説明

粉末状セメント分散剤

【課題】ポリカルボン酸系セメント分散剤において、優れた分散性能を発現させつつ、粉体化を容易にしうる手段を提供する
【解決手段】不飽和ポリアルキレングリコール系単量体由来の繰り返し単位(I)と、不飽和カルボン酸系単量体由来の繰り返し単位(II)と、ポリアルキレンイミン鎖を分子内に3本以上含む分岐構造を有する分岐化合物単量体由来の繰り返し単位(III)と、を有するポリカルボン酸系共重合体を主成分とする、粉末状セメント分散剤、あるいは、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体由来の繰り返し単位(IV)および不飽和カルボン酸系単量体由来の繰り返し単位(V)を有するポリカルボン酸系共重合体(A)と、ポリアルキレンイミン鎖を分子内に3本以上含む分岐構造を有する分岐化合物(B)と、を含む、粉末状セメント分散剤により、上記課題は解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状セメント分散剤に関し、より詳しくは、ポリカルボン酸系ポリマーを含む粉末状セメント分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、近代社会において不可欠な材料の一つとなっており、ビル、家屋、橋梁、トンネルなど各種用途に広く用いられている。通常、コンクリートは、セメント、水、および骨材を含むコンクリート組成物を硬化させることによって形成される。コンクリート組成物中には、これらの材料の他に、コンクリート組成物の流動性、空気連行性、硬化物の耐凍結融解性などの各種性能を高めるために、各種混和剤が配合される。
【0003】
混和剤の一つとして、セメント分散剤が知られている。コンクリートは、一般に水の含有量が少ないほど耐久性が向上するため、コンクリート組成物中における水の配合量が少ない方が好ましい。しかし、水の配合量が少なすぎると、コンクリート組成物の流動性が確保できず、作業性が低下してしまう。セメント分散剤は、コンクリート組成物中における水の配合量を減少させる機能を有し、この問題の解決に寄与する。
【0004】
セメント分散剤の1つとして、カルボン酸またはその塩をポリマーの繰り返し単位中に含む、ポリカルボン酸系セメント分散剤が知られている。また、ポリカルボン酸系ポリマーにポリアルキレンオキサイド(PAO;−(AO)−)を導入することによって、セメントペーストの流動性が向上することが知られている。ポリアルキレンオキサイドが導入されたポリカルボン酸系セメント分散剤は、従来のナフタレン系やメラミン系のセメント分散剤に比べて、セメント分散性、セメント組成物のフレッシュ状態での流動性、流動保持性、材料分離抵抗性、硬化強度発現性において優れている。
【0005】
ポリアルキレンオキサイドが導入されたポリカルボン酸系のセメント分散剤は、原料として用いられるモノマー、およびポリアルキレンオキサイドの結合形態によって、複数種に分類されうる。例えば、(メタ)アクリル酸またはその塩が原料モノマーの1つとして用いられ、他の原料モノマーの主鎖にポリアルキレンオキサイドがエーテル結合で結合しているポリマー(アルケニルPAOエーテル/アクリル酸構造;下記式(1)参照、式中COOYはカルボキシル基またはその塩を示す)、マレイン酸もしくはフマル酸またはそれらの塩が原料モノマーの1つとして用いられ、他の原料モノマーの主鎖にポリアルキレンオキサイドがエーテル結合で結合しているポリマー(アルケニルPAOエーテル/マレイン酸構造;下記式(2)参照)、(メタ)アクリル酸またはその塩が原料モノマーの1つとして用いられ、他の原料モノマーの主鎖にポリアルキレンオキサイドがエステル結合で結合しているポリマー((メタ)アクリルPAOエステル/(メタ)アクリル酸構造;下記式(3)参照)などが挙げられる。また、各種ポリマーは、カルボン酸部位がカルボン酸のままであるか、金属塩となっているかに応じて、酸型、一価金属塩型、二価金属塩型、三価金属塩型などに分類される。
【0006】
【化1】

【0007】
従来、例えば特許文献1には、(メタ)アクリルPAOエステル/(メタ)アクリル酸構造および(メタ)アクリルPAOエステル/アルケニルPAOエーテル/(メタ)アクリル酸構造の一価金属塩型ポリマーが開示されている。また、例えば特許文献2には、(メタ)アクリルPAOエステル/(メタ)アクリル酸構造およびアルケニルPAOエーテル/アクリル酸構造の一価金属塩型ポリマーが開示されている。さらに、例えば特許文献3には、(メタ)アクリルPAOエステル/(メタ)アクリル酸構造およびアルケニルPAOエーテル/アクリル酸構造の二価金属塩型ポリマーが開示されている。また、例えば特許文献4には、アルケニルPAOエーテル/マレイン酸構造の二価金属塩型ポリマーが開示されている。
【0008】
セメント分散剤としての特性を向上させるために、ポリカルボン酸系ポリマーに他成分を加える手法も提案されている。例えば、ポリカルボン酸系ポリマーとPEGとを混合したセメント分散剤が開示されている(例えば、特許文献5を参照)。また、ポリカルボン酸系ポリマーおよびポリアルキレンポリアミンに対して、アルキレンオキサイドを付加重合させたセメント組成物が開示されている(例えば、特許文献6を参照)。
【特許文献1】特開2000−26145号公報
【特許文献2】特開2002−167255号公報
【特許文献3】特開2002−167256号公報
【特許文献4】特開平9−309756号公報
【特許文献5】特開2000−26146号公報
【特許文献6】特開2000−109357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したようなポリカルボン酸系セメント分散剤は、通常、液状品として使用されているが、輸送コストなどを考慮すると、セメント分散剤は粉体状であることが好ましい。また、セメント分散剤には、分散性能が高いことも求められる。しかしながら、ポリアルキレンオキサイド部位が重合体中に存在する従来のポリカルボン酸系セメント分散剤では、水分を除去してもワックス状または水飴状となり易く、粉体化しにくい傾向があった。
【0010】
そこで本発明は、ポリカルボン酸系セメント分散剤において、優れた分散性能を発現させつつ、粉体化を容易にしうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、ポリアルキレンイミン鎖を分子内に3本以上含む分岐構造を有する分岐化合物を、ポリアルキレンオキサイド部位を有する特定構造のポリカルボン酸系ポリマーと結合または混合させて用いると、分散性能を損なうことなく、従来粉体化が困難であったポリカルボン酸系ポリマー含有溶液を容易に粉体化しうることを見出した。そしてかような知見に基づき、本発明を完成させるに至った。なお、かような構成により上述したような効果が得られるメカニズムは不明であるが、分岐化合物と特定構造のポリカルボン酸系ポリマーとが相互作用し、ポリマーの分子量が擬似的に増大することによるというメカニズムが推定されている。ただし、当該メカニズムは単なる推測に過ぎず、実際には他のメカニズムによって上述の効果が得られていたとしても、本発明の技術的範囲は何ら影響を受けることはない。
【0012】
具体的には、本発明の一形態によれば、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体由来の繰り返し単位(I)と、不飽和カルボン酸系単量体由来の繰り返し単位(II)と、ポリアルキレンイミン鎖を分子内に3本以上含む分岐構造を有する分岐化合物単量体由来の繰り返し単位(III)と、を有するポリカルボン酸系共重合体を主成分とする、粉末状セメント分散剤が提供される。
【0013】
また、本発明の他の形態によれば、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体由来の繰り返し単位(IV)および不飽和カルボン酸系単量体由来の繰り返し単位(V)を有するポリカルボン酸系共重合体(A)と、ポリアルキレンイミン鎖を分子内に3本以上含む分岐構造を有する分岐化合物(B)と、を含む、粉末状セメント分散剤が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れた分散性能を発現し、かつ粉体化が容易なポリカルボン酸系セメント分散剤が提供されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、いくつかの実施形態に分けて本発明を詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであって、下記の具体的な形態によって制限されるべきではない。
【0016】
本発明の一形態は、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体由来の繰り返し単位(I)と、不飽和カルボン酸系単量体由来の繰り返し単位(II)と、ポリアルキレンイミン鎖を分子内に3本以上含む分岐構造を有する分岐化合物単量体由来の繰り返し単位(III)と、を有するポリカルボン酸系共重合体を主成分とする、粉末状セメント分散剤に関する。
【0017】
以下、当該形態について、繰り返し単位(I)および繰り返し単位(II)の種類に応じていくつかの実施形態に分類して説明する。
【0018】
(第1実施形態)
本実施形態において、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体由来の繰り返し単位(I)は下記化学式1で表され(以下、下記化学式1で表される繰り返し単位を「繰り返し単位(I−a)」とも称する)、不飽和カルボン酸系単量体由来の繰り返し単位(II)は下記化学式2で表される(以下、下記化学式2で表される繰り返し単位を「繰り返し単位(II−a)」とも称する)。
【0019】
【化2】

【0020】
式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、AOは、それぞれ独立して炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表し、Rは、炭素原子数0〜2のアルキレン基を表し、nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、2〜300であり、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、メチル基または−COOMを表し(ただし、RおよびRの双方が−COOMである場合を除く)、Rは、水素原子、メチル基または−CHCOOMを表し(ただし、Rが−CHCOOMである場合、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す)、M、MおよびMは、それぞれ独立して水素原子、金属原子、アンモニウム基または有機アミン基を表す。
【0021】
本実施形態において、分岐化合物単量体由来の繰り返し単位(III)を形成する「分岐化合物単量体」とは、上述した所定の分岐化合物に重合性不飽和二重結合が導入されてなる単量体を意味する。
【0022】
本実施形態において、分岐化合物は、ポリアルキレンイミンにアルキレンオキサイドが付加してなる化合物(以下、「PAI/PAO付加物」とも称する)である。PAI/PAO付加物は、例えば、下記化学式7で表される構造を有する。ただし、かような形態のみには限定されない。
【0023】
【化3】

