説明

粉末状水溶性高分子化合物の溶解方法

【課題】予め水又は水溶液撹拌槽中に粉末状水溶性高分子化合物を添加した時に、継子の発生を抑制し、短時間で粉末状高分子化合物を溶解することが出来、更に溶解後の攪拌下での重合体水溶液の粘度低下を抑制する溶解方法を提供する。
【解決手段】粉末状の水溶性高分子化合物を攪拌された水又は水溶液の中へ添加して溶解する方法において、撹拌槽2中で、垂直に設置した回転軸3の周りに複数の回転翼を配置して液体を撹拌する撹拌装置であって、回転軸3の上部に、回転軸3の回転方向に対し傾斜した板状の傾斜翼5,6を配置し、回転軸3の下部に、回転軸3に平行な板状のパドル4を配置し、傾斜翼5,6の外周端は、回転軸3上方から見たときに、回転軸3を中心とする円周上にあり、傾斜翼5,6の上半部の外周端には、垂直板7,8を備えている撹拌装置を用い、粉末状の水溶性高分子化合物を攪拌された水又は水溶性高分子化合物が溶解した水溶液の水面に直接添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状の水溶性高分子化合物の溶解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子凝集剤を初めとする粉末状水溶性高分子化合物を水又は水溶液に溶解させる場合、一般的には、予め水又は水溶液が攪拌された水面に水又は水溶液を注入しながら、その水又は水溶液に粉末状水溶性高分子を少量づつ混合させて添加する方法が用いられている。
【0003】
ところが、水又は水溶液の水面に粉末状高分子化合物を直接添加すると継粉(ままこ)が発生する問題がある。ここで継子とは、粉末状水溶性高分子化合物を液体中へ一度に添加した場合、粉末状水溶性高分子化合物が液体に接触した部分は直ちに液体を含み、膨潤を開始して粘着性を帯びる。粘着性となることで粉末同士が付着しやすくなり、液体に触れていない粉末状水溶性高分子化合物は包み込まれて塊状となってしまう。この塊を継子といい、未溶解物として残存してしまう。また、継子を発生させないように水面に水又は水溶液を注入しながら、その水又は水溶液に粉末状水溶性高分子を少量づつ混合させて添加する方法では、少量づつのため粉末状水溶性高分子の添加に時間がかかり溶解時間が長くなってしまう問題もある。
【0004】
また、ポンプ送液能力が限界に近く、水溶性高分子化合物の添加量をさらに増加せねばならないとき、水溶性高分子化合物の濃度を上げて対応することがある。あるいは、粉末状水溶性化合物を添加する前の水溶液に含まれる溶解物の濃度を下げないよう希釈せず粉末状水溶性化合物を添加しなければならないことがある。その場合、水溶液に、粉末状水溶性高分子化合物を水面に直接添加すると、粉が水溶液水中に巻き込まれず、殆どが液面を漂ってしまい、粉同士が付着、大きな塊となって継子が発生してしまう。この問題を解決するためには通常の溶解より攪拌回転数を速くする、または溶解時間を長くすることで、発生した継子を少しずつ膨潤、溶解させて高濃度化を達成させねばならない。
【0005】
継子の発生に伴う悪影響として、例えば製紙用内添剤及び汚泥用脱水剤として使用する場合、継子の発生により所定の粘度が得られず、目的の濾水性及び脱水性を発揮できず、粘度低下を補うため更に使用量を増加して目的の性能を達成させることになったり、発生した多数の継子を低減させるためには、継子の塊をすりつぶす作業を行うか、もしくは長時間攪拌を行ったりせねばならないため、経済的でない。
【0006】
水又は水溶液を一般的に用いられる撹拌装置、例えば、図3に示すように、撹拌槽21中で、垂直に設置した回転軸22の周りに回転翼23を配置した撹拌装置20において、回転翼23が、図示するような平羽根であったり、またはタービン翼やプロペラの場合、水平方向の水流が強くなり、水流の上下方向の流れが小さいため、粉末状水溶性高分子化合物を添加した時、粉末が流体内に巻き込まれにくく、液面上に粉末が漂ってしまい、追加された粉末同士が付着して塊となり、塊が成長して継子となってしまう原因となる。継子の発生を少なくするのに、高速攪拌することと、粉末状水溶性高分子化合物を少量づつ長時間かけて添加することで対応しているが、この場合水溶性高分子化合物に高いせん断力がかかり、得られた水溶液の粘度低下を招いてしまうという問題もあり、その解決も求められている。
