説明

粉末状ビニルピロリドン重合体

【課題】 錠剤製造時における結合剤としての使用量を少なくしても、その分、他に煩雑な工程が必要になることもなく、打錠率が低下する心配もないビニルピロリドン重合体を提供すること。
【解決手段】 濃度5〜40重量%のビニルピロリドン重合体水溶液を二流体ノズル式噴霧乾燥機により乾燥して得られる粉末状ビニルピロリドン重合体であり、粒子径35μm以下の粒子を90重量%以上含有し、平均粒子径が20μm以下である粉末状ビニルピロリドン重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉末状ビニルピロリドン重合体に関し、詳しくは医薬用助剤(医薬品のほか、健康食品、医薬部外品あるいは清涼飲料水における添加剤など)、ヘアケア用品などの化粧品分野、並びに染料助剤など種々の特殊工業用途など、幅広い分野で好適に用いられる粉末状ビニルピロリドン重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
固形製剤、例えば錠剤を製造する際、結合剤としてビニルピロリドン重合体を使用することは、既に公知である(例えば、特許文献1〜2)。
【特許文献1】特開平5−32554号公報(段落[0012]〜[0016])。
【特許文献2】特開2000−351732号公報(請求項3)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このビニルピロリドン重合体は高価であるため、使用量を可能な限り抑える必要があった。ただ単に使用量(配合量)を少なくすれば、打錠率(欠けなどなく、完全な形に成形できる率)が低下するという問題が当然生じる。この問題を回避するためには、種々の煩雑な工程が必要になった。すなわち、ビニルピロリドン重合体の使用量を少なくすればするほど、その反面、粉体混合時に水や有機溶剤の噴霧処理が必要になったり、あるいは一旦顆粒を成形しておき、その後、打錠成形を行うという煩雑な工程が必要になった。
【0004】
[発明の目的]
本発明は上記の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、種々の分野に用いる場合において、例えば、錠剤などの固形製剤の製造時における結合剤として用いる場合において、その使用量を少なくしても他に煩雑な工程が必要になることもなく、打錠率が低下する心配もないというような、格別な作用効果をもたらすビニルピロリドン重合体を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、用いるビニルピロリドン重合体の粒子径を限定することにより、少量の配合でも打錠率が低下しないばかりか逆に良好ならしめ、また得られた錠剤などの固形製剤の崩壊時間が延長されることを見い出し、そして本発明に至った。
【0006】
すなわち、請求項1に記載の粉末状ビニルピロリドン重合体(以下、「粉末状重合体」または、単に「重合体」とも言う)は、粒子径35μm以下である粒子を70重量%以上含有するものである。
【0007】
請求項2に記載の粉末状重合体は、粒子径35μm以下である粒子を90重量%以上含有するものである。
【0008】
請求項3に記載の粉末状重合体は、請求項1または2記載の重合体において、平均粒子径が20μm以下のものである。
【0009】
請求項4に記載の粉末状重合体は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の重合体において、K値が40以下であることを特徴とする。
【0010】
