説明

粉末冶金用合金鋼粉ならびに鉄基焼結材料およびその製造方法

【課題】強度と靭性の両立が可能な粉末冶金用合金鋼粉を提案する。
【解決手段】0.02〜0.4質量%のNbを予合金化した鋼粉の表面に、Mo量で0.05〜1.5質量%のMoを含む粉末を拡散付着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末冶金技術に供して好適な粉末冶金用合金鋼粉に関し、特にかかる合金鋼粉を用いて焼結材料を製造した場合に、その強度および靭性の向上を図ろうとするものである。
また、本発明は、上記の粉末冶金用合金鋼粉を用いて製造した強度および靭性に優れた焼結材料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金技術は、複雑な形状の部品を、製品形状に極めて近い形状(いわゆるニアネット形状)でしかも高い寸法精度で製造できることから、大幅な切削コストの低減が可能となる。このため、粉末冶金製品が各種の機械や部品として、多方面に利用されている。
さらに、最近では、部品の小型化、軽量化のために、粉末冶金製品の強度の向上が強く要望されている。特に、鉄基粉末製品(鉄基焼結体)に対する高強度化の要求が強い。
【0003】
粉末冶金用鉄基粉末成形体は、一般に、鉄基粉末に、銅粉、黒鉛粉などの合金用粉末と、ステアリン酸、ステアリン酸リチウム等の潤滑剤を混合して鉄基粉末混合粉とし、これを金型に充填し、加圧成形することにより製造される。鉄基粉末は、成分に応じて、鉄粉(たとえば純鉄粉等)、合金鋼粉等に分類される。また、製法による分類では、アトマイズ鉄粉、還元鉄粉等があり、これらの分類では鉄粉は合金鋼粉を含む広い意味で用いられる。
【0004】
通常の粉末冶金工程で得られる成形体の密度は、6.6〜7.1Mg/m3程度が一般的である。これら鉄基粉末成形体は、その後に焼結処理が施されて焼結体とされ、さらに必要に応じてサイジングや切削加工が施されて、粉末冶金製品とされる。また、さらに高い強度が必要な場合は、焼結後に浸炭熱処理や光輝熱処理が施されることもある。
【0005】
原料粉の段階で、合金元素を加えた粉末として、
(1)純鉄粉に各合金元素粉末を配合した混合粉、
(2)完全に各元素を合金化した予合金鋼粉、
(3)純鉄粉や予合金鋼粉の表面に各合金元素粉末を部分的に付着拡散させた部分拡散合金鋼粉(複合合金鋼粉ともいう)
等が知られている。
【0006】
(1)の純鉄粉に各合金元素粉末を配合した混合粉は、純鉄粉並みの高圧縮性を確保できるという利点がある。しかしながら、焼結に際し、Feよりも活性金属であるMn、Cr、V、Si、Nb、Tiなどは、焼結雰囲気や浸炭雰囲気中におけるCO2濃度や露点を低く厳密に制御しないと酸化を起こしての低酸素量化を図れず、また各合金元素がFe中に十分に拡散せず、不均質組織のままとなっての基地強化を達成できないという問題があった。
このために、(1)の純鉄粉に各合金元素粉末を配合した混合粉は、近年の高強度化の要求に対応できず、使用されない状態に至っている。
【0007】
これに対し、(2)の各元素を完全に合金化した予合金鋼粉は、溶鋼をアトマイズして製造するため、溶鋼のアトマイズ工程での酸化と完全合金化による固溶硬化作用を生じるものの、Mn、Cr、V、Si、Nb、Tiなどの合金元素の種類と量を限定することにより、低酸素量化と純鉄粉並みの高圧縮性とを確保できる利点がある。また、完全合金化による基地強化の可能性があり、高強度用の予合金鋼粉として開発が行われている。
【0008】
また、(3)の部分拡散合金鋼粉は、純鉄粉や予合金鋼粉に各元素の金属粉末を配合し、非酸化性または還元性の雰囲気の下で加熱して、純鉄粉や予合金鋼粉の表面に各金属粉末を部分的に拡散接合して製造することから、(1)の鉄基混合粉および(2)の予合金鋼粉の良い点を組み合わせることができる。したがって、低酸素量化と純鉄粉並みの高圧縮性とを確保でき、完全合金相と部分的な濃化相からなる複合組織となっての基地強化の可能性があり、高強度用の部分拡散予合金鋼粉として開発が行われている。
