説明

粉末状セルロース及びその製造方法

【課題】粉末状セルロース中のヘミセルロースの含有量が低く、熱可塑性樹脂との複合時に、着色及びガス(臭気)の発生を抑制できる、粉末状セルロースを提供する。
【解決手段】クラフトパルプを機械粉砕し、アルカリ条件下で加熱処理し、水洗した後に水分を除去したセルロースの、300℃での加熱減量が4質量%以下、17.5質量%水酸化ナトリウム処理後の重量残存率が90質量%以上であることを特徴とする粉末状セルロース。また、機械粉砕したクラフトパルプを加熱処理し、水洗した後に水分を除去したセルロースの、300℃での加熱減量が4質量%以下になるように、該アルカリ加熱処理を施すことを特徴とする粉末状セルロースの製造方法。クラフトパルプのアルカリ条件下での加熱処理による加熱減量が1〜25質量%であることが好ましい。また、アルカリ条件が、5質量%以下の水酸化ナトリウム水溶液であることが好ましい。また、アルカリ条件下の加熱処理が60〜100℃であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的に粉砕されたクラフトパルプ由来の、粉末状セルロースの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粉末状セルロースの利用法の一つに、熱可塑性樹脂と複合して熱形成体を得るという方法がある。セルロースを熱可塑性樹脂と複合すると弾性率や強度が向上するので、成形体を軽量化することができる他、燃焼させても焼成後残渣はほとんど残らないなどの利点がある。また、粉末状セルロース品は機械的定量搬送が可能であること、熱可塑性樹脂への複合化が比較的簡単であることなどから、量産化する際には有利である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、実際に熱可塑性樹脂と複合する際には、熱可塑性樹脂の融点より高い温度環境で混練されることとなるため、セルロース側の耐熱性は重要な問題である。一般的にはセルロース源は安価な古紙などの紙粉やパルプシートの機械粉砕物が適しているが、これらのパルプは主に、水酸化ナトリウム/硫化ナトリウムによる脱リグニン化によって、木質材から得られるクラフトパルプが主流である。
【0004】
抄紙用のクラフトパルプの場合、熱変性を受けやすいリグニン含有量は未晒しクラフトパルプでも1質量%以下、晒しクラフトパルプ0.4質量%程度であるが、水溶性あるいは一部水溶化するヘミセルロースの含有量は5〜10質量%と高い水準で残存している。これは、木質材からパルプの製造する際、着色等の問題からリグニンの除去を優先しており、ヘミセルロースは紙への影響があまりなく、かえって木質材からのパルプの製造収率を向上させているなど、積極的に除去しようとはしていないためである。しかし、ヘミセルロースもリグニン同様耐熱性に劣っており、パルプの耐熱性を低下させる要因となっている。
【0005】
一般的に結晶性セルロースの分解温度は空気中で340℃から350℃程度であって、オレフィンなど200℃以下で溶融する熱可塑性樹脂とパルプを複合化する際にはその熱分解の問題はないはずであるが、特にポリプロピレン(PP)の形成温度は230℃以上となる場合があり、セルロースを含む成形体の着色、ガス(臭気)の発生など、多くの問題を抱えている。この温度域での分解物は主にリグニンやヘミセルロースであることが知られているが、実際に熱分析を行うと、主に検出されるのはヘミセルロース由来の分解物であった。
【0006】
一方、パルプを化学粉砕する方法が知られている。この方法は酸やアルカリ中でパルプを化学的に粉砕する方法で、パルプの結晶性の低い(換言すれば、ヘミセルロース含有量の高い)部分を優先的に分解除去して、高純度で微細なセルロースを得ることができる。しかし、この方法で作製するセルロースはヘミセルロースだけでなく、結晶性セルロースの部分も徐々に侵し、クラスター片などが生成して収率が著しく低下する他、水中から乾燥して取り出す際に凝集をおこすと乾式で再度粉砕をする必要があるなど、手間がかかりコストがかかるのが問題であった。
【0007】
粉末状セルロースの別な利用法の一つに、レーヨン繊維やセロファン用などの原料セルロースや、セルロースアセテートなどのセルロース誘導体用原料などにも用いることができる。この場合でも、ヘミセルロースの含有量が多いと、収率の低下や着色の問題、更には強度の低下などを引き起こし、問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4581320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ヘミセルロース含有量の少なく、加熱しても着色や臭気の発生の少ない、機械的に粉砕されたクラフトパルプ由来の粉末状セルロース及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討をした結果、下記に示す本発明により上記課題を解決できることを見出した。
