説明

粉末状イオン性水溶性高分子およびその使用方法

【課題】
重合時無機塩を存在させる重合法は、油中水型エマルジョン重合法や塩水溶液中分散重合法などあるが、生成した重合物を溶解した場合、溶解液粘性が低下し、分散性が良好である。水溶性高分子の粉末化において、塩水溶液中分散重合物は、乾燥後塩含有量が高く、油中水型エマルジョン重合法はコストが高い。本発明の課題は、溶解液粘性が低下する粉末型水溶性高分子を製造する方法において、粉末中の塩含有量が少なく、しかも低コストで製造可能な方法を提供する。
【解決手段】
特定のイオン性水溶性単量体、(メタ)アクリルアミドおよび水溶性無機塩からなる単量体濃度が20〜80質量%の範囲にある水溶液を、重合した重合物あるいは共重合物を乾燥した後、粉砕し細粒化することによって塩含有量の少ない粉末状イオン性水溶性高分子を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状イオン性水溶性高分子およびその使用方法に関するものであり、詳しくは特定の単量体及び無機塩からなる単量体あるいは単量体混合物水溶液濃度が20〜80質量%の範囲にある水溶液を、重合した重合物あるいは共重合物を乾燥した後、粉砕し細粒化したことを特徴とする粉末状イオン性水溶性高分子に関し、更に歩留および/または濾水を向上させることを目的として、抄紙前の製紙原料に製紙原料に添加することを特徴とする製紙方法、および汚泥に添加し凝集後、脱水することを特徴とする汚泥の脱水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子凝集剤には粉末状製品と液状製品があり、液状製品は水溶液製品と分散型製品がある。いずれも一長一短が、あり使い分けが重要な要素とみられる。粉末状製品は輸送が有利であり、物性の維持も容易であり長期間安定性を保つ。一方、液状製品は輸送と物性の維持には粉末状製品と相反するが、乾燥工程がなくエネルギー的には有利であり溶解も容易である。粉末状製品で最も多く採用されている製造方法は、高濃度単量体水溶液を重合し、ゲル状物を造粒、乾燥、粉砕し粉末化する方法である(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
重合時無機塩を存在させる方法に関して、油中水型エマルジョン重合する方法は開示されているが乾燥に関しては記載がなく(特許文献3)、またこの重合法による乾燥方法は、分散相の高分子水溶液濃度が50〜80質量%になること、分散媒のオイルや乳化剤が共存している分散液を乾燥させるため、水溶液の重合物の乾燥物方法とは状況が大きく異なる。
【特許文献1】特開2003−251106号公報
【特許文献2】特開2004−059719号公報
【特許文献3】特開2011−099076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
重合時無機塩を存在させる重合法は、油中水型エマルジョン重合法や塩水溶液中分散重合法などあるが、生成した重合物を溶解した場合、溶解液粘性が低下し、汚泥や製紙原料に添加すると、分散性が良好で汚泥の脱水性能や製紙原料の地合が改善されることが知られている(特許文献3)。しかし塩水溶液中分散重合物は、分散液中の水溶性高分子と無機塩の質量比が1対1かそれ以上であり、乾燥、粉末化しても塩含有率が高すぎる。水溶性高分子の重合物を乾燥、粉末化する方法として油中水型エマルジョン重合を噴霧乾燥させる方法がある。この方法は架橋性高分子を乾燥させる場合は有利であるが、一般的には高濃度重合、造粒、乾燥、粉砕などをする方法が操作も単純でありコスト的には最も有利である。従って本発明の課題は、溶解液粘性が低下する粉末型水溶性高分子を製造する方法において、粉末中の塩含有量が少なく、しかも効率よく粉末型水溶性高分子を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、以下のような発明に達した。すなわち請求項1の発明は、下記一般式(1)および/または下記一般式(2)で表される水溶性単量体、下記一般式(3)で表される水溶性単量体、(メタ)アクリルアミド、および水溶性無機塩からなる水溶液であって、該水溶液中の単量体濃度が20〜70質量%の範囲にある水溶液を、重合した重合物あるいは共重合物を乾燥した後、粉砕し細粒化したことを特徴とする粉末状イオン性水溶性高分子である。
【化1】

