説明

粉末アセチレン界面活性剤およびこれを含む組成物

【課題】セメントおよび他の用途での使用のための特性の良好な組み合わせを有する自由流れの新たな粉末界面活性剤を提供する。
【解決手段】構造(A)


;に従う化合物を担体の表面に有する粒子を含む組成物である。このような組成物は種々の用途、たとえばモルタルおよびセメントの調製に対して有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
粉末界面活性剤は、種々の工業用途および商業用途で使用されている。例としては、粉末塗料および粉末塗装、顔料粉末予混合物、接着剤、水処理添加剤(廃水およびボイラー水の処理等のための)、農薬、洗剤、油田用途、金属加工、高分子加工、押出成形、水性の再分散可能な粉末、高分子分散体、紙加工および塗工、テキスタイル用途、および鋳造塗装が挙げられる。典型的な従来の粉末界面活性剤としては、炭化水素油、ポリジメチルシロキサン、脂肪族アルコールエトキシレート、脂肪酸エステル誘導体、ポリグリコールおよびポリエーテルの単一成分または1または2以上のブレンド物のいずれかが挙げられる。そのような界面活性剤成分の支持体としてシリカ等の粒子状担体が用いられる場合もある。
【背景技術】
【0002】
粉末界面活性剤は、種々の粉末セメント建造物材料製品、たとえば、グラウト、プレキャストコンクリート、接合化合物および接着化合物、合成石膏、およびセルフレベリングモルタルを作製するための乾燥混合物(ドライミックス)において使用されてきた。特に、これらは、構造上の建造物要素のための、また建築用パネル、擁壁、床張り、タイル、防音壁、舗装材の建造のための装飾要素としての、およびセルフレベリング下地のための、打ち放し仕上げされた(すなわち、打ち放しのセメント質表面を有する)セメント構造物を製造するための処方にますます使用されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらの用途の多くに対し、水との混合において、良好な流れおよびセルフレベリング特性を有する混合物を与え、十分に長い処理時間枠(「オープンタイム」)を与えて混合の作業を促進し、モルタル組成物の初期の硬化(settinng)時間を通じて適切な長期持続性の脱気効率を与え、そして丈夫でかつ魅力ある外観の打ち放しコンクリート表面を与える処方が望まれている。
【0004】
所定の他の成分をセメント混合物に添加することは種々の望ましくない効果をもたらす場合があり、粉末界面活性剤が解決に役立つ場合がある。しかし、従来の粉末界面活性剤は、典型的には、このような処方の1または2以上の欠点に悩まされ、そしてこれにより、セメントおよび他の用途での使用のための特性の良好な組み合わせを有する、自由流れの新たな粉末界面活性剤に対する要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ある側面において、本発明は、構造(A)
【0006】
【化1】

【0007】

(但し、mが1でありかつRが構造(B)
【0008】
【化2】

【0009】
(式中nが3から7の整数である)に従うか、または、mが2でありかつRが構造(C)
【0010】
【化3】

【0011】
(式中pは1から10の整数である)に従うか、のいずれか)
に従う化合物を担体の表面に有する粒子を含む組成物を提供する。
【0012】
他の側面において、本発明は、セメント混合物の製造方法であって、水、粒子状のセメント質成分、および、構造(A)
【0013】
【化4】

【0014】

(但し、mが1でありかつRが構造(B)
【0015】
【化5】

【0016】
(式中nが3から7の整数である)に従う)
に従う化合物を担体の表面に有する粒子を含む組成物を組み合わせることを含む製造方法を提供する。
【0017】
さらに他の側面において、本発明は、セメント混合物の製造方法であって、水、粒子状のセメント質成分、および構造(A)
【0018】
【化6】

【0019】

(但し、mが2でありかつRが構造(C)
【0020】
【化7】

【0021】
(式中pは1から10の整数である)に従う)
に従う化合物を担体の表面に有する粒子を含む組成物を組み合わせることを含む製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、モルタル混合物の試験中の拡散、自己回復、およびセルフレベリングを示す。
【図2】図2は、本発明および従来の粉末界面活性剤を含むアルミノシリケートMFS系ドライミックスモルタルの流れにおける貯蔵時間および貯蔵温度の影響を示す。
【図3】図3は、本発明および従来の粉末界面活性剤を用いて得た硬化アルミノシリケートMFS系ドライミックスモルタルの表面品質における貯蔵時間および貯蔵温度の影響を説明するチャートである。
【図4】図4は、本発明および従来の粉末界面活性剤を用いて得たアルミノシリケートMFS系ドライミックスモルタルの表面品質を説明する写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
粉末界面活性剤
本発明は、構造(A)
【0024】
【化8】

【0025】

(但し、mが1でありかつRが構造(B)
【0026】
【化9】

【0027】
(式中nが3から7の整数である(典型的には、nは4から6であることができる))に従うか、または、mが2でありかつRが構造(C)
【0028】
【化10】

【0029】
(式中pは1から10、典型的には4から10の整数である)に従うか、のいずれか)
に従う化合物を担体の表面に有する粒子を含む粉末界面活性剤を提供する。
【0030】
mが2であり、かつRが構造(C)に従う態様の化合物は、エアプロダクツ アンド ケミカルズ,アレンタウン,PA,から、商標名DYNOL(商標)604 Surfactant(界面活性剤)で市販により入手可能であり、以下に示される。
【0031】
【化11】

【0032】
mが1であり、かつRが構造(B)に従う態様の化合物は、エアプロダクツから、商標名SURFYNOL(登録商標)MD−20 Molecular Defoamer(分子消泡剤)で入手可能であり、以下に示される。
【0033】
【化12】