【0009】
ところで、上記した予合金鋼粉および部分拡散合金鋼粉の基本的な合金成分として、Moが多くの場合用いられている。これは鉄鋼材料の強化元素としてMoが用いられるのと同じ理由による。すなわち、Moは、鉄鋼材料においてフェライトの生成を抑制し、ベイナイト組織化して母相(マトリックス)を変態強化するだけでなく、母相と炭化物に分配して母相を固溶強化し、さらには微細炭化物となって母相を析出強化するからである。また、ガス浸炭性が良く非粒界酸化元素なので浸炭強化する作用もある。
その他、V、Nb、Tiなどの炭化物形成能の強い元素も、炭化物の析出強化によって、焼結材料を強化することから、添加されている。
【0010】
例えば、特許文献1では、Mo:0.1〜6.0%、V:0.05〜2.0%と、さらにNb:0.10%以下を予合金して含み、Mo量:4%以下を部分的に拡散付着させた粉末冶金用合金鋼粉が開示されている。この合金鋼粉は、粉末の段階における低酸素量化と純鉄粉並みの高圧縮性とを確保し、かつ焼結材または浸炭焼入れ材における低酸素量化と基地強化を達成するとされている。
【0011】
また、特許文献2では、重量比でCr:0.5〜2%、Mn:0.08%以下、Mo:0.1〜0.6%、V:0.05〜0.5%を含み、さらにNb:0.01〜0.08%、Ti:0.01〜0.08%の1種又は2種を含み、さらにMo:0.05〜3.5%を拡散付着した高強度焼結体用合金鋼粉が開示されている。この技術では、圧縮性のよい、適度な焼入れ性に制御された合金鋼粉が得られ、さらにこの合金鋼粉を用いて焼結後の冷却速度を制御することにより、焼結体に粗大な上部ベイナイト組織を生成させずに微細なパーライト組織にすることができ、焼結のままで高強度を得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−49047号公報
【特許文献2】特開平7−331395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、発明者らの研究では、上記した特許文献1および特許文献2いずれの合金鋼粉を用いた焼結材料でも、強度と靭性を両立させるのは困難であることが分かった。
本発明は、上記した従来技術の問題点を克服し、強度と靭性の両立が可能な粉末冶金用合金鋼粉を提案することを目的とする。
また、本発明は、上記の粉末冶金用合金鋼粉を用いて製造した、強度および靭性に優れた焼結材料を、その有利な製造方法と共に提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
さて、発明者等は、上記の目的を達成するために、鉄基粉末の合金成分およびその添加手段について種々検討を重ねた結果、以下に述べる知見を得た。
鉄粉中にNbなどの炭化物形成元素を予合金化し、Moのみを拡散付着させた鉄基粉末を、炭素粉末と混合し、成形体にして、焼結した場合、鉄基粉末粒子間の焼結ネック部では合金元素Moが高濃度となる。このため、焼結ネック部には、MoとNbなどの炭化物形成元素およびCが存在し、MoとNb等を含む炭化物が析出、分散することになる。
焼結ネック部には、気孔が多く存在するため、この部分の強度は低下する傾向にあるが、気孔の周囲にかような炭化物が析出すると、焼結ネック部が強化されることになる。
一方、基地部には、Moが含まれていないため、焼結ネック部に比べると、炭化物が生成し難く、高靭性の組織となる。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0015】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.0.02〜0.4質量%のNbを予合金化した鋼粉の表面に、Mo量で0.05〜1.5質量%のMo含有粉末を拡散付着させてなる粉末冶金用合金鋼粉。
【0016】
