速で混練を行なった。混練開始から3分45秒後(混練時間3分半)でセメント組成物を得た。このセメント組成物を使用し、イオン交換水の添加量を調整して、セメント組成物のフロー値が100mmになる水量を求めた。
【0065】
(4)減水性能の測定方法
実施例1で調製したセメント分散剤(1)をセメントに対して0.3質量%含有させ、上記(3)と同様にして、セメント組成物のフロー値が100mmとなる添加水量を求めた。
【0066】
ホバート型モルタルミキサー(型番N−50、ホバート社製)に、普通ポルトランドセメント200g、および細骨材400g、セメント分散剤(1)0.6g、および消泡剤4gを加え、低速で25秒間混練した。混練開始から25秒〜30秒の間に、イオン交換水をいれ、混練開始から30秒後で中速に変え混練した。中速で1分(混練開始から1分半)でボールの壁についたセメント組成物を練り返し(15秒)、再度中速で混練を行なった。混練開始から3分45秒後(混練時間3分半)でセメント組成物を得た。このセメント組成物を使用し、イオン交換水の添加量を調整して、セメント組成物のフロー値が100mmになる水量を求めた。これを減水後の水量とする。一方、上記(3)で得た水量と減水前の水量とする。これら、減水前の水量、減水後の水量を用いて下記式に従って減水率を算出した。
【0067】
【数1】

【0068】
【表1】

【0069】
実施例4
実施例1で得られた粉体用分散済(1)をエバポレータで脱水したところ、黒褐色の粉体を得た。減圧乾燥を行なった後に、乳鉢で微粉末とした。得られた粉体の粒径を、レーザー回折/散乱式粒度分布装置 LA−910(株式会社堀場製作所)を用い、分散用溶液にエタノールを使用し、超音波分散させながらバッチ式で測定した。得られた粒径は、平均粒子径(体積基準)で19.2μmであった。なお、測定時の分散溶媒は、リグノフェノール系化合物誘導体が溶解しないものであればよく、粉体用分散済(1)が水不溶のリグノフェノールであるため溶媒に水を利用した。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の水溶性のリグノフェノール系化合物誘導体からなる粉体用分散剤は分散性に優れ、特にセメント分散剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】天然リグニンの構成単位の一例を示す図である。
【図2】クレゾールが置換する場合のα位、β位、γ位を示す図である。
【図3】針葉樹リグノクレゾールの模式構造図を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性のリグノフェノール系化合物誘導体からなる粉体用分散剤。
【請求項2】
前記誘導体は、アニオン性官能基を有するものである、請求項1記載の粉体用分散剤。
【請求項3】
前記誘導体は、ポリアルキレンオキシド鎖を有するものである、請求項1または2記載の粉体用分散剤。
【請求項4】
溶媒中に該リグノフェノール系化合物誘導体を0.1〜95質量%含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の粉体用分散剤。
【請求項5】
該リグノフェノール系化合物誘導体の平均粒子径は10〜1,000μmである、請求項1〜3のいずれかに記載の粉体用分散剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の粉体用分散剤からなる、セメント分散剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−95445(P2006−95445A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−285116(P2004−285116)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】