説明

粉末状窒化ホウ素組成物、およびそれを含有する複合材組成物

【課題】樹脂との複合化に際し、添加量を増加させた場合の複合材料の粘度上昇を抑制することができ、成形加工性を良好に維持することができる粉末状窒化ホウ素組成物を提供する。
【解決手段】窒化ホウ素と周期表第2A族および/または第3A族元素のホウ酸化物とを含有する粉末状窒化ホウ素組成物。周期表第2A族および/または第3A族元素、特にイットリウムを含有する化合物をBN粉末と混合し、非酸化性ガス雰囲気下で加熱処理すると、ホウ酸化イットリウム等のホウ酸化物を含有した粉末状窒化ホウ素組成物が生成し、これを用いることで複合材料とした場合の粘度を低減でき、しかも、このようにして得られた粉末状窒化ホウ素組成物は、窒化ホウ素含有量が実質的に低減しているにもかかわらず、熱伝導率の低下は殆ど起こらない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉末状窒化ホウ素組成物に係り、詳しくは、h-BN(黒鉛構造をもつ窒化ホウ素)粉末の一部を、周期表第2A族および/または第3A族元素のホウ酸化物で変性させた粉末状窒化ホウ素組成物に関する。
本発明はまた、この粉末状窒化ホウ素組成物と重合可能な有機化合物とを含有する複合材組成物と、この複合材組成物から得られる重合体組成物並びにこの重合体組成物を成形してなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素は、絶縁性のセラミックであり、ダイヤモンド構造を持つc−BN、黒鉛構造をもつh−BN、乱層構造を持つα−BN、β−BNなど様々な結晶型が知られている。
【0003】
これらの中で、h−BNは、合成が比較的容易でかつ熱伝導性、固体潤滑性、化学的安定性、耐熱性に優れるという特徴を備えていることから、電気・電子分野では集積回路の放熱部材用フィラーとして用いられている。
【0004】
しかし、h−BNは板状の粒子形状であるため、樹脂との複合化に際し、添加量を増加させると得られる複合材料の粘度が非常に高くなり、成形が困難になるという問題があった。この対策として、従来、BN粒子表面を特定のカップリング剤で処理する方法(特許文献1)、比表面積等の物性を調整する方法(特許文献2)、粒子形状を球形化する方法(特許文献3)等が提案されているが、更なる改良が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−257392号公報
【特許文献2】特開2010−59055号公報
【特許文献3】特表2010−505729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、樹脂との複合化に際し、添加量を増加させた場合の複合材料の粘度上昇を抑制することができ、成形加工性を良好に維持することができる粉末状窒化ホウ素組成物を提供することを課題とする。
本発明はまた、この粉末状窒化ホウ素組成物と樹脂とを含有する複合材組成物と、この複合材組成物から得られる重合体組成物並びにこの重合体組成物を成形してなる成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、周期表第2A族および/または第3A族元素、特にイットリウムを含有する化合物をBN粉末と混合し、非酸化性ガス雰囲気下で加熱処理すると、ホウ酸化イットリウム(YBO)等のホウ酸化物を含有した粉末状窒化ホウ素組成物が生成し、これを用いることで複合材料とした場合の粘度を低減できることを見出した。
また、このようにして得られた粉末状窒化ホウ素組成物は、窒化ホウ素含有量が実質的に低減しているにもかかわらず、熱伝導率の低下は殆ど起こらないことを見出した。
【0008】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0009】
[1] 窒化ホウ素と、周期表第2A族および/または第3A族元素のホウ酸化物とを含有する粉末状窒化ホウ素組成物。
【0010】
[2] 前記窒化ホウ素が黒鉛構造を持つ[1]に記載の粉末状窒化ホウ素組成物。
【0011】
[3] 前記周期表第2A族および/または第3A族元素のホウ酸化物が、窒化ホウ素と周期表第2A族および/または第3A族元素との混合物を加熱処理することにより製造されたものである[1]または[2]に記載の粉末状窒化ホウ素組成物。
【0012】
[4] 前記周期表第2A族および/または第3A族元素が、イットリウムである[1]ないし[3]のいずれかに記載の粉末状窒化ホウ素組成物。
【0013】
[5] 前記周期表第2A族および/または第3A族元素のホウ酸化物が、YBOである[4]に記載の粉末状窒化ホウ素組成物。
【0014】
[6] 該粉末状窒化ホウ素組成物中のYBOの含有量が、2質量%以上、50質量%以下である[5]に記載の粉末状窒化ホウ素組成物。
【0015】