2.0.01〜0.4質量%のVおよび0.01〜0.4質量%のTiの少なくとも1種と、0.02〜0.4質量%のNbと、を予合金化した鋼粉の表面に、Mo量で0.05〜1.5質量%のMo含有粉末を拡散付着させてなる粉末冶金用合金鋼粉。
【0017】
3.前記1または2に記載の粉末冶金用合金鋼粉を、圧粉成形後、焼結して得た鉄基焼結材料であって、該焼結材料の気孔の周囲に少なくともNbとMoを含む炭化物が析出している鉄基焼結材料。
【0018】
4.前記少なくともNbとMoを含む炭化物が、(Nb,Mo)C、(Nb,V,Mo)C、(Nb,Ti,Mo)Cおよび(Nb,Ti,V,Mo)Cの少なくとも1種である前記3に記載の鉄基焼結材料。
【0019】
5.前記1または2に記載の粉末冶金用合金鋼粉を、0.1〜1.0質量%の炭素粉末と混合したのち、400〜1000MPaの加圧力で圧粉成形後、1100〜1300℃の温度で焼結し、得られる焼結材料の気孔の周囲に少なくともNbとMoを含む炭化物を析出させることを特徴とする鉄基焼結材料の製造方法。
【0020】
6.前記少なくともNbとMoを含む炭化物が、(Nb,Mo)C、(Nb,V,Mo)C、(Nb,Ti,Mo)Cおよび(Nb,Ti,V,Mo)Cの少なくとも1種である前記5に記載の鉄基焼結材料の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明に従い、Nbや、あるいはさらにVおよび/またはTiを予合金化し、Moのみを拡散付着させた粉末冶金用合金鋼粉を使用することにより、高強度と高靭性を兼ね備えた焼結材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明により得られた焼結体の焼結ネック部を含む焼結組織を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の粉末冶金用合金鋼粉は、NbあるいはさらにVおよび/またはTiを予合金化した鋼粉の表面に、Mo含有粉末を拡散付着させたものである。
上記した本発明の鉄基粉末を、炭素粉末と混合し、成形体にして、焼結することにより、鉄基粉末粒子間の焼結ネック部で合金元素Moが高濃度となる。このため、焼結ネック部には、MoとNb、V、TiおよびCが存在し、MoとNb、V、Ti等を含む炭化物が析出、分散することになる。
【0024】
焼結ネック部には、気孔が多く存在するため、この部分の強度は低下する傾向にあるが、気孔の周囲にかような炭化物が析出すると、焼結ネック部が強化されることになる。
一方、基地部には、Moが含まれていないため、焼結ネック部に比べると、炭化物が生成し難く、高靭性の組織となる。
上述したように、炭化物の生成領域を制御することにより、高強度と高靭性の両立が可能になったものと考えられる。
【0025】
以下、本発明において、Nb、V、Tiを前記の組成範囲で予合金化させた理由について説明する。なお、以下に示す「%」は、本発明の粉末冶金用合金鋼粉(Mo含有粉末の拡散付着後)全体に対する比率(質量%)である。
Nb:0.02〜0.4%
Nbは、基地中に炭化物として析出させることにより、強度の向上に極めて有効に作用する。しかしながら、含有量が0.02%に満たないと炭化物の生成量が不十分となって、焼結体の十分な高強度化が望めず、一方0.4%を超えると炭化物が粗大化して、強度向上効果が低下し、しかも合金鋼粉粒子の硬化により圧縮性の低下を招くだけでなく、経済的な観点からも不利となる。より好ましくは0.05〜0.3%である。
【0026】
V:0.01〜0.4%およびTi:0.01〜0.4%の少なくとも1種
VおよびTiは、Nbの次に炭化物形成元素として有用であるので、Nbと複合含有させることにより、強度の向上に一層寄与する。しかしながら、いずれの元素も、下限に満たないとその添加硬化に乏しく、一方上限を超えて添加すると、やはり炭化物が粗大化してしまい、強度向上効果の低下や、圧縮性の低下を招くので、それぞれ上記の範囲で含有させるものとする。より好ましくはそれぞれ0.3%以下である。
