説明

粉末状卵含有組成物及びその製造方法、ならびに製菓

【課題】利便性に優れた噴霧乾燥加工卵及びその製造方法、ならびに製菓を提供する。
【解決手段】粉末状卵含有組成物は、(A)成分:卵と、(B)成分:乳と、(C)成分:スクロースと、(D)成分:スクロース以外の糖類と、を含み、前記(C)成分の含有量が15〜50質量%であり、前記(D)成分の含有量が前記(C)成分1質量部に対して0.1〜5質量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状卵含有組成物及びその製造方法、ならびに製菓に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーキ、クレープ、クッキー、ミルクセーキ等の卵とスクロースとを主原料とするデザートは通常、卵及びスクロースに牛乳や小麦粉等を加え、焼成を施す等して調理される(特許文献1)。近年、デザートブーム等の影響により、甘味のあるデザートが男女問わず幅広い消費者に好まれ、その需要は年々増加する傾向にある。このため、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等の以前からチルドデザートを提供している産業のみならず、レストラン、居酒屋やファーストフード店、さらに、以前はデザートの提供を行っていなかった、回転寿司店やラーメン店といった幅広い外食産業においても、デザートは欠かすことのできないメニューとなっている。
【0003】
一方、外食産業では、厨房での調理時間を短縮することで、お客様に食事を速やかに提供し、客席回転率を向上することが求められている。また、デザートは通常、卵、牛乳、生クリーム等の生鮮食品を使用するため、原料及び原料混合物の保管時に温度管理を行う必要があり、手間及びコストがかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−346721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、利便性に優れた粉末状卵含有組成物及びその製造方法、ならびに製菓を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、例えば、主原料となる卵及びスクロースを予め混ぜ合わせ粉末化しておけば、調理工程を簡易化し、調理時間を短縮することができると考えた。
【0007】
しかし、工業的に大量生産を行うために、卵及びスクロースを含む混合液を噴霧乾燥すると、噴霧乾燥により得られた粉末が乾燥機内壁に付着し、乾燥後の噴霧乾燥加工卵の回収作業に膨大な手間がかかることが分かった。
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、卵、乳、スクロース、スクロース以外の糖類、及び水を含み、卵、乳、スクロース、及びスクロース以外の糖類の乾燥換算での合計量に対するスクロースの含有量が15〜50質量%であり、かつ、スクロース以外の糖類の含有量がスクロース1質量部に対して0.1〜5質量部である水分散液を調製し、噴霧乾燥することにより、得られた粉末状卵含有組成物が意外にも噴霧乾燥中に乾燥機内壁へ付着しにくいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
1.本発明の一態様に係る粉末状卵含有組成物は、
(A)成分:卵と、
(B)成分:乳と、
(C)成分:スクロースと、
(D)成分:スクロース以外の糖類と、
を含み、
前記(C)成分の含有量が15〜50質量%であり、
前記(D)成分の含有量が前記(C)成分1質量部に対して0.1〜5質量部である。
本発明において、(A)成分である卵は水を実質的に含まないものであり、より具体的には、水分含量が8%以下であるものをいう。本発明において、(A)成分である卵の含有量は、固形分換算として算出される値である。
また、本発明において、(B)成分である乳は水を実質的に含まないものであり、より具体的には、水分含量が8%以下であるものをいう。本発明において、(B)成分である乳の含有量は、固形分換算として算出される値である。
2.上記粉末状卵含有組成物において、前記(C)成分及び前記(D)成分の合計量が20〜90質量%であることができる。
3.上記粉末状卵含有組成物において、前記(B)成分の含有量が5〜40質量%であることができる。
4.上記粉末状卵含有組成物において、前記(D)成分の含有量が5〜75質量%であることができる。
5.上記粉末状卵含有組成物において、前記(D)成分が、2〜10個の単糖が結合してなる糖類であることができる。
6.上記粉末状卵含有組成物において、前記(D)成分が二糖類であることができる。