一般式(1)
R1は水素又はメチル基、R2、R3は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基、R4は水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基、X1は陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】

一般式(2)
R5は水素又はメチル基、R6、R7は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、X2は陰イオンをそれぞれ表わす。
【化3】


一般式(3)
は水素、メチル基またはカルボキシメチル基、Rは水素またはカルボキシル基、QはSO、CSO、CONHC(CHCHSOあるいはCOO、Mは水素または陽イオンをそれぞれ表す。
【0006】
請求項2の発明は、前記一般式(1)および/または下記一般式(2)で表される水溶性単量体の共重合比が5〜40モル%、前記一般式(3)で表される水溶性単量体の共重合比が0〜10モル%、および(メタ)アクリルアミドの共重合比が50〜95モル%であることを特徴とする請求項1に記載の粉末状イオン性水溶性高分子である。
【0007】
請求項3の発明は、前記水溶液中の前記無機塩濃度が、3〜15質量%であることを特徴とする請求項1に記載の粉末状イオン性水溶性高分子である。
【0008】
請求項4の発明は、前記水溶性無機塩が、陽イオンとしてナトリウム、カリウム、アンモニウムイオンから選択された一種と、陰イオンとしてハロゲン化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオンから選択された一種の組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の粉末状イオン性水溶性高分子である。
【0009】
請求項5の発明は、請求項1〜4に記載の粉末状イオン性水溶性高分子の水溶液を、歩留および/または濾水を向上させることを目的として、抄紙前の製紙原料に添加することを特徴とする製紙方法である。
【0010】
請求項6の発明は、請求項1〜4に記載の粉末状イオン性水溶性高分子の水溶液を、水性懸濁液に添加し凝集後、固液分離することを特徴とする水性懸濁液の処理方法である。
【発明の効果】
【0011】
既存の塩共存下油中水型エマルジョン重合品は、粉末化後界面活性剤や分散媒としてのオイルが混入し、また塩水溶液中分散重合品の粉末化製品は、塩濃度が全体に対し40〜50質量%をも含有する。これに対し本発明の単量体の高濃度溶液を重合し、造粒、乾燥、粉砕などによって製造した粉末製品は、含有する塩濃度が低く添加剤の濃度も低く、安定性は現状の粉末製品と同様である。そして性能は、見かけの水溶液粘性が低いため水処理対象とする水性分散液への分散性が高く、その結果添加量の削減にも繋がり、さらに汚泥脱水剤へ応用した場合、脱水ケーキ含水率の低下も期待できる。また製紙薬剤へ応用した場合は、分散性の高さにより紙の地合が向上し、製紙原料への添加時、薬剤濃度を高く設定することが期待でき、希釈水の節約にも繋がる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の粉末状イオン性水溶性高分子は、カチオン性水溶性単量体、(メタ)アクリルアミド0〜95mol%、および水溶性無機塩からなる単量体あるいは単量体混合物水溶液濃度が20〜80質量%の範囲にある水溶液を、重合した重合物あるいは共重合物を乾燥した後、粉砕し細粒化することによって製造できる。重合開始は、ラジカル重合開始剤あるいは光増感剤と紫外光あるいは可視光、電子線などの照射によって行う。重合物の形態は、シートなど薄膜状のものあるいは直方体など厚みのある形態に重合し、その後粗砕し、ミートチョッパーなどのよって造粒し、乾燥、乾燥物の粉砕、篩い分けなどの工程を経て粉末状のイオン性水溶性高分子製品にすることができる。
【0013】
乾燥前にゲル状になった重合物を造粒することで粗大な塊状の場合よりも効率的に乾燥が可能である。乾燥前造粒物の平均粒子径については、0.5mmより小さいと造粒時に造粒装置の負荷が大きくなってしまい、効率的ではない。造粒物の粒子径が20mmを超えると、乾燥時に十分に内部まで乾燥することが困難になる。乾燥前の造粒物の平均粒子径は0.5mm〜20mmが好ましく、更に好ましくは1.0mm〜10mmである。
【0014】
造粒後の乾燥方法に特に制限は無く、熱風乾燥、伝導伝熱乾燥、輻射熱乾燥等の方法を用いることができる。特に流動乾燥、通気乾燥のような乾燥効率の良い熱風乾燥が好ましい。乾燥後に乾燥された固体物を各種粉砕機で処理することで、比較的大きい粒子のほかにマイクロメートルオーダーの平均粒子径を有する微細粒子を得ることもできる。
【0015】