なお、Nb、VおよびTiの合計量が0.09〜0.18%の範囲で特に優れた強度および靭性を備えた焼結材料を得ることができる。
【0027】
次に、本発明の粉末冶金用合金鋼粉の製造方法について説明する。
まず、所定量の合金元素を予め合金成分として(すなわち予合金として)含有する鉄基粉末(原料としての鉄基粉末)とMo含有粉末の原料であるMo原料粉末を準備する。
鉄基粉末としては、いわゆるアトマイズ鉄粉が好ましい。アトマイズ鉄粉とは、合金成分を目的に応じて調整した溶鋼を水ないしガスで噴霧して得られる鉄基粉末である。アトマイズ鉄粉は、通常、アトマイズ後に還元性雰囲気(例えば水素雰囲気)中で加熱して鉄粉中からCとOを低減させる処理を施す。しかし、本発明の原料としての鉄基粉末にはこのような熱処理を施さない、いわゆる「アトマイズまま」の鉄粉を用いることも可能である。
【0028】
Mo原料粉末としては、目的とするMo含有粉末そのものを用いても良いし、あるいはMo含有粉末に還元可能なMoの化合物を用いても良い。
ここに、Mo含有粉末としては、Moの純金属粉末をはじめとして、酸化Mo粉末、あるいはFeMo(フェロモリブデン)粉末などのMo合金粉末が有利に適合する。また、Moの化合物としては、Mo炭化物、Mo硫化物、Mo窒化物などが好適である。
【0029】
ついで、上記した鉄基粉末とMo原料粉末を、所定の比率で混合する。混合方法については特に制限はなく、例えばヘンシェルミキサーやコーン型ミキサーなどを用いることができる。
【0030】
ついで、この混合物を高温で保持し、鉄基粉末とMo原料粉末の接触面でMoを鉄中に拡散させて接合することにより、本発明の粉末冶金用合金鋼粉が得られる。
ここに、熱処理の雰囲気としては、還元性雰囲気や水素含有雰囲気が好適であり、とりわけ水素雰囲気が適している。なお、真空下で熱処理を加えても良い。また、好適な熱処理の温度は800〜1200℃の範囲である。より好ましくは800〜1000℃である。
なお、アトマイズままの鉄粉を鉄基粉末として使用した場合には、CやOの含有量が高いので、熱処理を還元性雰囲気とすることでCとOとを低減することが好ましい。この低減作用により鉄基粉末表面が活性になり、Mo含有粉末の拡散による付着が低温(800〜900℃程度)でも確実に起こるようになる。
【0031】
上記のようにして拡散付着処理を行った場合、通常は、鉄基粉末とMo含有粉末が焼結して固まった状態となるので、所望の粒径に粉砕・分級し、必要に応じてさらに焼鈍を施して粉末冶金用合金鋼粉とする。
【0032】
本発明において、Mo含有粉末の微細な粒子は、均一に鉄基粉末表面に付着していることが好ましい。均一に付着していない場合、粉末冶金用合金鋼粉を付着処理後に粉砕する際や、運搬等の際に、鉄基粉末表面から脱落しやすいので、遊離状態のMo含有粉末が特に増加しやすい。そのような状態の合金鋼粉から成形体を焼結すると、炭化物の分散状態が偏析してしまう傾向にある。したがって、焼結体の強度、靭性を高めるためには、鉄基粉末の表面にMo含有粉末を均一に付着させ、脱落などにより発生する遊離状態のMo含有粉末を低減することが好ましい。
【0033】
拡散付着させるMo量は、0.05〜1.5%である。0.05%を下回ると、炭化物生成効果が少なく、強度向上効果も少ない。一方、1.5%を超えると、炭化物生成効果は飽和し、むしろ焼結体の組織が不均一となるため、強度向上効果が得られなくなる。したがって、拡散付着させるMo量は0.05〜1.5%とする。好ましくは0.05〜0.5%、より好ましくは0.1〜0.5%の範囲である。さらに好ましくは、0.15〜0.3%である。
【0034】
なお、合金鋼粉の残部は鉄および不純物である。合金鋼粉に含有される不純物としては、C、O、N、S等が挙げられるが、これらはそれぞれC:0.02%以下、O:0.3%以下、N:0.004%以下、S:0.03%以下であれば特に問題はない。Oは0.2%以下が好ましい。