7.上記粉末状卵含有組成物において、前記(D)成分が、ラクトース及びトレハロース又はいずれか一方であることができる。
8.上記粉末状卵含有組成物は、噴霧乾燥により得ることができる。
9.本発明の別の一態様に係る製菓は上記粉末状卵含有組成物が配合されている。
10.本発明の別の一態様に係る粉末状卵含有組成物の製造方法は、
(A)成分:卵と、(B)成分:乳と、(C)成分:スクロースと、(D)成分:スクロース以外の糖類と、(E)成分:水とを含む水分散液を調製する工程と、
前記水分散液を噴霧乾燥する工程と、
を含み、
前記水分散液において、前記(A)成分、前記(B)成分、前記(C)成分、及び前記(D)成分の合計量に対する前記(C)成分の含有量が15〜50質量%であり、かつ、前記(D)成分の含有量が前記(C)成分1質量部に対して0.1〜5質量部である。
11.上記粉末状卵含有組成物の製造方法において、前記(D)成分が、2〜10個の単糖が結合してなる糖類であることができる。
12.上記粉末状卵含有組成物の製造方法において、前記(D)成分が二糖類であることができる。
13.上記粉末状卵含有組成物の製造方法において、前記(D)成分が、ラクトース及びトレハロース又はいずれか一方であることができる。
【発明の効果】
【0010】
上記粉末状卵含有組成物の製造方法によれば、卵、乳、スクロース、スクロース以外の糖類、及び水を含み、卵、乳、スクロース、及びスクロース以外の糖類の合計量に対するスクロースの含有量が15〜50質量%であり、かつ、スクロース以外の糖類の含有量がスクロース1質量部に対して0.1〜5質量部である水分散液を調製し、噴霧乾燥することにより、得られる粉末状卵含有組成物が噴霧乾燥中に乾燥機内壁へ付着するのを防止することができる。これにより、粉末状卵含有組成物を収率良く得ることができるため、この粉末状卵含有組成物を用いてデザート(製菓)等の食品を効率よく製造できるようになり、食品市場の更なる拡大が期待できる。
【0011】
また、上記粉末状卵含有組成物によれば、卵、乳、スクロース、及びスクロース以外の糖類を含み、スクロースの含有量が15〜50質量%であり、スクロース以外の糖類の含有量が、スクロース1質量部に対して0.1〜5質量部であることにより、べたつきが少ない粉末状であるため、必要量だけを容易に取り出すことができるうえ、常温での長期保存が可能である。また、上記粉末状卵含有組成物を他の材料と混ぜ合わせて食品(例えば製菓)を作ることができるため、調理工程を簡易化し、調理時間を短縮することができる。このように、上記粉末状卵含有組成物は利便性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る粉末状卵含有組成物及びその製造方法、ならびに製菓について、以下に詳細に説明する。
【0013】
1.粉末状卵含有組成物の製造方法
本発明の一実施形態に係る粉末状卵含有組成物の製造方法は、(A)成分:卵と、(B)成分:乳と、(C)成分:スクロースと、(D)成分:スクロース以外の糖類と、(E)成分:水とを含み、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分の合計量に対する(C)成分の含有量が15〜50質量%であり、かつ、(D)成分の含有量が(C)成分1質量部に対して0.1〜5質量部である水分散液を調製する工程と、前記水分散液を噴霧乾燥する工程と、を含む。
【0014】
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物の製造方法によれば、卵、乳、スクロース、及びスクロース以外の糖類の合計量に対するスクロースの含有量が15〜50質量%であり、かつ、スクロース以外の糖類の含有量がスクロース1質量部に対して0.1〜5質量部である水分散液を調製し、噴霧乾燥することにより、得られる粉末状卵含有組成物が噴霧乾燥中に乾燥機内壁へ付着するのを防止することができる。これにより、粉末状卵含有組成物を収率良く得ることができるため、この粉末状卵含有組成物を用いてデザート等の食品を効率よく製造できるようになり、食品市場の更なる拡大が期待できる。本実施形態に係る粉末状卵含有組成物の製造方法によって、得られた粉末状卵含有組成物が噴霧乾燥中に乾燥機内壁へ付着するのを防止できる理由は明らかでないが、乳及びスクロース以外の糖類が、スクロースが乾燥機内壁において溶融するのを防止する機能を有すると推測される。
【0015】