【0034】
担体は、任意の粒子状材料であることができ、有機または無機のいずれかであることができ、典型的な例であるシリカおよびゼオライトを伴うことができる。典型的には、シリカ(SiO2)粉末等の無機、非晶性の材料である。ある態様では、担体は単分散または二分散の、自由流れの、平均(mean)粒子サイズD(1,0.5)が5μmから100μm、典型的には5μmから25μmで、体積重量直径平均(volume weight diameter average)D(3,4)が10μmから50μmの非晶性シリカ粉末である。典型的には、BET(Brunauer−Emmett−Teller)N2収着法で測定される比表面積または内部表面積が少なくとも50m2/g、より典型的には少なくとも100m2/g、最も典型的には少なくとも150m2/gである。好適なシリカの例としては、HISIL(登録商標)233 沈降シリカ,PPGインダストリー社から入手可能、および、SIPERNAT(登録商標)22 沈降シリカ、デグッサから入手可能、が挙げられる。
【0035】
他の好適なシリカとしては、固体の稠度(solid consistency)が緩み緻密な空隙構造となった弾性の無定形シリカが挙げられ、該シリカは、高度に縮合した(condensed)ポリケイ酸の形で存在する。このようなシリカは、非晶性または半結晶性であり、かつ、該材料の外側の層が実質的に乾燥していると思われるように、構造(A)に従う化合物を吸着させることが可能である。ある態様では、固体支持体は多孔性であり、かつ、特にその空隙の体積またはその比表面積によって示される高い空隙率のための手段を有することができる。空隙はマクロ孔、メソ孔および/またはミクロ孔の形であることができる。ゼオライト、たとえばNaA型およびNaX型のゼオライトもまた好ましい。
【0036】
リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ポリホスフェート、カオリン、白亜、微滑石粉、および硫酸バリウム等の無機粉末もまた担体として使用できる。鉱物酸化物サスペンション(たとえば、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、二酸化チタン)等のコロイド物質または、ポリ(スチレンブタジエン)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカルボキシレート、ポリウレタン、セルロース誘導体およびスターチを含む再分散可能な高分子分散体粉末もまた担体として使用できる。
【0037】
化合物(A)の担体上への添加量(loading)は任意の質量パーセントであってよいが、典型的には、10から75wt%、より典型的には40wt%から75wt%であることができる。例において示されるように、本発明に係る粉末界面活性剤は、構造(A)の化合物を好適な溶剤から担体上に堆積させることにより作製できる。
【0038】
粉末界面活性剤は、構造(A)の化合物を、典型的には40から75wt%、より典型的には42wt%から50wt%、そして最も典型的には48から50wt%含む。典型的にこれは、5から10wt%の水を含む。粒子サイズ分布は、単分散、二分散または多分散であり、そして典型的には、メジアン粒子サイズD(1,0.5)が5μmから100μmの間、より典型的には5μmから25μmの間、そして体積重量直径平均D(3.4)が10μmから50μmの間を与える。D(3.4),体積重量直径平均、体積−重量モーメント平均直径とも称される、は、P.Bowen,J.Dispers.Sci.Technol.23(5)(2002)631に規定される。モーメントz=3で粒子サイズ分布の統計量から平均直径がもたらされる。
【0039】
粉末体積分率は、典型的には0.70から1.00、より典型的には0.70から0.80であり、そして粉末見掛け密度は、典型的には0.3から0.8g/cm3およびより典型的には0.45から0.71g/cm3である。
【0040】
粉末界面活性剤の粉末粘度は、典型的には、5rpmで60Pa.sから200Pa.s、50rpmで2Pa.sから20Pa.s、および200rpmで0.5Pa.sから5Pa.sである。より典型的には、該粘度は、5rpmで68Pa.sから169Pa.s、50rpmで4.5Pa.sから15.5Pa.s、および200rpmで500mPa.sから2.2Pa.sである。たとえば、該粘度は、5rpmで約124Pa.s、50rpmで約11Pa.s、そして200rpmで約2000mPa.sであることができる。チキソトロピー指数(以下の例のセクションで規定される)は、1から12の範囲内であることができ、そして典型的には約10である。例で記載される試験方法に係る粉末界面活性剤の流動時間は、典型的には3秒未満であり、そしてある態様では、1秒未満である。例で記載される方法に係る粉塵放出(dust release)は、典型的には4または5である。
【0041】
他の含有物
本発明の粉末界面活性剤は、任意の多くの他の成分と組み合わせることができ、次いでこれをモルタルドライミックスまたは他の組成物に添加することができる。このような他の含有物の例としては、湿潤剤、フロー剤およびレベリング剤、収縮低減剤、減水剤、ナフタレンスルホネート、ポリスチレンスルホネート、ホスフェート、ホスホネート、アクリル酸およびその塩の架橋したホモポリマーまたはコポリマー、1から4の炭素原子を有する有機酸のカルシウム塩、アルカン酸の塩、硫酸アルミニウム、金属アルミニウム、ベントナイト、モンモリロナイト、セピオライト(海泡石)、ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール、および酢酸ビニル、マレイン酸エステル、エチレン、スチレン、ブタジエン、ビニルバーサテート、およびアクリルのモノマーに基づくホモポリマー、コポリマーまたはターポリマー、空気連行剤および/または脱気剤、ならびにポリビニルアセテート、ポリエチレン−ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、および、酢酸ビニル、マレイン酸エステル、エチレン、スチレン、ブタジエン、ビニルバーサテート、およびアクリルのモノマーに基づくホモポリマー、コポリマーまたはターポリマー等の再分散可能な分散体粉末が挙げられる。
【0042】
他の可能な成分としては、スチール繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、ポリオレフィン(PE,PP)繊維、ポリエステル繊維、およびポリアミド繊維等の短繊維または長繊維が挙げられる。レオロジー調整剤(セルロース含有および多糖の添加剤、スターチ等、キサンタンガム等のバイオポリマー)およびアルカリ膨潤性のアクリル結合性(associative)増粘剤(セルロースおよび/またはメタ(アクリル)官能性を含む)もまた、砂またはクレー等の細かいおよび/または粗い集合体および/またはフィラーと同様に使用できる。他の無機セメント成分としては、ジプサム、高炉スラッグ、フライアッシュ、硫酸アルミニウム、金属アルミニウム、ベントナイト、モンモリロナイト、およびセピオライトが、染料、顔料および微粉末化着色剤と同様に挙げられる。他の機能的な添加剤としては、硬化促進剤および/または硬化遅延剤、撥水剤、疎水化剤、腐食防止剤、難燃剤、殺生物剤、殺菌剤が挙げられる。
【0043】
粉末界面活性剤を用いたセメント組成物
本発明の粉末界面活性剤は、組成物が粒子状セメント質含有物を含む、すなわち水の添加で硬化および水和した塊を形成し得るように作られることにより、任意の種々のセメント組成物において使用できる。セメント質成分は、当該技術で公知の任意の材料を含むことができ、そして、たとえばアルミノシリケートまたはポルトランドセメント(セメントCEM I型として、European EN 197−1 normにより特定される)を含むことができる。ASTM C 150およびEN 197−1で特定される8つの型のポルトランドセメントに加えて、「工場製コンポジットセメント(factory−made composite cements)」とよばれる多数の特殊な目的の水硬セメントの型:EN 197−1 normによるCEM II、CEM III、CEM IVおよびCEM Vが好適である。これらの例としては、(i)ブレンドされた水硬セメント(2以上の型のセメント質材料:ポルトランドセメント、挽いた粒状の高炉スラッグ、フライアッシュ、天然ポゾラン、およびフュームドシリカを密にブレンドすることにより作製される)、ならびに(ii)膨張性セメント((1)乾燥収縮による体積減少を補償するため、(2)補強において引張応力を生じさせるため、そして(3)ポストテンショニングされたコンクリート構造物の長期寸法を安定化させるため、に使用される収縮補償コンクリートを作製するために使用される)、スルフェート耐性セメント(鉱物相トリカルシウムアルミネート(C3A)の量を制限し、これによりそのスルフェート耐性を増大させるために高濃度の酸化鉄を含むもの)が挙げられる。ジオポリマーセメント(水溶性アルカリシリケートとメタカオリン等のアルミノシリケート鉱物粉末との混合物から作製される)、スラッグセメント(挽いた粒状の高炉スラッグで作製される)、およびトリカルシウムアルミネートセメント(主に石灰石およびボーキサイトから作製される)もまた好適である。