単量体あるいは単量体混合物水溶液濃度は、20〜80質量%の範囲であるが、濃度が高ければ乾燥工程は早いが、水溶性高分子の重合度が上がらない場合があり注意を要する。また濃度が高すぎて粗砕、造粒が不可能になる場合もある。従って一般的には20〜80質量%であるが好ましは25〜60質量%である。
【0016】
開始温度は、ラジカル重合開始剤を使用する場合は、10〜40℃が好ましいが、光増感剤と紫外光あるいは可視光、電子線などの照射によって開始する場合は、0℃でも開始可能であるが、好ましくは10〜40℃である。一般にアクリルアミドなどの含有量が高い単量体組成の場合は、10〜30℃など低温で開始し、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリドなどの含有量が高い単量体組成の場合は、25〜40など高温域により重合開始する。
【0017】
重合開始剤は、ラジカル重合開始剤としてアゾ系開始剤、レドックス系開始剤等が使用できる。また光重合を行う場合は、光重合開始剤を使用する。
【0018】
ラジカル重合開始剤は油溶性あるいは水溶性のどちらでも使用可能であるが、アゾ系、過酸化物系、レドックス系何れでも重合することが可能である。油溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’−アゾビスイソブチロニトリル、1、1−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2、2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2、2’−アゾビス−2−メチルプロピオネート、4、4’−アゾビス−(4−メトキシ−2、4−ジメチル)バレロニトリル等が挙げられる。
【0019】
水溶性アゾ開始剤の例としては、2、2’−アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物、2、2’−アゾビス[2−(5−メチル−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩化水素化物、4、4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等が挙げられる。またレドックス系の例としては、ペルオキソ二硫酸アンモニウムと亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、トリメチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等との組み合わせが挙げられる。更に過酸化物の例としては、ペルオキソ二硫酸アンモニウム或いはカリウム、過酸化水素、ベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、オクタノイルペルオキサイド、サクシニックペルオキサイド、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート等を挙げることができる。
【0020】
光重合開始剤は、光の照射によってラジカルを生じ、水溶性単量体の重合を開始させることのできる化合物であれば特に限定されない。α−ヒドロキシケトン類、アシルホスフィンオキサイド化合物等が使用可能であり、その例は1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾフェノン等があげられる。本発明においては水溶性単量体を主に使用するため水に溶解して単量体溶液に添加することが好ましいが、水に不溶の場合は水に混和性のアルコールなど有機溶媒が好ましいが、水に非混和性トルエンなどの有機溶媒も使用できる。
【0021】
光重合開始剤は、上記アゾ系重合開始剤が使用できる。また光重合を実施する場合、上記ラジカル重合開始剤を併用すると重合が順調に進行し好ましい。ラジカル重合開始剤は、レドックス開始剤あるいはアゾ系開始剤が好ましい。レドックス開始剤には、例えば過硫酸ナトリウムと亜硫酸ナトリウム、あるいは過硫酸アンモニウム(APS)とN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)の組合せなどがあげられるが、これに限定されるものではない。
【0022】
光重合を行う場合、紫外域の光、特に近紫外線を照射することが好ましい。近紫外線の発生は、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、蛍光ケミカルランプ、蛍光青色ランプ等があげられる。また、近紫外線の波長領域としては、300nm以上であり、また、500nm以下であることが好ましい。
【0023】
紫外線の照射強度は、0.1〜100W/m2の強度で照射することが好ましい。特に近紫外線を10W/m2以下の強度で照射して重合を開始させることが好ましい。また好ましくは、8W/m2以下であり、更に好ましくは、6W/m2以下である。また、近紫外線を照射して重合する間は、近紫外線の照射強度が一定であっても変化させてもよいが、上記照射強度の最大が10W/m2以下になるように調節して重合を開始させることが好ましい。