【0007】
しかしながら、水や溶液に粉末状水溶性高分子化合物を継子を発生させることなく溶解するための方法や装置については、未だ、十分に検討された提案はなされていないようであるが、最近は、高粘度の流体の撹拌に適した撹拌装置として、傾斜翼と板状パドル翼を組み合わせたものが数多く提案されている。
【0008】
例えば、低粘度の流体から、高粘度の流体まで幅広い粘度域の流体を撹拌、混合できる撹拌装置として、回転軸の下部には板状パドルが設置されており、上部の傾斜翼は、回転軸から上方に向かって傾斜して設置された上部傾斜翼と、回転軸から下方に向かって傾斜して設置された下部傾斜翼とを備え、上部傾斜翼の下部と下部傾斜翼の上部とは、軸方向に互いに重複して配置されている撹拌羽根を備えた撹拌装置が提案されている(特許文献1)。また、この撹拌装置を更に改良した撹拌装置も提案されている(特許文献2)。
【0009】
また、流体中に添加した溶剤の塊や粉体の塊を砕いて流体中に分散させるため、剪断力を高めた撹拌装置として、回転軸の下部に平板パドルを配置し、上部に流体を上昇させる方向に傾斜させた壁寄り傾斜パドルと、流体を下降させる方向に傾斜させた軸寄り傾斜パドルとを組み合わせた傾斜翼の組を2組設けた撹拌羽根を備え、撹拌槽には邪魔板が設置されている撹拌装置が提案されている(特許文献3)。
【0010】
更に、粘性流体中に他の流体や粉体を混合したり、流体原料の発熱重合反応などにおいて反応物を温度制御したりする場合に好適な撹拌装置として、撹拌槽中で、垂直に設置した回転軸の周りに複数の回転翼を配置して高粘度流体を撹拌する撹拌装置であって、前記回転軸の上部に、回転軸の回転方向に対し傾斜した板状の傾斜翼を配置し、前記回転軸の下部に、回転軸に平行な板状のパドルを配置し、前記傾斜翼の外周端は、前記回転軸上方から見たときに、回転軸を中心とする円周上にあり、前記傾斜翼の上半部の外周端には、垂直板を備えている撹拌装置が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−75699号公報
【特許文献2】特開2000−210549号公報
【特許文献3】特開2002−273188号公報
【特許文献4】特開2010−58027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、予め水又は水溶液撹拌槽中に粉末状水溶性高分子化合物を添加した時に、継子の発生を抑制し、短時間で粉末状高分子化合物を溶解することが出来、更に溶解後の攪拌下での重合体水溶液の粘度低下を抑制する溶解方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、粉末状の水溶性高分子化合物を液体中に分散又は溶解する方法を鋭意検討した結果、数多く提案された撹拌装置のうち、特に特許文献4にて提案された撹拌装置と基本的には同一の構成を備えた撹拌装置を使用し、流体を撹拌槽中心部に集めて下降させ、次に、撹拌槽の周縁部に拡げるようにして上昇させることを繰り返す撹拌作用による溶解方法を採用するならば、上記の目的を達成し得るとの知見を得、本発明の完成に至った。