【0024】
式中、qは、それぞれ独立して、オキシエチレン基の付加モル数を表す。
【0025】
化学式7で表されるように、本実施形態の分岐化合物であるPAI/PAO付加物は、ポリエチレンイミンにポリエチレンオキサイドが付加してなる化合物である。すなわち、化学式7で表される本実施形態の分岐化合物は、ポリエチレンイミン鎖またはポリオキシエチレン鎖からなる3本以上の鎖が伸長した構造(分岐構造)を有する。
【0026】
本実施形態の粉末状セメント分散剤は、ポリアルキレンオキサイド部位を有する特定構造のポリカルボン酸系ポリマーに、PAI/PAO付加物単量体が共重合されてなる形態のポリカルボン酸系共重合体を主成分とする。ここで、「PAI/PAO付加物単量体」とは、PAI/PAO付加物のうち、重合性不飽和二重結合を有するものを意味する。PAI/PAO付加物およびPAI/PAO付加物単量体の詳細については、後述する。
【0027】
以下、化学式1で表される繰り返し単位(I−a)および化学式2で表される繰り返し単位(II−a)についてそれぞれ詳細に説明し、その後で「PAI/PAO付加物単量体」について詳細に説明する。
【0028】
(化学式1で表される繰り返し単位(I−a))
化学式1で表される繰り返し単位(I−a)において、Rは、水素原子またはメチル基である。そして、Rは、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基である。当該炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルフェニル基などが挙げられる。かようなアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。また、「アルケニル基」とは、アルケンの任意の炭素原子から一個の水素原子を除去した、一般式C2n−1で表される一価の基を意味する。かようなアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基などが挙げられる。さらに、アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。また、アルキルフェニル基としては、例えば、メチルフェニル基、エチルフェニル基などが挙げられる。流動性の観点からは、Rは、水素原子またはメチル基であることが好ましい。
【0029】
化学式1で表される繰り返し単位(I−a)において、AOは、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。かようなオキシアルキレン基を構成する「A」としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、メチルエチレン基、エチルエチレン基、フェニルエチレン基、テトラメチレン基、または1,2−ジメチルエチレン基が挙げられる。すなわち、化学式1において「AO」は、上記の官能基を含むオキシアルキレン基(例えば、オキシエチレン基)である。なかでも、流動性に優れるという観点からは、Aはエチレン基またはメチルエチレン基であることが好ましい。また、場合によっては、(AO)で表される繰り返し単位中に2以上の異なるAO構造が存在していてもよい。ただし、ポリオキシアルキレン鎖の製造の容易性や構造の制御のし易さを考慮すると、(AO)で表される繰り返し構造は、同一のAO構造の繰り返しであることが好ましい。
【0030】
化学式1で表される繰り返し単位(I−a)において、Rは、炭素原子数0〜2のアルキレン基を表す。なお、「Rが炭素原子数0のアルキレン基」とは、Rで表される部位が存在せず、主鎖を構成する炭素原子にO(AO)が直接結合した構造となることを意味する。また、Rの炭素原子数が1の場合には、主鎖の炭素原子とO(AO)とがメチレン基によって接続される構造となり、Rの炭素原子数が2の場合には、主鎖の炭素原子とO(AO)とがエチレン基やメチルメチレン基によって接続される構造となる。
【0031】
化学式1で表される繰り返し単位(I−a)において、nは、「AO」で表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を意味し、2〜300の整数である。流動性および粉体化の容易性に優れるという観点からは、nは好ましくは10〜200であり、より好ましくは20〜150である。
【0032】
化学式1で表される繰り返し単位(I−a)を形成する単量体としては、例えば、ビニルアルコール、アリルアルコール、メタリルアルコール、イソプレンアルコール(3−メチル−3−ブテン−1−オール)、3−メチル−3−ブテン−2−オール等の不飽和アルコールにアルキレンオキサイドを2〜300モル付加して得られる不飽和アルコールのアルキレンオキサイド付加物などが挙げられる。これらの2種以上が併用されてもよい。
【0033】
また、化学式1で表される繰り返し単位(I−a)を形成する単量体は、市販されている化合物を用いてもよいし、自ら合成することにより準備してもよい。合成の際には、既に得られている知見が適宜参照される。例えば、不飽和アルコールにアルキレンオキサイドを付加させる際には、ビニルアルコール、アリルアルコール、メタリルアルコール、イソプレンアルコール(3−メチル−3−ブテン−1−オール)、3−メチル−3−ブテン−2−オール等の不飽和アルコールに、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加させればよい。アルキレンオキサイド付加反応を行う際の温度条件は特に限定されないが、好ましくは80〜155℃であり、より好ましくは90〜150℃である。
【0034】
(化学式2で表される繰り返し単位(II−a))
化学式2で表される繰り返し単位(II−a)において、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、メチル基または−COOMを表す。ただし、RおよびRの双方が−COOMである場合は除かれる。また、Rは、水素原子、メチル基または−CHCOOMを表す。ただし、Rが−CHCOOMである場合、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、−COOMを表すことはない。さらに、化学式2で表される繰り返し単位において、M、MおよびMは、それぞれ独立して水素原子、金属原子、アンモニウム基または有機アミン基を表す。M、MまたはMが金属原子である場合、当該金属原子は、一価、二価、および三価のいずれであってもよく、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の一価金属原子;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属原子等の二価金属原子;アルミニウム、鉄等の三価金属原子が好適である。なかでも、粉体化の容易性を改善させるという観点からは、M、MおよびMは、一価金属原子または二価金属原子であることが好ましい。また、アンモニウム基は、「−NH」で表される官能基である。そして、有機アミン基としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン;モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン;エチレンジアミン、トリエチレンジアミン等のポリアミン等の有機アミン由来の残基が挙げられる。
【0035】
およびRが水素原子である場合には、化学式2で表される繰り返し単位(II−a)は、アクリル酸(Rが水素原子の場合)やメタクリル酸(Rがメチル基の場合)に由来する部位となる。また、Rがカルボキシル基であり、Rが水素原子である場合には、化学式2で表される繰り返し単位は、マレイン酸やフマル酸に由来する部位となる。さらに、Rがカルボキシル基であり、RがCHCOOH基である場合には、化学式2で表される繰り返し単位は、イタコン酸に由来する部位となる。
【0036】
化学式2で表される繰り返し単位(II−a)を形成する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸アンモニウム、メタクリル酸アンモニウムなどが挙げられる。これらの2種以上が併用されてもよい。これらの単量体は、市販されている化合物を用いてもよいし、自ら合成することにより準備してもよい。
【0037】
(PAI/PAO付加物単量体由来の繰り返し単位(III))
本実施形態の粉末状セメント分散剤は、上述した化学式1で表される繰り返し単位(I−a)および化学式2で表される繰り返し単位(II−a)に加えて、PAI/PAO付加物単量体由来の繰り返し単位(III)をさらに有する。当該繰り返し単位(III)は、PAI/PAO付加物単量体の有する重合性不飽和二重結合の一方の結合の切断により生じる2価の繰り返し単位である。
【0038】
上述したように、PAI/PAO付加物は、ポリアルキレンイミンにアルキレンオキサイドが付加してなる化合物である。
【0039】
「ポリアルキレンイミン」とは、アルキレンイミン(例えば、エチレンイミン(アジリジン))の重合により得られるポリマーである。換言すれば、ポリアルキレンイミンは、アルキレンイミンの開環構造(例えば、エチレンイミンの開環構造(−CHCHNX−(Xは水素原子または結合)))を繰り返し単位として有する。なお、本実施形態において、ポリアルキレンイミンとしては、市販の商品を用いてもよいし、自ら製造したものを用いてもよい。
【0040】
かようなポリアルキレンイミンを形成するアルキレンイミンとしては、例えば、エチレンイミン(アジリジン)、プロピレンイミン、1,2−ブチレンイミン、2,3−ブチレンイミンなどの炭素原子数2〜8のアルキレンイミンが挙げられる。また、これらのアルキレンイミンの炭素原子は、本発明に悪影響を及ぼさない限り、適当な置換基によって置換されていてもよい。かような置換基としては、例えば、ヒドロキシル基;メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子などが挙げられる。なお、本実施形態において、ポリアルキレンイミンは、1種のみの繰り返し単位から構成される単独重合体であってもよいし、2種以上の繰り返し単位から構成される共重合体であってもよい。ただし、ポリアルキレンオキシドの製造の容易性や構造の制御のし易さを考慮すると、ポリアルキレンイミンは、1種のみの繰り返し単位から構成される単独重合体であることが好ましい。繰り返し単位が2種以上である場合、各繰り返し単位の重合形態は特に制限されず、ランダム重合、ブロック重合、交互重合などのいずれの形態も採用されうる。
【0041】
また、ポリアルキレンイミンは、PAI/PAO化合物となった際に上述したような分岐構造を有する限り、直鎖状(すなわち、アルキレンイミンからなる繰り返し単位中の窒素原子が全て第2級窒素原子である(イミノ基である))であってもよいし、分岐状(すなわち、アルキレンイミンからなる繰り返し単位中の窒素原子に第3級窒素原子が含まれる)であってもよいし、三次元状に架橋された構造であってもよい。また、ポリアルキレンイミンとしては、ポリエチレンイミンおよびポリプロピレンイミンが好ましい。特に、カルボン酸との塩架橋の観点からは、ポリエチレンイミンがポリアルキレンイミンとして用いられることが特に好ましい。
【0042】
ポリアルキレンイミンの平均窒素原子数は、好ましくは3〜300個であり、より好ましくは3〜100個であり、特に好ましくは3〜50個である。ポリアルキレンイミンの平均窒素原子数がかような範囲内の値であれば、セメントとの親和性に優れるセメント添加剤として優れた効果を発揮しうる。
【0043】
本実施形態において、分岐化合物は、PAI/PAO付加物である。よって以下、ポリアルキレンイミンへのアルキレンオキサイドの付加形態について説明する。ただし、本発明の技術的範囲が「分岐化合物がPAI/PAO付加物である形態」のみに限定されるわけではなく、アルキレンオキサイドが付加していない単なるポリアルキレンイミンもまた、分岐化合物として用いられうる。
【0044】
PAI/PAO付加物単量体は、1個のオキシアルキレン基により形成される基または2個以上のオキシアルキレン基が付加して形成される基(ポリオキシアルキレン基)を有することになる。なお、本実施形態において、ポリオキシアルキレン基は、1種のみの繰り返し単位から構成される単独重合体であってもよいし、2種以上の繰り返し単位から構成される共重合体であってもよい。ただし、ポリオキシアルキレン基の製造の容易性や構造の制御のし易さを考慮すると、ポリオキシアルキレン基は、1種のみの繰り返し単位から構成される単独重合体であることが好ましい。繰り返し単位が2種以上である場合、各繰り返し単位の重合形態は特に制限されず、ランダム重合、ブロック重合、交互重合などのいずれの形態も採用されうる。
【0045】
オキシアルキレン基としては、エチレンオキサイド(EO)、トリメチレンオキサイド、プロピレンオキサイド(PO)、イソブチレンオキサイド,1−ブテンオキサイド、2−ブテンオキサイド、トリメチルエチレンオキサイド、テトラメチレンオキサイド、テトラメチルエチレンオキサイド、ブタジエンモノオキサイド、オクチレンオキサイド、スチレンオキサイド、1,1−ジフェニルエチレンオキサイド等の化合物由来の基が例示されうる。流動性に優れ、粉体化が容易であるといった観点からは、オキシアルキレン基はエチレン基またはメチルエチレン基であることが好ましい。
【0046】
ポリオキシアルキレン基におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数は、1本のポリオキシアルキレン基あたり、2〜200であることが好ましい。200を超えると、当該単量体の重合性が低下する虞がある。前記平均付加モル数は、より好ましくは10〜150であり、さらに好ましくは20〜100である。ポリオキシアルキレン基におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数がかような範囲内の値であると、セメント組成物等の流動性を向上させるというポリカルボン酸系共重合体の作用効果が充分に発揮されうる。
【0047】
オキシアルキレン基により形成される基(ポリオキシアルキレン基)は、オキシエチレン基(−OCHCH−)を主体とするものであることが好ましい。ここで、「オキシエチレン基を主体とする」とは、オキシアルキレン基が単量体中に2種以上存在する場合に、全オキシアルキレン基の存在数において、オキシエチレン基がその大半を占めるものであることを意味する。これにより、PAI/PAO付加物単量体が共重合されて得られるポリカルボン酸系共重合体の親水性が向上してその作用効果が充分に発揮されることになる。
【0048】
上記オキシアルキレン基において、「オキシエチレン基を主体とする」ことを全オキシアルキレン基100モル%中のオキシエチレン基のモル%で表すとき、50〜100モル%であることが好ましい。オキシエチレン基の含量が50モル%未満であると、オキシアルキレン基から形成される基の親水性が低下する虞がある。より好ましくは、60モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上であり、特に好ましくは80モル%以上であり、最も好ましくは90モル%以上である。
【0049】
上述した通り、「PAI/PAO付加物単量体」とは、PAI/PAO付加物のうち、重合性不飽和二重結合を有するものであり、不飽和単量体として作用しうる。
【0050】
PAI/PAO付加物に不飽和基を導入して、PAI/PAO付加物単量体を製造する方法としては、例えば、ポリアルキレンイミンにアルキレンオキサイドを付加した化合物が有する水酸基を(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の不飽和化合物でエステル交換して不飽和基を導入する方法、ポリアルキレンイミンにアルキレンオキサイドを付加した化合物が有するアミノ基を(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の不飽和化合物でアミド化して不飽和基を導入する方法、ポリアルキレンイミンにアルキレンオキサイドを付加した化合物が有する水酸基を(メタ)アクリル酸グリシジルや(メタ)アリルグリシジルエーテル等のエポキシ化合物を反応させて不飽和基を導入する方法等が挙げられるが、本発明では特に限定されない。
【0051】
PAI/PAO付加物に不飽和基を導入してPAI/PAO付加物単量体を得るために用いられる不飽和化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和カルボン酸;(メタ)アクリル酸無水物、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物;(メタ)アクリル酸クロライド等の不飽和カルボン酸ハロゲン化物;炭素数1〜30の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、炭素数1〜30のマレイン酸モノエステル、炭素数1〜30のマレイン酸ジエステル等の不飽和カルボン酸エステル;(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アリルグリシジルエーテル等のエポキシ化合物等が挙げられる。これらは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0052】
PAI/PAO付加物単量体の重量平均分子量は特に制限されないが、好ましくは1000〜100000であり、より好ましくは5000〜70000であり、さらに好ましくは5000〜50000であり、特に好ましくは10000〜30000である。なお、PAI/PAO付加物単量体の重量平均分子量の値としては、GPCにより、以下の測定条件により測定される値を採用するものとする。
【0053】
【表1】