上記した複合合金鋼粉を原料として焼結体を製造する場合、黒鉛などの炭素粉末は、高強度化および高疲労強度化に有効であるので、加圧成形に先立ち、C換算で0.1〜1.0%を添加し、混合する。上記したC換算量は、混合後の合金鋼粉混合粉に対する質量比率である。
なお、本発明では、目的に応じて特性を改善するための添加材を添加できることはいうまでもない。例えば、焼結体の強度を改善する目的で、Cu粉やNi粉の添加や、焼結体の切削性を改善する目的で、MnSなどの切削性改善用粉末の添加が例示される。
合金鋼粉混合粉に含有される不純物もO:0.3%以下、N:0.004%以下、S:0.03%以下であれば特に問題はない。Oは0.2%以下が好ましい。ただし、前記添加剤として意図的に添加される場合は不純物ではなく、当該範囲内である必要は無い。
【0035】
次に、本発明の粉末冶金用合金鋼粉を用いて焼結体を製造する際に好適な焼結条件について説明する。
加圧成形に際しては、他に、粉末状の潤滑剤を混合しても良い。また、金型に潤滑剤を塗布あるいは付着させることもできる。いずれの場合であっても、潤滑剤としては、ステアリン酸亜鉛などの金属石鹸、エチレンビスステアリン酸アミドなどのアミド系ワックスなどの公知の潤滑剤を好適に用いることができる。潤滑剤を混合する場合、合金鋼粉混合粉:100質量部に対して0.1〜1.2質量部程度とすることが好ましい。
【0036】
加圧成形に際しては、400〜1000MPaの加圧力で行う必要がある。というのは、加圧力が400MPaに満たないと得られる成形体の密度が低くなり、焼結体の特性が低下するからであり、一方1000MPaを超えると金型の寿命が短くなり、経済的に不利になるからである。なお、加圧の際の温度は、常温(約20℃)〜約160℃の範囲とすることが好ましい。
また、焼結は、1100〜1300℃の温度域で行う必要がある。というのは、焼結温度が1100℃に満たないと焼結が進行しなくなり、焼結体の特性が低下するからであり、一方1300℃を超えると焼結炉の寿命が短くなり、経済的に不利になるからである。なお、焼結時間は10〜180分の範囲とすることが好ましい。
当該焼結温度域および焼結時間は、焼結材料の気孔の周囲に少なくともNbとMoを含む炭化物を析出させるにも好適である。
【0037】
得られた焼結体には必要に応じて浸炭焼入れ、光輝焼入れ、高周波焼入れおよび浸炭窒化処理等の強化処理を施すことができるが、強化処理を施さない場合でも、従来の焼結体(強化処理を施さないもの)に比べて強度および靭性が改善される。なお、各強化処理は常法に従って施せば良い。
【0038】
上記の焼結を施した場合、鉄基粉末粒子間の焼結ネック部にはMo濃度が高い領域が形成されるが、この領域には、Nbなどの炭化物形成元素と共にCが存在するので、MoとNb等を含む炭化物が析出、分散することになる。気孔の周囲にかような炭化物が析出すると、焼結ネック部が強化されるので、強度のみならず、靭性に優れた組織が得られるのである。
図1に、本発明により得られた焼結体の焼結ネック部を含む焼結組織を模式で示す。図中、符号1が鉄基粉末、2が気孔の周囲の焼結ネック部である。
【0039】
ここに、MoとNb等を含む炭化物としては、(Nb,Mo)C、(Nb,V,Mo)C、(Nb,Ti,Mo)Cおよび(Nb,Ti,V,Mo)Cが挙げられる。
また、かような炭化物は、焼結ネック部のMo濃化領域において、単位面積1mm2当たり1〜100個程度の割合で析出させることが好ましい。なお、Mo濃化領域とは、焼結ネック部の周辺10mm程度の領域を意味する。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細にするが、本発明は、以下の例に何ら限定されるものではない。