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は、粉末状の水溶性高分子化合物を攪拌された水又は水溶液の中へ添加して溶解する方法において、撹拌槽中で、垂直に設置した回転軸の周りに複数の回転翼を配置して前記液体を撹拌する撹拌装置であって、前記回転軸の上部に、回転軸の回転方向に対し傾斜した板状の傾斜翼を配置し、前記回転軸の下部に、回転軸に平行な板状のパドルを配置し、前記傾斜翼の外周端は、前記回転軸上方から見たときに、回転軸を中心とする円周上にあり、前記傾斜翼の上半部の外周端には、垂直板を備える撹拌装置を用いて、粉末状の水溶性高分子化合物を攪拌された水又は水溶性高分子化合物が溶解した水溶液の水面に直接添加することを特徴とする水溶性高分子化合物の溶解方法に存する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水又は水溶液に粉末状水溶性高分子化合物を溶解させる際に、継子の発生を抑制し、短時間で溶解することが出来る。また、水溶液に粉末状水溶性高分子化合物を溶解させる際に、追加の水を必要とせず、添加前の水溶液に含まれる成分の濃度を保つことが出来る。更に溶解後の攪拌下での重合体水溶液の粘度低下を抑制し、溶解することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本発明で用いる撹拌装置の概略図であり、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【図2】図2は本発明で用いる撹拌装置における傾斜翼の概略図であり、(a)は傾斜翼の平面図、(b)は垂直板が下側に垂れた傾斜翼の例、(c)は垂直板が上下両側に付いた傾斜翼の例、(d)は略三角形の垂直板が上下両側に付いた傾斜翼の別の例、(e)は二組の傾斜翼を備えた例を示す。
【図3】図3は後述の比較例で用いた攪拌装置の概略図(正面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
先ず、本発明で溶解装置として用いる撹拌装置の一例について説明するが、以下に説明する撹拌装置は前記特許文献4の実施例に示される装置と実質的に同一である。
【0019】
図1は、典型的な撹拌装置の例を示す概略図である。(a)は正面図、(b)は平面図である。なお、図1における撹拌装置1は、撹拌槽2に中に設置されているところが記載されている。撹拌槽2は円筒形容器である縦型撹拌槽であり、その上部から撹拌装置1が挿入されている。
【0020】
撹拌装置1は、回転軸3の下部には板状のパドルである板状パドル4が固定されている。板状パドル4は、回転軸3に平行な板であり、回転軸の径方向に延出して配置されている。そして、板状パドル4の先端部付近は、符号4aで示すように、回転軸3に平行なまま回転軸3の回転方向に対し30〜45度の後退角で後退するように屈曲又は湾曲していることが好ましい。このようにすることで、撹拌中の流体が板状パドル4の裏側(回転時の板状パドル4の後側)に巻き込まれることを押さえることが出来る。なお、板状パドル4は、複数枚であっても良い。そのときは、板状パドル4は等間隔に配置することが好ましい。
【0021】
撹拌槽2の半径と回転軸3の中心から板状パドル4の外周端までの距離の比は1.1〜1.5とすることが好ましい。板状パドル4の外周端は撹拌槽2の側壁に近いほど大きくなり、下降流を撹拌槽2の周縁部に移送する能力は大きくなるが、撹拌槽2の周縁部では、移送された流体が上昇流となって上昇するための通路が必要である。この通路を確保するために、撹拌槽2の半径と回転軸3の中心から板状パドル4の外周端までの距離の比を1.1〜1.5とすることが好ましい。
【0022】
板状パドル4の上部には、同じ形状の傾斜翼5と傾斜翼6が配置されている。傾斜翼5と傾斜翼6は、それぞれ内側中央部が回転軸3に固定されており、傾斜翼5と傾斜翼6とが回転軸3を中心にして回転軸対象になるように回転軸3の両側に配置されている。なお、傾斜翼は、2枚以上であることが好ましく、回転軸3を中心にして互いに等間隔で回転軸3の周りに配置され、回転軸3を回転したときに回転軸3には均等に遠心力が掛かるようにすることが好ましい。傾斜翼5と傾斜翼6は、接続治具9により回転軸3の同じ高さ位置に固定されている。それぞれの傾斜翼5と傾斜翼6は、回転軸の回転方向に対して傾斜している。言い換えれば、傾斜翼5及び傾斜翼6は、回転軸3との接続点より回転方向の前にある部分が高くなっている(低くなっていてもよいが、この場合は、回転軸を逆に回転させるときを正常回転とする。)。傾斜翼5及び傾斜翼6の傾斜角度は、回転方向(水平面)に対しておよそ45度であり、通常は20〜70度の中で設定することが好ましい。このようにすることで、傾斜翼5及び傾斜翼6が流体を下方へ下降させる効果が最もよく発揮される。