【0054】
本実施形態の粉末状セメント分散剤を構成するポリカルボン酸系共重合体は、化学式1で表される繰り返し単位(I−a)、化学式2で表される繰り返し単位(II−a)、およびPAI/PAO付加物単量体由来の繰り返し単位(III)を必須成分として含むものであるが、他の繰り返し単位が含まれていてもよい。他の繰り返し単位を形成する単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−ヒドロキシ−3−アリルオキシスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレート、スチレンスルホン酸などのスルホン酸基を有する不飽和スルホン酸;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド等の不飽和アミド;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;スチレン、ブロモスチレンなどのスチレン類;これらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩などが挙げられる。これらの各繰り返し単位は、ランダム重合、ブロック重合、交互重合するなどして存在していてもよい。
【0055】
ただし、優れた分散性能を発現させ、かつ、製造時の粉体化が容易なセメント分散剤とするためには、上述した3つの必須の繰り返し単位が、ポリカルボン酸系共重合体の主要な繰り返し単位であることが好ましい。具体的には、上述した3つの必須の繰り返し単位が、ポリカルボン酸系共重合体の繰り返し単位の総数を基準として、好ましくは80〜100%、より好ましくは90〜100%含まれる。
【0056】
本実施形態の粉末状セメント分散剤の主成分であるポリカルボン酸系共重合体において、化学式1で表される繰り返し単位(I−a)、化学式2で表される繰り返し単位(II−a)およびPAI/PAO付加物単量体由来の繰り返し単位(III)の含有量の比は特に制限されず、所望の分散性能などを考慮して適宜決定されうるが、好ましくは、これらの繰り返し単位の合計含有量100質量%に対して、(I−a)/(II−a)/(III)=40〜90/5〜30/5〜50質量%であることが好ましく、(I−a)/(II−a)/(III)=50〜90/5〜30/5〜40質量%であることがより好ましく、(I−a)/(II−a)/(III)=60〜80/10〜20/10〜30質量%であることがさらに好ましい。ポリカルボン酸系共重合体における各成分の含有量がかような範囲内の値であると、分散性能に優れるという点で好ましい。なお、これらの繰り返し単位の含有量の値としては、NMRや酸価測定といった手法により測定された値を採用するものとする。
【0057】
本実施形態の粉末状セメント分散剤の主成分であるポリカルボン酸系共重合体の重量平均分子量は、分散性に優れるという観点からは、ポリエチレングリコール換算で、好ましくは1000〜500000であり、より好ましくは5000〜100000である。なお、当該重量平均分子量の値としては、後述する実施例に記載する方法が用いられる。
【0058】
本実施形態の粉末状セメント分散剤の平均粒径は、好ましくは1〜500μm、より好ましくは10〜100μmである。平均粒径が1μm未満であると粉末状セメント分散剤が凝集しやすくなる虞があり、500μmを超えると水に対する溶解性が低下し、セメントに対する分散性が低下する虞がある。
【0059】
本実施形態の粉末状セメント分散剤の製造方法は特に制限されず、重合体の製造に関する従来公知の知見が適宜参照されうるが、例えば、化学式1で表される繰り返し単位(I−a)および化学式2で表される繰り返し単位(II−a)のそれぞれを形成する単量体と、PAI/PAO付加物単量体とを共重合させることにより得られた共重合体を、乾燥により粉体化させることにより、粉末状セメント分散剤の製造が可能である。新たに得た知見に基づいて合成を行ってもよい。
【0060】
かような共重合体を得るには、上述した各単量体を所望の含有量比で混合し、重合開始剤を用いて重合させればよい。重合は、溶媒中での重合や塊状重合等の方法により行なうことができる。溶媒中での重合は回分式でも連続式でも行なうことができ、その際使用される溶媒としては、水;メチルアルコール、エチルアルコール、2−プロパノール等の低級アルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の芳香族あるいは脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物などが挙げられる。原料単量体および得られるポリカルボン酸系共重合体の溶解性、並びに当該ポリカルボン酸系共重合体の使用時の便を考慮すると、水、メチルアルコール、エチルアルコール、2−プロパノール等を溶媒として用いると特に有効である。
【0061】
水媒体中で重合を行なう際には、重合開始剤としてアンモニウムまたはアルカリ金属の過硫酸塩、あるいは過酸化水素等の水溶性の重合開始剤が使用される。この際、亜硫酸水素ナトリウム、モール塩、アスコルビン酸(塩)、ロンガリット等の促進剤を併用することもできる。また、低級アルコール、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、エステル化合物またはケトン化合物を溶媒とする重合には、ベンゾイルパーオキサイドやラウロイルパーオキサイド等のパーオキサイド;クメンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が重合開始剤として用いられる。この際、アミン化合物等の促進剤を併用することもできる。さらに、水−低級アルコール混合溶剤を用いる場合には、上記の種々の重合開始剤あるいは重合開始剤と促進剤との組み合わせの中から適宜選択して用いることができる。重合温度は、用いる溶媒や重合開始剤により適宜定められうるが、通常0〜120℃の範囲内で行なわれる。
【0062】
塊状重合は、例えば、重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイドやラウロイルパーオキサイド等のパーオキサイド;クメンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を用い、50〜200℃の温度範囲内で行なわれる。
【0063】
また、得られるポリカルボン酸系共重合体の分子量を調節する目的で、次亜リン酸(塩)やチオール系連鎖移動剤を併用することもできる。この際に用いられるチオール系連鎖移動剤としては、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。さらに、ポリカルボン酸系共重合体の分子量を調節するためには、単量体として(メタ)アリルスルホン酸(塩)類等の連鎖移動性の高い単量体を用いることも有効である。
【0064】
共重合体を乾燥させて粉体化させるための乾燥手段についても、特に限定されない。共重合体の性質に応じて、乾燥手段を選択するとよい。かような乾燥手段としては、例えば、共重合体を含む溶液を、乾燥粉砕法、塩析法、凝集沈降法、凍結乾燥法、凝集解砕乾燥法、スプレードライヤー法、ドラムドライヤー法、ベルトドライヤー法などが挙げられる。なかでも、共重合体の熱劣化を防止するという観点からは、共重合体の加熱が少ない乾燥手段(例えば、凍結乾燥法)が好ましく用いられうる。凍結乾燥法によれば、例えば、共重合体を含む溶液を液体窒素などを用いて急速冷却して凍結させ、次いで凍結した共重合体溶液を凍結乾燥機を用いて減圧乾燥する。これにより、例えば40nm〜500μm程度の粒径を有する粉体が得られる。また、スプレードライヤー法によれば、スプレードライヤーを用いて共重合体溶液を霧化させ、熱風と混合させることにより空気中で乾燥させる。これにより、例えば100μm以下の平均粒径を有する粉体が得られる。さらに、ドラムドライヤー法やベルトドライヤー法によれば、ドラムドライヤーやベルトドライヤーを用いて、膜厚が100μm以下となるように共重合体溶液を被膜乾燥させ、これを粉砕および分級する。これにより、例えば300μm以下の平均粒径を有する粉体が得られる。なお、乾燥による粉体化で得られた粉体の粒径を、任意の粉砕/分級手段によりさらに調節し、所望の粒径を有する粉末状セメント分散剤を得てもよい。
【0065】
(第2実施形態)
本実施形態は、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体由来の繰り返し単位(I)が下記化学式3で表され(以下、下記化学式3で表される繰り返し単位を「繰り返し単位(I−b)」とも称する)、不飽和カルボン酸系単量体由来の繰り返し単位(II)が下記化学式4で表される(以下、下記化学式4で表される繰り返し単位を「繰り返し単位(II−b)」とも称する)点で、上記の第1実施形態とは異なる。一方、分岐化合物単量体由来の繰り返し単位(III)を構成する分岐化合物がPAI/PAO付加物である点は、上記の第1実施形態と同様である。
【0066】
【化4】