[7] [1]ないし[6]のいずれかに記載の粉末状窒化ホウ素組成物と、樹脂とを含有する複合材組成物。
【0016】
[8] 該複合材組成物中の前記粉末状窒化ホウ素組成物の含有量が、20質量%以上、90質量%以下である[7]に記載の複合材組成物。
【0017】
[9] [7]又は[8]に記載の複合材組成物に含まれる前記樹脂を重合させてなる重合体組成物。
【0018】
[10] [9]に記載の重合体組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0019】
本発明の粉末状窒化ホウ素組成物によれば、樹脂と複合化して複合材組成物とした場合の粘度上昇を抑制することができ、しかも熱伝導性の低下の問題も殆どない。
このため、熱伝導性、固体潤滑性、化学的安定性、耐熱性等の向上を目的として、樹脂に多量配合した場合であっても、複合材組成物としての成形加工性を良好に維持することができ、しかも窒化ホウ素本来の優れた熱伝導性等の特性を得ることができる。
【0020】
本発明の粉末状窒化ホウ素組成物を用いた複合材組成物、重合体組成物および成形体は、絶縁性が要求され、かつ、電気・電子分野などにおいて、熱伝導性と成形加工性が要求されるような放熱シート、熱伝導性ペースト、熱伝導性接着剤、熱伝導性成形物用フィラー等として工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
[粉末状窒化ホウ素組成物]
本発明の粉末状窒化ホウ素組成物は、窒化ホウ素(BN)と、周期表第2A族および/または第3A族元素(以下「2A/3A元素」と称す場合がある。)のホウ酸化物とを含有することを特徴とする。
【0023】
本発明の粉末状窒化ホウ素組成物の製造方法には特に制限はないが、窒化ホウ素と2A/3A元素、好ましくは3A元素を含有する化合物とを混合し、混合物を焼成することにより、窒化ホウ素の一部と2A/3A元素との反応で2A/3A元素のホウ酸化物を生成させることで、窒化ホウ素と2A/3A元素のホウ酸化物とを含有する粉末状窒化ホウ素組成物とする方法が好ましい。例えば、原料となるBN粉末にイットリウム化合物と必要に応じて用いられるその他の添加剤を添加、混合し、非酸化性ガス雰囲気下、1800〜2100℃で加熱焼成をする方法、より具体的には、原料であるBN粉末に対して所定量の硝酸イットリウムを添加し、BN粉末に対して1〜5質量倍の純水とともに均一に混合し、得られたスラリーないしはペーストを乾燥した後、必要に応じて空気中で仮焼成して、BNとイットリウム化合物が均一に混合された粉末を得、更に、非酸化性ガス雰囲気下、1800〜2100℃で加熱焼成する方法が挙げられる。以下において、このような、BNと2A/3A元素化合物との混合物の焼成による本発明の粉末状窒化ホウ素組成物の製造方法を「本発明の製法」と称す場合がある。
【0024】
<窒化ホウ素>
本発明の製法において用いる原料窒化ホウ素(BN)としては、市販のh−BN、市販のαおよびβ−BN、ホウ素化合物とアンモニアの還元窒化法により作製されたBN、ホウ素化合物とメラミンなどの含窒素化合物から合成されるBN、ホウ水素ナトリウムと塩化アンモニウムから作製されるBNなどの1種または2種以上を、何れも制限なく使用することができるが、特にh−BNが好ましく用いられる。
【0025】
2A/3A元素化合物との反応性の観点からは、原料となるh−BN等の原料BN中に酸素がある程度存在することが好ましく、BNの全酸素濃度として、通常0.3質量%以上、10質量%以下、特に0.3質量%以上、8質量%以下、とりわけ0.3質量%以上、5質量%以下であることが好ましい。
全酸素濃度が上記下限値以上であることにより、h−BN等のBNとイットリウム化合物等の2A/3A元素化合物との間でYBO等のホウ酸化物が効率的に生成し、上記上限値以下であることによりBN同士の凝集や焼結を抑制することが出来る。
本発明における、窒化ホウ素粉末の酸素含有量は、不活性ガス融解−赤外線吸収法によりHORIBA製酸素・窒素分析計を用いて測定することができる。
【0026】
原料BNの粒径については特に制限はないが、過度に大きいと2A/3A元素含有化合物と混合して混合粉末を作製する際に不均一な混合状態となりやすく、過度に小さいと反応終了後に大きな凝集体となりやすく、また、原料と反応しない2A/3A元素含有化合物が残存してしまうことから、原料BNを適当な溶剤に分散させ、堀場製作所レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920により測定される体積基準の平均粒径(以下、単に「平均粒径」と称す。)として1〜10μm程度であることが好ましい。
【0027】
<2A/3A元素>
2A/3A元素とは、Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Ra等の周期表第2A族元素、Sc,Y,La,Ce等のランタノイド元素、Ac,Th等のアクチノイド元素であり、これらのうち、原料入手の容易さから、イットリウム、マグネシウム、カルシウムが好ましく、特に水溶性の塩として入手しやすいイットリウムが好ましい。