[1]クラフトパルプを機械粉砕し、アルカリ条件下で加熱処理し、水洗した後に水分を除去したセルロースの、300℃での加熱減量が4質量%以下、17.5質量%水酸化ナトリウム処理後の重量残存率が90質量%以上であることを特徴とする粉末状セルロース。
[2]機械粉砕したクラフトパルプを加熱処理し、水洗した後に水分を除去したセルロースの、300℃での加熱減量が4質量%以下になるように、該アルカリ加熱処理を施すことを特徴とする粉末状セルロースの製造方法。
[3]クラフトパルプのアルカリ条件下での加熱処理による加熱減量が1〜25質量%である[2]記載の粉末状セルロースの製造方法。
[4]アルカリ条件が、5質量%以下の水酸化ナトリウム水溶液である[2]または[3]記載の粉末状セルロースの製造方法。
[5]アルカリ条件下の加熱処理が60〜100℃である[2]〜[4]のいずれかに記載の粉末状セルロースの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ヘミセルロース含有量の少なく、加熱しても着色や臭気の発生の少ない、機械的に粉砕されたクラフトパルプ由来の粉末状セルロースを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
クラフトパルプとは、水酸化ナトリウム/硫化ナトリウムの複合水溶液によって、木材や非木材からリグニンを除去して得られるセルロース繊維状物である。木材としては針葉樹(N材)、広葉樹(L材)などに分類され、非木材としては藁、バガス、ケナフなどが原料となる。得られるクラフトパルプ(未晒しクラフトパルプ:UKP)は主成分がセルロースであるが、残存する微量なリグニンによって黄着色しており、これを化学的に漂白して白色体となったものが晒しクラフトパルプ(BKP)である。リグニンの含有量は未晒しクラフトパルプで1質量%程度、晒しクラフトパルプでは0.4質量%程度である。ヘミセルロースの含有量は5〜10質量%程度である。得られたクラフトパルプは、パルプシート(あるいはパルプロール)として市場で購入することが可能であるが、セルロースは繊維状となっている。
【0013】
本発明では、本発明の粉末状セルロースを得る原料として機械的に粉砕されたクラフトパルプを用いるが、機械的粉砕方法とは、ボールミル、カッティングミル、気流式ミルなどの粉砕機械によって粉砕する方法である。特に、パルプシートあるいはロール、または古紙を利用する場合には、カッティングミルにより予め予備粉砕しておき、その後、ボールミルや気流式ミルなどの衝撃式ミルを併用すると100μm以下の微粉砕品を製造可能で、かつ、粒子サイズもコントロールできる。
【0014】
ヘミセルロースはグルコースのみで形成されているセルロースとは異なり、植物を構成している水溶性多糖類の総称であって、成分として、キシログルカン、グルコマンナン、アラビナン、アラビノキシランなどが知られている。元来、ヘミセルロースはリグニンと結合して存在するが、クラフトパルプ中ではセルロースと水素結合して存在している。実際のパルプ中では、セルロースとヘミセルロースを明確に区別することは難しく、本発明では20℃、17.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液中で不溶部分として残留したαセルロースをセルロース、該水溶液に溶解するβ及びγセルロースをヘミセルロースとする。この方法で抄紙用の晒しクラフトパルプ中のヘミセルロースを定義すると、含有量は5から10質量%、通常は7〜8質量%程度となるようにコントロールされている。
【0015】
クラフトパルプに酸処理を施すと、多糖類はすべからく加水分解を受け、低分子量化する。これに対し、アルカリ処理では、セルロースに大きなダメージを与えず、ヘミセルロースを除去することができるので、本発明ではアルカリ処理を行う。アルカリ処理では、ピーリング反応とアルカリ加水分解反応が同時に進行するが、セルロースとヘミセルロースでは反応速度に大きな違いがあることが知られており、セルロースの分子量を低下させずに、特異的にヘミセルロースを除去することができる。アルカリ材としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が好ましい。しかし、25質量%以上の水酸化ナトリウム水溶液では、ナトリウムイオンがセルロース結晶構造内に侵入して、結晶構造を変化させることが知られており(マーセル化による結晶構造II型への転移)、高濃度域でのアルカリ処理を行うのは好ましくない。
【0016】