【0024】
本発明で使用するカチオン性単量体は、以下の様なものがある。すなわち、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルやジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、メチルジアリルアミン等の塩化メチルや塩化ベンジルによる四級化物である。その例として一般式(1)であらわされる単量体は、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物である。一般式(2)であらわされる単量体は、ジアリルジメチルアンモニウム塩化物などがある。
【0025】
両性水溶性高分子を製造する場合は、上記ビニル系カチオン性単量体の他、ビニル系アニオン性単量体を併用する。その例としては前記一般式(3)で表されるビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸あるいは2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フタル酸あるいはp−カルボキシスチレン酸等があげられる。
【0026】
また非イオン性単量体を共重合する場合は、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、アクリロイルモルホリン等が挙げられる。
【0027】
これら単量体の共重合比率は、以下のようである。カチオン性単量体5〜100モル%、アニオン性単量体0〜30モル%、非イオン性単量体0〜95モル%である。本発明では汚泥の脱水剤として使用する場合は、カチオン性はある程度高いことが必要であるため好ましくはカチオン性単量体20〜100モル%、アニオン性単量体0〜20モル%、非イオン性単量体0〜80モル%が好ましく、更に好ましくは
カチオン性単量体40〜100モル%、アニオン性単量体0〜20モル%、非イオン性単量体0〜60モル%である。また製紙用歩留剤として使用する場合は、カチオン性単量体5〜40モル%、アニオン性単量体0〜10モル%、非イオン性単量体60〜90モル%が好ましく、更に好ましくはカチオン性単量体5〜30モル%、アニオン性単量体0〜10モル%、非イオン性単量体70〜95モル%である。
【0028】
重合時、単量体水溶液に共存させる無機塩は、単量体水溶液中に溶解度の高いものが好ましいが、以下のようなものである。すなわちナトリウムやカリウムの様なアルカリ金属イオンやアンモニウムイオン等の陽イオンと、ハロゲン化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、オルトリン酸イオン等の陰イオンとを組み合わせた塩が使用可能である。これら塩類の濃度としては、水溶液全体に対し3〜15質量%であり、好ましくは5%〜15質量%である。また具体的な塩として硫酸アンモニウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウムなどが好ましく、特に硫酸アンモニウムが好ましい。
【0029】
本発明の無機塩共存下において重合したイオン性水溶性高分子は、水溶液の見かけ粘度が低下する。例えばアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物20モル%とアクリルアミド80モル%からなる重合体では、0.2質量%溶液が149mP・s(B型粘度計、25℃)であるが、これと同様の化学組成を通常の無機塩非存在下で重合し粉末化した市販の粉末製品では、重合体の0.2質量%溶液は526mP・sであることからも認識することができる。
【0030】
本発明による無機塩存在下における20〜80質量%の高濃度水溶液
重合によって製造された重合物は、塩の非存在下でイオン性水溶性高分子を水溶液重合した重合物と、塩水溶液中における分散重合のように塩析重合による重合との中間的な重合物と考えることができる。塩析重合による重合物は、完全に塩析し不溶化した状態になっている。
塩存在下の水溶液中で重合した重合物は、共存させる塩濃度によって
高分子鎖の収縮状態は異なっていると考えられる。単量体濃度20質量%の場合、残余は80質量%であるが、無機塩濃度が10質量%とすると水は70質量%となり、単量体、無機塩、水の質量比は1:0.5:3.5となり、単量体:無機塩、単量体:水ともかなりの高濃度となる。また単量体濃度40質量%の場合、残余は60質量%であるが、無機塩濃度が10質量%とすると水は50質量%となり、単量体、無機塩、水の質量比は1:0.25:0.8となる。比較的少量の水に塩が比較的大量に存在するとこになり、特異的な物理・化学的な状態となっている。従って結晶化あるいは物理的な架橋などしている可能性もある。そのため高分子鎖がコンパクトな状態にあり、それだけ分散性がよくなっていると考えられる。