【0067】
式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、BOは、それぞれ独立して炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表し、pは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、2〜300であり、Rは、水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子、メチル基または−CHCOOMを表し、MおよびMは、それぞれ独立して、水素原子、金属原子、アンモニウム基または有機アミン基を表す。
【0068】
すなわち、本実施形態の粉末状セメント分散剤は、ポリアルキレンオキサイド部位を有するが、第1実施形態とは異なる構造のポリカルボン酸系ポリマーに、PAI/PAO付加物単量体が共重合されてなる形態のポリカルボン酸系共重合体を主成分とする。換言すれば、本実施形態の主成分であるポリカルボン酸系共重合体は、PAI/PAO付加物単量体由来の繰り返し単位(III)を有する点では第1実施形態と同様であるが、セメント分散剤の主成分であるポリカルボン酸系共重合体の他の繰り返し単位の構造が第1実施形態とは異なり、当該ポリマーは化学式3で表される繰り返し単位(I−b)および化学式4で表される繰り返し単位(II−b)を含む。ここで、本実施形態における「PAI/PAO付加物単量体由来の繰り返し単位(III)」の具体的な形態については上記の第1実施形態と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0069】
以下、化学式3で表わされる繰り返し単位(I−b)および化学式4で表わされる繰り返し単位(II−b)についてそれぞれ詳細に説明する。
【0070】
(化学式3で表される繰り返し単位(I−b))
化学式3で表される繰り返し単位(I−b)において、RおよびRの具体的な形態は、上記の第1実施形態における化学式1で表される繰り返し単位(I−a)におけるRおよびRと同様である。従って、ここでは詳細な説明を省略する。
【0071】
化学式3で表される繰り返し単位(I−b)において、Bの具体的な形態は、上記の第1実施形態における化学式1で表される繰り返し単位(I−a)におけるAと同様である。従って、ここでは詳細な説明を省略する。
【0072】
化学式3で表される繰り返し単位(I−b)において、pは、「BO」で表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を意味し、2〜300の整数である。流動性および粉体化の容易性に優れるという観点からは、pは好ましくは10〜200であり、より好ましくは20〜150である。
【0073】
化学式3で表される繰り返し単位(I−b)を形成する単量体としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の「ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物」などが挙げられる。また、これらの2種以上が併用されてもよい。
【0074】
化学式3で表される繰り返し単位(I−b)を形成する単量体は、市販されている化合物を用いてもよいし、自ら合成することにより準備してもよい。合成の際には、既に得られている知見が適宜参照される。当該単量体の製造方法として、例えば、ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、ポリアルキレングリコールとのエステル交換によって合成が可能である。この他にも、ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とをエステル化する方法などが用いられてもよい。
【0075】
(化学式4で表される繰り返し単位(II−b))
化学式4で表される繰り返し単位(II−b)において、Rは、水素原子またはメチル基を表す。また、Rは、水素原子、メチル基または−CHCOOMを表す。ここで、RとRとは同一であってもよいし、異なっていてもよい。さらに、MおよびMは、それぞれ独立して、水素原子、金属原子、アンモニウム基または有機アミン基を表し、その具体的な形態は、上記の第1実施形態における化学式1で表される繰り返し単位(I−a)または化学式2で表される繰り返し単位(II−a)におけるM〜Mと同様である。従って、ここでは詳細な説明を省略する。
【0076】
化学式4で表される繰り返し単位(II−b)を形成する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、併用されてもよい。
【0077】
本実施形態の粉末状セメント分散剤を構成するポリカルボン酸系共重合体は、化学式3で表される繰り返し単位(I−b)、化学式4で表される繰り返し単位(II−b)、およびPAI/PAO付加物単量体由来の繰り返し単位(III)を必須成分として含むものであるが、他の繰り返し単位が含まれていてもよい。ここで、他の繰り返し単位を形成する単量体の具体的な形態は、上記の第1実施形態のセメント分散剤の主成分であるポリカルボン酸系共重合体における「他の単量体」と同様である。従って、ここでは詳細な説明を省略する。
【0078】
なお、繰り返し単位(I−a)、(II−a)、(III)および他の繰り返し単位、または繰り返し単位(I−b)、(II−b)、(III)および他の繰り返し単位は、ブロック状に共重合していてもよいし、ランダム状に共重合していてもよい。
【0079】
ここで、優れた分散性能を発現させ、かつ、製造時の粉体化が容易なセメント分散剤とするためには、上述した3つの必須の繰り返し単位が、ポリカルボン酸系共重合体の主要な繰り返し単位であることが好ましい。具体的には、上述した3つの必須の繰り返し単位が、ポリカルボン酸系共重合体の繰り返し単位の総数を基準として、好ましくは80〜100%、より好ましくは90〜100%含まれる。
【0080】
本実施形態の粉末状セメント分散剤の主成分であるポリカルボン酸系共重合体において、化学式3で表される繰り返し単位(I−b)、化学式4で表される繰り返し単位(II−b)およびPAI/PAO付加物単量体由来の繰り返し単位(III)の含有量の比は特に制限されず、所望の分散性能などを考慮して適宜決定されうるが、その好ましい形態は上述した第1実施形態における繰り返し単位(I−a)、繰り返し単位(II−a)および繰り返し単位(III)の場合と同様である。従って、ここでは詳細な説明を省略する。
【0081】
本実施形態の粉末状セメント分散剤の重量平均分子量および平均粒径の好ましい形態については、上記の第1実施形態における好ましい形態と同様である。従って、ここでは詳細な説明を省略する。
【0082】
本実施形態の粉末状セメント分散剤の製造方法についても特に制限はなく、化学式1および化学式2で表される繰り返し単位を形成する単量体を、化学式3および化学式4で表される繰り返し単位を形成する単量体とすること以外は、上記の第1実施形態の欄において説明した手法が同様に用いられうる。従って、ここでは詳細な説明を省略する。
【0083】
以上、第1実施形態および第2実施形態を例に挙げて本発明の一形態に係る粉末状セメント分散剤を具体的に説明したが、当該形態に係る粉末状セメント分散剤の技術的範囲は当該実施形態のみに限定されるべきではない。例えば、上述した実施形態において、化学式1で表される繰り返し単位(I−a)や化学式3で表される繰り返し単位(I−b)に代えて、これら以外の不飽和ポリアルキレングリコール系単量体由来の繰り返し単位(I)が含まれる形態や、化学式2で表される繰り返し単位(II−a)や化学式4で表される繰り返し単位(II−b)に代えて、これら以外の不飽和カルボン酸系単量体由来の繰り返し単位(II)が含まれる形態もまた、当該形態に係る粉末状セメント分散剤の技術的範囲に包含されうる。なお、上述の実施形態において詳述した形態以外の繰り返し単位(I)や繰り返し単位(II)の具体的な形態については、特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されて、本形態の粉末状セメント分散剤に好適に用いられうる。例えば、繰り返し単位(I)の具体的な形態として、イタコン酸のポリアルキレングリコールエステルなどが挙げられる。
【0084】
本発明の他の形態は、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体由来の繰り返し単位(IV)および不飽和カルボン酸系単量体由来の繰り返し単位(V)を有するポリカルボン酸系共重合体(A)と、ポリアルキレンイミン鎖を分子内に3本以上含む分岐構造を有する分岐化合物(B)と、を含む、粉末状セメント分散剤に関する。
【0085】
以下、当該形態について、具体的な実施形態を例に挙げて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の実施形態のみに限定されない。
【0086】
(第3実施形態)
本実施形態は、下記化学式5または下記化学式6で表される、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体由来の繰り返し単位(IV)(以下、化学式5における左側の不飽和ポリアルキレングリコール系単量体由来の繰り返し単位(IV)を「IV−a」とも称し、化学式6における左側の不飽和ポリアルキレングリコール系単量体由来の繰り返し単位(IV)を「IV−b」とも称する)および不飽和カルボン酸系単量体由来の繰り返し単位(V)(以下、化学式5における右側の不飽和カルボン酸系単量体由来の繰り返し単位(V)を「V−a」とも称し、化学式6における右側の不飽和カルボン酸系単量体由来の繰り返し単位(V)を「V−b」とも称する)を有するポリカルボン酸系共重合体(A)と、PAI/PAO付加物(B)と、を含む、粉末状セメント分散剤である。なお、以下の説明においては、化学式5で表される繰り返し単位を有するポリカルボン酸系共重合体を「共重合体(A−a)」とも称し、化学式6で表される繰り返し単位を有するポリカルボン酸系共重合体を「共重合体(A−b)」とも称する。
【0087】
【化5】