本発明に係るアルカリ条件における水酸化ナトリウム水溶液は、取り扱い上の問題から5質量%以下の濃度が好ましく、更には1質量%以下であっても構わない。しかし、0.01質量%未満ではヘミセルロースの除去効果はほとんどみられないので、1質量%以下0.01質量%以上が好適である。ヘミセルロース除去の促進のために、アルカリ処理時に加熱する。特に反応を促進させるために100℃近傍まで加熱してもよいが、アルカリ加水分解速度が増大するので、80℃程度が好ましい。
【0017】
本発明に係るアルカリ条件における粉末状セルロースの濃度は反応のコストを左右する重要な要素であるが、10質量%以上20質量%以下が好ましい。これを超えると、沈降する粉末状セルロースを通常の攪拌機で再分散するのが難しくなる。また、10質量%未満ではコスト的に有利とはならない。
【0018】
通常の晒しクラフトパルプにおけるヘミセルロース含有量は7〜8質量%程度であるから、この量を除くことができる領域で本発明に係るアルカリ条件を設定することが好ましい。例えば、0.5質量%水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合では、100℃、3時間の処理で粉末状セルロースの重量減は10質量%であり、粉砕状セルロースの表面近傍のヘミセルロースは除かれているので、より高濃度の水酸化ナトリウムを用いる場合には加熱温度を低く、及び/または処理時間を短く、またより低濃度の水酸化ナトリウムを用いる場合には処理時間をより長くすべきである。
【0019】
アルカリ処理を施した後は、濾過後、水洗に先立って酸による中和を行うことが好ましい。しかし、硫酸や塩酸などの無機酸を用いると、粉末状セルロース中に微量残存した場合に、長期的に酸加水分解を引き起こす触媒となり、セルロースの安定性を損なってしまう。従って、アルカリ処理後の中和剤は酢酸などの有機酸が好ましい。中和後の濾液のpHは6.5以上が好ましい。酸側に比較すればアルカリ側ではセルロースは安定であるとはいえ、上限はpH8程度である。
【0020】
本発明による粉末状セルロースは優位に熱可塑性樹脂と複合される。通常混練機と呼ばれるもので予めPEやPPなどの熱可塑性樹脂と、セルロースの分散剤となる酸変性PEや酸変性PPを溶融させておき、ここに粉末状セルロースを添加して複合体を作製する。平均粒径30μm程度の粉末状セルロースでは、熱可塑性樹脂中には85質量%程度までの含有比率としても、ヘミセルロース由来の着色等の欠点はかなり抑制することができる。平均粒子径を細かくすると流動性は良好になって取り扱いが容易になるが、セルロースが熱可塑性樹脂に付与できる強度や弾性率は低下する方向になる。一般的に、流動性がある程度確保できていれば、成形体の形成が可能な射出成形では粒子長は200μm以下が好ましく、Tダイを用いたフィルム成形やブロー成形などのフィルム成形ではフィルム厚に併せて、平均粒径の細かいものが選ばれる。PPの成形では、230℃を超える加熱温度で成形体を形成する場合があるが、この場合、ヘミセルロースが除かれていると、加工時の着色やガス(臭気)の発生が抑制される。
【0021】
本発明における熱可塑性樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンからなるポリエチレン類、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系材料の他に、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン共重合樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等からなるポリエステル樹脂類等を挙げることができるが、熱可塑性樹脂であれば特に制限されない。好ましくはポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類が用いられる。
【0022】
更に、熱可塑性樹脂として生分解性樹脂を用いることもできる。生分解性樹脂を用いることにより、廃棄の際、成形品を土中に埋設等することにより該成形品が分解されることが期待される。生分解性樹脂としては、環境的に分解される樹脂、特に微生物の作用により分解される樹脂であれば特に制限されない。例えば、具体的には、高分子多糖類、微生物ポリエステル、脂肪族ポリエステル等が挙げられ、より具体的には、ポリ乳酸樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、ポリブチレンサクシネートアジペート樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂、ポリエチレンサクシネートカーボネート樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂、ポリヒドロキシアルカノート(例えば、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)(PHB)、ポリ(3−ヒドロキシ吉草酸)(PHV))、ラクトン樹脂、低分子量脂肪族ジカルボン酸と低分子量脂肪族ジオールから得られるポリエステル樹脂、酢酸セルロース系等の複合体、変性デンプン−変性ポリビニルアルコール複合体、その他の複合体を挙げることができる。