【0031】
本発明により単量体を重合して得られるイオン性水溶性高分子の分子量は、光散乱による重量平均分子量として、300万から3000万であり、使用目的により調節することができる。例えば汚泥脱水剤として使用する場合は、300万〜1000万であるが、好ましくは500万〜800万である。300万より低いと凝集が不十分となり脱水機に掛からない場合があり、推奨できない。また1000万より高いと巨大フロックが生成し、脱水後のケーキ含水率が返って低下しない場合がある。また製紙用歩留剤として使用する場合は、500万〜3000万であるが、好ましくは700万〜3000万である。500万より低いと歩留率が向上せず実用的ではなく、3000万より高いと凝集力が強すぎて、成紙の地合の乱れなど発生し好ましくない。
【0032】
(実施例)
以下に示す実施例によって本発明のカチオン性あるいは両性重合体の油中水型エマルジョンからなる汚泥脱水剤を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)
500mLポリビ−カーにアクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド80質量%水溶液201.0gと50質量%アクリルアミド溶液78.4g、硫酸アンモニウム12.0gを仕込み、20質量%硫酸水溶液によりpHを3.5に調節後、溶液全体を398gに調整した。この時のアクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミド共重合モル比は60:40であり、硫酸アンモニウムの溶液中の濃度は3.0質量%である。その後、窒素雰囲気下液温を35℃に保ち、重合開始剤として2、2’−アゾビス[2−(5−メチル−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩化水素化物5質量%水溶液1.2g(対単量体300ppm)を加え、全体を攪拌し均一にし、深さ3cm、直径20cmのステンレス製容器に流し込んだ。この時の溶液厚みは約1.3cmである。重合開始後、2時間窒素を流し続けた。重合後、ステンレス製容器より取り出し、ミートチョッパーにより重合ゲル状物を1〜3mmに造粒し、通風乾燥機により100℃、10時間乾燥した。乾燥後、粉砕し平均粒径1.5mmの粉末状水溶性高分子を得た。前記粉末状水溶性高分子を再溶解し、0.5質量%、1N食塩水中の粘度をB型粘度計により測定し(25℃)、更に1N食塩水中、25℃において、0.2、0.1、0.05g/dlの各濃度の溶液を調製し、還元粘度をオストワルト型粘度計で測定したのち、濃度0に外挿することにより固有粘度(IV)を求めた。この試料を試料−1とし結果を表1および表2に示す。
【0034】
実施例1と同様の操作により試作−2〜試作−14を合成し、粘度の測定を行った。結果を表1および表2に示す。
【0035】
(実施例2)
500mLポリビ−カーにアクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド80質量%水溶液201.0gと50質量%アクリルアミド溶液78.4g、硫酸アンモニウム28.0g、10%リボフラビン燐酸ナトリウム溶液1.0g(対単量体0.05質量%)をそれぞれ仕込み、20質量%硫酸水溶液によりpHを3.5に調節後、溶液全体を398gに調整した。この時のアクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミド共重合モル比は60:40であり、硫酸アンモニウムの溶液中の濃度は9.0質量%である。その後、窒素雰囲気下液温を20℃に保ち、光重合開始剤として2、2’−アゾビス[2−(5−メチル−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩化水素化物5質量%水溶液1.2g(対単量体300ppm)を加え、全体を攪拌し均一にし、深さ3cm、直径20cmのステンレス製容器に流し込んだ。この時の溶液厚みは約1.3cmである。その後400W高圧水銀灯にてUV(365nmの光量20mW/cm)を照射し、重合を開始させた。UV照射と窒素流入を2時間継続した。重合後、ステンレス製容器より取り出し、ミートチョッパーにより重合ゲル状物を1〜3mmに造粒し、通風乾燥機により100℃、15時間乾燥した。乾燥後、粉砕し平均粒径1.5mmの粉末状水溶性高分子を得た。前記粉末状水溶性高分子を再溶解し、0.5質量%、1N食塩水中の粘度をB型粘度計により測定し(25℃)、
更に1N食塩水中、25℃において、0.2、0.1、0.05g/dlの各濃度の溶液を調製し、還元粘度をオストワルト型粘度計で測定したのち、濃度0に外挿することにより固有粘度(IV)を求めた。
この試料を試料−15とする。同様な操作にて試料−16を作成した。これらの結果を表1および表2に示す。
【0036】