【0044】
一般的に、ドライミックスモルタル組成物は、少なくとも水硬セメントおよび不活性鉱物フィラー(石灰石)、粗いまたは細かい固体集合体(水溶性シリケートを含む)、再分散可能な可塑剤または減水剤およびシリカヒューム、補強繊維(ガラスまたはポリマーの繊維)、保存料等の(しかしこれに限定されない)さらなる含有物、ならびに疎水化剤および水を含む。
【0045】
ある態様において、セメント組成物は、当該技術で公知の「ドライミックス」組成物等の乾燥組成物である。このような組成物は、粉末化、予混合された組成物であり、好適な量の水の添加により硬化して所望の構造を形成するスラリーを形成する。
【0046】
ある態様において、本発明の粉末界面活性剤を含むセメント組成物は、本質的に所定の他の添加剤、たとえば水和度および/または空気連行特性を変化させ得るもの、を含まない。このような成分としては、たとえばアンモニウムイオン、スルフェートイオン、およびポリオルガノシロキサン(シリコーン)が挙げられる。
【0047】
用途
本発明に係る粉末界面活性剤は、多数の製品用途に用途を見出すことができる。例としては、ジョイントフィラー、パテ、マスチックおよびシーラントが挙げられる。他の例は、ペーストおよび漆喰(接着向上、オープンタイム向上および表面外観改善のための)、レベリング化合物およびセルフレベリング化合物、床張り用化合物、スクリード(たとえばセメントおよび無水物系)、フィラー、スパックル(spackles)、および床張りスクリード、セメント(たとえば、セメント挽き、セメント疎水化およびセメント被覆のための)等のジプサム系製品である。さらなる用途としては、テラゾ、吹き付けコンクリート、グラウト、およびタイル接着剤が挙げられる。他の例としては、モルタル、特に、石工、セルフレベリング下地(SLU)およびコンクリート用修理モルタルのためのドライミックスモルタル、ならびに種々の型のいずれかのコンクリート材料、特に自己充填コンクリートが挙げられる。
【0048】
本発明の粉末界面活性剤は、典型的には、ドライミックスセメント組成物に含まれる際の湿潤および泡制御の組み合わせを長期安定性と同時に提供する。これらの結果を実現するのに必要な使用レベルは、典型的には低く、しばしば、乾燥セメント処方の残りに対して0.05wt%未満である。
【0049】
所定の成分をセメント混合物に添加することは種々の望ましくない効果をもたらすことがあり、本発明の粉末界面活性剤はその解決に役立つ場合がある。たとえば、モルタルおよびコンクリートの作製において、典型的には、水の使用量が少ないほど、モルタルまたはコンクリートは強くなることができる。しかし、水の量を低減することにより、湿潤混合物の流れが妨げられる傾向がある。これを解決するために、流れを改善する目的で「超可塑剤」を使用してもよい。超可塑剤のある部類としては、スルホ修飾されたメラミン−ホルムアルデヒド縮合物が挙げられる。これらはメラミンホルムアルデヒドスルホネート(MFS’s)およびスルホン酸化したメラミン−ホルムアルデヒド縮合物(SMF’s)を含む。このような超可塑剤の欠点は、ドライミックスモルタル組成物中に含まれる場合、これらが与える初期の良好な可塑性および加工性は、一旦ドライミックスモルタル組成物に添加されると長時間維持されず(スランプ低下)、そして、モルタルまたはコンクリートのドライミックス組成物の貯蔵、たとえば高温で長期間の(28日間の60℃での)貯蔵、により実質的に失われることである。スルホ修飾されたメラミン−ホルムアルデヒド縮合物の第2の欠点は、これらがセメント混合工程中にコンクリート中で気泡を連行する傾向にあることである。制御されていない気泡の連行により、得られるドライミックスモルタルまたは自己充填コンクリートの構造物の機械強度および表面外観に悪影響が及ぶ場合がある。
【0050】
これらのおよび他の問題を処理するため、モルタル中およびセメント中で、スルホ修飾されたメラミン−ホルムアルデヒド縮合物と併せて粉末界面活性剤が使用されてきた。しかし、従来の粉末界面活性剤は空気の脱気を促進するものの、これらは、スルホ修飾されたメラミン−ホルムアルデヒド縮合物の超可塑剤によって与えられるその他の良好な流れおよびセルフレベリングを損なう傾向がある。
【0051】
他の部類の超可塑剤、ポリカルボキシレートエーテル(PCE’s)は、スルホ修飾されたメラミン−ホルムアルデヒド縮合物と同じ利点の多くを与えるが、これらを含むドライミックス組成物は、典型的には、常温および高温での長期安定性に乏しく、しばしば、劇的に乏しいモルタル可塑化およびこれらのただでさえ高い空気連行傾向の増大をもたらす。さらなる欠点はこれらの制限されたセルフレベリング能力である。したがって、SURFYNOL(登録商標)104S等の粉末界面活性剤、または鉱物油もしくはシリコーン化学物質もしくはポリエーテルもしくはポリグリコール化学物質に基づく粉末界面活性剤を、これらの欠陥の解決に役立つ「湿潤剤」として使用できる。粉末界面活性剤によってその性能が改善され得る他の超可塑剤としては、ナフタレンホルムアルデヒドスルホネート、カゼイン、およびリグニンスルホネートが挙げられる。
【0052】
しかし、従来の粉末界面活性剤は、典型的には、上記の打ち放し仕上げされたセメント構造物の作製に関する1または2以上の欠点に悩まされる。従来の粉末界面活性剤の第1の欠点は、延長されたモルタルオープンタイムを与える一方で、高い流動性およびセルフレベリングを維持する能力がないことである。
【0053】
さらに、セルフレベリングモルタルの空気量は、典型的には、2vol%未満、そして最適には約1vol%であることが望まれる。従来の粉末界面活性剤は、混合物を脱気して空気連行のこのレベルを実現するために使用できるが、これらは典型的には、これらの推奨される使用レベルであるドライミックス質量に対して0.15wt%で初期の硬化時間の間に比較的均一な程度にはこれを付与できない。この典型的な結果は、モルタルレオロジーおよび表面外観において不利な結果である場合がある。
【0054】
いずれの特別な理論または説明による制約も要さず、新たなモルタル組成物は、2つの成分:気体の空気相および流動性のモルタル相、の混合物と見なせると考えられる。空気は、組成物の混合中に組み込まれるとともに、固体粒子表面でのその存在によってモルタル組成物中にもともと存在し、超可塑剤分子は、この空気を新たなモルタル組成物中で泡の形で安定化する。従来の粉末界面活性剤の添加により、空気量が低減し、超可塑剤が解放され、次いでこれが多数粒子表面(セメントまたは集合体)に吸着し、そしてこれにより流動性のモルタルがより効果的に潤滑される。これにより、粘塑性挙動(ビンガム型流体)がもたらされる。しかし、泡放出の程度は良好には制御されておらず、過度に急速(おそらく、分子の消泡機構よりも、不和合性機構による界面活性剤の操作に起因する)になり、セルフレベリングモルタルの空気/モルタル界面表面で大きな泡が出現するという結果となる。これにより表面欠陥が生じる。
【0055】
従来の粉末界面活性剤を0.15wt%未満のレベルで使用することにより、典型的には、モルタル空気量が目的の2vol%よりも高くなるに至り、そして、ピンホール、非球の欠陥孔および不規則な空気腔の1mmを超える形成がもたらされる。これらは、モルタルの表面品質、耐候性、凍結/解凍耐クラック性、耐化学汚染性および最大圧縮強度を低下させる。しかし、これらの問題を解決するために従来の粉末界面活性剤の使用レベルを0.15wt%超に増大させると、これにより空気量の値が1vol%を顕著に下回り、モルタルの乾燥密度および圧縮強度が改善される一方でモルタルの加工性および可塑性の劇的な損失がしばしば生じる。(良好な機械圧縮強度も維持する一方で良好な凍結−解凍耐クラック性を有するセルフレベリングモルタルを得るためには、1vol%±0.1vol%の空気量が望ましい)したがって従来の粉末界面活性剤は、典型的には、1vol%の空気量と最高の品質および耐久性のモルタル表面との両方を与えることができない。
【0056】
一方、本発明の粉末界面活性剤は、典型的には、長期間持続する脱気能力を有し、すなわちこれらは、流動性のモルタルが過度に粘性になり硬化するまで比較的一定な脱気度を維持する。このことは表面での気泡およびピンホールの形成を最小化し、これにより、高価な表面の修正または修理の必要性を最小化またはさらには排除する一方でより高品質の表面を与え、そして該表面の耐久性を増大させる。
【0057】
従来の粉末界面活性剤を含むドライミックス組成物は、典型的には、貯蔵安定性が制限され(しばしば6ヶ月未満)、自己回復性能またはセルフレベリング性能が不十分であり、そして表面品質が不十分な構造を形成する。さらに、多くの従来の粉末界面活性剤は、粉塵状となる傾向があり、これらはしばしば、これらの自由流れ能力ならびに貯蔵(28日間23℃または50℃で)におよびドライミックス加工時間、すなわち水の添加で開始し硬化で終了する時間(典型的には5分から4時間の間)を通じて寄与する性能を損なわせる。以下の例に見られるように、本発明の粉末界面活性剤は、上記した多くの望ましい特性に関し優れた性能を示す。
【0058】