【0023】
セルロースパウダーと熱可塑性樹脂を複合させる方法は、ヘシェルミキサーや(加圧)ニーダーなどのバッチ式混練機を用いて溶融する場合には、予め熱可塑性樹脂を溶融させておいて、その中に粉末状セルロースを添加する方法で作製される。また、二軸混練機のような連続分散機の場合には、必要材料を一挙に混練機に投入する。この際、セルロースは通常の樹脂の100倍程度の含水量を有するので、ガス抜きのためのベント構造を有しているものがより適切である。分散剤等は予め熱可塑性樹脂と溶融させておくのが好ましい。混練時に機械内部を窒素置換すると、酸化による樹脂やセルロースの劣化を抑制することができる。溶融後はストランドを形成させて、水中や大気中でカッティングしてペレット化する。
【0024】
ペレット時の粉末状セルロースの割合は、2質量%から90質量%が好ましく、更に好ましくは10質量%から85質量%程度である。実際に使用する際には、40質量%以上の高濃度域で作製したマスターバッチを成形機中でドライブレンドして、所定の濃度とするのが好ましい。成形方法としては、射出成形、ブロー成形、インフレーション法による袋状物の作製、Tダイを使ったフィルム成形方法など多用である。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)
セルロースとして、広葉樹の晒しクラフトパルプ(LBKP、ヘミセルロース含有量8質量%、リグニン含有量0.4質量%、灰分0.24質量%)のパルプシート(温度を80℃に設定した乾燥器に24時間保持して水分を乾燥させたもの)を用意し、粉砕機((株)ホーライ製、商品名:BO−2572、30mmスクリーン装着)で粗粉砕した。次に、解繊機(ターボ工業(株)製、商品名:ターボミルT−250)に粗粉砕物を投入し、該パルプを解繊し、解繊された繊維状セルロースを得た。次に、遠心水冷式粉砕機((株)ティーエスピー製CLGP25)を用いて、平均粒径32μmの機械粉砕粉末状セルロースを得た。
【0027】
得られた機械粉砕粉末状セルロース300gを0.5質量%水酸化ナトリウム水溶液1700g中で分散させ、100℃で2時間加熱した。加熱後冷却して濾取した後、10質量%酢酸水溶液で中和し、更に水洗を行った。最終濾液のpHは7.2であった。これを105℃で乾燥させて、粉末状セルロース(1)を得た。この粉末状セルロースの平均粒径は30μm、灰分は0.12質量%、アルカリ処理によって失われた重量損は10質量%であった。次に、粉末状セルロース(1)を150℃まで加熱して水分を除去した後、空気中20℃/分の昇温速度で300℃まで加熱して、150℃からの加熱減量を比較したところ、3.8質量%であった。更に、得られた粉末状セルロース(1)を17.5質量%水酸化ナトリウムで30分浸漬させて重量減少を測定したところ、残量は95質量%であった。
【0028】
得られた粉末状セルロース(1)を、PPと二軸混練機((株)テクノベル製KZW)を用いて混練し、内温を190℃から230℃としても、得られるストランドの形状等の変化はなかった。
【0029】
(実施例2)
実施例1で得られた機械粉砕粉末状セルロースを5質量%水酸化ナトリウム水溶液1700g中で分散させ、80℃で2時間加熱した。冷却後実施例1と同様に濾取後中和し、更に水洗した。最終濾液のpHは7.5であった。これを105℃で乾燥させて、粉末状セルロース(2)を得た。この粉末状セルロース(2)の平均粒径は29μm、灰分は0.08質量%、重量損は25質量%であった。更に粉末状セルロース(2)を150℃とし、水分を除去してから、空気中20℃/分の昇温速度で300℃まで加熱してこの時の重量を比較したところ、150℃からの加熱減量は2.1質量%であった。更に、得られた粉末状セルロース(2)を17.5質量%水酸化ナトリウムで30分浸漬させて重量減少を測定したところ、残量は98%であった。
【0030】
得られた粉末状セルロース(2)を、PPと二軸混練機((株)テクノベル製KZW)を用いて混練し、内温を190℃から230℃としても、得られるストランドの形状等の変化はなかった。
【0031】
(実施例3)