【0028】
なお、以下においては、2A/3A元素としてイットリウムを例に本発明を説明するが、本発明で用いる2A/3A元素は、何らイットリウムに限定されず、以下の説明において、「イットリウム」は「2A/3A元素」に置き換えることができる。
【0029】
<イットリウム化合物>
本発明の製法で用いるイットリウム化合物としては、酢酸イットリウム、硝酸イットリウム、炭酸イットリウム、クエン酸イットリウム、シュウ酸イットリウム、硫酸イットリウム等のイットリウムの無機酸または有機酸の塩、塩化イットリウム、フッ化イットリウム、ヨウ化イットリウム等のハロゲン化イットリウム、酸化イットリウム、イットリウム・アルミニウム・ガーネット、イットリウム・フェライト・ガーネット、イットリウム複合酸化物、ホウ化イットリウム、窒化イットリウム、硫化イットリウムなどが挙げられる。これらの中で、混合の容易さや試薬入手の容易さなどを考慮すると、硝酸イットリウム、酸化イットリウムが好適に用いられる。これらのイットリウム化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
本発明の製法において、イットリウム化合物の使用量は、使用したイットリウム化合物を酸化イットリウムに換算し、BNと酸化イットリウムの全量に対して酸化イットリウム換算で好ましくは1体積%以上、30体積%以下、より好ましくは1体積%以上、20体積%以下、更に好ましくは1体積%以上、10体積%以下である。イットリウム化合物の使用量が上記下限値未満の場合、イットリウムホウ酸化物の生成が困難となり、複合材料用フィラーとして使用した場合に粘度上昇の抑制効果が低下する傾向にある。また、イットリウム化合物の使用量が上記上限値を超えると、イットリウムホウ酸化物の生成量が多くなり、相対的にBN量が少なくなって、複合材組成物とした場合の熱伝導率が下がる傾向がある。
【0031】
<その他の添加剤>
本発明の製法において、前記原料BNとイットリウム化合物の他に、その効果を損なわない限り、その他の添加剤の1種または2種以上を用いてもよい。その他の添加剤としては、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム(アルミナ)等のアルミニウム化合物などの無機物が挙げられる。これらの化合物を併用することにより、生成物の過度な凝集を抑制することができる。
【0032】
ただし、その他の添加剤量が多過ぎると生成する粉末中のBNの含有量が少なくなりすぎ、複合材フィラーとして用いた場合の複合材熱伝導率が大幅に低下することから、これらの添加剤を併用する場合、その使用量は原料BNに対して5質量%以下、例えば0.1〜3質量%とすることが好ましい。
【0033】
<BNとイットリウム化合物の混合>
本発明の製法において、原料となるBN粉末にイットリウム化合物と必要に応じて用いられるその他の添加剤の混合方法は、乾式混合、湿式混合いずれも制限なく用いることが出来る。
【0034】
乾式混合では、水平円筒型混合機、V型混合機、2重円錐型混合機、リボン型混合機、単軸ロッドまたはピン付ローター型混合機、パドル型混合機、円錐型スクリュー混合機、高速流動型混合機、回転円盤型混合機、マラー型混合機、気流攪拌型混合機などが用いられ、湿式混合では、手動で攪拌混合する以外に、自動乳鉢、ボールミル、ボニーミキサー、インターナルミキサー、3本ロールミキサー、コニーダー、ボテーター、高速流動混合機など一般的な混合機を用いることができるが、より均一に混合するには湿式混合が好ましく用いられる。
【0035】
湿式混合に用いる溶媒(分散媒)に制限はないが、乾燥の容易さ、装置の簡素化などの観点から、純水が好ましい。
【0036】
純水の使用量は、多過ぎると乾燥時の負荷が増大し、少な過ぎると均一混合が困難であることから、原料とするBN粉末に対して1〜5質量倍、特に1〜3質量倍とすることが好ましい。
【0037】
<乾燥・粉砕>
原料BN粉末とイットリウム化合物及び必要に応じて用いられるその他の添加剤を混合する際に湿式混合を採用した場合は、焼成前に混合物を乾燥し、乾燥物を粉砕することが好ましい。
【0038】
この乾燥方法に特に制限はないが、一般的には、加熱乾燥を行うことが好ましく、その加熱条件としては100〜120℃で12〜48時間程度とすることが好ましい。加熱温度が低過ぎたり、加熱時間が短か過ぎたりすると、十分な乾燥を行えず、逆に加熱温度が高過ぎたり加熱時間が長過ぎたりすると徒に加熱コストが嵩み好ましくない。
【0039】
乾燥後の粉砕は、乳鉢による粉砕であってもよく、その他ボールミルなどを用いることができる。この粉砕の程度としては、平均粒径100μm以上の大きな塊がない程度に粉砕されていれば問題ない。