ここで、スクロース以外の糖類を含まず、卵、乳、及びスクロースの合計量に対するスクロースの含有量が15〜50質量%である水分散液を噴霧乾燥した場合、得られた粉末状卵含有組成物が噴霧乾燥中に乾燥機内壁へ付着してしまう。これに対して、本実施形態に係る粉末状卵含有組成物の製造方法では、卵、乳、スクロース、及びスクロース以外の糖類の合計量に対するスクロースの含有量が15〜50質量%であり、かつ、スクロース1質量部に対し0.1〜5質量部である水分散液を噴霧乾燥することで、得られた卵含有組成物が噴霧乾燥中に乾燥機内壁に付着するのを防止することができる。
【0016】
また、本実施形態に係る粉末状卵含有組成物の製造方法では、卵、乳、スクロース、及びスクロース以外の糖類の各成分が、最終的に得られる粉末状卵含有組成物において、後述する2.1.〜2.4の欄に記載された範囲になるように水分散液を調製するのが好ましい。
【0017】
1.1.(A)成分:卵
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物の製造方法において、水分散液(原料)に用いる卵は、特に限定されないが、例えば、鶏卵を割卵して得られる生全卵、生卵黄及び生卵白ならびにこれらの粉末をはじめ、当該生卵にストレーナー等によるろ過処理、加熱等による殺菌処理、冷凍処理、乾燥処理、ホスフォリパーゼ又はプロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、イオン交換樹脂等による脱塩処理、食塩又は糖類等の混合処理等の1種又は2種以上の処理を施したもののうち、1種又は2種以上を混合したものを挙げることができる。
【0018】
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物の製造方法において、水分散液における卵の含有量は0.5〜20質量%であることが好ましい。
【0019】
1.2.(B)成分:乳
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物の製造方法において、水分散液(原料)に用いる乳は、特に限定されないが、例えば、牛乳、生クリーム、バター、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、全粉乳、加糖粉乳、脱脂粉乳等を挙げることができる。
【0020】
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物の製造方法において、水分散液における乳の含有量は0.5〜20質量%であることが好ましい。
【0021】
1.3.(C)成分:スクロース
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物の製造方法において、水分散液(原料)に用いるスクロースは、特に限定されないが、例えば、上白糖、グラニュー糖、粉糖等を挙げることができる。
【0022】
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物の製造方法において、卵、乳、スクロース、及びスクロース以外の糖類の合計量に対するスクロースの含有量は15〜50質量%であることが好ましい。ここで、スクロースの含有量が上記割合であることにより、デザートの製造に適したスクロース含量を有する粉末状卵含有組成物を得ることができる。
【0023】
また、本実施形態に係る粉末状卵含有組成物の製造方法において、水分散液におけるスクロースの含有量は1.5〜25質量%であることが好ましい。
【0024】
1.4.(D)成分:スクロース以外の糖類
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物の製造方法において、水分散液(原料)として用いるスクロース以外の糖類とは、例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース等の単糖類、ラクトース、マルトース、トレハロース等の二糖類、マルトトリオース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖等のオリゴ糖、アミロース,アミロペクチン等のデンプン、デキストリン、グルカン等の多糖類、ぶどう糖果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖、及び糖アルコールが挙げられる。なかでも、スクロースが乾燥機内壁へ付着するのをより確実に防止できる点で、スクロース以外の糖類としては、ラクトース、マルトース、トレハロース、マルトトリオース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖等の2〜10糖(2〜10個の単糖が結合してなる糖類)が好ましく、ラクトース、マルトース、トレハロース等の二糖類がより好ましく、ラクトース及びトレハロース又はいずれか一方であることが特に好ましい。
【0025】