粉末界面活性剤の調製−方法1
2Lの2首ガラスバルーン中で、500gのSURFNOL(登録商標)MD20を500mLのテトラヒドロフランに不活性ガス雰囲気(N2)下で溶解させ、強く冷却して、500rpmで5分間機械的に攪拌した。次いで、均一なサスペンションを形成するために500gのシリカゲルを10分かけてゆっくり添加し、1時間攪拌した。次いで、溶媒を除去するために、混合物をエバポレーションフラスコに移し、オイルバスを備えたロータリーエバポレータを、60℃、170mbarで、150rpmの回転スピードで2時間かけた。微量のテトラヒドロフランは、固形状物質を実験室オーブン中で一昼夜50℃で乾燥させることにより除去した。次いで、得られた微粉末化された物質を、1.5Lポリプロピレンボトルに移して空気の湿気から保護した。
【0059】
粉末界面活性剤の調製−方法2
1.8Lの、パラヴィスク(逆ヘリックス)羽根を備えたメトラーHP60 2マントルステンレススチール反応器中で、300gのシリカ粉末(HISIL(登録商標)233)を、不活性ガス雰囲気(1atm,N2)下で、B型ブレードを用い300rpmで攪拌しながらゆっくり導入した。次いで、300gのSURFYNOL(登録商標)MD20を、30分間かけて滴下添加した。次いで該混合物を30分間20℃で攪拌した。最後に、微粉末を回収し、1.5Lポリプロピレンボトル中で貯蔵して大気中の湿気の吸着から保護した。
【0060】
粉末界面活性剤の物理特性の評価
界面活性剤の吸着効率は、実験室オーブン中475℃で約2時間での重量損失、または油収着指数の評価のいずれかにより分析した。シリカ担体含水率は、一昼夜のオーブンによる110℃での乾燥で評価した。
【0061】
粒子サイズ分布は、シロッコドライパウダーアタッチメント(Scirocco dry Powder attachment)を備えたマルバーン マスターサイザー2000 光散乱装置で数値化した。
【0062】
粉末界面活性剤の見掛け密度は、力をかけた(powered)粉末界面活性剤の100cm3の3重の計量により測定した。
【0063】
粉末体積分率は、100cm3の粉末界面活性剤を、TESTING銘柄のバイブレーションテーブル(Bluhm+Feuerherdt GmbH,ベルリン,ドイツから入手可能)上に、50Hz、振動振幅1.6mmで5分間配置することで評価した。見掛け密度と圧縮密度との間の変分から粉末体積分率が与えられる。
【0064】
製品の自由流れ性および粉末粘度は、100cm3の粉末を、ヘリパス スピンドル Bを用いてブルックフィールド粘度計上で5rpmおよび50rpmで、およびSheen480粘度計を用いて200rpmでプロービングすることによって評価した。チキソトロピー指数は、5rpmおよび50pmでの粘度の比として算出した。
【0065】
粉塵放出は、下記のように算定した。ポリプロピレンのスクリューキャップでシールされた100mLのDURAN(登録商標)ガラスラボラトリーボトル中の50gの粉末界面活性剤試料を、30秒間かけて5回反転させ、次いで1分間停止させた。粉塵放出は、1=悪い(粉塵が多い)から5=優れている(粉塵が殆どない)までの主観的な値で与えられた。
【0066】
自由流れ性は、高さ40cmで口径27mmのDINフローカップから流れる80cm3の粉末材料の秒単位の流動時間の評価によって数値化した。
【0067】
ドライミックスモルタルの性能試験−一般的な手順
粉末界面活性剤の性能の算定は、新たに調製した1625gのモルタルの試料、Floor4150またはFloor4310等(Maxit Deutschland GmbH of Breisach,ドイツ,から入手可能)のモルタルドライミックス1350gを270gの脱イオン水および選択された量の粉末界面活性剤と組み合わせ、そして180rpmで30秒間および285rpmで150秒間、B型ブレードを備えたホバートミキサー中で激しく混合することにより作製したもの、を採用した。0分の基準時間を水が添加された時間とした。
【0068】
図1は、モルタル混合物の拡散、自己回復、およびセルフレベリングの算定に用いた手順を説明する。レベリング性能は、拡散したモルタル(以下のジョイント長さ基準を参照のこと)の流径(流出量)およびジョイント長さ(流入量)との関連で直接的に数値化し、同時に全体的な目視評価を行った。長さBおよびD(ジョイント長さ)から、既知のモルタル系の自己回復能力の指標が与えられる。長さBおよびDの差、ここでΔlとされる、によりセルフレベリング性能の目安が与えられる。0のΔl値は、あり得る最良の性能、すなわちジョイント長さが同じであることを示す。ゼロより大きいΔl値に対しては、以下を用いることができる。
【0069】
Δl>1.5cm はセルフレベリングが乏しいことを示す。
Δlが0.9から1.5cm はセルフレベリングが有望であることを示す。
Δl<0.9cm はセルフレベリングが良好であることを示す。
Δl<0.2cm はセルフレベリングが優れていることを示す。
【0070】
典型的には、流出量は拡散試験(図1A)により測定し、混合時間(2.25分)経過後に、流動性のモルタルを大型流れリング(large flow ring)(直径=6.8cm、高さ=3.5cm、体積=127cm3)に流し込んでガラス板上に速やかに載せた。モルタルを7.75分間定着させ硬化させて、次いで、流れリングを除去して硬化中のモルタルが拡散するようにした。流出量は、13分間の硬化後における既知のモルタルディスクの平均直径(45°間隔で離した4つの直径の平均)として表した。測定精度は±1mmであった。
【0071】
自己回復試験(図1B)において、直径5cmおよび高さ2.2cmの2つの試験用リングを、互いに12.5cm離して並べて配置した。モルタル調製の2分後にリングをモルタルで充填し、異なる時間:2.5分および10分で持ち上げた。12分後、流入量および2つの流出量を測定した。モルタルのオープンタイムにより、そして典型的には12分後または13分後に、2つの硬化中のモルタルディスクの直径を数値化した。硬化時間2分および10分での平均流出量は、4つの二等分線(垂直)方向の直径を測定することにより数値化した。次いで、2つのモルタルディスク間の相互浸透領域を測定し、これによりモルタルのジョイント長さまたは流入量を特定した。測定精度は±1mmであった。
【0072】
セルフレベリング試験(図1C)によって、どの程度良好に製品が乾ききり、平らになり(level)そして自己回復するかの目安が与えられる。またセルフレベリング試験によって、他のレベリング特性とともに、分離、空気排出の傾向の目安が与えられる。セルフレベリング試験においては(エアプロダクツのセルフレベリング試験、図1を参照のこと)、3つのテストシリンダ(直径2.5cm、高さ5cm)を互いに10cm離して並べて配置した。モルタル調製の6.5,7.5および11.5分後にリングをモルタルで充填し、異なる時間:7,8および12分で持ち上げた。18分後、ジョイント長さまたは流入量(B,D)および流出量(A,C,E)を測定した。測定精度はdavg±1mmであった。
【0073】
オープンタイムは以下のように測定した。新たに調製したモルタルをガラステーブル上に拡散させ、始めから終わりまでナイフでカットを行った。カッティング工程の結果としてナイフブレード上に残留したモルタルを使用し、モルタル3滴をモルタルの表面に適用した。オープンタイムは、液滴がバルクの硬化中のモルタルに永続的な表面欠陥の原因にならずにはもはや結合しなくなったときの時間と規定した。
【0074】
容積測定の空気量は、ASTM C185−9,C231,DIN 18555−2およびEN 1015−7の基準に従った圧力法により、850gの新たに調製したモルタルについて空気連行メータで測定した。空気量は、13分(大型流れリングの最大拡散に対応する時間、2.1を参照のこと)で測定した。次いで、測定精度を、Aavg±0.1vol%で数値化した。
【0075】
モルタルディスクの円形に対する全ての歪み、その表面トポロジー(表面粗さ)およびテクスチャを同様に観測した。2タイプの数値化のうち1つを用いた:
【0076】
(a)主観による1−5基準を用いた場合には、5が見た目の最良な表面外観ランキングに寄与し、1は最悪の外観に近かった(またはRHOXIMAT DF770DDに匹敵する)。表面品質および表面外観の算定に考慮される表面欠陥は:(i)表面粗さ、(ii)クラック、(iii)白斑、(iv)ピンホール、(v)密度変化のリングおよびハロー、である。
【0077】
(b)または、dws値およびdp値(平方センチメートル当たりの数で表現される)が記録された場合、これらは、硬化したモルタルディスク上の白斑およびピンホールそれぞれの数のカウントにより得たものである。
【0078】
粉末界面活性剤の長期安定性は、0.1wt%の粉末界面活性剤を含む500gのドライミックスモルタル(フロー試験に用いたのと同じドライミックスモルタル組成物)を、実験室オーブン中、20℃,40℃,60℃、相対湿度65%で28日間貯蔵し、次いで、流れ、セルフレベリング、オープンタイム、空気量、およびモルタル表面外観等の性能パラメータの変化を測定することにより算定した。
【0079】
例で参照される市販の製品を、これらの出所の特定とともに以下に列挙する。
【0080】
RHOXIMAT(登録商標) DF770DD,Rhodia PPMC,パリ,フランスから入手可能
SURFYNOL(登録商標) 104S Surfactant,エアプロダクツ アンド ケミカルズ,アレンタウン,PAから入手可能。この製品は、その構造が以下に示されるSURFYNOL(登録商標)104界面活性剤をシリカ支持体上に組み込んだ粉末界面活性剤である。
【0081】
【化13】