【0040】
なお、この乾燥、粉砕時の雰囲気は空気雰囲気でよいが、吸湿を避けるために湿度50%以下の乾燥空気中が好ましい。
【0041】
<仮焼成>
イットリウム化合物として硝酸イットリウム、酢酸イットリウム、シュウ酸イットリウム等のイットリウム塩を用いた場合は、焼成に先立ち、イットリウム塩を分解するために仮焼成することが好ましい。
【0042】
この仮焼成は、500〜700℃の温度で1〜5時間程度、空気等の酸化性雰囲気下で加熱することにより行われる。
この仮焼成時の加熱温度が低過ぎたり加熱時間が短か過ぎたりすると分解が不十分となり、本焼成中に酸が発生したり、窒素酸化物が発生して炉を傷めるため好ましくない。逆に加熱温度が高過ぎたり加熱時間が長過ぎたりすると原料BNが酸化されてしまうため好ましくない。
【0043】
<焼成>
BNとイットリウム化合物の混合物あるいはこれを乾燥、粉砕、更には仮焼成して得られたものを焼成する際の焼成温度は、好ましくは1800〜2200℃であり、より好ましくは1900〜2100℃、更に好ましくは2000℃〜2100℃である。焼成時の加熱温度が1800℃未満では、イットリウムとBNとの反応が不十分となるので、複合材組成物として使用した場合の粘度上昇抑制効果が小さくなる傾向がある。焼成時の加熱温度が2200℃を超えると、イットリウム化合物とBNとの反応で生成する化合物が部分的に分解し、イットリウム成分が蒸発する傾向がある。
【0044】
焼成時の加熱時間は、加熱温度によっても異なるが、好ましくは2時間以上、20時間以下であり、より好ましくは5時間以上、10時間以下である。加熱時間が2時間未満の場合、イットリウムとBNとの反応が不十分となるので、複合材組成物として使用した場合の粘度上昇抑制効果が小さくなる傾向があり、20時間を超えるとイットリウム成分が一部蒸発し、また、BNの分解も生じる傾向がある。
【0045】
焼成は、非酸化性ガス雰囲気下で行う。即ち、酸化性ガス雰囲気下で焼成を行うと、原料BNのほとんどが酸化ホウ素などに変換されるため、焼成は非酸化性ガス雰囲気下であることが必要である。
非酸化性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、アンモニアガス、一酸化炭素などの1種または2種以上を用いることが出来るが、特に窒素ガス等の不活性ガスが好適に用いられる。
【0046】
なお、この焼成に際して、焼成系内に還元性物質を存在させないことが好ましい。即ち、焼成系内に還元性物質が存在すると、イットリウムのホウ酸化物の生成が阻害される場合がある。
【0047】
<粉末状窒化ホウ素組成物の組成>
以上のようにして得られる本発明の粉末状窒化ホウ素組成物は、原料BNがイットリウム化合物と反応して、BNの一部がYBOに変換されることでホウ酸化物を含有するものである。
【0048】
この粉末状窒化ホウ素組成物におけるYBOの含有量は、後述の実施例の項に記載される方法で求めることができる。
【0049】
本発明の粉末状窒化ホウ素組成物のYBO含有量は2質量%以上、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以上、30質量%以下、更に好ましくは2質量%以上、20質量%以下である。
本発明の粉末状窒化ホウ素組成物中のYBO含有量が少な過ぎると、YBOを含有させることによる本発明の効果、即ち、複合材組成物とした場合の粘度上昇抑制効果を十分に得ることができず、多過ぎると相対的にBN含有量が低減してBN本来の高熱伝導性が損なわれることとなる。
【0050】
<粉末状窒化ホウ素組成物の粒径>
本発明の粉末状窒化ホウ素組成物の粒径は、添加する2A族および/または第3A族元素の化合物の量を変えることにより調整することができるが、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定された粒径として、一次粒子径が1μm以上20μm以下であることが好ましく、特に1μm以上、10μm以下であることが好ましい。粉末状窒化ホウ素組成物の粒径が大き過ぎると、複合材料用フィラーとして用いた場合、得られる成形体表面が荒れて、放熱特性が十分でなくなる可能性があり、小さ過ぎると複合材料用フィラーとして熱伝導性向上効果が小さくなる。
【0051】
[複合材組成物および重合体組成物]
本発明の複合材組成物は、本発明の粉末状窒化ホウ素組成物と樹脂とを含有するものであり、本発明の重合体組成物は、本発明の複合材組成物に含まれる樹脂を重合させてなるものである。即ち、本発明の複合材組成物および重合体組成物は、本発明の粉末状窒化ホウ素組成物を熱伝導性フィラーとして用い、樹脂でマトリックスを形成するものである。以下、本発明の複合材組成物における本発明の粉末状窒化ホウ素組成物を「フィラー」と称す場合がある。
【0052】
<樹脂>
樹脂としては、熱硬化性、光硬化性、電子線硬化性などの樹脂であれば良いが、耐熱性、吸水性、寸法安定性などの点で、熱硬化性樹脂が好ましく、特にエポキシ樹脂が最適である。