【0088】
式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、AOは、それぞれ独立して炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表し、Rは、炭素原子数0〜2のアルキレン基を表し、nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、2〜300であり、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、メチル基または−COOMを表し(ただし、RおよびRの双方が−COOMである場合を除く)、Rは、水素原子、メチル基または−CHCOOMを表し(ただし、Rが−CHCOOMである場合、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す)、M、MおよびMは、それぞれ独立して水素原子、金属原子、アンモニウム基または有機アミン基を表す、
【0089】
【化6】

【0090】
式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、BOは、それぞれ独立して炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表し、pは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、2〜300であり、Rは、水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子、メチル基または−CHCOOMを表し、MおよびMは、それぞれ独立して、水素原子、金属原子、アンモニウム基または有機アミン基を表す。
【0091】
すなわち、本実施形態の粉末状セメント分散剤は、ポリアルキレンオキサイド部位を有する特定構造のポリカルボン酸系ポリマーと、PAI/PAO付加物とを含む(例えば、これらが混合されてなる)。ここで、上述した第1実施形態および第2実施形態の粉末状セメント分散剤は、所定の構造を有するポリカルボン酸系ポリマー中にPAI/PAO付加物単量体が共重合してなるポリカルボン酸系共重合体を主成分とする。これに対し、本実施形態の粉末状セメント分散剤は、前記所定のポリカルボン酸系ポリマーとPAI/PAO付加物とが、共有結合を介することなく含まれている(混合されている)点で、第1実施形態および第2実施形態とは異なる。
【0092】
以下、本実施形態におけるポリカルボン酸系共重合体(A)およびPAI/PAO付加物(B)についてそれぞれ詳細に説明する。
【0093】
(ポリカルボン酸系共重合体(A))
本実施形態の粉末状セメント分散剤に用いられるポリカルボン酸系共重合体(A)は、上記化学式5または上記化学式6で表される繰り返し単位を有する。
【0094】
まず、化学式5で表される繰り返し単位(すなわち、繰り返し単位(IV−a)および繰り返し単位(V−a))を有するポリカルボン酸系共重合体(A−a)について説明する。
【0095】
化学式5における左側の繰り返し単位(IV−a)は、上記の第1実施形態における化学式1で表される繰り返し単位(I−a)と同様である。また、化学式5における右側の繰り返し単位(V−a)は、上記の第1実施形態における化学式2で表される繰り返し単位(II−a)と同様である。従って、ここでは詳細な説明を省略する。
【0096】
化学式5における(IV−a)と(V−a)との含有量の比率は、特に限定されない。ただし、カルボキシル基による吸着性能、およびポリオキシアルキレン鎖による分散性能をバランス良く発現させるためには、繰り返し単位(IV−a)の総数:繰り返し単位(V−a)の総数が、好ましくは1:0.1〜1:50であり、より好ましくは1:0.5〜1:20であり、さらに好ましくは1:1〜1:4である。
【0097】
化学式5で表される繰り返し単位を有するポリカルボン酸系共重合体(A−a)中には、前記繰り返し単位(IV−a)および前記繰り返し単位(V−a)以外に、他の繰り返し単位が含まれていてもよい。ここで、他の繰り返し単位を形成する単量体の具体的な形態は、上記の第1実施形態のセメント分散剤の主成分であるポリカルボン酸系共重合体における「他の単量体」と同様である。従って、ここでは詳細な説明を省略する。また、場合によっては、上記の第1実施形態および第2実施形態において用いられる「PAI/PAO付加物単量体」などの分岐化合物単量体が、本実施形態におけるポリカルボン酸系共重合体を構成する「他の単量体」として用いられてもよい。
【0098】
なお、化学式5で表される繰り返し単位を有するポリカルボン酸系共重合体(A−a)において、繰り返し単位(IV−a)、繰り返し単位(V−a)および他の繰り返し単位は、ブロック状に共重合していてもよいし、ランダム状に共重合していてもよい。
【0099】
ここで、優れた分散性能を発現させ、かつ、製造時の粉体化が容易なセメント分散剤とするためには、化学式5で表される2つの繰り返し単位(すなわち、繰り返し単位(IV−a)および繰り返し単位(V−a))が、化学式5で表される繰り返し単位を有するポリカルボン酸系共重合体(A−a)における主要な繰り返し単位であることが好ましい。具体的には、化学式5で表される2つの繰り返し単位((IV−a)および(V−a))が、共重合体(A−a)の全繰り返し単位の総数を基準として、好ましくは80〜100%含まれ、より好ましくは90〜100%含まれる。
【0100】
化学式5で表される繰り返し単位を有するポリカルボン酸系共重合体(A−a)の重量平均分子量は、流動性に優れるという観点からは、ポリエチレングリコール換算で、好ましくは1000〜500000であり、より好ましくは5000〜100000である。なお、当該重量平均分子量の値の測定には、後述する実施例に記載する方法が用いられる。
【0101】
続いて、化学式6で表される繰り返し単位を有するポリカルボン酸系共重合体(A−b)について説明する。
【0102】
化学式6における左側の繰り返し単位(IV−b)は、上記の第2実施形態における化学式3で表される繰り返し単位(I−b)と同様である。また、化学式6における右側の繰り返し単位(V−b)は、上記の第2実施形態における化学式4で表される繰り返し単位(II−b)と同様である。従って、ここでは詳細な説明を省略する。
【0103】
化学式6における繰り返し単位(IV−b)と繰り返し単位(V−b)との含有量の比率は、特に限定されない。ただし、カルボキシル基による吸着性能、およびポリオキシアルキレン鎖による分散性能をバランス良く発現させるためには、繰り返し単位(IV−b)の総数:繰り返し単位(V−b)の総数が、好ましくは1:0.1〜1:50であり、より好ましくは1:0.5〜1:20であり、さらに好ましくは1:1〜1:4である。
【0104】
化学式6で表される繰り返し単位を有するポリカルボン酸系共重合体(A−b)中には、前記繰り返し単位(IV−b)および前記繰り返し単位(V−b)以外に、他の繰り返し単位が含まれていてもよい。ここで、他の繰り返し単位を形成する単量体の具体的な形態は、上記の第1実施形態のセメント分散剤の主成分であるポリカルボン酸系共重合体における「他の単量体」と同様である。従って、ここでは詳細な説明を省略する。
【0105】
なお、化学式6で表される繰り返し単位を有するポリカルボン酸系共重合体(A−b)において、繰り返し単位(IV−b)、繰り返し単位(V−b)および他の繰り返し単位は、ブロック状に共重合していてもよいし、ランダム状に共重合していてもよい。
【0106】
ここで、優れた分散性能を発現させ、かつ、製造時の粉体化が容易なセメント分散剤とするためには、化学式6で表される2つの繰り返し単位(すなわち、繰り返し単位(IV−b)および繰り返し単位(V−b))が、化学式6で表される繰り返し単位を有するポリカルボン酸系共重合体(A−b)における主要な繰り返し単位であることが好ましい。具体的には、化学式6で表される2つの繰り返し単位((IV−b)および(V−b))が、共重合体(A−b)の全繰り返し単位の総数を基準として、好ましくは80〜100%含まれ、より好ましくは90〜100%含まれる。
【0107】
化学式6で表される繰り返し単位を有するポリカルボン酸系共重合体(A−b)の重量平均分子量は、流動性に優れるという観点からは、ポリエチレングリコール換算で、好ましくは1000〜500000であり、より好ましくは5000〜100000である。なお、当該重量平均分子量の値の測定には、後述する実施例に記載する方法が用いられる。
【0108】
本実施形態の粉末状セメント分散剤においては、主成分であるポリカルボン酸系共重合体として、化学式5で表される繰り返し単位を有する共重合体(A−a)および化学式6で表される繰り返し単位を有する共重合体(A−b)のいずれか一方のみが用いられてもよいし、双方が併用されてもよい。なお、分散性に優れるセメント分散剤が得られるという観点からは、本実施形態の粉末状セメント分散剤は、少なくとも化学式6で表される繰り返し単位を有する共重合体を含むことが好ましい。
【0109】
本実施形態の粉末状セメント分散剤におけるポリカルボン酸系共重合体(A)の製造方法については、特に限定されない。ポリマーの製造に関する従来公知の知見を適宜参照することにより、当該共重合体(A)が合成されうる。新たに得た知見に基づいて共重合体を合成してもよい。この際、原料としては、繰り返し単位に応じた単量体を準備すればよい。
【0110】
(PAI/PAO付加物(B))
本実施形態の粉末状セメント分散剤は、上述したポリカルボン酸系共重合体(A)に加えて、PAI/PAO付加物(B)を含む。
【0111】
本実施形態において粉末状セメント分散剤に含まれる「PAI/PAO付加物(B)」は、ポリアルキレンイミンにアルキレンオキサイドが付加してなる化合物であって、重合性不飽和二重結合を必ずしも有する必要がないこと以外は、上記の「PAI/PAO付加物単量体」と同様の形態を有する。従って、ここでは詳細な説明を省略する。
【0112】
ここで、本実施形態の粉末状セメント分散剤におけるポリカルボン酸系共重合体(A)およびPAI/PAO付加物(B)の含有量の比は、これらの合計含有量100質量%に対して(A)/(B)=50〜98/2〜50質量%であることが好ましく、(A)/(B)=50〜95/5〜50質量%であることがより好ましく、(A)/(B)=60〜90/10〜40質量%であることがさらに好ましく、(A)/(B)=70〜85/15〜30質量%であることが特に好ましい。本実施形態の粉末状セメント分散剤における各成分の含有量がかような範囲内の値であると、分散性能に優れるという点で好ましい。なお、これらの各成分の含有量の値としては、NMRや酸価測定といった手法により測定された値を採用するものとする。
【0113】
本実施形態の粉末状セメント分散剤の平均粒径の好ましい形態については、上記の第1実施形態における好ましい形態と同様である。従って、ここでは詳細な説明を省略する。
【0114】
本実施形態の粉末状セメント分散剤の製造方法としては、例えば、化学式5で表される繰り返し単位を有するポリカルボン酸系共重合体(A−a)および/または化学式6で表される繰り返し単位を有するポリカルボン酸系共重合体(A−b)と、PAI/PAO付加物(B)と、をそれぞれ調製して混合し、得られた混合物を乾燥により粉体化するという方法が例示される。
【0115】