【0082】
SURFYNOL(登録商標)MD−20 Molecular Defoamer,エアプロダクツ アンド ケミカルズ,アレンタウン,PAから入手可能
DYNOL(商標)604 Surfactant,エアプロダクツ アンド ケミカルズ,アレンタウン,PAから入手可能
SILIPUR(登録商標)RE 2971,Aqualon,Hercules Incorporated,Rijswijk,オランダから入手可能
HISIL(登録商標)233 沈降シリカ,PPG Industries,Inc.から入手可能
SIPERNAT(登録商標)22 沈降シリカ,デグッサAGから入手可能
DC 2−4248S Powdered Antifoam(粉末泡消剤),ダウコーニングコーポレーション,ミッドランド,MIから入手可能
AGITAN(登録商標)P803、P804およびP823,Muenzig Chemie GmbH,ドイツから入手可能
FOAMASTER(登録商標)PD01,Cognis Corp.,シンシナティ,OHから入手可能
以下の例では、界面活性剤の名称の後の添え字「S」、たとえばMD20Sは、シリカ担体上に支持された、表示された界面活性剤分子とする。
【0083】
例−1 粉末界面活性剤の自由流れ能力および粉塵放出
表1は、本発明の粉末界面活性剤(MD20およびD604と標識されたもの)の組成物ならびに流れおよび粉塵の特性を、従来の粉末界面活性剤との比較で示す。数値は全て3つの測定の平均値とした。データは、本発明の粉末界面活性剤が優れた流動時間(3秒未満)および極めて良好な粉塵放出(少なくとも3.5、および5に達する)を示したことを示す。特に、SIPERNAT(登録商標)22(バッチ2)上に吸着したDYNOL(商標)604およびHISIL(登録商標)233上に吸着したSURFYNOL(登録商標)MD20は、シリカ上またはFOAMASTER PD01上のSURFYNOL(登録商標)104と比較して優れた自由流れ挙動を有し、同時にAGITAN P823またはSILIPUR RE 2971と比較して低減された粉塵放出(3.5−5の値)を示した。
【0084】
【表1】