【0053】
エポキシ樹脂は1種類の構造単位を有するエポキシ樹脂のみであってもよいが、構造単位の異なる複数のエポキシ樹脂を組み合わせてもよい。また、エポキシ樹脂は、必要に応じて、エポキシ樹脂用硬化剤、硬化促進剤と共に用いられる。
【0054】
ここで、塗膜性ないしは成膜性や接着性と併せて、硬化物中のボイドを低減して高熱伝導の硬化物を得るために、エポキシ樹脂として少なくとも後述するフェノキシ樹脂(以下、「エポキシ樹脂(A)」と称す。)を含むことが好ましく、特にエポキシ樹脂全量に対するエポキシ樹脂(A)の質量比率が、好ましくは5〜95質量%の範囲、より好ましくは10〜90質量%、さらに好ましくは20〜80質量%の範囲で含有されることが好ましい。
【0055】
フェノキシ樹脂とは、通常、エピハロヒドリンと2価フェノール化合物とを反応させて得られる樹脂、または2価のエポキシ化合物と2価のフェノール化合物とを反応させて得られる樹脂を指すが、本発明においてはこれらのうち、特に質量平均分子量10000以上の高分子量エポキシ樹脂であるフェノキシ樹脂をエポキシ樹脂(A)という。
ここで、質量平均分子量とは、ゲルパーミエイションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の値である。
【0056】
エポキシ樹脂(A)としては、ナフタレン骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格、キサンテン骨格、アダマンタン骨格およびジシクロペンタジエン骨格からなる群から選択された少なくとも1つの骨格を有するフェノキシ樹脂が好ましい。中でも、耐熱性がより一層高められるので、フルオレン骨格および/またはビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂が特に好ましい。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0057】
上記エポキシ樹脂(A)以外のエポキシ樹脂としては、分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(以下「エポキシ樹脂(B)」と称す場合がある。)であることが好ましく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂等の、各種エポキシ樹脂が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0058】
エポキシ樹脂(B)は、溶融粘度制御の観点から、その質量平均分子量が、好ましくは100〜5000であり、より好ましくは200〜2000である。質量平均分子量が100より低いものでは、耐熱性が劣る傾向にあり、5000より高いと、エポキシ樹脂の融点が高くなり、作業性が低下する傾向がある。
【0059】
また、本発明に係るエポキシ樹脂は、その目的を損なわない範囲において、エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)以外のエポキシ樹脂(以下、「他のエポキシ樹脂」)を含んでいてもよい。他のエポキシ樹脂の含有量は、エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)の合計に対して、通常50質量%以下、好ましくは30質量%以下である。
【0060】
本発明の複合材組成物において、エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)を含む全エポキシ樹脂中のエポキシ樹脂(A)の割合は、その合計を100質量%として、前述の如く、好ましくは5〜95質量%、好ましくは10〜90質量%、更に好ましくは20〜80質量%である。なお、「エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)を含む全エポキシ樹脂」とは、本発明の複合材組成物に含まれるエポキシ樹脂が、エポキシ樹脂(A)及びエポキシ樹脂(B)のみの場合には、エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)の合計を意味し、さらに他のエポキシ樹脂を含む場合には、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)及び他のエポキシ樹脂の合計を意味する。
【0061】
エポキシ樹脂(A)の割合が上記下限以上であることにより、エポキシ樹脂(A)を配合することによる熱伝導性の向上効果を十分に得ることができ、所望の高熱伝導性を得ることができる。エポキシ樹脂(A)の割合が上記上限以下で、特にエポキシ樹脂(B)が全エポキシ樹脂の10質量%以上であることにより、エポキシ樹脂(B)の配合効果が発揮され、硬化性、硬化物の物性が十分なものとなる。