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物の製造方法において、スクロース1質量部に対して0.1〜5質量部(好ましくは0.3〜4質量部、より好ましくは1〜3質量部)のスクロース以外の糖類が水分散液に含まれていることにより、水分散液を噴霧乾燥する際に、スクロースが乾燥機内壁に付着するのを防止することができる。この場合、スクロース以外の糖類の含有量がスクロース1質量部に対して0.1未満であると、スクロースが乾燥機内壁に付着するのを十分に防止できない場合があり、一方、5質量部を超えると、配合量の増加に応じた効果の増大が得られず、経済的でない場合がある。また、本実施形態に係る粉末状卵含有組成物の製造方法において、水分散液におけるスクロース以外の糖類の含有量は0.5〜37.5質量%であることが好ましい。
【0026】
ラクトースとは、D−ガラクトースとD−グルコースがβ−1,4ガラクシド結合した二糖類である。本実施形態に係る粉末状卵含有組成物の製造方法において、水分散液(原料)に用いるラクトースは、市販されているものであれば特に限定されない。
【0027】
トレハロースとは、2個のグルコースが1,1−グリコシド結合により結合している二糖類である。本実施形態に係る粉末状卵含有組成物の製造方法において、水分散液(原料)に用いるトレハロースは、市販されているものであれば特に限定されない。
【0028】
1.5.(E)成分:水
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物の製造方法において、水分散液(原料)に含まれる水の含有量は40〜90質量%であるのが好ましく、40〜70質量%であるのがより好ましい。水は、他の成分(例えば卵)に含まれるものであってもよく、あるいは、他の成分に水を添加したものであってもよい。なお、本発明において、水分散液における水分含量は、赤外線水分計によって測定することができる。
【0029】
1.6.製法
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物の製造方法において、水分散液を噴霧乾燥する前に加熱処理を施すのが好ましい。ここで、水分散液を噴霧乾燥する前に加熱処理を施すことにより、固形分を可能な限り溶解し、水分散液を均質化することにより、最終的に得られる粉末状卵含有組成物のべたつきをより確実に防止することができる。また、加熱処理の温度は65〜75℃が好ましく、71〜75℃がより好ましい。加熱温度が65℃より低いと、殺菌が不充分になる場合があり、一方、75℃を超えると、卵蛋白が凝集して水分散液を均質化できず、べたつき防止効果が得られ難い場合がある。
【0030】
次に、水分散液を常法(例えば、特開2008−35811号公報参照)により、噴霧乾燥する。噴霧乾燥に用いるスプレードライヤーとしては、加圧ノズル方式、遠心アトマイザー方式、2流体ノズル方式のスプレードライヤーが挙げられるが、これらの中でも、べたつきの少ない卵含有組成物が得られる点で、加圧ノズル方式又は遠心アトマイザー方式のスプレードライヤーを用いるのが好ましい。噴霧乾燥は、得られる卵含有組成物の水分含量が2〜10質量%となるまで乾燥処理を行うのが好ましい。なお、本発明において、粉末状卵含有組成物の水分含量は、赤外線水分計によって測定することができる。
【0031】
2.粉末状卵含有組成物
本発明の一実施形態に係る粉末状卵含有組成物は、(A)成分:卵と、(B)成分:乳と、(C)成分:スクロースと、(D)成分:スクロース以外の糖類と、を含む。本実施形態に係る粉末状卵含有組成物は、スクロースの含有量が15〜50質量%であり、スクロース以外の糖類の含有量が、スクロース1質量部に対して0.1〜5質量部であることにより、べたつきが少ない粉末状であるため、必要量だけを容易に取り出すことができるうえ、常温での長期保存が可能である。また、本実施形態に係る粉末状卵含有組成物を他の材料と混ぜ合わせて料理を作ることができるため、調理工程を簡易化し、調理時間を短縮することができる。このように、本実施形態に係る粉末状卵含有組成物は利便性に優れている。
【0032】
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物は噴霧乾燥により得ることができる。より具体的には、本実施形態に係る粉末状卵含有組成物は、上記実施形態に係る粉末状卵含有組成物の製造方法によって簡便に得ることができる。
【0033】
2.1.(A)成分:卵