【0085】
[1]フローカップ法:<3秒=優れている、>10秒=悪い
[2]粉塵放出の基準:5=良好、1=悪い
【0086】
例2−メラミン−ホルムアルデヒド系SLUドライミックスモルタルにおける同時流出およびセルフレベリングの向上
表2は、本発明の粉末界面活性剤(MD20S)を用いたセルフレベリングドライミックスモルタル試験の、従来の粉末界面活性剤(S104S)およびブランク(界面活性剤なし)との比較における結果を示す。低い(0.2:1)水対ドライミックス比において、本発明の粉末界面活性剤においては、粉末界面活性剤なしのモルタルと比較して、および従来の粉末界面活性剤S104Sと比較して、流出範囲、流入範囲およびセルフレベリング性能の顕著な増大が見られた。「ブランク」は、湿潤を改善するためにS104Sを0.1wt%レベルで用いて行い、「S104S」は、S104Sを0.2wt%レベルで用いて行い、そして「MD20S バッチ1」は、0.1wt%の該界面活性剤に加えて0.1wt%のS104Sを用いて行った。
【0087】
【表2】

【0088】
表2は、MD20Sを用いた場合の、2.2cmの流出量の改善および0.6cmの流入量の向上を、従来の粉末界面活性剤(S104S)を含むドライミックスとの比較で示す。さらにこれは、流出量が0.5cm以上増大した場合でも、MD20S(Δl=0)はS104Sとの比較においてセルフレベリング能力に優れることを示す。(表2のセルフレベリング流出値A,CおよびEを参照のこと)
【0089】
例3−湿潤剤を含むアルミノシリケートMFS系SLUドライミックスモルタルの長期安定性、流出および表面外観の改善
表3は、セルフレベリング下地用の速硬化性アルミノシリケートMFS系ドライミックスモルタルの高温での長期貯蔵(28日)において本発明の粉末界面活性剤により与えられる、性能の有利性、改善された流出、流出速度の硬化時間からの低減された依存性、およびより高い表面品質(制限された偏析、粗さ、クラック、泡)を要約する。従来の粉末界面活性剤の結果もまた示す。表3の全ての実施は、湿潤を改善するために少量のS104Sを含んでいた。表3に列挙される粉末界面活性剤は、全て0.1wt%レベルで用いられた。(よって、「S104S」と標識された実施に対するS104Sの全レベルは、0.1wt%よりも若干多かった)
【0090】
【表3】