【0062】
エポキシ樹脂用硬化剤は、用いられる樹脂の種類に応じて適宜に選ばれる。例えば、酸無水物系硬化剤やアミン系硬化剤が挙げられる。酸無水物系硬化剤としては、例えば、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、及びベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物が挙げられる。アミン系硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミン等の芳香族ポリアミン及びジシアンジアミドが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのエポキシ樹脂用硬化剤は、通常、エポキシ樹脂に対して当量比で、0.3〜1.5の範囲で配合される。
【0063】
硬化促進剤は、用いられる樹脂や硬化剤の種類に応じて適宜に選ばれる。例えば前記酸無水系硬化剤用の硬化促進剤としては、例えば三フッ化ホウ素モノエチルアミン、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの硬化促進剤は、通常、エポキシ樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部の範囲で用いられる。
【0064】
また、樹脂としては、熱可塑性樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、液晶ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルアミドイミド樹脂、ポリエーテルアミド樹脂及びポリエーテルイミド樹脂などが挙げられる。また、それらのブロック共重合体、グラフト共重合体等の共重合体も含まれる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0065】
また、樹脂は、ゴム成分であってもよく、ゴム成分としては、例えば、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体ゴム、イソブチレン−イソプレン共重合体ゴム、クロロプレンゴム、シリコンゴム、フッソゴム、クロロ・スルホン化ポリエチレン、ポリウレタンゴムなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0066】
<複合材組成物中のフィラー含有量>
本発明の複合材組成物のフィラー含有量、即ち、本発明の粉末状窒化ホウ素組成物の含有量は、通常20質量%以上、90質量%以下であり、好ましくは20質量%以上、80質量%以下、更に好ましくは30質量%以上、70質量%以下である。複合材組成物中のフィラー含有量が、上記下限値未満の場合、複合材組成物としての粘度は低く、成形加工性は良好であるものの熱伝導性の付与効果が小さい。複合材組成物中のフィラー含有量が、上記上限値を超えると複合材組成物の粘度が高くなり、成形が困難になる傾向がある。
【0067】
<その他の成分>
本発明の複合材組成物は、本発明の効果が得られる範囲において、さらなる成分を含有していてもよい。このようなさらなる成分としては、例えば、液晶性エポキシ樹脂等の、前記の樹脂に機能性を付与した機能性樹脂、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、繊維状窒化ホウ素等の窒化物粒子、アルミナ、繊維状アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化チタン等の絶縁性金属酸化物、ダイヤモンド、フラーレン等の絶縁性炭素成分、樹脂硬化剤、樹脂硬化促進剤、粘度調整剤、分散安定剤が挙げられる。
【0068】
また、複合材組成物の粘度を下げる観点から、本発明の複合材組成物には溶剤を用いることができる。溶剤には、公知の溶剤の中から樹脂を溶解する溶剤が用いられる。このような溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン、モノクロルベンゼン、ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、フェノール、及びヘキサフルオロイソプロパノールが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
溶剤は、エポキシ樹脂等の樹脂100質量部に対して、0〜10,000質量部の範囲で用いられる。
【0069】
また、本発明の複合材組成物には、その効果を損なわない限り、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの無機フィラー、無機フィラーとマトリックス樹脂の界面接着強度を改善するシランカップリング剤などの表面処理剤、還元剤などを添加しても良い。