【0023】
撹拌槽が内径に比して高さが高い場合は、上下方向に多段の傾斜翼を取り付けてもよい。多段の傾斜翼を取り付けた場合、最下段の傾斜翼より上の傾斜翼を追加の傾斜翼と呼ぶことにする。追加の傾斜翼にも垂直板が設置され、垂直板の下端は、それぞれの追加の傾斜翼の回転軸との結合部を通る水平面以上の高さとすることが好ましい。垂直板の取り付けられた追加の傾斜翼は、上半面(回転軸との結合部より回転方向前部)のみとし、通常の傾斜翼(最下部に配置する傾斜翼)の上部に追加してもよい。さらに、高さ比の高い撹拌槽の場合は、通常の傾斜翼と全く同じものを追加してもよい。
【0024】
撹拌槽2は、撹拌槽2の内径が、内部に設置した撹拌装置の傾斜翼5,6の外周端の形成する円弧の直径の1.3〜1.8倍である。この撹拌槽2の直径は、理論的には1.4倍(21/2倍)倍とすればよいが、回転軸3、傾斜翼5,6、垂直板7,8の断面積、および撹拌槽内壁付近で滞留しがちな境界層の占める断面積を考慮して1.3〜1.8倍とした。なお、この実施形態では、撹拌槽の内径を1.54倍とした。これにより、下降流の占める領域の断面積と上昇流の占める領域の断面積をほぼ等しくなり、下降流と上昇流の流速を同じにすることが出来る。
【0025】
板状パドル4の回転時に外周端の形成する円に対して、撹拌槽2の内径は1.1〜1.5倍とすることが好ましい。この実施形態では、撹拌槽2の内径は1.4倍である。このようにして、回転軸3の回転の駆動力に対し効果的に上昇流を形成している。
【0026】
傾斜翼5及び傾斜翼6は、図1(b)に示した平面図から分かるように、その外周端は、回転軸3を中心にした円周上にある。すなわち、平面図で見れば、傾斜翼5及び傾斜翼6の外形は、回転軸3が回転しているときは、円形になっている。傾斜翼5及び傾斜翼6を部品として見るときは、図2(a)に示すように、楕円形の平板の長径側を切断するように2等分して、鋭角部の面取りをした形状とすればよい。
【0027】
撹拌装置1においては、傾斜翼5,6は、それぞれ外周端に垂直板7,8を備えている。垂直板7,8は、傾斜翼5,6の上半部側の外周端から垂直に垂れている板である。この垂直板7,8は、傾斜翼5,6の外周端に配置されているので、平面図1(b)においては、傾斜翼5,6の外周端と同じ円の一部となっている。また、正面図1(a)においては、三角形になっている。垂直板7,8は、下端が傾斜翼5,6の中央部を通る水平面と同じ高さ、又はそれより上にあることが好ましい。図2(a)に示す傾斜翼5の平面図で説明すれば、図の右半部分が傾斜翼上部として、傾斜翼の外周端と中心から角度τだけ右側に傾斜した線との交点まで垂直板を配置すればよい。角度τは、0〜60度、好ましくは0〜45度の範囲とすることが望ましい。なお、垂直板7,8の形状は、円筒の一部であるが、傾斜翼5,6から取り外して平坦にすれば、垂直板の形状が図2(b)のように下側のみであれば、ほぼ三角形である。
【0028】