実施例1で得られた機械粉砕粉末状セルロースを0.02質量%水酸化ナトリウム水溶液1700g中で分散させ、100℃で2時間加熱した。冷却後実施例1と同様に濾取後中和し、更に水洗した。最終濾液のpHは6.8であった。これを105℃で乾燥させて、粉末状セルロース(3)を得た。この粉末状セルロース(3)の平均粒径は32μm、灰分は0.24質量%、重量損は4質量%であった。更に粉末状セルロース(3)を150℃とし、水分を除去してから、空気中20℃/分の昇温速度で300℃まで加熱してこの時の重量を比較したところ、150℃からの加熱減量は4.0質量%であった。更に、得られた粉末状セルロース(3)を17.5質量%水酸化ナトリウムで30分浸漬させて重量減少を測定したところ、残量は92質量%であった。
【0032】
得られた粉末状セルロース(3)を、PPと二軸混練機((株)テクノベル製KZW)を用いて混練し、内温を190℃から230℃としたところ、230℃近傍でガスの発生が観察され、やや着色した。
【0033】
(実施例4)
実施例1で得られた機械粉砕粉末状セルロースを0.005質量%水酸化ナトリウム水溶液1700g中で分散させ、100℃で2時間加熱した。冷却後実施例1と同様に濾取後中和し、更に水洗したところ、最終濾液のpHは6.0であった。これを105℃で乾燥させて、粉末状セルロース(4)を得た。この粉末状セルロース(4)の平均粒径は32μm、灰分は0.25質量%、重量損は3質量%であった。更に粉末状セルロース(4)を150℃とし、水分を除去してから、空気中20℃/分の昇温速度で300℃まで加熱してこの時の重量を比較したところ、150℃からの加熱減量は4.0質量%であった。更に、得られた粉末状セルロース(4)を17.5質量%水酸化ナトリウムで30分浸漬させて重量減少を測定したところ、残量は91質量%であった。
【0034】
得られた粉末状セルロース(4)を、PPと二軸混練機((株)テクノベル製KZW)を用いて混練し、内温を190℃から230℃としたところ、230℃近傍でガスの発生が観察され、やや臭気がし、着色もあった。
【0035】
(比較例)
実施例1で得られた機械粉砕粉末状セルロースを100℃で2時間水中で加熱した。冷却後実施例1と同様に水洗した。これを105℃で乾燥させて、粉末状セルロース(比較1)を得た。この粉末状セルロース(比較1)の平均粒径は32μm、灰分は0.25質量%、重量損は3質量%であった。更に粉末状セルロース(比較1)を150℃とし、水分を除去してから、空気中20℃/分の昇温速度で300℃まで加熱してこの時の重量を比較したところ、150℃からの加熱減量は4.6質量%であった。更に、得られた粉末状セルロース(比較1)を17.5質量%水酸化ナトリウムで30分浸漬させて重量減少を測定したところ、残量は89質量%であった。
【0036】
得られた粉末状セルロース(比較1)を、PPと二軸混練機((株)テクノベル製KZW)を用いて混練し、内温を190℃から230℃としたところ、230℃近傍でガスの発生と強い臭気があり、黄変した。
【0037】
実施例の示すとおり、本発明の粉末状セルロースを用いると、着色がなく、ガスや臭気の発生のない、粉末状セルロースを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の粉末状セルロースは熱可塑性樹脂と混練しても、ガス(臭気)の発生や混練物の着色が抑止され、強度特性等にも優れるので、セルロース含有熱可塑性樹脂として、包装材料、収容トレイ、パレット、保護用部材、パーティション部材等に利用可能である。また、パソコン、携帯電話の筺体、自動車用材料、建材、家具、遊具、玩具、文具等に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラフトパルプを機械粉砕し、アルカリ条件下で加熱処理し、水洗した後に水分を除去したセルロースの、300℃での加熱減量が4質量%以下、17.5質量%水酸化ナトリウム処理後の重量残存率が90質量%以上であることを特徴とする粉末状セルロース。
【請求項2】
機械粉砕したクラフトパルプを加熱処理し、水洗した後に水分を除去したセルロースの、300℃での加熱減量が4質量%以下になるように、該アルカリ加熱処理を施すことを特徴とする粉末状セルロースの製造方法。
【請求項3】
クラフトパルプのアルカリ条件下での加熱処理による加熱減量が1〜25質量%である請求項2記載の粉末状セルロースの製造方法。
【請求項4】
アルカリ条件が、5質量%以下の水酸化ナトリウム水溶液である請求項2または3記載の粉末状セルロースの製造方法。
【請求項5】
アルカリ条件下の加熱処理が60〜100℃である請求項2〜4のいずれかに記載の粉末状セルロースの製造方法。

【公開番号】特開2013−60544(P2013−60544A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200508(P2011−200508)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】