(表1)

DMC:メタクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、DMQ:アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、AAM:アクリルアミド、AAC;アクリル酸、
無機塩種類(質量%);溶液全体に対する無機塩濃度、
a;硫安、b;食塩、c;硫酸ナトリウム、d;硫酸マグネシウム、
【0037】









(表2)

粉末平均粒径;mm、0.2%水溶液粘度;mPa・s、
固有粘度;dL/g
【0038】
(実施例3)
試料−31、試料−32、比較−24、および比較−24の溶解液に硫酸アンモニウムを対水溶性高分子7.0質量%(重合前の対単量体質量%に同じ)添加したもの(比較−27)に関して、製紙原料中における分散性の試験を実施した。使用原料は、固形分濃度1.2質量%で、軽質炭酸カルシウム等Ash分として32.0%対固形分濃度含んだ中質紙抄造原料を用いた。製紙原料の物性値は、pH7.5、Whatman No.41濾紙濾過液のミューテック社製PCD−03型を使用したカチオン要求量は、0.005meq/Lである。分散性の試験には、コーエイ工業株式会社製、「Flocckey Tester」を用いた。これは水溶性高分子を製紙原料に添加すると、製紙原料が凝集し、攪拌子に抵抗がかかり、これを電気的な信号に変換し電圧を凝集状態として測定する。電圧が高ければ凝集が高い状態にあり、また添加時から電圧が早く高くなれば凝集が早期に起こり水溶性高分子の分散が早いことを表している。試験は表3に示す0秒後に「Flocckey Tester」の攪拌を開始し、10秒後に水溶性高分子を添加し、時間経過の凝集状態がパソコンにより自動的に記録される。結果を表3に示す。
【0039】
(表3)

攪拌時間;秒、
【0040】
試料−31および試料−32は、塩を添加し重合時した水溶性高分子であり、添加後20秒で良好な凝集状態を示し、分散性の良いことを表している。これに対し比較−24は、添加後20秒後においてもあまり凝集が起きてなく、添加30秒後で最大凝集状態を示しているが、その最大値は試料−31および試料−32に較べ低く、凝集性のそのものも低いことを表している。また比較−27は、水溶性高分子の溶解液に試料−31および試料−32と同じ比率の塩を添加したものであるが、添加20秒後における凝集が向上しているが、共重合率が同様であり重合時塩を添加した試料−31に較べると、凝集性能は低いことが分かる。
【0041】
(実施例4)
ブリット式ダイナミックジャーテスターによる歩留率の測定試験を行なった。200メッシュワイヤー使用。使用原料は、固形分濃度1.2質量%で、軽質炭酸カルシウム等Ash分として32.0%対固形分濃度含んだ中質紙抄造原料を用いた。製紙原料の物性値は、pH7.5、Whatman No.41濾紙濾過液のミューテック社製PCD−03型を使用したカチオン要求量は、0.005meq/Lである。攪拌回転数1200rpmで20秒間攪拌後、試料−22および試料−31〜試料−33を対紙料固形分に対して150ppm添加し攪拌回転数1200rpmで10秒間攪拌後、濾液を採取しADVANTEC、No.2濾紙にて濾過後、SSを測定、総歩留率を測定後、濾紙を525℃で2時間灰化し、灰分歩留率を測定した。結果を表4に示す。
【0042】
次にTAPPIスタンダード抄紙機(60メッシュワイヤー使用)により坪量90g/mの紙を抄いた。抄紙時のpHは7.0であった。抄紙した湿紙を4.1kgf/cmで5分間、プレス機にてプレス脱水し、回転式ドラムドライヤーで105℃、3分間乾燥後、25℃、湿度65%の条件で18時間調湿し、JIS P8131に準拠して比破裂強度及び地合い指数を測定した。地合い指数はM/K・System・Inc.社製「3D・Sheet・Analyzer」により測定した。この数値は高い程、地合いは良いことを表わしている。
【0043】
(比較例1)
実施例4と同様な製紙原料を用いて、比較−24〜比較−26を対紙料固形分に対して150ppm添加し、攪拌回転数1200rpmで20秒間攪拌後、試料−22および試料−31〜試料−33を対紙料固形分に対して150ppm添加し攪拌回転数1200rpmで10秒間攪拌後、濾液を採取しADVANTEC、No.2濾紙にて濾過後、SSを測定、総歩留率を測定後、濾紙を525℃で2時間灰化し、灰分歩留率を測定した。実施例4と同様に抄紙後の地合も測定した。
結果を表4に示す。
【0044】
実施例の各試料は、総歩留率および炭酸カルシウム歩留率は向上し良好な効果を発現している。また地合性も80%前後と良好な値を発現している。これに対し比較各試料は、総歩留率および炭酸カルシウム歩留率が、実施例の各試料に比べ低下し、地合性も低い。これは比較各試料が製紙原料への分散性が実施例の各試料より低く、凝集作用が遅延し、均一なフロック形成が送れ、歩留率の低下、および地合性も低下したと考えられる。
【0045】
(表4)