垂直板7,8は、図2(b)〜2(e)に示すように、傾斜翼5,6の外周側の端部から下側、上側、上下両側のいずれに形成されていてもよい。また、図には示していないが、傾斜翼5,6の外周側の端部から上側のみに垂直板を形成してもよい。傾斜翼5,6はその下側では、流体を押しつけて下降流を生じさせ、上側では、流体を引き付けて下降流を生じさせる作用がある。このとき、流体に同時に回転によるラジアル方向への遠心力が働くので、この遠心力による流体のラジアル方向への拡散を押さえることが、垂直板7,8の重要な役目である。さらに、回転する垂直板7,8の外周面が旋回しながら上昇する流体に剪断力を与えるのも垂直板7,8の重要な役目である。また、垂直板7,8の平坦にしたときの形状は、図2(b)〜2(e)に示すように、台形や平行四辺形など、どのような形状でもでもよい。また、角部を面取りして流体の流動抵抗を軽減してもよい。
【0029】
垂直板7,8の下端部は、傾斜翼5,6の中央部と同じ高さ位置より幾分上にしてある。垂直板7,8は、短すぎれば、下降流の傾斜翼5,6の外側へのはみ出しを十分に抑制できず、中央部より下側に長すぎると、傾斜翼5,6の下半面(回転軸と結合された傾斜翼の回転方向後側半分の翼面)上で外周部から回転軸中心方向への流体の吸い込みを阻害する結果、傾斜翼の上半面から下半面への流れを増大させる働きを阻害するので、傾斜翼5,6の中央部と同じ高さ位置までの長さとすることが好ましい。
【0030】
撹拌槽が比較的縦長の場合は、傾斜翼を二組以上備えた撹拌装置とすることも出来る。図2(e)は、二組の傾斜翼を備えた撹拌装置である。図2(e)においては、下側の傾斜翼は、図2(c)に示したもの同じ垂直板を備えた傾斜翼であり、上側の傾斜翼は、図2(d)に示したもの同じ垂直板を備えた傾斜翼である。なお、図2(e)は、二組の傾斜翼5,6と、傾斜翼5',6'が回転軸3から同じ方向に出ているが、傾斜翼5,6と、傾斜翼5',6'を回転方向にずらして配置してもよい。例えば、傾斜翼5,6と、傾斜翼5',6'を回転方向90度、又は30度ずらすことで下降流を効率よく形成することがある。
【0031】
次に、前記の撹拌装置を用いた粉末状の水溶性高分子化合物の溶解方法について説明する。なお、本発明において、「溶解」とは、粉末状の水溶性高分子化合物が液体中に分散して均一系を形成することと定義する。
【0032】
<撹拌装置の運転条件>
攪拌速度は、継子発生防止の観点から、攪拌翼最大径部分(通常はパドルの最大径部分)の周速として、通常3m/s〜0.1m/s、好ましくは1m/s〜0.45m/sである。3m/sを超える場合は、攪拌下での重合体粉末の飛散や、溶解した高分子化合物のせん断による分子量の低下が起こり、0.1m/s未満の場合は、継子の発生が抑制できない。水溶性高分子化合物の分散又は溶解する液体の温度は、通常5〜50℃、好ましくは20〜30℃である。液体の温度を5℃以上にすることで、継子の発生を抑制し、水溶性高分子化合物の溶解時間を短縮することが出来る。また液体の温度を50℃以下にすることで、水溶性高分子化合物が溶解した後の粘度低下を防ぐことが出来る。
【0033】
<水溶性高分子化合物の組成>
本発明に用いる水溶性高分子化合物は、一般的な粉末の水溶性高分子であり、液体中に溶解する高分子化合物であれば、特に制限はないが、継子を発生しやすい水溶性化合物として以下のイオン性(カチオン性、両性、アニオン性)、非イオン性の分子量の高い高分子化合物の溶解に好適である。
【0034】
例えば、カチオン性重合体としては、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの塩化メチル又は、塩化ベンジル4級塩、硫酸3級塩、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの塩化メチル又は塩化ベンジル4級塩、硫酸3級塩などの単独重合体、及びこれらのカチオン性単量体と(メタ)アクリルアミド等の非イオン性単量体との共重合体等が挙げられる。
【0035】
両性共重合体としては、上記のカチオン性単量体と非イオン性単量体及び(メタ)アクリル酸塩との共重合体が例示される。
【0036】
非イオン性重合体としては、(メタ)アクリルアミド、ビニルホルムアミド、ビニルアセトアミド等の単独重合体が挙げられる。
【0037】