この際、ポリカルボン酸系共重合体(A)とPAI/PAO付加物(B)とを混合するための混合手段や、得られた混合物を乾燥させるための乾燥手段については特に制限はなく、ポリマーの性質に応じて、ポリマー組成物の混合や乾燥に関する従来公知の知見が適宜参照されうる。乾燥手段については、上記の第1実施形態において説明した形態が同様に好ましく用いられうる。
【0116】
以上、第3実施形態を例に挙げて本形態に係る粉末状セメント分散剤を具体的に説明したが、本形態の粉末状セメント分散剤の技術的範囲は当該実施形態のみに限定されるべきではない。例えば、上述した第3実施形態において、化学式5で表される繰り返し単位を有するポリカルボン酸系共重合体(A−a)や化学式6で表される繰り返し単位を有するポリカルボン酸系共重合体(A−b)に代えて、これら以外の繰り返し単位を有するポリカルボン酸系共重合体(A)が用いられる形態もまた、本形態の粉末状セメント分散剤の技術的範囲に包含されうる。なお、上記の実施形態において詳述した形態以外のポリカルボン酸系共重合体(A)の具体的な形態については、特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されて、本形態に好適に用いられうる。
【0117】
上述した本発明の粉末状セメント分散剤は、公知のセメント分散剤と同様に、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物の分散性を向上させる目的で、これらの組成物に添加されることにより用いられる。超高強度コンクリートにも用いられうる。セメント組成物中には、セメント、水、細骨材、粗骨材等など、通常用いられる材料が配合されうる。フライアッシュ、高炉スラグ、シリカヒューム、石灰石等の微粉体が、セメント組成物中に添加されてもよい。なお、超高強度コンクリートとは、セメント組成物の分野で一般的にそのように称されているもの、すなわち従来のコンクリートに比べて水/セメント比を小さくしてもその硬化物が従来と同等またはより高い強度となるようなコンクリートを意味する。例えば、水/セメント比が、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは18質量%以下、特に好ましくは14質量%以下、最も好ましくは12質量%以下程度であっても、通常の使用に支障をきたすことのない作業性を有するコンクリートとなり、その硬化物の圧縮強度が、好ましくは60N/mm以上、より好ましくは80N/mm以上、さらに好ましくは100N/mm以上、さらに好ましくは120N/mm以上、特に好ましくは160N/mm以上、最も好ましくは200N/mm以上の圧縮強度を示すものである。
【0118】
上記セメントとしては、普通、早強、超早強、速硬、中庸熱、白色等のポルトランドセメント、アルミナセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、シリカセメント等の混合ポルトランドセメントが好適である。上記セメントのコンクリート1m当たりの配合量及び単位水量は、例えば、高耐久性・高強度のコンクリートを製造するためには、単位水量100〜185kg/m、水/セメント比=10〜70%とすることが好ましい。より好ましくは、単位水量120〜175kg/m、水/セメント比=20〜65%である。
【0119】
本発明の粉末状セメント分散剤が用いられる際のセメント組成物への添加量は、本発明粉末状セメント分散剤の添加量が、セメント組成物100質量%に対して、0.01〜1.0質量%となるように調節することが好ましい。粉末状セメント分散剤の添加量が0.01質量%未満であると、性能的に不充分となる虞があり、1.0質量%を超えると、添加量の増加に見合った分散性の向上が見られず、経済性が低下する虞がある。なお、粉末状セメント分散剤の添加量は、セメント組成物100質量%に対して、より好ましくは0.05〜0.5質量%であり、さらに好ましくは0.1〜0.3質量%である。なお、上記質量%は、固形分換算の値である。
【0120】
本発明の粉末状セメント分散剤は、セメント組成物に添加されるが、本発明の第1〜第6実施形態の粉末状セメント分散剤が2種以上併用されて、セメント組成物に添加されてもよい。セメント組成物中には、他の添加剤が配合されてもよい。例えば、他のセメント分散剤、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張材、防水剤、遅延剤、急結剤、水溶性高分子物質、増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、硬化促進剤、消泡剤等が、本発明の粉末状セメント分散剤に加えてセメント組成物中に添加されうる。
【0121】
本発明の粉末状セメント分散剤と他の添加剤との組み合わせについての好適な実施形態としては、次の(1)〜(7)が挙げられる。
【0122】
(1)<1>本発明の粉末状セメント分散剤、および<2>オキシアルキレン系消泡剤の2成分を必須とする組み合わせ。オキシアルキレン系消泡剤としては、ポリオキシアルキレン類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアセチレンエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類等が使用可能である。この中では、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類が特に好適である。<2>オキシアルキレン系消泡剤の配合質量比は、<1>粉末状セメント分散剤100質量%に対して0.01〜20質量%の範囲が好ましい。
【0123】
(2)<1>本発明の粉末状セメント分散剤、<2>オキシアルキレン系消泡剤、および<3>AE剤の3成分を必須とする組み合わせ。オキシアルキレン系消泡剤としては、ポリオキシアルキレン類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアセチレンエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類等が使用可能である。この中では、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類が特に好適である。AE剤としては、樹脂酸石鹸、アルキル硫酸エステル類、アルキルリン酸エステル類が特に好適である。<2>オキシアルキレン系消泡剤の配合質量比は、<1>粉末状セメント分散剤100質量%に対して0.01〜20質量%の範囲が好ましい。<3>AE剤の配合質量比は、セメント組成物100質量%に対して0.001〜2質量%の範囲が好ましい。
【0124】
(3)<1>本発明の粉末状セメント分散剤、<2>炭素原子数2〜18のアルキレンオキサイドを2〜300モルの平均付加モル数で付加したポリオキシアルキレン鎖を有するポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体と、(メタ)アクリル酸系単量体と、これらの単量体と共重合可能な単量体と、からなる共重合体(特公昭59−18338号公報、特開平7−223852号公報、特開平9−241056号公報等に記載)、並びに<3>オキシアルキレン系消泡剤の3成分を必須とする組み合わせ。<1>粉末状セメント分散剤と<2>共重合体との配合質量比は、5/95〜95/5(粉末状セメント分散剤/共重合体)の範囲が好ましく、10/90〜90/10の範囲がより好ましい。<3>オキシアルキレン系消泡剤の配合質量比は、<1>粉末状セメント分散剤と<2>共重合体との合計100質量%に対して0.01〜20質量%の範囲が好ましい。
【0125】
(4)<1>本発明の粉末状セメント分散剤、および<2>遅延剤の2成分を必須とする組み合わせ。遅延剤としては、グルコン酸(塩)、クエン酸(塩)等のオキシカルボン酸類、グルコース等の糖類、ソルビトール等の糖アルコール類、アミノトリ(メチレンホスホン酸)等のホスホン酸類等が使用可能である。<1>粉末状セメント分散剤と<2>遅延剤との配合質量比は、50/50〜99.9/0.1(粉末状セメント分散剤/遅延剤)の範囲が好ましく、70/30〜99/1の範囲がより好ましい。
【0126】
(5)<1>本発明の粉末状セメント分散剤、および<2>促進剤の2成分を必須とする組み合わせ。促進剤としては、塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム等の可溶性カルシウム塩類、塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物類、チオ硫酸塩、ギ酸及びギ酸カルシウム等のギ酸塩類等が使用可能である。<1>粉末状セメント分散剤と<2>促進剤との配合質量比は、10/90〜99.9/0.1(粉末状セメント分散剤/促進剤)の範囲が好ましく、20/80〜99/1の範囲がより好ましい。
【0127】
(6)<1>本発明の粉末状セメント分散剤、および<2>材料分離低減剤の2成分を必須とする組み合わせ。材料分離低減剤としては、非イオン性セルロースエーテル類等の各種増粘剤、部分構造として炭素原子数4〜30の炭化水素鎖からなる疎水性置換基と炭素原子数2〜18のアルキレンオキサイドを2〜300モルの平均付加モル数で付加したポリオキシアルキレン鎖とを有する化合物等が使用可能である。<1>粉末状セメント分散剤と<2>材料分離低減剤との配合質量比は、10/90〜99.99/0.01(粉末状セメント分散剤/材料分離低減剤)の範囲が好ましく、50/50〜99.9/0.1の範囲がより好ましい。この組み合わせのセメント組成物は、高流動コンクリート、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材として好適である。
【0128】
(7)<1>本発明の粉末状セメント分散剤、および<2>分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系分散剤の2成分を必須とする組み合わせ。スルホン酸系分散剤としては、リグニンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリスチレンスルホン酸塩、アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物等のアミノスルホン酸系の分散剤などが使用可能である。<1>粉末状セメント分散剤と<2>スルホン酸系分散剤との質量配合比は、5/95〜95/5(粉末状セメント分散剤/スルホン酸系分散剤)の範囲が好ましく、10/90〜90/10の範囲がより好ましい。
【0129】
コンクリート組成物を調製する方法は特に限定はされず、従来のセメント組成物と同様の方法が用いられうる。例えば、本発明の粉末状セメント分散剤とセメントとを混合し、必要に応じて他の配合材料を混合し、そこに水を添加して混合する方法;本発明の粉末状セメント分散剤を、予め水に溶かしてセメント分散剤を含む溶液を調製しておき、セメントおよび他の配合材料を含む組成物に添加して混合する方法などが挙げられる。
【実施例】
【0130】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲が下記の実施例のみに制限されることはない。なお、下記の実施例において、ポリカルボン酸系ポリマーの重量平均分子量の測定は、GPCにより、下記の測定条件で行った。
【0131】
【表2】