【0046】
(実施例5)
下水処理場より発生する下水混合生汚泥(汚泥性状がpH6.4、SS:35,000mg/L)について凝集濾過試験及び圧搾試験を実施した。300mL容のポリプロピレン製ビーカーに汚泥を200mL入れた後、乾燥粉末化後試料−21〜試料−27、試料−30および試料−33〜試料−35をそれぞれ対SS分0.70質量%添加し、1000rpm、30秒間の攪拌により汚泥を凝集させた。その後フロックの大きさを観察後、40メッシュの濾布付きビーカーにより濾過速度を調べた。また濾過後の凝集物を1kgf/cmの圧搾圧力で30秒間プレス脱水後に脱水ケーキの含水率を求めた。結果を表5に示す。
【0047】
(比較例2)
実施例5と同じ汚泥を使用し同様な操作を、乾燥粉末化後比較−21〜比較−23に関して実施した。結果を表5に示す。
【0048】
(表5)

10秒後濾液量;mL、ケーキ含水率;質量%、フロック径;mm
【0049】
実施例の各試料は、十分な凝集効果を示しケーキ含水率も低下し良好な効果を発現している。これに対し比較各試料は、凝集効果が低下し、ケーキ含水率が低下しない。これは比較各試料が薬剤の汚泥への分散性が実施例の各試料より低く凝集作用が遅れていることを表わしていると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)および/または下記一般式(2)で表される水溶性単量体、下記一般式(3)で表される水溶性単量体、(メタ)アクリルアミド、および水溶性無機塩からなる水溶液であって、該水溶液中の単量体濃度が20〜70質量%の範囲にある水溶液を、重合した重合物あるいは共重合物を乾燥した後、粉砕し細粒化したことを特徴とする粉末状イオン性水溶性高分子。
【化1】

一般式(1)
R1は水素又はメチル基、R2、R3は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基、R4は水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基、X1は陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】

一般式(2)
R5は水素又はメチル基、R6、R7は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、X2は陰イオンをそれぞれ表わす。
【化3】


一般式(3)
は水素、メチル基またはカルボキシメチル基、Rは水素またはカルボキシル基、QはSO、CSO、CONHC(CHCHSOあるいはCOO、Mは水素または陽イオンをそれぞれ表す。
【請求項2】
前記一般式(1)および/または前記一般式(2)で表される水溶性単量体の共重合比が5〜40モル%、前記一般式(3)で表される水溶性単量体の共重合比が0〜10モル%、および(メタ)アクリルアミドの共重合比が50〜95モル%であることを特徴とする請求項1に記載の粉末状イオン性水溶性高分子。
【請求項3】
前記水溶液中の前記無機塩濃度が、3〜15質量%であることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の粉末状イオン性水溶性高分子。
【請求項4】
前記水溶性無機塩が、陽イオンとしてナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン、アンモニウムイオンから選択された一種と、陰イオンとして塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオンから選択された一種の組み合わせであることを特徴とする請求項1〜3に記載の粉末状イオン性水溶性高分子。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の粉末状イオン性水溶性高分子の水溶液を、歩留および/または濾水を向上させることを目的として、抄紙前の製紙原料に添加することを特徴とする製紙方法。
【請求項6】
請求項1〜4に記載の粉末状イオン性水溶性高分子の水溶液を、水性懸濁液に添加し凝集後、固液分離することを特徴とする水性懸濁液の処理方法。

【公開番号】特開2013−60498(P2013−60498A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198549(P2011−198549)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000142148)ハイモ株式会社 (151)
【Fターム(参考)】