アニオン性重合体としては、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸塩の単独重合体、(メタ)アクリル酸、又はその塩と非イオン性単量体との共重合体などが挙げられる。
【0038】
その他、水溶性を損なわない範囲で、酢酸ビニル、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステルなどの疎水性単量体を共重合させても良い。又、カチオン性単量体、アニオン性単量体、非イオン性単量体は適宜、2種類以上を共重合させても良い。
【0039】
本発明に係る粉末状の水溶性高分子化合物の溶解方法は、様々な用途に適用できるが、特に廃水処理の固液分離、汚泥の脱水処理に用いられる高分子凝集剤の溶解や、製紙工程の内添剤などの溶解に有効である。
【0040】
<水溶性高分子化合物の形態>
本発明に用いる水溶性高分子化合物は粉末状である。その70質量%以上の粒子径は通常50μm〜2.0mmである。継子抑制の観点から粒子径の下限は150μmが好ましく、溶解速度の観点から粒子径の上限は1.5mmがより好ましい。
【0041】
<水又は水溶液の種類>
本発明に用いる水としては、例えば、イオン交換水、純水、水道水、工業用水、雨水、海水、湖水、河川水、地下水、井戸水、農業用水、再利用水、再処理水、汚泥、汚水、排水などが例示できる。
【0042】
また、水を溶媒として予め無機系化合物、有機系化合物、及び/又は上記水溶性高分子化合物が溶解した水溶液を用いることが出来る。無機系化合物としては硫酸ナトリウムや硝酸ナトリウム等が挙げられる。水溶液の粘度は、B型粘度計で測定した値として、通常10000mPa・s以下、好ましくは5000mPa・s以下である。10000mPa・sよりも高いと継子発生の防止が困難となる。粉末状水溶性高分子化合物を添加する前の予め必要となる水又は水溶液の量は、特に制限されないが、攪拌羽根が水又は水溶液に浸る程度以上であり、攪拌が行える程度が好ましい。
【0043】
<水溶性高分子化合物の添加方法>
本発明の溶解方法では、水又は水溶液1Lに対して水溶性高分子化合物を10〜1000g/分の速度で水面に直接添加することが出来る。添加速度が10g/分未満では、従来の攪拌翼でも対応可能となり、本発明の攪拌方法の効果を充分発揮することが出来ない。添加速度が1000g/分よりも大きい場合では、継子の発生が起こる。粉末状水溶性高分子化合物の添加方法は、特に制限されず、袋を傾けて粉を落とす方法や自動粉体供給機を用いることが出来る。
【0044】
溶解後の水溶液中の水溶性高分子化合物の下限濃度は、通常0.1g/L、好ましくは1g/Lである。0.1g/L未満では、低濃度のため攪拌槽容積が多大に必要となり、設置場所に限りがある。使用する水溶性高分子化合物の種類や分子量によるが添加濃度が100g/Lよりも大きい場合、水溶性高分子化合物の溶解粘度が高くなり、高粘度化してしまう。それにより、攪拌モーターが回転不能となる恐れがある。更に、別の槽へのポンプでの送液が困難となる恐れがある。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の記載によって限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例における「%」は特に断りのない限り「質量%」を示す。
【0046】
以下の溶解試験に使用した水溶性高分子化合物の種類および継子発生量の評価基準は次の通りである。
【0047】
<アニオン性高分子化合物>
アクリルアミド−アクリル酸ナトリウム塩共重合体(粉末状、ダイヤニトリックス社製「AP517C」)
【0048】
<カチオン性高分子化合物>
ジメチルアミノエチルアクリレート4級塩−アクリルアミド共重合体(粉末状、ダイヤニトリックス社製「KP1227H」)
ジメチルアミノエチルメタクリレート4級塩重合体(粉末状、ダイヤニトリックス社製「CHP295」)