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物に含まれる卵としては、1.1.欄に記載されたものを用いることができる。本実施形態に係る粉末状卵含有組成物において、卵の含有量は5質量%以上であることが好ましく、5〜40質量%であることがより好ましく、10〜30質量%であることがさらに好ましい。ここで、卵の含有量が5質量%未満であると、風味が劣る場合がある。ここで、卵の含有量は固形分として換算された値である。
【0034】
2.2.(B)成分:乳
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物に含まれる乳としては、1.2.欄に記載されたものを用いることができる。本実施形態に係る粉末状卵含有組成物において、乳の含有量は5質量%以上であることが好ましく、5〜40質量%であることがより好ましく、10〜30質量%であることがさらに好ましい。ここで、乳の含有量が5質量%未満であると、べたつきが生じる場合がある。ここで、乳の含有量は固形分として換算された値である。
【0035】
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物では、風味に優れている点で、乳の含有量/卵の含有量は0.1〜8であることが好ましく、0.3〜3であることがより好ましい。また、本実施形態に係る粉末状卵含有組成物において、べたつきが少なくかつ風味に優れている点で、卵及び乳の合計量は10〜80質量%であることが好ましく、20〜60質量%であることがより好ましい。
【0036】
2.3.(C)成分:スクロース
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物に含まれるスクロースとしては、1.3.欄に記載されたものを用いることができる。本実施形態に係る粉末状卵含有組成物において、スクロースの含有量は15〜50質量%であり、20〜50質量%が好ましい。本実施形態に係る粉末状卵含有組成物におけるスクロース含有量が15%より少ない場合、スクロース特有の甘味が不足し、デザート用に適さない場合があり、一方、50質量%より多い場合、得られた粉末状卵含有組成物が噴霧乾燥中に乾燥機内壁へ付着しやすくなる。
【0037】
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物では、風味に優れている点で、スクロースの含有量/卵の含有量は0.4〜10であることが好ましい。また、べたつきを防止できる点で、乳の含有量/スクロースの含有量は0.1〜3であることが好ましく、0.2〜2であることがより好ましい。
【0038】
2.4.(D)成分:スクロース以外の糖類
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物に含まれるスクロース以外の糖類としては、1.4.欄に記載されたものを用いることができる。特に、べたつきがより少なく、利便性により優れている点で、スクロース以外の糖類がラクトース及びトレハロース又はいずれか一方であることが好ましい。この場合、本実施形態に係る粉末状卵含有組成物において、スクロース1質量部に対しラクトース及び/又はトレハロースの総量は0.1〜5質量部であり、0.3〜4質量部が好ましく、1〜3質量部がより好ましい。ここで、スクロース1質量部に対しラクトース及び/又はトレハロースの総量が0.1質量部より少ないと、本実施形態に係る粉末状卵含有組成物がべたつく場合があり、一方、5質量部より多いと、スクロース特有の甘味がマスキングされ、デザート用に適さない場合がある。
【0039】
また、本実施形態に係る粉末状卵含有組成物におけるスクロース以外の糖類の含有量は5〜75質量%が好ましく、15〜75質量%がより好ましく、30〜75質量%がさらに好ましい。ここで、スクロース以外の糖類が5質量%より少ないと、噴霧乾燥中に乾燥機内壁へ付着しやすくなる場合があり、一方、75質量%より多いと、卵特有の風味がマスキングされ、本実施形態に係る粉末状卵含有組成物がデザート用に適さない場合がある。
【0040】
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物がラクトースを含む場合、本実施形態に係る粉末状卵含有組成物におけるラクトースの含有量は17〜50質量%が好ましく、20〜30質量%がより好ましい。ここで、ラクトース含有量が17質量%より少ないと、噴霧乾燥中に乾燥機内壁へ付着しやすくなる場合があり、一方、50質量%より多いと、卵特有の風味がマスキングされ、本実施形態に係る粉末状卵含有組成物がデザート用に適さない場合がある。
【0041】