【0070】
なお、上記無機フィラーについては、複合材組成物中の成形加工性を維持する上で、複合材組成物中の粉末状窒化ホウ素組成物との合計の含有量で90質量%以下であることが好ましい。
【0071】
<複合材組成物の製造・成形>
本発明の複合材組成物は、前記の粉末状窒化ホウ素組成物、重合可能な有機化合物、及び必要に応じて添加されるその他の成分を撹拌や混練によって均一に混合することによって得ることができる。その混合には、例えば、ミキサー、ニーダー、単軸又は二軸混練機等の一般的な混練装置を用いることができ、混合に際しては、必要に応じて加熱してもよい。
【0072】
本発明の成形体は、本発明の複合材組成物中の重合可能な有機化合物を重合させて成形してなるものである。成形体の成形方法は、樹脂組成物の成形に一般に用いられる方法を用いることができる。
例えば、複合材組成物が可塑性や流動性を有する場合、該複合材組成物を所望の形状で、例えば型へ収容した状態で硬化させることによって成形することができる。このような成形体の製造では、射出成形、射出圧縮成形、押出成形、及び圧縮成形を利用することができる。
また、複合材組成物がエポキシ樹脂やシリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂組成物である場合、成形体の成形、すなわち硬化は、それぞれの硬化温度条件で行うことができる。
また、複合材組成物が熱可塑性樹脂組成物である場合、成形体の成形は、熱可塑性樹脂の溶融温度以上の温度及び所定の成形速度や圧力の条件で行うことができる。
また、本発明の成形体は、本発明の複合材組成物の硬化物を所望の形状に削り出すことによっても得ることができる。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
なお、以下の実施例及び比較例で用いた窒化ホウ素及びイットリウム化合物の仕様は、以下の通りである。
【0075】
<窒化ホウ素>
A−BN:日新リフラテック社製 窒化ホウ素商品名「A−BN」
(全酸素濃度3質量%,平均粒径:3μm)
SP2:電気化学工業社製 窒化ホウ素商品名「SP2」
(全酸素濃度1.8質量%,平均粒径:4μm)
<イットリウム化合物>
Y(NO・6HO:キシダ化学社製 硝酸イットリウム6水和物
【0076】
また、エポキシ樹脂としては、三菱化学(株)製エポキシ樹脂「1750」と同「YED216」とを、「1750」:「YED216」=90:10(質量比)で混合したものを用いた。
【0077】
[実施例1〜8]
<粉末状窒化ホウ素組成物の製造>
表1に示すBN粉末と硝酸イットリウム6水和物と純水を、表1に示す量で秤量し、これをビーカー内で均一に攪拌混合してペーストを作製した。
このペーストを120℃で24時間、空気中、加熱オーブン内で乾燥した後、得られた乾燥物を乳鉢で粉砕した。さらに硝酸塩を分解するために600℃で2時間、空気中で仮焼成した。仮焼成した粉末を、窒素ガス雰囲気下、2000℃で5時間加熱焼成することによりイットリウム含有窒化ホウ素を得た。尚、イットリウム化合物添加量のY換算での体積割合(体積%)は、BNの密度を2.3g/cm、Yの密度を5g/cmとして計算により求めた値である。
【0078】
<生成粒子の確認>
生成物の同定は粉末X線回折装置(PANalytical製 PW1700)を用いて行った。その結果、h−BN相以外にBNとイットリウム化合物との反応で生成したホウ酸化イットリウム相が生成していることを確認した。ホウ酸化イットリウム(YBO)の生成量を表1に示す。
なお、YBOの生成量は、硝酸イットリウム6水和物とホウ酸の量論混合粉末を、空気中、800℃で熱処理して得た粉末で純粋なYBOが生成されていることをX線回折法により確認した後、この粉末を用いて、検量線を作成し、各実施例サンプルのピーク強度から算出した。
【0079】
【表1】

【0080】
[実施例9〜20]
<複合材組成物の製造>
実施例1,4,5,8で得られた各粉末状窒化ホウ素組成物を、エポキシ樹脂に表2に示す添加量で添加した。その後、ギャップ間隔10μmに調整した3本ロール(株式会社小平製作所製)に10回通して混練することにより複合材組成物を得た。
また、得られた複合材組成物2.5gに、硬化剤として2−エチルメチルイミダゾールを、エポキシ樹脂100質量部に対して2質量部添加して均一に攪拌混合し、得られた硬化剤入りの複合材組成物を、ガラス板に離型PETを敷き、シリコーンゴムで500μmにギャップを調整した型内に挟み込み、100℃で1時間、次いで150℃で4時間加熱硬化させて、熱伝導率評価用サンプルを得た。
【0081】
<複合材組成物の粘度測定>
前記の、3本ロールに10回通した、硬化剤を添加する前の複合材組成物について、ティー・エー・インスツルメント製動的粘弾性測定装置「ARES(直径8mmパラレルプレート、ギャップ間隔0.3mm)」を用いて、温度25℃、角周波数1rad/s、歪み量0.2%における動的粘性率(粘度η)を測定した。結果を表2に示す。