なお、本発明で使用するビニルピロリドン重合体は、N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマーである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の粉末状ビニルピロリドン重合体によれば、医薬用助剤(医薬品のほか、健康食品、医薬部外品あるいは清涼飲料水における添加剤など)、ヘアケア用品などの化粧品分野、並びに染料助剤など種々の特殊工業用途など、幅広い分野において好適に用いることができる。例えば、錠剤や顆粒剤などの固形製剤の製造時における結合剤として使用する場合、使用量を少なくしても他に煩雑な工程が必要になることもなく、打錠率が低下する心配もないといった作用効果を奏し、他の分野に用いても、高価である当該重合体の粉末使用量を削減し得、これによりコスト削減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の粉末状重合体は、粒子径35μm以下の粒子を70重量%以上含む。70重量%未満であれば、これを錠剤などの固形製剤の製造時における結合剤として使用した場合など、配合量を少量とすることが出来ない。すなわち、70重量%未満のときは、結合剤として用いた場合、有効打錠率が低下する。粒子径35μm以下の粒子を90重量%以上含む場合は、極めて良好な打錠率が得られ、かつ得られた錠剤の崩壊時間の延長もみられ、また高価である当該重合体の粉体使用量を削減し得、コスト削減が可能となる。
【0013】
さらに上記の構成に加え、当該粉末を構成する粒子が平均粒子径20μm以下である場合、より一層効果的に打錠率の向上を図ることができ、また高価である当該重合体の粉体使用量をより一層削減し得、これによりコスト削減がより一層可能となる。
【0014】
本発明において、二流体ノズル(加圧二流体ノズル)式噴霧乾燥機を用いることにより、粒子径35μm以下の粒子を70重量%以上含み、かつ平均粒子径20μm以下の粒子からなる粉体重合体が得られる。二流体ノズル式噴霧乾燥機の乾燥処理メカニズムは、例えば特許第3034974号公報、特許第3155028号公報に詳細に示されている。また、噴霧乾燥機には、熱風の噴霧液滴流に対する流れの方向の観点から水平並流型、垂直下降並流型、垂直上昇向流型、垂直下降混合型、垂直上昇混合型などがあるが、いずれのスプレー乾燥機でもよい。さらに、二流体ノズルは、液流とガス流とを互いに直角(直交する方向)に衝突させて微粒子化する直角型や、液流とガス流とを平行に噴射させる平行流型(内部混合型、外部混合型)などがあるが、いずれのタイプでも構わない。
【0015】
上記した二流体ノズル式噴霧乾燥機を用いて粉末重合体を製造する際に用いる重合体水溶液の濃度に特に限定はないが5〜40重量%であることが好ましい。5重量%未満の場合、生産コストが高くなり、経済的な不利益を招く可能性が生じる。また、40重量%を超える場合は、所望の粉末状ビニルピロリドン重合体が得られにくくなるという問題が生じる。なお、更に好ましい範囲は10〜30重量%である。
【0016】
また、前記水溶液のK値は40以下であることが望ましい。K値が40を超えると粉末状重合体が得られにくくなる。さらに好ましいK値は35以下で、30以下であることが最も好ましい。
【0017】
なお、K値とは、ドイツの化学者H.フィケンチャーにより提案された重合度を表す定数であり、高分子の溶液について広い範囲で成立する。
【0018】
ビニルピロリドン重合体溶液のK値は、以下の測定方法によって求めることができる。すなわち、K値が20未満である場合は5%(g/100ml)溶液の粘度を測定し、K値が20以上である場合は1%(g/100ml)溶液の粘度を測定する。試料濃度は、乾燥物換算する、従ってK値が20未満の場合は試料5.0g、K値が20以上の場合は試料1.0gを精密に計り取り、100mlのメスフラスコに入れ、室温で蒸留水を加え、振とうしながら完全に溶かして蒸留水を加えて正確に100mlとする。この試料溶液を恒温槽(25±0.2℃)で30分間放置後、ウベローデ型粘度計を用いて測定する。溶液が2つの印線の間を流れる時間を測定する。数回測定し、平均値をとる。相対粘度を規定するために、蒸留水についても同様に測定する。得られた2つの流動時間をHagenbach-Couetteの補正値に基づいて補正する。
【数1】