【0091】
表3で分かるように、本発明の粉末界面活性剤は、向上した長期安定性(28日、20−60℃)を与えた。一般的に、20−60℃での28日間の貯蔵では、0.1wt%の従来の粉末界面活性剤を含むドライミックスモルタルは、流出および表面品質に関して有効性の低下を示した。0.1wt%という同じ添加量で、本発明の粉末界面活性剤は、ドライミックスモルタルの20−60℃で28日間の貯蔵での有効性の顕著な損失を被ることがなかった。たとえば、60℃での貯蔵、MD20S(HiSil 233)は、2分および10分のそれぞれの水和時間の後で15.3cmおよび14.5cmの流出量を維持した。一方、SURFYNOL 104SまたはRHOXIMAT DF 770 DDは、2分の水和時間の後で13.8cmの低下した流出量を示し、実際ブランクで得た14.1cmの値より低かった。
【0092】
表3によるデータを図2および3にプロットし、本発明の界面活性剤(MD20Sおよび2つのD604S試料、表1に示す組成物を有する)により得られる流れの向上および表面品質の改善を、従来の界面活性剤との比較において、長貯蔵時間(28日)および温度調節(23℃,60℃)の効果で表す。図2は、本発明および従来の粉末界面活性剤を含むアルミノシリケートMFS系ドライミックスモルタルの流出における貯蔵の時間および温度の影響を示す。図3は、本発明および従来の粉末界面活性剤を用いて得た硬化したアルミノシリケートMFS系ドライミックスモルタルの表面品質における貯蔵の時間および温度の影響を説明するチャートである。
【0093】
図4は、本発明の粉末界面活性剤(MD20S,これはHISIL(登録商標)233上のMD20である)により得たアルミノシリケートMFS系ドライミックスモルタルの2分および10分のバルク硬化後の表面品質の改善を、従来の材料との比較において説明する写真を示す。白矢印は欠陥を示し、このことから、MD20S含有モルタルの欠陥は他のモルタルよりも少なかったことが分かる。
【0094】
例4−低減された粉末界面活性剤の使用レベルで湿潤剤を含むアルミノシリケートPCE系SLUドライミックスモルタルの流れおよびセルフレベリングの改善、脱気度および表面外観
表4は、本発明の粉末界面活性剤を用いるセルフレベリングドライミックスモルタル試験を、PCE系SLUドライミックスモルタル中の2つの従来の粉末界面活性剤との比較で示す。表中の全ての処方にはまた、湿潤を改善(対照2を除く,このレベルは0.25%であった)するために全ての処方において0.1wt%で使用されるSURFYNOL(登録商標)104Sを含有させた。
【0095】
【表4】

【0096】
本発明の粉末界面活性剤により、低減されたモルタル空気量が実現された。モルタルドライミックス質量に対して0.1wt%の粉末界面活性剤という基準使用レベルにおいて、本発明の粉末界面活性剤は、空気量を、ドライミックスモルタル組成物中の湿潤剤存在下の従来の粉末界面活性剤では1.2vol%であるのに比べて、0.95vol%に低減させた。ドライミックスモルタル組成物中の湿潤剤の不存在下では、本発明の粉末界面活性剤は、空気量を、従来の粉末界面活性剤の1.1−1.6vol%に比べて、1.0−1.5vol%に低減させた。
【0097】
表4で分かるように、本発明の粉末界面活性剤(MD20SおよびD604S)は、例2のドライミックスモルタル系において、低減された使用レベル、0.15wt%未満の添加レベルでも向上した性能を与えた。実際、表4から、本発明の粉末界面活性剤は流出量0.4cmから0.8cmを有し、SILIPURに対して推奨される使用レベル0.15wt%のたった1/3でSILIPUR RE2971よりも高く、そしてさらに、良好なオープンタイムをなお維持する一方で1.05vol%という優れた脱気を与えたことが分かる。これらはまた、改善された表面外観を有し、表面欠陥密度が3.39欠陥/cm2から0.17欠陥/cm2に低減された、耐久性が高いモルタル(2g/cm3超の密度により示されるように)を与えた。モルタルドライミックス質量に対して0.1wt%の粉末界面活性剤という基準の使用レベルで、表面欠陥密度は約75%、すなわち1.53欠陥/cm2から(従来の粉末界面活性剤について)から0.39欠陥/cm2(本発明の粉末界面活性剤について)に低減された。従来の使用レベルと比べて3分の1への減少を表す使用レベル0.05wt%で、表面欠陥密度は94%および77%で、すなわち2.76欠陥/cm2以上の値(従来の粉末界面活性剤SILIPUR RE2971)から、本発明の粉末界面活性剤MD20SおよびD604Sそれぞれに対して0.17および0.63欠陥/cm2に減少した。
【0098】
基準の使用レベルの0.15wt%で、10分でのセルフレベリング流出量は、D604SおよびMD20Sのそれぞれに対し、従来の粉末界面活性剤(SILIPUR RE2971)と比べて顕著に改善(2.0cmおよび0.7cmで)した。
【0099】
フロー試験流出性能において、低減された使用レベルでも、本発明の粉末界面活性剤は典型的な使用レベル(すなわちずっとより高いレベル)の従来の粉末界面活性剤より性能が優れている。たとえば、ドライミックス質量に対して0.025wt%で、D604SおよびMD20Sは、それぞれ21.8および21.7cmの流出量を与え、これに対して、SILIPUR RE2971はずっとより高い使用レベル(0.15wt%)でたった21.1であった。
【0100】
例5−湿潤剤なしのPCE系ポルトランドSLUドライミックスモルタルの長期安定性および流れ&セルフレベリングの改善
表5は、本発明の粉末界面活性剤を用いたセルフレベリング下地用高耐久性ポルトランドPCE系ドライミックスモルタルの長期安定性の、流れおよびレベリングに対する比較を、2つの従来の粉末界面活性剤(S104Sおよびアルコキシ化脂肪族アルコール)との比較において示す。S104S、MD20SおよびD604Sは全て、HISIL233を担体として用い、0.1wt%の添加レベルの粉末界面活性剤を各々のドライミックス中に用いた。表5における実施は他のいずれの界面活性剤も含まなかった。
【0101】
【表5】

【0102】
MD20Sのバッチ1は、1000グラムのラボラトリーバッチであり、バッチ2は25kgのパイロットスケールバッチであった。分かるように、調製のスケールの相違によらず同様の結果が得られた。
【0103】
表で分かるように、本発明の粉末界面活性剤は、室温(23℃)および高温(40℃)の長期貯蔵(28日)で、改善された流出および流入、優れたセルフレベリング、および高い性能安定性を示した。たとえば、40℃での28日貯蔵後、D604Sは1.8cmの流出量の増大および3.0cmの平均流入量増大を、アルコキシ化脂肪族アルコールとの比較において与え、そして1.2cmの流出量の増大および1.5cmの流入量の増大を、S104Sとの比較において与えた。流れのこの向上は、従来の粉末界面活性剤で見られるよりも良好な40℃での長期安定性と一致する。
【0104】
例6−低い粉末界面活性剤使用レベルのPCE系ポルトランドSLUドライミックスモルタルの流れおよびセルフレベリング、オープンタイム、脱気度、ドライモルタル密度および表面外観の改善
表6は、本発明の2つの粉末界面活性剤(MD20SおよびD604S)の使用による結果の、1つの従来の粉末界面活性剤(S104S)に対しての比較を、PCE超可塑剤を含むSLUポルトランドドライミックスモルタルの重要な適用特性を考慮して示す。全ての粉末界面活性剤は担体としてHISIL(登録商標)233を用いた。表6における実施は、他のいずれの界面活性剤も含まなかった。
【0105】
【表6】