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物がトレハロースを含む場合、本実施形態に係る粉末状卵含有組成物におけるトレハロース含有量は5〜25質量%が好ましく、5〜8質量%がより好ましい。ここで、トレハロース含有量が5質量%より少ないと、本実施形態に係る粉末状卵含有組成物がべたつく場合があり、一方、25質量%より多いと、スクロース特有の甘味がマスキングされ、本実施形態に係る粉末状卵含有組成物がデザート用に適さない場合がある。
【0042】
また、本実施形態に係る粉末状卵含有組成物において、べたつきが少なくかつ風味に優れている点で、スクロース及びスクロース以外の糖類の合計量は20〜90質量%であることが好ましく、40〜90質量%であることがより好ましい。スクロース及びスクロース以外の糖類の合計量が20質量%未満であると、スクロース特有の風味(甘味)を十分に付与できないことがあり、一方、90質量%を超えると、べたつきが生じる場合がある。
【0043】
2.5.他の成分
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物は、卵、乳、スクロース、及びスクロース以外の糖類以外に、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択し配合することができる。具体的には、例えば、豆乳等の蛋白質類、卵黄油、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、米油、オリーブ油、紅花油、大豆油、パーム油、魚油等の油脂類、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン、オクテニルコハク酸化澱粉等の乳化材、ペクチン、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、グアーガム、アラビアガム、サイリュームシードガム、アップルファイバー等の食物繊維、食塩、醤油、味噌、動植物由来のエキス類、アミノ酸、グルタミン酸ナトリウム等の調味料、各種ペプチド、リンゴ、イチゴ、メロン、オレンジ、レモン、レーズン、モモ、クリ等の果実又は果汁、チョコレート、ココア、コーヒー、抹茶、リキュール類、ナッツ類、クエン酸、酢酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸又はその塩、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD、ナイアシン等のビタミン類、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止材、色素、香料等を挙げることができる。
【0044】
2.6.用途
本実施形態に係る粉末状卵含有組成物は例えば、牛乳等に溶解し飲料やソースとして用いたり、必要に応じて他の成分と混合したうえで焼成等の加熱処理を施し食品(例えばケーキやクリーム)を製するために用いたり、あるいは、粉末のままシーズニングとして用いることができる。例えば、本実施形態に係る粉末状卵含有組成物を用いて、ミルクセーキ、アングレーズソース、ケーキ、クレープ、クッキー、ババロア、プリン、フレンチトースト、ブリュレ、カスタードクリーム、ラスク、フィナンシェ、マカロン、シーズニング等の製菓(デザート)を製することができる。特に、フレンチトーストを調製する際に本実施形態に係る粉末状卵含有組成物を用いると、調理適性に優れ、好適である。
【0045】
3.実施例
以下に、本発明を実施例及び試験例に基づき詳述する。なお、本発明はこれらに限定されない。また、本実施例において、特にことわりのない場合、「部」は質量部を意味し、「%」は質量%を意味する。
【0046】
3.1.実施例
撹拌タンク(20L)に液全卵を25%(固形分換算6.3%)、脱脂粉乳を10%、清水を40%、スクロースを10%、ラクトースを10%、及びデキストリンを5%投入した後、攪拌しながら溶解させて、水分散液10kg(水分含量59%)を調製した。次に、この水分散液を70℃で5分間加熱を行ったのち、得られた水分散液をスプレードライヤー(加圧ノズル式アドマイザー)で噴霧乾燥し、実施例1の粉末状卵含有組成物(水分含量5%)4kgを得た。得られた粉末状卵含有組成物は、卵の含有量(固形分換算)が15%であり、乳の含有量(固形分換算)が23%であり、スクロースの含有量が23%であり、ラクトースが23%であり、スクロース及びスクロース以外の糖類の合計量が58%であった。
【0047】
3.2.実施例2
ラクトースをトレハロースに置換えた以外は、実施例1に準じて実施例2の粉末状卵含有組成物を得た。
【0048】
3.3.実施例3
ラクトース13%をラクトース6.5%及びトレハロース6.5%に変更した以外は、実施例1に準じて実施例3の粉末状卵含有組成物を得た。
【0049】
3.4.実施例4