【0019】
上記式中、Zは濃度Cの溶液の相対粘度(ηrel)、Cは濃度(%:g/100ml)を示し、相対粘度Zは次式より得られる;
Z(ηrel)=(溶液の流動時間)÷(水の流動時間)
【0020】
本発明の粉末状ビニルピロリドン重合体を採用することにより粉体使用量を削減し得、これにより種々の分野においてコスト削減が可能となる。具体的には、固形製剤、例えば錠剤を製造する際の結合剤として使用する場合、その使用量を減らすことができ、減量しても、例えば打錠率は減少せず、また当該錠剤の崩壊時間の延長化を図ることができる。換言すれば、従来はビニルピロリドン重合体を結合剤として使用する場合、製剤中、5〜20重量%含ませていたが、本発明の粉末状重合体を使用することによって、製剤中の含有率を1〜3重量%に抑えることができ、高価なビニルピロリドン重合体であることからして、その分、経済的メリットがあり、前述したように崩壊時間の延長化といった作用効果も奏する。
【実施例】
【0021】
実施例1(重合体[A]の製造)
K値29.8のビニルピロリドン重合体(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)20重量%水溶液を二流体ノズル式噴霧乾燥機(大川原化工機(株)製、L−12(特)型)により乾燥粉末化し、粉末状ビニルピロリドン重合体[A]を得た。
【0022】
乾燥条件は次の通り。すなわち、二流体ノズル液キャップオリフィス:3.0mm、エアキャップオリフィス:1.5mm、空気圧:2.0kg/cm、入熱温度:170℃、排気温度:110℃、処理量:4L/minとした。
【0023】
粉末状ビニルピロリドン重合体[A]は粒径35μm以下のものを76重量%含有し、かつ平均粒子径は19.1μmであった。
【0024】
実施例2(重合体[B]の製造)
K値17.5のビニルピロリドン重合体(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)35重量%水溶液を二流体ノズル式噴霧乾燥機(大川原化工機(株)製、L−12(特)型)により乾燥粉末化し、粉末状ビニルピロリドン重合体[B]を得た。
【0025】
乾燥条件は次の通り。すなわち、二流体ノズル液キャップオリフィス:3.0mm、エアキャップオリフィス:1.5mm、空気圧:2.0kg/cm、入熱温度:230℃、排気温度:110℃、処理量:7L/minとした。
【0026】
得られた粉末状ビニルピロリドン重合体[B]は粒径35μm以下のものを91重量%含有し、かつ平均粒子径は18.0μmであった。
【0027】
比較例1(重合体[a]の製造)
K値29.8のビニルピロリドン重合体(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)20重量%水溶液をディスクアトマイザー式噴霧乾燥機により乾燥粉末化し、粉末状ビニルピロリドン重合体[a]を得た。
【0028】
乾燥条件は次の通り。すなわち、ディスク周速85m/sec、処理速度:280L/min、入熱温度:170℃、排気温度:110℃とした。
【0029】
得られた粉末状ビニルピロリドン重合体[a]は粒径75μm以下のものを9重量%含有し、かつ平均粒子径は159μmであった。
【0030】
評価例1〜2および比較評価例1
下記[表1]に記載の処方の合計量300gをポリ袋に入れ、30秒間混合した。そのあと、常法に従って、打錠成形を実施した。打錠条件は次の通り。
【0031】
(打錠条件)
錠剤重量:3.5g/錠、打錠径:直径8mm、打錠圧:500kg、打錠機:ロータリー式打錠機HT−9(畑鉄工所製)
【表1】

【0032】
打錠した錠剤に関し、得られた錠剤の打錠率と崩壊時間を以下のように評価した。
【0033】
(打錠率と崩壊時間の評価)
錠剤を製造した時の(良好)打錠率と、得られた錠剤の崩壊時間を測定した。
【0034】
良好打錠率(%):完全な形で成形できた錠剤の生成率。
崩壊時間(秒):第14回改正・日本薬局方に準じて試験し、錠剤が完全に溶け終わるまでの時間を測定した。
【0035】
結果を下記[表2]に示す。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径35μm以下である粒子を70重量%以上含有することを特徴とする粉末状ビニルピロリドン重合体。
【請求項2】
粒子径35μm以下である粒子を90重量%以上含有することを特徴とする粉末状ビニルピロリドン重合体。
【請求項3】
平均粒子径が20μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の粉末状ビニルピロリドン重合体。
【請求項4】
K値が40以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の粉末状ビニルピロリドン重合体。

【公開番号】特開2006−2047(P2006−2047A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180330(P2004−180330)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】