表1のNo.1〜36に示す合金元素を含む溶鋼を水アトマイズ法によって噴霧し、アトマイズままの鉄基粉末とした。この鉄基粉末に、酸化Mo粉末を所定の比率で添加し、V型混合器で15分間混合したのち、露点:30℃の水素雰囲気で熱処理(保持温度:875℃、保持時間:1h)して、鉄基粉末の表面に所定量のMoを拡散付着させた粉末冶金用合金鋼粉を製造した。
ついで、これらの粉末冶金用合金鋼粉に対して、表1に示す量の黒鉛を添加し、さらに得られた合金鋼粉混合粉:100質量部に対しエチレンビスステアリン酸アミドを0.6質量部添加したのち、V型混合機で15分間混合した。その後、圧力:686MPaで加圧成形して長さ:55mm、幅:10mm、厚さ:10mmのタブレット状成形体を作製した。
このタブレット状成形体に焼結を施して、焼結体とした。この焼結は、N2−10体積%H2雰囲気中にて、焼結温度:1130℃、焼結時間:20分の条件で行った。
得られた焼結体を、引張試験用に平行部径:5mmの丸棒引張試験片に加工し、またシャルピー衝撃試験用には焼結したままの形状で、カーボンポテンシャル0.8%でガス浸炭(保持温度:870℃、保持時間:60分)した後、焼入れ(60℃、油焼入れ)および焼戻し(180℃、60分)を行ったものを用いた。
これらの焼結体の引張強度TS(MPa)および衝撃値(J/cm2)を測定した結果を、表1に併せて示す。
【0041】
【表1−1】


【表1−2】

【0042】
表1に示したとおり、発明例と比較例の引張強度および衝撃値を比べると、発明例はいずれも引張強度:1150MPa以上、衝撃値:10J/cm2以上と高強度と高靭性を両立できたのに対し、比較例はいずれも、発明例に比べると引張強度と衝撃値の少なくともいずれかが劣っていた。
なお、本発明例ではいずれも焼結体断面のSEM観察および画像解析により、焼結ネック部のMo濃化領域において(Nb,Mo)C、(Nb,V,Mo)C、(Nb,Ti,Mo)Cおよび(Nb,Ti,V,Mo)C等が単位面積1mm2当たり1〜100個程度観察された。
【符号の説明】
【0043】
1 鉄基粉末
2 焼結ネック部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.02〜0.4質量%のNbを予合金化した鋼粉の表面に、Mo量で0.05〜1.5質量%のMo含有粉末を拡散付着させてなる粉末冶金用合金鋼粉。
【請求項2】
0.01〜0.4質量%のVおよび0.01〜0.4質量%のTiの少なくとも1種と、
0.02〜0.4質量%のNbと、
を予合金化した鋼粉の表面に、Mo量で0.05〜1.5質量%のMo含有粉末を拡散付着させてなる粉末冶金用合金鋼粉。
【請求項3】
請求項1または2に記載の粉末冶金用合金鋼粉を、圧粉成形後、焼結して得た鉄基焼結材料であって、該焼結材料の気孔の周囲に少なくともNbとMoを含む炭化物が析出している鉄基焼結材料。
【請求項4】
前記少なくともNbとMoを含む炭化物が、(Nb,Mo)C、(Nb,V,Mo)C、(Nb,Ti,Mo)Cおよび(Nb,Ti,V,Mo)Cの少なくとも1種である請求項3に記載の鉄基焼結材料。
【請求項5】
請求項1または2に記載の粉末冶金用合金鋼粉を、0.1〜1.0質量%の炭素粉末と混合したのち、400〜1000MPaの加圧力で圧粉成形後、1100〜1300℃の温度で焼結し、得られる焼結材料の気孔の周囲に少なくともNbとMoを含む炭化物を析出させることを特徴とする鉄基焼結材料の製造方法。
【請求項6】
前記少なくともNbとMoを含む炭化物が、(Nb,Mo)C、(Nb,V,Mo)C、(Nb,Ti,Mo)Cおよび(Nb,Ti,V,Mo)Cの少なくとも1種である請求項5に記載の鉄基焼結材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−140699(P2012−140699A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221322(P2011−221322)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】