ラクトースをフラクトオリゴ糖に置換えた以外は、実施例1に準じて実施例4の粉末状卵含有組成物を得た。
【0050】
3.5.比較例1
ラクトースをスクロースに置換えた以外は、実施例1に準じて比較例1の粉末状卵含有組成物を得た。
【0051】
3.6.比較例2
脱脂粉乳を液全卵(固形分換算)に置換えたうえで、置き換えられた液全卵による水分の増加分を清水から差し引くことで、水分散液における水分含量を実施例1と同じになるようにした以外は、実施例1に準じて比較例2の粉末状卵含有組成物(水分含量5%)を得た。
【0052】
3.7.比較例3
液全卵を脱脂粉乳に置換えたうえで、液全卵を使用しなかったことによる水分減少分の清水をさらに配合することで、水分散液における水分含量を実施例1と同じになるようにした以外は、実施例1に準じて比較例3の粉末状卵含有組成物(水分含量5%)を得た。
【0053】
3.8.試験例1
このようにして得られた実施例1〜3及び比較例1〜3の粉末状卵含有組成物について、噴霧乾燥を行う際の乾燥機内壁への粉末状卵含有組成物の付着、及び工業的に連続した噴霧乾燥を行うことが可能かどうかについて評価を行った。結果を表1に示す。また、表1における評価基準は以下のとおりである。
【0054】
【表1】

【0055】
<評価基準>
A:乾燥機内壁への粉末状卵含有組成物の付着が確認されず、連続した噴霧乾燥を行うことが可能であった。
B:乾燥機内壁への粉末状卵含有組成物の付着が少し確認されたが、連続した噴霧乾燥を行うことが可能であった。
C:乾燥機内壁への粉末状卵含有組成物の付着が確認され、連続した噴霧乾燥を行うことが不可能であった。
ここで、「乾燥機内壁への粉末状卵含有組成物の付着が確認される」とは、より具体的には、乾燥器内壁にべたついていて、ゴムベラを用いて乾燥機内壁から粉末状卵含有組成物を払い落そうとしても、粉末状卵含有組成物が乾燥機内壁に付着していてゴムベラで払い出せないことをいう。
【0056】
表1に示されるように、卵、乳、スクロース、及びスクロース以外の糖類の乾燥換算での合計量に対するスクロースの含有量が15〜50質量%であり、かつ、スクロース以外の糖類の含有量がスクロース1質量部に対して0.1〜5質量部である水分散液を調製し、噴霧乾燥した場合、乾燥機内壁への粉末状卵含有組成物の付着が確認されなかったか又は少し確認されたものの、連続した噴霧乾燥を行うことが可能であった(実施例1〜4)。特に、ラクトースやトレハロースの二糖類が好ましかった(実施例1〜3)。一方、スクロース以外の糖類、乳、又は卵のいずれかを用いなかった場合は、乾燥機内壁への粉末状卵含有組成物の付着が確認され、連続した噴霧乾燥を行うことが不可能であり、製造適性が不十分であることが明らかになった(比較例1〜3)。
【0057】
3.9.試験例2
スクロース1部に対するスクロース以外の糖類(ラクトース及び/又はトレハロース)の配合量が、本発明に及ぼす影響を調べるため、スクロース以外の糖類(ラクトース及び/又はトレハロース)の配合量を変更した以外は実施例1に準じて試験例2の粉末状卵含有組成物(No.1〜6)を製した。得られた粉末状卵含有組成物を上記試験例1の評価基準に沿って評価を行った。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2に示されるように、スクロース1部に対するスクロース以外の糖類(ラクトース及び/又はトレハロース)の配合量が0.1〜5部の場合、機械内壁への粉末状卵含有組成物の付着が確認されなかったか又は少し確認されたものの、連続した噴霧乾燥を行うことが可能であった(No.2〜6)。特に、スクロース1部に対するスクロース以外の糖類(ラクトース及び/又はトレハロース)の配合量が0.3〜4部の場合、機械内壁への粉末状卵含有組成物の付着が確認されなかったため、より好ましかった(No.3〜5)。一方、スクロース1部に対するスクロース以外の糖類(ラクトース及び/又はトレハロース)の配合量が0.1部未満の場合、乾燥機内壁への粉末状卵含有組成物の付着が確認され、連続した噴霧乾燥を行うことが不可能であり、製造適性が不十分であることが明らかになった(No.1)。
【0060】
3.10.調製例1
実施例1の粉末状卵含有組成物を用いて、下記表3の配合表にしたがって、常法に従ってスポンジケーキを製した。具体的には、表3に示す配合の混合物をミキサー等で比重0.5g/mLまで泡立てた後、ケーキ型に流し入れ、170℃、30分間焼成し、調製例1のデザート(抹茶のスポンジケーキ)を製した。本調製例によれば、生卵を用いてスポンジケーキを製する一般的なスポンジケーキの調理方法と比較して、割卵する工程を省略することができるため、調理工程が簡易化され、調理時間を短縮することができた。また、得られた抹茶のスポンジケーキは、砂糖をふるって製したスポンジケーキのようにざらつきがなく、食感が滑らかだった。