【0082】
<硬化物の熱伝導率測定>
熱伝導率は、以下の装置で熱拡散率、比重、比熱を測定し、この3つの測定値を乗じることにより求めた。
1)熱拡散率:前記熱伝導率評価用サンプルを切り出して、直径12mm、厚み約0.5mmの円盤状の検体に成形した後、アルバック理工(株)製 全自動レーザーフラッシュ法熱定数測定装置「TC−7000」を用いて、厚み方向の熱拡散率を測定した。
2)比重:メトラー・トレド株式会社製 天秤 製品名「XS204」(「固体比重測定キット」使用)を用いて測定した。
3)比熱:株式会社パーキンエルマー製 示差走査熱量計 製品名「DSC7」を用い、10℃/分の昇温条件の下、25℃における比熱をDSC7のソフトウエアを用いて求めた。
結果を表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
[比較例1〜6]
粉末状窒化ホウ素組成物の代りに、表3に示す市販のBN粉末を表3に示す添加量で用いた以外は、実施例9〜20と同様の方法でBN/エポキシ樹脂複合材組成物の粘度と硬化物の熱伝導率を測定した。
結果を表3に示す。
【0085】
[比較例7〜14]
市販のBN粉末と共に、酸化イットリウム(信越化学社製)を添加した以外は比較例1〜6と同様の方法で、BN/Y/エポキシ樹脂複合材組成物の粘度と硬化物の熱伝導率を測定した。
結果を表3に示す。
表3中、無機フィラー中のYの割合(体積%)は、BN密度2.3g/cm、Y密度5g/cmとして求めた値である。
【0086】
【表3】

【0087】
<考察>
実施例9〜11と比較例1〜3および比較例7,9、実施例12〜14と比較例1〜3および比較例8,10、実施例15〜17と比較例4〜6および比較例11,13、実施例18〜20と比較例4〜6および比較例12,14を比べると、窒化ホウ素中にYBOが生成している粉末状窒化ホウ素組成物を用いると、窒化ホウ素単独で作製した複合材組成物やYBOを生成させるのと同量の酸化イットリウムを窒化ホウ素に単純に添加して作製した複合材組成物と比較して、熱伝導率の低下がなく、かつ複合材組成物としたときの粘度が大幅に低減されていることがわかる。
従って、本発明の複合材組成物は、絶縁性が要求され、かつ、電気・電子分野などで熱伝導性と成形加工性が要求されるような放熱シート、熱伝導性ペースト、熱伝導性接着剤、熱伝導性成形物用フィラーとして好適に用いることが出来ることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素と、周期表第2A族および/または第3A族元素のホウ酸化物とを含有する粉末状窒化ホウ素組成物。
【請求項2】
前記窒化ホウ素が黒鉛構造を持つ請求項1に記載の粉末状窒化ホウ素組成物。
【請求項3】
前記周期表第2A族および/または第3A族元素のホウ酸化物が、窒化ホウ素と周期表第2A族および/または第3A族元素との混合物を加熱処理することにより製造されたものである請求項1または2に記載の粉末状窒化ホウ素組成物。
【請求項4】
前記周期表第2A族および/または第3A族元素が、イットリウムである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の粉末状窒化ホウ素組成物。
【請求項5】
前記周期表第2A族および/または第3A族元素のホウ酸化物が、YBOである請求項4に記載の粉末状窒化ホウ素組成物。
【請求項6】
該粉末状窒化ホウ素組成物中のYBOの含有量が、2質量%以上、50質量%以下である請求項5に記載の粉末状窒化ホウ素組成物。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の粉末状窒化ホウ素組成物と、樹脂とを含有する複合材組成物。
【請求項8】
該複合材組成物中の前記粉末状窒化ホウ素組成物の含有量が、20質量%以上、90質量%以下である請求項7に記載の複合材組成物。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の複合材組成物に含まれる前記樹脂を重合させてなる重合体組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の重合体組成物を成形してなる成形体。

【公開番号】特開2013−56789(P2013−56789A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195121(P2011−195121)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超ハイブリッド材料技術開発(ナノレベル構造制御による相反機能材料技術開発)」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】