【0132】
(製造例1:ポリカルボン酸系共重合体(1)の合成)
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管、および還流冷却器を備えたガラス製反応器を準備した。ここに、水100.01gを仕込み、攪拌下に反応容器内を窒素置換して窒素雰囲気下で80℃まで加熱した。内温が80℃で安定したところで、化学式3で表される繰り返し単位を形成するメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数=25;以下、「MPG25E」とも称する)112.59g、化学式4で表される繰り返し単位を形成するメタクリル酸(以下、「MAA」とも称する)22.41g、水33.40g、3−メルカプトプロピオン酸1.24gを混合したモノマー水溶液169.99gを4時間で、並びに過硫酸アンモニウム1.55gを溶かした水溶液30gを5時間で反応器に滴下した。その後、1時間引き続いて80℃に温度を維持し、重合反応を完結させた。
【0133】
反応終了後、水酸化ナトリウムを用いて中和処理を施し(カルボン酸に対する中和度=70%)、固形分(ポリカルボン酸系共重合体(1))を40質量%に調整した水溶液(A)を得た。得られた水溶液(A)に含まれるポリカルボン酸系共重合体(1)の重量平均分子量は、23000であった。なお、ポリカルボン酸系共重合体(1)は、化学式3で表される繰り返し単位および化学式4で表される繰り返し単位を有するポリマーである。
【0134】
(製造例2:ポリカルボン酸系共重合体(2)の合成)
水酸化ナトリウムに代えて、水酸化カルシウムを用いて中和処理を施したこと以外は、上記製造例1と同様の手法により、固形分(ポリカルボン酸系共重合体(2))を40質量%に調整した水溶液(B)を得た。ポリカルボン酸系共重合体(2)もまた、化学式3および化学式4で表される繰り返し単位を有するポリマーである。
【0135】
(製造例3:ポリカルボン酸系共重合体(3)の合成)
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管、および還流冷却器を備えたガラス製反応器を準備した。ここに、水113.57g、および化学式1で表される繰り返し単位を形成する3−メチル−3−ブテン−1−オール/エチレンオキサイド付加物(エチレンオキサイドの平均付加モル数=50;以下、「IPN50」とも称する)112.59gを仕込み、攪拌下に反応容器内を窒素置換して窒素雰囲気下で60℃まで加熱した。内温が60℃で安定したところで、過酸化水素0.5gを投入した。その後、化学式2で表される繰り返し単位を形成するアクリル酸(以下、「AA」とも称する)15.01g、水3.74gを溶かしたモノマー水溶液18.75gを3時間で、ならびに、3−メルカプトプロピオン酸0.44g、L−アスコルビン酸0.23gを溶かした水溶液24.37gを3.5時間で反応器に滴下した。その後、1時間引き続いて60℃に温度を維持し、重合反応を完結させた。
【0136】
反応終了後、水酸化ナトリウムを用いて中和処理を施し、固形分(ポリカルボン酸系共重合体(3))を40質量%に調整した水溶液(C)を得た。得られた水溶液(C)に含まれるポリカルボン酸系共重合体(3)の重量平均分子量は、34000であった。なお、ポリカルボン酸系共重合体(3)は、化学式1で表される繰り返し単位および化学式2で表される繰り返し単位を有するポリマーである。
【0137】
(製造例4:ポリカルボン酸系共重合体(4)の合成)
水酸化ナトリウムに代えて、水酸化カルシウムを用いて中和処理を施したこと以外は、上記製造例3と同様の手法により、固形分(ポリカルボン酸系共重合体(4))を40質量%含む水溶液(D)を得た。ポリカルボン酸系共重合体(4)もまた、化学式1で表される繰り返し単位および化学式2で表される繰り返し単位を有するポリマーである。
【0138】
(製造例5:ポリエチレンイミン/エチレンオキサイド付加物(PEIEO)の合成)
攪拌機、圧力計、および温度計を備えた圧力容器に、市販のポリエチレンイミン(数平均分子量600;エチレンイミン付加モル数=14)40g、および水素化ナトリウム0.1gを仕込み、130℃まで昇温し、内温が130℃で安定したところで、エチレンオキサイド818.4g(付加モル数=20)を8時間かけて添加し、130℃にて2時間熟成した後に降温し、ポリエチレンイミン/エチレンオキサイド付加物(PEIEO)を得た。
【0139】
(製造例6:ポリエチレンイミン/エチレンオキシド付加物マクロマー(PEIEOM
)の合成)
温度計、撹拌機、滴下装置、窒素導入管、および還流冷却装置を備えたガラス製反応器を準備した。ここに、上記の製造例5で得たPEIEO 500gを仕込み、攪拌下に反応装置内を窒素置換し、窒素雰囲気下で90℃まで昇温した。反応系を90℃に保ち、グリシジルメタクリレート44.3gを1時間かけて滴下した。滴下終了後、90℃で1時間攪拌を続け、ポリエチレンイミン/エチレンオキサイド付加物マクロマー(PEIEOM)を得た。
【0140】
(製造例7:ポリエチレンイミン/アルキレンオキサイド付加物(PEIAO)の合成)
攪拌機、圧力計、および温度計を備えた圧力容器に、市販のポリエチレンイミン(数平均分子量600;エチレンイミン付加モル数=14)40g、および水素化ナトリウム0.1gを仕込み、130℃まで昇温し、内温が130℃で安定したところで、プロピレンオキサイド324.8g(付加モル数=6)を3時間かけて添加し、130℃にて5時間熟成した後、エチレンオキサイド3285.3g(付加モル数=80)を12時間かけて添加し、130℃にて2時間熟成した後に降温し、ポリエチレンイミン/アルキレンオキサイド付加物(PEIAO)を得た。
【0141】
(実施例1:第2実施形態におけるポリカルボン酸系共重合体の合成、および当該共重合体を含む第2実施形態のセメント分散剤の前駆体水溶液の調製)
温度計、撹拌機、滴下装置、窒素導入管、および還流冷却装置を備えたガラス製反応器を準備した。ここに、水984.3gを仕込み、攪拌下に反応容器内を窒素置換して窒素雰囲気下で80℃まで加熱した。内温が80℃で安定したところで、化学式3で表される繰り返し単位を形成するPGM25E 625.55g、化学式4で表される繰り返し単位を形成するメタクリル酸166.0g、上記の製造例6で製造したPEIEOM 208.5g、水250.0g、3−メルカプトプロピオン酸1.24gを混合したモノマー水溶液1251.2g、並びに、10.4質量%過硫酸アンモニウム水溶液200.0gを、2時間かけて反応器に滴下した。滴下終了後、10.4質量%過硫酸アンモニウム水溶液50.0gをさらに0.5時間かけて反応器に滴下した。その後、2時間引続いて80℃に温度を維持し、重合反応を完結させた。
【0142】
反応終了後、水酸化ナトリウムを用いて中和処理を施し、固形分(ポリカルボン酸系共重合体(5))を40質量%含む水溶液(1)を得た。得られた水溶液(1)に含まれるポリカルボン酸系共重合体(5)の重量平均分子量は、14700であった。なお、ポリカルボン酸系共重合体(5)は、化学式3で表される繰り返し単位および化学式4で表される繰り返し単位を有するポリマーである。
【0143】
上記で得られた水溶液(1)について、後述する粉体化を試み、粉体化可能か否かを評価した。
【0144】
(実施例2:第3実施形態のセメント分散剤の前駆体水溶液の調製)
上記の製造例1で得られた水溶液(A)50gに、上記の製造例5で得られたPEIEOを40質量%含む水溶液10gを添加し、系内が均一になるまで混合することにより、固形分(ポリカルボン酸系共重合体(1)+PEIEO)を40質量%含む水溶液(2)を得た。
【0145】
上記で得られた水溶液(2)について、後述する粉体化を試み、粉体化可能か否かを評価した。
【0146】
(実施例3:第3実施形態のセメント分散剤の前駆体水溶液の調製)
上記の製造例2で得られた水溶液(B)50gに、上記の製造例5で得られたPEIEOを40質量%含む水溶液10gを添加し、系内が均一になるまで混合することにより、固形分(ポリカルボン酸系共重合体(2)+PEIEO)を40質量%含む水溶液(3)を得た。
【0147】
上記で得られた水溶液(3)について、後述する粉体化を試み、粉体化可能か否かを評価した。
【0148】
(実施例4:第3実施形態のセメント分散剤の前駆体水溶液の調製)
上記の製造例1で得られた水溶液(A)50gに、上記の製造例7で得られたPEIAOを40質量%含む水溶液10gを添加し、系内が均一になるまで混合することにより、固形分(ポリカルボン酸系共重合体(1)+PEIAO)を40質量%含む水溶液(4)を得た。
【0149】
上記で得られた水溶液(4)について、後述する粉体化を試み、粉体化可能か否かを評価した。
【0150】
(実施例5:第3実施形態のセメント分散剤の前駆体水溶液の調製)
上記の製造例3で得られた水溶液(C)50gに、上記の製造例5で得られたPEIEOを40質量%含む水溶液10gを添加し、系内が均一になるまで混合することにより、固形分(ポリカルボン酸系共重合体(3)+PEIEO)を40質量%含む水溶液(5)を得た。
【0151】
上記で得られた水溶液(5)について、後述する粉体化を試み、粉体化可能か否かを評価した。
【0152】
(比較例1)
上記の製造例1で得られた水溶液(A)について、後述する粉体化を試み、粉体化可能か否かを評価した。
【0153】
(比較例2)
上記の製造例2で得られた水溶液(B)について、後述する粉体化を試み、粉体化可能か否かを評価した。
【0154】
(比較例3:ポリエチレンオキサイド混合ポリカルボン酸系共重合体の合成)
上記の製造例1で得られた水溶液(A)50gに、ポリエチレンオキサイド(分子量=4000;以下、「PEG」とも称する)を40質量%含む水溶液10gを添加し、系内が均一になるまで混合することにより、固形分(ポリカルボン酸系共重合体(1)+PEG)を40質量%含む水溶液(E)を得た。
【0155】
上記で得られた水溶液(E)について、後述する粉体化を試み、粉体化可能か否かを評価した。
【0156】
(比較例4:ポリエチレンオキサイド混合ポリカルボン酸系共重合体の合成)
上記の製造例2で得られた水溶液(B)50gに、PEGを40質量%含む水溶液10gを添加し、系内が均一になるまで混合することにより、固形分(ポリカルボン酸系共重合体(2)+PEG)を40質量%含む水溶液(F)を得た。
【0157】
上記で得られた水溶液(F)について、後述する粉体化を試み、粉体化可能か否かを評価した。
【0158】
(粉体化試験)
上記の各実施例および各比較例で得られた水溶液(1〜5、A、B、EおよびF)についての粉体化は、下記の手法により行った。
【0159】
各水溶液を、直径13cmのガラス製シャーレに、乾燥した後の固形分が20gになるように供給した。これを、50℃、50Torr(約6.7×10Pa)の環境下に24時間放置して、水分を除去した。乾燥後、得られた固体をデシケータ中に1日間放置し、乳鉢を用いて結果物を粉砕した。粉砕した粉末を16メッシュのふるいにかけ、一定の粒度分布を持つ粉末状セメント分散剤を得た。
【0160】
上記過程による粉末化が可能か否かを評価した。その評価結果を下記の表3に示す。評価は、乾燥後のポリマーが粉砕でき、流動性を有する粉末状セメント分散剤が得られたものを○、水あめ状や粘着性のあるフィルム状になり粉砕できなかったものを×とした。
【0161】
【表3】