【0106】
表6で分かるように、本発明の粉末界面活性剤は、向上した流れおよびセルフレベリング、およびより優れたオープンタイムを与えた。これらはまた、粉末界面活性剤なしのSLUドライミックスモルタルのオープンタイムに対応する、混合の完了後少なくとも13分間これらが脱気を持続できるという事実によって示されるように、長期持続性の脱気効果を与えた。このことは、低減された使用レベル、たとえば0.025wt%で最も明確に分かる。ここで、等量の従来の粉末界面活性剤S104Sと比べて、良好な脱気動態および流出値をなお維持している一方、改善された表面外観が得られた。
【0107】
表7は、本発明の粉末界面活性剤の使用レベルでのSLUドライミックスモルタルの重要な適用特性の依存性の比較を、従来の粉末界面活性剤との比較において示す。表7中の実施は、任意の追加の界面活性剤をいずれも含まなかった。
【0108】
【表7】

【0109】
表7で分かるように、0.03wt%の使用レベルで、本発明の粉末界面活性剤は、新たに調製したSLUドライミックスモルタル中の低い空気量(13分後に1.2vol%)を維持する一方、高いモルタル拡散性(フロー試験流出量>23.9cm)、向上した流入量(>8.1cm)および最大0.2cmのセルフレベリングΔl、ならびに高い表面品質(基準1−5で4、5は優れている)を同時に与えた。性能のこの組み合わせは、以上に示される従来の粉末界面活性剤によっては互角とならなかった。
【0110】
セルフレベリング挙動(Δl)および流入量の同時の向上は、本発明の粉末界面活性剤によって与えられた。逆に、より高い使用レベル(基準の0.1wt%)であっても、従来の粉末界面活性剤は、優れたセルフレベリングおよび流入をドライモルタルに対して同時には示さなかった。
【0111】
本発明の粉末界面活性剤はまた、より長いオープンタイムを与えた。モルタルドライミックス質量に対して0.1wt%粉末界面活性剤の基準の使用レベルで、新たに調製したドライミックスモルタルは、表7に示される最良の従来の粉末界面活性剤(FOAMASTER PD01)の最大23.5との比較において、25.2分というオープンタイムを、顕著により良好な表面外観とともに有した。
【0112】
一般的に、本発明は、本発明の粉末界面活性剤が、比較的低い使用レベル(0.03−0.075wt%)で用いた場合に、より高い添加量(0.10wt−0.20wt%)の従来の粉末界面活性剤を用いて得られるのと同様に流出性能および流入性能を実現することを見出した。典型的には、本発明の粉末界面活性剤のこれらの低いレベルでの使用はまた、より大きい基準の(すなわちより高い)0.1wt%レベルでの従来の粉末界面活性剤の使用によってもたらされるのと同等またはそれ以上に良好なオープンタイムを与える。加えて、低い使用レベルででも、本発明の粉末界面活性剤は、ある場合において、いずれの追加の界面活性剤もない処方に対し、55%も低い(たとえば、0.03%の添加、5分間で、FOAMASTERについての1.9vol%からD604Sについての1.0vol%に;表7参照)モルタル空気量を与える。よって、幾つかの性能について同時に改善が見られる。
【0113】
ある態様を参照してここに本発明を説明し記載するが、添付の特許請求の範囲は示された詳細に限定されることを意図しない。むしろ当業者によってこれらの詳細における種々の修正がなされることが可能であり、該修正はなお特許請求の範囲の主題の精神および範囲に含まれることが意図され、そしてこれら特許請求の範囲がしかるべく解釈されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造(A)
【化1】


(但し、mが1でありかつRが構造(B)
【化2】

(式中nが3から7の整数である)に従うか、または、mが2でありかつRが構造(C)
【化3】

(式中pが1から10の整数である)に従うか、のいずれか)
に従う化合物を担体の表面に有する粒子を含み、そして該担体が比表面積少なくとも50m2/gを有する、組成物。
【請求項2】
前記担体がシリカを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記担体がゼオライトを含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記担体の平均粒子サイズD(1,0.5)が5μmから100μmである、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
構造(A)に従う前記化合物が、粒子の10から75wt%の範囲内を構成する、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
mが2であり、かつRが構造(C)に従う、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
mが1であり、かつRが構造(B)に従う、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
粒子状のセメント質成分をさらに含む、請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
mが2であり、かつRが構造(C)に従い、前記セメント質成分が、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、カオリン、白亜、微滑石粉、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、および二酸化チタンからなる群から選択される成分を含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
mが1であり、かつRが構造(B)に従い、前記セメント質成分がアルミノシリケートを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
セメント質成分がポルトランドセメントを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
セメント組成物が乾燥組成物である、請求項8〜11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
セメント組成物が超可塑剤をさらに含む、請求項8〜12のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
前記超可塑剤が、スルホ修飾されたメラミン−ホルムアルデヒド縮合物、ポリカルボキシレートエーテル、またはこれらの組み合わせを含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
セメント混合物の製造方法であって、水、粒子状のセメント質成分、および、構造(A)
【化4】


(但し、mが1でありかつRが構造(B)
【化5】

(式中nが3から7の整数である)に従う)
に従う化合物を担体の表面に有する粒子を含む組成物を組み合わせることを含、製造方法。
【請求項16】
セメント混合物の製造方法であって、水、粒子状のセメント質成分、および構造(A)
【化6】


(但し、mが2でありかつRが構造(C)
【化7】

(式中pが1から10の整数である)に従う)
に従う化合物を担体の表面に有する粒子を含む組成物を組み合わせることを含、製造方法。
【請求項17】
前記担体が比表面積少なくとも50m2/gを有する、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
構造(A)
【化8】


(但し、mが1でありかつRが構造(B)
【化9】

(式中nが3から7の整数である)に従うか、または、mが2でありかつRが構造(C)
【化10】

(式中pが1から10の整数である)に従うか、のいずれか)
に従う化合物を担体の表面に有する粒子を含み、
該担体が、無機粉末、再分散可能な高分子分散体粉末、セルロース誘導体、スターチおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つを含み、
該無機粉末が、シリカ、ゼオライト、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ポリホスフェート、カオリン、白亜、微滑石粉、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、二酸化チタンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つを含み、そして
該再分散可能な高分子分散体粉末が、ポリ(スチレンブタジエン)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカルボキシレート、ポリウレタン、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つを含む、組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−102010(P2012−102010A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248544(P2011−248544)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【分割の表示】特願2007−274849(P2007−274849)の分割
【原出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】