【0049】
<継子発生量の評価基準>
粉末状水溶性高分子化合物添加終了後30分後、水又は水溶液1L当たりの継子の発生量を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
【0050】
◎:継子の発生量が0個
○:継子の発生量が1〜3個
△:継子の発生量が4〜10個
×:継子の発生量が11個以上
【0051】
実施例1:
撹拌槽(内径約100mm、高さ120mm、実効容量1L)に、イオン交換水1Lを水温25℃で仕込み、図1に示すような撹拌装置1(フローテック(株)製)を用いて回転速度150rpmで撹拌した。なお、この撹拌装置1は、撹拌翼として、上段に、外径65mm、傾斜角度45°の傾斜翼5,6を、下段に外径90mmのパドル翼4(先端は約30°後退するように屈折している)を備えている。そして、傾斜翼5,6には、夫々、長さ65mmの垂直板7,8が設けられている。
【0052】
攪拌翼最大径90mmの周速:0.707m/sの条件で撹拌しながら、AP517C:2gを1秒で水面に直接添加し、そのまま撹拌を続けて溶解させた。AP517Cは水面に触れると瞬時に水溶液中に分散した。継子発生量の評価結果を表1に示すが、30分攪拌継続後の継子の発生量は0個であり、目視で溶解したことを確認した。
【0053】
実施例2〜9:
表1に示すように攪拌槽に仕込む水溶液の種類と濃度、及び、粉末状水溶性高分子化合物の種類と濃度を変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。いずれも瞬時に水溶液中に分散した。表1に示す通り、30分攪拌継続後の継子の発生量は0個であり、目視で溶解したことを確認した。
【0054】
比較例1〜9:
表1に示すように攪拌槽に仕込む水溶の種類と濃度、及び、粉末状水溶性高分子化合物の種類と濃度を変更し、図2に示す撹拌槽21(内径約100mm、高さ120mm、実効容量1L)及び攪拌装置20(回転軸22と攪拌翼23から成り、攪拌翼23は、平板翼2段、上段及び下段翼の間隔44mm、翼幅75mm、翼高さ18mmである)を用いる以外は、実施例1と同様の操作を行った。いずれも瞬時には水溶液中に分散せず継子が発生し、表1に示す通り、30分攪拌継続後でも継子が残っていた。さらに30分攪拌を継続したが、いずれも継子は消滅しなかった。
【0055】
【表1】

【符号の説明】
【0056】
1:撹拌装置
2:撹拌槽
3:回転軸
4:板状パドル
5:傾斜翼
6:傾斜翼
7:垂直板
8:垂直板
9:接続治具
10:邪魔板
20:撹拌装置
21:撹拌槽
22:回転軸
23:撹拌翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状の水溶性高分子化合物を攪拌された水又は水溶液の中へ添加して溶解する方法において、撹拌槽中で、垂直に設置した回転軸の周りに複数の回転翼を配置して前記液体を撹拌する撹拌装置であって、前記回転軸の上部に、回転軸の回転方向に対し傾斜した板状の傾斜翼を配置し、前記回転軸の下部に、回転軸に平行な板状のパドルを配置し、前記傾斜翼の外周端は、前記回転軸上方から見たときに、回転軸を中心とする円周上にあり、前記傾斜翼の上半部の外周端には、垂直板を備える撹拌装置を用いて、粉末状の水溶性高分子化合物を攪拌された水又は水溶性高分子化合物が溶解した水溶液の水面に直接添加することを特徴とする水溶性高分子化合物の溶解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−86022(P2013−86022A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228807(P2011−228807)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】