【0162】
表3に示す結果から、セメント分散剤の主成分であるポリカルボン酸系共重合体に分岐化合物(PAI/PAO付加物)由来の単量体を共重合させることにより、または、当該ポリカルボン酸系共重合体と当該分岐化合物とを混合することにより、当該共重合体を含む水溶液の乾燥による粉体化が容易に行われ、粉末状セメント分散剤が得られることが示される。さらに、セメント分散剤の主成分であるポリカルボン酸系共重合体に分岐化合物由来の単量体を共重合させて得られた共重合体に、分岐化合物をさらに含む水溶液を乾燥により粉体化することにより、極めて流動性に優れる粉末状セメント分散剤が得られることが示される。
【0163】
(モルタル試験)
本発明の粉末状セメント分散剤の分散性を調べる目的で、実施例2で得られた水溶液(2)を粉体化して得られた粉末状セメント分散剤、並びに、比較例3で得られた水溶液(E)および比較例4で得られた水溶液(F)の粉体化工程で得られたポリマー塊をそれぞれモルタルに添加し、モルタル試験を実施した。なお、実施例2由来の粉末状セメント分散剤は粉末のまま添加した。これに対し、比較例3および比較例4由来のポリマー塊はモルタル中の水に溶解させるように添加した。
【0164】
モルタル配合は下記の通りである。
【0165】
【表4】

【0166】
モルタルフローは、JIS R 5201の10.4.3項の練り混ぜ方法に準じたミキサー、および練り混ぜ方法を使用し、JIS R 5201のフロー試験に従って測定した。測定結果を下記の表5に示す。
【0167】
【表5】

【0168】
表5に示す結果から、同量の添加量であれば、本発明の粉末状セメント分散剤の方が高いモルタルフローが得られることがわかり、本発明の粉末状セメント分散剤は、粉体化が容易であるばかりでなく、分散性にも優れることがわかる
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明の粉末状セメント分散剤は、セメント組成物の分散性を向上させる目的で用いられる。本発明の粉末状セメント分散剤は、粉体であるため取扱い易く、しかも、分散性能に優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリアルキレングリコール系単量体由来の繰り返し単位(I)と、
不飽和カルボン酸系単量体由来の繰り返し単位(II)と、
ポリアルキレンイミン鎖を分子内に3本以上含む分岐構造を有する分岐化合物単量体由来の繰り返し単位(III)と、
を有するポリカルボン酸系共重合体を主成分とする、粉末状セメント分散剤。
【請求項2】
前記繰り返し単位(I)が下記化学式1で表され、前記繰り返し単位(II)が下記化学式2で表される、請求項1に記載の粉末状セメント分散剤:
【化1】

式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、AOは、それぞれ独立して炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表し、Rは、炭素原子数0〜2のアルキレン基を表し、nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、2〜300であり、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、メチル基または−COOMを表し(ただし、RおよびRの双方が−COOMである場合を除く)、Rは、水素原子、メチル基または−CHCOOMを表し(ただし、Rが−CHCOOMである場合、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す)、M、MおよびMは、それぞれ独立して水素原子、金属原子、アンモニウム基または有機アミン基を表す。
【請求項3】
前記繰り返し単位(I)が下記化学式3で表され、前記繰り返し単位(II)が下記化学式4で表される、請求項1に記載の粉末状セメント分散剤:
【化2】

式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、BOは、それぞれ独立して炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表し、pは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、2〜300であり、Rは、水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子、メチル基または−CHCOOMを表し、MおよびMは、それぞれ独立して、水素原子、金属原子、アンモニウム基または有機アミン基を表す。
【請求項4】
前記ポリカルボン酸系共重合体における前記繰り返し単位(I)、前記繰り返し単位(II)および前記繰り返し単位(III)の含有量の比が、これらの繰り返し単位の合計含有量100質量%に対して(I)/(II)/(III)=40〜90/5〜30/5〜50質量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粉末状セメント分散剤。
【請求項5】
不飽和ポリアルキレングリコール系単量体由来の繰り返し単位(IV)および不飽和カルボン酸系単量体由来の繰り返し単位(V)を有するポリカルボン酸系共重合体(A)と、
ポリアルキレンイミン鎖を分子内に3本以上含む分岐構造を有する分岐化合物(B)と、
を含む、粉末状セメント分散剤。
【請求項6】
前記ポリカルボン酸系共重合体(A)が、下記化学式5または下記化学式6で表される繰り返し単位を有する、請求項5に記載の粉末状セメント分散剤:
【化3】

式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、AOは、それぞれ独立して炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表し、Rは、炭素原子数0〜2のアルキレン基を表し、nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、2〜300であり、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、メチル基または−COOMを表し(ただし、RおよびRの双方が−COOMである場合を除く)、Rは、水素原子、メチル基または−CHCOOMを表し(ただし、Rが−CHCOOMである場合、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す)、M、MおよびMは、それぞれ独立して水素原子、金属原子、アンモニウム基または有機アミン基を表す、
【化4】

式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、BOは、それぞれ独立して炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表し、pは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、2〜300であり、Rは、水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子、メチル基または−CHCOOMを表し、MおよびMは、それぞれ独立して、水素原子、金属原子、アンモニウム基または有機アミン基を表す。
【請求項7】
前記ポリカルボン酸系共重合体(A)および前記分岐化合物(B)の含有量の比が、これらの合計含有量100質量%に対して(A)/(B)=50〜98/2〜50質量%である、請求項5または6に記載の粉末状セメント分散剤。
【請求項8】
前記ポリカルボン酸系共重合体(A)が、前記化学式6で表される繰り返し単位を有する、請求項6または7に記載の粉末状セメント分散剤。
【請求項9】
前記分岐化合物が、ポリアルキレンイミンにアルキレンオキサイドが付加してなる化合物である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の粉末状セメント分散剤。
【請求項10】
前記ポリアルキレンイミンがポリエチレンイミンである、請求項9に記載の粉末状セメント分散剤。

【公開番号】特開2006−306716(P2006−306716A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−96412(P2006−96412)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】