【0061】
【表3】

【0062】
3.11.比較例3
スクロース以外の原料を投入後、攪拌しながら溶解させ水分散液を調製し、噴霧乾燥後にスクロースを混合した以外は、実施例1に準じて比較例3の粉末状卵含有組成物を得た。
【0063】
3.12.調製例2
実施例1の粉末状卵含有組成物を比較例3の粉末状卵含有組成物に置換えた以外は、調製例1に準じて調製例2のデザート(抹茶のスポンジケーキ)を製した。調理工程は、簡易化され調理時間を短縮することができた。しかし、得られた抹茶のスポンジケーキは、砂糖をふるわずに製したスポンジケーキのようにざらついた食感を有し、品位を損ねていた。
【0064】
3.13.調製例3
まず、6cm四方、厚さ2cmにカットした食パンを用意した。次に、実施例1の粉末状卵含有組成物200g及び清水300gの混合液に、カットした食パンを浸し入れ、熱したフライパンで両面3〜4分ずつ焼成して調製例3のフレンチトーストを製した。本調製例によれば、生卵を用いてスポンジケーキを製する一般的なフレンチトーストの調理方法と比較して、割卵する工程を省略することができるため、調理工程が簡易化され、調理時間を短縮することができた。また、得られたフレンチトーストは、砂糖のざらつきがなく食感が滑らかだった。
【0065】
以上、本発明を、実施例を用いて説明してきたが、これまでの各実施例で説明した構成はあくまで一例であり、本発明は、技術思想を逸脱しない範囲内で適宜変更が可能である。また、それぞれの実施例で説明した構成は、互いに矛盾しない限り、組み合わせて用いてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:卵と、
(B)成分:乳と、
(C)成分:スクロースと、
(D)成分:スクロース以外の糖類と、
を含み、
前記(C)成分の含有量が15〜50質量%であり、
前記(D)成分の含有量が前記(C)成分1質量部に対して0.1〜5質量部である、粉末状卵含有組成物。
【請求項2】
前記(C)成分及び前記(D)成分の合計量が20〜90質量%である、請求項1に記載の粉末状卵含有組成物。
【請求項3】
前記(B)成分の含有量が5〜40質量%である、請求項1又は2に記載の粉末状卵含有組成物。
【請求項4】
前記(D)成分の含有量が5〜75質量%である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の粉末状卵含有組成物。
【請求項5】
前記(D)成分が、2〜10個の単糖が結合してなる糖類である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の粉末状卵含有組成物。
【請求項6】
前記(D)成分が二糖類である、請求項5記載の粉末状卵含有組成物。
【請求項7】
前記(D)成分が、ラクトース及びトレハロース又はいずれか一方である、請求項6に記載の粉末状卵含有組成物。
【請求項8】
噴霧乾燥により得られる、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の粉末状卵含有組成物。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の粉末状卵含有組成物を配合した製菓。
【請求項10】
(A)成分:卵と、(B)成分:乳と、(C)成分:スクロースと、(D)成分:スクロース以外の糖類と、(E)成分:水とを含む水分散液を調製する工程と、
前記水分散液を噴霧乾燥する工程と、
を含み、
前記水分散液において、前記(A)成分、前記(B)成分、前記(C)成分、及び前記(D)成分の合計量に対する前記(C)成分の含有量が15〜50質量%であり、かつ、前記(D)成分の含有量が前記(C)成分1質量部に対して0.1〜5質量部である、
粉末状卵含有組成物の製造方法。
【請求項11】
前記(D)成分が、2〜10個の単糖が結合してなる糖類である、請求項10に記載の粉末状卵含有組成物。
【請求項12】
前記(D)成分が二糖類である、請求項11に記載の粉末状卵含有組成物。
【請求項13】
前記(D)成分が、ラクトース及びトレハロース又はいずれか一方である、請求項12に記載の粉末状卵含有組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−100543(P2012−100543A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248969(P2010−248969)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】